「行ってきます。」
「・・・シンジ君ゴミ出しお願いね〜。」
シンジの歓迎会から数日後、一部酒の抜けきっていない人間もいたが
何事もなく引越しも終わり、シンジのミサトとの共同生活が始まった。
そして転校の手続きも終わり、今日でシンジが転校して二週間になる。
プルルルルルル、プルルルルルル、プルルルルルル。
「・・・はい、もしもし・・・」
「おはよう、ミサト。」
「・・・何だリツコか・・・」
「あら、ご挨拶ね。」
「いったい何のよう?」
「あなたの同居人の事よ。シンジ君の様子はどう?」
「それならリツコの方でも分かると思うんだけど。」
「もっと身近にいる人からの意見が聞きたくなっただけよ。それに今は司令が行ってるしね。」
「ふ〜ん。ま、いいわ。これといって問題無し。今日も真面目に学校行ったわよ。」
「そんな事なら聞かなくても分かるわよ。学校の方は馴染んできてるの?」
「それはどうとも言えないわね。友達ができたとかそういう話は言ってこないし。」
「そう。まあ、いざとなれば切り札があるからその辺は心配しなくてもいいわよ。」
「切り札?」
「シンジ君の料理よ。」
「なるほど・・・」
一方、学校に登校したシンジは誰かと話をするわけでもなく、じっと自分の席で座っている。
(転校したのは良いけど友達を一から作っていくのって大変だな・・・)
声をかけられたりする事はあっても、口数少なくしゃべるシンジの遠慮がちな性格のせいか、
それともクラスメート達にとって転校してきたり、して行ったりするのに馴れているせいか
シンジに熱心に話し掛けてくるような人間はこのクラスにはいなかった。
クラスの中で唯一の顔見知りの綾波レイも、シンジとの直接の対面がレイ本人にないため
シンジは話し掛けられずにいた。
そしてシンジの後方では一人カメラを持って騒いでいる相田ケンスケがいる。
そんな騒いでいる少年に一人の女子生徒、洞木ヒカリがすぐ近くまでやってきた。
「あれ、何?委員長。」
「相田君、昨日のプリント持って行ってくれた?」
「・・・あ、忘れてた・・・」
「相田君、鈴原と仲良いんでしょう。二週間も休んでて、その上プリントももらってないんじゃ
後々大変よ。ちゃんと渡しておいてよね。」
「でも二週間も休んでるって事は何か大怪我でもしたのかな?」
「例のロボット事件?テレビでは死傷者はなかったって言ってたわよ。」
「テレビの情報なんていくらでも捻じ曲げられるよ。鷹巣山の爆心地はテレビで見ただろ。
あれだけの爆発で死傷者なしって方がおかしいよ。それに各地の部隊までが今回の
事件のために出動してたんだ。間違いなくあの情報はうそだよ。」
ガラララ。
「・・・トウジ・・・」
「鈴原・・・」
教室の戸を開け不機嫌そうな顔で入ってきたジャージ姿の少年、鈴原トウジはケンスケの
前の机に鞄を置くとあたりを見回した。
「何や、クラスの奴等ずいぶん減ってもうたな。」
「疎開だよ、疎開。みんな他の街へ転校して行ったよ。ま、街中であんなのが
暴れるんじゃ気持ちも分かるけどね。」
「そんな中、嬉しがって残るようなんはおまえのような戦争オタクぐらいやろうな。」
「ミリタリーマニアって言ってほしいね。それよりトウジはどうしたのさ。
二週間も休むなんて。この間の騒ぎで巻き添えでもくったの?」
「・・・・・・妹の奴がな。」
その一言にケンスケは構えていたカメラをおろした。
「あん時、瓦礫の下敷きになってしもうてな。命は取り留めたけどずっと入院しとんのや。
うちはおとんもおじいも研究所勤めやから抜けられへんよって俺がついとったらな
病院で一人になってまうからな。」
トウジの声が少しずつ強くなっていく。
「それにしても何やあのロボットのパイロットは!味方が出した被害の方が
多いっちゅうのはどういう事や。ああ腹立つ!」
「それなんだけどさ、トウジ知ってるか転校生の噂。」
「転校生?」
「ほらあそこに座ってるあいつ。トウジが休んでる間に転入してきたんだけどさ
みんなが疎開して街を離れていくなか入ってきたんだ。変だと思わない?」
ガララララ。
扉の音に気づいた数人が視線を向けるとそこには年老いた教師が立っていた。
「起立。」
ガタタタタタタ。
教師が教室に来て、他のクラスに遊びに行っていた生徒も戻ってくると授業が始まった。
「えー、かつて日本には四季と言うものが存在し・・・」
十数年も学校にいたような年老いた教師が授業を進めていく。
しかし、授業をまじめに聞いている生徒はほんの一部で、ほとんどはこっそりゲームで遊んでいたり
通信で会話をしていたりする。
そしてぼんやりと授業を聞いていたシンジのパソコンにメールが届いた。
<<碇君があのロボットのパイロットだってホント? Y/N>>
シンジがその内容に驚きあたりを見回す。
すると後ろの方の席に座っている二人の女の子が手を振った。
そして再びパソコンに目をやると何かを打ち込んだ。
シンジは自分のパソコンに目をやると再びメールが届いた。
<<ホントなの? Y/N>>
シンジは答えてしまってもいいのだろうかと不安に思いながらキーを入力した。
<<YES>>
その瞬間クラスの大半の生徒がシンジの周りに集まった。
どうやらみんなシンジと女の子とのメールのやり取りに注目していたらしい。
「ちょっとみんな授業中よ、席に戻りなさい!」
委員長が大声を上げてシンジのまわりの生徒を注意するがみんな聞く耳を持たず
シンジに質問を浴びせている。
「どうやって選ばれたんだ?」
「恐くなかった?」
「あのロボットのなかってどうなってるの?」
そんな中シンジの周りに近づかないものが一部いた。
シンジと生徒との会話を聞きながら熱心にキーボードを叩いているケンスケ。
もう知らないという風にそっぽを向いてしまった委員長。
なにも気にしないといった風に外を見ているレイ。
シンジを囲んでいる集団を冷たい目で見つめているトウジ。
そして授業を聞いていない生徒を見た教師は、一人の生徒のパソコンを覗き込むと
シンジとそれを囲んでいる生徒達の方へと近づいていった。
「碇君。」
「は、はい!」
教師の声にみんなが振り向き思わず道を開ける。
「な、なんでしょう先生・・・」
怒られるのではないかとみんなが緊張するなか、教師が口を開いた。
「わしにも詳しく聞かせてくれ。」
その一言を聞いた瞬間、緊張していたみんなは顔を見合わせほっとした表情になった。
一方、怒られる事を期待していた委員長はもうどうにでもしてというようにため息を吐いた。
そしてシンジへの質問責めで授業はつぶれてしまった。
「悪いな転校生。わいはおまえを殴らなあかん。」
休み時間の校舎裏、シンジはトウジに呼び出された。
その後ろにはケンスケがカメラを持って二人を撮影していた。
「悪いね、こいつの妹がこの間の戦闘で怪我しちゃってさ。
運が悪かったと思ってあきらめてよ。」
ケンスケの言葉にシンジははっとする。
前回の戦闘で勝利したとはいえ、多少なりとも街は破壊されている。
それにトウジの妹が巻き込まれたと知るとシンジは何も言えなくなった。
シンジが何も言わなくなるとトウジはシンジを殴った。
シンジはその拳をよけもせずに受け、尻餅をついた。
「これで終わりやないで、妹はもっと痛い思いしたんや、
せめてそれに近い分は受けてもらうで。」
トウジはシンジにゆっくりと近づく。
その時、後方から爆音とともに誰かが走ってくる。
三人がその方向を見ると白衣を着た女性、碇ユイが全速力で走ってくるではないか。
ズザザザザザァッ!!
「シンちゃん!大丈夫?」
ユイはシンジの傍らに急停止して座るとシンジの頬を見た。
幸いシンジは口を切ったりはしておらず、少しあとが残っている程度である。
「ちょっとあなたたち、これは何のつもり?
事と次第によってはただではすませませんよ!」
ユイはシンジの怪我が軽いと知ると二人に怒鳴った。
「ユイセンセェ、たとえセンセェでもこれだけは譲れまへんで。
わいの妹が怪我しましてん。その原因はこいつや。
わいはこいつを殴らな気がすまへんのや。」
トウジのその言葉を聞いた瞬間、ユイの手はトウジの頬に炸裂した。
「事情も知らない人が勝手な事を言うんじゃないの!
シンちゃんがあの時どんな思いで戦っていたと思うの!
あの時シンちゃんが戦ってくれていなかったら私たちは皆死んでいたのよ!」
ユイの剣幕に押されつつ、トウジは気弱な声を上げる。
「せ、せやけどセンセェ・・・」
「それでも納得できないというのなら、それは怪我をしてしまうような所へ
非難させた私たちの責任です。責めるなら私を責めなさい!」
その言葉にトウジは何も言えなくなり、ケンスケを連れて校舎へと入っていった。
「シンちゃん、大丈夫?」
ユイはトウジを見送るとシンジの方に向き直り、心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、ところで母さん。」
「何、シンちゃん。」
「なぜここにいるの?」
シンジが当然のようにその疑問を口にした。
NERVで働いているユイがなぜ学校にいるのだろう。
ユイの姿をはっきり確認したときからのシンジの疑問であった。
「ああ、母さんここで保険医やってるの。」
「え?でも母さんNERVで働いてるって・・・」
「そうよ、でもレイちゃんをこの学校に入れてから、学校生活時の健康管理のために
私たちNERVのスタッフが臨時講師としてここにいるの。」
「え、それじゃ他の人も?」
「ええ、冬月先生はもともと有名な方だから問題無いし、他の皆も何かしらのスペシャリストですもの。
NERVだけに縛り付けておくのはもったいないでしょう。だからここでたまに特別授業を
おこなったりしてるの。」
「それじゃあ・・・」
「ええ、学校にはだいたい誰か一人NERVのスタッフがいるわ。
ちなみに母さんとリっちゃん、マヤちゃんは基本的に保険医としてここにいるの。
一番暇で他の事ができるし緊急の時にはすぐ抜け出せるからね。
それにカリキュラム組まれて授業受け持ったりするとうっかり抜け出せなくなるでしょう。」
ずいぶんと偏見があるような気がするがそれは気にしない。
「ミサトさんもそうなの?」
「ミサトちゃんも前はいたのよ。ただ保健室でお酒飲んでるのがばれて厳重注意されたの。
それで体育教師してもらったら今度は体育教官室でどんちゃん騒ぎ。
さすがに怒られて追い出されちゃったわ。」
そう言ってユイはため息をついた。
ミサトと同居していてその光景があっさり浮かんだのか、シンジも同じくため息をつく。
「まあ、あとの話は保健室でしましょう。まずは怪我の手当てよ。」
ユイはシンジを引き連れ保健室へ移動しようとする。
「いいよ母さん、これぐらい。」
シンジが遠慮するとユイはシンジの顔に自分の顔を近づける。
「だめよ、いらっしゃい。」
有無を言わせず迫るユイにシンジがうなづくとユイはにっこりと笑い再び歩き出した。
(はぁ、母さんにはかなわないや。)
ユイのあとを追いつつシンジはそう思った。
場所は変わって保健室、ここではシンジが治療を受けつつ他のスタッフが
学校で何をやっているのかユイが話していた。
「この保健室はねぇ、休み時間になると生徒が集まってきたりするのよ。
母さん達結構人気あるんだから。特にマヤちゃんなんか大変よ〜。
姿もそうだけど年齢も近いだけあって沢山人が集まるんだから。
リっちゃんは女の子が沢山集まるらしくって、
もう少し男の子がきてくれてもいいな〜っていってたわね。」
リツコのその光景を想像してシンジは苦笑した。
その顔を見つつユイは話を続ける。
「そういえばリっちゃんは一時期、化学講師もやっていたのよ。
ただ実験中に大爆発起こしちゃったのよねぇ〜。
生徒がうっかり薬の調合間違えたらしいんだけど。
結局それが原因で、あぶないからって保険医にまわされてきたし。
あとマヤちゃんも。『なんでもできます』って言っちゃったおかげで
生物の講師にまわされたんだけど、うっかり解剖の授業任されちゃったのよ。
そしたら途中でマヤちゃん気絶しちゃって保健室に運ばれてきちゃったわ。
で、マヤちゃんそこでリっちゃんが保険医してるのはじめて知ったのよ。
そしたら『私もここで保険医します』っていって保険医に収まったの。
おかげで保険医三人になっちゃった。」
困ったような事を言いつつユイはどことなく嬉しそうである。
「あと冬月先生は歴史をやってるの。こんな時代だから昔のよいものを皆に教えたいんですって。
たまに学校で将棋を生徒とやってるみたいだけど。」
この話をしている時のユイはとても楽しそうだとシンジは感じながら
シンジはなかなか名前が出てこない二人の名前を挙げる事にした。
「青葉さんと日向さんは?」
「青葉君はリっちゃんの代わりに化学講師に、日向君はマヤちゃんの代わりに
生物講師になったわ。ただ青葉君は音楽がやりたかったらしくって
残念がってたけどね。」
シンジはそれを聞いて笑い出した。つられてユイも笑う。
「さ、そろそろ授業に戻りなさい。放課後は母さんも本部に行くから。」
「うん、それじゃ。」
(早くこの平和が続くような世界にしないとね・・・)
シンジの背中を見送りつつユイはそう思った。
作者後書き
どうも、今回は昔作った話と合わせて一話にしてしまったSHEROです。
前回から仕事が忙しくなったのと職場が遠くなったのとで全然執筆ができなくなって
なってしまい苦肉の策になってしまいました。
しかも前回は単なる思い付きで書いてた一言クエスチョンを
忘れるという大ポカをしてしまいました。
というわけで前回出番を失った日向君と今回の出番の青葉君と
セットでの一言クエスチョンスペシャル版いきましょう。
「まずは前回出番を忘れられた日向さん、何か一言」
「青葉とセットじゃなくって僕一人での出番が欲しかった・・・」
「では青葉君も何か。」
「俺も一人での出番が欲しい。」
「それではちゃんとした質問を。学校にNERVスタッフがいられるように
なっていますがユイさんの影響力ってどれほどなんです?」
「僕が聞いたところではNERVの司令になる前から
人脈はすごかったっていう話ですけど」
「俺が聞いた噂ではNERVの権力無しでも大半の事は
できるって聞いたぞ」
「所詮脇役、情報がいいかげんな気がします。
ま、こんなものでしょうね。」
次回も何とか頑張りたいと思いますのでよろしく。
(update 99/07/11)