新世紀エヴァンゲリオン

■悪夢■

第3話

作・すとらとさま

ジャンル:X指定


それから一ヶ月ほどたった夏休みを目の前にした土曜日のことだ。ホームルームが終わり足早に家路につこうとしていた僕をアスカが呼び止めた。 

「一緒に帰りましょう?」 

そういえば、ここ一ヶ月アスカとは帰っていない。マヤさんとの事があってから、アスカに会うのが辛かったからだ。 

上手く断る理由も考えつかず、仕方なく、「・・・うん、いいよ」と、答えてしまう。 

学校を出てからしばらくの間、僕たちは黙ったまま歩いていた。 

先に沈黙を破ったのはアスカだった。 

「ねえ、どうしてここ最近あたしを避けてるわけ?」 

僕は、「べ、べつに避けてなんかいないよ」と、答える。 

するとアスカは、「嘘よっ、学校でも最近あたしのこと避けてるじゃない!」と、言って僕を睨み付けた。 

僕は何も言えずに黙り込んでしまう。 

「何かあたしに言えないやましい事でもあるわけ?」 

僕は俯いたまま歩き続ける。 

「ふーん、幼なじみのあたしにも言えないってわけ・・・」 

また、二人の間に沈黙が訪れた。 

まさか、マヤさんとのことをアスカに言う訳にはいかない。 

「あの転校生のせいねっ!」と、突然アスカが見当違いなことを言った。 

「そうなんでしょうっ、答えなさいよっ!」 

アスカは僕の腕をつかむとそう言った。 

「ちがうよ、綾波とは何の関係もないよ」 

僕がそう答えると、アスカはまっすぐに僕の目を見据えたまま言った。 

「じゃあ、何のためにあたしを避けてるわけ?」 

僕は目をそらしてまた黙るしかなかった。 

アスカは手を離すと、ため息をついて言った。 

「いいわ、あの転校生とは何の関係もないなら」 

また黙ったまま二人は歩き出す。 

しばらくして、二人は僕の家の前についた。 

「さようなら、アスカ・・・」 

ふわっと、唇にアスカの唇が触れる。 

「え・・・?」 

「さようなら・・・バカシンジ!」 

アスカは頬をピンク色に染めて、そう言って微笑むと、後ろを向き走り去っていった。 

僕はしばらく唇を押さえたまま呆然としてアスカの後ろ姿を見ていた。 

アスカが視界から消えてしまうと、やっと我に帰って家の鍵を取り出す。鍵を開けようとするとすでに扉は開いていて、開けるとそこにはマヤさんが立っていた。 

「た、ただいま」 

僕は靴を脱いでリビングへと向かう。 

「おかえりなさい、いまお茶入れるわね」 

マヤさんはそう言うとキッチンへと向かった。 

僕がリビングでテレビを見ていると、マヤさんが紅茶の入ったポットとカップをトレイに乗せて僕の横に座った。 

「可愛い子じゃない、たしかアスカちゃんていったっけ」 

僕は真っ赤になって頷いた。 

「全部見てたわよ」 

紅茶を入れながら、いきなり彼女はそう言った。 

「シンジ君もあの娘が好きなの?」 

僕は、なんとか、「た、ただの幼なじみだよ」とだけ答えて、紅茶をすする。 

「そう・・・ただの幼なじみね・・・」 

そして、突然、「ねえ、あの子も一緒にプレイにまぜたら楽しくなると思わない?」と、言った。 

僕はもちろんその悪魔のような提案に反対した。 

「やめてよ!アスカは何も知らないし、何の関係もないじゃないか!」 

すると、マヤさんは言った。 

「厭ならわたしとシンジ君がどんなことをしていたか全部あの子に教えるわ」 

この一言で、僕は黙るしかなかった。 

マヤさんは、しばらくの間考えたあとで言った。 

「もうすぐ夏休みでしょう?わたしの両親が伊豆に別荘をもっているの。そこにわたしとシンジ君とあの子と三人で旅行に出かけましょう。シンジ君が誘えばきっとあの子もついてくるわ」 

「きまりね」 

彼女はそう言うと自分のカップの紅茶に口をつけた。 

 

結局、僕はアスカを旅行に誘った。内心断ってくれればと思っていたのだが、アスカはさして嬉しくもなさそうに「ふーん、シンジにしちゃ気が利いてるじゃない。いいわよ」と、言った。アスカの両親も、保護者(マヤさんの事だ)同伴ならという事で許可してくれた。もともとアスカの家は放任主義なのだ。 

そんな訳で、すべてはマヤさんの思いどうりに進んだ。 

 

夏休みが始まり、何日かが過ぎていよいよ明日出発だという夜、セックスの後、僕はマヤさんに最後のお願いをした。 

「お願いだからアスカを巻き込むのはやめてよ」 

マヤさんはそれに対して「もう後戻りは出来ないのよ」とだけ答えた。 

 

別荘へ向かう車中、アスカとマヤさんの二人の会話はほとんど初対面にもかかわらず、わりあい弾んでいた。それで、自然と僕一人が黙っている格好になった。 

(どうしてこんな事になってしまったのだろう) 

「どうしたのよ、元気ないじゃない、シンジ」と、アスカが声を掛けてきた。 

「な、何でもないよ」と、僕は答える。 

「変なシンジ」 

アスカはそう言うと、またマヤさんとの会話に戻っていった。 

別荘は少し海から離れた高台にあった。平屋建てでそんなに広くはないが小綺麗な建物だ。別荘へ着くと三人は車からそれぞれの荷物をおろした。中へ入ると締め切っていたために、むっとするほど熱気がこもっていた。 

「すぐに冷たい物だすからね」と、言ってマヤさんはエアコンのスイッチを入れてキッチンの方へ姿を消した。 

しばらくするとマヤさんがアイスティーを入れてきてくれた。 

「うわー、咽カラカラ、いただきまーす」と言ってアスカはアイスティーを飲んだ。 

僕が、自分の分のアイスティーを飲んでいると、急にアスカが、「あれ、どうしたんだろ・・・あたし・・・なんだか眠くなってきた・・・」そう言うと、ぐったりとソファーの肘掛けにもたれて眠ってしまった。 

「さすがは先輩のくれた薬だわ、すごい効き目」 

マヤさんは少し驚いた様子でそう言うと、彼女の横に座って何度か声を掛け、次に体を揺すってみてアスカの眠りの深さを確認した。 

そして薬の効き目に満足すると、僕の方へ向いてこう言った。 

「シンジ君、諦めて手伝って」 

そして彼女は言った。 

「もう後戻りはできないのよ」 

僕は何も出来ずに、深い自己嫌悪と罪悪感とを感じながら俯いてそこに立っていた。 

  

 

 


(99/03/02update)