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それは郊外にある大きな屋敷だった。
広大な屋敷の敷地内の駐車スペースに駐めてある、さして自動車に詳しくない者の目から見ても一目で高級車だと分かる黒塗りの車を、一人の少年が磨いていた。
少年の名は『ロラン・セアック』。この『ハイム家』のお抱え運転手だ。
元々はこのハイム家の所有する鉱山で、若いながらも機械類の操作に長けていることから技師見習いとして働いていたのだが、ひょんなことから川で溺れているところを川に遊びに来ていたこの家の二人娘に助けられ、それが元で屋敷のお抱え運転手となることになったのだった。
彼を父親に、自分たち二人の専属運転手として働かせるように強く薦めたのは、彼を助けた二人の娘だった。
この街ヴィシニティでも一、二を争う名家の当主である父親は、社交界でも賞賛の的である二人の娘を溺愛していた。だから、娘たちの我が儘を何の躊躇も無く受け入れたのだった。
こうして、ロランは溺れた日のほんの数日後から、このハイム家お抱え運転手として働くことになったのだった。
実際、ロランの容姿はちょうど異性に強い関心を抱いている娘盛りの二人の少女たちを惹き付けるには十分なものだった。
背はさほど高くはないが、引き締まった痩身。印象的な肩まである長い銀髪に、褐色の肌のコントラストが眼を引く。目鼻立ちは大きな碧い瞳に、綺麗にすっ、と鼻筋が通った形の良い鼻梁。口許はその温厚な性格を物語るように優しげだ。
確かに、この少年は服さえ着替えてしまえば”美少女”と言っても差し支え無い程に秀麗な容姿をしていた。
それは、ロランがハイム家の、実際は二人娘のお抱え運転手になってから、三週間程経ったある日曜日の午後の事だった。
今日は朝早くからこの屋敷の当主と夫人は、以前からこの屋敷に勤めていた運転手の運転する車に乗って出払っていて、帰りは夜遅くになる予定だった。娘たちも、今日は特に出掛ける用事が無かった。その為、若くして既に宮仕えの身と言っても、その日はこの車を磨き終えれば彼にはこれといって今日済ませてしまわなければならない仕事の予定は無かった。
「ロラ〜ンッ!」
声を掛けられた時、ロランはしゃがみ込んで車のタイヤホイールを一本一本丁寧に磨いているところだった。
彼が振り向いて見上げると、声の主は『ソシエ・ハイム』。この家の次女だった。
勝ち気な性格で、天真爛漫。
ロランと同い年の15歳。今年、ヴィシニティの成人式を彼と共にむかえる予定だ。
ショートカットに切り揃えられた栗色がかった髪。その肌は、流石に幼少の頃から玉のように愛されて育てられたことを物語るかのようにすべらかで白い。が、決して家に閉じこもっていて不健康に白いのではなく、あくまでも伸びやかに育った結果として、その生命力と若さを象徴するかのような健康的な白さだ。
くりくりっとしたいかにも好奇心旺盛そうな大きな褐色の瞳に、整った鼻梁。愛くるしい桜色の唇は、今は笑顔にほころんでいる。全体的な印象は、”整った美人”という表現よりも、”可愛らしい”という言葉がぴったりとする美少女だった。
「ソシエお嬢様。何ですか?何か僕にご用事ですか?」
「お姉さまがね、ロランを呼んでこいって。別に急な用事じゃあないみたいだから、お仕事が済んでからで良いからお姉さまの部屋へ来てちょうだいって」
「分かりました。後少しで洗車も終わりますから、そうしたら直ぐにうかがいます」
ロランの台詞を聞き終えると、フリルの付いたピンクのドレスを着た美少女は、軽やかにドレスのスカートの裾を翻して走って立ち去っていった。
「ふう、これで良しっと・・・」
洗車を終えると、ロランは立ち上がって大きく伸びをした。洗車というのはやった事のある人にしか分からないだろうが、以外に重労働である。不自然な姿勢を長時間とっていた為に、いくら彼が若くてしなやかな肉体の持ち主であっても、伸びをするとパキポキと体の節々が鳴った。
ソシエお嬢様が言っていたキエルお嬢様の用事ってなんだろう?・・・。
彼はそんなことを考えながら、仕事で汚れた手を入念に洗った後、勝手口から屋敷の二階に有るキエルの自室へと急いだのだった。
コンコン・・・。
ほんの数回ノックすると、直ぐに待ちかねていたように部屋の中から長女のキエルの良く通る声が答えた。
「はい?」
「ロランです。ソシエお嬢様からキエルお嬢様が僕をお呼びだってうかがったので来ました」
「ロランなのね。鍵は開いているから、入っていらっしゃい」
ロランは、生まれて初めて少女の自室に入るという緊張感から、幾分どもりながら、「し、失礼します」と言ってドアのノブを回した。
ほんの少しだけ軋む音を立てて古めかしい重厚な造りの扉が開かれると、その部屋の主が窓を背にして椅子に座って微笑んでいる姿が眼に入ってきた。
『キエル・ハイム』。
ロラン、ソシエよりも三歳年上の18歳。来春からヴィシニティの大学に通う予定だ。
ソシエも十二分に美しいが、彼女は社交の場に出れば直ぐにダンスの申し込みをする男たちが十指を越える超美形お嬢様だ。
ソシエよりも更に白い透けるような白磁の肌。瓜実顔の端整な顔立ち。細くとおった上品な鼻筋。口角のきりりっと引き締まった口許。唇は健康的な淡いピンク色で、薄くもないし厚くもない。つんっ、と澄ました冷たさも、情熱的な艶っぽさも、過度に感じさせない形のよさだ。髪の毛は、腰まで伸びた良く手入れされた綺麗なプラチナブロンド。
どこから見ても端麗なお嬢様だが、とりわけ美しいのはその瞳だった。瞳の色は碧。深く澄んだ泉のような瞳が、いつも人の本心を射抜くかのように、きりっと閃いている。
切れ長の目元が印象的だが、決してきつい印象を与えるという訳ではなく、ふっくりと膨らむ下の瞼が如何にも愛情ふかそうな感じで、シャープな眼光に柔和な印象を与えている。
正に、どこから見ても、ほとんど非の打ち所のない美形のお嬢様だった。
そのお嬢様が、今は椅子に腰掛けたまま、艶然とロランに向かって微笑んでいた。
ロランが部屋の入り口で、半分程扉を開けたままただ立ち惚けていると、キエルが声を掛けた。
「いらっしゃい、ロラン。どうぞ入っていらっしゃい」
部屋の主にそう声を掛けられて、ロランは言った。
「あの・・・。それでは失礼します」
「どうぞ。遠慮せずに。さあ、入って」
幾分戸惑いがちに扉を開け放つと、彼は室内へと入っていった。
部屋へ入ってみて、まず驚いたのはその天井の高さだった。
屋敷全体が豪奢な造りをしている為、これ程の高さのある建造物であるのに、全体としては屋根裏部屋を含めてたった三階建ての建物に収まっているのが分かる。
室内は一人で使うに分にはかなり広い。高い天井に吊られた鉄製のシンプルなシャンデリアは、白色灯が花の蕾のような可愛らしいデザインになっている。向かって右側の壁から張り出す四角い暖炉は、この家の伝統と格式を象徴しているかのようだ。部屋の中には、天蓋付きの質素でいて、それでいて貧乏臭さなど微塵も感じられないベッドが置かれていた。
この部屋を彩る様々な家具たちは、ベッドやシャンデリアを見ても分かる通り、どれも成金趣味のハデハデしい物は一切置かれていなくて、簡素な物が全てだった。しかし、簡素であってもそれらは選んだ人の趣味の良さが滲み出てくるように、どの品もアンティークな渋いもので、白塗りの天井と壁に包まれた空間の中で、木目や輝きを抑えた金具やらがごく上品に調和している。
婦女子の部屋らしく、もっと少女趣味のインテリアを想像していたロランだったが、改めてこの部屋の主の趣味の良さに驚かされていた。
「入ったらドアを閉めて。そんなに緊張せずにこちらへいらっしゃい。ちょうど今、午後のお茶が入ったところなの。さあ、そこに座って」
少女に促されて、ロランは革張りのソファーに座った。ソファーの前には、木製のテーブルが置かれていて、その上にはお茶の器が揃えられて上に置かれたトレイと、クリスタルグラスの花瓶が置かれ、生けられた花が大輪を幾重にも咲るせている。
緊張の面持ちでソファーに腰掛けた年下の少年に対して、彼女はそれまで座っていた窓際の古めかしい書斎机の前に置かれた椅子から立ち上がって、ロランの正面に置かれたソファーの前までゆっくりと移動した。そして、柔らかな物腰でソファーに腰掛けて、テーブルの上に用意されていたティーポットから、二人分置かれていたカップにお茶を注いだ。
紅茶の良い薫りがふんわりと漂い、ロランの緊張を解きほぐすように感じられた。
「あの・・・。キエルお嬢様、ご用ってなんですか?」
「ロランは真面目な良い子ね。そんなに焦って用事をたずねなくても良いでしょう?どうしても、両親が居ない今日、ロランをわたしの部屋へ招きたかったのよ」
キエルはそう言うと、僅かに口許をほころばせて「ふふっ・・・」っと意味深げに笑うと、二人分のティーカップを乗せた皿を自分とロランの前に置いた。
「少しだけわたしとのおしゃべりに付き合ってもらいたいの。ほら、わたしたちって出会ったばかりでお互いのこと、よく知らないでしょう?」
キエルは言うと、小指を立てた優雅な手つきで、自分の前に置かれたティーカップを口許に持っていって、一口紅茶に口を付けた。
「お話っていっても、大したことじゃあないのよ。ロランが最近どんなことに興味があるのか教えて欲しいだけだから」
彼女はそう言ってカップを小皿の上に置くと、立ち上がってドアの前までゆき、扉の鍵を掛けた。
「なぜ鍵を掛けるんですか?」
ロランは率直に疑問に思った事を思わず口にしていた。
「うふふ・・・。せっかくのロランとのおしゃべりですもの。誰にも邪魔されたくないからよ」
キエルはそう言って、またロランの正面に座った。
彼女の立ち振る舞いは、一挙動一挙動が全て上品で、それでいて金持ちらしい嫌みくささを感じさせない自然なものだった。それは、幼少の頃から上流階級の家で育った者のみが身に付けられる、ある種特別な物腰であった。
「さあ、お茶を飲んで。お茶菓子のクッキーはわたしが作ったものなの。遠慮せずに食べてね」
「・・・それでは頂きます」
彼はそう言うと、皿の上に品よく並べられたクッキーに手を伸ばして、一枚手に取ると口に運んだ。
噛むと、絶妙な味加減の焼きたてのクッキーの香ばしい甘みが、口の中いっぱいに溶けて広がっていった。
「美味しいです!このクッキー、とっても美味しいです。本当にキエルお嬢様がお一人で作ったんですか?」
感動しながらロランがそう言うと、キエルは口許に手を遣って、「ふふっ」と微笑んだ。
「あら、失礼ね。それは本当にわたしが一人で作ったものよ?」
ロランは一口囓っただけのクッキーを、夢中になって全て口に頬張り咀嚼して飲み下すと、急いで答えた。
「い、いえ、キエルお嬢様にこんな特技があるなんて知らなかったものですから・・・」
キエルは、まるで花がほころんだかのような笑顔を浮かべると言った。
「お菓子作りはわたしの趣味なの。そのクッキーの作り方は、母から教わったものよ」
「本当にすごいです。僕、ちょっと感動しちゃいました」
「まあ、嬉しいわ。まだたくさんあるから、遠慮なく食べてね」
彼女はそう言って、まだ幾分緊張の面持ちの年下の美少年に対して、優しい心遣いを見せた。
実際、目の前に並べられたチョコチップを練り込まれたクッキーの甘みは、つい先程まで労働に従事していて疲れた身体に滲み込んでくるような美味しさがあった。
ロランは紅茶を一啜りして口の中に残っていたクッキーの後味を洗い流すと、直ぐに二枚目のクッキーを手に取って頬張った。
キエルはただ微笑を浮かべて楽しそうにその様子を眺めながら、紅茶を啜っている。
暫くの間、その一見すると微笑ましい午後のひとときの雰囲気に部屋は包まれていた。
黙々と茶菓子を頬張っていた少年に向かって、彼女は言った。
「美味しい?ロラン」
「もぐ・・・。はい。もぐ、むぐ・・・。とても美味しいです」
「じゃあ、食べながらで良いから、これからわたしがする質問に答えて欲しいの。いい?」
「ごくんっ・・・。はい」
キエルにそう声を掛けられては、ロランとしてはお菓子を頬張っていることなど出来る筈もなかった。彼は、少々自分が夢中になってクッキーを健啖に頬張っていたことに気が付いて、深く自分を恥じた。ロランはそんな少年だった。
「それじゃあさっそく質問ね。ロランはこの屋敷で働くことになったのが嬉しい?」
「はい。鉱山で働いていた頃に比べると、ずっと仕事の量も減ったので嬉しいです」
「あら。ロランは仕事の量が減ったことだけが嬉しいのかしら?」
「そ、それは・・・。質問の意味が良く分かりません」
ロランがそう答えると、キエルは彼の眼を覗き込むようにして僅かに体を乗り出して尋ねた。
「それはね、ロランが私たちハイム家の二人娘と一緒に生活できるようになったことをどう思っているかっていうことよ」
「そ、それはもちろん嬉しいです。キエルお嬢様も、ソシエお嬢様もとてもお優しい方ですし、それにとてもお美しいし・・・」
ロランはそこまで言うと口ごもった。二人には感謝してもしきれない程ありがたく思っていたが、それを言葉にしきれなかったからだ。
しかし、それはキエルにとって望んでいた答えでは無かった。彼女は、もっと具体的に自分と一緒に居られることを喜んで欲しかったのだ。
「じゃあ、質問を変えるわね。ロランはソシエとわたし、どちらを魅力的に感じているの?」
その質問を聞いて、ロランは直ぐには答えることが出来ずにひととき言葉に詰まった後で、こう言った。
「そ、そんな・・・。お・・・お二人ともとても魅力的で、どちらがなんて言えません」
どもりながら、そう答よるのが精一杯の培少年を目の前にして、彼女は自分の隠し通してきた性癖がむくむくと頭をもたげてくるのを感じていた。
この子ったら、本当に可愛いわ・・・。
キエルはそんなことを考えながらティーカップを皿の上に置くと、そのシャープな眼光で射抜くようにロランを見据えながら、いきなり核心を突く質問を放った。
「じゃあ、ロランはわたしとソシエ、どちらのことを考えながら『セ・ン・ズ・リ』をかくのかしら?」
彼女の一言で、それまでの和やかな部屋の内の雰囲気は一変した。まるで、部屋の内部全てが凍り付いたように少年には感じられた。
ロランは一瞬、美少女の清らかな唇から、一言一言ゆっくりと区切りながら確かに発せられた汚らわしい四文字言葉を聞いて、身体中を強ばらせてその台詞を頭の中で反芻した。
『セ・ン・ズ・リ・・・。セ・ン・ズ・リ・・・』
彼は、何も言葉を返すことが出来なかった。まるで身体と共に、舌まで硬直しているかのようだった。
この聡明な少女は、自分の性癖がアブノーマルであることを十二分に承知していた。だから、今までその性癖を誰にも悟られないように頑なに抑え込んできたのだった。
しかし今、恰好の標的を目の前にして、彼女は思ったよりも簡単に遂にその欲望のおもむくままに行動しても良い状況を作り出せた事に、内心ほくそ笑みながらこう言った。
「ロランはわたしとソシエ、どちらを『オナペット』にしているかって聞いているのよ?」
いくらロランが、その年齢の少年にしては性的なことに関してうぶだといっても、年頃の健全な男子である。勿論、ほぼ毎日のように夜”はなれ”にある自室に戻ると、最も身近な存在である二人の美少女の事を想い浮かべながら自慰に耽っていた。
キエルの質問は、そのロランの秘やかな行為をまるで全部知っている上で発せられた言葉のように思えて、彼はいきなり足下が崩れて奈落の底へと落ちてゆくような錯覚を抱いた。
ロランは、ただ身体中を硬直させて、全身をこれ以上無い程に紅潮させて、最早キエルの瞳と全く合わせることが出来なくなった視線を自分の膝の上辺りで彷徨わせていた。
あまりの惨めさに、眼からは涙が滲んできた。そして、全身は冷たい汗でまみれているように感じられた。
「さあ、ソシエとわたし、どちらを想いながらおっ立てた『チンポ』を擦っていたのか教えてちょうだい」
キエルは、あえて男性器をあらわす下劣な言葉を発して少年を追い詰めていった。
「・・・ご・・・ごめんなさい・・・。僕、僕・・・」
美少女に問い詰められて、ロランはそれだけ口にすると、俯いたまま大粒の涙を零しはじめた。身体は小刻みに震えていた。
「あらあら、泣かなくても良いのよ。わたしはただ質問に答えて欲しいだけだから。さあ、このハンカチで涙をお拭いなさい」
キエルはそう言うと、袂からハンカチを取り出して、テーブル越しに彼の膝の上に置いた。
ロランはそのシルクの薄布を手に取ると、目元の涙を拭った。
涙を拭い終えて、震えが収まってきても、まだ俯いたままの彼に対して、キエルは優しく声を掛けた。
「良いのよ、ロラン。別にそれをとがめようと思って言っている訳じゃあないの。思春期なら誰でもオナニーくらいするわ。このわたしだってするのよ?」
彼女にそう言われて、ロランは驚いて顔を上げた。彼には信じられなかったのだ。この目の前の美しい少女が自慰をするという事実を。
改めて顔を上げて視線を合わすと、キエルはまるで慈悲深い女神のように優しく微笑んでいた。
「さあ答えて、ロラン。わたしとソシエのどちらを想い浮かべながらオナニーをするのか」
口調はあくまでも優しかったが、質問の内容は変わってはいなかった。彼は俯き加減で頬を朱に染めたまま、幾度か優しげに微笑んでいるキエルの顔を見やると、自分が発揮出来る精一杯の勇気を振り絞って正直に答えた。
「・・・お・・・お二人・・・りょ、両方です・・・」
ロランがそう答えると、ちらちらと窺っていた彼女の表情が一瞬強ばったように見えた。
そう、彼の正直さが故に選んだ答えが、キエルの求めていた答えとは違っていたのだった。
わたしとソシエを同等に見ていた・・・。この子ったら、面白いじゃあない・・・。
ほんの数秒だけ、実の妹への嫉妬から顔を曇らせた彼女だったが、直ぐに微笑みを取り戻した。今度の笑顔は、悪戯っぽい小悪魔の微笑だった。
「分かったわ。ロランは正直な良い子ね。でも、わたしとしては嘘でも良いからわたしだけをオナペットにしているって答えて欲しかったわ」
キエルはそう言うと、ロランの眼の前で態とゆっくりと脚を組み、その長い丈のスカートからのぞくむちむちと張り詰めたしなやかなふくらはぎを見せ付けた。
異性に興味しきりの年頃の彼の視線は、ストッキングを着けているとはいえ、その脚線美に釘付けになる。だが、それも彼女の計算の上だった。
「ロランは女の子のお脚を間近で見たことはないのでしょう?」
笑みを浮かべたまま、キエルはこれ見よがしに組んだ脚をゆっくりと揺らす。ロランはその脚から視線を逸らすことが出来ずに、ただごくりと喉を鳴らして頷いた。
「見せてあげる」
彼女はそう言うと、両手でスカートの裾を掴んだ。そして、もう硬直して脚に見とれているだけの彼の視線を十分に意識したスピードで、ことさらゆっくりとスカートの裾をたくし上げてゆく。
「ふふふ・・・」
小悪魔の笑みを浮かべながら、キエルは膝までストッキングに包まれた脚を露にすると、そこで一旦手を休めてロランの表情を窺った。
彼は、もうすっかりその魅惑の脚の虜になっている様子だった。それは、一度は妹と同等に見られたために傷ついた彼女の自尊心を大きく擽った。
もう見ているロランだけでなく、スカートをたくし上げているキエルにまで興奮の波長が伝染して、彼女は躯の芯が僅かに疼いてくるのを感じていた。
「どう?ロラン。わたしのお脚、きれい?」
キエルがそう尋ねると、彼はハッとしたように彼女の脚から視線を上げて彼女の顔を見ると、急いで口の中に溜まった生唾を呑み込んで答えた。
「はっ、はいっ!とってもお美しいです・・・」
「もっと見たい?」
キエルがそう問い掛けると、眼前の美少年は頬をピンク色に染めたまま、僅かな時間躊躇った後、頷いて言った。
「・・・も、もっと見たいです・・・」
彼女の問い掛けに、奥手なロランにしては意外な程素直な答えが返ってきたことが、この少年がもう自らの意志で誘惑を払い除けることが出来なくなっている証でもあった。
「じゃあ、見せてあげる・・・」
キエルは、ことさらゆっくりと、焦らすようにスカートを捲ってゆく。それにつれて、彼女のもう成熟するのも間近いであろう見事な脚線美が、彼の眼前に徐々に晒されてゆく。
彼女は、青いガーター・ベルトが露になる位の位置までスカートの裾を捲り上げると、そこで手を止めた。
ロランの位置から見ると、それは際どい光景だった。キエルが脚を組んでいる為に、彼が頭を下げて下から覗き込むようにすれば、彼女の下着が必ず覗けることだろう。
しかし、ロランはそんな行為を自ら行って、破廉恥にもキエルの股間を覗くような少年ではなかった。そして、人の心を見抜くことに長けた聡明なこの美少女も、もうそれを察していた。
「ふふ・・・。ロラン、もう見ているだけじゃあ物足りないんじゃあなくって?」
彼女はそう言うと、際どい位置までスカートを捲り上げたまま脚を組み変えた。そうすることによって、ほんの一瞬少女の脚に釘付けになっている彼の視線に、自分の下着が垣間見えることを十分に計算した上でのことだった。
ごくっ・・・。
一瞬だけ視界に見えた白い下着は、確かな残像となって頭に残り、ロランを激しく欲情させた。彼のパンツの中では、肉欲の棒が麗しい令嬢の目の前だというのに、浅ましくもそそり立ってしまっていた。
「どう?ロラン。今度はわたしの生のお脚を見てみたくなったんじゃあないのかしら?」
もうここまでくれば、少年はキエルの誘惑に抗うことなど出来る筈も無かった。彼は一瞬だけ躊躇した後、頷いて言った。
「・・・は、はい・・・」
「じゃあ、ストッキングを脱いであげる・・・」
彼女はそう言うと、スカートを捲り上げたまま一旦脚を組むのを止めて、ガーターベルトとストッキングを連結しているホックを外し始めた。
まず、右の脚。そして今度は左の脚・・・。
そして、ホックを全て外し終えて、室内履きを脱ぐと、ゆっくりとストッキングを下ろしていった。
キエルがするする・・・と布擦れの音を残して、右脚、そして左脚の順番でストッキングを脱ぎ終えると、その紺色の捲り上がったスカートから覗く生脚をロランは食い入るように見つめていた。
少年が食い入るように見つめていることを意識して、彼女はまた脚を組み直すと言った。
「どう?わたしの生のお脚は」
静脈が薄く透けて見える程白い脚の肌を見つめながら、ロランはどもりながら答えた。
「・・・と・・・とてもお美しいです・・・」
少年の反応を楽しみながら、キエルは組んだ足先を揺らして言った。
「ロランは女の子の足の指をしゃぶったことはないのでしょう?」
そう言うと、見せ付けながら足先をくるくると回した。
「お舐めなさい」
キエルの台詞を聞いても、ロランは一瞬彼女が何を自分に命じたのか理解出来なかった。ほんの少し時間が経ってから、ようやくこの美少女が自分の足の指を彼に舐めろと命じたことに気が付いたが、彼は全身が硬直していて、咄嗟にどういった反応をすれば良いか分からなかった。
彼女は、目の前で硬直しているだけの美少年に対して、もう一度強い口調で命じた。
「わたしの足の指をお舐めなさいって言っているのよ?」
その言葉を聞いて、ロランは俯いたまま上目遣いに自分が従わなければならない声の主の表情を窺った。
キエルは、ハイム家の長女であり、社交界では衛星のように男たちを付き従えていることを実感させる、ある種の威厳のようなものをもった表情で彼を見据えていた。
「・・・は・・・はい・・・」
ロランはやっとそれだけ答えると、ソファーから立ち上がって、目の前で脚を組んで座っているキエルの前に跪いた。そして、その姿勢のまま、ゆっくりと極度の緊張から震える右手を差し出して麗しいふくらはぎに手を伸ばすと、そっと捧げ持った。その手触りは、まるで練り絹を連想させる程に素晴らしいものだった。
「うふふ・・・。さあ、お舐めなさい」
彼女にそう命ぜられ、彼は意を決すると、唇を開いてゆっくりとキエルの足指に顔を近づけていった。
美少女の足の指は、丁寧に爪の手入れがされていて、何の異臭もせずに、汚らしさなど微塵も感じられなかった。まるで指の一本一本が白いキャンディーのようにさえ見える。それが彼女の肌の匂いなのだろうか?仄かに柑橘系の香水のような甘酸っぱい芳香が漂ってきた。
ロランは魅入られたように口を開くと、まずは賞賛するように捧げ持った足先の親指を舐め上げた。
ちろっ・・・。
一口舐めると、ほとんど無味無臭だが、僅かな汗のしょっぱさが感じられた。
ここまで来れば、後は少女の思い通りだった。少年は、幾分躊躇しなからも、震える舌先を伸ばして彼女の足指を舐め始めた。
ロランは、年上の美少女の足の指を舐めるという行為の異常さに、倒錯した悦びさえ感じてその行為を行っていた。性的な刺激を直接受けた訳ではないのに、パンツの中では肉棒がこれ以上ない程にそそり立っていた。
興奮しているのは、キエルもまた一緒だった。足の指という性感帯でも何でもない部分を舐めさせているというのに、例えるならぞくぞく・・・と寒気に近い感覚が背筋を走って、躯の芯を疼かせた。
「ん・・・。いいわ、ロラン。もっとお舐めなさい・・・」
その言葉を聞くと、彼はお許しがでたことに歓喜さえしながら舌先で彼女の足の指を舐め続けた。
ぴちゃ、ぺちょ・・・。
ゆっくりと、あくまでもゆっくりとした舌使いではあったが、それは確実にキエルの内部の情欲の灯火をかき立てていった。そして、それはロランも一緒だった。彼は極度の興奮から、パンツの中では肉竿が窮屈な程勃起しきっていたし、亀頭の先端の鈴割れからは早くも先走りの粘液が滲み出していた。
「ふふ・・・。次は指をお口に含んでおしゃぶりなさい」
彼は命じられた通りに彼女の足指を一本ずつ口に含むと、丹念に丹念に舐めしゃぶっていった。
ちゅっ、ちゅばっ・・・。
少年の何の技巧も凝らしていない舌使いではあったが、それはキエルに、確実に『この美少年を支配している』という充足感をもたらしてくれ、彼女の隠れた欲求を満足させてくれた。
親指から始まって、小指まで舐めしゃぶらせると、キエルは言った。
「もう良いわ、ロラン。上手に舐められたご褒美に、わたしの裸を見せてあげる・・・」
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(updete 2001/05/30)