「どうしたの、こんな所に呼び出したりして...」
「あ、いや...ちょっと、話したい事が...あるんだ...」

人気の無い校舎裏で少年と少女が話をしている。
二人の会話から察すると、どうやら少年の方が少女を呼び出したようだ。
少年は緊張しているのか心臓が高鳴っている。
しかも目の前に居る少女に聞こえそうなくらいにだ。
用があるというのに何も話さない少年を不審に思ったのか少女は再び尋ねる。

「どうかしたの?
 なんだか変よ、今の−−−」
「いや、ち、違うんだ!
 そ、その用っていうのは...」

少年の大声で突然阻まれ、少女は驚く。
そして明らかにいつもと違う事に気付いた。

「ど、どうしたの、いきなり大声出すなんて...」
「ゴメン...」

悪い事をしてしまったと思い、少年はとっさに謝った。
少女はあまりにも違う少年を目の前にして、キョトンとしたまま固まってしまう。

普段の少年はいつも優しくそして笑っていた。
だが今の少年はそれとは違い、落ち付きが無くそわそわしている。
少年がいつもと違う理由−−− それはこれから少女に伝える言葉を口にするのが怖い為であった。
その言葉はヘタをすれば全てを失ってしまう破滅の言葉−−−
だがそれと同時に少年の少女に対する素直な気持ちを表す神聖な言葉−−−
だから少年はいつもと違ったのだ。

「あ、あの...オレは...」
「.........」

しかし少年は勇気を出して言葉を繋ぐ。
少年の態度からある結論に達し、少女もまた緊張してきた。
二人の顔は赤く染まり、お互いの心臓は早鐘を打つ。

少年の口からは中々言葉が出せない。
少女はその創り出された 『間』 に押し潰されそうになる。
しかし少女は黙って少年の言葉を待つ。
聞かなければならない...いや、少女はその言葉を聞きたかったのかもしれない。
そして少年はありったけの勇気を振り絞ってその言葉を少女に告げた。

「...キミの事が...好きです。」

言葉として考えてみれば、短く飾りっ気の無いモノだ。
しかし口にした少年にとっては、とても勇気が要る言葉。
その言葉を聞いた少女ににとっては、待ちわびた言葉だった。

少年は顔を上げて少女を見る。
すると少女は恥ずかしそうに俯いてしまった。
しかし少女は少年の気持ちに答えなければならない。
立場は逆になり、今度は少女が少年に自分の気持ちを伝えねばならないのだ。
少年はその言葉を黙って待つ。

二人には永遠とも言える数秒−−−
その永い時を乗り越え、少女は口を開く。
そして少年はその言葉に集中する。

「−−−−−」

恥ずかしいのか返事は小さな声で告げられ、少年は上手く聞き取れなかった。
その事を察し、今一度口にしなければならないと思い、少女は顔を更に赤くする。

「わ、私も...貴方の事が...好き...です...」

少女のその言葉を耳にした途端に少年の心は軽くなり、いつも以上の笑顔で少女を見た。
すると少女は赤くなりながらも少年に向かって微笑んでいた。

言葉とは互いの気持ちを伝達する為の手段。
それはとても重みがあり神聖なモノ。
今の二人にとってまさしくその通りだった。

「ホ、ホントに!?」
「.........」

少年の問いに黙って頷く少女。
二人の気持ちは通じ合ったのだ。
少年は嬉しさのあまり少女を抱き寄せる。
少女は最初は驚いたが、少年のされるがままだった。

愛しい人を抱く−−−
愛しい人に抱かれる−−−
それはとても幸せな事−−−

少年はもう一度自分の気持ちを少女に伝えようとした。
しかし−−−

「好きです、他の誰よりも君の事が好きです。
 ...あれ? ...え〜と...」

肝心の名前が出てこなかった。
少女の顔は少年の胸の中に顔を埋めているので、少年には見えない。
ならばと思い、少女の顔を記憶の中から呼び起こそうと頭をフル回転させる。
それでも少女が誰なのかが思い出せなかった。

故に少年は少女の顔を見る為に少女を自分の胸から解放させる。
そして少年が見たものは見慣れた少女の顔だった。
しかもなんだか目が潤んでいる。

「なんだ、アユか。」

その言葉を聞いた途端にアユと呼ばれた少女の眉がつり上がる。

「何しやがるんだ、このバカ!!」

言葉と同時に拳を繰り出し、少年の体は吹っ飛ぶ。
アユは自分の体を抱きしめるように自分の手で守っている。
しかもかなり怒っているようだ。
その証拠に顔を真っ赤にして少年に睨みをきかせている。
一気に目が覚め、少年は怒鳴り散らした。

「イテテテテ、ったく何すんだよアユ!  殴って起こすなんて、それでも女か?!」

少年にとってはなんでも無い一言だったのだが少女の導火線に火を着けた。
アユと呼ばれた少女の頭から 「ブチッ」 という効果音が発生する。
いわゆる一つの 「キレた」 という事だ。

「うるさい、変態タツヤ!
 どーせ私は乱暴者よ!」
ドカ!!

今度は蹴りが飛んできた。
タツヤと呼ばれた少年はその蹴りをモロに食らい、再び夢の国の住人となる。
その夢の国へと旅立つ瞬間、夢の中に出てきた少女の事を思い出す。

(それにしても...あの女の子は誰だったんだ?)





天を突くような大声と派手な衝撃音が2階から1階に響き渡る。
2階には子供部屋があり、そこにはこの家の一人息子であるタツヤの部屋がある。
1階のリビングではこの家の主は新聞を読みながら、キッチンではその妻が朝食の支度をしながら、2階の喧騒をいつもの様に聞く。

「いっつも元気ねぇ、アユちゃんは。
 ...それに引き換えタツヤは...」
「ああ、そうだな。
 それよりも今日のはいつもより酷くなかったか?」

タツヤの父親は口にした言葉で一応心配しているのだが、2階の二人の事に口を出すほど甘くはない。
その事には母親も同意見のようで、何事も無かったかのように朝食の準備を続ける。
すると2階からドタドタと足を鳴らしながらアユが一人で降りてきた。
一人で−−− その異変に気付きタツヤの母親がアユに尋ねる。

「あらアユちゃん、タツヤはどうしたの?」
「タ、タツヤですか...」

タツヤという名前を聞き、アユの顔は瞬時に赤くなる。
どうやらアユは先程の事を思い出したようだ。
なにしろ寝ぼけていたとは言え、いきなりタツヤに抱き着かれてしまったのだから無理も無い。
あんな事をされては恥ずかしくてたまらなく、その事を悟られないようにしてアユは急いでその場を取り繕う事にした。

「あ...ちょっとアタシ、今朝は...当番。
 そうです、当番があるんでした。
 だからタツヤには先に行くって言っといて下さい!」

それだけ告げるとアユは急いで学校に向かった。
いつもとちょっと違う光景を目の当たりにして、タツヤの母親の頭に豆電球が光る。
所詮子供の浅知恵である。 人生経験豊富な大人に勝てる筈も無い。

「全く、タツヤったらしょうがない子ね。」

パタパタとスリッパを忙しく鳴らして2階に上がって行く。
気の所為か楽しんでいるようにも見える所はさすが母親といった所だろう。
こうしてタツヤの家の朝の一時が過ぎて行く。
時計の針がそろそろヤバイ時間を指している所はお約束であった...











同窓会
〜 Yesterday Once More 〜 

思い出にかわるまで


第一幕の表 転校生に一目惚れ











「このペースだったらなんとか間に合うかな。」

オレの名前は久保タツヤって言うんだ。
それにしても今朝は焦ったな。
なにしろ朝気付いた時にはかなりヤバイ時間だったから、急いで家を後にして学校へと向かっている訳だ。
ひょっとしたら今までの最短記録が作れるかな?
...アユのヤツ、オレの事を置いてくとはいい度胸だぜ!

若林アユ−−−
今朝オレに殴る蹴るの暴行を加えた女の事だ。
アイツとは幼馴染みという関係にあってか、いっつもオレに絡んでくるヤツだ。
しかもただの幼馴染みとは違う。
え、なんでかって?
そりゃ〜アイツン家とはお隣さん同士であり、オレとアユの親が親友という事も手伝って、産まれた時からの付き合いなんだ。
...この事実を何度呪った事か。
でもって今朝の事はアイツがオレの事を起こしにきたんだ。
たまにヒスを起こすらしく、今朝はちょうどその時だったんだな。
ったく、アユのヤツ〜〜〜〜

オレは今朝の事を思い出して自然に拳に力が入った。
その時、オレは右手に何か持っている事を思い出した。
小さなバッグ−−− 言っておくがオレのじゃない。
じゃあ誰のかって言うと...アユのだ。

ったく何考えてんだアイツは。
勝手にウチに入ってきてオレを蹴飛ばして挙句の果てに忘れ物までしてくなんて...オレの身にもなれっての。
それから母さんも母さんだ、何がアナタの手で渡しなさいだぁ。
オレはアイツの小間使いじゃないっての!
...なんだかだんだん腹が立ってきたな...っとあと少しで学校だ。

オレは一先ず思い直してラストスパートを掛ける事にした。
そして週番が校門を閉める寸前でなんとか滑り込む事に成功した。
学校内に入っちまえばこっちのモン、オレは走るのをやめて歩いて校舎へと向かう事にした。





「あれ? 見慣れない制服のコだな...」

オレは職員室の窓越しに一人の女の子を発見した。
さっきの言葉通り、この辺じゃあ見掛けない制服を着たコだった。
けど何故かオレはそのコのことが気になった。 いや、どこかで会っているような気がした。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

ゲ、ヤッベーな、早く教室に行かないと出欠確認に遅れてしまう。
オレは急いで教室に向かう事にした。
だがその場から離れるのは妙に後ろ髪を引かれるような気がした。
しかし未練を感じながらも教室の方へと足を向けた。










☆★☆★☆











ザワザワ

オレのクラスからはまだ話し声が聞こえてきている。
って事は、先生はまだ来ていないって事だな。 ラッキー。

ガラガラ
「オハヨー。」

教室に入るなりみんなに挨拶をする。
ま、これは常識ってヤツかな。
辺りを見回すと...あ、居た居た。
窓際の所で話をしているアユを見付け、アイツが忘れたバッグを渡しに行く事にした。

「ほらよ、忘れ物だぜ。」
「タ、タツヤ...」

目の前にバックを置くとアユはなんか吃りながら答えた。
その事に少し変だとは思いながらも、オレは普段通りに話す。

「忘れ物なんかすんじゃねーよ。
 届けるオレの身にもなってくれ。」
「ゴ、ゴメン。」

ア、アユが謝っただぁ?

妙に素直に謝られたのでオレは戸惑った。
なにしろコイツが謝る事なんて滅多に無い事だ。
しかもオレの事を見ようとはしない...どうなってるんだ?

「ま、まあこれからは気を付けてくれよ。」

違和感を覚えながらも、直に来るであろう担任の為に席に戻る事にした。
時間的にはそろそろ来てもいい頃なんだが今日はまだ来ない...どうしたんだ?
その時、職員室に居た制服の違う女の子の事を思い出した。

そういえばあの子の居た場所って...
そう、確かウチの担任の席だったな。
...って事はひょっとして...

「ヨウ、タツヤ。
 今日はギリギリだったな。」
「ああ、ヨウスケか。
 昨日は遅くまで起きてたからな...ふぁ。」

コイツは滝口ヨウスケ。 オレの親友だ。
外見は軽く見えるけど、中身はもっと軽い。
ヨウスケの話す内容は殆どが女の子に関する事。
そこからコイツがどれほどナンパなヤツかが分かる。
恐らくこれから話す事もそうだろうな。

「なにシケたツラしてんだよ。
 それよりも聞いたか、オマエは?」
「聞くって...何がだ?
 また女の子の事か。」

いつも通りに返すオレを見てヨウスケはニヤリと笑う。
...やっぱりそうなのか。
オレは呆れながらもヨウスケの話を聞く事にした。
しかし意外な事にオレの予想を上回る答えが返ってきた。

「チッチッチ、ちょっと違うな。」
「な、なにが違うんだ?」

人差し指をオレの目の前のに突き出して左右に振る。

「聞いて驚け。
 なんと転校生が今日、ウチのクラスにくるんだ。」
「そ、それって前から話があった例の転校生か?!」
「その通り。
 しかもかなり可愛い女の子だそうだ。
 クゥ〜〜〜、早く逢ってみたいなぁ。」

ヨウスケがそこまで話してオレはやっと気が付いた。
今朝、職員室で見た女の子。 どうやら彼女がウチのクラスに来る転校生だ。

ガラガラ

オレが今朝見た転校生の事を考えていると、担任の先生が教室に入ってきた。
今まで思い思いに散らばっていたクラスメイト達は、急いで自分の席に戻って行く。
そして全員が席に着いた事を確認すると、朝の挨拶もそこそこにして話す。

「あ〜〜〜、前から話していた転校生を紹介する。」
ザワッ

転校生、その言葉を聞いてクラス全体が騒ぎ出す。
ヨウスケの方に視線を送ると満面な笑みを浮かべてる...ったくしょうがないヤツだな。
とは言うものの、オレもその転校生の事が気になっていた。
女の子だから...その事もあるんけど、今朝見た後ろ姿が何故か気になっていたのだ。

「入りなさい。」

先生のその言葉を合図に全員がドアの所に注目する。
そのドアが開かれ、一人の女の子が入ってきた。

今朝見た女の子−−−−−
後ろ姿しか見ていなかったが、それは一目で分かった。
その女の子は緊張しているのか顔を上げる事無く先生の横で止まった。
俯いているのでどんなコなのかが分からない。
けどそのコが制服の裾を強く握っている所から、かなり緊張している事が分かる。

「今日から新しくクラスメイトになる−−−−−」

先生が紹介を始めると女の子は恥ずかしそうに顔を上げた。
その顔を見た時、オレの思考は止まる。
何処かで見た女の子−−−

「小早川ミズホです。」

何処かで聞いたその声−−−

「−−−−−よろしくお願いします。」

それは夢の中で逢った女の子だった。
夢の中で告白した女の子−−− その彼女が今、目の前に居る。

オレは転校生−−− 小早川ミズホと名乗る女の子から目が離せなかった。



つづく