転校生の小早川ミズホさんがきてから、早いモノでもう二週間が過ぎていた。
どうやらすっかりこのクラスにも慣れたようで、友達とおしゃべりを楽しんでいる。
けどその友達ってのがアユだからなぁ...なんでも転校初日の登校時にお世話になったとか。 体が弱いって話だ。
その一件があって今では一番の友達って訳。
でもってシズカとミドリも一緒になって親しくなったってところだな。
シズカってのは緒方シズカといって男言葉で手も早い、一見すると怖いヤツだと思われがちだが、話してみると結構サバサバした性格で良いヤツなんだ。
ミドリは秋山ミドリといって噂話には目が無くて、ありとあらゆる所に情報網を張り巡らせているんだ。 シズカとはちょっと違う意味で怖い存在だね。
ん? アユはどうしたって? アイツはオレの幼馴染。 以上。

ま、そんなトコで小早川さんはいつもその3人と居るわけ。
オレはこの3人と結構話をするから、自然に小早川さんとも話す機会が出来て感謝している。
なにしろこの3人の牙城は難攻不落らしい。 小早川さん目当てで行った男共はアユに怯え、シズカに睨まれ、ミドリに踊らされ...って具合に返り討ちにあった。
...けど危険を犯してでもってヤツも居るようで、未だアプローチは続いているというわけだ。
オレもその内の一人なんだけど...はぁ、なんか勇気が出ないんだよね。
それとオレの悪友であるヨウスケも...あ、さっそく話し掛けている。
ホント羨ましいよ、アイツが。











同窓会
〜 Yesterday Once More 〜

思い出にかわるまで


第二幕の表 やってきた新入部員











パコーン
ボールを打つ音が響く。
ちなみにここはオレの所属する部でテニス部という。 ちなみに日本語では庭球だそうな。 昔の人も良く考えたモノである。
一年生部員が5名、二年生部員が9名、三年生部員が7名とメジャーなスポーツの割には他の部に比べると小数な部である。
まあ、その中に幽霊部員が何人か居るけど...そういえば以前に先輩から聞いたけど、幽霊部員は1人居たら10人は居ると思えって話だ。
まったくゴキブリじゃないんだけどな。
そんな訳でオレ達の学年、二年にも幽霊部員は存在する。 名前はなんだったっけかな?
あ、そうそう、確か図書委員の仕事をしているコで、狩野マコトって女の子がいたな。
あと他にも居たんだけど...あ〜 喉まで出掛かってるんだけどな〜 くらがけ...そうだ、鞍掛フジオだ。
ようやく思い出したよ、この二人がウチの幽霊部員なんだ。 ...となると先輩の話が正しかったら2×10で20人?!
幽霊部員は20人になるのか? ホントかよ、先輩。

「タツヤー!」

お、あれはリュウスケじゃないか。
オレの事を呼んだのは白石リュウスケ。 コイツは根っからのスポーツマンで、脳味噌まで筋肉で出来てると噂が立つほどのヤツなんだ。
スポーツマンってトコは本当で、とにかくコイツは運動神経抜群。 それに外見もスポーツマンで、いつも日に焼けた色をしていて、髪は邪魔にならないように短く切ってある。
そのリュウスケが呼んでいるって事は、恐らくテニスの相手をしてくれってトコだろうな。 ちょうどコートも空いているし。

「どうした、リュウスケ。
 相手を探してんのか?」
「さっすがタツヤ、良い勘してるな。
 やろうぜ。」

なにしろ今のコイツとやり合えるのはオレだけなんだ。 男子限定だけど...え? 女子はどうなんだって?
ぅ...女子にはシズカとアユがいるんだ。 以上のようにオレ達の力関係は以下のようになる。

リュウスケ > オレ = アユ = シズカ

言っとくけどな、オレが下手なんじゃないんだぞ! アユとシズカが上手すぎるんだ!
...なのにオレと同列なのは、体力という事だ。 これまで負けてたら泣くぞ、オレは!
そんでその下にヨウスケ、ススム、ミドリ...あとは幽霊部員の二人と続く。
そういえばススムの紹介はまだだったな。
遠藤ススム、ススムは桜三中の開校以来、類を見ない天災...もとい天才だ。
テストでも常に一位をキープしてるし、全国模試でも一位ときてるから凄まじい。
このテニス部に入部したのは、なんでも文武両道派の両親に運動音痴を克服させる為だそうだ。
ススムにしてみればこの時間はとても憂鬱な時間なんだろうな。

「よーし、今日の練習はここまで!」

おっと部長のお出ましだ。
う〜〜〜〜ん、やっぱり集中してやると時間も早く過ぎるもんだな。
リュウスケはまだまだいけそうだ...やっぱりアイツには勝てんな。
ま、そんな事より後片付けだ。










☆★☆★☆











「「じゃあな、タツヤ。」」
「じゃあね、ヨウスケ、リュウスケ。」

部活も終わり、辺りは夕暮れ。
オレとヨウスケとリュウスケは帰り道にラーメンを食って帰った。
言い出したのはリュウスケ。 コイツの胃袋は底無しなんで、良くこうしてどっかに寄って帰るんだ。
それでここからはオレの帰り道が違う為、ここで別れた。
川沿いに行かないとオレの家には辿り着けない。 ちなみにアユの家は隣なんでたまに一緒に帰るんだけどね。
アイツと居れば退屈しないんだけど、時と場合によっては鬱陶しくもなる困ったヤツだ。
なにしろオレの全てを知っているといっても過言じゃないからな...トホホ。
などと考えながら川沿いを一人で歩く。
夕暮れなんで辺りをオレンジ色に染めている。 ムードは満点だよな、良く見ると恋人と来てる人も居るし。
ああ...ここを小早川さんと一緒に歩ける仲になりたい...なんといっても一目惚れだったからな。

...ミーミー...
「? 何か聞こえたような...」

風に乗って何かの鳴き声がした。
立ち止まって耳を澄ませると...

...ミーミー...
「猫の鳴き声だ。
 でもどこから聞こえるんだ?」

次なる謎が発生して辺りを見渡す。
足元...河川敷...etc...居ないぞ、まさか...川の中?

「あーーーーー、居たぁ!!」

まさかと思い、川を見るとそこには子猫が箱の中に入れられ、流れていた。
なんてありがちな絵なんだ...しかも子猫は必死に助けを求めて鳴いている。
くそ! 一体誰なんだよ、あんな事するのは!
辺りを見てもそれらしいヤツは居ない。 それどころか誰も助けようとはしない、どうするオレ!?
考えている間にも子猫は流され、鳴き声はどんどん小さくなっていく...

「ええい、ほっとけるか!」
ドッパァーン!.........



.........「バッッックション!...ズズ。」

やっとの思いで子猫を助けた。
夏にはまだ早く、川の水はとても冷たかった(涙)
でもまあ、助ける事が出来たから良しとしとくか...ハックション!
取り敢えず上だけでも着替えよう。 えーとテニスウェアでいいな。

「ハイ。」

突然声を掛けられ、目の前に真っ白なハンカチが差し出される。
小さい手だな...誰だ?
誰なのか確認しようとして顔を上げると...

「こ、こ、こ、こ、小早川さん!?」

そこには優しく微笑んでいる小早川さんが居た。
大きな声を出したので抱いている子猫がビクッと体を震わせる。
でもそんな事より今は目の前にいる小早川さんが...ハックション!

「久保君、大丈夫?」
「あ、大丈夫大丈夫。」
「でもビックリしたよ、いきなり川に飛び込むんだから。」

そう言って小早川さんは濡れた頬をハンカチで拭いてくれた。

「見ていたの?」
「うん、最初から最後まで。」
「そ、そうなんだ...」

とにかく恥ずかしかった。
それが川に飛び込んだところを見られたのか、それともこんなに近くに小早川さんが居る事なのか...
頭がボーっとして思考が鈍くなる。

ミーミー
「ああ、ゴメンゴメン、オマエを忘れるトコだったな。」
ミー

自己主張のでかい子猫だった。
まあ子猫だから構って欲しいというところもあるのだろう。
それともお礼を言ってるのかな?

「良かったね、キミ。 久保君に助けてもらって。」
ミー

気が付くと小早川さんは肩と肩とが触れ合うくらい、すぐ近くに居た。
優しい顔で子猫をあやす。
まさかこんな近くで、夢にまで見たその笑顔を見る事が出来るなんて...

「ねえ、久保君。 この子を抱かせてくれるかな?」
「あ、ああ、いいよ。」

子猫を抱いて微笑むその顔はどこまでも優しくて惹かれていった。
小早川さんが話し掛ける度に子猫は返事をして小早川さんは更に微笑む。
オレはしばし時を忘れてその笑顔を見ていたが、小早川さんは突然暗い表情になってしまった。

「この子、捨てられたのかな...」

子猫を抱いた彼女のその小さな手に力が篭められる。
その言葉にオレは何の返事も持たなかった。
辺りに嫌な空気が流れる。
多分オレと小早川さんは暗く沈んだ顔になっているだろうな...
だが突然子猫が暴れ出した。

ミーミー
「キャッ、どうしたの?」
「わ、わ...」

子猫は小早川さんの手を離れてオレの足元にやってきた。
その小さな体をすり寄せてくるのでオレはその子猫を抱きかかえた。

「どうしたんだ、コイツ?」
「久保君に懐いちゃったみたいね。
 そうでしょ、キミ。」
ミー

子猫が元気良く返事をする。 どうやらそうらしいな...むむ。
抱きかかえた子猫を見てオレは気付く。

「コイツ、オスだ。」

どこを見たのかは一目瞭然。
小早川さんもその事に気付き、顔を赤くして俯く。
ああ、オレってヤツは...

アホー

赤く染まった空にカラスが鳴く。

「「プッ...ハハハハハハ。」」

そのタイミングが絶妙だった為、オレと小早川さんは互いの顔を見合わせて思いっきり笑った。 子猫はキョトンとした顔だ。
オレはその後、しばらく小早川さんと話して途中まで彼女を送り、この楽しい一時を作ってくれた子猫に感謝する。
もちろんそのお礼として子猫は責任を持ってオレが世話をする事にした。
でも良い事はそんなに続かない。 オレは翌日カゼで休む事になったとさ。










☆★☆★☆











「39度5分...完全にカゼね。」
ミーミー

母さんが呆れた顔で体温計を見ている。
オレだって好きでカゼ引いたんじゃない!...と声を大にして言いたいが、出てくるのはセキだけだった。

ゲホゲホゲホ!
「ほら、無理しないの、タツヤ。
 今日は大人しく寝ていなさい、いいわね。」
ミー
「もん太もそう言ってるんだからね。」

大人しくって言ってもこの状況では何もできないぞ。
昨日の子猫は心配そうにオレのところに寄ってくる。
ちょっとまて、今もん太って...それってひょっとして...

「そうそう、この子の名前、決めたから。
 ね、もん太。」
ミー

母さんがもん太と言うと子猫が返事をする。
...母さんセンス悪すぎ...
とにもかくにも、新しい家族のもん太が出来た。

ピンポーン ガチャ
「あら、アユちゃんがきたみたいね。」
トタトタトタトタ...

聞き慣れた足音がする。 これだけで誰だか分かってしまうのが恨めしい...

ガチャ
「タツヤー、起きてる?
 ...あれれ、どうしたんですか、おばさん。」
「おはよう、アユちゃん。」
ミー

母さんやアユにしてみればいつも通りなのだろうが、アユが朝にオレの部屋に入るときの事をオレは初めて知った。
寝てて気付かなかったが、コイツには遠慮というモノは無いようだな。
男の部屋に何の抵抗もせずに入ってくるなんて...って言ってもガキの頃からこの調子だモンな。
それに唯一コイツがオレの部屋に入ってくる女なんだ。

「カゼ...ですか。」
「そうなのよ...ね、もん太。」
ミー
「も、もん太...ですか、その猫の名前...」
「ええ、そうよ。 かわいいでしょ。」
ミー

さすがのアユも呆れているようだ。 分かるぞ、その気持ち。



そんな訳でアユは学校へと向かった。
結局オレはしゃべる事も出来ないので欠席ということだ。
う〜〜〜〜ん、楽あれば苦あり、良い事があれば悪い事もある...
昨日は小早川さんの笑顔が見れたからしょうがないかな。
それからオレは深い深い眠りについたとさ。









☆★☆★☆











カチャ
ドアが開く音がした。 けど小さい。
襲い掛かる睡魔のお陰でオレは未だ意識ははっきりとせず、そのまま眠りにつく。
ミ〜 チリン...
鈴の音? 多分母さんがもん太に首輪でもつけたんだろう。

「良かったねキミ、久保君の家に住むことができて。」
ミーミー チリン

ん? 今の声は誰だ??
女の子? しかしアユじゃないよな...この部屋に入ってくる女は母さんとアユぐらいしか思いつかない...誰なんだ?
ん、良い匂い...
部屋の中だというのにふわりと風が吹いて良い香りを運んできた。
...これってシャンプーの匂いかな?

「寝ちゃってるのか、久保君。」

え!? 今の声って、まさか...
オレの耳が瞬時に声紋分析を行う。 待つ事50ミリ秒...小早川さん!?!
記憶との照合が完了すると同時にオレは覚醒し、最初に見たモノは...

「「.........」」

小早川さんの顔だった。
しかも小早川さんとの距離は数センチ、キスまであと少しってトコだ。
ふわりと小早川さんのキレイで長い髪がオレの頬に掛かる。
しばし固まる事、10数秒...

「「ゴメン(なさい)!!」」

慌ててお互いに背を向ける。
心臓が早鐘を打ったかのように、ドキドキドキドキドキドキと普段の速さの80%増(当社比)だ。
な、な、な、な、なんで小早川さんがオレの部屋に?
最早まともな思考は出来ていない。 小早川さんもオレと同じなのかな...と考えていると、もん太はあくびをして後ろ足で耳の辺りを掻いている。
気まずい空気がいつまでも取れないと思ったその時、なんと母さんが乱入してきた。 な、なんでこんな時にぃ〜!

「あら二人ともどうしちゃったの、背中を向かい合わせちゃって♪」
「か、母さん! なに言って...ゲホゲホゲホ!」
「久保君、大丈夫?」

小早川さんは心配そうにオレの近くに寄り添う。
ああ、お願いだからそんな顔をしないでくれ。 やっぱり女の子には笑っていて欲しいから...そうそう、ちょうど母さんの横に居るアユみたいにな。
...え? ア、アユだって!?
落ち着いて良く見ると、確かにそこにはアユが居た。
笑っているようだけど...目が笑っていないぃぃぃぃ...や、やばい! マジで怒ってるぞアイツ。

「ア、アユ...お見舞いに来てくれたのか...な?」
「うん、そうだよ、タ・ツ・ヤ。」

アユは平静を保っているようだが、内心はハラワタが煮えくり返っているに間違い無い。
その時のオレにはきっと縦線が何本も走っていただろう...
気が付くと母さんは小早川さんともん太を連れて安全なところに避難していた。 薄情モノ〜〜〜

「良かったわね、タツヤ! ミズホがお見舞いに来てくれて!!」
ドガ!
「グフ!」

アユが持ってきた氷枕が顔面にヒットする。
氷枕を持ってきたのはありがたいんだけど、使い方に問題があるぞ...
そのまま意識が薄れていく片隅で、アユがドスドスと足を踏みしめて部屋から出ていったのをかろうじて確認できた。
あ、あんにゃろ〜、一体何しに来たんだよ...ガク

オレが次に目を覚ましたのは翌日の朝だった。
しかも時間ギリギリというおまけもついていた...アユのバッキャローーー










☆★☆★☆











オレは走った、とにかく走った。
多分〆切りに追われたマンガ家ってのはこんな心境だろう、と思うくらいにオレは時間に追われていた。
坂道だろうが、キツいコーナーだろうが、犬に吼えられようが、とにかく走りつづけた。
校門の週番を相手に戦い、目にも止まらぬ早さで上履きを履き、そして教室のドアを開けたちょうどその時にオレの名前が呼ばれてなんとかセーフとなった。
...ったく病み上がりにこんな事をするとは思わなかったぜ。

「昨日は休みで今日はギリギリか。
 ひょっとしてカミさんに愛想つかされたのか?」
「ヨウスケ、オレとアユはそんなんじゃないって!」

ハァハァハァ...まだ息が上がっている。
こうしていつも通りの一日が始まろうとしていた...がしかし今日は違った。

「久保君、今日は大丈夫なの?」
「もう大丈夫だよ。
 それより昨日はゴメンね、あんなになっちゃって。」

昨日、そう昨日だ。
結局あれからオレは気絶してしまい、小早川さんとは何も話せなかったんだ。
母さんの話しだと、しばらくの間はオレの事を看ていてくれたそうだ。 優しいね、小早川さん。
で、いつまで経っても起きなかったんで母さんが送っていったんだ。 もったいない事をしたよ、ホント。
ギロリとアユの方を睨むがアユは生意気にも舌を出してアカンベーで返す。
全くアイツも小早川さんを見習って欲しいゼ、と切に願うよ。 無理とは分かっているけどね。

こうしていつもとは少し違った一日が始まる。
なんとなくだけど、小早川さんとの距離が縮まったのかな?
そう思うだけで、オレの心は軽くなり、いつも見ている筈の風景が新鮮に見えてくる。
しかし今日はそれで終わりではなかった。
放課後の部活の時間に、嬉しい事件が起こったのだ。

「みんな集まれ!」

顧問の先生が全部員を集める。
何を話すのかな、と考え先生に視線を送らせるとその横には見知った女の子が居た。
恥ずかしそうにテニスウェアの裾を握っているが、オレの方を見ていた。

「季節外れだが新入部員を紹介する。」

先生が彼女を促す。

「2年3組の小早川ミズホです。
 テニスをするのは初めてですが、よろしくお願いします。」

その時、いつもと違う風を感じた気がした。
その風は小早川さんの長い髪を撫で、その甘い香りを運んでくる。
一匹の子猫のお陰で彼女との距離が一気に縮まった。

夢の中で出逢った想い人が小早川さんと今、はっきりと重なったのだ。


つづく