「...でねぇ、あのお店がおいしいのよ。」

朝の一時に親しい友人と思い思いに話す。
ミズホの席で話すミドリを見つけ、私もそちらの方へと足を運んだ。

「オハヨー、ミズホ、ミドリ。」
「おはよう、アユちゃん。」
「オハヨー、アユ。」

ミズホは2週間前に転校してきたんだ。
でもビックリしたよ、まさか登校中に助けた女の子がミズホだったなんて。
聞いた話によると、生まれつき体が弱いそうだ。 前住んでいた北海道には療養という事だったらしい。
で、体の調子も良くなってきたのでこちらの方に戻ってきたんだって。
でも時々めまいがするようでまだまだ油断は出来ないんだ。 ...可哀想だよね、だから私はミズホを守ってあげようと決めたんだ。
ミドリはクラスに必ず一人は居るという、噂好きなコなんだ。
独自のネットワークを持っていて、ありとあらゆる情報を引き出せる。 その逆に情報を流すという事も出来るんだってさ。
その情報が正確ならいいんだけど...いかんせん、8割がたはデマだそうだ。
しかも口が達者なせいか他人を言い包める能力に長けている。 このコを敵に回すと怖いわね。
でも結構一途なところもあるんだ。

これでいつものメンバーまであと一人。 で、その残りはシズカというわけ。
シズカは周りからは怖いと言われているけど、実はとても優しいんだ。
面倒見も良い事から下級生にも人気がある。 でも何故か女の子だけ、しかも妙な視線を送ってるコも居るんだよね。

「オハヨー。」

おっと噂をすればなんとやら、シズカが教室に入ってきた。
シズカはカバンを置くなり私達の方へとやってくる。
で、挨拶を交わしていつも通りの一日が始まるという訳。











同窓会
〜 Yesterday Once More 〜

思い出にかわるまで


第二幕の裏 ライバル登場











パコーン
ここはテニスコートで、私はテニス部に所属している。 ちなみにシズカとミドリもそうなんだ。
シズカの実力はかなりのモノで、大会に出ても必ず上位の方に食い込む。
ミドリは...まあ楽しくやっているからいいか。
同じ学年で女の子はあと一人居るんだけど、図書委員の仕事が忙しくてあんまり来れないんだって。
図書室は、こっから見えるんだ。 ほら、2階の右端の部屋。

「あれ?」

2階を見上げる途中、タツヤの姿が見えた。
タツヤは一心不乱に素振りの練習をしている。
それは普段見ているアイツじゃなかった。 とても真剣な顔をして、流れ落ちる汗が何故だか光って見える。
しばしの間、私はタツヤのその姿に見惚れていた。
13年間ずっと一緒だったのに、タツヤってこんな顔もするんだ...

タツヤとは産まれた時からの仲だった。
家が隣同士で同時期に産まれたものだから、わたし達の親は 「一緒に遊ばせておけば面倒無い」 って考えがあったらしい。
それ以来、タツヤとはずっと一緒だった。 幼稚園、小学校、中学校と...
アイツってばいつもボーっとしてて、見ていて危なっかしくて、だから私が傍に居なきゃ...そう思っていた。
でも今のタツヤは私の知らないタツヤだった。 そして二週間前、ミズホを初めて見たときのアイツの顔も私は知らない。

「よーし、今日の練習はここまで!」

考えが暗い方に流されようとした時、部長の声がした。
その後シズカやミドリと話をしたけど、何故か頭にこびり付いたモノ、私の知らないタツヤが現れはじめたという事が離れようとはしない。
...結局その日は一人で帰ることにした。



「ただいまぁ。」

私はお店の勝手口から中に入った。
いくらなんでも店先から入るような心境じゃなかった。
自分の部屋に入るなりカバンを投げてベットに寝っ転がる。
ふと窓を見ればすぐそこにタツヤの部屋が見える。 アイツの部屋とは窓を挟んで向こう側という事。
昔はその窓を行き来してお互いの部屋で遊んでいた...けど最近はそんな事してない。

「タツヤ...まだ帰ってないんだ。」

アイツの部屋はすぐそこにあるのに、何故かアイツとの距離は離れてしまったような感覚に襲われる。
枕を抱き、顔を埋める。 それでも頭に浮かんでくるモノはアイツの顔だった。
それらは全て、私がいつも見ていたアイツの顔。 ボーっとした顔や慌てた顔、そんな顔が次から次へと浮かんでくる。
頼りなくって、ほっとけないヤツ...でも好きなんだ...

「!」

い、今...私、アイツの事を...好きって...思った...
あれ? 泣いているの、私...
気が付くと枕にポタポタと涙が落ちる。
これって涙...だよね。 なんでアイツを想うと泣いちゃうのよぉ...

その時になってやっと自分の気持ちに気付いた。
私、若林アユは久保タツヤの事が好きなんだって。 幼馴染みとしてではなく、一人の女としてタツヤの事を心から好きになっていた。
そっか...だからなんだ。 だから私はいつもアイツの傍に居たんだ。
自分の本当の気持ちに気付くと何故だか心が軽くなった。
タツヤの事を想うだけで心が暖まる。 心臓がドキドキする。 なんか良い気持ち...
久しぶりに心が休まり、私はそのまま浅い眠りについた。










☆★☆★☆










「ン...あれれ、寝ちゃったのか。」

窓の外はすっかり暗くなっていた。 時計を見ると既に10時を回っている。
くぅ〜〜〜〜
時計を見た途端にお腹は自己主張をする。 やれやれ、人にはあまり聞かせたくない音ね。
私は取り敢えずお腹を満たす為にトタトタと台所の方に向かう。

「あらアユ、起きたの?」
「あ、姉ちゃん。
 お腹すいたんだけど、なんかあるかな?」

お腹に手を当てて、ゼスチャーする。
姉ちゃんはそれを見てクスリと笑った。

「ええ、アナタの晩ご飯はちゃんとあるわよ。」

良かった♪ これで飢えに苦しむ事はないや。
その事にホッとするがちょっと聞きたい事もあった。

「そういえばどうして起こしてくれなかったの?」

当然の事を聞く。
やっぱりご飯はみんなで食べた方がおいしいからね。
けど姉ちゃんは私の事をただ優しく見詰めていた。

「どしたの姉ちゃん?」
「ん? アユが幸せそうな顔で寝てたからよ。
 あんな顔で寝てたら、なんか起こすのがかわいそうに思えてね。
 なんか良い事でもあったの、アユ?」
「え、あぅ...」

まさかここでタツヤの事を言う訳にはいかない。
でも姉ちゃんの顔は笑ったままだ...私ってば正直者...
案の定、私の顔は真っ赤になっていたという。

「フフ、それよりもご飯はラップをかけてあるから。
 レンジで温めてから食べるのよ。」
「わ、分かってるよ姉ちゃん。」

なんとかしてこの場を去りたくて、早々に台所へと向かう。
しかし姉ちゃんは悪戯っぽく、かつ核心を突いてくる。

「ひょっとしてタツヤ君?」
「ネ、姉ちゃん!!」
「フフフ、冗談よ冗談♪」

姉ちゃんは逃げるようにして2階の自分の部屋に行く。
あ〜〜〜ん、姉ちゃんったらなに考えてんのよぉ! そんなに妹をからかって楽しいわけ?
...それに、じょ...冗談じゃ、ないんだからね...



その後、私は一人で晩ご飯を食べた。
一人で食べるご飯はあまりおいしくない...だけど今日は一人で良かったと思う。
何故ならば時々意味も無いのに 「ニヘラ」 と笑い、いつもの倍の時間を掛けて食べていたのだ。

そして時は流れ、朝日はいつも通りに昇る。
しかし私の心はいつも通りじゃない。
自分の本当の心−−− タツヤが好きって事に気付いたからだ。
だから今日はちょっと緊張して、呼び鈴を押そうとする指が震えている。
だが意を決して呼び鈴を押し、中に入っていく。

「やあ、おはようアユちゃん。」
「お、おはようございます、おじさん。」

他愛の無い朝の挨拶だというのに、どもってしまう。
あれ? おばさんはどうしたんだろう。
いつもだったら台所で朝食の仕度をしている筈なのに、何故か今日はそこに居なかった。
気になったので取り敢えず聞いてみた。

「あの...おばさんは?」
「ああ、タツヤの部屋だよ。」
「え?」

ウソ?! なんでおばさんが起こすの?
その事にショックを受け、しばしの間呆然としてしまった。
アイツを起こすのは私の仕事なのに...

「なんでおばさんが...」

暗く沈んだ口調で聞く。
しかしそれとは対称的におじさんは明るかった。

「そんなに心配しなくていいよ、上に行けば分かるから。」

その言葉を信じてタツヤの部屋へと向かう。
トタトタトタ...
階段を登りきり、目の前にはタツヤの部屋がある。
気持ちを落ち着かせる為に、大きく深呼吸をする。
はぁ〜〜〜〜〜...ふぅ〜〜〜〜〜...
そして覚悟を決めてドアノブに手を掛けた。
行くわよ、アユ!

ガチャ
「タツヤー、起きてる?」

アイツの部屋にはおじさんの言う通り、おばさんが居た。
タツヤはまだベットの中だ。
私は平静を保ち、なんでおばさんがタツヤの事を起こしに来たのかを聞く。

「...あれれ、どうしたんですか、おばさん。」
「おはよう、アユちゃん。」
ミー

ミーって、猫の鳴き声? なんでタツヤの部屋に?
と、とにかく今はそんな事よりも...
私は黙っておばさんの返事を待った。 しかしその返事は予想外のものだった。

「カゼ...ですか。」

なんだぁ、そうだったんだ。
...良かった...って良くないわよ! タツヤがカゼをひいたのよ!
大丈夫かな、タツヤは...どうせボーっとしてたからカゼなんかにかかっちゃったのよ。
...やっぱり私が着いていなくちゃ。

「そうなのよ...ね、もん太。」
ミー

子猫? なんでここに居るんだろ?
それにもん太ってこの子の名前なの?

「も、もん太...ですか、その猫の名前...」
「ええ、そうよ。 かわいいでしょ。」
ミー

肩がズルっと落ち、頭に縦線が入る。
お、おばさんのセンスって...そう言えばおばさんって結構ズレてるのよね。
私達が小さい頃はそれで結構泣かされたわ。
それよりもこの子よこの子、昨日までは居なかった筈なのに...
ジっと見る私を子猫はキョトンとした顔で見ている。

「この子、どうしたんですか?」
「ん? それはね...」

おばさんが説明していく。
時々タツヤの咳き込む声が聞こえて心配になったけど、全て聞き終わると改めてタツヤの優しさというのを知った。
川に流される子猫を助けて、そのお陰でカゼをひく。
助けたまでは格好良かったけど、その後がまだまだね...ま、タツヤらしいけど。
子猫のもん太は助けてくれた恩を感じてるらしく、タツヤの傍にピッタリと着いている。
とにもかくにもこんな状態では学校に行けない為、私は一人で行く事になった。
しょうがないな、帰ってきたら看病でもするかな。










☆★☆★☆











「アユ、タツヤと喧嘩でもしたの?」

教室に入って最初に聞いたのがこれだった。 ...私とタツヤってワンセットなのかな?
いつもとは違う考えが浮かんでくる。 そう、いつもだったら 「幼馴染」 という言葉で終わりにしてしまうのに今日は違っていた。
事の顛末をみんなに話すと意外にもミズホから反応が返ってきた。

「それ本当なの、アユちゃん?!」
「う、うん、そうだけど。」
「じゃあ昨日の事が...」

どこかいつものミズホじゃなかった。
すごく心配そうな顔をしてる...
でも昨日の事って...あ、そう言えばもん太を助けた時の事? でもなんでミズホが知ってるの?

「ねえねえミズホ、昨日の事ってなに?」

疑問に思ったミドリが聞く。 ナイスよ、ミドリ!
シズカもその事が気になったのかミズホの返事を待つ。

「そ、それは...」

ミズホの顔が桜色に染まる。
そのリアクションにミドリは気付き、なおも追求する。
異性の事で顔を赤くするという事は絶対になにかあったと睨んでいるようだ。
ミドリが冷やかし混じりに質問をし、ミズホは恥ずかしそうに昨日の事を話す。

「昨日ね、久保君が子猫を助けたのよ。
 箱に入れられて川に流されていたのを見つけて、それで久保君が川に飛び込んで助けたの。
 私はそれを見ていて...」

ミズホの話が続く...その時の顔は優しかった。
その顔を見ていると胸の奥がもやもやしてくる。 私の知らなかった事をミズホが知っていた事に苛立つ。
ミズホの顔が明るくなっていくのとは逆に、私の顔は暗く沈んでいく。
昨日、私の知らないところで二人は...
今日一日、その事がずっと頭にこびりついていて、私の心はザラついていた。



そして時間は流れ、放課後となる。
私はタツヤの事が心配で、今日の部活は休むことにした。

「ゴメン、今日は部活パスね。」
「はは〜ん。」
「な、なによぉ。」

シズカはニヤニヤした表情で私の事を見る。
けど体は正直なもので、私は真っ赤になってしまう。

「ま、たまには優しくするのも良いんじゃないかな。
 頑張れよ、アユ。」
「シ、シズカ!!!」
「ハハハ、早く行かないとタツヤのヤツ、直っちまうぞ。」

シズカはからかうだけからかって逃げていった。
あ〜〜〜〜〜もうシズカったらなに言ってンのよぉ。
ちょいちょい
ン、誰? 制服を引っ張るのは?
誰かが後ろから制服の裾を引っ張るので振り返ってみると...

「ミ、ミズホ?」

そこには頬を染めたミズホがいた。
一体どうしたんだろ?

「私も...一緒に、行っても...いいかな...?」
「へ!?」

どうして? なんでミズホが??
勇気を出して言ったのだろう。 ミズホは恥ずかしそうに俯いてしまった。
ちょ、ちょっと、私は一人でアイツの看病を...

「...ダメなの...?」
「い、いや...そんな事は...」

上目遣いで頼むミズホに敵うはずも無く、結局は二人で行く事になった。
しかもミズホはタツヤのウチに向かう途中、色々とタツヤの事を聞いてくるし...ひょっとして...まさか...
表面的には平静を保っていたが心の中ではダメだった。
ミズホは女の私が見てもキレイなコだったし、大人しくてとても女の子らしい。 それに引き換え私は...
またもネガティブな考えに陥り暗く沈む。
しかし歩いていればいつかは着いてしまうもので、目の前にはタツヤの家があった。

「ここが久保君の家...」
「...うん。」

ミズホが独り言のように呟く。
私はそれを何処か遠くで聞いている感覚に襲われる。
ここにちゃんと居るのに、何故だかまったく別のところで見ているようだった。

「あらアユちゃん、いらっしゃい。」

ボーっとしているところを、いきなり声を掛けられた。
もちろんそれは、いつも笑顔を絶やさないおばさんだった。

「あら、隣のコはお友達?」
「は、初めまして、同じクラスの小早川ミズホです。」
「こんにちわ、ミズホちゃん。」

ミズホは慌てて挨拶をする。
それに引き換えおばさんは...そう言えばおばさんが慌ててるところって見た事無いな...
おっとりというか、肝が据わってるというか。
そんな事よりも今はタツヤが先ね。

「あの、タツヤの具合は...」
「大丈夫よ、大人しく眠ってるからネ。」

ホ...どうやら大丈夫みたいね。
とにかく看病...というかミズホも居るからお見舞いね。 早くアイツの部屋に行かなきゃ。

「あの、お見舞いに来たので、上がらせてもらってもいいですか?」
「ありがとうアユちゃん、ミズホちゃん。 あの子も喜ぶわ。
 さ、上がって頂戴。」
「「おじゃましまーす。」」

私はいつも来ているからどうって事ないんだけど、ミズホはなんだか戸惑っている。
玄関の敷居をじっと見たまま固まっていた。
おばさんもその事に気付いたようだった。
しかしちょっと間を置いてから優しくミズホを促す。

「どうぞ、ミズホちゃん。」
「す、すいません...」
「???」

私にはなにがどうしたのか、全く分からなかった。
そんな私にそっと耳打ちする。

「あの子、男の子のウチに入るのが初めてのようね。」

な、なるほど...それは気付かなかったわ。
けどそんなに緊張するのかな?
小さい時からタツヤという男の家に出入りする私には理解できない事だった。
あ、タツヤは 「男」 じゃなくて 「弟」 って感じだったからな。 ...そう、昨日まではネ。
そして私達3人は台所を過ぎ階段へと向かおうとした。

「氷枕?」

台所の隅に氷枕を発見した。
初めて見るものだがそれをどう使うかは分かっている。
え? なんで初めてだって? ふふん、元気いっぱいのアユちゃんがカゼなんてひく訳ないじゃない。

「そうそう、氷を切らせちゃったのよ。
 それでアユちゃんのウチにもらいに行こうとしてたところに...」

おばさんは困った顔をして首を傾げ手でほっぺを押さえる仕草をする。
ふーん、それでその時に私達に会ったのね。

「だったら私が行ってきますよ。」

言うが早いか、早速行動に出る。
タツヤのヤツにミズホを合わせるのは考え物だけど、おばさんも居る事だしそれにカゼだったら何も出来ないよね。
そう考えて一旦ウチに帰り氷を調達する。 ウチは魚屋だからそういうモノに関しては困らないのよね。
そして再びタツヤのウチに戻り、台所で氷枕の準備をする。

「え〜と、適当な大きさに氷を崩して...枕の中に詰めて...あとはタオルでくるんで...よし、できあがり!」

取り敢えず氷枕がどんなモノかを確認す為、頬に着けて見る。
うっひゃ〜〜〜 つめたぁ〜〜〜 これなら熱も下がるわね。
完成した氷枕を見て嬉しくなり、急いで階段を駆け登る。 するとタツヤの部屋のドアは開いたままだった。
どうしたんだろ? どれどれ...え!?
そこで見たモノはお互いに顔を赤くしておばさんに冷やかされているタツヤとミズホだった。
その光景を見た瞬間、無性に腹が立ってきた。
誰に対してかは分からない。 こんな気持ちは初めてだった。
しばらくするとタツヤは私が居る事に気付いた。

「ア、アユ...お見舞いに来てくれたのか...な?」
「うん、そうだよ、タ・ツ・ヤ。」

私の顔は笑っている筈なのに、心の中では堪忍袋の尾が切れる寸前だった。 でもそれも時間の問題...
氷枕を持つ手に力が篭められ、おばさんがミズホともん太を連れて安全なところに避難する。
ウフフフフ、これで準備OKね。 この原因の判らない怒りの矛先はやっぱりコイツに決定!

「良かったわね、タツヤ! ミズホがお見舞いに来てくれて!!」
ドガ!
「グフ!」

投げた氷枕が綺麗にタツヤの顔面にヒットした。
もう最低!! 私がこんなに心配したっていうのに、なにさタツヤのヤツ! ミズホとデレデレしちゃって!!
ドスドスと足を踏み鳴らしてウチに帰る。
ミズホはおろおろして私とタツヤの事を心配するがおばさんがミズホの事を落ち着かせる。

「いいのよ、いつもの事だから。
 でもタツヤもまだまだ子供ね♪」

...やっぱりこの人には敵わない。
ガチャ...ボフ!
自分の部屋に戻った途端にベットに転がる。
しかし視線は窓から見えるタツヤの部屋を捕らえて離さなかった。
薄いカーテン越しにミズホが看病しているのが見えたからだ。
本当だったらあそこが私の場所だったのに...
その時、自分の性格が嫌になった。
もっと大人しかったら...もっと素直でいられたら...
枕に頭を埋めてもその考えは消える事は無かった。
そしてそのまま私は眠りについた。










☆★☆★☆










翌日の朝、いつも通りに起きてタツヤの玄関の前に立つ。
けど今日は呼び鈴を押す事が出来なかった。
今までどんなに喧嘩をしても、次の日には何事も無かったかのように接する事が出来たのに、今日はダメだった。
そして逃げるようにして学校に向かった。
昨日に続けて今日もタツヤと一緒に来なかったせいか、私達二人の事を知っている人は怪訝そうな顔を向ける。

「アユ、今日もタツヤは休みなのか?」

シズカが心配そうに聞いてきた。
しかしそれはタツヤの事以上に私の事を心配してくれていた。

「分かんない...今日はアイツの家に寄ってないから...」
「そうなのか?
 ...じゃあ昨日はどうだったんだ、あれから行ったんだろ?」
「うん、行ったんだけど...」

昨日の事をポツリポツリと話す。
ミズホと一緒に行った事、喧嘩した事、そしてミズホがタツヤの事を看病した事、それら全てを打ち明けた。
シズカとはテニスでダブルスを組んでいるので一番の親友といってもおかしくない。
だからシズカにはなんでも話せた。

「そっか、そんな事があったのか。」

ガラガラ
その時、担任の先生が教室に入ってきた。
でもタツヤはまだ来ていない...ミズホはその事が気になるのか落ち着かないようだった。

「じゃあ出欠を取る、相川。」「ハイ。」「井口。」「ハイ。」...

朝礼が始まり、出欠確認が行われる。
今日も休みなのかな、タツヤ...
そう思っているとタツヤの番が回ってきた。

「久保...久保タツヤ。
 なんだ、今日も休みなのか?」
ガラガラ
「ハイ!」

ドアが勢い良く開けられタツヤが入ってきた。
息を切らせて肩が大きく上下する。
良かった、もう大丈夫なんだ...
ホッと胸を撫で下ろす。
そんな仕草を見ていたのか、シズカは小声で話しかけてきた。

「良かったな、アユ。」
「...うん。」

シズカに言われると何故か素直になった。
それだけアイツの事を心配していたからかな...
自分でも優しい気持ちになるのが分かった。

でもそれはあまり長くは続かない。 朝礼が終わってミズホとタツヤが嬉しそうに話すのを見たからだ。
そんな二人を見ていると苛立ちが押さえられない。
なによタツヤ、私の前ではあんな顔見せないのに!
タツヤが私以外の女の子に笑顔を向けている事が許せなかった。
−−−それが嫉妬という感情である事を知ったのは放課後の部活の時だった。



「みんな集まれ!」

顧問の先生がテニスコートに少女を連れてきた。
その少女は恥ずかしがりながらも一人の少年を見ていた。
そして少年もその少女を見ていた。

「季節外れだが新入部員を紹介する。」

先生が彼女を促す。

「2年3組の小早川ミズホです。
 テニスをするのは初めてですが、よろしくお願いします。」

いつまでもアイツと一緒に居られると思っていた。
けどその中に突然ミズホが入ってきた。
今まで...13年間タツヤと築いてきたモノが崩れていく予感がした。
その時、初めて嫉妬という感情を理解できた−−−




つづく