ジージージージージー
ミーンミンミンミンミーン

セミの鳴き声と、木々の緑と香りが私の感覚をくすぐる。
やっぱり都会じゃ味わえないよね、これって。
足取りは自然と軽くなり、それに比例するかのように心も弾む。
私は今、林間学校のイベントで山登りをしているのだ。
そして私の班にはなんとタツヤが居る。 まさかアイツと同じ班になるとは思ってもいなかったよ♪
その林間学校の班分けは次のように行われたんだ。

@取り敢えず男女別々に二人一組のペアになる。
 これにはなんの制限も無いので親しい者同士で組む事になって、私はミズホと組む事になった。
Aその男女のペアを組み合わせて班の出来あがり。
 これにも制限は無かったので、組みたいペア同士でOK! ...なんだけど何故か男子のペアは一つの女子のペアに集中した。
 それが私とミズホのペアってわけ。
Bで、その問題を打開する案としてくじ引きが行わた。
 抽選の結果、見事選ばれたのがタツヤとヨウスケのペアだった。 ...けど私達の希望が聞かれなかったのは何故?

ま、なんにしてもアイツと一緒の班になれたのが嬉しかった。
タツヤは今、私の後ろを歩いている。 その気配を感じるだけで心が暖かくなる。 つまりそれほど好きって事かな?
けど不安が無いと言えばウソになる。 それはタツヤの後ろを歩いているミズホの存在。
ミズホは私達のクラスに転入して、私達と同じテニス部に入ってきた。 その時のタツヤは確かに喜んでいたのが判った。
多分タツヤはミズホの事が好きなんだろう...そしてミズホもタツヤの事が...
不安に駆られてついタツヤの方を振り向いてしまう。
な、タツヤのヤツは一体何やってんのよ!
そこにはミズホを挟んでヨウスケと何やら合図を送っているタツヤが居た。
このおバカ達は〜(怒) どーせミズホの事で何かやろうとしてんでしょ!!
特にタツヤ! アンタが何考えてんのかすぐ判るわよ!! なんで私はこんなヤツなんかを...

「コラ! タツヤにヨウスケ!
 さっさと歩きなさい!!」
「分かってるよ! ったく、やかましいヤツだなぁ...」
「ん? なんか言った?」

睨みつけるとタツヤは視線を逸らす。
ボソっと言ったつもりだろうけどしっかり聞こえてるわよ!
ミズホはミズホで私達を見てオロオロしてるし! ヨウスケはヨウスケで我関せずを決めてるし!! なんで林間学校に来てるのにいつもと変わらないのよ!!!
考えてたら段々ムカムカしてきて結局はいつも通りに事は進んでしまう。

「ほらタツヤ、きりきり歩きなさい!」

ドカドカといつもより大きな歩幅で登り始める。
いつになったら幼馴染みを抜け出せるのよ...?
声に出した言葉とは裏腹に私の心は曇り空だった。
周りではお構い無しにセミは自分の存在を誇示するかのように鳴き続ける。
あー鬱陶しい!! ...って、あれれ?
気が付けば後ろに感じる筈のタツヤの気配は無かった。
チラリと後ろを見てみると、何やら考え込んでいるのか、歩くスピードが目に見えて遅くなっていた。
小さい頃から全然成長してない...何かあると他の事がおろそかになるんだから!!

「なにやってんの、タツヤ! 置いてくぞ!!」

気が付くと私はタツヤに向かって叫んでいた。
タツヤに13年間も同じ事をやられると、私だって13年間やってきた事を繰り返してしまう。
結局この関係って変えられないの!!? 誰か教えてぇ!!











同窓会
〜 Yesterday Once More 〜

思い出にかわるまで


第三幕の裏 林間学校(前編)











山登りを始めてから既に1時間が過ぎていた。
頂上までは平均すると2時間前後、早ければ1時間ちょっとって聞いた。
う〜ん、だとすると頂上まで登り詰めたグループもそろそろ現れる頃だろうな。 ...でもどんな登り方をすれば1時間ほどで登れるの?
優勝候補の、と言っても競い合うようなモノじゃないんだけど、リュウスケグループは制覇したのかな?
なんでもリュウスケのグループは超体育会系って話だ。 もちろんこのニュースソースはミドリからなんだけどね。
一方、私達の現在位置はまだまだ1/3登ったってところかな?
ペースとしては遅いかもしれないけどそれは仕方が無い。 私達のグループにはミズホが居るからね...と思ったらヨウスケのヤツは息絶え絶えだ。 まったく情けないヤツね。
それよりも意外なのはタツヤだった。 いつもと同じで、のほほんとした顔で歩いていた。
う〜...私だって結構キツイかなって思ってるのになんでコイツは?
だけど嫌な感じはしなかった。 昔だったら 「なんでも私の方が優れてなくちゃダメ」 って思ってたのに...なんでだろ?

「なあアユ、そろそろ一息入れようぜ。」

後ろからタツヤの声がしたので振り返る。
なるほどね、ミズホか。
一目で判るほど疲れていた。
そう言えば休憩らしい休憩はしてなかったね。 でもここで一息入れるのもな...
ガサガサと地図を広げて現在位置を確認する。 ここね。 だとすると、あと少し歩いたところに休憩所がある♪

「そうだね。
 地図によると、もう少し登ったところに休憩所があるみたい。」

地図を見せるとタツヤも納得してくれた。
場所も決まった事だし、早く行ってミズホを休ませないと...って、え?
ドキ!
気が付くとタツヤの顔がすぐ傍にあった。
いつも見ていた筈なのに真っ直ぐ見ていられなかった。

「よし、早いトコ行こうぜ。」
「う...うん...」

消え入りそうな声しか出ない自分に戸惑う。
二人で一緒に地図を見ていたお陰で、風が吹けば互いの髪が触れ合えるほど近くに居た。
ドキドキドキドキ
視線を合わせる事が出来ない...だけど勇気を出して、さあ行くわよアユ!

「ちょっと行ったところに休憩所があるんだ。
 だからもう少しガンバろう。」
「ありがとう、久保君。」

あろう事かタツヤはミズホの方に行っていた。
な、なんでいつもいつもタイミングが悪いのよ〜。
良く見るとミズホの手を取っている。 優しいからと言えばそれまでなのだが釈然としない。
私にはあんなに優しくした事ないのに... 気が付くとジト目でタツヤを睨んでいた。

「アーーーー!! タツヤ、テメェ!!」

突然ヨウスケが叫んだ。
ま、ミズホの手を取っていれば黙っちゃいないよね。 ヨウスケもミズホが好きなんだから。
それでもタツヤは自分が何をしているのかを判っていないのか、?マークを頭の辺りに漂わせている。
鈍感もここまでくれば大した物ね...だから女の子の気持ちも判らないのよ!
睨みつけている目に知らぬ間に殺気がこもる。

「あ、あのぅ...アユさん?」

オドオドした感じでタツヤは振り向いた。
コイツは...なんでこんな時にしかカンが働かないのよ! しかもまだミズホの手を握ったままだし!!

「いつまでミズホの手を握ってんのよ。」

出来る限り平静を保って話す。

「ハイ?」

まだ気付いていないのか、タツヤは間抜けな返事しか返してこない。
タツヤとミズホはチラリと握り合った手を見る。 お互いの視線に気付いたのか顔を見合わせる。 しばし待つ事数秒間、二人の顔が赤く染まった。
ミズホは耐えられなかったのか慌てて顔を背ける。 けど手は握ったままだった。 ピキッと私の頭に#マークが貼り付く。
しかもタツヤはボーっとしている。 ピキキッと更に#マークが貼り付いた。

「いい加減に離れなさい!」
「「ゴ、ゴメン(なさい)!!」」

二人は仲良くハモっていた。
ミズホは麦わら帽子で顔を隠してるし! タツヤは相変わらずミズホを見たままボーっとしてるし!!
どう見てもお互いを意識してるとしか思えなかった。

「ホラ、行くよタツヤ!」
「イ、イテテテテ! 耳を引っ張るな!」

タツヤのバカ! バカバカバカ!!
タツヤに対して怒りを感じる。 だけどそれはすぐに自分に対しての怒りに変わった。
...違う...バカは私だ...ただのやきもちじゃない、これって...
気持ちは暗く沈み、こんな行動に出てしまった自分に対して自己嫌悪を覚えた。
私っていやな女かも...










☆★☆★☆











私達はようやく頂上まで登り詰めた。

「うわぁ...綺麗ね、久保君。」

向こうの方ではタツヤとミズホがどこまでも広がる大パノラマを眺めている。
とてもじゃないけど二人の傍に行く事が出来なかった。
小さい時だったらいつもアイツの傍に立って同じモノを見てきたのに、今はそんな気持ちにはなれない。

「タツヤのトコには行かないのか?」

ヨウスケが聞いてくる。
行きたいよ...でも今は... 際限無く暗い方に考えが走り出す。

「あの二人の間に入れないのか?」
「!」

見透かされていたの? まさかヨウスケは私の気持ちを...
それを考えるだけで心臓が早鐘を打つ。

「ようはきっかけだ。 コレを見よ。」
「...カメラじゃない。」

二つのカメラが差し出された。
まさか二人っきりの写真を撮るって言うの? ...ポ
これはもちろんタツヤと二人きりで写真に写る姿が思い浮かんだのだ。
ちょっといいかもしんない... ヨウスケって結構良いヤツなのかも。
だがヨウスケの思惑は私のそれを大きく上回っていた。

「これを使えば簡単に二人の邪魔が出来る!
 しかもミズホの写真も撮れて一石二鳥だ!
 クックック、オレって天才だろ!!」

私の頭に縦線が何本も入った。
それって単に悪知恵が働くだけなんじゃないの?

「オーイ、折角だから写真撮ろうぜ。」

そんな私の考えをよそにヨウスケは早くも実行に出た。
しょうがないね、とにかくヨウスケのお陰で二人の間に入れるんだから良いかな?
そんな事を思いながら二人の所へ走っていくと何故かタツヤは考え込んでいた。
ボーっとしてる訳でもないし、何考えてんだ?
だが次の瞬間ピカッと頭に豆電球が光り、それと同時にムッときた。
どーせミズホとの位置関係でも考えてんでしょ!

「チャンスだ!
 アユ、カメラよろしく。」

え? 何がどうしたの?
ヨウスケは私にカメラを渡してミズホの隣にちゃっかりと着く。
な、なるほど...ホント悪知恵が働くヤツね。 まあタツヤとミズホのツーショットじゃないからいいか。
ヨウスケの抜け目無い行動力に感服してしまいカメラを構える。

「ハーイ、いくよー。」
カシャ!

半ば投げやりな感じでシャッターを切る。
そこでやっとタツヤが今の状態に気付いて叫んだ。

「アー! ヨウスケ、何やってんだ!!」
「ヘッヘッヘ。
 悪いな、タツヤ。」

まったくこの二人は仲が良いんだか悪いんだか。
カチカチとフィルムを巻きながらそんな事を考えていると... ガチ あれ? ガチ、ガチ
何度やってもコレ以上巻き取れない。 これはまさか...
見てみるとフィルムは全て使い切っていた。

「ヨウスケ、コレ全部使っちゃったみたいだよ。」

確認の為にヨウスケに言ったつもりなんだけど、答えたのはタツヤだった。

「何ぃ、それホントかアユ!?」
「う、うん...」

私はタツヤの勢いに押されて戸惑い、タツヤは私の答えを聞いてガックリする。
更に追い討ちをかけるようにヨウスケが一言。

「こっちのカメラはとっくに撮り終わってるぜ。」

してやったりな表情でヨウスケは喋った。 プッ、いい気味ね。
涙を流して呆然とたたずむタツヤを見て少し気が晴れた。
けどみんなで撮りたかったな...折角ここまで来たのに、その一コマを残せなかったのが残念。
私達は少し遊んだ後、頂上を後にしてキャンプ場へと戻った。










☆★☆★☆











キャンプ場に戻ったらすぐにゴハンの仕度だ。
こういう時はお決まりでカレーの準備。 私とミズホはカレーのルーを作り、タツヤとヨウスケはハンゴウでゴハンを炊く。
先ずは下ごしらえ。 という訳でボウルにジャガイモ、ニンジン、タマネギなどを入れて洗い場へと向かう。

「「アユ! ミズホ!」」
「シズカにミドリじゃない。」

先に来ていたのか洗い場で既に下ごしらえをしていた。 とは言うモノのやっているのはシズカでミドリは喋ってばかりである。
トントン...と軽快に包丁を操るシズカ。 一体どこで覚えたの? はっきり言って上手すぎる。

「じゃあ始めましょうか、アユちゃん。」

ミズホは嬉しそうに包丁を握っている。 けっして危ないという意味ではない。
シズカ達の横を陣取って水道の蛇口をひねると冷たい水が流れる。 先ずは洗わないとね。
適当に洗い終わったら皮を剥くのだが、チラリとミズホを見てみると...結構上手い。
シズカ程じゃないけれど慣れた手つきでジャガイモの皮を剥いている。

「へえ、結構やるじゃないかミズホ。」

横で見ていたシズカが誉める。
ふと自分のジャガイモを見てみると...うぅ...明らかに負けていた。
カレーじゃなくて魚料理だったら負けないのに! ウチは魚屋だからその手の料理には精通しているのだ。
ウロコを落として三枚におろす。 コレが出来る中学生ってそうは居ない筈! って何言ってんだか...イタ!

「あっちゃ〜、切っちゃったか。」

よそみをしてしまい親指を切ってしまった。
うぅ、格好ワル... 口に含んだ親指は鉄の味がした。

「ホラ、大丈夫かアユ。」

シズカはすかさずポケットからバンソウコウを出して貼ってくれた。 やっぱり優しい、シズカって。
けど次に出たシズカの言葉は私の心にグサッっと突き刺さる。

「誰か一人はやると思って持ってきたんだ。
 それがまさかアユだったとは。」

しゅんと縮こまる。
更に降りかかるミドリの一言。

「修行が足りないね、そんなんじゃお嫁には行けないよアユ。」

何もしてないミドリに言われたくない! それにまだ中学生なんだからこれから頑張ればきっと!
新たな決意を胸に秘める。 やっぱり魚料理だけじゃなくて、もっとバリエーションを増やさなきゃ!





グツグツグツとカレーを煮込む良い音がする。
結局はミズホが殆どの下ごしらえをしてしまった。 うぅ、我ながら情けない... 涙がルルルーと流れ落ちて周りが良く見えなくなる。
その時ミズホがお鍋に何かを入れた。

「何入れたの、ミズホ?」
「チョコレートを一欠ケラね。」

チョコレートなんかどうして?
訳が判らず固まってしまう。 どうやらミドリも判らないらしい。
だがシズカだけは違った。

「へえ、ミズホはチョコレートを入れるのか。
 ウチはコーヒーなんだ。」

コーヒー? なんでそんなモノを入れるの?
思わず首を傾げる。 ふと視線がミドリと合った。
ミドリは愛想笑いを浮かべる。 どうやら私と同じらしい。
そんな私達のやり取りを見ていたようでシズカが教えてくれた。

「カレーの隠し味なんだ。
 その他にヨーグルトとかハチミツとか...」
「お醤油とかもあるの。」

ミズホも加わってきた。
その言葉にシズカは嬉しそうに反応する。

「そうそう、聞いた事ある!
 とにかく人の数だけ隠し味は存在するんだ。
 たかがカレーなんて言ってるとバカにされちまうぞ。」

知らなかった...カレーって奥が深いのね。
すると自分だけのオリジナルカレーを作る事ができるわけね。 良い事を聞いた!
グッと拳を握る。

「どうだ、味見してみるか?」

ルーの入った小皿を差し出された。
それを受け取りペロッとなめてみる。 むむむ、これがコーヒー入りか。

「ハイ、アユちゃん。」

今度はミズホのチョコレート入りだ。
再びペロッとなめてみると...あんまり良く判らない。

「う〜ん、何かが違うんだけど...」
「それでいいんだよアユ。
 隠し味ってのは言わば企業秘密。 その 『何か』 を感じ取ってもらえれば、それだけで嬉しいんだ。
 ま、それでなくても残さず食べてもらえれば言う事無しなんだけどね。」

シズカは笑顔を浮かべていた。
ほぇ〜〜〜、なるほどね。 見るとミズホも微笑んでいた。





カレーが出来あがり私達の班の場所に戻ってみると、まだタツヤ達は戻っていなかった。

「まったく、何やってんのかなタツヤ達は。」
「ハンゴウでゴハン炊くのは初めてだから遅くなってるのよ、きっと。」

むむ...相変わらず誰に対しても優しいね、ミズホって。
私はどーしてもタツヤに優しく出来ない。 なんでかな? タツヤも優しい女の子の方がいいのかな?

「お待たせー!」

ヨウスケの声だ。 どうやら帰ってきたみたいね。
後ろにはタツヤの姿が見える。

「遅いぞ、タツヤ!」

あ...やってしまった。
口から出たのは優しい言葉じゃなかった。 ガラじゃぁないのかもね...

「ハンゴウは初めてだったけど、意外と面白かったよ。
 そっちの方はどう?」
「うん、こっちの方も順調よ、楽しみにしててね。」

気が付けばタツヤはミズホと喋っている。
む〜〜〜、タツヤのヤツ!
と、その時タツヤのお腹が鳴った。 ぐぅ〜〜〜

「いや...こ、これは、その...」
「「「ップ、アハハハハハ。」」」

タイミング良すぎよタツヤ、ホントしょうがないわね。
自然に笑いがあこみ上げてくるのが分かる。
だがその笑いは長くは続かない。

「すぐにできるからたくさん食べてね、久保君。」
「ありがとう、小早川さん!」

ピキッと#マークが貼り付き、握った拳に力が入る。
幸せそうな顔をするんじゃない!! これでも喰らえ、必殺アユパンチ!!!





「久保君、大丈夫?」

食事の最中なんだけどミズホは絶えずタツヤを心配していた。
そんなヤツの心配なんかしなくてもいいのよ!

「ハハハ、慣れちゃってるから平気だよこのぐらい。」

な・に・が・慣れてるって〜タツヤ。 アンタ帰ったらどうなるのか判ってンの?
右手に持つスプーンがミシミシと悲鳴を上げる。

「それよりも、おかわりいいかな?」
「うん、いっぱい食べてね。」

オイシイの一言ぐらい言ってあげなさいよ! ホンッッットに鈍いんだからこのバカは!!
ミズホもミズホよ! そんなヤツを甘やかすとロクな事無いのよ!!

「タツヤ! 自分の事ぐらい自分でやりなさい!」
「ミズホ、オレもおかわり!」

そうだった、もう一人バカが居たんだ...この2バカは気付かないの?
それになんでミズホは幸せそうな顔が出来るのよ!!
とその時、シズカの言葉を思い出す。

(その 『何か』 を感じ取ってもらえれば、それだけで嬉しいんだ。
 ま、それでなくても残さず食べてもらえれば言う事無しなんだけどね)


そっか、だからなんだ。 私もそんな気持ちになってみたいな。
なんとなくだけどミズホの気持ちが分かるような気がした。










☆★☆★☆











「以上が肝試しの概要です。 何か質問はありますか?」

今は班長会議中である。 で、議論は先程の言葉通り肝試し。
山の中だといってもなんと近くに神社があるそうだ。 しかも歩いて往復10分かからないという好物件。 コレを利用しない手は無い!
壁にこの辺りの地図が貼られてキャンプ場とその神社までの道順が書かれている。 しかもコースは4本あり往復分を考慮に入れると半分の2本になる。

「あの〜、お化け役って項目があるんですけど、これって我々がやるんですか?」

各自に渡された紙には役割分担が書かれていた。
キャンプ場でのまとめ役、神社でのまとめ役、お化け役といった具合である。
でもこれってフツー先生がやるんじゃないの?

「そう言う事です。 どうやら先生達は 「林間学校は自分達でやれ」 って考えてるようなので、我々が中心になって行います。
 紙に書いてある通りキャンプ場と神社に各4人、お化け役が各コース毎に2人で計16名に協力をお願いします。」

議長が紙に書いてある事を説明する。
突然だけど私達の学年は計6クラスあり、1クラスの人数は30人前後。 そこから計算すると、ここに来ている班長の人数は42人だ。 となると半分以上が肝試しに参加できる。
肝試しね...そう言えばアイツはこの手のイベントは苦手だった筈、なんとかペアになれないかな♪
けどその瞬間、違う考えが頭に浮かんだ。

「これって班長以外の人に頼んでもいいんですか?」

手を上げて質問する。
すると議長はちょっと考えた後にOKを出してくれた。

「その人の了承を取れれば問題ありません。 何か心当たりでも...」
「ハイ♪ じゃあお化け役に二人登録しといてください。」

もちろんアイツを巻き込むつもりだった。
お化けが苦手なヤツにお化けの役をやらせる。 これは考えただけでも面白いわ♪
それにミズホとペアになる確率もあるから打てる手は打つに限る!
と言う訳でお化け役の欄に若林アユと久保タツヤの名前が油性マジックで書かれた。
何? 本人の了解は得られるのか? そんなモノは班長命令と幼馴染みの特権よ!!
その後、様々な議論が交わされ、無事に全ての担当が決定した。

「それでは担当の人は忘れずに肝試しの開始時刻の15分前に集合して下さい。
 以上で終わりにします。」

さってと、早速呼びに行かなきゃ。
喜びを隠し切れず、走ってタツヤのところを目指す。
ん? 何してんだろ、タツヤのヤツ?
見付けた事は見付けたのだが、何やらしきりにカメラを操作している。

ドンガラガッシャン!

豪快に転んだ。 一体何してんの?
次の瞬間ミズホの姿が見えた。 ミズホは転んだタツヤを心配して手を貸してる。
カメラ、そしてタツヤとミズホは二人っきり...なるほどね(怒) しかもなにやらもう一枚と頼み込んでいる。 そんな事はさせるモノか!

「何してるのかな、タ・ツ・ヤ。」

頭に#マークを着けながらタツヤに詰め寄る。
こんなところで油売ってる時間なんて無いんだからね、タツヤ!!

「後片付けが終わってもまだ仕事はあるんだからね!」
「イ、イテ、痛いって! だから耳を引っ張るなぁ!」

肝試しの打ち合わせの時間までそんなに無いのでそのまま連れて行く。
まったくなんで私はこんなヤツなんかを好きになったんだろう?
ハッと気付いて理由を探すが何も思い当たらなかった。
私は一体タツヤのどんなところに惹かれたのだろう...

そして太陽はとっぷりと大地に沈み、辺りは暗くなる。
時は満ちた! 肝試しの始まりよ!! ...って、ああ? もう書くスペースが無いの?



後編につづく