報告書。
39年:
魔導研究所が国王の命により発足される。
41年:
国王命令により、セイサーの血を引くと見られる子供達の保護が活発となる。半年後に、子供達の大半が魔族の血を引いていたと言うことが判明。国王に体する不審が高まる。
50年:
魔導研究所に、二十前と見られる女性が実験体の名目で搬入される。
担当は小夜博士。
51年:
配合開始。
52年:
戦闘的な能力を重視した実験体の制作が義務づけられる。現時点での保有数は二。
53年:
50年に搬入した魔族と見られる女性が妊娠。同年出産。双子。姉、死産。妹、未熟児のため、処分される。
子供の遺体は実験に回される模様。姉、妹ともにレティス博士の担当。
小夜博士の反抗が目立つようになる。
54年:
小夜博士、逃亡。50年に搬入した女性同伴。
55年:
拘束中の小夜博士、再度逃亡。同伴は54年にも共に逃亡を計った実験体の女性。
逃亡中、小夜博士死亡。同伴の女性については不明。
小夜博士の続行中の計画については、レティス博士が担当することとなる。
56年:
52年時点での実験体の最後の個体の死亡が確認される。
レティス博士保有の、実験体候補が四体、精神魔法系での能力を現わす。
実験体の補填のため、四体に体する強化を行う。
二体死亡。
残る二体についても、失敗の見込み。
一体については精神異常が認められている。
57年:
53年度制作の実験体のうち、一体の能力値が平均を大幅に上回る。
54年時制作の実験体のうち、二体も同上。
58年:
53年度制作の失敗作を処分する。ただし、一体については、実験体の精神に影響を及ぼす可能性があるとして、レティス博士が保護することとなる。
59年:
56年度に強化補填した実験体が、53年度の実験体に対し精神的補填を行っていたことが判明。
60年度:
実験体を、バシオ戦線に派遣。
能力値、測量不可。
派遣された実験体は15。
内、死亡が1。軽傷が3。
61年度〜66年度:
報告書が旧王城より発見できず。68年のクーデターの際の火災により、紛失した模様。
研究所に勤めていた魔導士達の手記などから、この時期は実験体に対する虐待が頻繁に行われていたことが推測出来る。
実験の中心は、開発中の術の補佐。非合法。研究所の規約としても違反している模様。
実験体の戦線への参加も、引き続き、確認されている。
67年度:
魔導研究所内にて爆発。
敷地、及び、周辺の平野まで、炎上。
生存者なし。
実験体の生存は、戦線に加わっていた六体のみ。内、四体が仲間割れにより死亡したと見られる。二体については、軍部で保護。うち一体は精神異常により死亡。残る一体は現在も稼働中。
『以上です』
『他にはないのか?』
『将軍がお探しであられる実験体ガレスについては、67年における爆発にて、死亡したと思われます。
爆発の原因としては、研究所内の魔導士達が非合法的に行っていた、術の実験が原因と推察されています。当時、研究所内では、魔導士達の私的な術の開発のために、実験体が使われていた形跡もあります。おそらくは、実験体の無尽蔵の魔力により、魔法が暴走し、爆発が起こったのでしょう。研究所内には、かなりの結界が張られていたようですが、その許容量を超えた術を行使させたのではないでしょうか?』
『まぁ、あれほどの力ではな。お前はまだあのころ、軍にいなかったから見ていないだろうが、十年前の連中の戦いぶり。あれは、人間じゃない。まぁ、魔族の血を引いていたと判った今では、当然とも思えることだがな。だが、すごかったぞ』
『そうでしょうか?』
『あぁ。敵陣にも魔族がいたのだがな。当時じゃ、勝つために魔族と判っていても目をつぶって、傭兵として雇うのが当然だった。かなりの実力を持ったやつもいてな。とてもではないが、人間じゃなかなわん。そんな連中を、年端もいかん子供が、あっと言う間に殺す。恐いなんてものじゃない』
『はぁ……』
『とくに、ガレスだな。あの子はすごかった。陣中では無邪気なもんさ。可愛い子でな。あの子のことを良く知らん新兵なんぞに、人気があった。だが、それも戦いが始まる前だ。あの子の恐ろしさを見た兵は、十中八、九、あの子の化け物ぶりに怯える。素手で人間の首をねじ切る。俺も一回、目のあたりにさせてもらったが、あのときはもう、生きた心地もしなかったな』
『ガレスは……資料内では、53年度に死産した実験体の子供を元にしていると言われていますが』
『馬鹿か。資料だけで推測するな』
『は……?』
『あそこは嘘を真実とし、真実を嘘とする場所だ。報告書だけをうのみにするなと言っている』
『なるほど』
『判ったか?』
『はい。あ、一つよろしいでしょうか?』
『ここはまだ、軍部だぞ。甘えた声を出すな』
『すみません。ただ一つ、気になったもので』
『なんだ?』
『53年度に、実験体が妊娠、出産とありますが、そういうこともあったんですか?』
『……だから、あそこは嘘と真の場所だと言ってるだろうが』
『はい?』
『お前、諜報部、やめた方がいいぞ。むいてねぇ』
『またぁ。ここはまだ軍部でしょう。そんな、昔の口調で喋らないで下さいよ。で、これって、どういうことなの。ねぇ?』
『お前も、そう言うからには口調を改めろよな。まぁ、それについては言いたかないが、魔導士連中がはらましたってところだろう。まったく、お前の報告書もいい加減なもんだ。お相手は、小夜博士だろうな。あのお偉いさんが実験体に入れ込んだ挙句、駆け落ちしちまったのは、軍部でも有名な話しだったんだぜ?』
『なるべく正確にしようと、そういう噂話ははぶいたのですけどね。大体、貴方、そういう面では地獄耳だし』
『け、言ってろよ。それよりも、俺はまだお仕事があるからな』
『おともします、将軍』
『……身の変わりようが早い女だ』
『それくらい出来なくては、諜報部なんかに勤めてられませんよ』
(update 99/12/19)