貴方に会いたくて
オチル スベテノ キオクガ
ミエナイ カベニ ツツマレテ
デモ ソレモ イイ カモシレ ナイ
ワタシガ ワタシデ アルタメニ
アナタガ アナタデ アルタメニ
モウスコシダケ アナタニ
アナタニ フレテ イタイカラ
デモ 恐い
一瞬何が起こったのか解からなかった。その後、ただ悲しみに満ち溢れていく自分が、自分の体が、自らの魂が、そして体と魂の引き離されていく、私自身の全ての運命の波に囚われ、私自身が打ち消えるような、そんな感覚に深い喜びを感じているのが判った。その中の私は、悲しくもあり、嬉しくもあった。
「碇君、私は此処に居ても良いの?」
何時の間にか私は彼の前でこんなことを呟いていた。
彼の寝顔は安らぎを私に与え、私の想いを否定してくれていた。
碇シンジ、私は彼の事を愛しているのかもしれない・・・。
でも、判らない・・・判らない・・・・・・判らない・・・・・・・・・・・・
朝日は既にカーテンに温もりを与え、ありとあらゆるモノの全てに分け隔て無い優しい時を作り出していた。そして朝日に呼応するようにまた、街の息吹とともに人々の脈動も始まる。
時の過ぎるものは早いもので、あれから既に8年の歳月が流れていた。私たちの住んでいるのは、今は亡き第三新東京市では無く、そこから更に北にある第二新東京市である。戦後からやり直しの状況にある日本は未だに完全な復興を遂げてはおらず、海沿いの都市は殆ど壊滅と言ってもいい状況に在り苦しい状況に在りながらも、此処だけは未だに過去の水準を守りながらもとは言えないまでも細々と存在はしている。内陸にあったことが幸いしていたのだろう。そこに今、私たちは住んでいる・・・・。
「あっ、レイ。おはよう。」
彼が目を覚ましたようだ、目を擦りながらまだ眠そうにしている。私はあれから20分程彼の寝顔を楽しんでいた。私にも心に余裕と言うものが出来たのだろうか。彼の寝癖を直しながら・・・、
「おはよう、シンジ君。」
今日の朝食の準備は彼の番、だから私は朝食を作っている彼の背中を見つめている。その小さい背中を、余りにも辛い業を独りで背負いすぎたほんの小さな背中を・・・。彼は何でも独りで仕舞い込みすぎるから、独りで泣き続けるから・・・、せめて少しだけでも彼が救われるように、と私は彼の背中を見つめながら願う。
そんな風に時間を過ごしていると朝食が出来たようだ。
「はい、レイ。今日はベーコンエッグとお豆腐の味噌汁。あぁ、それと昨日のジンジャーポーク、半分残したでしょー、駄目だよ。好き嫌いしちゃ。今朝のベーコンは残さないように!いいね、レイ。」
「うっ、でも・・・・その・・・・あの・・・・・・。」
私はやっぱり肉は嫌い、どうしてもあの匂いが好きになれない・・・。
「でもじゃ無いの、レイは只でさえ、動物性タンパク質が少ないんだから、せめて僕が作ったのくらいは食べてくれなきゃ・・・。今のレイは前以上に栄養が必要なんだから、ねっ。」
「・・・・・・ハイ・・・・・。」
彼の優しさはいつでも私を安心させてくれる。やはりここは頑張って食べるしかないか・・・・。
お肉の匂い・・・やっぱり好きになれない・・・。
朝の時間が終わりを告げようとしている。何時の間にか街全体を包んでいたはずの優しい風も、時間が経つにつれて夏の暑さを感じる。少しだけ、生きていると実感できる瞬間。
私はコーヒーを煎れに行き、彼は仕事への支度を始めた。それは何も変わらない毎日、けれどもそこにある時の記憶は永久に変われない、繰り返される毎日の中の小さな歪みを作るだけで・・・。変われない。
9時・・・彼が仕事先へと出かける、すると9時間近くは私だけの時間になる、その間私は本を読んだり、編み物をしたり、と色々なことをするようになった。始めの頃は何もしていなかった所為か、彼ったら一生懸命に「何かをするように」って本を買ってくるから、今は私の時間を楽しめるようになって、嬉しいと思う。お昼時には新しい料理にチャレンジしながらお肉にも慣れようと思うんだけど・・・やっぱり駄目みたい、とは言っても今では一切れくらいなら食べられるようにはなったから少しは成長したわよ・・・ね?
そんなこんなで今はもう午後も3時を回り、夕食の支度でも始めようかと思っている・・・。とその前に、お布団を入れて、花に水をあげて、と。そうそう、この花、シクラメンって言うんだけどこれも彼が買ってきたのよね・・・。多年草じゃないから毎年種を取っておいて、2月くらいに花を咲かせる。本当に綺麗な花、凛としていて、他人に媚びない、強い花。でも誰よりも弱い花。・・・今のこの街の暑さには耐え切れず外に出すとすぐに枯れてしまう、そんな儚い花。本当は外の空気に誰よりも触れたいはずなのに、太陽の下で風と会話をしたいのに・・・・・・。私は、この花が好き。少しだけ・・・私に似てるかな?なんて言ったら笑われちゃうかもね。
彼も帰ってきて、夕飯も食べ終わり後数時間で今日という日も終わりを告げる。
ほんの少し蒸し暑い夜、夜風に当たりたかったので私はベランダに出てみた。すると今夜は新月だった所為か何時もは月明かり隠れ見える事の無い小さな星たちまでもが、今にも降ってきそうな位に輝いていた。
ひたすらに恐い・・・。
今の私は何かしら脅えている。自分でも判る、私が使徒で無くなった時から、人になった時から感じている事。
大地・・・。
人である事を望んだ時から私は飛ぶことが出来なくなった、だがそれと同時に闇を恐れ、地に、血に足を繋げることが出来るようになった。
気付くと私は暗い、暗い闇の中に沈んでいた、街の夜の匂いに包まれる前に、今日の私は自らの闇に囚われていた。圧してくる黒い胎動に私は脅える。死ぬのが恐い、自分が消える様に感じるのが恐い。そしてそこから抜け出せなくなる事を肌で感じる。・・・それが恐い。
“ふぁさ”
一瞬何が起こったのか判らなかった。でも、闇の底から還って来れたことだけは判った。
・・・・彼だった。
「・・・レイ、あんまり夜に外に居すぎなのは良くないよ。」
そう言って私の肩にガウンを掛けてくれた。
「うん、わかってる。でもあんなに星が綺麗なんですもの。見とれてしまっても仕方ないでしょ。」
「でも、君だけの体じゃないんだから少しは自重してくれないとね。」
「・・・・はい。」
少しだけ、私の中の夜が落ちたような気がする。
私は何故か無性に碇君・・・いや、彼に抱き着きたくなった・・・。
「ありがとう・・・。」
「碇君・・・。」
私は想う。
私の中にいる、もう一人に・・・。
「早く会いたいね。」
「私も、彼も、早く貴方に会いたいんだから。」
「だから、もうすぐ会いましょう。」
ども、ALICEと申します。
お久しぶりです(^^;
それと初めての方、宜しくお願いします。
いやー、久々の短編、なんか変な感じですけど投稿しちゃいます!(おいおい)
ちなみにこれは、“愛など存在はしない”の前の話に当たります。
もし“愛など〜”を見ていない方はこれを読んだ後にでも読んで見てください。
では失礼します。
これの感想なんか書いてくれると・・・嬉しいな・・・(^^)