【幸せな日常】

 

作・ALICEさま


 

 

 

 

 大学・・・つまんない処だった。

 

 今、思い返しても、確実に無駄な時間だと思った。

 

 

 

 

 

 寄ってくる男は身体目当ての馬鹿ばっか。

 

「ねぇ、今夜コンパあるんだけど、南条も来ないか?」

 

 ほぉら、またこいつだ。

 

 来ないか?じゃなくて来てくれませんか?でしょうが!

 

 ったく!私は行かないって言ってんのに!これだから脳(あたま)の足りない奴は・・・。

 

「ねえ、沙織は今夜どうする?」

 

 周りの女友達も、盛りのついたメス猿ばっかで、男とヤル事しか考えていないような馬鹿ばっか。

 

 ばーか、あんたなんか頭併せに過ぎないのにはしゃいでんじゃないわよ!

 

 自分一人じゃ不安だからって私を巻き込まないでよね!

 

 

 

 

 

 あの頃は、こんな感じの学生生活が毎日繰り返されていて、私は辟易していた。

 

 私にとっての大学と言う場所は最低の所だった。

 

 4年間も我慢していた自分が信じられない・・・。

 

 そんな思いまでしてやっと手に入れたのがこんな陳腐なクソガキ(小学生)の教員免許と中坊(中学生)の英語教員免許だなんて・・・・。

 

 悲しすぎた。

 

 あの我慢した時間が、急に惜しくなってくる。

 

 意味の無い大学なんて入る位だったら就職した方がマシだったかもしれない。

 

 ほんと、日本の教育制度って、意味の無い物以上に埃ほどの価値も無いなんて・・・私も面倒くさい選択したものだと思う。

 

 しかも、未来に残されたのは青臭い餓鬼共の御守りとは、言葉も無い。

 

 

 

 

 

 そして、これが卒業間近の私の心境だった。

 

 

 

 

 

 何時の間にか、私がこのM県宮ノ越(みやのこし)町立藤深(ふじみ)小学校に入ってからもう半年も経った。

 

 社会人の意識なんて欠片も無い。

 

 けれど、一応もう親の脛はかじってられ無い訳で、私は教師なんて因果な商売をやっている。

 

 新任してきたばかりの頃は、こんなコンビニエンスストアーの無いような、田舎に飛ばされた事に対しての運を呪った。

 

 そりゃあ、成績はそんなに良く無かったし、就職戦線真っ最中の時は先生に成りたいなんて思ってもみなかったから、教育実習とかも全然行

かなかった。

 

 面接も1月に入ってからだったから遅かったのも在るかもしれないけど、こんな田舎に飛ばされるとは、流石に思いつかなかった。

 

 其れ位、私の常軌を逸していた程の田舎だったのである。

 

 結局、就職先、初任する学校が決まったのは、2月の半ば頃、雪の降ることの無かった暖かい冬の日。

 

 その時にはもう、私には選択する余地すら与えられて貰えなかった。

 

 既に教員住宅は他の教師で一杯で、私の部屋は無い。

 

 仕方なしに、学校側が指定してきたアパートに渋々移る事になった。

 

 そこでも私は自分自身の、今までの人生の全てを呪ったような錯覚に陥った。

 

 今にも落ちそうな床に、腐った鉄筋・・・。

 

 更には、何年も使われていなかった所為か、大家の物置代わりになっていて、私が持ってきた荷物は3日ほど外に放置されていた。

 

 私の、たった一度の23歳の、若い青春はここで終わったかに見えた。

 

 しかし、私のちょっぴり変わった運命は、ここから、そう、この古いアパートから始まる。

 

 東海林(しょうじ) 輪。

 

 私の教え子でもある彼が私の中のすべてを、運命すらも変えた。

 

 そして、今はなんと私の恋人でもある。

 

 小学6年生、8月に12歳になったばかりの彼。

 

 端から見れば私は幼児趣味の変態にしか見えないだろうと思うと、少しだけ溜め息が出た。

 

 

 

 そんな彼の存在が私の中の何かを変えた。

 

 そう、私は変わって行く。

 

 それが必然で、逃れられないように・・・。

 

 

 

 

 

 幸せな日常(仮称)

 

 

 

 

 

 

 私が彼に始めて会ったのは、こっちに引越ししてから次の日の事だった。

 

 最初の3日間は悲惨な状況だった。

 

 私の境遇と言えば、前置きの一切無い、そんな呼ばれ方でこの町に入った。

 

 その、悲惨な状況と言うのは、先程も述べたように、私の住まいに成るであろう場所、いや、「成るだろう」は付け加える必要は無い。

 

 その場所は物置だったのだから。

 

 大家の東海林さんも、私が来る事自体が突然(私が来る前日に話が在ったらしい)だったので、片付ける暇も無かったのが災いした。

 

 ともあれ、私は大家さんの家族と共に後片付けをしながら、余りに忙しい入居だった。

 

 そんな時、私は彼と会った。

 

 私の第一印象は、覚えていない。

 

 つまり、それくらい平凡な子だったのだと思う。

 

 そして、クラス発表の時に、偶然知った子が、彼だったのである。

 

 更に偶然は続く物で、私は彼のクラスの担任に為った。

 

 新任で担任と言うのも余り聞かない話だが、これにはそれなりの訳が在る。

 

 と言うのも、彼らの前任の先生が産休で1年間の休職届が出されたからであって、最後の方で私の就職が決まったのも、その先生に他なら

ない。

 

 私は、臨時として、この学校の、このクラス、6年2組に来たのである。

 

 最初は、私と彼は只の教師と、その生徒だった。

 

 其れ以外に、彼との接点なんて感じ得なかったのだから。

 

 でも、そんな接点でもゆっくりと、まるでそんな運命が待ち構えていたように、私達は近づいて行く事を知る事に為る。

 

 引力と言うものの存在そのものが、孤立した存在のように考えた事も在ったくらいに・・・。

 

 

 

 

 

 先ほども述べた通り、この今私が住んでいる家は、大家さんの家の物置と化していた。

 

 これが彼との三つ目の接点。

 

 一つ目が、私がここに越して来た(新任して来た)事。

 

 二つ目が、彼が大家さんの孫だと言う事。

 

 そして、三つ目が、この家に彼の物が置いてあった事。

 

 彼が私のクラスの生徒だったと言う事は指して関係が無いと言える。

 

 ま、オマケみたいな物だと思ってくれれば判りやすいと思う。

 

 だって、同じクラスじゃなかったとしても私と彼は絶対に接触があったから。

 

 それ位、私と彼は深かった。

 

 

 

 彼個人との最初の接触と言うか、接点は彼の荷物の中身だった。

 

 その中身は漫画だった。

 

 彼は、漫画を集める事が趣味だったらしく、その冊数は膨大な量に上る。

 

 物置、もとい、私の家に彼の漫画が置いて在った事は必然だった。

 

 引越しの際に、彼の漫画は自分の家に持っていかれる事はは無かった。

 

 そう、今でも私の家の窓際の本棚に入っている。

 

 それは、急な引越しでは全ての荷物は片付けきれず、彼の漫画は私の家に置かれたままだった。

 

 

 

 

 

 私が学校にも馴染んで暫くの事だった。

 

 明日の小テスト用の問題を作ろうと、家でちょっとした仕事をしている時の事だった。

 

 コンコンと、最初は空耳かと思ったノックと、それに併せたような声が玄関から聞こえてきた。

 

「こんばんわ。夜分恐れ入ります。・・・と申しますが南条先生いらっしゃいますか?」

 

 誰かが、夜の7時ちょっと過ぎくらいに訪れた。

 

 肝心な部分が聞こえなかったようだが、私は気にしないで玄関へ向かった。

 

「は〜い。どなたですか?」

 

 と、私の事を先生と呼び、聞き覚えの在る声の主を玄関に出た時、私が見たモノは、私の教え子だった。

 

 こんな時間に生徒が来る事に違和感を感じながら、私は言った。

 

「あれ、東海林君じゃないの。こんな時間に如何したの?」

 

 何か大家さんから言伝があるのかしら?と思いながら彼を見る。

 

 年の割には礼儀正しいのに、私は驚いた。

 

「・・・その・・、漫画・・・・・」

 

 最初、私が彼が何を言ったのか判らなかった。

 

「え?何?」

 

「いや、だから漫画を取りに来たんです」

 

 返ってきた言葉は以外だった。

 

 漫画を取りに来た・・・・・・そうである。

 

 私は今聞いた事が一瞬訳が判らなかったため、もう一度聞き返した。

 

「えっと、何?漫画とか聞こえたけど?」

 

 すると少しいらいらしたような答え方で、

 

「えぇ、ですから、預けてある漫画を取りに来たんですよ!」

 

「?漫画なんか預かってたかしら?」

 

「だから!漫画はまだ持って返ってないから、受け取りに来たんですよ。ほら、あの本棚」

 

 と言って、廊下に置かれた本棚を指差す。

 

 そこまで言われて私は気付き、

 

「あぁ、本棚の奴ね」

 

 と、思い切り間抜けな受け答えをした。

 

「で、漫画持っていっていいですか?」

 

 彼はこれ以上私とは話をしても埒があかないと思ったのか、一気に本題を切り出してきた。

 

「あぁ、はいはい。じゃあ、どうぞ上がって。まだ綺麗には片付いて無いけど」

 

 と、彼を家に入れた。

 

 これが、彼との初めての個人的な接触だった。

 

 

 

「お茶でも煎れるわね」

 

 と、私は持っていこうとしている漫画をスーパーのビニール袋に詰め込んでいる彼の背中に言った。

 

 彼は私に何も返さず、一連の作業を繰り返していた。

 

 

 

 私はお茶を煎れ、適当にお菓子をお盆に乗せる。

 

 彼は一向に来なさそうな感じがしたので私の方が彼の方へ出向いていった。

 

 彼は作業を中断して漫画を読みながら笑っていた。

 

 私は、そんな彼の後姿を見ていた。

 

 気が付くまで見ていようと思った矢先、後ろを振り向いてこう言った。

 

「なんですか?」

 

 私は、行き成りの事ではっと思いながらもお茶を煎れた事を知らせる。

 

 彼は少し不機嫌のようだ、笑っているのを見られたのが気に入らなかったのだろうか?

 

「ん、ありがとうございます」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと、一気にお茶を飲み干した。

 

 私は驚き、

 

「熱くない?大丈夫?」

 

 と聞いた。

 

 彼は私の質問には答えず、

 

「じゃ、帰ります。ご馳走様でした」

 

 と言って立ち上がった。

 

「え?もう帰っちゃうの。少しはお話でもしようと思ったのに・・・」

 

 彼は私のそんな意図に気付くと、申し訳なさそうに、

 

「あ、そうだったんだ。ごめんなさい」

 

 等と可愛い事を言ってくれた。

 

 私は少し意地悪そうに、

 

「そうよ、学校の事とかいろいろ聞きたかった事も在るし・・・ね。もう少し付き合ってよ」

 

 と言った。

 

 そう言うと彼は唐突に御代わりと言って、申し訳なさそうに湯呑茶碗を差し出した。

 

 私は苦笑を堪えながら『はいはい』と言って、台所へ向かった。

 

 

 

 

 

 その後、色々な事を話した。

 

 学校の事。

 

 私の評判。

 

 他の先生の事。

 

 それに彼の漫画の事も・・・。

 

 

 

 私自身が全く知らない事や、新たな事実や、とにかく彼が話してくれた事は全てと言って良いくらいに新鮮だった。

 

 そして、それ以上に羨ましかった。

 

 彼の瞳が・・・。

 

 

 

 はっと、時計を見ると既に夜の10時を越えていた。

 

 流石に不味いと思い、彼も私の表情を見て話を中断して、帰る事を告げる。

 

 私は彼を玄関まで送った。

 

 彼が玄関から居なくなってから、気が付く。

 

 私は、彼に引かれている。

 

 それだけは確かに感じる事が出来る。

 

 一回り近く離れている彼に、私の持っている感情が彼を求めている。

 

 

 

 それは彼の匂いが懐かしいから。

 

 私が欲した過去の思い出が、閉じた筈の思いが音を立てて開かれた感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 仕舞い込んだ過去が今になって私を追ってくる。

 

 そんな悲しい遠い日の思い出・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、お父さんは?

 

 今日は私の誕生日のに帰ってくるの遅いよ。

 

 ねぇ、お母さん、どうしたの?

 

 ねぇ・・・・ねぇってば!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れた感傷。

 

 

 

 子供の頃、走り続けた草むら。

 

 

 

 毎日遊びつづけた公園の砂場。

 

 

 

 最後の誕生日。

 

 

 

 壊れた学校のブランコ。

 

 

 

 学校帰りの駄菓子屋。

 

 

 

 授業中の下らないお喋り。

 

 行きたくも無かったクラブ活動。

 

 

 

 部活帰りの雑談。

 

 

 

 休日に友達との買い物。

 

 

 

 初めてのデート。

 

 

 

 キス。

 

 

 

 希望の無い進路相談。

 

 

 

 大学入試。

 

 

 

 詰まらなかった毎日。

 

 

 

 そして、鏡の中の私・・・笑っている。

 

 

 

 全ての時間は止まっていた。

 

 只、走り続けるだけの毎日で疲れ切っていた。

 

 面白いくらいに回りつづける日常。

 

 私の意思とは裏腹に繰り返される怠惰と情景。

 

 他人を嫌いに為りきれなかった結果。

 

 必要以上に求めた矜持(きょうじ)ですら今と為っては意味は無い・・・。

 

 そんな私には何も残って居ない。

 

 

 

 

 

 でも、最後に彼が笑っていた。

 

 

 

 そんな、懐かく悲しい私の全てが彼に繋がった時、私は現実に戻された。

 

 

 

 

 

 気が付くとそこは、生徒達も給食を食べ終わり、昼休みの賑わいを漂わせ始めた教室だった。

 

 他の生徒達が校庭や体育館に遊びに行く中で彼だけは独り、窓際で視線を遊ばせていた。

 

 私はそんな彼に声をかける。

 

「東海林君?何やっているの?」

 

 普通に、何でも無い普通の担任のようなつもりで・・・。

 

「別に・・・、何も・・・」

 

 それが彼の答えだった。

 

「何も・・・って、貴方は友達と遊ばないの?」

 

「・・・・ん?あぁ、別に・・・こっちの方が気が楽だし」

 

 私の質問を聞いていたのか聞いていないのか判らないような感じだった。

 

 それ以上に、彼の雰囲気は私に対しての拒絶の意思が明らかだった。

 

 私はそれ以上何も言わずに彼から離れた。

 

 

 

 

 

 既に彼は私の中では男として居続けている。

 

 それは最初からでは無かったが、私は彼を生徒としての視線では見る事は無かった。

 

 彼の瞳が私を狂わせていたから。

 

 彼の持っている私が欲しかったモノが何時も私を嘲笑っていたから。

 

 

 

 私は、彼に抱かれたがっている。

 

 それが私にとって心地よい事であるから。

 

 都合の悪い事には目を瞑って・・・。

 

 それが私自身の本当の姿だからこそ、余計に苦しくなってくる。

 

 それでも私は自分を許している。

 

 

 

 

 夏休のある日、私は彼から借りていた漫画を返すのと、次の巻を借りようと思い、彼を呼んだ。

 

 そして私は自分自身と彼を裏切る。

 

 自分自身が汚れたいと言うのは建前。

 

 そんな事まで自分自身で判っているのが嫌だった。

 

 そして、そんな私自身を笑っているのがキモチヨカッタダケ。

 

 過去の自分自身を肯定したいが為に彼を汚す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は彼に対して、自分自身への悲しさをぶつけているだけなのかもしれない。

 

 私はそんな自分の考えが急に怖くなってきた。

 

 これでは同じだった。

 

 自分が馬鹿にした連中と同じで、彼を、輪を汚しただけに過ぎない最低な女である事が恐ろしかった。

 

 私が求めているモノ。

 

 それは自分でも判らないくらいに狂おしい程の幸せな日常。

 

 あり得ない日常。

 

 あり得ない幸せ。

 

 気が付くと私は、求めていた日常と幸せに足を踏み入れていた。

 

 それが恐ろしかった。

 

 嘘でも本当でも、そのどちらをも信じるのが怖かった。

 

 結果の持っている絶対的な許しと罪科が嫌だから・・・。

 

 何がなんだか判らなくて、気が触れてしまいそうなくらい残酷に、涙を流す。

 

 感情が堰きを切って溢れ出してきたのが、遠巻きながらに判るのが滑稽だった。

 

 自分が判らなくなって、何で泣いているのかすら判らないくらいに声を上げて泣いた。

 

 止まらない、いや、止める事が寂しくて悲しすぎて、それが余計に惨めな気がしたから。

 

 だから止めなかった、涙を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣で寝ていた輪が私の激しい嗚咽で目が覚めたのだろうか?

 

 ふっと、私がくしゃくしゃの顔を上げたときに、私以上に不安そうな瞳の輪が私の涙で揺れていた。

 

「先生?どうしたの?どっか痛いの?」

 

 と、聞いてきた。

 

 私は何も言わずに彼を抱きしめた。

 

 そして、何度も何度も誤った。

 

 自分がした事に対して、彼を汚した事に対して、何度も誤った。

 

「なんで誤るの?先生は僕に何にも悪い事なんてして無いよ。誤る必要なんてよ」

 

 私は、彼が許してくれたとしても、誤りつづけた。

 

只単に癒しが欲しかった。

 

 すると、彼は、先程私が彼にした大人のキスでは無く、優しいキスで私の涙を拭った。

 

私は泣きたかった。

 

 それは自然だった。

 

彼にそれを求めたのは口実。

 

 彼は雰囲気で、私にキスを選んでくれたのだと思う。

 

私は、泣き場所が欲しかった。

 

 彼がまだ幼く子供だからこそ、それは、不思議と落ち着いていて違和感が無かった。

 

自分が強いと思い込む為に・・・。

 

 寧ろ、そこら辺の男共のキスなんかより男らしいと思う。

 

祈りを捧げるために・・・。

 

 そんな優しいキスに、私は最近の子供はまったく・・・等と思いつつも、その雰囲気を確実に味わっていた。

 

ゆっくりと眠るために・・・。

 

 私は、泣くことすらも彼に許してもらえた事で安心しきって眠ってしまった。

 

私は・・・人の温もりの中で微眠みかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の目覚めは心地よかった。

 

 ふっと気が付くと、隣に居るであろう筈の彼の姿は既に、布団から消えていた。

 

 家に帰ったのだろうと思う。

 

 

 

 既に、日の光は部屋中を暖かな陽気に包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、彼の瞳の色、深い藍色が目の前の空間に広がったような気がした。

 

 そして、気付く。

 

 私は恋をしていたのだと・・・。

 

 純粋な、そして薄汚れた恋を・・・・・・・輪に・・・・・。

 

 それでも、私は許して貰えるだろうか?

 

 貴方になら、私は許して貰えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 これから先の未来は判らない。

 

 次の年には、私はもうこの学校に居ないかもしれない。

 

 例え彼が卒業するまでこの学校に私が居たとしても、私自身はこの町に居続ける事は無理のように思える。

 

 其れでも、私は今生きている時と、その先の未来に少しでも希望を持ちたいと思った。

 

 希望を持って生きて行きたいと思った。

 

 だって・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 それだけ「今」は優しかったのだから。

 

 

 

 

 

 私は思う。

 

 世界に果てなんて無い・・・と。

 

 世界の果てなんて、そんな幻想のような世界があったとするなら、それは結局逃げる事のように思える。

 

 私はまっすぐに歩いたとしても必ず元の場所に戻っている。

 

 雲だって、世界の果てを目指して風に流されていたとしても、雲は「永遠」に辿り着く事はない。

 

 私が今逃げ出したとしても、私は必ず戻ってくる。

 

 それがどんなモノだとしても、それが何であろうと。

 

 だから私は、今、私が愛して、そして生きている事を実感する。

 

 夢のような現実に、そんな風に吹かれる事が気持ち良いと判った時、私は知ることが出来る。

 

 

 

 その風が、私の前を、私の心(なか)を吹く風が、私の風に為り、私の匂いを彼に運んでくれることを・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから・・・・・・・・・・