何故、あなたは何時も泣いてるの?
何故、あなたは何時も嘘を付いているの?
何故、あなたは…私を求めるの?
そこには何も無いのに碇君はひたすらに求め続けている、母親の影を。
そこには“あなた”にとって絶望でしかないのに、どうして……?
…私は貴方の母にはなれない。
私は“綾波レイ”だから……。
私は“ヒト”だから……。
だから貴方にはなれない。
でも、私には貴方しかいない。
なのに私は貴方になれない。
私は貴方を愛してくれているのに、私には、愛などは存在しない。
私にとって貴方は奇跡なのかもしれない。
誰よりも愛しい私の奇跡。
だから私は貴方に愛されたい、そして愛したい。
だから私は…。
貴方は過去に、もう一人の私に言ってくれた。
笑えば良いと…。
だから私は笑っていたい、誰よりも、何よりも、貴方のために。
そして私の為に。
私は貴方に、私を見つけて欲しい。
”綾波レイ”を見つけて欲しい。
そして貴方自身を見つけて欲しい。
”碇シンジ”を見つけて欲しい。
だから、貴方も笑って、そうでなければ、私には愛など存在はしないのだから。
「…ィ。レ…。おい…イ、レイってば、レイ!」
彼の声が私を戻した。
目の前には彼が、私の夫が不思議そうな顔をしている。
「どしたの?ボォーっとして」
「えっ?何」
「だから、どうしたの?って聞いてんだけど…大丈夫?」
「大丈夫とは失礼ねっ!私は平気よ!ただ……」
「ただ?何?」
「今、前の事…思い出していたの」
「昔のって、あの頃の?」
「うん、碇司令……義父さんのこととか、貴方のこととか、ずっと前の事……」
彼は悲しそうな顔で呟く。
「ずっと、前のこと……か。そうだな…もうずっと昔の事だな」
彼は過去と“決別”出来た人。
そして私を求めてくれた人。
…ただの人として。
「どうして、突然思い出したの?」
彼は不意に何故私が急に過去に囚われたのか聞いて来た。
「外……」
そう言って私は窓に視線を移す。
「外?」
「雨が降ってるから」
私は続ける。
「雨が降る日は何故か色々と戻ってくるの。昔の私や、アスカや泣いてばかりの貴方の姿とか、ホントに色んなことが…」
「レイ…」
しまった、ちょっと雰囲気が暗くなちゃったかな?
何とかしてこの雰囲気を脱しなきゃ。
「……ところで貴方は昔の私と今の私、どっちが好き?」
ちょっと意地悪な質問、だけどいつから私はこんなことも平気で言えるようになったんだろう?
でも彼が何て答えてくれるのか少し気になった。
「わからない…でも僕はいつもレイと一緒だった。それに今もレイといるから」
私は思った。
ここにいても、貴方の側にいても良いのだと。
いつの間にか雨は止んでいた。
そして窓からは優しい太陽の光がこの街の全てを潤していた。
キッチンからは彼の包丁の音と、彼と娘の笑い声が聞こえて来た。
仲良く二人で料理をしている、ってなんでカオルが包丁持ってんのよ?
「ちょっと貴方、何でカオルに包丁持たしてるんですか。まだ危ないじゃないのよ!」
「何言ってんだよレイ。こういう事は早めにやっておかないとミサトさんみたいに……」
とそこまで言った時、
「……パパ、血……」
愛しい愛娘の指から血が!?
「「カオル大丈夫!?」」
何時の頃からだろうか、私たちには愛と言う言葉は必要としなくなった。
だって、いつもそこには愛があるのだから。
後書き
ALICEです。
最後にレイです!
でも、これ続くかもしれません。
では、また。