アスカの出会い

 

作・ALICEさま


 

第三新東京市、そこは現代科学の結晶である。

 

だが、そんな科学の中にも野生はある。

 

陽射しの強い午後の下校時、シンジとアスカは仲良く?帰っていた。

 

そんな時、空気を切り裂くような怒鳴り声がする。

 

「ちょっと、もう少し速く歩きなさいよ!」

 

それとは対称に気の弱そうな答えが返ってくる。

 

「そんなこと言ったって、二人分の荷物を持ってんだから・・・・。」

 

「何言ってんのよ、わたしと一緒に帰れるんだからそれぐらいは当たり前でしょ!ったく情けないんだから。」

 

「でも・・・。」

 

「デモもストライキもないの、黙ってついて来ればいいのよ。」

 

「・・・・・・・・まったくアスカは人使いが荒いんだから。」

 

「なんか言った、シ・ン・ジ君?」

 

そんな怒気の入った声で脅されたシンジ君は、

  

「い・い・いいえ、な・な・んでもないです。ハイ。」

 

「そう、ならいいのよ。ほら行くわよ。」

 

シンジは諦めたかのように溜め息を吐くと、トボトボとアスカについて行った。

 

 

暫くすると、アスカが突然止まり下を向いていたシンジはアスカにぶつかってしまう。

 

シンジは思わず目をつぶってアスカの平手を受ける準備をした。

 

「あれ?」

 

いつもならここでシンジはアスカに殴られるのだが平手が来なかった。

 

そんなアスカを覗いてみると、彼女は目の前の何かを凝視していた。

 

シンジもアスカの見ている視線を辿っていくと、行きついた先には黒い何かが蹲っていた。

 

タヌキである。

 

黒いそれは僕とアスカの両方を見つめている。

 

そんな時、アスカが突然声をあげる。

 

「あっ、あの子怪我してる。」

 

よく見ると、その子狸は足から血を流していた。

 

「ホントだ、足から血が出てる。」

 

「ちょっと、親は何処にいるのよ?自分の子どもが怪我してるってのに。」

 

僕はひょっとしてと思ったので、

 

「アスカ、あの子、足を怪我してるだろ。だからお父さんかお母さんが気がつかなくて置いて行かれちゃったんじゃないかな?」

 

「でも酷い親ね、それに気が付かないなんて。」

 

「でも、大丈夫だよ。多分、途中で気が付いて迎えに来るって。」

 

「ってことは、シンジはあの子をこのまま放ったままにする気?」

 

「え、そうだけど、アスカは家に連れて帰る気だったの?」

 

「そうよ、当たり前じゃない、怪我してるのよ!」

 

「でも、駄目だよ。家はマンション何だから。」

 

「ちょっと、あんたそんなに冷たい奴だったの?それに家だってペンペンがいんのよ。大丈夫よ。いい、わたしが連れて帰るって言ってんだから、あんたはそれに従ってればいいのよ!」

 

「・・・・・はいはい、分かりました。でもミサトさんに見付かっても知らないよ・・・・って聴いてないし。」

 

アスカはすでに子狸の脚にハンカチを巻いていた。

 

本来、狸という動物はとても臆病で人に触られたり、大きな音がしたりすると気絶したり、はてには死んでしまったりもする動物なのだが、アスカが手当てしている時に脅えた様子も無く、むしろアスカになついているようにも感じられた。

 

帰り道にアスカはその子狸にリカオンという名を与えた。 

 

 

マンションに帰って来た時にはその子狸はシンジにもなついていた。

 

餌はミルク、すり潰した果物や野菜ですんだがトイレの問題が大変だった。

 

なんと床にそのままぶちまけたのである。

 

リカオンはそこを自分のトイレにしたようである・・・・。

 

まぁ、そこに新しく猫用トイレを設置したから良かったのだが。

 

そしてペンペン、そうここにはもう一人の住人がいたのである。

 

ペンペンとリカオン、彼らの激突は必至と思われたが、食生活の違いもあってか武力衝突は無かった。

 

いろいろあったが最初の一日目は難なく過ぎていった。

 

そうミサトが帰ってこなかったからである。

 

しかし、その夜ミサトの悲鳴が響き渡る。

 

「ちょっと、シンジ君、アスカこれは一体どういう事かしら?」

 

ミサトの額には血管がピクピクと震えていた。

 

「えっと、その、その子が、脚を怪我してて、それで・・・。」

 

「それで?」

 

ミサトはお冠のようである。

 

「その、それで・・・・。」

 

もはやシンジに打つ手無しと思われた時にアスカが、

 

「んもう、だらしないわね。シンジは黙ってなさい、あたしが言うわ。」

 

やはり口論ならシンジよりアスカの方が得意なのであろうか、 

怒涛の勢いでミサトに食って掛かる。

  

「この子は怪我してたのよ・・・・・・・」

 

「でも、アスカ・・・・・・・・・・」

 

しかし、その中でアスカがミサトに言った。

  

「この子は今親がいないのよ、怪我が治るまでで良いから、お願い、ミサト。」

  

ミサトと言えども、このアスカに真に頼みごとを言われたのである、断れることも無く、怪我が治るまでならと言う条件でリカオンがこのマンションに住むことを許された。

 

その後、怪我も順調に治り、野生に返せるようになってもリカオンは帰らなかった。

 

アスカが返さなかったのである、ミサトもその時すでに情が入っていたのかリカオンがこのまま暮らすことに反対しなかった。

 

シンジだけは何も言わなかったが、余りこの事を芳しくは思っていなかったようであるが。

 

そんなこんなで、リカオンが葛城家の一員になってから一ヶ月が過ぎた頃の日曜日、突然リカオンが泣き出したのである。

 

アスカには突然のことで何が起こったか判らなかった。

 

「リカオン?どうしたの?」

 

お昼ご飯も食べたし、昼寝もした、病気も持っていないだろうし怪我もとっくに治った、リカオンが泣き止まない要素がアスカにはサッパリ判らなかった。

 

その時シンジは、何かが思い立ったらしく、ベランダにでて外を見まわしていた。

 

そして目的を見つけると、

 

「アスカ、ちょっと来て。」

 

「なによシンジ、今はそれ所じゃ無いのよ。この子が泣き止まなくて。」

 

「いいから、早くここに来てよ。」

 

「まったく、なによ・・・・」

 

アスカはしぶしぶリカオンを抱いてベランダに出ると目を見開いた。

 

アスカは動けなかった。

 

そんなアスカの目に映るにはリカオンでは無いもう一匹の狸。

 

多分、彼の母親なのだろう。

 

シンジは呆然としているアスカに優しく、いつもより思いやりの

ある声でアスカに言った。

 

「アスカ、外に出よう、リカオンをお母さんに返してあげよう。」

 

アスカはリカオンをぎゅっと抱きしめて、俯く。

 

シンジは続ける。

 

「アスカ、僕は母さんはいないんだ。小さい頃に死んじゃった。だから今では僕の小さい頃の記憶だけの母さんしかいないんだ。でも、リカオンにはお母さんがいるんだよ。アスカ、きっとお母さんは、リカオンのお母さんはリカオンに会いたいよ。だから返してあげなきゃ。」

 

だがアスカは声を荒げて、

 

「わたしだってこの子の母親よ!嫌、絶対返さない!」

 

シンジはアスカをなだめるように、

 

「でもリカオンはここで暮らすより、もう一人のお母さんと一緒に、自分の生まれた所暮らす方が幸せなんじゃないかな?それに例えリカオンは帰ったとしても・・・もう一人のお母さんのこと、アスカのこと絶対に忘れないと思う。」

 

「シンジ・・・・」

 

「だからアスカ、ねっ。」

 

アスカはリカオンを見つめながら肯く。

 

「・・・・・・うん。」

  

アスカは母狸の前に来ると名残惜しそうにリカオンを抱きしめる。

 

そんなアスカにシンジは、

 

「アスカ・・・ほら、放してあげなきゃ、お母さんが待ってるよ。」

 

「うん、でも。」

 

「大丈夫、大丈夫だから。」

 

シンジがそう言うとアスカはリカオンの事を見つめると、そっとリカオンを放す。

 

アスカは望んだ、リカオンが母親の所に行かずに自分の所に戻って来てくれることを。

 

だが、それは起こらなかった。

 

リカオンは母狸の所に走っていくと母親に飛び込んでいった。

 

アスカはずっと見ていた。

 

彼が、リカオンが喜んでいる姿を。

 

だがアスカは泣かなかった、必死に涙を堪えていた。

  

そんな母子の再開の儀式も終わり、彼らが山に帰ろうとした時、リカオンはアスカの所に駆け寄って来て彼女に甘えに来たのである。

 

アスカはリカオンの事をもう一度抱きしめると、そっと放す。

 

放たれたリカオンはもう一人の母親に駆けていった、彼は何度も何度も振り返った。

 

そしてもう少しで見えなくなりそうな所で立ち止まると、アスカのことを見つめお辞儀の仕種をした。

 

彼なりの別れだったのかもしれない。

 

それからリカオンは二度と振り向かずアスカの視界から消えて行った。

  

アスカはリカオンが見えなくなると堪えていた涙がポロポロと零れ落ちて来た。

 

涙は止まらなかった。

 

シンジはそんなアスカが急に愛しくなってきていつの間にかアスカの事を抱きしめていた。

 

アスカも何も言わずにシンジに抱きしめられながら泣き続けた。

  

その夜、アスカは一人では眠れなかった。

 

だからシンジの部屋に行った。

 

「一人じゃ眠れない、寂しい、さみしいよ・・・。今夜だけで良いから、一緒に寝さして。」

 

いつもならこんなことは悪戯だろうと思うシンジだが今夜だけは違った。

 

アスカの涙が優しかったから、アスカの想いが純粋だったから、アスカが愛しくてどうしようも無かったから。

 

だからシンジはアスカを抱きした。

 

シンジに抱きしめられたアスカは母親に抱かれた赤ん坊のように全てをシンジに任せて瞳を閉じた。

 

その時、アスカは夢を見た。

 

リカオンが自分の子供たちを連れて自分に会いに来てくれる夢を・・・・・・。

  

 

 

後書き

ど〜も、ALICEです。

今回は一風変わって、アスカの話を書いてみました。

どうだったでしょうか?

資料とか無かったので狸君の事はいい加減です。

「ここが違〜う」とか「こんなの狸じゃない」と御思いの方もいらっしゃいますでしょうが、どうかご勘弁を。

ありがちなネタですが、感想とかくれると、うれしいな・・・・・。

ALICE 11/10 pm11:40


みゃあの感想らしきもの