朝の四時、まだ誰も起きてはいない時間の街の鼓動に俺は身震いした。窓を開けるとまだ陽は出ておおらず、今にも消えそうな三日月だけが一人、寂しげに笑っている様に見えた。
何気にまだ暗い空を見ながら俺は、今朝の寒さが何時もと違う様に感じられたので、
「こりゃ、一雪来るかな?」
そう思った。無論、俺が「そう思った」だけで実際に降るとは限らないのだが。でも何故か「今朝は雪が降るだろう」そんな感じがした。
その時、少し強い風が入ってきたので身を縮めて、
「おー、寒々」と、思わず口にした。
何時もは『さーて、今日も頑張るか』と空に向って言うのだが、今朝は違う言葉を漏らして俺は窓を閉めた。
冬の朝は寒い、それで無くても今日の様な雪の降りだす直前は、降っている時に増して寒い。だから今朝は何時もより重装備になった。手袋なんて、毛糸の手袋に軍手、革手袋の三枚重ねだ。
少し用意に時間が掛ってしまったので少し急がなくてはいけなくなった。
「さてと、イッチョ行きますか!」
俺は寒さに震えながらも小さなボロアパートの玄関から飛び出て、愛自転車『ベルニナ号』に跨ると一路『朝目新聞城崎新店』へと急いだ。
何時もの朝なら少しくらい冷たくても新鮮に感じる匂いが、今日に限っては余りに冷たく、痛かった。身を斬るような冬の風を少し恨めしく思いながら、信号で待っている時だった。頬に少しだけ何か冷たいものを感じたので、若しやと思い空を見上げると、案の定、雪だった。街灯から漏れる光に反射した小雪がキラキラと輝いていた。白いため息交じりに思わず、
「ハァー、やっぱり降っちまったかー」
俺は漏らした。
雪はまだ小降りなのだが、強くなりそうな気配は在ったので少し急ごうと思い、ペダルに入れる力が強くなった。
俺は今朝の新聞配達は何時もよりきつい物になりそうだと思った。