『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』

第四話「聖戦(ジハード)」

作・D・Sさま

 


 

『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』

 

            〜第四話『聖戦』〜-ジハード-

 

『この世は今まで5つの人類が存在していた....初めに金の人類、次に銀の人類、次に青銅

 

の人類....彼等はその凶暴性ゆえに神の洪水によって滅ぼされた.....次に英雄の人類、そし

 

て今の人類....私たちは鉄の人類と呼ばれている......』〜ギリシア神話より〜

 

 

 

男はその夜何度目か忘れてしまった欠伸をした

 

退屈そのものだった

 

本当なら今日は非番で家族で野球を観にいくつもりだった

 

しかし夜のニュースでわかったが彼の応援する『NEO横浜ベイスターズ』は惨敗

 

ちょっと気が晴れた...観にいかなくてよかったと思えたからだった

 

男はまた今日何本目か分からない煙草に火を付けた...

 

非番が無くなったのは同僚の警備員が殺されたせいだった

 

この二日間、警備員が四人殺された

 

特に最後の一人は男の親友であったため男は流石にショックを受けた

 

(何者か...このNEOSに恨みをもってるらしいな)

 

そう男は思いながらふー、と白い煙を天井に吹き付けた

 

男はふと思い自分を見た

 

もう45歳になっていたが中年太りは始まっていない

 

しかし、着実にそれは男を襲いつつあった

 

(こりゃ、ダイエットが必要だな)

 

また、男は天井を向いた...息を上に浮くのが癖だった

 

そのとき、警報システムがけたたましい悲鳴を上げた

 

男ははっと、思い画面に眼を向けると中央に赤点が一つ

 

『なんで真ん中何だ?』

 

男は自分がそれを言葉に出していたのに気付きはっとした....親友はもういないのだ

 

 

 

NEOSの警報システムはそれが殺傷兵器にもなっていた

 

定時になるとNEOS前には電磁波が恐ろしくなる程照射される

 

それによって不法侵入者を避けていた

 

画面はその電磁波が乱れると反応する

 

そしてその画面は照射範囲全てを映し出す

 

つまり侵入者がいるなら画面端に出るべきが今回は真ん中であった

 

 

 

男は防護服を着込み、急いで侵入者へと向かった

 

(侵入者はドジをしたな...もう少しで本部だったのに)

 

 

 

 

 

ミサトは焦っていた....自分ではそう思わなかったが

 

NEOSの防犯システムは対処があった.....電磁波は誤魔化せる

 

その方法でアツシも侵入していたのだから

 

暗闇に紛れ素早く移動した

 

瞬敏さは3年前から何一つ失われていなかった....それがこれを招いた

 

服がピッという音を発てた.....見ると枝が引っかかっていた

 

ミスった、そう感じた次の瞬間には身体がどんどん熱を帯び、立てなくなった

 

電磁波の影響だった....電子レンジに入ったのと何の変わりは無い

 

自分が誰かも分からなくなっていた、熱が身体に影響を及ぼしていた

 

警備の男が来たのはその後だった

 

『貴様、立て...ゆっくりと』

 

そういわれてもミサトは立てなかった....身体はもはや主人の言うことが理解できない状

 

態だったのだ

 

『電磁波にやられたか....まぁいい』

 

自分の傍に男が立ったのが分かった

 

懐中電灯が顔に当てられ相手の顔は分からなかった

 

『どうせ、死ぬんだからな.....』

 

自分の意識が遠のくのがミサトは分かった

 

死...そう思いながらもミサトは明日のリョウジとの朝食のメニューが頭に浮かんだ

 

 

 

 

 

男は一歩ずつ慎重に足を運んだ

 

(これが作戦かもしれない)

 

親友が殺されたことが頭に浮かんだ...それが彼の行動を慎重にしていた

 

次の瞬間、男は自分の首に強烈な一撃を食らったのが分かった

 

そして自分が倒れるのが分かった

 

薄れゆく意識のなかで男は自分と地面の作った音を聞いた

 

(やっぱり、ダイエットが必要だ....こんなでかい....お...と...じゃ.....)

 

男は沈黙した

 

『ミサトさん!ミサトさん!』

 

誰かが私を呼んでる?

 

リョウジ?

 

もう朝なの?

 

わかったから...ご飯でしょ?

 

ミサトはゆっくりその眼を開き....リョウジではなく、シンジをみた

 

ぼんやりと先程の出来事を思い出した.....自分は死ななかった

 

『大丈夫、ミサトさん?』

 

ミサトはなんとなしに答える

 

『えぇ、大丈夫』

 

はっと、思いシンジを見る

 

『シンジ君が助けてくれたの?』

 

シンジはまだ安心できなかったが問いに答えた

 

『えぇ、警備員には眠って貰いました...防護服があるからとりあえず死なないはずです』

 

ミサトは違和感在る自分に気付き、答えが見つかった

 

(シンジ君、元に戻ってる?)

 

『さぁ、行きますよ、MAGIまで』

 

『えっ、じゃぁここは?』

 

周りを見ると....冷たい床、長い廊下、NEOS本部内であった

 

シンジは眼が冷たくなっていった....いつもの会長としてのシンジに成りつつあった

 

『ミサトさん、許可は出してないはずだけど...まぁ、もう言いけど』

 

『申し分け在りません』

 

ミサトもつい口調を変えた

 

『それより、急がなくては』

 

『なぜです?』

 

シンジはため息を一つはき、質問に答える

 

『理由は二つ、警備員が眼を覚ます前に片付ける、そして情報では今日が『最後の日』だ

 

からだ』

 

『最後の日....?』

 

その問いにシンジは答えなかった

 

その代わりに彼は急ぐぞ、といい走り始めた.....

 

 

 

 

 

ノボルは一人MAGIの最上段にいた.....

 

なにをするでもなく.....たたずんでいた

 

不意に自分の後頭部に冷たい感触を感じた

 

銃の冷たい感触....体温が流れるのを感じた

 

そんな状況でも笑みがこぼれた

 

『......誰だ?』

 

『お久しぶり...葛城ミサトよ...覚えてる?』

 

笑みが再びこぼれた...後ろは見えない....人間は不便だ

 

『そうですか....お元気ですか?てっきり死んだものかと』

 

わざと”死んだ”を強調した

 

『残念ね、生きてたのよ』

 

ミサトも明るく答えた...銃さえなければ世間話そのままだった

 

『そうですね、マコトが聞いたらどんなに喜ぶか....』

 

『そう、彼も入ってるの...』ミサトの表情が少し曇った.....そのとき

 

『私も入ってるんです...葛城さん』

 

ミサトの後ろには銃をもって微笑むマヤがいた

 

『銃を置いて下さい....死にますよ』とマヤ

 

その声は単調で抑揚のない....本気の声だった

 

『置くのはマヤさん....あなただ』とシンジ

 

シンジは予め予想し、その上をいっていた

 

シンジはマヤに銃を突きつけた.....ゆっくり銃を置くマヤ

 

ノボルはその聞き覚えのある声にヒューと口を鳴らした

 

『シンジ君、やっぱり君か』

 

『そうですね、残念ながら』

 

『3年前からは想像出来ないな、君を』

 

『世間話はそこまで....説明をしてもらいましょうか?』とミサト

 

『どこからですか?』とノボル、その言い方はまだ自分が優勢だと疑わない、そんな声

 

だった

 

そんなノボルの態度を意に返さずミサトも優しく、しかし冷たい声で言う

 

『始めから最後まで、よ』

 

『じゃ、天国の扉、元セントラル・ドグマに行きながらいいましょう』

 

そのとき、ノボルは伸びをしたがミサトもシンジもそれを深く理解しなかった....

 

 

 

 

 

シンジはエレベータに入りまず監視カメラを銃で壊した

 

まるで注射を打つように、平然と....

 

他の誰もその行動に怯えたり、行動に表わさなかった

 

 

 

『まず、3年前.....』ノボルはそう狭いエレベータ内でいいはじめた.....

 

サード・インパクトは起きなかった

 

それはミサトの活躍があったからこそである

 

その後.....ミサトは死んだと誰もが思っていた

 

特にマコトはそうだった

 

ミサトの死にショックを受け、何かが弾けた.....凄まじい音を立てて

 

それはリツコを失ったマヤも同様であった

 

そしてNEOSに籍を移し、彼等はトップ3になった

 

彼等はゲンドウの過ちを生かし各々がトップになった

 

一人が全てを握らず....役割を分けた

 

そして....2年前

 

『ギルガメッシュ叙事詩は知っていますか?』とノボル

 

『あぁ』とシンジ

 

『古代シュメールの神話ね』とミサト

 

『そう、あれは不死の男について書いてある』

 

『それが?』

 

『その男の捕獲に我々は成功した.....』

 

ミサトは少しの狼狽を見せたが表情は変えない

 

『続けて....』

 

『そう、成功した....ところでギリシア神話について知っていますか?』

 

『....ある程度は』

 

『ギリシア神話にはこうある....人類は今まで5回あり各々金、銀、青銅、英雄、そして今

 

の人類は鉄......』

 

『それで?』

 

『我々の研究では捕獲した男は金の人類の生き残りとなっている』

 

『...........』

 

『金の人類はそもそも神と共に暮していた....神と同等の力があった』

 

『力?』

 

『そう....わかりにくいですが....それは事象の結果のみを面前に出せる力、とでもいいま

 

すか』

 

『説明を』

 

『つまり神の力です...思ったことを物理法則関係なく出せる....そんな力ですよ』

 

『そしてその力を使おうと...』

 

『正確にはNOです...その力を自分のものにするんですよ』

 

『!!』

 

エレベータが止まった....セントラル・ドグマに着いたのだった

 

『そうそう、3年前までの使徒、あれは青銅の種族だった....神に洪水をおこされ滅亡し

 

た...ね』

 

セントラル・ドグマ...現天国の扉....はからっぽだった

 

あるのは精密機器...そして電磁波で囲まれた、オリだけだった

 

そう.....オリだけだった

 

オリのなかには.....ミサトは気が狂った男は正しかったと今さらながら思った

 

光る物体がいた

 

青白い、とか気味悪い色ではなく神々しい金色の光りを放っていた

 

『これが金の人類....神の力を持つ人類だよ』

 

ノボルは見せつけるようにそういった

 

『今日、計画は実行される』

 

唐突にそう言うノボル

 

『えっ?』

 

『金の人類との融合ですよ、葛城さん』

 

『!!』

 

『ゼーレの失敗を繰り返す気!?』とミサト

 

『いえいえ、ゼーレは所詮「おおいなるバビロン」だっただけですよ...』

 

『「おおいなるバビロン」?聖書正典の』

 

『その通りです、葛城さん』

 

『そしてそれが倒れた今、「最後の日」は来たんですよ』

 

『私たちを解放して貰えませんか?』

 

『何を...』

 

『解放しろ』とシンジ

 

ノボルはまたヒューと口を鳴らす

 

ミサトは何か言いたげだったがグッと堪え解放した

 

『流石、シンジ君....雰囲気あるね、父親そっくりだ』

 

その言葉がシンジの心を動かした

 

『条件だ....私の父親、そして母親を返して貰おう』

 

『そうだな.....まぁいい.....マヤ』

 

マヤは機械に向かって歩き始め何かを入力し始めた

 

そして....隠し扉が開き.....ゲンドウとユイが現われた

 

ゲンドウはいつもの雰囲気を失わず立っていた

 

ユイは元気そうだったが疲れているのが眼に見えて分かった

 

シンジは何も言わず立っていた

 

マヤはまだ機械に向かっていた

 

それにミサトが気付いた

 

『あなた、何をしているの?』

 

マヤは何も言わず立ち上がり.....笑みを浮かべた

 

『もう、それは意味がないですよ、葛城さん』

 

そして徐(おもむろ)に銃身を掴もうとした

 

一発の銃声が響いた....ミサトが寸前で発砲していた....

 

『だから...無理ですよ』

 

マヤは立っていた....何もなかったように

 

そして、その前には....六角形の赤い......A.T.Fそのものが存在していた

 

これにはシンジもその表情を変化せざるを得なかった

 

『青銅の人類の力など....解明すれば簡単だよ』

 

と、ノボルは勝ち誇った笑みを浮かべながらいった

 

ミサトは舌打ちをして、銃弾が尽きるまで撃った....が結果は無駄だった

 

『私たちにこの力を教えるということは....生きて返すつもりは...ないということか』

 

『そうだね....残念だが』

 

ノボルがその右腕をさっと挙げると....頭の上で銃器の音が響いた

 

戦略自衛隊!!シンジは舌打ちをそっとした

 

『では、人類の神となる瞬間を見るがいい....マヤ』

 

マヤは機械に向かい作業を進める

 

ミサトは阻止せんと機械に銃弾を撃ち込んだ....しかし機械にもA.T.Fが張られていた

 

『無駄ですよ、葛城さん』

 

”葛城さん”に強調が加えられ、ミサトは少々怒りを感じた

 

『じゃ、始めようか、ユイ』

 

ユイは同意の印に頷き、最後のスイッチを押した

 

オリが今までになく光り始める.....最後の日の始まりだった

 

『さよならだ、碇シンジ君』

 

『まだ、終ってないんでね....さよならは早いな』とシンジ

 

しかしその声には十分に苦汁が含まれていた...それを感じノボルは勝利の美酒を感じた

 

オリの前に二人が立つ....と、電磁波をものともせずゆっくり中へと入っていった...

 

『では、とりあえず銃を頂こうか?皆さん?』

 

振り向くと戦自の兵士が立っていた....顔には負け犬を笑う表情が浮かんでいた

 

と、突然その兵士が地面に倒れた....潰されたカエルのような声をもらして

 

『ここは......変わってしまったわね』

 

すらりと伸びた細い足、スレンダーという言葉が似合うその身体、髪は氷のような薄い

 

青、そして....忘れもしない赤い瞳.......綾波レイその人だった

 

『綾波!』

 

シンジはこの3年間出したこともないような大きな声を出しその女性の名を呼んだ

 

そう女性....綾波レイは十分に成長していた、以前の冷めた表情は理知的に変化し眼は優

 

しい色を浮かべる方法を修得していた

 

『久しぶりね...碇君』

 

外の状況を見たノボルが叫ぶ

 

『青銅の種族!?なっなぜお前が!?』

 

レイはゆっくりとその問いの答えを始める

 

『あなた達の考えを虚無に返すため...そして私のため』

 

シンジは一瞬綾波に見入ったが我に返り告げる

 

『綾波、A.T.Fを』

 

『分かっているわ』

 

そのとき上で声が響いた

 

『ちっ撃て!』

 

シンジ達に無数の銃弾が襲う....しかし一瞬早くレイのA.T.Fがそれを防ぐ

 

『よしっ、早く』シンジは何かを閃いていた

 

『えぇ』レイもその考えに気付き走り始めた

 

『マヤ、まだか!?』叫ぶノボル

 

『駄目、間に合わない』

 

レイは機械のA.T.Fを中和しそこに透明なすき間を作り出した

 

まるで蒸気機関車が蒸気を吹き上げるような音を立て、A.T.Fが中和していく....

 

シンジはそこに銃弾を残らず叩き込んだ

 

その直後ノボルとマヤの悲鳴が始まった

 

『うぉ、き、消える!!?』

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

それは瞬間とも永遠ともとれる断末魔の叫びに似た、悲しい性(さが)の声だった.....

 

シンジは片手を挙げ、叫ぶ

 

『脱出だ!レイ、ミサトさんと母さんを頼む』

 

レイは何もいわず頷き、二人と共に走り始めた

 

『会長、シンジ君、あなたは?』とミサト

 

シンジは何もいわず親指を立てる仕草を見せた....”幸運を祈る”その仕草だった

 

戦自は今この部屋に向かわんと階段を降り始めていた

 

シンジは自分の父、ゲンドウの顔をじっと見ていた...ゲンドウも同じだった

 

シンジはゆらっと動き、懇親の力でゲンドウを殴った

 

ゲンドウはそれを黙って受け.....少しの微笑みを浮かべた

 

シンジはそれをみて頷き、ゲンドウと共に脱出を開始していた

 

 

 

 

 

戦自は後から追ってきていたが任務を発するものがいなくなり士気は落ちていた

 

シンジは冷静だった....この状況における最善策を考慮し続けていた

 

ふいにシンジは下半身に力が入らなくなった....そして倒れた

 

自分で自分を見ると.....撃たれたのが理解できた

 

弾は貫通していたが....いかんせん急所に近すぎた.....

 

意識が急激に失われていく......眼が霞む....何も言えない....何も聞こえない

 

ゲンドウはそのときシンジを支え、その名を叫び続けていた

 

シンジは自分が二人いるのを始めて実感した

 

一人のシンジは泣き、アスカの名を繰り返し叫んでいた

 

もう一人のシンジは冷静だった

 

15秒後....意識を完全に失うまで彼は最善策を考慮していた

 

          『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』

 

             〜第四話『聖戦』〜-ジハード-完


 

みゃあと偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの。

 

みゃあ「うい〜っす、みゃあッス。なんか…すごいことになってますね」

シンジ「半分くらい分かりません(笑)」

みゃあ「D・Sさまは色々と神話などに造詣が深いですねぇ。みゃあは全然知らないことばっかりで……(^^ゞ」

シンジ「でも……あそこで綾波が出てくるとは思いませんでしたね」

みゃあ「いやいや、どっかで出ると思ってましたよ(笑)。さすがレイちゃん、おいしいところをさらって行きます(^o^)」

シンジ「父さんも母さんも生きてましたね」

みゃあ「うみゅ。ただ…マコト・シゲル・マヤの三人がかーいそうだなぁ(;_;)」

シンジ「ですねぇ。みんなには味方として出て欲しかったです」

みゃあ「……さてっ!次回はいよいよ最終回。長かったシリーズが終わりを告げます」

シンジ「次はアスカも呼んだ方がいいですよね?」

みゃあ「そだね」

誰が為に〜4