『誰が為に鐘は鳴る 〜祭日〜』
第二話「表裏」
作・D・Sさま
『俗に悪魔といわれる者はホンの少し道を逸れたがためにそう呼ばれる
彼等は道を変えれば聖人と呼ばれる運命だった』〜D・S〜
その朝のニュースをアスカは興味津々で見ていた
『.....それでは『Cleaner』代表の川中アツシさんのコメントです』
TVのスクリーンにはそうリポータに呼ばれた川中アツシその人が映る
『...私たちは慈善団体としては歴史が浅いですが活動はその倍はこなすよう努力していま
す』
アスカはTVから眼を外しシンジのほうへ振り返った
『すごいわよね〜、今度は食料物資を無料で奉仕したんですって』
シンジは興味がなさそうにしながらもアスカの意見に花をそえる
『そうだね、あの団体は立派だと思うよ』
慈善団体Cleaner・・・2015年創立以来数々の活動をこなし、その行動の早さは他の団体
の群を抜きいまやその世界では知らないものはいない、といわれる
その設立当時からの会長川中アツシは某一流大学を卒業後、福祉に目覚めこの団体を設立
した.....といわれる報道は半々の割合で当たっている
シンジはその事実に最も近くそして最も深く知っている
アスカはシンジのそのなんと無しの返答に少しの苛立ちを覚えつつも何も言わなかった
福祉の精神は豊かな心を持つ者がすること.....シンジは心に深い穴があるから...
『シンジ、じゃ後は頼んだわよ』
『わかってるよ、アスカ、今日も頑張ってね』
シンジ、アスカは玄関に立ちそう今日の一時の別れを言う
『お昼には一度帰ってくるから』
『うん、いつも通り待ってるよ』
そういってアスカはホンの気持ちつま先立ちになる....シンジは成長期にあった
シンジはそんなアスカの傍により....キスを交す
そのとき、タイミングを図ったかのように侵入者
『あ〜ら二人とも朝からみせつけるわね』
侵入者はしばし見物する....髪の長い一言でいえば美人に該(あた)る人だった
その声の持ち主は葛城ミサト、その人であった
『ミサト!チャイムがあるんだからしなさいよ!』
と、見られて満更でもなさそうなアスカ....ミサトの周りをじっとみる
『あれ?今日はリョウちゃんは?』
『あ、今日は保育所よ』
アスカは確かめるようにふーんという
『じゃ、シンジいってくるわね』
『いってらっしゃい』とシンジ
『ミサトもリョウちゃん早く迎えにいくのよ』
『わかってるわよ、いってらっしゃい』
『いってきます』
アスカは昔と...3年前と変わらぬ仕草で家を後にした
そしてドアが閉じ.....その瞬間から空気が変わった
いや、空気のにおいが変わった....人間らしさがなくなり....血生臭さいにおいへと....
シンジとミサトはしばらくお互いを見る....シンジがゆっくりと口を開ける
その口からは先程とはまるで違う....冷たい声が漏れる
『なんの....報告がある?』
『それは.....ここでは...』
『そうだな....入れ』
ミサトはシンジの後に連れて入っていった
シンジとミサトは家のなかの一室....窓も飾りも無い....そんな部屋にいた
あるのはミサトが今座っている椅子...そしてシンジの座っている椅子....その目の前の机
のみであった
ミサトは目の前の人物...シンジを眼で測る
この子はまるで変わってしまった
いや、まるで別人が碇シンジに成り済ましているように.....そう、碇ゲンドウが.....
私の目の前にいるのは見た目が少年の..シンジ君の..皮をかぶった碇ゲンドウ
あの日....私はサード・インパクトを防ぐのに成功した
私の息子...葛城リョウジの父親、加持リョウジの想いを果たした....
しかし、それがこの少年の心に深い傷を負わせる結果になるとは知らずに....
碇ゲンドウ、ユイ....少年の肉親はあの日死亡した
それは少年が死の淵をさまようまでのショックを与え....
そして少年碇シンジを死亡させた
自暴自棄の生活がこの少年を襲ったが光明はアスカであった....そしてもう一つ
碇ゲンドウは生きている
それを知ったのは3年前....初めはあやふやな情報でしかなかったが....
碇ゲンドウはNEOS内に軟禁状態にあると明らかになったのはつい最近
それ以来救出する時をただ待っている
『それで?どうしようと画策している?』
『私と致しましては....誰かを侵入させるのが一番の得策かと』
『......だろうな』シンジは答えを知っていたかのように答える
『しかし、問題はあります、会長』とミサト
『NEOSは今何かを実行しようとしており、警備は並ではありません』
『川中、だな』
『そうですね、彼が適任と私も考えます』
『作戦実行予定日は?』
『今日深夜0300』
『方法は?』
『正規のIDを内密者から提出されています』
シンジはなにか見えるのか天井を見上げる
『この作戦の責任者は?』
『私が全責任者ですが』
シンジはそれを聞いてミサトに眼を向ける
『それは駄目だ....私とミサトさんはまだ眼に触れてはならない....他にしろ』
『はい』
『それと....NEOSの画策については?』
『今の所確かな情報はありませんが』
『それを探るため侵入者をあと三人増やせ』
『三人ですか?』
『...そうだ...二人にはあまり知らせるな....捕まるための囮だからな』
シンジの眼は冷たく、その発言をミサトへ押し付けた
『はい』
シンジは何もいわず机上の電話を手にした
『.....私だ....今夜計画を実行....責任者は他で.....そうだ....奇麗にな』
シンジの最後の発言....『奇麗に』とはシンジが会長であることを知っている者へ、この
発言が自分からの直接の指令であることを示すキーワードであった
受話器を置き....ミサトの方を一瞥する
『計画は実行....成功を祈ろう』
『はい』
シンジはおもむろに立ち上がり腰を伸ばした
ミサトを見るシンジの眼はいつもの....アスカといるときの眼だった
『さて、アスカがそろそろ帰ってくる時間だ.....食べていきますか?』
『えぇ、そうするわ』
アスカはちょうど12時に戻ってきた
それは昼ご飯をシンジと共に食べるためであり、もう一人いるのは計算外以外の何者でも
ない
アスカはじっとその乱入者....ミサトを見、そしてシンジを睨んだ
その眼は明らかにこのことをミサトがいなくなってから文句にすることを示していた
アスカは14時にはまた仕事へ向かった....ミサトもその頃には帰っていた
シンジは自分の書斎へと向かい、彼の一応の仕事でもある小説を書き始めた....
それは甘いロマンスで....その中でシンジは本来の自分を描いていた
この小説は終ることはない...もし終るならば...それはシンジの少年としての心の崩壊を意
味していた....この小説を書き続ける限り少年、碇シンジは生きている
時刻(とき)は一刻を争っていた....
闇の中にひっそりと.....影がいた....
そう、影....碇シンジの影として生き、それを望んだ川中アツシがそこにいた
彼等の任務はそれぞれ異なっていた
一人は碇ゲンドウの救出
一人はNEOS調査
そして他の二人にはそれぞれのサポート、という形の囮としての任務が課せられていた...
侵入はうまくいっていた....ここまでは
入るまでは特に問題はなく.....IDは正規のものであったからである
建物に入る...
防犯カメラは意味を成さない....観察者が気付くときはもう既に彼等はいない計画だから
であった
彼等のうち一人は元ネルフ職員であった....
一時はNEOS職員となったが、今までのそしてあの日の出来事が彼に自分のしたことへの
後悔の念を起こさせ....そして慈善団体へと導いた
建物の前で彼はこれが...あのネルフか...と思わせた
実際その考えは正しかった
建物はもはや要塞都市の名にふさわしい...要塞そのものだった
建物はなにか生き物のように見え、自分になにか訴えかけるように...見えた
だが、彼にはその訴えが助けを求める声か神のように戒める声かは分からなかった
建物内はひっそりとしていた....かといって廊下を歩いていたわけではない
彼等は通風口の中を....真っ黒なタイツで全身を隠し迅速に進んでいた
通風口の中は嫌なにおいを漂わせていた....人間の欲望のにおい....
少々の酸味と汗臭さの混じった....人間の....におい
彼等はその中を腹ばいで進み、途中で二手に分かれた
何も言葉は交さなかった....交せばそれが自分の最後の言葉になるかもしれず...それを考
えないために....
川中アツシは目的の場所へたどり着き....後ろにいる若者に確認をとる
若者は合っている、と親指を立てた
換気口から覗くと...一人の男の姿が眼に映る....碇ゲンドウかは分からない
しかし、男が椅子に縛り付けられている事をアツシは確認した
そして若者のほうに振り向き同じく親指を立てた
アツシは助けようと焦る若者を手を広げる仕草で抑え、真っ黒な自分の顔面全体を覆うマ
スクを外した...ふっとため息を一つつき...小声でいう...
しかし、その声はTVの時とは違い...威圧感のある絶対的な声であった
『....ここにいろ...もしものときは....碇会長にお前が伝えるのだ....』
若者はそれを聞き...また親指を立てる仕草をした
実際これが川中最後の言葉となった....
アツシは巧みな道具捌きで換気口の蓋を外し縛られた男の背後へと立った
アツシは男の顔を確認しようと正面ではないが見える位置まで顔をひねった.....
びくっと自分の身体が頭より先に反応した
振り返ろうと首をひねると....目の前が真っ暗になり.....意識を失った
若者は一部始終を確認し、自分がまるで映画のカメラのように目の前で起きていることを
現実味のないレンズで見つめていた
代表は碇ゲンドウとおぼしき人物の背後に立った...
その次の瞬間こちらからの死角から一人の男が現われ....銃を代表の背中に突きつけた
代表の身体がホンの少しの反応を示したのが分かった
その後...ホンの数瞬後....代表の頭がピクリと動いたかと思うと...銃が頭に振り落とさ
れ...代表は床に...まるで糸を失った人形のように倒れた
その後は知らなかった....身体が先に反応し、代表が捕まったと頭が理解するより早く通
風口を身体が滑っていた....彼は今や大事な証人であり...大事なのはこれは一刻も早く会
長に伝えることであった
アツシはかなり酷い頭痛と共に眼が覚めた
全身はびしょ濡れで起こすために水をかけられた事が容易に理解できた
ぼんやりとした視界の中で必死に何かを...会長の役に立ちそうな情報を探した....もう役
に立たない事も分かっていた...しかし探した
自分の目の前に男....しかし、ライトの関係で顔は見えない
ようやく意識がはっきりしてくると隣には同じく侵入したメンバーの一人がいた...明らか
に泳がされていたらしい....こんな状況でもふっと笑みがこぼれた
目の前の椅子に座る男にはそれが気に喰わなかった
アツシともう一人....眼鏡をかけた男....の隣に立つ男に一瞥をくれた
男は戦略自衛隊の制服を着ていた....その男がアツシの腹に重い蹴りを入れる
アツシは身体が弓なりに二つに折れ、胃液を床に吐き脂汗がにじみ出てきた....
椅子に座る男はそれをみて満足し、制服の男がまだ足らない、と足を振り上げたのを手で
制した
男は立ち上がり、縛られた二人の男に抑揚のない声で聞く
『何をしていた?』
眼鏡の男が隣を見る....アツシは促すように顎をしゃくった
眼鏡の男が寒さか、この後の死を恐れてか震えた声で聞く
『お前達の目的を探っていた』
男はやれやれ、というように肩をすくめ....そして抑揚のない声
『お前達は泳がされていたのだよ』
『..........』
男はふっと鼻で笑い、口には残酷な笑みを浮かべた
『お前達の会長はお前達を裏切った』
『うそだ』
『そう思いたいのならいいが....だがお前達を裏切ったものを信じ、まだ役に立とうとす
るとは.....馬鹿もここまで来ると芸術だな』
『うそだ!』
眼鏡の男はそう繰り返していたが眼は動揺を隠せなかった
『ほぅ、会長がそこまで信頼されているとはな.....あの男が』
『なに!お前は知らないはずだ』
『それも今日でお前達にも分かったはずだが?なぜお前達が来るのを知っていたと思
う?裏切りは簡単な痛みで起きるのだよ』
『うそだ....』
眼鏡の男の声は既に覇気を失い、迷いがその勢力を強めていた
それを見た男が少しの哀れみを込めた声でいう
『お前達を逃がしてやってもいい』
男はそういった
『なに?』
『逃がしてやってもいいといっている』
『.......?.....』
『ただし、会長に伝えろ....二度と関わるな、と』
眼鏡の男はちらりとアツシを見る...その眼には疑問と死への恐怖の色が浮かんでいた
アツシはこくりと頷いた
『わかった....』
『そうか.....ちゃんと伝えろ....もう関わるな、と
お前達を帰すのは人柱とするためだ、それ以外ではないことも伝えろ』
眼鏡の男とアツシは目隠しをされ部屋を連れられて出ていった
男はライトの前に立った
男の名は.....青葉シゲル.....NEOS幹部の中の一人であった
そして一番真実を知り、それを手に入れることを望む男
顔に嫌な笑みを浮かべ....電話をとる
『餌は会長と何らかの形で接触を図る......そう....殺すのはその後...だ』
『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』
〜第二話『表裏』〜完
みゃあと
偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの。
みゃあ「な、なんか……すごいコトになってますが?」
アスカ様「……こ、これがシンジ?」
みゃあ「いや〜……すっっっっごい変貌ぶりですねぇ。何が彼をこうさせたのかっ!?」
アスカ様「……いやっ」
みゃあ「は?」
アスカ様「こんなシンジはいやあっ!い〜や〜よおぅ〜!!」
みゃあ「あ・久しぶりにアスカ様が錯乱モードに入った(^^ゞ。面白いからしばらく見てよっと」
アスカ様「あう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
アスカ様「おひぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
アスカ様「ぬへぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
アスカ様「シンジぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
みゃあ「……(^^ゞ。キリがないな、こりゃ。次でアスカ様がこっちに戻ってくることを祈りましょう」