『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』
第三話「舞踏(ロンド)」
作・D・Sさま
『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』
〜第三話『舞踏』〜-ロンド-
アツシと眼鏡の男は何一つ言葉を交さずNEOSを後にした....
アツシの心は揺れていた....これは罠だと告げていた....明らかにそうであった
しかし、生きて出られた高揚感がそんな疑問を些細なものとして扱わせていた
眼鏡の男は眼にはまだ恐怖の...絶対的な死への....色を浮かべてはいたが、それを上回る
が如く生きて今ここにいる喜びを感じていた
『会長に伝えなくてはなりませんね』
アツシは何も言わず、ただ同意の印を頷くことで示した
30分位は歩いたであろうか、眼鏡の男はしきりに後ろを振り返っていた....まるで後ろに
は魔物がその鎌首をもたげ待っているかのように
前方に後光が射したかのように光が見えた...それは電話ボックスの光だと分かるのにさし
て時間はかからなかった
眼鏡の男はまるでデートの時間に遅れた者の様に急いで受話器を掴み番号を押し始めた
アツシは考えていた....自分の今決定した決断は正しいと、しかしそれはこの目の前の男
を...自分を不幸にするということを
番号が次々に押されていった....二つ、三つ、四つ、
番号が七つ目を、3を押したその時アツシは表情を何一つ変えず自分のジャケットに手を
入れ....銃を取り出した....そして上空を眺め、口を閉じ鼻から空気をはいた
そして八つ目を眼鏡の男が押したその瞬間....眼は....瞳孔が少し開いた自分に気付き笑み
がこぼれた....殺る時に今までと変わった行動をするとは.....らしくないな
銃は眼鏡の男のこめかみに入り込み...電話ボックスのガラスを赤く染めた
そしてアツシは自分のこめかみに銃を当て、引き金を、ドアノブをひねるが如く簡単に引
いた....電話ボックスは二人の血で、まるで赤いカーテンがひかれた様に染まった
そう、二人の悲劇に対する鈍帳が下りるが如く
アツシは最期....ほら、死ぬのは簡単じゃないか....そう考えていた
その日のニュースはアスカのみならずシンジの眼もひいた
『.....現場です、ここにあのCleaner代表の川中アツシさん、そして最高幹部の一人が倒
れていました。そして何といっても悲劇は二人の死因が銃による頭部破損、そしてその出
来事は代表川中さん本人の手によって行われた事です....現場からは以上です』
朝のニュースはひっきりなしにこの悲劇を報道している....それはそうだろう...昨日イン
タビューに答えた人物が自殺...しかも今最も活躍していた人物
アスカは呆然としながらニュースを見ている...ご飯を食べることすら頭から抜けていた
アスカの茶碗からご飯の塊が床に落ち、小さな山を作った...死者へのお供え物のように
同時刻.....NEOS本部
マヤ、ノボル、マコトの三人がひっそりと会議を開いていた
マヤが口を開いた
『まさか、自殺を選ぶとは....』
マコトはその意見に助長する
『昨日、我々はいなかったが.....会長を捉えるための餌を簡単に無駄にしたな』
ノボルは二人の意見を聞き終ると.....ゆっくり口を開いた
『まぁ、そうでもない....奴らは餌としてはよく働いた』
二人には理解できない
『どういうことだ?』
『奴らは電話をかける寸前までいった....その途中までは記録され残っている』
『そうか.....結果は?』
『8桁まで残り....通常10桁ということを考慮し....100人が絞られることになる』
『それはどうでもいい....最終的な結果は?』
『...これだ』
と、分厚いファイルを自分達の三角形のテーブルの真ん中に滑らせた
『これの中の誰かか』
マコトは君の仕事だと言わんばかりにマヤを見る
マヤはマコトの視線を感じつつも気に止めない
『MAGIは通したんでしょうね?』
ノボルは肩をすくめ....言う
『そうだな...一応はな』
『結果は?』とマヤ
『こいつだ....』
ノボルが今日二つ目のファイルを滑らせる.....二人の眼の届く距離に止まった
ファイルにはコンピュータ出力を表わす印が有り....その一番上には
Shinji Ikari 99.5%
とだけ記されていた
二人は驚きを隠せない
そんな二人の反応を楽しむノボル
『彼が?』とマヤ
『そうだとMAGIはいっている』
『手は打ったのか?』とマコト
『あぁ、二人を張らせている』
マコトは息を長く吐き....椅子を座り直す
『そうか....彼が....か』
『まだ、終了はしていない....問題は山のようにある』
とノボルは二人に言い嫌味な笑いを浮かべる
『まず、金の人類は?』
マコトの表情は厳しい表情に戻り....明確に言葉が口からでる
『あぁ、それは問題ない....予定通り後三日だ』
『次、情報操作の必要がある、川中のな』
『それは任せて貰おう』とマヤ
『嘘をつく必要はない...真実を出せばそれでいい』
『わかっている』
ノボルはその答えが良かったのかどうかは分からないがまた笑みを浮かべた
『真実....我々がこうしているのも全て真実のためだ』そう切り出す
『あぁ、わかっている』
『そう、お前達は故人のためでもあるがな』
『お前は分からないがな』とマコトはノボルに言い放った....そして席を立った
『それでは....失礼する』
部屋の中にはマヤとノボルが残った
『マヤ....君はリツコ博士のため、マコトは葛城三左のため.....』
そういわれたマヤは不快の表情を表に出した
『失礼』そういったのは部屋を出る直前...扉の前だった
『あぁ』
ノボルは部屋に残り前方を凝視していた....何か未来が見えるかのように
表情はなかった....そして口を開く
『ゼーレ、ゲンドウの失策は三位一体の精神に欠けたこと、そして死海文書へ頼りすぎた
こと.....どちらも今は.....遠い過去、か』
目の前には何も見えない暗闇が広がっていた
シンジのマンションの前に車が....まったく同じ車が二台止まった
運転手二人は車を降り、どこかへ歩いて行った.....
マンションのドアが開くのをサラリーマンが二人見ていた
二人の運転手に一瞥をくれたが、それほど彼等の心は動かなかった
マンションのドアが開いた....出てきたのは間違いなく碇シンジであった
しかし彼等はシンジを追えなかった
シンジは出てきた.......そしてその後にもシンジが出てきた
そう、シンジが二人出てきて別々に先程の車に乗り込み走り去って行ったのである
サラリーマン....NEOS職員は....二人いたが、車は一台のみだった
尋問は素早く迅速に行われた
調書はとってあるものの、新鮮な記憶はそれ以上の収穫をもたらす可能性を秘めている
シンジは目の前に座る二人の男を凝視していた
やがて一人の男へ問いかける...その声は強制力を秘めた優しい声であった
『お前は何を見た?』
男がゆっくり答える
『私は....ゲンドウ....会長のお父上とおぼしき人物を視認致しました』
『なぜ「おぼしき」と?』
『顔は見ていません、しかし個人的意見が許されるならば間違いな...』
『個人的意見は関係ない....下がっていいぞ』
男は顔色を少し紅潮させながらも席を立ち....シンジに深々と会釈をした
もう一人の男は....あまりの恐怖を浴びたのか、頭がおかしくなっていた
シンジはそんなことは関係ないとばかりに男の眼を覗き込み、問う
『お前は、何を見た?』
『....私は猫....鼠は毒ぐも.....あんたは会長....いるかは空を飛ぶ......』
シンジは臆することなく席を立ち、机を回り男の傍に立つ
そして胸ぐらを荒っぽく掴むときつくいい放った
『お前は見た物を言う義務がある!』
男はその声に仰天しシンジの手を払い除け部屋の隅まで走った
『俺は、俺は、何も見てない!ただ光る物を....神を見た!!』
そういって自分の首を物凄い勢いでかき始め.......首から血がにじみ始めた
『あの男を24時間監視付きで施設に入れろ』
そうシンジは言い、他の出席者のほうへ向き直った
シンジはミサトの方へ椅子を向け聞く
『どう思う?』
『なんとも言い難いです...ただ一応の訓練は受けておりあそこまでの発狂はそのショック
がかなり凄まじかった事を意味しています』
『そうだな』とシンジ
この子は他人を不幸にして何も感じていない---そう心でミサトはつぶやいた
『確かなのは...奴が潜入した....セントラル・ドグマに何か在ること....』
『そう、ですね』
『作戦は?』
『私が侵入をする、これがベストです』
シンジは不快の表情を表に出し、
『駄目だ』という
『しかし、川中がいない今、出来るのは私ぐらいで...』
『許可はしない』
『なぜです?会長』
『それはここでいう必要はない、言えるのは許可しない、それだけだ』
ミサトは食い下がる
『しかし、他に方法が』
『それを考えるのがここだ....他の立案者は?』
誰も手を挙げるものはいなかった
『そうか....では考えろ、他の手を』
シンジはそう言い残し部屋を後にした
部屋を退出後...シンジは急な吐き気に襲われた
ミサトはじっと退出するシンジを見つめ....考える
私を行かせたくないのは身の危険を案じて、ね
彼は私を家族のように思ってくれ、その事実を大切に扱ってきた
.....それが彼の心の最後の砦....薄っぺらい...砦
ミサトは幹部のほうへ向き直る
『他の案を持つものは?』
誰も手は挙がらなかった
ミサトは表情を変えずに言う
『後二時間話し合い....結論はその後で』
今度は全員が同意を示した
その日の夕方のニュースはアスカへ大きなショックを与えた
シンジは我関せず、とばかりにご飯を口に運び続けていた
『....そう、あのCleaner代表川中という人物は調べてみると意外な経歴がでてくるんで
す...まず彼は元CIA日本支部非合法員...通称イリーガルだったんです....イリーガルとは基
本的にCIAとは関係のない生活を送り、必要なとき....主に暗殺等手を汚すという呼び方の
仕事を膨大な報酬でこなす、というもので死亡したとしてもCIAからは何もないという...
つまり、雇われ兵みたいな事を彼はしていたらしいのです......そしてフランス外人部隊軍
曹だったという経歴もでてきました....これは現在ICPOに尋ねていますが、まず間違いな
いことです......』
この記者は嘘を言っていた.....情報は全てNEOSから流れたもので調べてはいない
しかし、他は全て真実だった
『ま、まぁ人間今が大事よ....死んじゃったけど.....過去は関係ないわ、ね?』
アスカは助けをシンジに求めた
『そうだね、過去よりは今、過去を見ながら走れば未来に障害があっても見えなくなるか
らね』
『そうよね』
シンジの家にまた血生臭さい....赤い空気が溜まった
ミサトはシンジの顔を見つつ報告を始めた
『.....ということで侵入は全席一致で二日後深夜に行われることになりました』
シンジの顔に不快の色が見え隠れした
『......私はそれを否定したはずだが?』
『わかっております、しかし他に良策が無く...』
『しかし、許可はしない』
ミサトはつい間違いを侵した
『シンジ君、これ意外に方法は....!』
シンジは表情無く言う
『副会長、私をこの場で名前で呼ぶな』
『申し分けありません...しかし』
『.....許可は出さない....理由は分かるな?』
『私の身を案じてるのでしたら....』
シンジの表情は一変し苦痛を堪える様な、苦しそうな表情へと変わる
『それも、この場では言うな.....』
『はい』
『では、帰れ、良案を期待する』
次の日
シンジの家の電話が鳴り響いた
シンジは電話を取り、耳を傾ける.....言葉は出なかった
『.....情報です.....侵入決行....副会長....お一人で...プツッ』
電話は切れた、がシンジは受話器をまったく置く気配を見せずそのまま立ち尽くしていた
夜......
今日のシンジは何か変だった
良く言えば情熱的....悪く言えば無理やり
私を奪うが如く激しく求めてきた
私はシンジのものなのに....
まるで最期のように
私は何処へも行かないのに.....
まるで別れのように
それは行為の後.....分かった
シンジは私が寝たのを....寝てはいなかったが....確認して服を着始めていた
そして私の傍に立ち頬にそっと口づけをした.....
その後の言葉を私は今繰り返しいっていた.....
『アスカ、ちょっと出かけてくるよ...帰りは朝早いかな?もし昼までに帰ってこれたら今
は君には言えない言葉をいうよ....そして君に全てを話すよ...今まで何があったか、何を
したか....僕には君がいた....だから生きてこれた....感謝の言葉もない....でも、僕がもし昼
までに帰らなかったら....君に酷い裏切り行為を犯したことになるね.....だから帰ってくる
よ.....必ず...必ず....君を迎えに来るから......』
シンジは最後のほうを咽びながら言っていたようだったが、気のせいだろうか
ほら、やっぱり違った....咽ぶのはあたしの声だ......
アスカは布団のなかでシンジを止められなかった自分に対して泣いていた.....
シンジ、シンジ、あたし信じてるから.....迎えに来て、必ず
その日、シンジは出ていった.....アスカを残して
『誰がために鐘は鳴る〜祭日〜』
〜第三話『舞踏』〜-ロンド-完
みゃあと
偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの。
みゃあ「う〜ん……どシリアス〜〜〜〜」
シンジ「ですねぇ」
みゃあ「って、なんでシンジくんがここにいるの?」
シンジ「何言ってるんですか。アスカが今日は出られないからって、僕を呼んだのはみゃあさんでしょう?」
みゃあ「あっ!そうだったそうだった。アスカ様、錯乱し続けてダウンしちゃったんだっけ」
シンジ「はあ……あれは僕じゃないって言ったんですが……」
みゃあ「む〜〜〜…。ま、まぁ今回はいなくて正解かも。また錯乱しそうだし(^^ゞ」
シンジ「……ですねぇ」
みゃあ「ま。最後はハッピーエンドに違いないから、アスカ様にはゆっくり療養してもらいましょう」
シンジ「はい、分かりました」
みゃあ「では…次回はクライマックスですね?」
シンジ「そう……みたいですね(どきどき)」
みゃあ「ではまた次回」