続・2つの記憶〜演奏〜
第三話「融合」
作・D・Sさま
演奏会の日は容赦なく近づいてくる...
後15日になっていた
アスカと僕は学校、シンクロ・テストの後の練習、そして暇さえあれば演奏する音楽を聴いていた
そんなことをしていると、アスカとの使徒を倒すためにしたあの共同生活が思い出される
あのころのアスカは僕をとるにたらない、そんな簡単な存在程度にしか思っていなかったと思う
何をするにも、そうじゃない、こうじゃないの連続だった
僕は僕でミサトさん--僕を初めて受け入れてくれた人--との生活を壊す存在としかアスカを見ていなかった...
それが、今ではまるで...簡単にいえば違った
お互いがお互いを必要としていた
なんか信じられないような、奇妙な、変な気分でもあり、とてもその事実がうれしい
演奏する曲は決まっていた
全5曲でそれぞれ、僕の決めた曲、アスカの決めた曲、そして最後は加持さんの好きな曲
アスカは加持さんが好きだった.....
それが僕の心に辛くのしかかる
アスカはどう感じているのだろう?
好きな人が突然消えてしまったのだ
なにも、なにも、お別れも云えないままで......
加持さんは最期誰を想って死んでしまったのだろう
やっぱりミサトさんかな?
それとも他の誰か?
加持さんは何処で死んでしまったのだろう
路上?ミサトさんの胸のなか?加持さんの菜園?
それとも他のどこか?
加持さんはどうして死んでしまったのだろう
ミサトさんがいまやってることが原因?
それとも他の何か?
ふいにそれが僕の心を満たしていった.......
『シンジ君のシンクロ率に変化がみられます』
『おかしいわね......シンジ君?』
僕は突然名前を呼ばれ、現実へと戻った
『えっ、リツコさん、なんですか?』
『シンジ君、余計なことは考えないで』
『.....はい......』
演奏会までは後1週間になっていた
リツコさんがテストの結果をいう
『シンジ君、もう一度いうけどシンクロ中は余計なことは考えないで』
『はい』
『かなり、疲れてるみたいね....シンジ君?』
『いえっ、そんなこと....』
突然アスカが手をあげる
『は〜い』
『なに?アスカ』
『シンジはね、ちょ〜と疲れてるけど、後1週間だけだから』
『どういうこと?』
『へっへ〜、もう言っとこうかな〜』
それまで無言だったミサトさんが身をのりだす
この1ヶ月間僕らが密かに何の練習をしていたのか聞きたいらしい
『あっあれね〜もうすぐ約束の1ヶ月だー』
『そーよミサト、あたしとシンジが演奏会をすんの!』
ミサト同様無言だったマヤさんが興味をひかれたらしい
『えっほんと?』
『もちっ、ほんとよ、あたしがヴァイオリン、んでシンジがチェロ』
『へー、シンジ君チェロできるんだ?』
『いえっ、そんなうまくないですよ』
『シンジはね、5才からやってるのよ、いくら才能なくたって継続は力ってやつよ』
『えっ、でいつやるの?』
『1週間後!』
『1週間後?....じゃ〜その日はみんな誘って聴かせてもらうわよ』
『えっ?』
『なに驚いてんのよっ、シンジ!聴衆は多いほうがいいわよ!』
『うっうん』
『じゃー決まり、みんなで来てよね?場所はジオフロント内.....森の中の広場ね』
『OK、シンジ君?お父さんはどうする?』
『えっ、とっ父さんはいいです』
『だめよ、シンジっ、ミサトちゃんと声かけといてね』
『いいの?シンジ君』
『いいに決まってるわよね〜シンジ』
いいどもった僕にアスカが近づいてきてそっと耳打ちした.....
『(あんたね〜自分の成長を父親にみせないでどーすんのよ?)』
自分の成長.....その言葉がなぜか耳に残った
『シンジがいいって、ミサト』
ミサトさんはわかったわ、といいつつもちょっと影が残る表情をした
その表情が僕にあることを思い出させた
『じゃ、あなたたちご苦労様、帰っていいわ』
『は〜い』
『....はい....』
アスカと綾波は並んで出ていった
そのときアスカは強引に綾波を誘っていた
僕は残っていた
『シンジ君?』
『ミサトさん、聞きたいことが...あります』
『なに?』
『加持さんの....加持さんのお墓はどこに...あるんですか?』
一瞬その場にいた全員に緊張がはしった
『そう、加持のお墓は...といっても遺体はないんだけど....』
『.......』
『ここの、加持の菜園は....知ってる.....いえ、シンジ君に聞いたんだもんね』
『はい』
『そこの1角にあるわ....』
『わかりました....ありがとうございます...ミサトさん』
僕は素早く一礼すると一目散に走っていった
アスカはシンジを待っていた
始めは疲れかとも思ったが、シンジは何か深刻そうだった
しかも、終った後シンジはその場に残っていた
(なんだろう....なんかあったのかな......あたしには.....何も...いってくれない....)
突然シンジが走っているのが見えた
こちらにはわき目もくれない
『シンジッ!』
しかしシンジは気付かず走っていった....
(なによ、バカシンジ、どうしたってのよ!)
必死でシンジの後を追うアスカ
広場でシンジをみつける
『.....?.....』
森の中へ、中へとシンジはいってしまう
あわてて後を追う
『もう、何があんのよ、こんなとこ』
シンジはスイカ畑にいた
『なにここ、なんでスイカがこんなとこにあんの?』
シンジはスイカ畑の一角にたつ板の前にたっていた
そーと、近づくアスカ
『ねーシンジっ、こんなとこはじめてみ......』
板には記されていた
加持リョウジ BORN1984-DEAD2015
息をのみ、立ちすくむ
そのまま、後ろへ1歩、2歩と下がり、気付いたときには走って森を抜けていた
息切れがきつい.....
息切れはいつしか嗚咽に変わっていた.....
シンジは墓標の前にたっていた
遺体がないとはいえこんな簡単なものとは....思いもしなかった
『加持さん....いってたことが....死ぬときはここって....本当になってしまいましたね』
そういって、無理な微笑みをうかべる
『加持さん...聞きたいことが....言いたいことが...ありすぎて...』
そう、聞きたいこと、言いたいことは嫌というほどあった
しかし、なにひとつ頭に浮かばない
そのときシンジには加持との思い出が駆け巡った......
---君がサードチルドレン....碇シンジ君かい?---
---加持さんっていい人みたいですね?----
---おいおい、容赦ないな、君も----
---そんなことはない、分かった気がするだけさ...他人を完全に知ることはできない---
---男と女の間には深くて長い河がある、永久に遠い存在なのさ----
---おいおいっ、またやりあってんのか?----
---こういうときはさっさと寝るのが一番だ----
---死ぬときはミサトの胸のなかもいいが----
---それはこっちの台詞だよ---
---君はなにをしているんだい?---
---自分で考え、自分で決めるんだ---
そう、僕は自分で決める
自分の意思で
『加持さん、僕はあなたになりたいと思っていました....
あなたのようにアスカを包みたいと.....
でも、違いました....僕はあなたじゃない....あなたにはなれない....
僕はサード・チルドレン碇シンジだから、あなたじゃない』
『だから、自分で決めます
僕は泳ぎます....何年かかろうと...加持さんがあきらめた河を....泳ぎます....アスカに....
アスカに....近づいてみせます.....僕は....アスカが好きだから....離したくないから....
加持さん、だから、見ててください』
シンジはふぅーと呼吸をつく
『加持さん、あなたは酷い人ですよ、みんなの心に残りすぎですよ』
今度は無理のない微笑みができた
『加持さん、1週間後...僕とアスカで演奏会をするんです....来て...くれますよね』
『素晴しいものにしますから、アスカもそれを望んでいるはずですから』
シンジは立ち去ろうとしたとき、墓前に、加持に敬礼をしていた
そして、くるりときびすを返し、立ち去った
アスカは家にいた
しかし、ただいま、といっても返事がない...靴はあるのに
『アスカ、入るよ?』
やはり返事がない
ドアを開けると
アスカはベッドに腰掛けていた
その眼は下を向いていたが、シンジをキッと睨んだ
『なんで、なんであそこにいったの?』
アスカはシンジが加持の墓に行ったのをいっているらしかった
『............』
『なんかいいなさいよっ!』
『.......加持さんのこと?...』
『そうよ!なんでよ!』
『なんでって.....伝えたいことがあって....』
『あたしには秘密で...』
『ごっごめん...』
『あたし知らなかった...』
『僕もさっきまで知らなくて....ミサトさんに聞いたんだ』
『だからって...秘密にすることは...ないでしょ!』
『ごめん、アスカ....謝るよ.....』
『謝れとかいってんじゃないのよ!あたしだって知りたいに決まってるじゃない!』
『...........』
『何でいく必要があったの!?』
『..........』
『あたしが....加持さんが忘れられないのは事実よ....でも、今は今なのよ....
なんで記憶を....辛い記憶を出させるの?』
『ごめん.......』
『でてってよ!!顔もみたくない!』
僕はなにもアスカに言ってやれなかった.....
アスカがあの場にいたのも知らなかったし、アスカは耐えられないと...そう思ったから
...だから連れて行かなかった
僕はベッドの上で考えた...
僕は間違っていたのか?
何が?
アスカのことを考えなかった....
考えなかった?
いやっ、考えた....だけど...こうなったってことは考えが悪かったんだ
本当に?
分からない、分からない、分からない
何が?
アスカが、他人が、何を望むのか?
君は?
僕はアスカの...自分のことだけを考えた....
本当に?
分からない、分からない、分からない、分からない
僕はベッドの上で考えていた.....
アスカは冷静だった
自分が何をいっているか....分からなかった
なんでシンジに膺ってしまったのか?
こんなときのシンジを見ているともっと膺ってしまう
そんな自分が嫌だった
ただ、加持さんのお墓に一人でいった、そんなシンジが許せなかった
なんで、直視できない記憶を呼び起こすの?みたくない
でも
でも?
シンジは直視していた.....辛い現実を
シンジはあたしの代わりにいってくれたのかな
シンジ、シンジに謝らなきゃ
アスカはゆっくりと立ち上がった.....
『シンジ....入っていい?』
『アスカ?うん』
すっとふすまが開きアスカがなかに入ってきた
こうゆう時、いつも通りに僕のとなりにアスカは腰掛けた
『.............』
『.............』
『ごめん...』
切り出しは僕だった
『えっ、何でシンジが謝んのよ?』
『アスカを連れていくべきだった..』
『そうね...』
『ただ...僕よりアスカの方が辛いのはわかっていたから』
『そうね...』
『だから、ごめん』
『.........ありがと、シンジ』
『えっ?』
『....おやすみ.....後1週間だから...夜更かししないでね....』
『うっうん、おやすみ』
それから1週間、いままで以上に熱が入った特訓だった
毎日毎日、充実していた.....
アスカと...溶け合うように音を楽しんでいた
アスカが自分であるような....そんな感じがした....まるで二人が一人の様な....
ずっとこのまま....時が止まればいいのに.....演奏会がこなければいいのに....
当日
今日が演奏会の日
ミサトさんと僕らで木と木の間にカーテンを渡して即席の鈍帳をつくった
向こうが見えない.....
呼んだのはミサトさん、リツコさん、副指令、マコトさん、シゲルさん、マヤさん、トウジ、ケンスケ、委員長、綾波
そして、父さん...と、加持さん
父さんは....来てくれるわけがない.....今日は会議が押しているとミサトさんは言った
残念だったわね、といってくれた.....
間もなく始まる
僕とアスカの演奏会....
二人の何かを乗り越えるための演奏会......
これが終ったとき、僕は変わっているのだろうか?
緊張が身体にはしった
顔がこばわる
息がきれる
頭が白くなる
倒れそうになる
逃げたくなる
そんな僕をアスカは見つめていた....
『シ〜ンジ、リラックス、リラックス』
『うっうん』
わかっていつつも顔が動かない
『も〜、なにやってんの.....』
アスカは僕にキスをした....お互い楽器を手に持ち、顔を近づけあっている
アスカが唇を離した
『どう?リラックスできた?』
僕は逆に頭が白くなっていた....何度もしていたとはいえ....まだあの甘さには慣れない
またアスカの小さい顔が僕に近づく.....このにおい....慣れることは難しい....
次は長い長いキスだった
お互いをかばうようにお互い顔がゆっくりと動く...時間は止まっていた
ミサトは時間になったのを確認し、
『それじゃ〜拍手ー』
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
『でーは、はじめてもらいましょう!』
さっとカーテンをひく
『シンジ君、アスカ準備は......』
時間が.....止まっていた
僕らは長いキスの途中だった...
アスカが気付きさっと身を翻す
クラスメートたちは固まっていた
ミサトさん、リツコさん、シゲルさん、マコトさんはやんやとはやしたてる
いきなり恥ずかしかった.....
『こっこれを魅せるんじゃないのよ....バカシンジっ用意は?』
アスカは真っ赤だった....僕もだが
『うっうん、だっ大丈夫!』
『じゃ〜、いってみよーか』
アスカは最高の微笑みをくれた....
(第三話『融合』完)
次回予告
演奏会は無事に終了する
シンジとアスカはそのとき何を見るのか?
シンジ、アスカ、ミサト、加持をめぐる話も次回で一段落
成長するシンジ、アスカ
彼等の旅路に幸多きことを
次回
『続2つの記憶〜演奏〜』最終話『聖約』
さ〜て次回もサ〜ビス、サ〜ビス!(注:加持)
加持:なにをだ?俺の裸が望みか
みゃあと
偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの。
みゃあ「ぼーーーーーーーーーーーーー……」
アスカ様「……………」
みゃあ「ぼーーーーーーーーーーーーー……」
アスカ様「……はっ!つい固まってしまったわっ!ちょ、ちょっとみゃあ!もう始まってるわよっ!」
みゃあ「…はっ!えっ?えっ?なに、もう始まってるんですか!?ご、ごめんなさい。あまりの素晴らしさに呆然としてしまいました」
アスカ様「ばっかじゃないの、アンタ」
みゃあ「何言ってるんですか。アスカ様だってぼーっとしてたクセに」
アスカ様「ちっ…違うわよっ!あたしはただ、あまりにも退屈で……」
みゃあ「D・Sさま、アスカ様はあんなこと言ってるけど、本当はとてつもなく気に入ってるみたいです。特に最後のキスシーン」
アスカ様「気に入ってないわよっ!」
みゃあ「うそうそ。全く素直じゃありませんね、アスカ様。へっぽこのクセに」
バキャッ!
アスカ様「誰がへっぽこなのよっ!」
みゃあ「いててて……へっぽこですよ、誰が見ても。みんなに濃厚なキスシーン見られちゃって…くすくすくす」
アスカ様「(真っ赤)う、うるさいわねっ!」
みゃあ「D・Sさま。次回はいよいよ最終回とのこと。とっても楽しみにしております。そしていつも素晴らしい投稿をありがとう!」