「只今、東海地方全域に発令中の・・・小田原間は全線不通となっており・・・」
「やっぱり、来るんじゃなかった・・・」
平日の午後にも関わらず、人気のないプラットフォーム、新箱根湯本駅。
安手のボストンバッグを片手に、立ち尽くす青年・・・ポケットから地図と
手紙?らしき物をとりだす。どうやら飲み屋か何かの新装開店のチラシ、
そのうら紙には一言「来るな!!」の文字・・・端っこ、四角く鋏で切り取
られている部分はサービスの割引券か何かだったのだろうか?一度は無残
に母の手で引き裂かれたそれは、セロファンテープで丁寧に貼りあわせら
れていた。その辺が、この大人しそうな黒髪の若者の几帳面さを表してい
る・・・意味があるのかどうかは別として。
「よりによって台風の日に・・・なんで僕が行かなきゃならないのさ、酷いよ
母さん・・・」
折りから強かった雨脚は、遂に暴風雨へと変わりつつあった。これでタクシー
が捕まらなかったら、最悪じゃないか・・・既に泣きが入った状態で駅のエント
ランスへ向かう。ふと、路上に向けた視線、視界の隅に入る、立ち尽くす少女
の姿・・・不思議な色合い、水色の髪、印象的な紅い瞳。学校の制服だろうか、
紺色のスカートに赤いリボン・・・どうしたんだろう?この雨の中・・・声を掛け
ようか?いつも内向的な青年らしからぬ、そんな気を起こさせる寂しげで静か
な雰囲気・・・やっと一台きたタクシーを止めて、もう一度振り返り・・・いない。
「第三新歌舞伎町、って解ります?」
「あいよ、一名様、箱根新宿ご案内・・・」
遷都間近の花の都、その玄関にしては寂れた駅前。雨の中をタクシーは走り出す・・・
「・・・そう、まにあわなかったのね・・・」
車が走り去ったあと、その路上脇。側溝のなか、その淡雪の様な肌を朱に染めて、
仰向けに倒れたまま少女は呟いた。
「いるんでしょ!?碇さん!!何箇月滞納してると思ってんですか!困りますよ、
もう・・・」
猛烈な国連軍の砲撃、ではなくって、激しくドアを叩く音。
「12時間ぶりだな。」
「ああ・・・間違いない、大家だ。」
雑居ビルの一室、応接セットのソファーの下。ドアの向こうの気配を伺うオヤジ
が二人・・・
「時に碇、なぜ私まで隠れねばならんのだ?」
白衣を着て、手に湯飲みと差掛けの将棋版をもったまま(ちゃんと確保しておか
なければニヤリオヤジがずるをするためであるが)ソファーの下に隠れる初老の
紳士。部屋の反対側のソファーに隠れた髭眼鏡オヤジを一瞥する。
「公式には、我が社は休業中と言うことになっている。人気があれば借金取り共
も押し寄せてくる・・・今、器材を差し押さえられる訳にはいかん。」
怪しく色眼鏡を押し上げ、ニヤリと笑うヒゲオヤジ。あきれる銀髪の紳士・・・
「そろそろ諦めて、借金の返済を考えるべきじゃないのか?慰謝料さえ、滞納
しているんだろう・・・」
「今度の新作は、必ず当たる。全てシナリオ通りだ・・・」
「新作だと?女優がいないぞ・・・ギャラもまともに払えんくせに・・・」
「問題ない・・・もう一人の予備、ではない・・・レイを使う。」
今度こそ、駄目かも知れんな、ユイ君・・・かぶりを振りながら、彼、冬月泌尿
器科医院院長、冬月コウゾウはこの旧知のろくでなしの元・細君を哀れんだ・・・
「・・・新宿、なんて言うから賑やかな所かと思ったら・・・」
何の事はない、建設途上の新首都、要は土方のおじさん達のみが溢れる建築現場、
その端っこにある飲み屋街・・・殆ど場末の温泉街ではないか、これは・・・
「第三新歌舞伎町」と書かれたアーケードの前に立ち尽くす彼、碇シンジ(19)は
ほんの一週間前までは松本で貧乏学生をやっていた。折からの不況で母、ユイの
勤め先が倒産し、親子揃って路頭に迷うまでは。バイトで辛うじて食べてきた苦学
生と失業者の母子家庭、学費を納入する事さえ既に侭成らなかったのだ・・・
「それも、全部父さんの所為じゃないか・・・今度こそ養育費を払ってもらうからね!」
「・・・それで、レイったら、ずぶ濡れになって帰ってきたのよ。あの娘、いつも表情
変えないもんだから、熱出してるなんてわかんないし・・・」
「それで、道路脇の用水路で倒れてたって言うのね・・・誰よ、レイを迎えになんて
出したのは。車どころか自転車の乗り方も知らないのよあの娘は・・・」
通りの向こうから響いてくる、賑やかな女性の声。髪の長い・・・あの恰好から考えれ
ば20過ぎだろう、あれで30前とかだったらもう、犯罪だよね・・・な美女?と金髪
ではあるがあの顔はどう見ても日本人だろう・・・なこれまた美女?が歩いてくる。
ちょうど良いや。
「あの・・・すいません。ゼーレコーポ、ってどこか、ご存知ありませんか?」
おそるおそる、いや、別にやましい事はないのだがなんとなく・・・声を掛けるシンジ。
ギロリ、と一瞥する長髪の女性・・・予想外の殺気にびびるシンジ・・・
「あんた、借金取り・・・じゃなさそうね。リツコんとこの患者?淡白そうな顔して、
なにやってるかわかんないわねー、近頃の中学生は・・・あ、それとも手術の方?だっ
たらごめんねー」
「失礼ね、うちは、皮膚科兼泌尿器科よ・・・年中、性感染症や包茎の治療をしている
わけじゃないわ。」
なっ、なにを・・・僕はこう見えても大学生・・・じゃないんだよね、もう・・・でも19歳
なんだぞ・・・そりゃたしかに、ホウケ・・・いや、そんな事はどうでもいいんだ!
「ネルフ・プロダクションって所へ行きたいんですけど・・・」
「こんの!かわいい顔してやっぱり取立屋かああっ!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
シンジが言葉を終える前に決まるスリーパーホールド・・・秒殺である。泡を吹き、
その胸の谷間の感触を堪能する間もなく悶絶するシンジ・・・
「あら・・・」
そのジーンズのポケットから落ちた封筒を拾う金髪の女医・・・赤木リツコ。
「この子・・・碇シンジ君?ミサト・・・これが例の社長の御子息よ・・・」
「へ!?・・・っちゃー、借金取りより厄介なもん拾っちゃったわね・・・」
持って帰ろうか、それともその辺の溝に捨てて帰ろうか?多いに悩む葛城ミサト
30歳(失礼ね、まだ作者(あんた)と同じ29よっ!!)・・・
後の祭りである・・・
・・・早く乗れ、乗らないのなら帰れ・・・
「うーん・・・」
・・・お前には失望した、もうあう事もあるまい・・・
「う、ううん・・・」
・・・人類の命運を懸けた戦いに臆病者は不要だ・・・
「うーん、うーん・・・」
・・・これらは全て重大な犯罪・・・
「って、人の枕元でなにをしているんだ、父さん!!」
「あ、ああ・・・久しぶりだな、シンジ。」
「と、いいながら窓から逃げるのか?碇・・・」
雑居ビルの一室にあるスタジオ、そのソファの上から跳ね起きるシンジ。それまで
シンジの耳元で睡眠学習による恐怖心の植え付けを試みていたヒゲオヤジが瞬時に
壁際の窓に片足を懸けている・・・
「冬月先生、後は頼みます・・・」
「待てい・・・」
その襟首を引っ掴んで引き戻すミサト。いやいやをしながら息子の元へ引きずられ
て行く碇(六分儀)ゲンドウ、有限会社ネルフ・プロダクション社長・・・同じビル
の一階下に入っている冬月医院の医師であるリツコと二人掛かりでゲンドウを椅子
に縛り付ける。にっこりとシンジに微笑み掛けるミサト・・・さっきの悪夢を思い出し
戦慄するシンジ。呟くリツコ・・・
「・・・変態(しょたこん)・・・」
「あんか言った!?・・・あたし、葛城ミサト。お父さんの会社の営業をやってるの。
よろしくね、碇シンジ君(はぁと)」
「は、はぁ(目をそらす)・・・よろしくお願いします。で、僕は・・・」
「金なら、無い。ユイにもそう言っておけ・・・おうっ!?」
背後からパイプ椅子で突っ込みを入れるミサト。
「偉そうに言う事!?給料も碌に払えないくせに!!」
どう言う会社なんだ、ここは?何度聴いても母さんは教えてくれないし・・・どう考え
てもまともな職場には見えない此処、「聴いてはいけない!!」と言う本能の警告
とせめぎあう好奇心・・・その表情をじっと見ていたミサト、にんまりと笑う・・・
「知りたい?お父さんの仕事・・・」
「人類を守る立派な仕事・・・じゃない事だけは確かですね・・・」
「・・・社長、撮影(トリ)の準備はできてますぅ?」
ミサトの自称悩殺な流し目に凍り付く一同・・・瞬時に閃くゲンドウ・・・
「うむ、素晴らしいアイデアだ。反対する理由はない、やりたまえ葛城君。」
「共犯者にしてしまえば、恐れる必要も無いと言う訳ね・・・」
目の前で、何が進められているのか未だに理解出来ないシンジ。ただ、少なくとも
自分の身に危険が迫っている事だけは本能が告げている・・・
「でも、女優がいないわよ?・・・却下。」
自らの鼻の頭を指差し、にっこりと自称「可愛いミサトちゃん」な表情をつくる営
業部長・・・激しく巻き起こるブーイングの嵐。流石に引きつるゲンドウ・・・
「あなたね・・・現役を離れて何年立ってると思うの?・・・今更誰が買うの、それを。」
「しっつれーねー、幻のAVクイーン、桂木ミサを捕まえて・・・」
「あーっ!!みっ、ミサトさんて、たしかプロレスラーから転向したアダルト女優
の・・・それじゃ、ここは・・・」
「そう、人が創り出した、って当たり前ね、それは・・・アダルトビデオ製作会社、
ネルフプロダクション・・・撮影は秘密裏に行われたわ・・・」
「あんまりおおっぴらにやるもんじゃないっしょ、それは。」
ニヤリ、と笑う一同。その笑いの意味を理解するシンジ・・・
「僕を・・・どうする気なの?・・・」
「あなたが出演(で)るのよ。」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「激しく失礼ねー、今の絶叫は。」
と言いながらも、何時の間にかシンジのファスナーに手を伸ばす自称AVクイーン。
「念を押すようだけれど、主演は無いわよ・・・」
背後からかかるリツコの冷ややかな突っ込み。チッ、と舌打ちをして一旦は引き下
がるミサト・・・何か、凄く残念そうに見えるシンジ・・・気のせいか?
「冬月、レイを起こしてくれ・・・」
「使う気か?本当に・・・」
「かまわん、死んでいる訳ではない。」
「いや、そー言う事ではなくてだな・・・」
・・・とうとう終わりの様だな、碇・・・他に、使える女優もおらんか。自称女盛りの
おねー様方を密かに伺う冬月。やがて、何故か押されてくるキャスター付きの寝台。
(何処からもってきたのか?)その上に横たわる人影を見て、目を見張るシンジ・・・
「君は!?」
紛れも無く、駅前で見掛けた、あの紅い瞳の少女ではないか!!・・・こんな所で再会
出来るなんて、なんてラッキーなんだ・・・じゃなくって。
「彼女、まだ中学生位じゃないですか!!こんなビデオに・・・」
「いやなの?シンジ君。いいわ、ならミサトに・・・」
「僕が、やります。」
拳を握り締めるシンジ。背後に修羅と化したミサトの陰が・・・
「心配しなくて良いわ、幼く見えるけれど、レイは貴方と同じ19歳よ・・・っていっ
てる側からズボンを脱ぐんじゃない!!」
さすがに、ベルトに懸けた手を止めるシンジ・・・表情を変える。(シリアスもーど)
寝台の上に横たわる、水色の髪の美しい少女に歩み寄る・・・その表情をのぞき・・・恐
る恐る、その額に手を、そっと触れる。
「熱がある、凄く・・・ねえ、大丈夫!?」
「わ、たしは・・・、そう、あなたが碇シンジ君・・・ちゃんと、ついたのね・・・よかっ、」
「!!しっかりして、・・・早く病院へ!」
何故だろう・・・母さんが病気で入院した時でさえ、こんなには心配じゃなかったのに・・・
これが、世に言う「赤い糸」であるとシンジが知るのは、もう少し後の事だった・・・
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あとがき?
どーも、お初にお目にかかります。普段は別の名を名乗り、色気の欠片も無い
エヴァSSを書いている、しがない投稿人、FISH BLUEと申します。以前より、
X指定に挑戦したい、するならみゃあさんのページに投稿させていただいて・・・
と考えておった次第でして・・・ところがこれ、なんだかなぁ・・・になってしまい
ました(涙)激しく18禁かつ、レイちゃんラブラブなものをやりたいのに・・・
取りあえず今後も精進しますんで、以後御見知り置きを。では、ごきげんよう。