新世紀封神録

(斬之弐)

作・FISH BLUEさま

 


「『蓮の姫』をロスト・・・この失態、解っているわね、キール・・・いえ、アルハザート。」

 

メイドのささげ持つ液晶モニターの向こう、黒いローブを纏ったバイザーの老人は・・・知

るものは少ないがその下の眼窩は、空洞だ・・・余人には見せる事の無い反応を示した。

紀元前、彼が「ティラナのアポロニウス」と呼ばれていた頃から連綿と続く秘密結社の

総帥にもあるまじき、その脅え、恐慌・・・

 

無理からぬ事では或る・・・二百余年前、与えられた使命半ばにしてモスクワで毒殺される

と言う彼の醜態に激怒した「主」は、再生した直後のこの老人の両眼を、腹立ち紛れに

その爪で抉り出したのだから。

 

「申し訳御座いません、フロイライン・・・ですが、既に彼奴の潜伏先は突きとめております。

犬共を用いて、早急なる追撃を・・・」

 

「ねぇ、キール・・・」

 

彼女はその長い栗色の髪を鋤く、白い指先で・・・細身なその肢体には不釣り合いな

程の、豊満な胸・・・純粋なゲルマンの血ではないのであろう、東洋人特有の、滑らかな

淡い、黄金色の肌・・・広大と行って良い面積を誇るイタリア産大理石のバスタブから立

ち上がる彼女の肌にまとわりつく、その赤い滑りをシャワーで洗い流すメイドの少女の

手は、小刻みに震え、その瞳にはもう、涙が滲んでいる・・・

 

「その頭に生え変わってから、もう百年はたったわよねぇ・・・そろそろ、金鰲(ユゴス)

に戻ってみる?」

 

16、7位であろうか・・・白い、レースのチョーカーを巻いた少女の細い首を、抱き寄せ

て哄う・・・碧玉の瞳には、縦に走る、金色の裂け目・・・彼女がその性を表す時の発言は、

本気だ。たとえ、その見様によっては少女にも見える、未だ幼いとさえ言える容貌に艶然

とした笑みを浮かべていようが・・・

 

「イア・アスィカ・フングルイ・ムグルウナフー!?・・・お許しを、偉大にして深淵なる

我が主よ・・・此度こそ、必ず・・・」

 

「聞き飽きたわ、その台詞・・・まあ、良いわ。あたら四千年の修行を、無駄にしない事ね・・・」

 

彼女にしては、実に寛大な処置と言える・・・バスルーム・・・このブリュッセルでも最も高い惣流

グループ本社ビル最上階にある彼女の執務室の三分の二を占めている・・・御影石のタイルに膝を

ついてビジホンのモニターをささげ持っていた少女は、一礼すると速やかにその場を去る。足早

に、かつ、主の機嫌を損ねない様に。背後から声が、掛からない内に・・・自分を見捨て、去って

しまった同僚の後ろ姿を悲痛な眼差し・・・滲んだ涙で、はっきりとは見えなかったが・・・で見送る

黒髪を三つ編みにまとめた、東洋系の少女・・・一糸纏わぬ姿の侭、メイドの首に白い腕を回し、耳元

吐息を吹き付けるかのように囁く。甘い、猫なで声・・・

 

「ねぇ、由佳里・・・湯上がりのシャワーの温度は、幾つだったかしらね・・・」

 

「は・・・い。42度5分、で御座います、明日香様・・・」

 

少女の、その全身で表す哀願に、可愛らしいとさえ言える微笑を浮かべて彼女は続ける・・・

 

「ぬるかったのよ、1度・・・もういちど、湯浴みしなおすわ。」

 

「はっ、はい!もう二度といたしません!」

 

少女の、細い顎を撫でる、指。

 

「いいわ、その必要はないから・・・」

 

そして・・・その白い喉元に一条、細く赤い筋が走る。彼女は再び、その赤く新鮮な迸りを見事な肢体に

受けながら、赤く、生暖かい液体の満たされた大浴場の「水面」を眺め、忌々しげに呟く。

 

「何処の馬の骨かも解らない傭兵風情に任せたのは失敗だったわね・・・碇、信二?たかが野良犬が、このあたしに

噛み付こうっての・・・」

 

何時もの激情に任せ、メイドの少女の首だった筈のものを、彼女はガラス張りの、この都会を一望に出来るその壁

に、力任せに叩きつけた・・・

 

 

 

 

 

−Good moning Sleeping Beauty・・・How are you−

 

起動、する筈だ、これで・・・なんてこった、暗号にも何もなっちゃいないぞ、このコードは・・・

端末、零号プラントの、恐らくは保守操作用なのであろうコンソール。事前にクライアントから知らされていた起動

コードを、入力する。薄暗い貨車の中・・・断続的に響いていた連射音、或いは怒号・・・既に白兵戦に突入しているのだ

・・・も、疎らになって来た。既に八割方は制圧完了といった所だろう。西安から、増援が到着するまでの間の話ではあ

るが・・・見上げる、その、液体に満たされたチューブの中、浮かんでいる「少女」・・・ゆっくりと瞬きした彼女が、そ

の緋色の眼差しを向ける。しかし・・・その表情は、変わらない・・・

 

・・・生きてる、よな。間違いなく・・・解っていないのか、状況が・・・それとも・・・

 

−Who are you?−

 

「はぁ?」

 

コンソール上、現れた表示に、思わず声を上げる・・・IDの照会を求めているのか?しかし・・・続けて、表示される、それは・・・

 

−I’m REI.PR−TYPE0・・・Who are you?−

 

見上げる、その少女の瞳を・・・見詰め返す、視線・・・彼女が僅かに傾げた小首に、理解する・・・多少の混乱を伴いながら・・・

 

「僕は・・・碇信二。或る人の依頼で、君を迎えに来たんだ・・・解らない、か・・・」

 

−Herrow REI.My name is Sinji Ikari・・・

 

「何をしているの!?」

 

背後からかかる声に・・・どうしたって言うんだ、どうかしてるぞ、僕は・・・素人に背後を取られたって言うのか!?・・・ほとんど反射的に

肩のシースからガーバーを抜きざま、投げつける。未だここで銃声を立てるのは、危険が伴うためだが・・・そこには、白衣の肩口、上腕部

を血に染めた・・・幸運にも、信二の放ったナイフは急所を外れて腕に当たったのだ・・・金髪の女性。驚いた事に・・・一人だ。事も在ろうに

遅れて到着する、護衛の兵士・・・姿を捉えた瞬間、片手で沖鋒槍を照準、頭蓋骨に短連射を叩き込む。瞬間的に生産される、二つの死体・・・

反撃の機会を与えない・・・此れこそが、今まで彼の命を繋いで来た鉄則の一つだ。

 

片手でSMGを保持したまま、白衣の女性に歩み寄る・・・ブリーフィング時に確認した、数点の関係者の写真を記憶の中で照合する・・・

 

「赤木律子博士ですね?人工進化研究所の・・・申し訳ないんですが、サンプルを起動・・・あの娘をここから出して頂けませんか?残念ながら

僕は、名乗る訳には行かないんですけど・・・」

 

実際、申し訳なさそうな・・・俄かに職業的殺人者とは信じ難い穏やかな口調で話し掛ける日本人青年を、驚きと怒りの入り交じった眼差しで

見上げる律子。

 

「名乗る必要は無いわ・・・イスラム分離主義者?茶番ね・・・そうでしょ、SEELEの殺し屋君。私の首に掛かった値段は幾らなのかしらね?」

 

銃口は律子に向けたまま、片手でぽりぽりと頭を掻く。

 

「推測なさるのは御自由です。一応、秘守義務がありますので・・・抵抗なさるような事が無ければ、これ以上の危害を加えるつもりはないです

から。協力、していただけませんか?それと・・・」

 

僅かに真顔になり、付け加える。

 

「殺し屋は止めていただけませんか?ジュネーブ条約の保護は在りませんが、一応僕達は「兵士」のつもりですから・・・無闇に非戦闘員に危害

を加えたりは、しないんです。」

 

自分自身の弁解を、したかった訳ではない。死んでいった戦友達に対する、ささやかな義務のつもりだった。

 

・・・解ってもらえは、しないだろうけど・・・微かに寂しげに、自嘲する・・・

 

「選択の余地は、無い様ね・・・私も、命まで研究に注ぎ込むつもりはないわ。貴方達とは違ってね。」

 

「感謝します。腕を見せて下さい、止血措置を・・・」

 

信用は、出来ない・・・が、何にせよ、協力してくれるのは有り難い話ではあった。

 

 

 

砂漠・・・一般にイメージされる、美しく風紋の描かれた砂丘の連なり・・・そんな物は、実は乾燥帯全てから

みれば一割にも満たない。礫砂漠。一点の緑も無く、只岩石が転がっているだけの荒涼とした大地・・・

 

この、砂漠の辺、豊かな天山の雪解け水が地底を伝い湧き出す、此所の様なオアシスを除くなら・・・

 

集落・・・茂る果樹園の木々の合間、赤茶けた日干し煉瓦の棟胸・・・広がる、ささやかな田園は、やはり

人の心を和ませる・・・しかし、既に日は高く差し掛かりつつあるにも関わらず、そこに人影は、無い・・・

 

田畑や畦を行き交う人々の影も、遊ぶ、子供の声も・・・

 

ただ・・・この地には似つかわしくない、やけに生臭い風だけが、吹いている・・・

 

集落の陰、木々の間に巧みに隠された、数機の黒い機体・・・国籍表示もナンバーも無いVTOL、重戦闘プラットフォーム。

 

「シーワード・・・イカリからの連絡、入ったのか?」

 

タイガーパターンの野戦服、ズボンのベルトを直しながら家屋の一つから出て来たアングロ・サクソン系の男が、

草むらに張り付いて周辺警戒を続けるフランス人に声をかける。

 

「丁度、接触する時分だろう・・・それより何だよ、さっきの音はよ?まさか・・・殺っちまったのか?」

 

男が民家の間口を出てくる、ほんの数分前・・・聞こえたちっぽけな破裂音と共に、この村の住人は、誰一人として

いなくなった・・・「蓮の姫」の目撃記録を残さない、ただそれだけの理由で。

 

「どうしてくれんだよ!?俺はまだ、やっちゃいねえんだぞ!てめえばっかりいい目みやがって・・・」

 

「ケケッ・・・冷たいのでいいんなら、いくらでもあるぜ?おめーにゃその方が御似合いよ、っと・・・やるなら、黄色いのを始末してからにしとけよ?」

 

凡そ「品性」だの「知性」だのとは無縁のニヤけた笑いをヘラヘラと続けていた白人傭兵は・・・いや、彼等を「マーセナリー」の名で呼ぶものが居たとすれば

碇信二は決してその人間を許しはしないだろうが・・・その言葉と共に薄笑いを、止めた。

 

「手強いぜ、イカリは・・・一人で一個分隊を潰したって話も、ガセじゃ無いらしいからな・・・」

 

マーダー・ドッグ・・・誰がその二つ名を彼に奉ったのか・・・雇い主が「使い捨て」の人選を誤った事をやがて彼等は身を持って知る事に成るだろう・・・

 

小さな緑の集落に潜む稚拙な「罠」・・・高々、己の取り分を増やす事に眼の眩んだ連中の頭上・・・浮かぶ、影。

 

 

「アスィカ・・・いや、惣流会長は本気で『旧神』に喧嘩を売るつもりのようだね・・・」

 

・・・未ダ『外ナル神々』モソノ封印ヲトカレテハオリマセヌ・・・封神台ノ破壊、アスィカ様オヒトリノ力ニテハ・・・

 

「時機尚早・・・か。君もそう思うかい?黒点虎。」

 

・・・かをる様ハ、随分ト楽ゲニシテオラレル・・・何ヲ目論ンデオラレル?・・・

 

何の支えも無く虚空に立ち、傍らの、空間を僅かに歪ませる闇と会話を交す・・・銀色の人影、いや、「天使」とでも言うべきなのだろうか?

僅かにその眼を細め、生臭い殺戮を真上から見下ろしていた彼は、地平にその赤い瞳孔を向ける・・・

 

「嵐が、くるね・・・神を滅ぼすと噂に高き『蓮の姫』、そのお手並み、みせてもらおうかな。」

 

背後、彼方の虚空・・・崑崙の虚無を揺るがせる凶凶しい蠢動を感じ取りながら、「使者」は、哄う・・・

 

彼方、戦場の直中に或る碇信二は、その這いよりつつ或る狂気の宴を、未だ知らない・・・

 

 

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あとがき

 

あー・・・死んでますね(をい・・・)なんかあられもない方向へ、しかも、こんどは

クトゥルー神話か?何処が封神(っーても藤竜版は全然関係なし)でエヴァなの?

はか・・・じゃない、すなづきんさん、ありがとーございます。煮詰まりついでに

続き、書いてしまいました。バイクやバギーじゃいまいち・・・解ります、御気持ちは。

でも・・・人型兵器って、戦術的メリット低いんですう(涙)どうしても、自分の中の

戦術的リアリティーが・・・でも、次回は、出します!どっかで見た様な奴・・・押井守

がじぇーむず・きゃめろん辺りで、りありてぃの追求・・・(あ、フチコマっつー手も・・・)

シンちゃん、バイオレンス炸裂っつー事で・・・

 

いや・・・実は、今身のほど知らずにも「御笑いもエロもドンパチもない、ろまんてぃっく

路線のLRSを書く」と言う身のほど知らずな挑戦を・・・上の三つとったら何も残らん

男が・・・(汗)そうしたらもう、胎内の「エロスとバイオレンスと御下劣の腹中虫」が

騒ぎ出してもう・・・ガス抜きなんです、実は・・・みゃあさんが寝室で「鬼畜」はありません!

とおっしゃった矢先にこの鬼畜一直線・・・(でもやっぱり、アスカって鬼畜系やらせたら

最高やなぁ)どうしませう(汗)

 

まともな方の作品、「表」(F.Bでないほう)の方で出しますんで、御存知の皆様、またよろしく!

(木野神様、少しはみられるものになる、かもしれませんので御指導よろしく!)

 

FISH BLUE

 

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