「各班、連絡・・・『バーナムの森は動いた』、繰り返す・・・」
2010年代に入り、大陸内陸部に至るまで、西側資本の開発が及んだとは言え、
西域、チベット方面へ伸びるこの大陸横断鉄道は未だリニア化には至っていない・・・
いわば、それが今回のこの作戦の「狙い目」とでも言うべきものではあるが・・・
「目標確認。距離・・・約3マイル。聞こえるか、『シーワード』。予定通りだ・・・
let's party!(派手に行こうぜ)。」
デジタル暗号化されているとはいえ、殆ど生文の侭の通信・・・碇信二は軍用FM無線
を一瞥すると、軽く溜め息を吐く・・・彼等と組んだのは、失敗だったかな・・・未だ
近代化において遅れをとっているとはいえ、彼等、人民武装警察はローテクの戦場
における戦闘能力は第一級・・・決して組みし易い敵じゃない・・・東洋人の「共産主義者」
を舐めて掛かるのは、彼等西側白人傭兵の悪い癖だよ、まったく・・・
「『シーワード』、了解・・・碇分隊、行動開始・・・lock'n roll!」
ヘッドレスト・・・炎熱の蒼天の下、熱砂に潜む彼の分隊に檄を飛ばす。遠く聳える
天山の山並みのもと、広がるのは、灼熱の黄砂・・・たった一本の単線の鉄道が、
その不毛の大地を二分する・・・来る!目標が西安で待ち受けている国連の技術スタッフ
と接触する為には、空路を利用するか、あるいは此処を利用するか・・・裏をかいた
つもりなんだろうが。
黄褐色の大地、一斉に、点在していた砂漠の上の「染み」が動き始める。バラキューダー
・ネット・・・砂漠専用の対赤外線偽装網の下、一昼夜この瞬間を待ったのだ、彼等は・・・
咆える、攻撃車両、スケルトンバギーのエンジン音・・・彼等、イスラム・ゲリラの忍耐力
の強さは、二十歳過ぎから、中東、南米、インドシナと転戦を重ね、数多の兵士と寝食を
共にしてきた信二にとっても正に賞賛に値するものだった。彼等の指揮を受け持った事
だけが、この忌々しい仕事において唯一の僥倖と言うべきか。
腰を浮かし、セロー225のキックペダルを蹴る・・・たとえこの中央アジアの砂漠だろうが、
小回りを重視するならば250以上のフレームは命取りだ。2スト単気筒の液冷エンジンが
軽快な咆哮を挙げる・・・手にしたAKMのコッキング・レヴァーを引き、セレクターをフル
オートへ。視界の隅、黒い鋼の線の上、差し掛かる目標。
「ATM(対戦車誘導弾)、1から3班、射撃用意・・・目標、敵列車先頭の動力車、距離2
マイルを切ったら射撃。貨車は、狙うなよ・・・強襲班、攻撃開始。イーシュアッラー
(アラーの御心のままに)!」
スロットルを絞り込み、一気に四速へ・・・弾かれるように滑り出す、225ccの鉄騎兵。
動き出す、鋼の獣達・・・目標・・・人民解放軍西蔵軍管区の装甲列車、その先頭車両が瞬時に
赤い火球に包まれ、燃え上がるスクラップと化す・・・いい腕をしている。砂丘の影、隠れて
いるT-80を操っている、六人のウクライナ人傭兵に、つい賞賛を送る・・・彼等の
放ったソングスター誘導弾は、全て正確に動力と、備え付けられた機関砲のみを破壊し、
積み荷には傷ひとつつけてはいないだろう・・・
「Good shot!アリョーシャ。すごいな、相変わらず・・・OK、二番目の車両だ。
反撃が来るぞ!」
言う先から、頬を叩く衝撃・・・30メートル横を伴走していたバギーだったものが巻き起こす
熱風。73ミリ低圧砲の直撃を食らったらしい・・・セローの前、放り出される黒く焦げた・・・
さっきまで人間だったもの。乗り越える・・・ここは、死者への感傷に浸っていられる世界じゃ
ない。ぼけてれば、つぎは僕の番だ・・・スロットルをストッパーで固定。ハンドガードの下、
、グレネード・ランチャーに35ミリ擲弾を装填する・・・照準。アイアン。・サイトに重なる、
貨物列車の屋根、不格好な、平たい砲塔・・・激発。肩を襲うリコイルとともに、ちっぽけな
金色の卵は、数秒の時を置く低速で、とったリードどうりに目標の上に到達した・・・
金属の避ける、あの、背筋を凍らせる音。続けざま浴びせる、バースト射。背後から響く
50口径重機の腹に反響する連射音。
激しかった反撃の砲火も、やがて衰えを見せ始めた・・・
「列車強盗?・・・失礼ですが、少佐。今は冗談を伺っている気分ではありませんわ・・・」
灰皿の上、堆く積もったメンソールの吸い殻に新たに一本を加ながら、彼女は向かっていた
ディスプレイに顔を向けたまま答えた・・・露骨に苛立ちを見せたまま。無理からぬ事
かもしれない。西安郊外の空港には、既に迎えの専用機が到着しているはず・・・ベルリンへ
「宝貝」が移送されるまでに、一つでも成果を挙げておきたいというのが偽らざる本音だろう。
「冗談であれば、私としても結構な話だが・・・ご覧なさい、ドクター赤木。分離主義者共に
霊珠子(コア)の情報を流した奴がいる様だ。奴等があれを何に使う気かはしりませんがね。」
言葉を終える間もなく響く、爆発音・・・走る衝撃。椅子ごと倒れこもうとした彼女、赤木律子の
身体を咄嗟に李少佐・・・「宝貝」・・・忌々しい第一先史文明の遺産を崑崙山脈から西安まで護送
する等と言う、ろくでもない任務を仰せつかった不幸な男。
「奴等、対戦車ミサイルまで持ち込んでいるのか!?・・・3号車、状況を報告しろ!・・・戦車!?
ロシア製か・・・射撃班、低圧砲を。・・・『蓮の姫』が狙いとすれば、奴等も貨車は撃たん筈・・・
機関砲も動かせ!戦車はいい、近づく車両から破壊しろ!!」
壁のインターホンを掴むなり、状況確認、指揮を行う・・・律子に向き直る李・・・
「七号車に緊急用のMi−17があります。霊珠子・・・『零号』を連れて脱出して
下さい。此処は、我々で保たせます。」
笑う漢・・・二度と逢う事はあるまい。そう思うと、今さらながら少し残念に思う律子だった。
列車の内外、響く、短連射の銃声。容赦無き砂漠の太陽は、中天に差し掛かろうとしている・・・
満ちる、生臭く塩辛い、血の匂い・・・
薄黄の砂に見事なコントラストを為す貨車の、影・・・咥えたナイフの歯が、赤く滑る。
寄る、気配・・・2つ。かなりの手練者か・・・来る!
連接部、貨車の影から飛び出す、冲鋒槍(サブマシンガン)片手で構えた男。同時に
屋根の上、襲いかかる手の内に俄媚刺(暗器の一種)を潜ませたもう一人の伏兵・・・
振り向かず、右手だけでキル・ナイフ・・・ガーバー・Mk−1を後方へ払う、四分の一
回転のみの、腰の捻り・・・一撃で暗器使いの頚動脈を裂き、左手のリボルバーを予想位置
・・・飛び出した男の額に二連射、38口径のホロー・ポイントを叩き込んだ・・・砕く、頭蓋骨。
即座に歩み寄り、目標の死を確認・・・サイレンサー内蔵の「無声SMG」を今し方倒した男か
ら拝借する。再度、貨車の壁に張りつき、前方の様子を伺う・・・現在位置から、三つ目の車両、
依頼人からの情報によれば、そこに目的の物は在る筈・・・近づく。開いてる!?微かに、気化
した液体窒素が白く漏れる、機密ドア。警戒色の囲みの中、表示される生物災害表示・・・
サイレンサーの先端をドアの隙間、ねじ込む、開く・・・反応、無し。何の気配も、殺気も感じ
られない・・・罠、か?しかし・・・奇妙な衝動にかられる・・・なんだ、これ・・・呼んでる?しかし、
いったい何が・・・今まで死線を潜るたび、信二を救ってきた本能が、身体の奥底から
警告する・・・危険ダ・・・コレニ、触レテハナラナイ・・・しかし・・・
・・・既に、抗う事すら出来ない、「呼び声」・・・トラップだ・・・解ってるはずなのに・・・くそっ!
「ちっ!!」
支援を待つ事すら出来ず、何時もなら自殺行為に等しいはずの行動をとる・・・踏み込む、単独で・・・
「なんだ・・・これ・・・」
・・・これが、「宝貝」・・・高度先史文明の残したオーパーツ!?
眼前、這い回るダクトの中に発つ、耐圧ガラスのチューブ、満たされた、液体・・・
その直中にうかんでいるもの・・・空色の髪をもつ・・・少女?・・・筒体の表面、プレート
の表示を見る・・・SAMPLE ZERO・・・PHYCIC REACTOPR・・・
そんな・・・これが「ロッタス・プリンセス」の正体・・・神を滅ぼす最終兵器・・・悪趣味な
冗談だよ、まったく・・・それにしても・・・なんて、綺麗なんだ・・・まるで、見るものに此処が
戦場だって事を忘れさせてしまうくらい・・・その瞬間、開いた双眸・・・信二を、射る。
見開かれたそれは、鮮やかな、血の緋色をしていた・・・
2015年6月6日・・・フリーランスの傭兵、碇信二は、暗号名「ロッタス・プリンセス」
・・・「宝貝」と呼ばれる古代兵器との邂逅をはたすこととなった・・・
続劇・・・か?
あとがきっ!
なんじゃ、こりゃ・・・とお思いの皆様・・・
実は、この手の物が、あたしの本来の得意分野でして・・・(と言う割には死んどるな、これ・・・)
くまっぷーさんが、「封神」とおっしゃったもので、ぼーっとしとる内に思い付きで・・・(汗)
いやあ、こっちの方は目つぶっとっても書けるから、楽やなぁ、やっぱり・・・
「レイ=スープー(白いから)」、と言った後で「あ、ナタクがあったぁぁぁぁ!」
と思ったら、こんなベタな物を・・・(ボトムズそのまんまやないかっ!!)
レイ=フィアナ、シンジ=キリコ・・・やってみたかったんですぅ(号泣)しかも、本家
封神系のネタ・・・続きが見たいなんて方は、いらっしゃらないとは思いますが・・・
ま、気が向いた時にでも。(なんて奴)
FISH BLUE