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スミスはごく普通の両親から生まれ、ごく普通の少年時代を送り、ちょっとしたことか
ら悪い仲間と知り合うようになってからは、ごく普通に悪事を重ねていったごく普通の悪
党でした。ただ一つだけ彼が違っていたのは、彼は人並み外れて運が悪かったのです。
ドートマンダーも真っ青な程運が悪い彼は、これまでろくに仕事を成功させたことがあ
りませんでした。
ところがある日、珍しく強盗に成功した彼は、逃走用の車がいつも通り故障してしまっ
たものの、これ又珍しいことに鍵がついたままのトラックを見つけました。
(ひょっとしたら、俺の運も上向いてきたんじゃないだろうか)
思わずそう思ってしまいます。でもそれはより大きな悲劇への伏線だと言うことに彼は
(例によって)不幸にも気付かないままだったのです。
・・・・ボブの店ではどんちゃん騒ぎが続いていた。
中心となって騒いでるのは、クイックシルバーだった。彼もストレスがたまっているの
だろう。無理もあるまい。マグニートーの息子だと言うことで白い目で見られたり、敵は
敵で勝手に裏切り者扱いするし、挙げ句の果てにでも磁界王の息子って弱いよね、なぞと
言われる始末。
「確かに俺の能力は超高速だけさ。親父や姉貴みたいに派手じゃないさ。それのどこが悪
いー」
「おー」
店内から合いの手があがる。
「俺はアヴェンジャーズだ。地上最強ヒーローチームの一員なんだ。」
「そうだそうだ。」
「親父がなんだー」
「なんだー」
さらに、カウンター席の上では、スパイディが天井にネットを張ってその中で飲んでい
た。
トラックが飛び込んできたのはそんなときであった。いうまでもないことではあるが、
その運転手は件のスミスであった。
静まり返る店内。
だがスミスは、その地獄のような沈黙に気付かずに何でもないことのようにトラックを
バックさせると、その場を去った。それからしばらく遅れてパトカーのサイレンが鳴り響
き始めた。
「これは、アヴェンジャーズの仕事だっ。」
最初に我に返った誰かが叫んだ。それに触発されたように、店内にアヴェンジャーズコ
ールが鳴り響いた。
ああ、ヒーローやってて良かったなあ、クイックシルバーは思った。民衆の歓声とはな
んと気持ちよいのだろう。ささいな(?)家族問題で悩んでいたのが嘘みたいだ。
「ようしっ、諸君私に任せたまえ。」
完全に酔いの回った顔で任せたまえも無いもんだが、酔っぱらったやじうまどもにそれ
を突っ込めるだけの理性を残しているものはいない。
「ゆくぞ、スパイダーマン。アヴェンジャーズ出動だ。」
高らかに宣言して、二人のヒーローは街の闇の中へと駆け出していった。
ようやく二人が去ってボブはこれで厄介事は全て去ってくれたと安堵のため息をつい
た。
大間違いである。これから彼はさらなる厄介事に巻き込まれ、愛があったり友情を確か
めたり、スリルとサスペンスの2時間34分ものの映画のような人生を送ったあげくカン
ザスの片田舎で余生を送ることとなるのだが、まあ本編と関係が無いので割愛する。
スミスは焦っていた。
彼はこんな大型車を運転するのは初めてだったので、警察の車に追いかけられてすぐ投
降しようとブレーキを踏んだ。すると、どういった弾みにかトラックの後部が妙な具合に
揺れて、追ってのパトカーを思い切りはね飛ばしてしまっていた。
たちまち横転し、火を噴くパトカー。その中から警官が二人ほうほうの体で逃げ出して
きた。かなり怒ってる様子で手にはピストルを構えている。
やばいなぁ、怒らせちゃったかなとのんきに構えてると、片方の警官がいきなり発砲し
てきたために、思わずアクセルを踏み込んでいた。
タイミングというのは存在するもので、ちょうどその時、別のパトカーがスミスのトラ
ックの鼻先へ顔を出していた。
激突。
どうしたわけか、トラックがパトカーの上に乗り上げてしまい、しかもアクセル全開な
ものだからそのままみしみしと踏みつぶしてしまう。
そして、パトカー二台を(偶然に)役立たずの鉄塊と化したスミスは、恐怖のために思
わず逃げ出していた。
そう、スミスは逃げた、それはもう力の限り逃げ続けた。ショッピングセンターを貫き、
銃撃戦に巻き込まれ、刻一刻と取り巻きパトカーを増やしながら。
・・・・そして一週間。
スミスか不幸だったのは、この一週間マンハッタンでは特にヒーロー達の活動が激しく、
警察はそちらの対応もしなければならないので、彼一人にかまってるわけにいかないとい
うことを彼が知らなかったことであった。そうでもなければ、たった一台の逃亡車両を警
察が捕まえられないわけがない。それを知らないスミスは、常に神経をとがらせていた。
俺は警察の車を何台も潰しちまったし、逃げてる途中で何人かはねた記憶もある。捕ま
ったら終わりだ。その思いがスミスを逃亡に駆り立てていた。
そして一週間目の夜。逃亡に疲れたスミスはとうとう運転をミスり、あるバーに突っ込
んでしまったのであった。
こうしてスミスの不幸は新たな段階を迎えるのであった。
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どうも、久方ぶりの投降のGM−Xです。
この話は前後編じゃなかったのか、とお思いの向きもあるでしょうが、見逃して下さい(笑)。
まあできるだけ早いうちに後編を仕上げますので(前も言ったなこの台詞)見捨てないでおいて下さい。