心の痛み、身体の痛み

 

作・儚さま

 


 

始めまして。儚(はかな:男,19)と申します。

実は投稿するのも、まともな文章書き上げるのも、

初めてなんです。

かなりのへたっぴぃSSですが、お付き合いくだされば幸いっす。

 

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或る冬の午後、マンションの一室。

少女が一人、つまらなそうにテレビを眺めていた。

何とは無しに長い栗色の髪を弄び、

端正な顔は倦怠感で緩み切っている。

テレビでは、ありふれた恋愛映画が流れている。

少女はふとベランダを眺めた。

そこでは気弱そうな少年が一人、洗濯物を干している。

洗濯籠からシャツやらズボンやら取り出しながら、

鼻歌混じりに一つ一つ物干し竿に掛けていく。

「ねぇシンジぃ…………楽しい?」

呼ばれた少年―――シンジは答えた。

「……楽しいとか…そう言う事じゃなくって、誰かがやらないと

着るもの無くなっちゃうだろ」

それにしちゃ楽しそうだけど。

 

プルルルルルル…プルルルルルル…

 

電話が鳴った。

部屋の中へと戻りかけたシンジを制し、少女が受話器を取る。

「はい、もしもし?」

「あ、アスカ?私よ」

電話の向こうから流れてくる、聞きなれた声。

「なんだミサト。何?」

「ごっめーん、悪いんだけどさ、ちょっち仕事がつまってて

今夜戻れそうに無いんだ。

悪いんだけどシンちゃんと二人でご飯食べちゃって」

すまなそうに詫びるミサトにアスカが答える。

「加持さん?」

「っち、違うわよ!ホントに仕事が……」

「で、加持さんもいると」

狼狽するミサトへ冷静に突っ込むアスカ。

「べっつにいいわよ、気を使わないでも。……じゃごゆっくり」

といい捨てて、アスカは一方的に電話を切った。

…いつからだっけ。加持さんの事が気にならなくなったのは。

考えるアスカの思考を、シンジの声が中断させる。

「…電話、誰から?」

「ミサト。今夜仕事で帰れないって。………だからってアタシに

変な事すんじゃないわよ」

「そ、そんな…変なことなんて、しないよ……!」

焦るシンジ。

そんなシンジの様子にため息を一つ吐くと、アスカは再びつまら

ないラブストーリーを眺めだした。

 

夜。

早めの夕食を終え、シンジは洗い物、アスカは相変わらずテレビ

を眺めていた。

 

プルルルルルル…

 

電話が鳴った。

「あ、いいよアスカ。僕が出る」

今度はシンジが受話器を取った。

「あ、綾波」

少し弾んだ声。アスカがピクリと反応する。

「え……?うん、うん、わかった。…………そう?」

普段の生活――特に自分の前では――殆ど見せない楽しげな声、

笑い、態度。

胸が痛む。

アスカの中に、何か耐え難い衝動のような感情が沸く。

わざと音を立てながら立ち上がり、

アスカは自分の部屋へと引っ込んだ。

本人もかすかにしかわからない衝動―――

それは一種の焦燥感だった。

綾波レイ。

ファーストチルドレン。

……イヤナヤツ。

ベッドに倒れ込む。冷たい布団が気持ち良い。

布団に顔を埋め、息を吐く。

(一体……何だってのよ……この不快感は……)

そしてアスカの意識はゆっくりと闇に飲まれていった。

 

「ん………」

ふとアスカが目覚めた。まだ1〜2時間しか経っていない。

「…寝ちゃったんだ」

まだはっきりしない頭を抱え、キッチンに出る。

(喉…乾いた……)

アスカは冷蔵庫を開けると、缶ジュースを一本取り出し、一気に

飲み干した。

――が、途中で失敗した。…缶ビールだった。

一応、ブザマに吐き出すのは回避できたが、変わりに少量のアル

コールを摂取する羽目になる。

吐き気がアスカを襲う。

「気持ち悪い……」

アスカは部屋に戻って寝ようとした。しかし、うたた寝とアルコ

ールでぼやけた頭は、アスカを別の部屋へと運んだ。

シンジの部屋だった。

アスカは気づきもせず、ベッドに倒れる。

(あ………シンジの…匂いがする……)

アスカの全身を取り巻いていた、倦怠感、焦燥感、気持ち悪さや

不安が、だんだんと溶けていく。

「なんか…安心する………」

アスカはシンジの匂いが染み付いた布団にもぐり込んだ。

 

シンジは風呂から上がると、キッチンに缶ビールが出ているのを

見つけた。

(まだ残ってる……アスカが飲んだ…のかな)

しかしアスカが酒を飲むとも思えない。

とりあえず、自分には関係の無いことだと納得すると、シンジは

自分の部屋へと戻ることにした。

風呂から上がってすぐ寝るつもりだったので、部屋の明かりは点

いていない。

ベッドに横になる。

 

ぐにゃ。

 

変な感触がした。手探りで布団の中を探る。

 

むにゅ。

 

やはり変な感触がする。

(何だ……?)

どうやら生き物の様だ。が、ペンペンにしては毛が少ない。

ということはまさか……

そして闇の中、シンジはその正体を知った。

「うわっ!あっ、アスカ!」

シンジが思わず叫び声を上げると、それにアスカが反応した。

「あ……シンジぃ……」

抱き着いてくるアスカ。

展開についていけず、慌てるシンジ。

「ちょ、ちょっと、ねえ、アスカ!?」

アスカの腕がシンジの首に絡まる。

さらにアスカが顔をシンジの胸に摺り寄せてくる。

「ねぇ、ちょっと起きてよアスカぁ!」

完全にパニックしたシンジの耳に、アスカの声が届く。

「ねえシンジ………しようか」

シンジは耳を疑った。

「し、しようって…」

「…女に恥じかかせんじゃぁないわよ…」

この時初めてシンジは気づいた。

(……やっぱり飲んでる)

アスカの息は酒臭かった。

(でもアスカってこんなにお酒に弱かったっけ?)

アスカはビール一缶も飲んでいないはずだ。

シンジが考えると、まるでその考えを読み取ったアスカが思考を

邪魔するように、手をシンジの服の下へと潜り込ませた。

「うっ…」

アスカの冷たい手が、シンジの風呂上がりで火照った体をまさぐる。

これ以上理性のタガを維持する術を、14才の少年は

持っていなかった。

「アスカ……」

「シンジ……」

そして闇の中、二つの影が重なり合った。

 

シンジは、アスカの身体を思うように貪った。

アスカは、シンジの思う侭に身を任せた。

シンジの悦び。

アスカの痛み。

二人とも、何も喋らず、ただひたすらに互いの身体を感じ合う。

シンジは酔った勢いだと思った。

……アスカは酔ってなどいなかった。

 

次の日の朝。

シンジが目覚めると、アスカの姿はもう無かった。

時計を見る。起きるにはいい時間だ。

ドアを開け、リビングに出る。

「おはよ、バカシンジ」

そこにはアスカがいた。

「あ………」

シンジは思わず昨晩を思い出し、赤面する。

「なに赤くなってんの?気っ持ち悪いわねぇ」

アスカの態度は、別に普段と変わりない。

(あれ………確か昨晩……)

見てみると、テーブルの上にあったはずの缶ビールが無い。

「夢……だったのかな…」

夢にしてはやけにリアルだったが。

「何が?」

「いや、何でもないんだ…」

「あら、そ」

アスカは興味を無くしたように洗面所へと歩いていった。

下腹が鈍く痛む。

……鏡を覗く。顔が赤い。真っ赤だ。……シンジにはばれな

かったろうか。

夢なんかじゃ無かった。確かに昨晩の事は起こったんだ。

……でも、アタシなんであんなこと……

考えても答えは出なかった。

しかし、不思議と気分は良かった。

 

その後、二人は朝食を摂り、ネルフ本部へと向かった。

起動実験があるからだ。

この知らせは昨夜のレイからの電話で連絡されたことだった。

レイの名を聞いた瞬間、アスカは自分の廻りに昨晩消えたはずの

言い知れぬ不安が再びまとわり付きだしたのを感じた。

その感覚は、嫉妬とは少し違っていた。

どこか、予感めいていた。

 

起動実験。

エヴァを制御する。

そのためのデータを集めるための実験。

アスカは、あまり気乗りがしなかった。

本当なら自分の力が証明できる、絶好の場所なのに。

(なんか今日は憂鬱だな……)

弐号機の中で、アスカは思う。

自分でも理由は分からない。

「じゃ、いつものとーり、やってみて」

ミサトの明るい声が聞こえる。

だめだだめだ。今は余計な事を考えてる時じゃない。

アスカは頭を振った。

今は……集中しないと……

その時、通信の声が聞こえた。

…シンジと、綾波レイの声だった。

(ファースト………!)

幾分明るいシンジの声。

無口なはずのレイが、よく喋る。

アスカは耐えられず、通信をカットした。

胸の中に湧く、かすかな痛み。

心臓の中に、氷のカタマリを放り込まれたような感覚。

――形に出来ない、自分の心。

涙が、LCLに溶けた。

 

「ねえリツコ、アスカのシンクロ率……」

ミサトが横に座る金髪の女性に話し掛ける。

「ええ………かなり不安定ね」

シンクロ率をあらわす表示が上下運動を繰り返している。

「一番低いときでもエヴァが起動できない程じゃないから、

問題無いといえばそうなんだけど……」

リツコのセリフをミサトが引き継いだ。

「戦闘中が恐いわよねー……」

ふう、と一息つくと、ミサトは三人に実験の終了を宣告した。

 

更衣室。

二人の少女が着替えている。

アスカはさっさと着替えおわると、更衣室を出た。

ドアを開け、通路に出ると、シンジがパックのジュースをもって

立っていた。

「あ、アスカ。これ……」

シンジがジュースを手渡す。

「へぇ、バカシンジの割には気がきいてんじゃない」

油圧の音がし、後ろからレイが出てきた。

「綾波、これ」

今度は野菜ジュースを手渡す。

「ありがと」

三人は並んでパックのジュースを飲んだ。

「ねぇ、綾波……」

シンジが、綾波に話し掛ける。

「なあに?碇クン」

綾波が答える。

会話が始まる。それは他愛も無い世間話だった。

しかし、今度は通信をカットする様に二人の声を消すことができない。

「…帰るわ」

不意に、アスカが寄りかかっていた壁から離れ、

つかつかと歩き出した。

「あ、アスカ……!」

 

アスカの歩きはやがてスピードを増し、殆ど走っているような

スピードになった。

(アタシ、バカみたいじゃない)

朝の気分のよさは消え失せ、変わりに恥ずかしさと後悔が沸き上がる。

マンションに着くと、アスカは自分の部屋に引っ込み、

布団を引っつかんでベッドにうずくまった。

いつのまにか、涙が零れていた。

(……なんで泣いてんのよぉ……あんなやつ、キライなんだから………!)

…どれくらいそうしていたのだろうか。

いつのまにか、あたりは真っ暗になっていた。

少し眠ってしまったらしい。

リビングから漏れてくる明かりと、料理の音が、

シンジが帰っていることをアスカに伝えた。

 

トントン。

 

「あの、アスカ…ご飯、できたよ」

「……いらない」

陰鬱な声。

「調子、悪いの?」

「うるっさいわね、いらないって言ってんでしょ!」

アスカは怒鳴ってからしまったと思った。声が震えていた。

「……そう、じゃ一応テーブルの上に置いとくから、

お腹空いたら食べてよ」

シンジはあっさり引いた。気付かなかったはずはないのに。

(バカシンジ……!)

 

プルルルルルル…

 

しばらくの後、電話が鳴った。

「はい……あ、ミサトさん…はい、はい……わかりました」

カチャ。

 

トントン。

 

再びノック。

「アスカ…ミサトさん、今日も遅くなるって」

「…わかった…」

また声が震えた。

今度はシンジも見逃さなかった。

「ねぇ、どうしたの?今日のアスカ、変だよ?」

「…ほっといてよ!」

「さっきだって、先に帰っちゃうし…」

瞬間、レイの無表情な顔が頭に浮かぶ。

「――もう、ほっといてってばぁ!」

ヒステリックに叫び、アスカが部屋を、マンションを飛び出す。

「―どこへ…」

「ついてこないでよっ!」

シンジは、呆然と立ち尽くしていた。

 

夜の公園。

アスカは一人、ひざを抱えてブランコに揺られていた。

頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。

きぃ… きぃ…

ブランコの鎖のきしむ音が響く。

一体アタシ、何やってんだろ……

「アスカ……」

突然後ろから声を掛けられ、危うくアスカはブランコから落ちそ

うになった。

「シンジ…!」

振り返った先には、シンジがいた。

アスカは思わず逃げだしたが、すぐにシンジに腕を捕まれた。

「っ…放しなさいよっ……!」

「な、なんで逃げるんだよ……!」

暴れるアスカに苦労しながら、シンジが問う。

「るっさい!アンタには関係ないわよ!」

「じゃあなんで泣いてるんだよ!」

え………?

知らず、アスカはまた泣いていた。

(アタシって、こんな涙脆かったっけ……)

目の前に、心配そうなシンジの顔がある。

(今日泣くの……三回目かな……)

頭のどこかでそんなことを考える。

「アスカ……」

シンジの声で我に帰る。

「……っとにかく、放っといてってば!」

再びアスカが抵抗を始める。

「そ、そんなことできるわけないじゃないか!」

「アンタは他にやることがあるじゃないの!」

シンジの方が力が強い。振りほどけないと悟ったアスカは、

シンジの頭といわず胸といわずたたき出した。

「な、なんのことだよ!」

「ファーストの所に行ってりゃいいじゃないのよ!

アタシはアンタなんか大っ嫌いなんだから!

アタシの心に勝手に入り込まないでよ!さっさと消えなさいよ!

バカシンジのくせに、バカシンジのくせに…………」

アスカからはいつもの気丈さや強気な態度は消え、涙でぐしゃぐしゃに

なった顔と赤く腫らせた目は、アスカがまだ14才の少女だという当た

り前の事実を、シンジに思い出させた。

シンジを叩く力が、だんだんと弱まっていく。

ここまで来て、鈍いシンジの頭もようやく事態を理解した。

今更に、叩かれた胸が痛い。

「ごめん、アスカ」

アスカは地面にへたり込み、シンジの胸を弱々しく叩き続けている。

「うるさい……」

「ごめん、アスカ」

シンジは再び謝ると、アスカの頭を胸に抱いた。

「僕は、アスカが好きだよ」

「うるさい………バカシンジ………」

 

公園の街灯が二人をじっと照らしていた。

 

 

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ご、ごめんなさいぃぃぃ。

どこをどうしていいやらわからないんですよぅ。

えーえー、わかってるんです、だめだめなのは。

中途半端だしシンジ君何か変だし、アスカ様へっぽこぷーだし……

で、でもどーか見捨てないで長い眼で見てやってください。

たぶんそのうち成長しますから!(しないかも……)

…ま、まあそれでは今回はこの辺で。

儚でした。

 

追記:実はこの話、続きあります。まあ誰も見たか無いでしょうが

お許しいただければそのうち投稿します。

でわ。

 


 

みゃあの感想らしきもの。