|
自分の身体の上で動く、大好きな人。
肉体の快楽と、精神の痛みが交互に襲う。
ティファはしっかりと目を見開いて、彼の顔を見ていた。
「――――」
彼の口唇の間から、漏れる名前。
「――――」
彼の額からこぼれ落ちた汗が、ティファの頬を濡らす。胎内を突く脈動は、徐々
に速さを増し最高潮に達しようとしていた。
「――――!!」
彼が、彼女の名を叫び、行為は終焉の時を迎える。どっと自分の上に倒れ込んで
きた男の髪を撫でながら、ティファは奥歯を噛みしめて苦痛に耐える。
「クラウド……」
密やかに囁くと、彼は虚ろな瞳をティファに向けて微笑んだ。
「愛してる……エアリス」
クラウドが精神の平衡を完全に失ったのは、エアリスを喪ったその夜だった。最
愛の女性を目の前にして助けられなかった衝撃は、危うかった彼の精神を完膚なま
でに打ち砕いた。
そして、その夜に……ティファは、クラウドに抱かれた。
戸惑いも恥じらいも存在する余地はなかった。クラウドは、ひどく静かに、当た
り前のように彼女のベッドに滑り込み、ティファを凍り付かせる科白を口にした。
「……エアリス、今夜……いいかな?」
昼間は冷たさのヴェールで覆われていた青い双眸は、月の光の下で見ると魔晄の
色より尚深い狂気に染まり、現実を映していないのだとティファに認識させた。ク
ラウドの腕の中にいるのは、瞳に映っているのは、自分ではなくエアリスなのだ。
「やめて……クラウド!」
ティファは、逃げようと思った。いくら好きな人でも、誰かの代わりに抱かれる
なんて……耐えられないと、そう思った。だが、クラウドが口づけと共に落とした
科白は、ティファの身体から抵抗する意志すらも奪った。
「エアリス、こんな秘密めいた関係は、あと少しだから……。セフィロスを倒すま
でだから」
クラウドはキスの雨を降らせながら、ご丁寧にエアリスと自分がしてきた履歴を
披露してくれた。優しい愛撫が、ティファにとっては氷よりも冷たく感じられた。
行為が終わり、クラウドが自分の髪に顔を埋めたとき、ティファはようやくクラウ
ドが何故自分を身代わりにしたのか解った。
「エアリス、エアリスの匂いだ……」
その夜、ティファはエアリスの使っていたシャンプーで髪を洗った。彼女がもう
いないことが悲しくて、信じたくなくて、エアリスがそばにいるような気分になる
かと、使ってみたのだ。
「エアリス、愛してる」
耳元で囁かれる熱い言葉に、ティファは返す言葉を持たなかった。
「あれ、ティファ花の匂いじゃん」
廊下ですれ違ったユフィが、足を止めた。少女の足下、ナナキもティファにすり
寄るとふんふんと香を嗅ぐ。
「ホントだ、なんかエアリスみたいな……」
言いかけたナナキが、ハッと言葉を切る。
「いいのよナナキ、これエアリスが使ってたシャンプーの匂いだから」
にっこり笑ったティファの表情は翳りを上手に隠したため、ナナキはそれに気が付かなかった。
「じゃ、お休みなさい」
二人に告げ、ティファはそっと彼の部屋に向かう。
このシャンプーを使った夜は、クラウドと肌を重ねることが出来る。
それは、最大の苦痛を伴う快楽と知っていたけれど
ティファは、静かにクラウドの部屋をノックした。
---------------------------------------------------------------------
一応、精神的にはクラウド×エアリスなんですが。
……でも、クラウド最低ですね、これじゃ(^^;)
失礼いたしました