『A.S.K.A』
(3)仲間
作・H&Rさま
「ただいま!!」「・・・」
新ベーシスト候補、シンジを連れてアスカとレイは戻ってきた。
「おかえりアスカ。どうだった?」
「それよりも、そっちはどうだったのよ? あの唐変木と二人っきりだったんでしょ?」
「なっ!! ・・・」
トウジと二人っきりだったことを知っているはずのないアスカから図星をつかれ、ヒカリは驚きを
隠せない。ヒカリはトウジに声が届かないくらいの所までアスカを引っ張っていった。
(ア、アスカ、どうして知ってるのよ?)
(相田とミサトの考えそうなことなんてすぐにわかるわよ。それより、どうだったの?)
(べ、別に・・・ただお弁当を食べてもらっただけ・・・)
(ふーん、ヒカリもやるわねぇ。手作りのお弁当作戦かぁ。)
(わ、私は別に鈴原のことなんか何とも・・・)
(思ってないの?)
(・・・・・・・)
「おぅ!! 綾波、惣流、どないやった?」
そこへ、ヒカリ特製の弁当を平らげ満足顔の唐変木トウジがやってきた。
「ん? 何や、いいんちょ。惣流と内緒話かぁ? いやらしいのぅ。」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ!! 元はといえばあんたが悪いんじゃないの、この単純ボケナス!!」
「なんやとぉ!?」
「二人ともやめなさい!! それよりもアスカ、ベースの件はどうだったの?」
「あぁ、今レイの所にいるわ。ほら、あっちの・・・・・・!!」
アスカがレイのいる方を見て凍り付いている。怪訝に思ったヒカリとトウジもそちらを見て、
やはり凍ってしまった。それもそのはず、レイは寝そべっている少年、シンジに今にもキスを
しようとする寸前だったのだ。
「あ、あの綾波が・・・わいは夢を見とるんか?」
「・・・い、いやあああぁぁぁ!! 不潔不潔不潔不潔ぅっ!!」
「ちょっとあんた!! 人ん家でなんてことしてんのよ!?」
レイが顔を挙げる。その頬は真っ赤に染まっていた。
「碇君が目を覚まさないから。」
「目を覚まさないこととあんたの行動とどう関係があんのよ!?」
「・・・・・・人工呼吸(ぽっ)」
レイはさらに頬を染めてうつむいた。
「あ、あんたばかぁ!? ただ気絶しているだけの人間に人工呼吸をする奴がどこにいるってぇの!!」
しかし、アスカの言葉は上の空、レイは恍惚の表情でシンジを覗き込んでいる。アスカは文句を言う
自分がばかばかしくなってきた。
「ふぅ・・・ とにかくこいつが新ベーシスト候補よ!! ほらヒカリ、いつまでも発作起こしてないの。」
「不潔不潔ぅ!!・・・・・え、あ・・・ あぁ、その人がそうなの?」
「ふぅん。なんかひ弱そうやけど、大丈夫なんかぁこいつ?」
「う゛・・・ お、音楽の才能は秀でているわ。それはあたしが保証するわ!!」
「なぁーんかひっかかる言い方やのぅ。惣流、おまえなんか隠してんと違うか?」
変なところで鋭いトウジにアスカはあきらめたようだ。
「・・・いずれわかることだから、今のうちに言っておこうか。相田!! ミサト!!」
「アスカ、相田たちはミーティングで喫茶店に・・・」
「そんなの嘘に決まってんでしょ? さっさと出て来なさい!!」
・・・・・・
しばらくしてミサトとケンスケが洋服たんすの中から出てきた。
「ちぇっ、アスカもなかなか勘が鋭いわねぇ。」
「ミ、ミサトさん!! どうしてそんなところに!?」
「東洋の神秘よ。それより洞木さん、なかなかやるじゃなーい♪」
「!! からかわないでください・・・」
「???」
何もわかっていないトウジは一人首をかしげる。そんなトウジを見て、ケンスケは呆れ顔で、
「トウジのためを思って一肌脱いだんだけど・・・」
「??? なんのことや?」
「トウジ、お前委員長のこと、何とも思わないのか?」
「いいんちょ? ん、あぁ、弁当うまかったで。」
「「「「はぁ・・・」」」」
「???」
4人の猛烈なため息がトウジを襲う。がトウジには全く通じていないようである。
「と、とにかく、これで全部そろったわね。じゃ、自己紹介してもらいましょうか?」
しかしシンジは未だ気絶真っ最中。ついでにレイも恍惚真っ最中。
「こら!! あんた起きなさい!!」
「わたしが起こすわ。」
レイが顔を再びシンジの顔に近づける。
「あんたはあっちに行ってなさい!! こんなやつ、こうやって起こせば良いのよ!!」
アスカはレイを押しのけ、シンジの胸座をつかんで持ち上げる。
「起きろおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
びしびしびしびしびしびしびしびしびしびしっ!!
アスカはシンジに往復びんたを食らわす。慌ててヒカリとレイが止めに入った。
だが、その効果があったのだろう。シンジは覚醒した。
「・・・う、うーん・・・ あ、あれ、ここは・・・?」
「ようやく気づいたようね。ここはあたしの家、あんたは今日から『A.S.K.A』の仮メンバーとしてベースの勉強をしてもらうわ。」
「へっ? ・・・あ、な、何のことかさっぱり・・・?」
寝起きに突然そんな事を言われれば当然である。
「だぁかぁらぁ!! あたし達はあんたにベースを弾いてもらいたいの!!」
「ベースって、コントラバスのことですか? でも僕、チェロしか弾いたことないですし・・・」
ぽかっ
「あいたっ!!」
「あんなごついアナログ楽器じゃなくて、これよ!!」
どこに隠し持っていたのが、アスカはシンジの目の前にフレットレスベースを出した。
「えぇ!?これ、エレキベースじゃないですか!? 出来ませんよ!!」
「やるといったらやる!!」
「そ、そんな・・・」
「・・・おい、惣流。」
ちょっとあやしい雲行きにトウジが口を挟んできた。
「もしかしてそいつ、ベース未経験か?」
「・・・・・・そう。」
ばんっ
トウジがテーブルを叩いた。
「あほか!! ベースに触ったこともないようなやつに、わいらの曲が出来るか!!」
「アスカ、その人には悪いけど、私もそう思うわ。いくらなんでも無理よ。」
怒り狂っているトウジだけではなく、ヒカリまでも難色を示す。
「・・・・・・」
2人のもっともな言い分にアスカは何も言えない。それにアスカ自身、同じような考えが少なからず
あったのも事実だ。
「・・・みんな、ちょっと聞いて。」
重い沈黙のなか、レイが口を開く。
「確かに碇君はエレキベースは未経験だけど、とてもいい音楽性をもっているわ。あなた達は聞いたことがないからわからないでしょうけど、彼のチェロには『世界』がある。」
「そうね、確かにあれは『世界』ね。」
アスカがうなずく。
「相田君のもとめていたもの、そして今のわたしたちに必要なものはまさにそれだと思うの。
碇君はそれに打ってつけの人・・・」
レイの言葉をじっと聞いていたトウジが口を開く。
「完全主義の綾波がここまで言うんならそうかもしれへん。しかしなぁ、やっぱ無理やと思うで。」
「・・・・・・」
「ケンスケはああ見えても腕は超一流や。それにケンスケ独特の味も持っとる。それを他人がプレイできるとは到底思えん。」
「トウジ、それは違うと思うな。」
『元』ベーシスト、ケンスケが言う。
「別に俺の真似を要求するんじゃない。むしろ俺は新しい『風』が欲しいんだ。えっと、君はチェロをやっているんだろ?」
「え? あ、はい。」
「俺はクラシックの専門家じゃないけど、チェロという楽器はとても好きだよ。低音領域だけで作り出す味が、ね。それに、あの惣流と綾波を唸らせたんだ。彼の腕は相当のものだろう。俺自身、新しいベーシストに何を求めていたのかよくわからなかったけど、もしかしたら彼のような人材を欲していたのかもしれない。いや、きっとそうだ。綾波の言うとおり、俺はベースを単なる土台としてだけじゃなくベース自身の『世界』を無意識のうちに望んでいたんだ。」
「しかしケンスケ、いきなしベースってのはなぁ・・・」
「俺がこれから1ヶ月間、彼にみっちりと教え込むよ。俺達には彼が必要なんだ!!」
ケンスケは一同を見渡す。トウジ以外のメンバーは納得したようだ。しばらくうつむき、考えていたトウジも、
「・・・わいだけ反対するわけにはいかん。和を乱すのは好かんからな。それに、おまえほどの男がそこまでいうんや。そいつに賭けてみる価値もあるやろ。」
そう言ってそっぽを向く。トウジの性格を知り尽くしているケンスケは苦笑した。そしてシンジの方を向いて頭を下げた。
「というわけなんだが、やってくれるかな? ・・・・!!」
シンジのその目には涙があふれていた。
「ど、どうしたんだよ!? 俺達、何か悪いこと言ったかい?」
シンジはゆっくりと首を横に振る。
「・・・僕、いままで人に必要とされたことがなかった・・・父さんがいないだけで友達が出来なくて、いじめられて・・・ 母さんだけが僕を必要としてくれた・・・でも、その母さんが死んで、親戚は誰も僕を引き取ってくれなかった・・・」
「・・・・・・」
シンジの事情を知っていない一同はもちろん、ある程度知っていたアスカもシンジの心の奥の傷をみたように感じた。
「音楽が僕の全て、チェロだけが僕の友達だった・・・もう友達なんて必要ないと思っていた・・・
でも・・・僕を必要としてくれる人もいたんですね・・・」
後半は喉が詰まって声になっていなかった。レイがシンジに近づき、軽く頭をなでる。
「碇君、あなたはもう一人じゃない・・・」
しばらく誰も言葉を発さなかった。いや、発せなかった。
徐々に場が安定してきたのを見計らってケンスケが再び声をかける。
「もう一度聞くけど、俺達のバンドでベースを弾いてくれるかい?」
その言葉にシンジは顔を上げ、
「・・・はい!! エレキベースは未経験ですけど、一生懸命がんばります!!」
その顔は依然涙で濡れていたが、極上の笑みにあふれていた。
ドキッ
その笑みにアスカは敏感に反応した。
(・・・なんて良い笑顔だろ・・・ はっ!? あ、あたし、何考えてんのよ!! ちょっとちょっと、このアスカ様とあろうものが!!・・・・・・でも、いいな・・・)
「アスカ、アスカったら、どうしたの?」
びっくぅ!!
「ちょ、ちょっとヒカリ!! 突然話し掛けないでよ!!」
「さっきから何度も呼んでたじゃないの。それより、どうしたの? さっきからボーとして。顔も赤いわ。熱でもあるんじゃない?」
「な、何でもないって!!」
「ふーん・・・あ、これから彼の・・・」
「あ、あいつがどうしたってーのよ!! べ、別にあたしには全く全然ちょー激烈関係ないわ!!」
「・・・彼の自己紹介が始まるって言おうとしたんだけど・・・」
「へっ?・・・あ、あはははは・・・」
「・・・・・・アスカ、あなた(ニヤリ)」
「ヒカリ!!」
「おい!! そこうるさいぞ!!」
ケンスケがアスカ達に怒鳴りつける。2人は静かになったが、ヒカリの顔は未だにやにやしていた。
「まったく・・・じゃ、お願いできるかな。」
シンジはちょっと照れくさそうに一歩前に出た。
「えっと、名前は碇シンジです。今は高校に通っています。楽器経験はチェロだけで、エレキベースの経験はありません。これから一生懸命勉強してみなさんのお役に立ちたいと思います。よろしくお願いします!!」
ぱちぱちぱち
一同から拍手が起きる。シンジはさらに照れくさそうにしてうつむいた。
「よし、じゃ俺達も自己紹介しなくちゃな。俺は相田ケンスケ。一応『A.S.K.A.』のリーダーということになってる。担当はベースとプロデュースだけど、ベースは君に任せることになるね。仲良くやろうよ。よろしく!!」
「はい、よろしくお願いします!!」
「わたしは洞木ヒカリ。キーボードを担当しているわ。碇君、これからよろしくね。」
「はい!!」
「わいは鈴原トウジや。ドラムを担当しとる。ケンスケのベースはえらいむずかしいからのぉ。
死ぬ気でやらないかんで!! ま、よろしゅう!!」
「はい、がんばります!!」
「あ、トウジはもともとこんな感じだから、怖がる必要はないよ。」
「こらケンスケ。余計なこと言うな!!」
場に笑いが立ち込める。シンジも笑っていた。
「あたしは葛城ミサトよ。雑誌編集をしているわ。別に『A.S.K.A.』のメンバーじゃ
ないんだけど、この子達とは結構長い付き合いになるのよねぇ。」
「誰もミサトをメンバーとは思わないわよ。歳が違うでしょ?」
「ぐっ・・・アスカ、言ってはいけないことを・・・とにかく、よろしくね♪ あなたのことも
しっかりと書かせてもらうわよ!!」
「はい、こちらこそお願いします!!」
「あたしは惣流アスカよ!! ギターを担当しているわ。さっきあんたの家に行ったから
わかるわよね? 相田のベースはああ見えてもなかなか面倒だからね!!しっかりやんなさいよ、
バカシンジ!!」
まくしたてるようにアスカは言った。その顔はそっぽを向いている。心なしかちょっぴり赤い。
「は、はい・・・」
「ごめんね碇君。アスカ、照れくさいのよ。」
「ヒカリ!!」
「???」
「わたしは綾波レイ。ギター担当よ。よろしくね、碇君。」
「はい、よろしくお願いします、綾波さん。」
それを聞いたレイは突然シンジの首に手を回し、シンジと唇を重ねた。
「「「「!!!」」」」「おー!! レイもなかなかやるわねぇ♪」
「ちょ、ちょっと綾波さん!?」
「レイって呼んで!!」
「何考えてんのよあんたはっ!!」
喧々囂々。レイの不意打ちキスを発端にレイとアスカの大喧嘩が始まった。ヒカリは一生懸命アスカをなだめ、ミサトは面白がってはやし立てている。
「・・・おいケンスケ、本当に大丈夫なんやろか?」
「大丈夫さ。みてみろよ、あの綾波の顔をさ。あんなに楽しそうな綾波を今まで見たことがあるか?」
アスカと壮絶な大喧嘩をしているレイだったが、その顔にはとても嬉しそうな笑顔があった。
「そうやな。きっと大丈夫や!!」
「まぁ見てろって。彼を最高のベーシストにしてみせるよ!!」
レイとアスカのケンカに巻き込まれている、まさに渦中の人のシンジ。その心にあった大きな傷が少し言えたように感じていた。
(・・・ありがとう・・・・・・ありがとうみんな!!)
・・・まだやるのぉ?
(閑話休題)
ぜーぜー、はーはー
壮絶な大喧嘩は小一時間続き、両者とも疲れが見え始めた。シンジはすでにケンスケたちによって
救助され、その場にいるのは女性4人のみとなっていた。
「はーはー・・・レイ、あ、あんたもなかなかやるわね・・・!!」
「・・・アスカ。」
「ぜーぜー・・・何よ?」
「碇君は私のものよ!! あなたには絶対にわたさない!!」
そう言ってレイは立ち去っていった。
「ちょ・・・な、何言ってるのよ!! あ、あたしは別にバカシンジのことなんかこれっぽっちも・・・
って、こらー!! まちなさーーい!!」
アスカもすぐにレイを追いかけていった。
「洞木さん、こーゆーのいいわねぇ♪」
「ミサトさん、不謹慎ですよ。」
「そういうあなたも笑ってるわよん♪♪」
「・・・正直、あたしも面白かったから・・・あ、ミサトさん、アスカに言わないでください!!
あたしもからかわれちゃう!!」
「(ニヤァ)」
(しまった・・・あたしもミサトさんの標的だったんだ・・・)
奈落の底に落ちてしまったヒカリをよそに、ミサトはひたすら嬉しそうだったとさ。
(閑話休題:おしまひ)
面目ないです。とっても遅くなりましたH&Rっす。
誰が読んでくれているかわからない(笑)『A.S.K.A』の第3弾です。今回は物語中心です。
比較的普通のかたにもすんなり読めるのではないでしょうか?・・・ってことは、いままでのやつがへっぽこすぎたってことでしょうかね(泣)。あ、もちろん今回のも負けず劣らずへっぽこですよ(笑)。
えっと、このお話ではどなたが主役なのですか?ということですが・・・ わたし、主役は決めていません(笑)。意外なところでシンジ君ってのはどうですか(爆笑)? こりゃアスカ様に殴られるな。にーげよっと(すたこらさっさ)。
何故かまだ続いちゃいます。当初の予定では3話完結だったのですが・・・ もうちょっとこのへっぽこにつきあってくださいねm(_ _)m
では、かみそりメールください(激爆)。
みゃあと
偽・アスカさま(笑)とレイちゃんの感想らしきもの。
みゃあ「はい。どうやら前回の質問の結果が出たようです。どー見てもレイちゃんが主役ですね!」
レイちゃん「うふふ……」
アスカ様「ちょっと!あんた何聞いてんのよっ!H&Rは誰が主人公か決めてないって言ってるじゃないのっ!」
みゃあ「あ、言い直しましょう。ヒロインがレイちゃんです」
レイちゃん「うふふ……」
アスカ様「きぃーーーっ!なんですってぇ!」
みゃあ「だって、見てくださいよ。シンジくんとキスまでしちゃってるんですよ?」
レイちゃん「(ぽ……)」
みゃあ「いや〜、レイちゃんって結構ダ・イ・タ・ン」
レイちゃん「(ぽぽっ……)」
アスカ様「なに言ってんのよっ!ヒロインは当然あたしに決まってるでしょっ!」
みゃあ「ほほ〜ぅ……するとアスカ様はシンジくんとくっつきたいわけですな?」
アスカ様「っな……なんでそうなるのよっ!」
みゃあ「だって、ヒロインと言ったら主人公の恋人役でしょ?あ、分かった。だからヒロインの座にこだわるんですね!」
アスカ様「ち、違うわよっ!」
レイちゃん「……碇くんは、渡さない……」
みゃあ「おおっと、早くも激しい火花が散っております!(笑)果たして真のヒロインとは誰なのかっ!?それは次回に明らかになるでしょう」
アスカ様「シンジなんて、関係ないのっ!でもヒロインはあたしよっ!」