『A.S.K.A』

 (4)+(プラス)―…Always Reborn―(完結)

作・H&Rさま

 


 

「おーいみんな、ちょっと集まってくれ!!」

 

シンジがベーシストとして『A.S.K.A』に迎えられてから1週間、この間シンジは前ベーシストのケンスケからベースの技術指導をみっちりと受けていた。

 

「何や何や? ついに根を上げたんかぁ?」

 

「こら、鈴原!! なんてこと言ってるの!!」

 

「まぁまぁ委員長。それよりトウジ、シンジのベースを聞いてみてくれよ。」

 

「おいおい、まだ1週間しかたっとらんやないか?」

 

「とりあえず、聞いてみるだけでも、な?」

 

「鈴原、相田がここまで言うんだから何かあるのよ。ま、とにかくバカシンジがどこまで上手くなったのか聞かせてもらおうじゃない。」

 

「・・・・・・」

 

「よし、じゃシンジ、何でも良いから心に感じたままに弾いて見てくれよ。」

 

「う、うん・・・」

 

まだ自信がないのか、おずおずと専用のフレットレスベースを構える。未だチェロの影響が残っているのか、若干ネックを上の方に構えている。

 

「えっと、それじゃ・・・」

 

シンジの演奏が始まった。はじめはゆっくりとしたテンポの旋律を奏でてゆく・・・しかしそれは単調ではなく、フレットレスならではの美しいスライド、そしてビブラート・・・ 曲調は一転して少し激しめなものとなる。そこでも正確な音程・テンポを保ちつつ、細やかなところで絶妙なテクニックを隠し味として加味させている。音の土台の役割を主とすることの多いベースとはとても思えないものだった。

 

 

・・・まさにこれは『世界』・・・

 

 

最後の弦をはじきおわると、シンジはやっぱりおずおずとお辞儀をした。

 

「・・・皆さん、どうだったでしょう?」

 

しかし、その声に反応するものはいなかった。いや、出来なかった。シンジの作り出した音への感動、そして一週間足らずでここまでフレットレスベースを弾きこなしてしまったシンジの才能に対する驚愕でいっぱいだったのだ。

 

「あ、あの・・・駄目でしたか・・・?」

 

「あほう!! 駄目なことあるかい!! やるやないか、シンジぃ!! いや、今度からシンジのこと、センセと呼ばしてもらうわ!!」

 

「ほんと、お世辞抜きですばらしかったわ。」

 

「・・・・・・はっ!!・・・ふ、ふん!! まぁなかなかのものね。これなら相田の穴を十分にうめることが出来るわ。レイ、あんたの目は間違えてなかったみたいよ・・・レイ?」

 

「・・・・・・・・・・(ぽーーーっ)」

 

レイは完全に恍惚状態だった。アスカの呼びかけにこたえられないのも無理はない。

 

「・・・まぁしかたないか。愛しの彼にあれだけのものを見せられちゃ、レイは正気を保っていられないわ。」

 

「俺もびっくりしたよ。楽器を変更するわけだから、まぁ最低でも一ヶ月はかかると思っていたんだけど・・・まったく、シンジの才能が恐いよ。」

 

「ありがとうございます!!」

 

シンジは満面の笑みを浮かべた。みんなに認められたのが心から嬉しかったのだ。

 

「それでだ、シンジのおかげで予定に大幅に余裕が出来たんだ。その余裕を利用してシンジ加入記念の新曲を書いてみたいんだけど、何か意見はあるかな?」

 

「・・・相田君、わたしに良い考えがあるわ。」

 

ちょっと前まで上の空だったレイが復活していた。

 

「あんた、こういう時ばっかり都合よく復活するのねぇ。」

 

「綾波、その良い考えっていうのは?」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「・・・うん、それはなかなかいいアイディアだ!!」

 

「ちょっと!! あたしの立場はどうなんのよ!?」

 

「惣流には我慢してもらうしかないなぁ。ま、今回は記念企画だから。」

 

「う〜〜・・・じゃ、じゃあこういうのはどう?」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「!! お、おい惣流。お前そんな特技があったのか?」

 

「へぇ、そうだったんですか!」

 

「何よ!! 別に良いじゃないの!!」

 

「人は見掛けによらんっちゅう良い見本やな。」

 

「鈴原!! そういう事は心に思っていても言っちゃだめでしょ!!」

 

「ヒ〜カ〜リ〜・・・どういう意味かしらぁ!?」

 

「え、あ、いや・・・わたしも意外だったから・・・あ、あはは。」

 

「綾波はどう思う? これで良いかい?」

 

「・・・異論はないわ。」

 

「よし!! じゃあさっそく準備にとりかかるぞ!!」

 

 

・・・一ヶ月後

 

 

 

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・・・Master Of The Master is Dead!? No!!

 

『A.S.K.A』 −Secret Live Report−

 

 

来春にニューアルバムの発売を控えた『A.S.K.A』のファンミーティングが都内某所で行われた。ファンとの親睦を深めることを趣旨とするファンミーティングであるが、私たちファンは衝撃的なことを聞くこととなった。

 

ベースの相田ケンスケ脱退!! バンドのプロデュースに専念

 

後任は無名の新人・碇シンジに決定

 

これは相田本人から直接会場のファンに伝えられた。ファンにとってはあまりにも唐突な話であったのだが、相田の誠意のある説明でみな納得したようだ。

 

続いて後任の新人・碇シンジが登場。緊張しているのか若干硬い表情だったが、バンドのメンバーはみな暖かく迎えている。バンド内部での状況は上々のようである。しかし、ファン側としては相田の抜けた大きな穴を埋めることが出来るのかが重要なのだ。

 

わたしの考えたことが通じたのであろうか、バンドはファンのために何曲か演奏すると宣言。ファン達から大きな歓声が上がった。バンドは一旦裏に下がり、それぞれ準備に取り掛かり始める。再びバンドが表れた時、わたしは一つのことに驚いた。新ベーシスト・碇の持っているベースがフレットレスベースなのだ!! そのことに気づいた一部のファンからも驚きの声が上がる。決してロック向きではないフレットレスベースを敢えて使う理由があるのであろうか? その答えはこれからのバンドの演奏で明らかになるだろう。

 

(・・・中略)

 

バンドの演奏が終わった。一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声が沸き起こった。一瞬の静寂、今までの彼等の音楽とは明らかに違う、数段向上した音楽にファンが驚愕した結果であろう。これは間違いなく碇のベースによるところである。綾波、惣流のツインギターの奏でる旋律に加えてもう一つの旋律、碇のベースから生み出された旋律がすばらしいアンサンブルとなっているのだ。フレットレスベースを使った効果がこのように表れるとは・・・

 

さらに、バンドからファンのためにもう1曲プレイするという。しかもこの1ヶ月の間に書き上げた新曲だ!! タイトルは『World』だそうだ。今日この場に来ているファンは何と幸せものであろうか。バンドは再び裏に下がった。準備があるらしい。・・・何を準備するのだろう?

 

待つこと数分、バンドが三度表れた時、ファンの間から驚愕の声が上がった。不覚ながら、わたしも驚きの声を上げてしまった。無理もない、綾波が持っているのはアコースティックギター、碇が持っているのはチェロ、そして驚くべきことに、惣流が持っているのは何とバイオリンなのだ!!

 

これは後にバンドから聞いた話なのだが、当初この企画を持ち出したのは綾波で、その時点では惣流はベースを担当するはずだったらしい。が、それを良しとしない惣流が『昔取った杵柄(!)』でバイオリンをプレイすることとなったそうだ。

 

ステージに3つの椅子が用意され、右から惣流、碇、綾波の順についた。鈴原と洞木はいつもの定位置につく。綾波がアルペジオでギターを弾き始めると、会場から軽く歓声が上がった。しかし、綾波がアルペジオとは・・・正確無比なテクニカルギターの印象しかないわたしには少し意外であったが、会場のファンはそんな事は気にしていないようだ。そうだ、気にしてはいけない。今はこの音楽に聞き惚れていればいいのだ。

 

続いて碇のチェロと惣流のバイオリンが加わり、『美しい』としか形容のしようがない音が会場を包む。しばらく美しい前奏が続いた後、”綾波”のボーカルが入った!! 綾波が歌っている!! 今までコーラスにも参加していなかった綾波がである!! それゆえ、実は”へた”なのではないか、という憶測も飛び交っていたが、そんなことはないことが今日明らかになった。惣流のボーカルとはまた一味違った、味のある歌声が会場に響き渡る。会場のファンも全てその歌声に聞き惚れているようだ。

 

意外なところばかりに注目しがちであるが、曲自体のクオリティも特筆すべきものがある。いままでの曲とは少し路線が異なるが、しかし誰が聞いても『A.S.K.A』の曲であることがわかる・・・簡単そうでとても難しいことなのだが、それを彼等はやってのけているのだ。この曲は相田の手によるものだということだが、相田の楽曲センスもまだまだ発展途上であると言えるだろう。これからもすばらしい楽曲を作り上げていってくれるに違いない!!

 

歌はサビに入り、洞木、そして何と碇のコーラスが入る。これがまた上手い具合に合っている。碇もなかなか良い声を持っているではないか!! サビが終わり、今までお休みだった鈴原のドラムと洞木のキーボードが加わる。しかしそれは控えめなもので、この曲のイメージを壊さない程度のものである。あくまで主役は前の3人なのだろう。

 

曲はソロタイムへと入った。・・・何と表現すれば良いのだろう。『美しい』なんてレベルではない!! これはもう『世界』だ!! 私たちは知らぬ間に彼等の作り出した『世界』へ招待されていたのだ!! とても言葉でつづることの出来ない『世界』・・・リポーター失格ではあるが、やはりわたしには書けないのだ。

 

代わり、視覚的に見たままを書かせてもらうと、綾波のギター、 碇のチェロ、惣流のバイオリン、それぞれの音が”ぶつかる”ことなくかみ合っている。これは画期的なことだ!! いままでの『A.S.K.A』では惣流と綾波のギターがここまでかみ合うことはなかった。もっと正確に言えば、いままでは『音的』にしかかみ合っていなかったように思う。そう、喩えれば『−(マイナス)と−(マイナス)が反発していた』ようなものだったのだ。しかし、碇の加入によりそれまでの『音的』なものから『魂的』なかみ合いになったのだ!! くどいようだが、自分でも何と表現してよいのかわからないためどうしても陳腐な表現になってしまうことをご容赦いただきたい。

 

つまり、新加入の碇シンジは『+(プラス)』なのだ。

 

バンドが演奏を終えても、私たちが夢のような『世界』から帰還するのには若干の時間が必要だった。先ほどの静寂とは比べ物にならないほどの時間、会場は沈黙に包まれた。そして、一人のファンの拍手を皮切りにこの小さな会場が壊れんばかりの歓声が沸き起こった。バンドはファンに一つ頭を下げて会場を後にした。

 

まさに夢のような一時だった。わたしはいままでにたくさんのライブを見てきているが、その中でも今日のシークレットライブが文句無しにBestだ!! 繰り返すが、今日この場にいたファンは最高の幸せ者である。『A.S.K.A』の新たな『世界』が生まれる瞬間に遭遇することが出来たのだから・・・

 

相田の話では、次のアルバムの題名も既に決まっているらしい。『本当はまだ秘密にしておくつもりだった』らしいが、そこを何とか強引に聞き出した。・・・正にこれからの『A.S.K.A』に打ってつけの題名ではないか!!

 

『・・・Always Reborn』

 

 

by Misato Katsuragi

 

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〜 追記 〜

 

この曲『World』は後に特別にシングルとして発売され、発売1週間でレコード売り上げ記録を塗り替えてしまう歴史的なメガヒットとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・thanx for you・・・See ya!!

 

 

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(閑話休題)

 

シークレットライブを終えたメンバーが楽屋に戻ってきた。

 

「ふぃーー、しんどかったのぅ・・・まぁファンの反応も上々やったし、万事OKやな!!」

 

「そうね、碇君たちの演奏もばっちりだったしね。」

 

「最高さ!! 曲を書いた俺でも、ここまですばらしいものになるとは思っていなかったよ!!」

 

「あたしなんかしばらく放心しちゃったわよ。まったくあんた達はたいしたもんだわ・・・ところで、シークレットライブ、しかも新曲を披露するって、どうして前々からあたしに教えておかなかったのよ!! おかげで心の準備ができてなくて、散々なリポートしか書けなかったじゃない!!」

 

「すみません、ミサトさん。あくまで秘密裏にやって、ミサトさんを含めたファンのみんなを驚かしたかったんですよ。」

 

「・・・ぶーー・・・」

 

「まぁまぁミサトはん。センセのお披露目も上手く行ったことやし、ええやないですか。なぁセンセ!!・・・センセがおらんやないか?」

 

「そういえばレイとアスカもいないわねぇ。」

 

その言葉にケンスケとミサトがニヤリと笑って、

 

「ほっとけよ。へたにかまうと痛い目をみるぞ。」

 

「そうそう、これからが楽しみねぇ♪」

 

「???」

 

やっぱり何のことだかわかっていないトウジ、その隣のヒカリは今起こっていると思われる惨状に頭を抱えていた。

 

 

「惣流さん、すごいじゃないですか!! あれだけバイオリンを弾きこなせるなんて・・・どうしていままで隠していたんですか?」

 

「それは・・・どうでもいいでしょ、そんな事は!! それと、あたしのことは『アスカ』って呼ぶこと!! わかった!?」

 

「は、はい・・・」

 

「あんたねぇ・・・あたし達は同じバンドのメンバーなんだから、もっとフレンドリーに接することは出来ないの!?」

 

ちなみにこの時のアスカの顔は真っ赤であった。

 

「・・・うん、わかったよアスカ・・・これでいい?」

 

「よし!!」

 

そう言うとアスカはシンジの頬にすばやく唇をよせた。

 

「!!!」

 

「よくやったわ、シンジ。今日のシンジ、とっても格好良かった・・・・・・こ、これはご褒美だからね!! べ、別にあたしはあんたのことをどうとか・・・そういうもんじゃないんだからね!!」

 

「う、うん・・・」

 

両者とも沸騰寸前。

 

「・・・碇君・・・」

 

びくぅ!!

 

シンジが声をした方を見ると、滝の涙を流したレイが暗闇に立ち尽くしていた。

 

「あ、あの綾波・・・」

 

「アスカのことは名前で呼んでくれるのに・・・わたしは『綾波』なの・・・?」

 

「あ、い、いや、そのぉ・・・」

 

「レイ、シンジが困ってるじゃないの!! やめなさいよ!!」

 

アスカが助け船を出した。しかしそれはこれから起こる戦いの火蓋であった。レイの矛先が完全にアスカの方に向いた。

 

「アスカ・・・あなたって人は・・・」

 

「何よ? 別に何をしようが、あたしの勝手じゃないの。」

 

どうやらアスカの中で何かが吹っ切れたらしい。

 

「ふ、二人とも・・・」

 

「・・・碇君、もうちょっとの辛抱よ。・・・アスカ、あなた自分のやっていることが恥ずかしくないの?」

 

「別にぃ? 世の中強い方が勝つって相場が決まってんのよ!!」

 

「そう・・・その言葉、あなたにそっくりかえしてあげる。」

 

「ふっ・・・うふふふふふ・・・」

 

「・・・・・・(ニヤリ)」

 

「・・・あぁ、これって、僕のせい?」

 

・・・・・・後の出来事は推して知るべし(笑)。

 

(閑話休題:おしまひ)

 

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ども、お久しぶりねのH&Rです(泣)。大学の方も一段落、やっとこさ『A.S.K.A』を書き下すことが出来ました。

 

感動(?)の最終話です。最終話って、書きづらいですねぇ(苦笑)。ってなわけで、こんな構成になってしまいました。あえてキャラクターの会話を無くし、状況だけでその場の状態を表してみました。 わたしとしては、『A.S.K.A』のメンバー全体にスポットライトが当たったような気がして、とっても満足しているのですが、みなさまどんな感じでしょうか?

 

失笑・罵声・かみそりなど、何でもお待ちしております!! もし「おもしろかったよん」なんて感想が頂けたら超感激です・・・くるかなぁ(苦笑)。


 

みゃあと偽・アスカさま(笑)レイちゃんの感想らしきもの。

 

 

『A.S.K.A』4(完結)