レイ、幸せはどこに
(1)
作・hrmさま
降誕祭記念SS〜
そして、夢の(そうか?)10万Hit記念〜
しかしこのSS、どこかで見かけた題名だなあ...
まあ、いいや。
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クリスマスである。
クリスマスとは、意訳すれば ”恋人たちの日 ”である。
そうでない人も居るだろう。
そこ、作者(hrm)を指差さないように。(当たっちゃいるが)
ほかにも居るだろう? たとえば第三新東京市の街外れ、古い高層アパートの
402号室にひとり住まう青銀色の髪の少女とか...
『 レイ、幸せはどこに 1 』 hrm 作
2016年12月24日、土曜日。
綾波レイは寝ていた。
窓からはいる冬の日ざしはどこか弱々しくはあったが十分に明るかった。ほとんど雲
のない晴天。時刻は朝の11時をすぎていた。
彼女は毛布にくるまって冬の日差しに抵抗していた。が、ついに彼女は敗北する。
ベッドの上に毛布をまとわせたままゆらりと半身を起こす。
そこで静止。
眼は開いているが焦点はどこにもあわず、体は活動を始めているが頭はそれに付いて
いっていない。
この状態が約30分続いた。
「くしゅん!」
肩に引っ掛かっていただけの毛布はとうにずり落ちている。パジャマを持たないため
ショーツだけで彼女は寝ていた。くしゃみの一つもするだろう。
「...寒いわ」
くしゃみで目を覚ました彼女は目覚し時計を観ようとした。が、きのう置いたはずの
場所には無い。部屋を見回すと、クローゼットの扉に穴が開いている。その大きさは
目覚し時計とほぼ一致する。
「...」
クローゼットから時計を回収しても、もう役には立たないだろうと考えた彼女は携帯
で時刻を観た。
11時49分。
今日は登校日であった。この時刻では最後の授業にも間にあうまい。
「...」
驚きも、慌てもしなかった。 ”いつもの事 ”だから。
彼女は何一つあわてることなく、ゆうゆうとシャワーを浴び、制服を着、外へと出て
ゆく。行き先は学校ではない、ネルフである。別にエヴァの起動試験や赤木博士の人体
実験かあるわけではない。
彼女はネルフの ”職員食堂 ”へゆくのである。
なぜ? 安く食べられるからである。一応、職員だし。
電車に乗って(エルフ関係者は無料である)、本部の食堂へと着く。
食券を買うときになって彼女は迷った。メニューはカレーライスに決めていた、
300円である。それを50円追加で大盛りにするか否か、彼女は悩んだ。
ついに決断。 ”ライスカレー 大盛り ”のボタンが押された。
「大盛り!」
盛り付けのおばちゃんに大盛りであることをしっかり告げる、こうしないと時々
普通盛りにされてしまうからだ。彼女はこの事で過去何度も真珠のごとき涙を流した。
福神漬は自分でたっぷりと盛る。食堂を見渡し、開いているテーブルに座る、そこは
出入り口に近かった。
「綾波じゃないか」
彼女がよく知っているやや高いテノール。
その声に口に運ぼうとしたスプーンが止まる。
「碇くん...」
控えめな、内気な笑顔の少年。彼は左手に大きな箱を持っていた。
今日はいつになく楽しそうにみえた。
「あ、食べたら。冷めちゃうよ...そのカレー、おいしそうだね。
僕はあんまり此処へ来ないんだけど、今日はこれを。
そこの売店で安く売ってるんだ、職員むけに。
今日はクリスマスだからね」
シンジは楽しそうに緑色の紙の箱を示す。表面にはクリスマスツリーの絵が描かれて
いる。
「...それは なに?」
「........」
「?...」
「あ、綾波はクリスマスツリーって知らない? そこにもあるよ」
シンジは食堂の出入り口を指さす、そこには飾りつけをされた2mほどの、なかなか
立派なクリスマスツリーが立っていた。
「...あれは 盆栽?」
シンジの顔から笑みが剥がれ落ちた。
冬の日差しが紅く色づく時刻、レイはふたたび電車に乗って今度は夕食のためネルフ
へむかった。しかしその前に彼女の保護者であるリツコに会わなければならない。
”食費 ”を貰うためである。もうほとんどお金は無かった。今日リツコは朝から第二
新東京市に出かけていて、午後にもどる予定であった。
レイはリツコの個室を訪ねたが彼女はいなかった。レイは研究用ではない雑務用の
端末を立ち上げ、リツコの居場所を確かめた。
%location -personnel rituko,akagi
赤木リツコ 技術部 部長
所在 当本部敷地外 出張
本人よりの連絡事項
申し訳有りませんが、大学同窓会のクリスマスパーティに急きょ
参加する事になり、今日は本部に戻りません。
「...」
レイの白い顔はなお白くなった。明後日まで御飯が食べられないのでは、とゆう不安
が胸を締め付ける。レイは今度はリツコが居ないときの責任者である伊吹マヤの居場所
を調べた。
%location -personnel maya,ibuki
伊吹マヤ 技術部 一般
所在 当本部敷地外 帰宅
本人よりの連絡事項
すいません。今日はクリスマスパーティ♪なので早く帰ります。
みなさんメリークリスマス(はぁと)
レイはその場に崩れた。
レイの部屋。
彼女はベッドの上に制服のまま、仰向けになっていた。
枕の横には彼女の最後のお金、91円。
空腹だった。
あのとき、大盛りを我慢すればカップラーメンくらいは買えたかもしれない。
だが、今となっては遅い。
窓には寒々とした月があった。
レイにはその月も空腹で震えているようにみえた。
眠ろう。眠ってしまえば空腹も忘れる。
しかし、眠れなかった。
無理に眠ろうとした、それはかえって眠気を奪った。
レイは眠ることをあきらめ、今日のことを思い返していた。そして自然に彼のことを
考えていた。
「...碇くんは、なんていったの
...今日はクリスマス
...クリスマス?
...わたしの知らない...食べ物?」
明かりを点けていない部屋、冬の月の冷たい光の中で、眠ることもできずレイは考え
続ける。
「...碇くん...」
なにか物音がしている。
玄関の扉を小さくたたく音。
くりかえし くりかえし たたく音。
「綾波、居ないの?」
冷たい銀の光をしなやかな細い腕で払いのけて、レイは軽やかに床に降りる。
猫科の動物が跳躍するように、ほんの数歩で玄関までゆき扉を開けた。
「あ、居たんだ、よかった」
部屋の明かりはまだ点けていない。月の光だけが少年の顔を黒の中に浮かびあがらせ
る。冷たく感じた冬の月の光はいまや暖かい春の日の光よりも暖かく感じる。
「あの、迎えに来たんだ、うちのパーティーに。
...朝、学校で言うつもりだったんだけど、綾波、来なかったから。
...お昼に言えばよかったんだけど、なんか、つい、言い忘れちゃって」
...聞いてる?、うちに来てほしいんだけど?」
碇君の家に行ける!
ふるふると頭をたてにゆすって見せる。断るはずもない。
「じゃあ...行こうか」
「途中で、ケーキを受け取りに寄り道するけど、いい?
...ミサトさんが車で迎えに行く予定だったんだけど、ケーキも...
でも、僕が料理している間にビール飲み始めちゃって...
ほんと、困った人だよね」
ううん、そんな事はないと彼女は思う。こうして2人で歩けるのだから。
それも、ながいながい時間一緒に歩けるのだから。
「あの、料理いっぱい用意してあるから。
綾波の好きなやつ、きのこソースのパスタとか、レーズンのクッキーとか...
あ、あとね、紅茶のムースも作ったから」
突然訪ねてきて、さらにかなりの距離を歩かせてしまうことへの後ろめたさからか、
自分から話しかけてゆくシンジ。
綾波の表情をうかがい、その白い顔に浮かぶ淡青い絹地のような笑みを見て、それ
以上話しかける必要はないと思い、だまって綾波の歩幅にあわせて歩いていった。
彼女は考えていた。
「クリスマス...碇くんといっぱい歩けて
...碇くんのお家でいっぱい食べられること」
とりあえずはそれでいいでしょう。
レイの笑顔に、メリークリスマス。
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警告します、読む必要のない ”作者後書き ”です。
このSS、逃避SSです。いま、冬月&レイで2人だけのクリスマスパーティーと
ゆうSSを書いてます、いや、書いてました。人類のためレイを犠牲にした事で悩み、
それを償おうとする冬月、完全シリアスです......
9割ほど書いて、破綻しました(泣)。で、クリスマスとレイとゆう要素だけ取り出
して書いたのがこれです。レイが ”ぼけ ”なのは破綻したシリアスSSの反動なので
す。
ほとんど最後の一行だけ書きたかったようなSSですね。
なお、タイトルが ”1 ”になっておりますが、”2 ”を書く保証はありません。
これは以前、書く予定の無かった続編を書いて、最初のSSが無印になってしまい、
なんとなく分かり難くなってしまった事が有ったことから、念のため(ほんとに念のた
め)に付けてしまいました。
業務連絡 > みゅあ様へ
最近お忙しいとの事。このSSを不肖hrmへの部屋にupするのは何時でも良いし
、しなくても差し支えありません。何より今ご自分がやりたい事をなされるようお願い
します。
ではこのへんで hrm m(_ _)m