注:この作品は『RPGマガジン』に掲載中の読者参加ゲーム『機動戦士ガンダム』に基づくものです。
キャラクターは基本的に筆者のオリジナルです。
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『―諸君らも知っての通り、この戦いはティターンズとしての久々の示威行為となる。最近は連邦軍内部にも反ティターンズを標榜し、暗躍する輩がいると聞く!!』
画面にはバスク・オムの演説が流れていた。
ここはバーミンガム級戦艦『オクラホマ』。その中のブリーフィング室に連邦軍第七艦隊所属の全MSパイロットが集められていた。
「なんで連邦軍の俺達がバスクなんぞの演説を延々と聞かされなきゃいけねえんだ?」
その中の一人、ウィリアム・ハーキュリー中尉が誰に言うとでもなく呟いた。
その通りなのだ。彼らがここでティターンズ向けの演説を聞かされるいわれはない。
母体となる連邦軍よりも遥かに強い権力を持つようになったティターンズ。その影響が実例として彼らの前に示されたというわけだ。
「御機嫌取りさ。上の奴ら、ティターンズに少しでも良い評価をもらおうって魂胆だ」
新しく彼の同僚となったパイロット、シドニー・パチェット少尉だ。
「糞つまらん演説を聞かされる身にもなってみろってんだ」
『―ジオニズムに傾倒するそれら軟弱どもに、わがティターンズの決意を示し、先の一年戦争のような愚挙を犯させないことこそが、この作戦の目的とするところである!』
「ったく、うちの大将ときたらいつも同じ様な事しか言わないのよねぇ・・・」
巡洋艦『バトンルージュ』のMSデッキでもその放送は流れていた。
「でも少尉、ティターンズの目的ってのも似たようなものじゃないですか?」
まだあどけない顔をしたアジア系の少年兵に対して、問いかけられた上官―ユーコ・B・サヤマ少尉―は涼しい顔をしてこう答えた。
「そだっけ?あたしそーいうとこ、良くわかんないから」
「それじゃ何のためにティターンズにいるんですか?」
まだ訓練校気分の抜けきっていない新兵、チャクリ・ナルエベト軍曹がすかさず発した質問に、
「決まってるじゃない。ここが一番実戦が多いからよ」
と答える少尉。
その少年兵の顔は、バスクの演説が終わるまで引きつったままだった。
何時の世も、軍隊と言うのは兵士のみに有らず、その役割を補う部隊の存在があってこそ戦えるものである。
「もーだめだぁ!こいつ動かねえ!」
それが無いと、上のヨーシフ・ブロウニコフスキー少尉のような目に遭うのである。
「両腕のアクチュエータが完全にオシャカですねぇ、これ」
隣で覗き込んでいた整備兵が何かお気楽そうな口調で、絶望的な言葉を吐いた。
リックドムUの左足を、調子が悪いと巡洋艦「デッサウ」の格納庫でバラしはじめたのは4時間前。
その4時間、彼は隣の整備兵の手を借りながら必死で何処が悪いのか調べ続けていたのである。
「さすがにこいつを修理するには茨の園に帰るしかありませんねぇ・・・」
無理な話だ。
幾ら故障とは言えこうも完全に機体がイカれてるのでは、この機体はもうパーツ取り位しか使い道はない。
そして新しい機体を入手出来るか、それは全く見通しがたたないのだ。
「まいったな。次の機体・・・どうしよう?」
「今じゃザクでも貴重ですからねぇ・・・」
間違ってもガトルなんか嫌だ、と思う二人であった。
U.C.0085年3月20日―
『巡洋艦「スプリングフィールド」、MS隊射出!』
『こちら巡洋艦「リガ」、カタパルト損傷。射出不能ですがロケットモーターで発艦します』
『こちら「リガ」MS隊、これより編隊を組み直します』
『「アイアン・デューク」管制よりMS全機、Tエリアで陣型を組み直してください』
まるで戦場のような―ここも戦場には違い無いが―喧騒の中、集結したティターンズの新造巡洋艦・・アレクサンドリア級のカタパルトから次々と射出される鋼鉄の巨人たち。
そして私も、その中の一人として戦場へ赴かねばならないことを思い起こす。
右足固定、正常。
左足固定、正常。
ロック解除信号、正常応答。
武装チェック・・・
ビームライフル、エネルギー充填OK。
ビームサーベル、ジェネレータ回路正常。
頭部バルカン・・・装填済み。
機体各所に異常は無い。
よし!これなら今日もいける!
「「バトンルージュ」MS隊、サヤマ少尉。射出!」
一気に機体を加速するカタパルト、そのGを体に受けて飛び出す漆黒のGM。
さぁて、今日はどんな機体を喰えるかしら?
数機のMSの編隊が、宇宙空間を駆ける。
しかしなんかがおかしい。
そう。なぜか一機だけ、ボロボロのボールが混じっていたのだ。
(よりによって、こんな機体しか残ってないとは、俺の運もよくよく尽きてきたな)
頭上で120mmを試射する振動が伝わってくるコクピットでそんなことを考える。
ピケット任務についている突撃艇から敵編隊接近の報があったのは30分前。
暗礁空域の外縁部にある拠点から迎撃任務に次々と発進していった中に俺もいた。
しかしだ。
ドムをオシャカにしちまってから、代わりの機体を調達しようと・・・した。
した事はしたんだ。
よりによって、手近で残ってたのが連邦からの捕獲品のボール只一機のみとは・・・。
武装も取り外されていたので、ドムのFCSと120mmマシンガンを応急で組み合わせた奴を付けただけだ。
冗談じゃねぇ、こんなので戦争ができるか!
『ヨーシフ!いくらポンコツだからってボヤボヤしてんじゃねぇ!』
「じゃかぁしい!だったら貴様が乗ってみろ!」
『だーれが生きてるうちからカンオケに入りたがるもんかい』
「貴様・・・・、背中に気をつけろよ。こいつは「ポンコツ」だからな」
絶対に、生きて帰れたら、ぶん殴ってやる。
俺はボールのコクピットでそう誓った。
闇から放たれた光条が、一機のザクの腹に吸い込まれる様に命中する。
突然のことであった。
先行するザクの小隊が、ティターンズとの交戦を開始したのは。
「よーし、一番槍は俺がもらったぞ!」
初弾をザクに命中させたパイロット、戦艦「ガングート」艦長にして16機撃墜のトリプルエース、ダルク・カーマイン少佐が叫ぶ。
機動性を極限にまでチューンされた黒いハイザック・カスタムを駆り、次々とザクを屠るその姿は、肩のエンブレム「ダーク・ユニコーン」にふさわしい堂々たるものである。
機動性を生かし一撃を放ったあとすぐさま残骸の影に飛び込んだ機体からモノアイを突き出し周囲を確認、ビームランチャーから次々と放たれる光が、着実にザクの進路をブロックし、算を乱した敵機がその運動性の限界に近い機動で逃れる。
だがその方向にもまたビームが伸び、次の餌食が爆発・四散した。
だが彼の機体の周辺にも、120mmの火線が伸び、グレネードが信管を作動させる。
「く、こいつ!」
ザクのパイロットとて凡庸ではない、火線の方向に牽制のマシンガンを撃ちながら手近の残骸に飛び込み、膠着状態を創り出した。
(少なくともこいつらは一年戦争やデラーズ事件の時のヘボじゃない、訓練されたプロだ・・・)
(あいつらがこちらを確認していることは間違いない、だが痺れをきらす頃にはこっちの増援も来る、ここは足止めに徹するか)
彼が3機を撃破したころには、続々と後続の機体が到着し始めた。
「この、糞、糞、糞!」
自分でも何をいってるのか解らないが、とにかく俺は射界に入った敵目掛けて120mmを撃ちまくっていた。
間に合わせのFCSだが、意外に優秀な精度を発揮している。
このボールで、俺は既に2機を脱落させることに成功していた。
徹底的に小心に行動するのが鉄則のこの機体を、俺はマニュアルもないまま完全に見当だけで動かしていた。
「ちくしょー!俺の機体はこんなんじゃねぇんだよー!」
あーもう、泣けてくる・・・。
思わずぎょっとした。
「あー、いきなり目の前に出てくるな!!」
いきなり目の前に出てきたドムに、手持ちのビームライフルを叩き込んだ。
あ・・・ミスった・・!
至近距離で核融合炉を爆発させてしまった。
当然のごとく私の機体は爆発に飲み込まれ・・・
ふっ飛ばされる。
「ひゃぁぁぁぁぁ・・・・・」
おもいっきり吹っ飛んだ私のGMは、たまたま進行方向にあった残骸に叩き付けられる!
俺がボールをしがみつかせていた残骸に、連邦の黒いGMが叩き付けられた!
ねじ曲がって変な方向を向いたGMのカメラに、継ぎはぎだらけのボールが写る。
ちょっと!今は0085・・・敵!?
しがみついていた残骸を放し、射界を確保するため機体を上昇させる。
120mmをきちんと目標に向けながらだ。
奴の機銃がこっちを向いていることに気付いた私は、必死で今使える唯一の武装・・・60mmバルカンを操る。
「動いて!動いてよ!お願い!」
・・・やった!動く!
まずい!奴の顔が・・こっちを向いた、これは・・・!
反射的に俺はトリガーを引く!
やっと動く頭をボールに向けた私は、迷わずトリガーを引いた。
GMの頭、胴体、手足がちぎれ飛び、火を吹き、火花を散らす。
ボールの強化された前面装甲が60mmの弾丸で砕け散る。
致命傷とはならない砲火の応酬。
だがその威力は既にガタのきていた機体にとどめを刺すには十分だった。
「で、あなたもこんな中古で戦ってたわけね・・・」
「そういう君もここまでボロボロの機体で、ボールとはいえ撃破しちまうとは」
脱出した二人のパイロットは、残骸の上で奇妙なMS談議に興じていた。
「どうするの?これからの機体。ボールは壊れちゃったし」
「うーん、リックドムUが直ってればそれに乗るし、駄目だったら・・・」
肩をすくめ、おどけた調子でヨーシフが、
「GMでも乗るさ」
といった時。
二人の視界に、お互いの小隊のマークをつけた機体が写る。
「お迎えね」
「ああ」
「また次も遭えるかしら?」
「多分ね」
「私の機体マーク、YとSを組み合わせた奴使ってるわ」
「僕のは、『イコン(ロシア正教の宗教画)』を付けてる。すぐ解るはずさ」
「次は、私が勝つわよ」
「勝負は時の運。どうなるかわからないよ?」
「でも私は勝つわ・・・さよなら」
「またな」
残骸を蹴ってそれぞれの味方に跳んだ二人。
これが奇妙な巡り会わせの、始まりであったとは彼らは知らない。
後書き(グチ)
えらい難産の末、出来たのがこんなもんとは・・・。
リクエストくだされた皆様、そして志願兵の皆様、これから皆さんが活躍する話になっていく予定です。
「俺の出番は!?」
「私のキャラが出て無いです・・」
という皆様、続きは大至急上げる予定ですんで・・・勘弁してください。