ここは茨の園。
その周囲。
管制用に改修されたパプワ級の通路。
なぜかそこを一人の女の子が全力疾走していた。
とてとてとてとてとて・・・どてん。
「きゃ・・・いったーい!」
何もない通路でいきなりすっころぶ。
「痛いですのぉ」
そりゃ、思いっきり鼻の頭打ってりゃいたいでしょ。
「ふえぇぇ、遅刻しますですの!!」
「あー、ミツキちゃん遅刻遅刻!」
大急ぎでブリッジに飛び込んだ彼女を、同僚のからかいの声がまちうけていた。
「ごめんなさいですぅ」
「ま、ええから。もう交代だよ、ジャンスン、ミツキ曹長と交代してくれ」
「へーい。デロ15よりバットマン、こっちは交代だ。あとはラビット03に代わる」
『そいつぁツいてるね、こんなところで幸運のウサちゃんと御対面か』
「はーいラビット03でーす。おだてても何もでませんからね!」
カノン・S・ミツキ曹長のお仕事は、大体こんな風に始まる。
通常の管制業務というのは、何事も事務的に進んでいくものである。
だが今日の業務は少し違いをみせていた。
「バットマンよりラビット03」
『はーいラビット03、何か御用?』
「余ってる機体の話、聞いたことないかな?」
『余ってる機体ですかぁ?うーん・・・ちょっとまってね?』
「?」
『かーんちょー、バットマンさんが余ってる機体がないかですってー』
「・・・あ・・・あ・・・あの子は・・・・」
思わずコクピットの中でずっこけそうになるバットマン。
『はーい、わかったよ。捕獲機なら余ってるかもしんないって』
「どこにあるんだ、そりゃ・・・」
『茨の園のスクラップヤードに一括で保管してあるみたい』
というわけでスクラップヤード。
バットマン・・・こと上官であるハンス=イヨネフ=ゲルマイヤー大尉に連れられてやってきたヨーシフ少尉は、面食らっていた。
「ここ・・・マジで茨の園なんすか?」
壁際に、ガンキャノン、GM、ハイザックがずらりと並んでいるところを見れば彼の感想もわかるというものだろう。
「・・・俺も知らんかった」
ハンス大尉も呆然としてつぶやく。
「どうです?連邦の基地でもここまでそろってるのは珍しいですよ?」
ここまで案内してくれた下士官が嬉しそうにいった。
なんでも元ペズン基地の所属で、連邦に接収された後も残って研究を続けていたという経歴の持ち主らしい。
一時期連邦にいた関係から、ここの管理を任されているそうだが・・・その実態を知ったら、上は即座に解任したくなるような性癖の持ち主でもある。
「ここの子たちは僕が徹底的にチューンしてあるんですよ。どんなにボロボロに見える機体でも性能はノーマルの数段上をいくと自負してます」
こういうわけだ。
「しかしハイザックやGMに乗るってのはなぁ・・・なんか釈然としないものがあるんだけど」
おもわず愚痴るヨーシフ。
「そういうと思ってましたよ。とっておきの機体があるんです。見てみますか?」
二人からは見えなかったが、その時の彼の顔は裂けた尻尾が生えていても何ら不思議ではないような表情であった。
「こいつは・・・」
「一体・・・」
「「何なんだ?」」
おもわずそんな疑問が口に出てしまいそうになる(出ているが)機体。
「ハイザック?違う、あれはもう少し野暮ったいし・・・このラインはアクトザクの感じがする」
「でもダクトは連邦式の設計ですね、モノアイも」
謎の機体を前にあれこれと推測をめぐらす二人。
「こいつはペズンの新型です」
下士官が誇らしげにいった。
「装甲に問題があったんで正式採用こそされませんでしたが、運動性は現存するどの機体にもひけをとりません!」
「整備性は?いまのデラーズじゃそれが一番重要だからな」
「ハイザックなんか比較になりませんよ!装甲と構造材がかなり分割されてますから」
「武装も・・・なんとかしないと」
「専用のビームライフルも使えますし、GMやハイザックの武装にもかなり互換性があります。弾はたっぷりありますから、撃ちまくっても補充がききます」
「皮肉なもんだ・・・」
通常の装備の部隊が明日の補充を気にしながら戦いつづけているというのに、ここには連邦の物資がたんまりと備蓄され、省みられることもなく腐っていく。
いや、既にデラーズという組織自体が、時間の中で腐りつづけているのかもしれない。
「ところで、こいつの名前は?」
そういわれた下士官は、本当に誇らしげに答えた。
「RMS(X)-140、ゼク・ヌル。ザクを継ぐもの、ゼクです」
同時刻。
アレクサンドリア級巡洋艦『バトンルージュ』のMSデッキ。
ユーコ・B・サヤマ少尉と整備班長が話し合っていた。
「だから新しい機体が必要なんですよ!」
「そんな事言われたってな、こっちにも都合ってもんがあるんだ。お嬢ちゃんの機体はしばらくおあずけだな」
新しい機体はまだ到着してはいない。
先日の戦闘で大破した彼女の機体は、そこからも確認できた。
頭部から胸部にかけての弾痕。
肘からちぎれた左腕。
反対側に捩れた両足。
控えめに表現しても、使い物にはならないだろう。
まだ電子装備が無傷というのは奇跡だ。
「あれ・・・直せないもんですか・・・」
「うーん・・・さすがにあそこまでやられてると、一から作り直した方が早いかもしれんな」
「たしか、古いパワードGMがありましたね?」
「まさか、あれを使うのか?」
「あれに生き残った部品を組み合わせれば、あるいは」
「面白い冗談だな」
彼は『冗談』に付き合ってそれから2日徹夜することになるとは、思いもよらなかった。
青いハイザックの三機編隊が、艦隊上方で見事な連続宙返りを披露する。
「通信士、今の編隊に電文。『只今ノ機動見事ナリ』」
「了解」
艦長は制帽をとると大きく息をついた。
制帽に押し込められていた髪がさっと流れる。
ティターンズの設立からこちら、ウチ(連邦軍)の練度は落ちつづけてばっかりだとおもってたけど、案外そうでもなさそうね。
今回の作戦も、そう悲観したものでもない、ってことか。
配備されてるMSが、中古の改造機であるGMUと低コストのハイザックでなければ、だけどね・・・。
彼女の心配ももっともなことだった。
事実、連邦軍の戦意は地の底にまで落ち込んでいる。
優秀な人材は、ティターンズに志願するか反連邦活動に身を投じるかしているので、連邦軍に入ろうと言う奴はよほどの奇人か、どちらにも入れない阿呆ばかりであった。
今の連邦は、かろうじて一年戦争やデラーズ事件を戦った古参の下士官・士官で維持されているといっても過言ではないのだ。
そこまで考えて艦長は思わず吹き出しそうになった。
そんな事を言ったら機体だって船だって同じじゃない。
現在の主力は一年戦争の時に設計されたGMをほんの少し改修したGMUに、ジオン公国の技術をそのまま活用して低コストで量産できるハイザック。
船にいたっては一年戦争の後に生産されたMS搭載型は良いほうで、いまだに一年戦争以前の小型フリゲートを装備している部隊や、一年戦争時に量産された小型輸送艇改造のMS輸送艇を使わざるを得ない。
なんともお寒い状況ね。
私の艦だって、一年戦争時に完成したマゼランを無理矢理MS搭載仕様に改造したやつじゃない。
こんな状況で、また大きな戦争になったらどうするのかしら?
まあ私がやれることは、目の前に迫ったティターンズの支援という不愉快な任務を、たいしたミスもなくやりこなす。それだけね。
艦長は制帽をかぶろうとしたが、髪をまた帽子に押し込める手間を考えると頭の上に軽くのせるだけにとどめた。
「艦長。まもなく合流ポイントです」
「わかったわ。見張りを怠らないように。ここはまだ敵が出没するんだからね」
マゼラン改級戦艦『オクチャブリュスカ・レヴォリューチア』艦長、アミ・ミヤコ中佐は、少なくとも今は連邦軍が艦長に求める用件をすべて満たしていた。
闇に、チカ、チカと光が見える。
通常目に入る星の光ではない。
「艦長、発行信号です。『コチラ巡洋艦「さんふらんしすこ」、貴艦隊ヲ先導スル』」
「こちらも発光信号、『貴艦ノ助力ニ感謝スル』」
後続する護衛艦艇・輸送艦にも「ワレニ続ケ」との発光信号を出すと、輸送艦隊はしずしずと危険宙域を離脱するコースを取り始めた。
「ねーねーリック、ひさしぶりだね!地球圏にかえってきたの!」
「ユーミィ!仕事中は艦長と呼べと言ってるだろうが!」
アクシズ所属ティベ級重巡「ドラッヘン」のブリッジ。
今日も今日とてこの二人の会話は地球圏の話ばかりである。
「私なんかもう5年は帰ってないからね〜」
「俺も5年だぞ!」
当り前である。
同じ船団で到着したのだ。
もっともこの艦隊には、一年戦争以前からアクシズで採掘に従事していた者や、以前にデラーズに所属し83年の戦いでアクシズに合流した者もいる。
しかし・・・
「新婚旅行が戦場ってのもなんか、ねぇ?」
「・・・来たがったのは、お前だろう・・・」
なぜか、全乗組員の半数以上が、
『新婚さん』
だったのである(爆)。
そりゃ、いくらアクシズという辺境だからとて、所詮男と女。
自然、くっつくのもいれば別れるのもいるし・・・。
てなわけで、この艦隊は通称『新婚旅行艦隊(ハネムーン・フリート)』などという、身もふたもない呼ばれかたをされるようになってしまったのである。
アホや、こいつら。
「アミ艦長、フリゲート艦『サワユキ』より光学センサーに反応ありとの報告です!」
ブリッジに緊張が走った。
「こっちも調べるわ、サワユキの報告の地点に全センサーを集中させて!」
艦長の命令により、『オクチャブリュスカ・レヴォリューチア』の全センサーが指定されたポイントに対し向けられる。
向けられたセンサーに、赤黒い塗装の重巡洋艦が浮かび上がる。
「目標は旧ジオン軍のティベ級、全艦砲雷戦用意!」
「サンフランシスコ、MS射出開始しました!」
「輸送艦に避退命令、フリゲート3隻をまわして!」
「目標もMSを発艦開始!」
「新たな敵影を確認、ムサイ級3!パゾク級2!」
「全艦、MS隊射出せよ!」
発見されたアクシズ艦隊も対応に追われていた。
「そうだ、可動MS全機を投入。急げ」
「『カールスルーエ』MS隊発艦、先行します」
「艦長、MSデッキからです」
「繋げ!」
『リック、「セクストン」準備出来てるよ!どうするの?』
「今のうちフル武装しといてくれ、すぐに出る!。副長!」
「はい!」
「後頼んだぞ」
「って艦長・・・奥さんの顔見に行ったな・・・こら、戦闘中に愛を語るな、そこ!」
戦闘は(遭遇戦であるがゆえに)壮絶なものとなった。
練度と性能に優るアクシズ。
数だけは圧倒的な連邦。
双方が望まない戦闘ではあったが、一度始まった戦闘は激化していた。
リックのセクストンが、エメラルドに塗られた機体を闇に浮かび上がらせながらビームマシンガンを掃射した。
軸線上にあった破片・MS・艦艇に次々と小刻みなビームが炸裂し、爆発する。
彼の機体も無傷というわけではなかったが、強固なガンダリウムγ合金の装甲は並みの機体なら致命傷になる損傷も冗談のような損害にしてしまうのだ。
既に彼はこのケンプファー改造機で、5機のMSと二隻の船を撃破していた。
「あれが旗艦か!?」
戦場の中央において、もっとも激しい対空砲火を打ち上げるマゼランがいた。
アミ艦長の、『オクチャブリュスカ・レヴォリューチア』だ。
躊躇することなく、彼はスラスターを全開にして突進した。
アミ艦長がそのMSに気づいたのは、それがバーニアを吹かしたのとまったく同時だった。
「操舵手!艦首90°上げて!」
彼女にも全くわかっていない、本能的な行動だった。
「いい、90°と同時に全砲門を艦首に集中するの!!」
そして、艦首が上を向いた。
「撃てぇぇぇぇ!」
妙な機動をする戦艦に突っ込んでいくリック。
だが、彼のマシンガンが火を吹くには、その距離は少し長かった。
射点に着く前に彼を襲ったのは、艦首を向けた戦艦と、その主砲、副砲、機銃全てを使った特大の歓迎だ。
幸い主砲の直撃は免れたものの、機体をかすめたメガ粒子砲の衝撃でパネルに頭をぶつける。
「ご!」
短くうめきをあげるが、機体は加速を続けて戦艦のわきをすり抜けた。
「こちら艦長、頃合いだ。全機に撤退命令を出せ」
『リック!』
「ユーミィ、仕事中は艦長と呼べといつも」
『だって、頭切ってる!深くは無さそうだけど・・・』
たしかに、さっきからコクピットの中に赤い玉が浮いていたり、左目が開かなかったりしていたのだが、戦闘中だったので気づかなかったのだ。
「平気だ。着艦の用意たのむぞ」
『リック・・・』
「敵MS、撤退していきます」
損害はひどかった。
MS30、フリゲート3、巡洋艦1。
輸送艦艇の損害がなかったのが奇跡だった。
「追撃はしなくていいわ。漂流中のMSを拾って戻るように全機に通達」
追撃は無理だった。『オクチャブリュスカ・レヴォリューチア』でも無理な機動を行ったため、船体に皺が生じていた。
「MSが戻り次第、ソロモンに移動するわよ。艦隊の再編成急いでね」
彼女が知る由も無いが、護衛していた輸送艦隊は、「茨の園」侵攻作戦のための主力部隊が積み込まれていたのだ。
後に、「このときに輸送艦隊に損害が出ていたら」という議論がおこることになるが、この時点では誰も知るはずもなかった。
みゃあの感想というかお礼らしきもの(笑)
出ました!アミ艦長!!(笑)
オクチャブリュスカ・レヴォリューチアという舌を噛みそう(笑)な名前のマゼランに載ってるぞっ!!
わーい、イグアナさん、ありがとーo(^-^)o。
ふっ・・・人の小説に出るのは気分いいぜ(笑)。
今度はMSに載りたいな・・・なんて・・・ダメ?(笑)