「保護者」
「性の価値は?」
第七話
佇むミサト・・・その顔からは血の気が引き、
その表情には僅かながら怒気が含まれていた
「でも・・・何で、なんでレイなのよ!」
ミサトの問いは既に悲鳴の域に達してる
「落ち着きなさい、葛城三佐!」
リツコもミサトが此処まで取り乱すことは思わなかったのだろう
落ち着き払っては居るが、驚きは隠せない
「いい、サードの身辺の世話はレイに任せると既に決定したのよ
不服があるのなら・・・・・・言う相手が違うわよ」
リツコがこの様な”逃げ”を言うのは珍しい事だが
ミサトに気づくことは出来なかった
ただ・・・うなだれたままリツコの部屋を出ていくしか・・・・
自室に一人残されたリツコは複雑な面もちで考えにふけっていた
「ダメね・・・ミサトは同僚?友達?
区別は付けていたと思っていたけど・・・・
思っていただけなのかしら・・・・」
自嘲を含んだ独り言を終えると、リツコは電話を取った
* * *
カツ カツ カツ ・ ・ ・
硬質な響きがフロアにこだまする
音の主・・・・葛城ミサトは強ばった表情のまま、遠くを見据え歩いて行く
何人も寄せ付けないような頑なさが表情に現れ
すれ違う職員はみな最初は視線を外し
すれ違ったのちに後ろ姿を見て何事かを想像する
それほどにミサトは人を寄せ付けない雰囲気を発していた
歩くミサトの前に一人の男がその進路を遮った
「よう!葛城」
無精ひげと柔和な笑みをたたえた男はミサトに声を掛ける
数多いネルフ職員にこんな男は一人しか居ない
加持リョウジである
ミサトは加持を視界に認めるとさらに表情を強ばらせた
今のミサトにとってレイの次に逢いたくない人物だったのかも知れない
「悪いけど急ぐから・・・」
ミサトはその一言だけを言い、加持をよけて通り過ぎようとする
「シンジ君に受け入れられなかったのが、そんなにショックか?」
すれ違いざま加持の投げかけたセリフはミサトの感情を解放するのに十分だった
瞳孔が開き、溢れだす衝動にミサトは身を任せた
バシッ!
ミサトの平手が加持の頬を叩いた・・・
「あんたに・・・あんたに何が解るって言うの!?」
ミサトの顔は怒りに歪み、加持を睨み付けている
加持は黙ってミサトの平手を受けていた
「葛城はシンジ君に何を求めている?
彼が君にすがりついて泣けば満足だったのか?」
「違うわ!」
ミサトは否定したものの
そういう感情が自分に僅かでも無かったか?ということは否定できない
加持に心を見透かされている事が今は何より不快だった
そんなミサトを見てなだめるような口調で加持が話し始める
「・・・・葛城はシンジ君の保護者だ、だが母親じゃない
彼が今の状況で誰を求めるか?そんな事は容易に解るものじゃないし
たとえ肉親であってもそれは難しいことだと俺は思う
でも自信はあったろう、シンジ君達との同居生活があったから・・・
他人同士が一緒に暮らすのは本当に大変なことだ、
まあ・・・それは俺達がよく解っている事だが・・・・・・・・
もう一度言うが、葛城はシンジ君の保護者だ
そして君が責任を持っているのはシンジ君一人じゃ無いだろう?
保護者として葛城にはやるべき事があるんじゃないか」
加持の言うことはもっともだった
だからこそ安易にうなずくことが出来ない
正論とはそう言うものだ
ミサトは考える
シンジやアスカと過ごして来た日々を・・・
他人と一緒に暮らすことは何も初めてではないが
保護者という責任を背負ったのはこの同居生活が初めてのことだった
人の顔色を伺う気弱な男の子と強気一辺倒な女の子
対照的な二人ではあるが、人との距離の取り方が下手な所は同じだった
それは自分も同じ
彼は逆らわないことで
彼女は否定することで
そして自分は軽薄さによって・・・
他人との接触が苦手な三人が一緒に暮らしてきた
でも一緒に暮らして何も得ることが無かった訳じゃない
こんな三人だから・・・・・・
(それにしても・・・・・)
何故に加持はチルドレンについてこんなにも深く知っているのだろう?
シンジ君とレイの事はごく限られた者しか知るはずがない
ミサトは葛藤のループから抜けだすきっかけを意外な所に見いだした
「やけに詳しいわね・・・・なんでアンタがそこまで知ってるのよ!」
「あー、いやー、なんて言うかな
まあ営業上の秘密ってヤツだな」
あさっての方向を見ながら
とぼけると言うより、ふざけた口調で加持が言う
異常なほどのわざとらしさだ・・・・
「・・・・・・・・・リツコね」
「え?・・・いや・・・あー・・・解っちゃう?」
この軽薄さが無ければ奥ゆかしい人物との評価を手に入れることが出来たろうに・・
・・・・・・はぁー・・・・・
盛大にため息をついてみせるミサト
「なんだなんだそのため息は」
「もういいから・・・分かったから・・・あっち行ってちょうだい」
疲れ切った表情でミサトが言う
その顔にはもう刺々しさは消えており、いつもの表情に戻っていた
リツコの仕業と分かったものの結局ミサトはそれを受け入れざるを得ない
加持にフォローさせた彼女なりの気遣いだから・・・
言われた事が、しゃくではあったが不思議と気分は悪くは無い
自分を取り戻したミサトは自分の為すべき事を為すべく自宅へと向かうのだった
後書きみたいなもの
ご無沙汰しておりました!鰹節でございます。何と申しましょうか・・・全開の六話から大きく開きましてなんと◯ヶ月ぶり(著者も正確には分からない)に続きを投稿した次第でございますが、みなさま憶えておいででしょうか?まあ知らない人も多いとは思います。前までのお話は既に投稿パックになっておりまして、読んだことの無い方はわざわざ落として解凍し壱話から六話をお読みになった上で読まないと、何がなんだかさっぱり分からないように出来ております。このお話自体、ここ「みゃあのお家」が発足してそんなに経ってない頃に始まりましたが、未だ七話までしか公開に至っておりません。訪問者数ものべ24万人にもなっており、自分がしばらく来ないうちに凄いことになってます。(この場ですみませんが、みゃあさんおめでたうございます、これもひとえにオーナーの日々の行いの賜物でしょう。)後書きが本編より長くなりそうな予感がするのでこの辺でやめておきます。でわでわ(^^)
いつまでレイを出さないつもりだ・・・・