「性は等価値?(いいやそんな事はない)」



第参話

 

今日も晴れだ
常夏と言っていい気候になって随分経つが
季節を知らない世代のシンジにとってはいつもの朝だった
湿度の高い日本の気候において早朝の清々しさは貴重である
明るいものの未だ熱さを感じさせない朝の日差しは気持ちよかった





シンジは男子生徒と同じ姿で登校している

昨日家であったいつ果てるとも知れない舌戦の末に
互いが譲歩する形でそれに終止符が打たれた
結局シンジは直接的に見えない、分からないからと言うことで
下着のみ女性用を使用することとなった

新たにサイズが合うように制服を買った
白いブラが分からないように色物のタンクトップを
ワイシャツの下に着ている

以前のようにだぶつく制服を着ている訳じゃないので
周囲の注目も前ほどはない
しかも隣にアスカがいるおかげでシンジの容姿も平凡に見えてしまう
普段はアスカの美貌と並んで歩くと大勢の男からの嫉妬と羨望の
まなざしが突き刺さるようだったが・・・・
今はアスカのおかげで目立たずにすんでる

しかし、制服の胸の辺りが男にしては異常に膨らんでいる事に気付く人もいる
十人に一人か二人くらいがすれ違うときシンジに視線を引きつけられる
それは不審や奇異と言った種類のものでなく
アスカに向けられる視線と同種のものだった
男の格好をしているがその清潔感のある雰囲気と優しい眼差し
時折見せる憂いを含んだ表情が見る者を引きつける
ちゃんと女性らしい格好をしていれば大抵の人は”可愛い”と表現しただろう


普段はトウジやケンスケそして洞木ヒカリなどと一緒に登校していたのだが
朝の短い時間に余計な混乱を招かないように
今日は別々に登校するように連絡していた


歩いている途中もシンジは心ここに在らずといった感じだった
彼は学校でどういう言い訳を言うか必死に考えていた
次々と話しかけるアスカの言葉にも生返事しかせず
とうとうアスカが耐えきれず爆発する

「ちょっと!シンジ人が話してるって言うのにその態度は何なのよ!」

「あっ、ごめんアスカ」

「いい加減言い訳考えるのはよしなさい!昨日の晩から
 考えてるのに今更思いつく訳無いじゃない!」

「でも・・・」

「いーから!案ずるより生むがやすしっていうでしょ
 元々あたし達は目立つんだからこれくらいなでもないわよ!」

目立つ原因はどう見てもアスカにあるのだが・・・・

アスカの言い方はずいぶん強引だったが
シンジの考え事につき合っていると切りがないことを彼女は知っていた
アスカとシンジは言い合い(傍目には痴話喧嘩)をしているうちに
学校に着いた

別段変わった様子は無かったのだがシンジの外見に
怪訝な視線を投げかける生徒が多かった

生徒玄関でアスカはいつものゴミ処理をしてシンジと一緒に教室へと向かった

学校に入ってしまえば朝の喧噪で二人に感心を寄せる者はいなかった
僅かな時間だが安心できるひとときだった

教室に入るといつもの面々が話しかけてきた

「センセどないしたんや?今日は迎えに来んでいいって何ぞ用事でもあったんか」

「いやちょっとあってね・・・」

「どうしたんやその声?そういやセンセ何かいつもと感じがちゃうな」

「実験中に事故があって・・・それの影響なんだけど」

「事故って・・ほんまか?身体は大丈夫なんか」

「ありがとう、身体は大丈夫だったんだ・・身体はね・・・」

「なんや、引っかかる言い方やなあ」

「シンジどうしたんだその胸・・・」

ケンスケがもっともらしい疑問を投げかける
シンジの胸は腫れているとかでは誤魔化しが利かないサイズだった

「いやーあのー、なんて言ったら・・・」

結局どう答えたら良いのか分からないシンジは詰まってしまった
いかにも困ったと言う顔で考え込んでしまうシンジ

「もう、昨日からいったい何考えてたのよ?説明できないなら
 言えばいいじゃないの、そのままを」

「えっ、でもアスカ・・・」

「他になんか考えつくの?」

「いや・・・」

「仕方ないでしょう、あたしだって分かんないだから」

「・・・・そうだね」

シンジはしょうがないのでトウジ、ケンスケ、ヒカリにだけ詳しいことを話した
事故で女になったこと、直らない訳じゃないことを
トウジとヒカリは驚愕の表情を示したが
ケンスケだけは怪しくメガネを光らせるとなにやら考え込んでいた
その様子をアスカは訝しげに見ていた

トウジとヒカリはシンジをまじまじと見つめる
彼らは普段からシンジとのつき合いがあるので彼が女性っぽく
なっていたことを別段気付かなかった
元々中性的な顔立ちのシンジだから普段と同じ格好をしている今は
前と同じように男にも見て取れた
しかし、彼の胸は男のそれとは違うことを明確に主張していた

トウジは好奇心を抑えられずにシンジに聞いた

「女になったてことは・・や、やっぱり下も・・そ、そうなったんか?」

「す、鈴原!なんてこと聞いてるのよ!」

ヒカリが真っ赤になりながらトウジに言う

”ゴン・・”

そんな音がしてトウジが机とキスをする

「なにしよんねん!」

「あんたって、ほんとにバカじゃないの!シンジだって真剣に悩んでるのに
 興味本位でそう言うことを聞くわけ?」

アスカがトウジに向かって怒鳴っている
普段からすれば別に珍しい光景ではない
ただ違うのはアスカの目は冗談じゃすまない・・・・・真剣その物だった

アスカのそんな顔を見せられたトウジはなにも言い返せなかった

「すまんなセンセ・・・アホな事きいたわいが悪かった」

トウジはそう言ってシンジに謝った
アスカはまだ何か言いたそうだ

「けどなシンジ、わいらに話したって事はこのことはみんなに知られても
 いいって事なんか?」

ヒカリがトウジに続ける

「そうね、こんな事が公になったらそれこそ大変なんじゃない?」

「それについては多分、大丈夫だろう」

「そりゃどう言うことやケンスケ?」

「シンジ達がネルフの歩く最高機密である限り、広まってもせいぜい
 この学校どまりさ・・・」

「はあ?どう言うことや?」

トウジが未だ理解できずに同じ事を口にした

「つまりさ、どこかに漏れそうになったらネルフに押さえてしまうんだ
 一般市民のあずかり知らぬ事ってね・・・トウジ、使徒が何回来たか
 知ってるか?碇の話とニュースは全く違うぞ」

「でもわいらが使徒がいっぱい来てるって、知っとることはどうなんや?」

「知ってた所で何もできないじゃないか、中学生じゃあな・・・」

「そう言う事よ」

アスカはやれやれといった感じだ

「相田の言う通りよ、家と学校以外じゃ常に監視されてるから・・
 あたし達にとって心の休まる場所は意外と少ないのよね・・・・」

・・・・そう、エヴァの中くらいなものね・・・・・

アスカは確認するように心の中で呟いた



アスカの寂しそうな言葉にしんみりしてしまう


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「だーかーらーって、騒ぎになるような無用な事はするんじゃないわよ!」

アスカがケンスケに釘を差す
ケンスケはカメラを持ったまま一瞬止まった

「はは、俺だってそんな事するわけないよ」

平静を装って明るく答えたつもりだが
それがあからさまに怪しい・・・

「相田、シンジの妙な写真とったら・・・コロスわよ!」

アスカの睨みは強烈でケンスケは青ざめる

(惣流ならやりかねない・・しかし、こんな機会は一生無いかも命あっての物種・・
 いや!スクープに命を懸けるのがカメラマンと言うものだ!撮ってやる・・絶対に撮ってやる!)


ケンスケは一人誓うのだった・・・・



シンジの身の上に起こったこと(女性化の事実)は
一日を待たずクラス中の知るところとなった

今回もお決まりの確認
授業中のシンジの端末にcallがポップアップする


**********************
  碇君が女の子になっちゃったてホント? 
  Y/N                 
**********************


シンジは”またこれか・・・”と思う

・・・ここで答えてしまうと騒ぎが大きくなるんだろうな・・・

以前にも似たようなことがあった・・・
その時はエヴァのパイロットかどうかを聞かれたときだった
答えた後は教室が騒然となり授業どころでは無かった
そしてトウジと・・・
今では良い思い出だと思う
友達のいなかったシンジの最初の友達となった、そして今では親友といえる間柄だ
さっきはちょっと変なことを聞いてきたがアスカに言われ直ぐに謝り
今は普段通りにつき合ってくれている

シンジはどう答えようか悩んだあげく
困った顔をしてアスカの方を見ると振り向いた瞬間アスカと目が合った
アスカもシンジの方を見ていたみたいだ
アスカは慌ててシンジから視線を離すと前をむいてそれ以上動かなかった

しょうがないので”Y”と入れる

”ええええっっ−−−−−!!”

入れた瞬間教室の約半数が立ち上がる
一斉にシンジの机に押し掛け質問の雨を降らす

「静かにして下さい!!」

ヒカリの怒鳴り声もこの状況では役に立たない
老教師はセカンドインパクトの昔話を飽きもせず話している

人混みの中心でシンジはため息をついていた
目立つことが極端に苦手なシンジには拷問とも言える時間が過ぎていった
唯一の救いは集まった生徒の殆どが女生徒だったこと位であろう

何故?

どうして?

の質問の類なら良かったのだが
いろいろと分かるに連れ女生徒の一人がある質問を口にした

「ねえ、
下着はどうしているの?」

それを聞いたシンジは顔を赤くして黙ってしまった
否定の答えが来ると思ってからかい半分で質問したのだが
思わぬ反応にシンジを囲む輪がどよめく
そしてその事を根ほり葉ほり聞かれるシンジ
質問した女生徒はすまなそうにシンジを見ていた

いい加減質問が過激化してきた頃合いにアスカが立ち上がった

シンジを囲む輪を力任せにかき分け中心に来る
そして、集まった生徒達を一喝する

「あんたバカぁ?こんなになって一番困ってるのはシンジよ
 他人のことも思いやれないほど貧相な想像力しかないの?
 いい加減にしなさいよね!他人が悩んでること興味本位でまくし立てて・・・
 そんなことで楽しんでるあんた達ってサイテーよ!」

一気に言い終わるとアスカはシンジの手を引いて教室を出ていった

「いくわよ!シンジ!!」

「ちょ、ちょっとアスカまだ授業中だよ!」

「こんな所いる必要ないわ」

そう言ってどんどん進むアスカ

どうやら屋上に向かっているらしい




屋上に着いたアスカとシンジは芦ノ湖が見える方向の手すりにもたれ掛かって
何気なしに風景を見ていた
シンジはアスカが学校で何かある度屋上に来ていることを知っていた
今回はシンジも一緒だ
何となく寂しそうなアスカの表情をシンジはずっと見ていた

芦ノ湖を渡って吹く風は湿度を含んでいたが幾分温度が低く気持ちよかった
アスカの髪が風に流れ夏の光に輝いている

「ねえ、やっぱり学校来なかった方が良かったかな?」

アスカがやっと口を開いた

「そんなこと無いよ・・・ここは、学校は僕の居場所だって思う
 なんて言うか・・僕がいてアスカがいて綾波がいてトウジやケンスケ
 洞木さんやクラスのみんな・・・やっぱり僕はここに居たいんだと思う」
 

「・・・でもさっきみたいなことがまたあるかも知れないわよ」

「大丈夫だよ・・・きっと、まだ男に戻れるかも知れない事は話してなかったし
 病気みたいな扱いにしてもらえばみんな分かってくれると思う」 

「それで良いの?」

「うん・・・さっきは酷かったけどいい加減落ち着いてるだろう
 ちゃんと話せば大丈夫さ」

 



「・・・・・それとさっきはありがとう・・・・庇ってくれて・・・」

「べ、別にいいのよあいつらの言いように頭に来ただけだから・・・」

どもりながら答えるアスカをシンジは優しい顔で見つめていた
アスカはそれを見てさらに慌てる

「別にあんたのためとかそう言うんじゃないわよ・・・・ホントに・・・
 それだけなんだから・・・」



”キーンコーン・・・”



授業が終わった・・
と言ってもシンジとアスカは途中で出てきてしまったが
昼食の時間だ

「ここにおったかいな」

トウジとヒカリが屋上にやってきた

「ねえ碇君、アスカ、みんなにはよく言って置いたから・・・・
 みんなアスカに言われて反省しているから・・・許してあげて」

「洞木さん・・許すとか許さないとか・・当然あんな事になったら
 やっぱりあれくらいは仕方ないと思うから・・・別に僕はどうこう
 しようって訳じゃない・・ここにいたいからみんなには僕からも
 詳しいことを話すよ」

「碇君・・・・」

「シンジがそう言うんだったら私はなにも言わない」

「センセ、くだらん事言う奴がおったらわいが”ぱちき”かましたる!」

「じゃあ鈴原まずは自分を殴らないとね」

「いいんちょーそれはいわんといてーな」

トウジが情けない声を出すのを見てシンジ、アスカ、ヒカリは
一緒に笑い出した

「さ、お弁当にしましょ」

ヒカリがそう言うと四人は教室に戻っていった



教室に戻るとさっき質問していた女生徒達の何人かがシンジに誤りに来た
その機会にシンジは周りに聞こえるくらいの声でいきさつを話す
大体のことはクラス全員が知ることとなり誰もバカな質問はしてこなくなった



シンジは自分が再びこのクラスに受け入れられたことを嬉しく思った

 

(第四話に続く)


後書きみたいなもの

  どうも!作者の鰹節です

 なんかやっと本題に入る準備がすんだって感じです。やっと書きたいことがかける状況にできました。

綾波が出てこないのは単に此処までで絡ませる必要を感じなかったためと忘れていた為です

(連れに指摘されて初めて気が付きました)。なんか展開急いじゃって書きかれてない・・・・・・精進せねば!

 では次回お会いしましょう(どーやって?)


katsuobushi@lam.agr.tottori-u.ac.jp


 みゃあ偽・アスカ様(笑)の感想らしきもの

 

みゃあ「鰹節さま、ヒロポンさまとならんで、あなたは光速魔神だ!(笑)なんでこんなに早く書けるんですかっ!?しかも、ご自分のレポートまでおやりになっているのに…。みゃあにもその執筆速度を分けてください(笑)」

アスカ様「…………」

みゃあ「?ありゃ……アスカ様今回も精神汚染ですか?」

アスカ様「ふっふっふっふっふ」

みゃあ「な、なんだ?アスカ様とうとう……」

アスカ様「ふっかあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!」

みゃあ「あら(ずるっ)」

アスカ様「ほーっほっほっほ。うじうじ悩む必要なんてなかったんだわ、シンジが女の子になったって言っても、一時的なことですもの!気にする必要なんてないんじゃない!」

みゃあ「どうやら開き直ったようです……(^^ゞ」

アスカ様「そうっ!あたしはいつも無敵なのよっ!(意味不明)」

みゃあ「……でもまだやっぱり後遺症が残ってるみたいです(^^ゞ。ところで、どうですか、鰹節さま。このチャンス(笑)にシンジくんとアスカ様の夢のレ◯シーンを書くというのはっ!?みゃあは個人的に見てみたいです!本編にそぐわなかったら外伝でも…」

ばきゃっ!!

アスカ様「なに言ってんのよ、あんたはっ!だめよっ!鰹節、一刻も早くシンジを元の体にもどしなさいっ!!」

みゃあ「いやあ……それは無理なんじゃないかなぁ。次はいよいよえっちしーん突入っておっしゃってましたから」

アスカ様「えええええええええええええええええええええっっっっっっ!?」

みゃあ「というわけで、アスカ様。ご愁傷さまです」

アスカ様「いやああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!」

みゃあ「あ、やっぱりいつもと同じだった(笑)」

 

性の価値は3