第三新東京市、今は首都を第四新東京市へと移しすっかり寂しい街になってしまった。
その街角にある小さな酒場の前に1人の少女が立っている。
栗色の髪と黄色いワンピースの少女、しかしどう見ても酒場に入るには歳が足りない
ように見受けられる。
少女は決心を決めたようで扉を開けて中へは言っていった。
「いらっしゃいませ」
中を見回すとマスターらしき人とピアノの前で演奏をしている女性の二人。
後は数人の客がいるだけだった。
マスターはカウンターに座って少女にお水を出すとこう言った。
「お酒はだめだよ。それ以外のモノならどうぞ」
「なんでもいいわ、適当に出してくれたら」
少女はじっとマスターを見ながらそう言った。
マスターはそれを聞くとカウンターの奥へと入っていく。
それを確認してから少女はピアノを弾いている女性の方へ所へ行った。
「なんでもいいわ、なにか良い曲弾いて頂戴」
青い髪と赤い目の女性は少女に視線を移して首を振った。
「チップはいらないわ。私はここで曲を弾いているだけだから」
少女の差し出した手をゆっくりと押し、それからピアノを弾き始める。
なんだかもの悲しい曲。心に染み込むように流れ出す。
さっきまでしゃべっていた客もお喋りをやめ曲に聞き入る。
少女はマスターが小さな厨房から出てきたのを確認してカウンターに戻る。
「悲しい曲ね」
少女の何気なしに口にした言葉にマスターは答えた。
「彼女は待ってるですよ。答えが出る日を」
「詳しく聞きたいわね、教えてくれない?」
「長い話ですよ。もう20年も前の話ですからね。」
少女はそれでもかまわないと答え、話を聞かせて欲しいと言う。
マスターは溜息を一つつくとやがて話し始める。
20年前、1人の少年は栗色の髪の少女と青い髪の少女に恋をしたんです。
青い髪の女性は大人しく口数も少ない。栗色の髪の少女は活発で元気いっぱい。
まったく正反対の存在でした。少年は内向的な性格だったので友達とかは少なく
人付き合いもあまりうまくはなかったんです。
少年は初め青い髪の少女の存在に魅かれました。それは他人に感心を持たないゆえの
人を寄せ付けない雰囲気と女神の彫刻を思わせる美しさ、触れれば消えてしまうような
女の子。少年は事ある毎に少女に接して彼女の心に入り込もうとしました。
それからしばらくしてドイツからの帰国子女、栗色の髪と青い目が綺麗な元気印の少女
がやってきました。栗色の髪の少女は持ち前の明るさでクラスでも人気者になりました。
少年とは席が近かったと事もあってすぐに仲良くなりました。
初めは友達としてだったようですが、少年も栗色の髪の少女もお互いを意識し始めて
クラスでも冷やかされる程になったわけです。
しかし、少年はその時青い髪の少女の事を・・・彼女の存在に気付いたのです。
最終的に少年の優しさが二人の少女を傷つける結果になりました。
栗色の髪の少女はそれから6年後の18歳の時、答えを出せなかった少年に絶望して
ドイツへと帰り、青い髪の少女は少しは傷ついた心を癒すためにどこかへ去っていった
んです。
少年は自分の選択した結果に打ちひしがれて自暴自棄になったようです。
それから数年後青い髪の少女 −彼女− は少年を見つけて告げたのです。
「自分には貴男しかいないから・・・・貴男が選択出来る日を私は待ち続けます」
ちょうどピアノも終わり、マスターもそれ以上は口にしませんでした。
「それがこの酒場の歌姫ってわけね・・・・、ねぇ、その少年今はどうしたの?」
少女はマスターに続きを促したがただ首を振るだけ。
すると少女の隣の席にさきほどまでピアノを弾いていた女性が腰を下ろしました。
少女はマスターと女性に視線を向けると腰に手を当て、胸を張りつつ急に大きな声で
言いました。
「シンジもファーストもいつまでも辛気くさいだから!私は私で納得できる答えを
見つけたんだからあんた達も他人に答えを求めるんじゃなくて、自分で見つけなさい」
その言葉にビックリしたマスターと女性は少女を見ました。
「え、嘘・・・・だろ・・・アスカ!?でもどうしてあの頃の????」
マスター・・・碇シンジ・・・は疑問で、女性・・・綾波・・・は表情で
少女に問いかけます。
「私はアスカじゃないわ、それは私のママ。
まったく聞いたままじゃない。ママが昔好きになった人だって言うから来てみたのに
ママの予想したとおり未だに過去に捕らわれているとはね。」
一息置いて少女は母からの伝言を伝える。
「さっきの言葉ともう一つ「今、私は幸せだからあの頃のことはもういいから。
あんたたちはあんたたちの幸せをつかみなさい」だってさ。
だいたい自分が忙しいからって娘をメッセンジャーにするなんて・・・・確かに
マスターには興味があったけど、これじゃあ・・・・ねぇ。
そうそう、今晩近くのホテルに一泊してからドイツへ帰るんだけどママにメッセージ
あったら朝までにロビーに来てね。じゃあ」
少女はその言葉を残して酒場を後にした。
いつのまにか客も居なくなりシンジとレイのふたりっきり。
レイはピアノに戻りいつもと違う曲を弾き始める。
Fly me to the moon
私を月に連れていって。
レイの心がシンジに伝わる。
曲が終わるとレイはシンジに向かってこう言った。
「私はあなたがアスカとの心の決着を付けるのを待っていたの。
私は今でも貴男の事が好きよ。この曲は貴男への答え。だから今度は碇君の番よ」
マスター・・・・シンジはレイの言葉に反応して落としていた視線をレイに向けた。
「僕はどこかで綾波に頼ってたのかもしれない。でもアスカを傷つけてしまった自分が
許せなかったんだ・・・・・・だから綾波の気持ちに答えられない。
自分だけが幸せになんてなれない。そうやってまた綾波も傷つける。
そう思っていたんだ。
だけど、二人とも僕を許してくれた。だから僕は・・・・君さえ良ければ・・・」
そう言うとレイの唇がシンジの唇を塞ぐ。
レイは真っ赤な瞳から大粒の涙を流す、幸せの涙を。
そしてシンジはレイの背中に手を回し抱きしめる。
二人はよくやく確かめられた答え−愛−を離さないために長く、長く抱き合った。
酒場出ていったと思ってた少女は戸口でその光景を見てつぶやく。
「ママもお人好しね。でもまぁ、これでよかったんだろうね。
お幸せにね。おふたりさん」
そして次の日から酒場にはあのもの悲しい曲が流れることはなくなった。
あとがき
レイちゃんやシンちゃんでは出来ないこと。
それがアスカちゃんの強いところだと思ってます。
勝手な思いこみかもしれませんがね。だって二人とも思考が結構後ろ向きな時があるし。
今回は酒場とピアノを弾く女性を元に話を考えました。
マスターとピアノを弾く女性は決まってましたがアスカどうしよう・・・・・・。
なんて考えてたらなぜか娘さんが・・・・・・。
しかしあんまりまとまりませんでしたね。
でもレイちゃんを不幸せにするわけには行かずこーゆー終わりに。
そんなわけで次回作は・・・・・・・まだかんがえてません(笑
が、またよろしければ読んでやって下さいね。