偽・GUESS WHAT!?

〜番外編2〜

作 Koujiさま

 


2「三浦家の謎」

 

 

 

 三浦祥子。

 

 外見年齢不明。優しくて美人で頭脳明晰、はっきり言って滅茶苦茶いい人。 どれぐらいかというと、それはもう某女神様ぐらいいい人。

 

 三浦家において、レイ・死狼・忍と、ある意味異常な人間(最初の名前の存在は人かどうかすら不明だが)の中で唯一常識と道徳を重ね持つ稀少な人である。

 

 大学卒業と同時に結婚。6ヵ月後には長男出産。次ぎの年には大学院に行って、そのまま勉強を続ける。

 

 余裕で勉強と家庭を両立させ、異常なほどの速度で博士と呼ばれる身になり、今では大学で講師をしている。

 親切かつ丁寧な講義、そして優しい笑顔に講義を取って無くても出てくる物が続出したため、彼女の講義は常に大ホールで行われている。(写真撮影禁止)

 

 旦那は三浦家の家長にして、死狼達の父親の長年の弟子。数年前まで唯一、父親と対抗できた人(今では父親はさらに強くなっている)だったのだが、 父親の出した最終試験、祥子を犯し、殺す事。(この時祥子は高3)をどうしても実行できずに破門された。

 

 だが、逆に父親から婿に来いと言われ、大学卒業後お互い惹かれ合っていた祥子とめでたく結ばれる。 この時泣いた男の涙は東京ドーム七つ分と言われ、人生で一番辛かったことにあげる男性は数え切れない。

 

 学生が居眠りをすれば優しく起こし、単位の足りない生徒(滅多にいない。みんな彼女に好かれようと一生懸命なのだ)には 何とかして上げようと奮闘するお方。

 

 高名な教授のもとで、意気揚々と研究に励んでいるお方。

 

 つい最近、実験結果で学会をわかせ、学術雑誌○ュートンに掲載されたたお方。

 

 あの死狼がただ一人、殺せないお方。

 

 そう言う人である。

 

 

 

 

「死狼?」

 

 突然、背後からかかってきた、優しい声。

 

 正常な男性であれば、120パー聞きほれてしまうような奇麗な声なのだが、 死狼にとっては、小さな痛みをもたらす声だった。

 

 夜も9時の、ほどよい時間。

 

 風呂上がりに、地下射撃場でクロスボウとスローイングナイフの練習をしていた死狼だったが、 聞きたくなかった姉、祥子の声に後ろを振り返った。

 

「・・・なにか用か?」

 

 死狼の姉、祥子はどちらかというと、死狼より母親似である。

 だが、死狼が『父親の能力と母親の外見』タイプなのにくらべ、 祥子は『母親の良い所取り=絶世の美女』タイプである。

 

 が、その好みの『絶世の美女』タイプなのに、死狼の姉の見る目は何故か冷たい距離感を感じる。

 

 祥子女史は、こちらはパジャマ姿で、立ったまま、死狼を見ていた。

 

(ちなみに、死狼の身長は185cm、祥子さん160cm)

 

「死狼・・・風邪ひいちゃうわよ?ちゃんと服を着ないと・・・」

 

 カァ〜

 

 上半身裸で立っている死狼に赤くなりながら祥子は目を逸らした。逸らしながらも、死狼の肩に持ってきたタオルをかけてやる。

 

 どうして死狼が上半身裸なのか?それは足首のホルダーから足だけでナイフを飛ばす練習をしていたからだ。 命中精度は落ちるが、威力は手で投げるよりも上がる。手が使えない状況を考えての訓練中だったのだ。

 

「・・・・見慣れたものだろう」

 

 死狼は汗で濡れた肌を、祥子のかけたタオルで拭きながらナイフホルダーを棚におく。

 

 が、祥子は死狼のセリフにビクッと震えると、顔をうつむかせた。

 

「・・・そうね・・・」

 

 祥子は一瞬影を秘めた顔になり、すぐに元の笑顔に戻る。

 

「まだ寒いわ、そんな格好だと風邪を引くわよ」

 

 そう言って、死狼の手からタオルを取り上げると、再び浮き出した死狼の汗を拭ってあげる祥子。

 

 汗を拭われている死狼のほうは、『・・・』と祥子を黙って見下ろしている。

 

 ちなみに、今の死狼の格好だが、膝から下がないジーパン(そういう品ではなく死狼が練習用に引き裂いた)に、素足。上半身も裸である。

 

「・・・死狼、貴方は父さんみたいにならなくて・・・」

 

「もう、遅い」

 

 死狼の言葉に、祥子が喉を詰まらせる。そう、もう遅いのだ・・・

 が、無駄だと判っていても、つい言ってしまう。  それが戻らない過去を求めているとしても・・・・

 

「オレは今の生き方に不満はない」

 

「・・・死狼・・・」

 

「だから、祥子が気に病むことはない」

 

「そんな・・・そんなこと言わないで」

 

 ギュッ

 

 死狼が、祥子を抱きしめた。

 

 が、祥子は抵抗しない。

 

「・・・・死狼・・・また殺したのね・・・・」

 

「・・ああ、この間二人殺したよ、チンピラの首を踏み砕いてやったよ、ビクビクって痙攣してたぜ」

 

「・・・死狼・・・どうして・・・」

 

 死狼の腕の中で祥子が泣き出す。言葉に詰まる死狼。

 

 死狼が今のような鮮血にまみれた生き方を歩んでいるのは、決して祥子のせいではない。 だが、父親が死狼を鍛え、殺人をさせたのは祥子のせいである。正確には祥子を殺せなかった旦那のせいだ。

 

「じゃぁ・・・オレがどうしたいか解るだろ?」

 

 祥子は死狼の胸に手を当て、押すように身を離した。そしてふるふると頭を振る。祥子の目に溜まっていた涙が放物線を描いて床に落ちる。

 ゆっくりと顔を上げ、無理に笑顔を作る。

 

「・・・・ダメ、忍ちゃんに悪いもの」

 

「・・無理すんなよ、最近してないんだろ?」

 

 パン!

 

 祥子が手を振るい、死狼が、平手で、打たれた。

 

   これがどんなに凄いことか、読者の皆さんはご存じだろう。 はっきり言って自殺行為である。祥子以外には。

 

「ご、ごめんなさい、死狼・・・でも・・・きゃっ!ダメ!」

 

「抵抗するのか?最初の時みたいに・・・」

 

 祥子は死狼に押し倒され、死狼の左手で両手を万歳するように押しつけられ下から死狼を見ていた。 その澄んだ瞳が曇り、涙が溢れるのをみて、死狼の胸が痛む。

 

 が、だがそれでも祥子のパジャマを脱がす手は止まらない。

 

「止めなさい死狼!こんなこと・・・もう、止めて!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・いや!やめ!・・・死狼?」

 

 抵抗する祥子に諦めたのか、死狼は手を止めていた。そして覆い被さったまま祥子を見下す。

 

「・・・・・・」

 

 息の詰まるような沈黙と死狼の瞳に、祥子はいつもの死狼とは違う何かを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんの音だ?」

 

 台所で、明日の朝食の下ごしらえをしていたのは、祥子さんの旦那様の旧姓・木城 徹雄。

 いい年(34)して、迷彩柄のエプロンを着けている。

 190の身長に100キロ。まさに壁と称せるほどの肉体が、 エプロンつけて台所に立っているっていうのも、なかなか不気味である(偏見)。

 

 祥子の腕は一流シェフ並なのだが(レイが異常に上手すぎるだけで、祥子は主婦としてはトップレベルである)

 

 いかんせん、大学での仕事が忙しいので旦那が気を利かせて、家事全般を引き受けているのだ。 元家政夫かとおもうほどてきぱきとした動きはまさにプロである。

 

 そして、妙な音を聞きつけた徹雄が、やはり音を立てない足取りで地下室へと降りていった。

 

ドンドンドンドンドンドン!

 

「どうした?死狼君」

 

「・・・べつに」

 

ドンドンドンドンドンドン!

 

「・・・・なにか?」

 

「・・・なんでもない」

 

ドンドンドンドンドンドン!

 

 さっきから続いているこの音は、死狼が驚異的なスピードで投げ続けているナイフの着弾音だったのだ。

 次々と起きあがる人型の的に、的が再び倒れるまでのわずか3秒間で平均6本近いナイフが心臓と頭部に突きたっていく。 しかもその大半が薄い木の的を突き抜け、その後方の厚さ30CMのゴム壁に突き刺さっている。もし的が人体だったら肉はもちろん、骨も貫き通すかもしれない・・・

 

 死狼手製の装置で自動的にナイフが机の上に置かれ、それを手にする間もなく投げ続ける。恐ろしいのはその速度ではなく、次々と起きあがる的に全てのナイフを命中させ、一つも外していないことだ。

 

ドンドンドン!

 

 その連続した音がしばらく続いた後、ついに、ナイフが外れた。 的の肩の部分を削って、後ろのゴム壁に突き刺さる。 大きく逸れたナイフの握りの部分には血が付いていた。

 連続して投げ続ける負荷に手の平の皮膚が耐えきれずに切れたのだ。

 だが、なぜか死狼はその裂けた傷をじっと見ている。 そして思い出したように荒い息をついている自分に気が付いて、装置を止めると溜息をついた。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 さっさと救急箱(外見は普通だが、中には痛み止めのモルヒネから特殊な縫い針まで入っている)から消毒薬(粉末)を取り出して、血塗れの手に振りかける。

 

シュワァァァァ

 

 泡のでる入浴剤のような音を立てて、傷口に小さな泡が湧く。強烈な痛みを感じているはずだが、表情一つ変えずに自分の手を見つめている。

 そして死狼はもう一度シャワーを浴びて、今度は軟膏と包帯を手にまいて二階の寝室に消えていく。

 

「おい、死狼、どうしたんだ?」

 

 そういって現れたのは忍だ。死狼がシャワー上がりの濡れた髪、Tシャツとトランクスという姿でいるのに特に構わず部屋に入ってくる。

 

「・・・別に」

 

「・・・・いい加減、素直になれ死狼」

 

 忍はさっさと死狼のベッドに腰掛けた。キシッとベッドのスプリングが軋む。 ベッドの裏に鉄板と拳銃(非常時には死狼も使う)が仕込んであるのを除けば、普通のベッドと変わらない。

 

 死狼はイヤに馴れ馴れしい忍をちらりと見ると、無視してTVをつけた。

 忍の隣に座って、キッチンから取ってきたキャロットジュースを飲む。ぐいっと一気に飲んで、すぐに口を離すと持て余すように手の中でジュースの缶を揺らす。

 

チャプン・・・チャプン

 

 缶の中から聞こえる水音と、TVから流れる無機質なニュース番組の音だけが部屋に流れている。

 忍は普段とは違う雰囲気に戸惑っていた。普段の死狼は危険ではあっても声をかけるぐらいは何でもないのだが、今はそんな雰囲気ではなかった。

 

  (あ・・・)

 

 缶を握っているので気付かなかったが、忍は死狼の手にまかれた包帯に気付いた。 が死狼が自分から言い出さないので忍としても突っ込んで聞けない。

 

「・・・なんだ?」

 

 ようやく死狼が口を開いた。あまりに無造作な一言だったので、思わず忍が聞き逃しそうになった。

 

(よし!)

 

 忍が心の中で自分に喝を入れ、じっと死狼を見つめる。

 

「死狼!じ、じつは!」

 

「うるさい」

 

 死狼の言葉にハッと黙る忍。みるみる顔が赤くなっていく。

 が、死狼は構わずジュースの残りを飲み干すと、缶を部屋の隅のゴミ箱へ投げた。

 

「・・・死狼・・・私は」

 

 

 

 

 

 

「・・オレには逆らえない」

 

 死狼の唇から漏れ出た言葉。ほんの微かなささやき声であったが、 祥子から抵抗する気を奪うには充分であった。祥子は目を閉じる。その拍子に涙がこぼれ落ちた。

 

「・・っく」

 

 だが、祥子の体にのし掛かっていた死狼の重圧が消えた。

 死狼は祥子の体からあっさりと離れた。死狼のその行動にぼうっとしてしまった祥子も、慌てて服を直して立ちあがると、

 

「・・・・・あ・・・」

 

 死狼の様子に何か言おうとして、結局なにも言えずに祥子は地下射撃場から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 祥子の処女を奪ったのは、 祥子が付き合っていた木城 徹雄ではなく、当時12才だった死狼である。

 全ては鉄雄が祥子を犯せなかった時、つまり死狼が10才の時に死狼の未来が決まっていたのだ。

 

 まだ少年であった死狼は幼い頃から、父親の戦闘術の手ほどきを受けていた。

 

 同年代の少年達が遊んでいるときに死狼は格闘技を学び、一度も学校に通わされず様々な戦略の知識を学ばされていた。 すくなくとも、普通の子供が歩む人生とは全く違う道を歩いていた。

 

 ただ、教え込んでいてもそれは父親にとって徹雄の予備に過ぎなかったのだ。

 

 もし徹雄が受かっていれば死狼はそこから普通の人生への道が待っていたのだが、 徹雄が父親の最終試験に失敗した時、 父親は死狼に自分の技術を全て教え込み、自分を越える殺人機械にすることにした。

 

 父親の本当の目的は解らないが、教えは完璧だった。どんな教育だったかは当時すでに死狼が殺人に禁忌を持っていなかったことでも解るが、 父親の目指す存在には死狼の中にある母親として、姉として祥子を慕う心が邪魔だったのだ。

 

 甘っちょろい想いが刃を鈍らせていると判断した父親は、ある計画を謀った。

 

 

 父親の計画通りに厳しい訓練と非人間的な行動は、死狼の精神を破綻させかけていた。

 

 愛情なんて何の価値も持たない戦場。その中で育った死狼の心は誰かを求めていた。優しく包み込み、甘えさせてくれる存在。死狼を無条件で愛してくれる存在が。

 

 危険な心理状態の死狼にとって、該当する人物が祥子しか居ないことを承知で、 父親は死狼に徹雄と祥子を結婚させることを告げた。

 死狼を愛してくれる存在が居なくなる恐怖・焦燥感、死狼の最後のよりどころを奪い追い込むために。

 

 

 

 

 

 

 死狼の愛情を求める心は父親の計画通りに変化し、

 

 

 

 

 

 夜明けと共に祥子に一生消えない心の傷を刻んで、

 

 

 

 

 

 

 

          死狼の心が死んだ。

 

 

 

 

 

 祥子が地下室から走り去った後、

 

「・・ぅぅぅうううおおおお!!!」

 

 壁に拳を打ち付ける音と共に死狼の叫び声が木霊した。

 

 

 

 

 

「・・・・お前が好きだ」

 

 死狼は真っ赤になって自分を見つめる忍を、間の抜けた顔で見つめ返した。

 

「だ、・・・いや!・・・から!・・・うぅ〜」

 

かぁ〜〜

 

 忍は言葉にならない声を漏らしてさらに赤くなって顔を俯かせる。 がとうとう耐えきれず、ベッドから勢い良く立つとさっさと自分の部屋に帰ってしまった。

 

 

 

 忍は、自分の背中に向けられた死狼の笑顔を見ることができなかった。

 

 

 

・・・暗くなってしまった・・・・次は明るく楽しいのを書こうと思う。

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