人の進む道はどこか】 |
弱い者を強い者が食う。それは何処にでもある営み。
その蝶は美しかった。
羽根は青い宝石のような美しい模様をつけていた。
対照的に蜘蛛は毒々しいまでに黒く、そして肥大した腹部だけが赤かった。
蝶は助かろうと必死にもがき続けていた。だが蜘蛛の糸は粘着性を持って離そうとはしない。
蜘蛛はじわりじわりと近づいていく。
蝶はもがき続ける。死の瞬間までその動きは変わらない。
助からないのにもがき続ける。
「可哀想・・・・」
それを見つめていた一人がそっと手を伸ばし巣から蝶を取り上げた。
繊細な蝶の羽根を潰さないように取り上げた。
蝶はその手の中で数度羽根を振るわせ、すぐに飛び立った。
感謝を表すように何度も環を描いて飛ぶ。
が、即座にもう一人がその蝶を握り潰した。
無惨な姿になったであろう蝶を蜘蛛の巣に向かって放る。
もがれた羽根が、破裂した肉体が蜘蛛の巣に絡み取られる。
「酷い!」
蜘蛛の巣に引っかかった死骸に蜘蛛が近づいていった。
動かぬ死体に牙を立て、蝶の肉体を取り込んでいく。
「どうしてこんな可哀想なことをするの?」
「可哀想?そんなものは感じないな」
「せっかく助かった蝶を・・・」
「あの蝶の能力では蜘蛛の巣から脱出はできなかった。
あの蝶はここで死ぬはずだった」
「なんで潰したの・・・蝶は必死に生きようとしてたのに」
「蝶を食わねば蜘蛛が死ぬ。蝶を助けることは蜘蛛を殺すことと同義だ」
「蝶と蜘蛛は違う」
「同じだ。
命に差はない。
さらに言えばこの蜘蛛は多くの子供を宿している。
お前は蝶を助けることでその子供達までも殺そうとした」
「・・・・・・でも」
「お前が私を非難するのか?お前のしたことと私がしたことは同じだ。
相手が蜘蛛であるか蝶であるかという差を除いてな」
「・・・・・・」
「命の終わり。
それは新たな命の始まりであり命の続きでもある」
「蝶は助かって・・・あんなに嬉しそうに・・・」
「蜘蛛はどうなる?明日にも餓死するかもしれん。
大体自らの力で生きられない者は新たなる者達への糧になるべきだ。
それを妨げるものは許さない」
「消えようとする命を助けたいと思うのは当然のこと」
「それが人の本性なら、人は滅びるべきなのだ。
少なくともそんな存在を星は望んでいない」
「貴方は間違っている。
そんなに簡単に命を・・・」
「行程がどうであれ、この結果がお前が蝶を助け無ければ起きていた。
食われるか、潰されるかのどちらかだったに過ぎない。
いうなればお前の行動が私に蝶を潰させたのだ」
「違う・・・貴方は狂っている」
「命はいつか消える。
そこには価値などない。あるのは現実だけだ」
「違う」
「蝶の見た目の美しさや弱さに目を眩まされるな。
蜘蛛も蝶も命は同じだ。
そして生きるべきは強いものなのだ」
「人の社会ではそんな事は間違いだ。
弱者は助けなくちゃいけない。
人は皆一緒に生き、一緒に幸福になれるはずだ」
「あり得ない。
人も命で命を繋いでいることに変わりはない。
弱いものを喰らい生きている。そして生き続ける」
「・・・天国というものを信じる?」
「死はその存在の終わりだ。そこから先はない。
そして残った肉の塊が新たな命への糧になるのだけだ」
どちらが正しいのだろうか?
蝶と蜘蛛。どちらを助けるべきなのか?
片方を助けることは片方の命を奪うこと。
ならば助けるという行為は罪でしかありえないのか。
・・・・・そう、恐らくは罪なのだ。
自然の環において命が無駄に消えることはないのだから。
助けようとすることが間違いであり、生きようとすることが正しいのだ。
どこから人はずれてしまったのだろう。
そしてどこへ行くのだろう。
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トライガンを見てその場で書き上げました。
これは私が常々思っていることです。