偽・GUESS WHAT!?

〜第X話〜

作 Koujiさま

 


偽GUESS WHAT!?

 

作・KOUJI

 

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第Y話 「獣出現!!」

 

 

「救いを求めるものは多いが、実際に救われたものは少ない

 

いや、誰もが何かしらの救いを求めているのかも知れない・・・

 

はたして、自らを救えないものに誰かを救うことができるのだろうか?

 

ましてや、そのせいで自らが貶められることがあっては本当に救いがない」

 

 

 

 1 しょっぱなから対談

 

 

獣『偽GUESS WHAT!?の6である『獣出現!!』です。ただし私ではありませんのでご安心を』

 

 

     何か知らないが、獣、目がヤバイ。

 

     どれくらいヤバイかというと、「ナントカに刃物」と誰もが思うほどヤバイ、イヤイヤマジで。

 

 

獣『そろそろケイが、変わる頃だな』

 

 

 

 

     ギラギラした目で回りを見回している獣。

 

 

 

獣『実に楽しみだ・・・ククク』

 

 

 

     獣はゆっくりと後ろを振り向く。

 

     足音を立てずに近づく影が一つ。

 

 

 

獣『来たか・・・』

 

○○『・・・・・・ああ』

 

獣『すすみ具合はどうだ?上達したかい?』

 

○○『・・・・・動きは悪いが精神面は目を見張るものがある』

 

獣『どこまで行った?』

 

○○『精神面だけならもうじき、最終試験だ』

 

獣『ほぅ・・・それは早いな』

 

○○『・・・・・・・オレよりゆくかもしれん』

 

 

 

     声を出さずに笑う獣。

 

     謎のキャラ『○○』は黙って俯いている。

 

     その瞳は嬉しそうにも悲しそうにも見て取れた。

 

 

 

 

 2 死狼参上!

 

 

 我らがアイドル佐伯リク。

 

 彼を想って3千里。って言うか、イヤ過ぎるレイのお家事情はものすご〜く複雑である。

 

 まずお母さんがいない。これは自殺である。レイがやけに小さい頃に自殺したそうだ。 もともと強奪されてきたようなものだったが、精神的にキテしまったのだ。美人薄命と言うやつだったらしい。(この時のレイはまだ人間だったそうだ(笑))

 

 で、お父さん。これが、謎の人である。本当に謎である。 とある企業に雇われて世界中で暗殺業に励んでいるそうだ。(レイの強靱な肉体はパパ譲りのようである)が、とある武術に一生を捧げてしまっている。

 

 このお父さんの専門は素手。しかし手裏剣や毒物、果ては銃火器まで精通している。彼いわく、生涯錬磨だそうだ。 なんかその手の業界では有名人らしいので、レイ達も狙われたりするのだが、どんなに訓練しても殺せないギャグキャラとはいるものである。

 

 ちなみに、彼が出した本の一つに『HOW TO KILL』なんと言うふざけた名前のものがある。 速攻で発禁処分になったが裏業界では授業テキストとして未だに使われているそうだ。

 

 ・・・どっかで聞いた題名だな、おい。

 

 お父さんがある意味有名人で、運もよく、金も稼いでくるので家も大きい。(旧家の山南の家ほどではないが堅牢さでは首相官邸以上である)が、住んでいる人数が多いので、家族はそんなに広いとは感じていないらしい。トレーニングルームや射撃場があったら狭いわなぁ。

 

 さて、残る家族構成であるが、一番上に長女、その旦那、息子。長女がレイカ達下の弟妹にとってはお母さん代わりだったので、家に残ったようである。

 

 その長女の下にレイとその兄。

 

 そして、何故かもう一人いる。

 

 

 

 ブロロロロォ・・・

 

 遠ざかっていくバスの音。

 

 それをボウッと見送っているのは、一人のやたらでかい男。黙っていればそれだけで道ができるような貫禄を持つ男なのだろうが、 いかせん、中味は死ぬほどゲロイ。

 

 レイである。

 

 すがすがしい朝に、排気ガスをまともに吸い込んでは、どのような代謝能力があるのかエネルギーに代えていたりする。

 

「死狼君、こなかった・・・」

 

 レイが意図的に乗らなかった(バスの乗客達は乗って欲しくなかった)バスは段々と遠くなっていく。

 

 そのバスの行く方向とは逆の方向をレイはジィっと見つめている。

 

 と、その視線の先に、ぽつんと小さな点が現われる。 それはすぐに二つになり、はっきりとした人型になった。 そこまでなら驚くことはないが、その二人の走る速度が異様だった。 500mを1分ジャストで走ってきたのだ。しかも二人の男の子らしい人物からは足音が全く聞かれなかった。まるで無音映画のようである。

 

 レイの立っているバス停まで、全速力で走って来る二人。

 

 スッスッスッスッ(腕を振るときの風邪切り音がしている)

 

「死狼!、お前のせいで私まで遅れたではないか!!」

 

「・・・だったら抵抗すれば良いだろう、少なくともお前だけは間に合った」

 

「ベッドの中に無理矢理引っ張り込んでいて何を言う!!」

 

 なんか、痴話喧嘩しながらも異様な速度で迫る、この二人・・・

 

 そんな二人をジィっと見守るレイ。

 

「死狼君も忍(しのぶ)さんも遅〜い!!」

 

 鞄を両手で持ってレイは、一人がその場でスッと立ち止まるのを、 もう一人がバッと走ってきた速度そのままに後退したのをみていた。

 

 レイに纏っていた風をぶつけての目の前でスッと止まったのは、もう、ものすごい美少年である。いや、かなりのものだ。

 

しなやかな豹が人間になったような躍動感と不思議な魅力を讃えていた。美しさという面で見ればたしかにリクほどではないが、 そこそこのコンテストでトップ取れる美貌である。

 

ただ、少年の胸の部分はたっぷりと膨らんでいた。結構でかい。体の比重から見れば一見アンバランスな程の大きさだが、それがかえって色気を醸し出している。

 

 信じられないことにレイにぶつかる寸前で走ってきたのと同じ速度で後退して止まったほうも、 やっぱり美少年。ただし、こっちはちょっとコワイ。 傷だらけの顔に・・・しいて言うなら目である。とぎすまされた刃の影が時折見える瞳。

 

 花に水をやるのと変わらずに人を殺せるような、精神的なタブーがない気がする。 側に立たれるだけでなぜか、身構えてしまう迫力がある。いや、恐怖だ。

 

が、傷だらけの顔には左目から耳の方に水平に筋があり、右目には頬から眉の上まで傷がある。目に攻撃を受け、ギリギリで避けてできた傷であることがはっきりとわかる。

背も、もう一人の方より高く、体格もガッシリしている。

 

ちなみに、二人とも同じ高校生らしい。ゆったり目の私服に、どちらも軍用のザックを背負っている。

 

「忍さん、キスマークがついてるぅ!!」

 

 レイがいつもの調子で言ってくる。両手を微かに染めた頬に当て、腰をイヤンイヤンと振っている。空気が腐りそうだ。

 

 そう言われて、慌てて首に手を当てて隠す少女。

 

「・・・驚くほどのことじゃないだろう」

 

「ついてるよぉ!」

 

「レイ・・・」

 

 突然、レイの腹部に肘を打ち込む少年。ドン!!と普通の人間なら内臓破裂間違い無しの音を立てて肘がめり込んでいる。

 

「うえぇぇん、痛いよぅ!!」

 

 さすがにこれ程の打撃ならば痛みを感じるらしい。痛いの痛いの飛んでいけ!するレイ。 それだけで済むところがさすがのレイである。

 

 しかし、その前段階のレイの「イヤンイヤン振り」に耐えられるところが凄い。普通の人間ならマジで溶けているかも・・・・あ、バス停が・・・

 

 ともあれ、レイ、少年の殺人級のドツキ漫才にさらにつっこめる人間がここにいた。

 

『ゴン』

 

 辺りに響いたとっても鈍い音。

 

 驚いた雀がパタパタと飛んで行っている。

 

「むぅ・・・」

 

 どうやら、レイが忍と呼んでいた少女が、手刀を少年の頭に打ち込んだらしい。

 

 少年は頭を押さえてその場にうずくまっている。

 

「・・・・・忍」

 

「死狼!!跡は付けるなっていつも言ってるだろう!!」

 

 うずくまった少年=死狼を見下ろしている忍。ちょっと長めの前髪を、煩わしそうにはらう。確かに白い首筋には赤い跡がついていた。一応襟を会わせて隠そうとする。

 

「色々言われるのは私なんだぞ」

 

「お前だってオレの背中に爪を立てるなよ、体育の授業で着替えるときに注目される」

 

「バ、バカ!・・大体お前が!・・・毎晩・・・・来るから・・・・」

 

 言ってるうちに段々声が小さく、顔は赤くなる忍。

 

 レイはそんな二人を微笑ましそうに見ている。

 

「よいねぇ、忍さんたち仲よくてぇ」

 

「・・・確かに体の相性は」

 

 また頭を押さえて、うずくまる死狼。今度は忍の蹴りが入ったようだ。

 

 が、致命的な一撃を食っても平気な程感覚の鈍いレイに、そんなもの気が付けるはずがない。

 

 遅刻しないで学校につくにはこれが最後のバスである。

 

 普通ならこのバス、やたらと混みそうなものである。

 

 が、何故かこのバスは空いていた。

 

 さらに言うならば、ノーマルな人間(レイを除き)のみである。

 

「すいてるねぇ・・・」

 

 バスの中を、二人分の座席に座りながら眺めているレイ。

 

 その横にいた死狼が笑って見せる。

 

「・・・バスっていいよな、なんか」

 

「何でだ?遅刻するとまた祥子さんに怒られるぞ」

 

 死狼の隣に座っている忍はそういって、レイたちの姉である三浦祥子の名前を上げる。 (ちなみに、彼女の旦那は婿養子である。父の弟子で腕の方は折り紙付きだが、それよりも性格を重視したらしくいい人である)

 

 死狼はそれに、当然という顔で、

 

「・・・痴漢プレイができるじゃないか」

 

 と、言う。

 

 その瞬間に、吹き出しまくった他の乗客達と、『プチ』と言う音。

 

 そんな、不気味な音の後に、忍はクスリと笑うと、不意に腕を振った。

 

『ガス!!』

 

 忍の腕が死狼の避けた椅子のカバーを突き破って埋まっている。

 

 それを眺めるレイはただ、『ホエ〜』っとしているが、当事者の死狼はやたら嬉しそうな顔をしていた。

 

「・・・そうか、前に痴漢してたらお前の尻だったよな」

 

 死狼の言葉に、バス中が凍り付いている。

 

 当然忍の目、座ってる。顔は赤いが。

 

「貴様・・・あの後私がどれだけ恥辱にまみれたか・・・」

 

 めりこんだ拳を引き抜いて、忍、なんか、拳を握り締めている。

 

「・・・・指でイったからか?」

 

 ドン!!!

 

物理的な音さえ伴って忍の体に殺意のオーラがまといつく。マジだ。

 

「・・・おい」

 

 問答無用で放たれた忍の高速の上段蹴りを、しゃがんでかわして、勢い余って後ろ向きになった忍の背中、肝臓の部分にぽんっと拳を一発入れる死狼。

 

突然忍が車にはねられたように吹っ飛び、レイにぶち当たった。もちろん忍は自分で後方に飛んだのだ。

 

「・・・良かったなぁオレが刃物持ってなくて」

 

 死狼のセリフに、もうこれ以上はないというくらい悔しそうな顔で忍が死狼を睨む。

 

「暴れたきゃ降りてからしやがれ!!」

 

 あぁ、運転手さん不幸!!

 

 この時間のバスの運転手は、遅れがちな定刻通りの発着を何とかしようとあせっているので、つい伝法な言い方になってしまった。 それがいけなかった・・・

 

36歳独身のバスの運転手の人生は幕を閉じようとしていた。

 

 勿論、バスのおっちゃんのセリフに死狼は運転手の方に振り向いた。そしてゆっくりと歩き出す。 ブチブチと訳の判らないグチを発していた運ちゃんは車内ミラーで近づいてくる死狼を見て、一気に凍り付いた。

 

「殺される」

 

 殺意とか、殺気とか言うようなそんな生やさしいレベルでは無い。恐怖も、悲しみも湧かない純然たる事実。全く避けようのない現実を目の前にすると人の思考は凍り付いて考えるのを止めてしまうのだ。 死狼はゆっくりとさっきまで興味津々でこちらの喧嘩を見やっていた(今は椅子の上で凍り付いている)乗客達の間を通って運転手の元へ行く。その瞳には白刃のような光がある。

 

『ガシ!!』

 

 死狼がばっと振り向いてガードしたところに忍の足がぶつかっていた。

 

 どれほどの力がこもっていたのか、受け止めた死狼が吹き飛ぶのを抑えるだけで精一杯だった。

 

「・・・ここでは殺しはまずいぞ」

 

 自分からいきなり蹴りを入れておきながら、平然とそう言い切る忍。そのセリフの内容に運ちゃんを含めた乗客全員が新たに凍り付いた

 

 死狼は頬を歪めて笑った。ゾッとする嫌な笑い方だ。すぐにいけしゃぁしゃぁと、

 

「殺しはしない・・・さ」

 

と、言い切る。

 

 まるで子供が昆虫をむしってなぶるような笑顔だ。死狼のすぐ近くで怯えていた少年はその笑顔で恐怖に耐えきれずに意識を失った。 それが引き金だったかのように次々と他の乗客達も意識を失う。

 

「・・・・よせ!!」

 

 忍、いきなり下段後ろ回し蹴り・・・と見せかけて高速の裏拳(バックブロー)。 が、死狼は本の半歩後退しただけで、ギリギリで避けている。

 

 目の前を走っていった風を感じながら、死狼はさらに一歩進む。

 

 あぁ、そしてなんて言うことだろうか!!

 

 今度は、忍を見ている。あの白刃の瞳で。そして殺気なんて甘ったるいレベルではないもの、鬼気とも言うべき気配が忍に向かって、物理的な圧力さえともなって吹き付けていた。

 

「・・・・・くっ」

 

 忍でさえも、恐怖に体が凍り付きそうになる。が、なんとか意思の力で後退する。(すでに忍の顔は青く、冷や汗がでていた)

 

「ほへぇ?」

 

 しかもレイ、状況が判って居ない。

 

 ポケーっと下がってくる忍を見守っている。

 

 しかし、死狼は変わらない速度で歩いてくる。もう、レイなんて、目に入って居るのかどうか。

 

「・・・・フフ」

 

 このままなら本当に忍は殺されるだろう。

 

 死狼は手の平をゆっくりと忍へ差し出していく。まるで隙だらけだが、迂闊な攻撃にでれば一瞬で絶命する変な確信があった。

 

 死狼の歩みが止まって、ゆっくりと腰を落とす。バネが押さえつけられているように、死狼の内部に力の圧力が溜まっていくのがわかる。

 

これが爆発したとき死ぬのか・・・

 

 忍は目前に迫った死に何故か冷静になっていた。恐怖はない。いや、むしろ自分を殺そうとする死狼に陶酔を覚えていた。死狼の瞳に宿る刃の美しさ、その一瞬の閃きによってもたらされる死。

 

・・・・死狼になら・・・殺されても良いか・・・・・

 

諦めとは違う、渇望に似た願いを忍ぶが抱いた瞬間。

 

『グォス!!!』

 

 再びバス内に響く嫌な音。

 

 が、この時点でこのバス、すでに止まっていたりする。乗客の入れ替えも、2人(正確には+1人)だけ、速攻で乗って来たのがいる。

 

「ほへぇ・・・」

 

 目の前に現れた美貌に、ポケーッと見とれるレイ。

 

 忍の横では、乗らなくてもいいのに、直感で死の匂いをかぎ取って乗り込んできたリクが立っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 死狼の後方からリクが乗り込んできた。死狼とリクの視線が絡み、リクはゾッとする寒気と冷や汗が湧くのを感じた。すぐに腰を落として構えをとる。

 

振り返った死狼の目の前でリクの鞄が浮いていた。いや、リクが死狼の後頭部めがけて投げた学生鞄が振り向いた死狼の右手によって受け止め・・・死狼の指でちょうど真ん中を貫かれて空中に止まっていた。

 

 その横では、リクより一歩遅れてバスに乗った加奈子が、鋭い目で忍を見つめていた。

 

「まぁた、プッツリ切れたのね、和倉忍」

 

「・・・柏木加奈子」

 

 今さら気付いたのか、忍が意外そうに加奈子を見返す。

 

「どうしてお前がこのバスに?方向が違うだろう・・・」

 

「レイをバス停で待ってるでしょ、いつも。学校まで、無事(世間に被害が起きないように)に連れてくために」

 

「それは判って居る。だが、どうして、バスに乗り込んだ?」

 

「この人が突然バスの中に駆けこんだからよ」

 

 加奈子はそう言って、まだ忍の心配をしているリクの横に並んで同じく構える。

 

 忍は加奈子の隣にいるリクを見据える。

 

「・・・なかなかの腕だな。少なくとも柏木よりは腕は上か」

 

 感心したようにリクを見ている忍。珍しい反応である。(普通の人間なら、まずはリクが美しすぎて、見とれるものなのだ)

 

 忍にとっては死狼以外の男に気にかける事さえないのだ。だが、これはフェイントなのだ。死狼の意識を一瞬でも逸らせば、何とかなるかも知れないと言う考えがあった。

 

加奈子など、この反応に『ちぇっ・・・やっぱりわかるか・・・』と、ブツブツ文句を言っている。

 

 そんな連中の背後では山南、死狼を見て、いきなりピクピク痙攣している。 何の武道もしていない一般人が今の死狼を見ればそうなるのが当然だ。

 

 リクは、忍の視線に気が付き、すぐに死狼に視線を戻す。それも何時にない厳しい視線で見返してやる。 だが、リクは戦慄していた。見ればみるほど、向き合えば向き合っているほどどんどん 実力差が広がっていく。

 

 視線だけでバチバチと、なんか、激しい火花が散っている。

 

 それに、何故か頭を抱える加奈子。

 

「くうぅ・・・相変わらず化け物ね」

 

 もう、本当に膝が震えはじめている加奈子。チラッと見ればリクの顔も青い。

 

 が、そんな火花散る(?)雰囲気を、

 

「リクちゃん(はーと)」

 

と言う、やけに嬉しそうな声がぶち壊してくれた。

 

 レイである。

 

 何を思ったのか、レイは、いきなり忍と死狼の隣をすり抜け、リクの目の前に立ったのである。

 

「・・くっくっく・・・はっはっはっはっは!」

 

 途端に死狼は笑い出した。これもまた、酷く珍しい。

 

「面白いなぁ・・・」

 

「・・・ふぅ」

 

 本当に楽しそうに笑う死狼。だが、瞳だけは笑ってない。その後ろで死狼から鬼気が消えたことを感じ取った忍が溜息をついて椅子にへたり込む。

 

いまさらになって体が震えはじめていた。

 

 が、リクはまだ構えを解かなかった。視線は放そうとはしない。しっかり見据えている。

 

「返してよ」

 

 忍の様子からもう大丈夫だろうと、構えを解いた加奈子が死狼に言った。リクの鞄はまだ空中で貫かれたままだ。

 

死狼は目を細めると鞄にもう片方の手をかけて指を引き抜いた。『ズグズグズグ』と嫌な音を立てて死狼の指が引き抜かれた。

 

「ああ、返すぜ」

 

 今度は、死狼がリクの鞄をリクへ放った。だがリクは受け取らない。鞄はリクの隣を通り過ぎて床に落ちた。鞄をとった隙に攻撃されないようにわざと受け取らなかったのだ。 慌てて加奈子が取りに下がる。

 

 が、ほんの一瞬リクが目を閉じた。額を伝った汗がリクの左眼に入ったのだ。

 

「あ!!!」

 

「逃げろ!!」

 

 忍と加奈子が同時に声を上げた。死狼がリクの左目が閉じた一瞬に間合いを詰めたのだ。

 

汗が、リクの動きを遅らせた。リクが何かの防御をする前に、死狼の右手がリクの左頬に添えられていた。すでに親指はリクの左目の真下におかれていた。もし、死狼が本気で攻撃していれば、最低でもリクの左目は潰されていたはずだ。

 

「・・・・これでチャラだ。だから鞄に空けた穴は弁償しないぜ」

 

「く・・・」

 

 リクは動けなかった。何らかの動きをすれば即座に親指が自分の左目を潰すであろう事を悟っていたのだ。死狼はニヤッと嫌な笑い方をするとゆっくりとリクの頬を撫でた。もちろん親指の位置は変わらない。

 

 加奈子が死狼に近づき、リクの頬から死狼の手をはぎ取った。もう、この時には死狼からの鬼気が消えていたからできた行動だが、周りの人間はその暴挙に唖然としたものだ。 無理やりに死狼の腕をひっ剥がしながら、今だに後方の席に座り込んでこっちを見ている忍に向かって怒鳴り付けた。

 

「こらぁ、和倉、ぼうっとしてないで、こいつを剥がすの手伝ってよ!!」

 

「・・・あ、ああ・・・」

 

 ・・・立ちあがると、ニヤニヤとリクを見つめている死狼を引き剥がす忍。

 

「何をやっているんだ、死狼」

 

「見れば判るだろう」

 

「・・・惚れたのか?」

 

 ボソッとそう言う忍。

 

 場が凍り付く。

 

「・・・アホ・・・だが、面白いな」

 

「いいから、さっさと行くぞ。もう遅刻はまぬがれんがな」

 

「え〜い!さっさとこいつをつれてけ!!」

 

 なんて怒鳴る加奈子。レイはともかく、忍もまぁまぁ、だがその分、死狼が死ぬほど大嫌いな加奈子。

 

 もう、こう見ると普通の女の子である。いつものドツキも、 死狼が相手では、発揮しきれないらしい。

 

「なんだコイツは・・・」

 

 死狼の指が離れたのにいまだ構えを解かないリク。

 

 そのリクにこれ幸いと抱きついた、やっぱり状況について行かないレイがコロコロと笑っている。

 

「あのねぇ、あれが死狼君でぇ、レイの双子のお兄ちゃんなのぉ。で、あっちが忍さん。 レイのイトコなのぉ。死狼君も、忍さんも、レイ達と同じ中学だったんだよぅ」

 

 真下にあるリクの顔を見つめて、キャラキャラと笑っている。 どうやら、中学のときのお馴染みの光景が展開され、やたら嬉しいらしい。ただ一人笑っている。

 

「これが・・・」

 

 以前、加奈子がレイの兄を『獣』だと評したのを、しっかり覚えていたリク。

 

「・・・・次会ったときが楽しみだ・・・くくく」

 

などと、もろ脅迫じみたことをリクに言う死狼を見ながら、なんとなく、納得してしまうのであった。

 

『・・・負ける。戦えばオレは絶対に負ける』

 

と思いながら。

 

 ちなみに、山南だが、動き出したバスの床に寝そべったまま、 遅刻の言い訳をどうしようかと、色々と考えていたりした。

 

 

 

 

 

 3 対談2

 

 

 

獣『やっぱり、いいねぇすっきりするぜ死狼』

 

 

 

     嬉しそうな獣。

 

     その横では、今回の被害者(爆)リクがいる。

 

 

 

リク『なんだよ、あれは・・・』

 

獣『ん?あれは、死狼だよ』

 

リク『そんな事はわかってるよ・・だから、なんなんだよアイツ。あの凶悪なのは』

 

獣『いいだろう?アレこそ本当に強い人間だよ。どんな人にあってもまず殺し方を考える 、習い覚えた技術を使うことに躊躇いがない戦士さ』

 

リク『何言ってんだよ、あんな凶悪なのがどうして捕まってないんだよ。絶対人殺してるだろう?』

 

獣『うん、殺してるよ、ダース単位で』

 

 

 

獣『彼の父親は徹底した人でね。死狼は父親に海外の戦場に連れられては、そこで人を殺しているんだ』

 

リク『許されるのか?そんな事?』

 

獣『戦場では法律も人情もクソの価値もないからね。まぁ、初めて人殺したのは8才だし』

 

リク『8才!?・・・どうやって!?』

 

獣『父親が的の兵士を捕まえて、死狼に殺させたんだ。手足を縛った上で猿ぐつわさせた相手の首を絞めさせたんだ。その後は自力で殺させているけどね』

 

リク『・・・・(呆然としている)』

 

獣『今でも年に2〜3回父親のところに行っては、戦闘に参加しているんだって』

 

リク『・・・どうりで、あんな”眼”になるのか・・・』

 

獣『・・・とりあえず、死狼は強いよ』

 

 

 

獣『お次は、さらにモンスターとなったレイです』

 

レイ『ども、ども』

 

獣『なんか、死狼と忍の関係はどうなんだい?(オイオイ)』

 

レイ『関係?』

 

 

 

     やおら赤くなるレイ。

 

     何か思いついたらしい。

 

     が、恥ずかしがって何も言い出さない。

 

 

 

レイ『・・・・・・(イヤンイヤンと体を振っている)』

 

獣『・・・殺すぞ、オイ』

 

 

 

     レイがイヤなので、当然殺意を抱く獣!!

 

     なんか、控室のほうから、ものすごい殺気と、加奈子の止める声が聞こえてくる!

 

 

 

獣『レイ・・・良いから言え』

 

レイ『だって、だってぇ』

 

獣『(絶対殺す)ほらほら、今回はお兄ちゃんに、忍さんまで出てきたじゃない??(良いから言えってんだよこのタコ!!)』

 

レイ『ん?』

 

獣『レイに近い二人が出てきたんだから、喜ばなくっちゃぁ!(いやだぁ!!こんなのオレじゃない!!)』

 

レイ『・・・そうだねぇ)』

 

獣『・・・・・・なんて単純な(ボーゼン)』

 

レイ『やっぱりイヤンイヤン!!』

 

獣『殺す殺す殺す殺す』

 

 

 

 

獣『お次はお待ちかねの死狼だ!』

 

死狼『・・・ちっ!後少しだったのに』

 

獣『あん?、どうした??』

 

死狼『・・・ああ、今雑魚役の奴らに囲まれたから、皆殺しに・・・』

 

獣『そ、そうか・・・(なんか、内心フクザツ)で、結局忍との関係は?』

 

死狼『関係?まぁ、肉体関係はある・・・』

 

 

 

     あっけらかんと言う死狼。

 

     獣も呆気にとられて、それにつっこめない。

 

     (作者じゃないですよ!コイツは、断じて)

 

 

 

獣『ま、まぁどういう成り立ちでそうなってんだい?』

 

死狼『ん?まぁ街でむかついた奴を半殺しにしたら、あいつが・・・』

 

獣『ほう?半殺しねぇ・・・』

 

死狼『・・・半殺しって言っても両肩抜いてアキレス腱をねじ切っただけだ。そこにあいつが止めに入って・・・』

 

獣『ほうほう』

 

死狼『・・・無視して骨を折ろうとしたら蹴ってきたから、その場で倒して犯した。処女だったぞ』

 

 

 

 

 

  4 獣は獣を生む

 

 

 

 某U市内には、3つも進学校があったりする。一つは県立の宇瀬学園。公立の超のつくほどの進学校である。 そして、それと並び称されるのが三院男子・女子高校の両校。

 

 なぜ、県下有数のこの3校が同じ市内、しかも結構近くにあるかというと、三院の理事長のオッサンが、

 

『学校で儲けるならばまず敵を潰さねば・・・』

 

と言う、ビジネスマンだったからである。

 

 ちなみに、その陰謀は土地の買収関係で筋者を使ったことが判明して頓挫した。

 

 が、やっぱり近い学校。

 

 理事長があんなだから、三院の宇瀬に対する敵意はすごい。 (対する宇瀬は、文部省筋から圧力をかけて潰そうとしたが、 三院の理事長が大物代議士とつるんでいたため潰せなかった) ちなみに三院の理事長は、『生徒の将来なんてどうでも良い、入学金が入ればいいのだ』と言う理由で、制服も指定していない。ようするに、 校則はないし、途中退学者も多い。

 

 さて、三院の方だが、宇瀬の隣には建てられなかったが、三院男子と三院女子は隣どうしである。 三院女子を有名お嬢様校というブランドで箱入りの良家の女子生徒を集めつつ、 三院男子では他の高校には行けそうもない生徒達を詰め込んだ男子校をつくり、生徒数を増やしているのだ。

 

そうそう、近さと言えば、ベランダからお話しが出来てしまうほどである。

 

 だからと言って、カップルが三院でできることはまずあり得ない。 休み時間やら、昼休みやらには、女子校の、しかも更衣室などに忍び込もうとする男子生徒が必ずいるのだが、 未だに完遂した者がいないのは、常時30人以上の警備員と刑務所以上の警戒、そして高さ15m・厚さ5mのコンクリ壁が侵入を厳しくしているのだ。 しかも警備員は凶暴で見つかれば問答無用で袋叩きで1ヶ月は病院で寝込むハメになる。そこまでの危険を乗り越えた者はいない。暇つぶしで忍び込んだ死狼(父親から特殊部隊以上の訓練を受けていた)以外は。

 

創立当初には本当に死者が出て事から警備体制の厳しさは有名である。 (それでも生徒が減らないのは、この警備体制にかえって女子校の親が安心し、男子校はどんな落ちこぼれも入れるからである)

 

 そんな暴力男子校は、ここ3−Aの教室にいる死狼によって、完全に制圧・支配されていた。

 

 死狼はここでは神である。

 

「死狼!!」

 

 休み時間になって、隣の三院女子から、忍の声。

 

 それに、教室中の男子がホッとなる。それは忍の存在によって死狼の狂暴性がかなり抑えられているからである。(ちなみに、男子校だからクラスメートは全員男子である)

 

「なんだ?」

 

 死狼は、そんなクラスメートの恐怖の視線には慣れきった様子で、ベランダの方へ向かう。 途中、今年になってクラスメートになったばかりの死狼を知らない生徒に足を引っかけられそうになったが、 しっかりそいつの足の甲踏み砕き、頭を掴んで壁に叩きつけたりする。

 

もちろん、壁に血が付くほど叩きつけられた生徒は昏倒し、救急車で運ばれていった。

 

「なんか用か?、忍」

 

 斜め向かいのクラスから、クラスメートの熱い視線(女子校で男っぽい人に人気がでるのは当然である)を背に受けて、 死狼に話しかける忍。さすがに飛び越えられるような距離ではない。

 

「弁当だ!!私が作ったんだから全部食べろよ!!」

 

  と言い残して忍はさっさと教室に戻ってしまう。この後、忍は嫉妬と羨望のまなざしに囲まれ、忍の分のお弁当を作ってきた女子数十人に囲まれた。 これはもちろん積極的な女子生徒だけで、なにも言えずに二人分のお弁当を胸に抱いて影から忍を見つめる人影はその数倍に上ったのだが。

 

忍から弁当を受け取った死狼の横にいた男子生徒Aがうらやましげに、ため息を付いていたりする。

 

「死狼さん、『ゆみ』とかいう女子大生の人、どうしたんですか?」

 

「誰だっけそれ?」

 

 死狼はまったく覚えがないとばかりに、男子生徒Aを見返す。

 

「ほら、あの人、先週の日曜に死狼さんが連れてた・・・」

 

「・・・ああ、あの穴か」

 

「あ、穴って・・・」

 

「女の価値なんて穴以外にあるのか?忍ぐらい強ければ別だが、弱い女にはそれ以外に価値はないだろう?」

 

「価値って・・・」

 

「体と顔が良ければそれで充分、『私の体が目当てだったのね!』とか言うが、それ以外に穴と付き合うヒマなんぞない」

 

「そ、そうっすか・・・女嫌いなんですか?」

 

「弱い奴はみんな嫌いだ。死ねばいい。大体『体目当て』も何もない、全部穴なんだよ。 ・・・もちろんオレはホモじゃないぞ」

 

「・・・もう、いいです」

 

 今だ彼女の一人もいない男子生徒Aはそう言って退場していく。

 

 後には当然と表情が雄弁に語っている死狼が残る。

 

 ・・・絶対、こいつ鬼だ。

 

 

 

 さて、その週の日曜日である。

 

 我らが不幸の主人公ケイは、フラフラと駅前にやってきていた。

 

 とある人物に呼び出されたからである。

 

 相手は言わずとしれた、三浦死狼。

 

 この呼び出しを無視すると、どうなるかはギロチンの刃よりも明らかだし、もとよりケイに断る気はなかった。

 

 が、駅前の待ち合わせ指定された噴水の前にきたところで、ケイ、凍り付いた。

 

 なんと、死狼が数人に絡まれているのである。

 

「愚かな・・・」

 

 それが、その現場を目撃したケイの第一声。

 

 それをしっかり地獄耳で聞きつけた死狼は、サングラスの奥からケイをちらりと見つめた。

 

『ゴガシ!!』

 

 ふっと視線を逸らしたのがわかったのか、いきなり死狼に殴りかかった相手が逆に死狼の強烈な肘打ちで鼻骨を潰された。

 

「ヒトシィ!!」

 

 一瞬で意識を失い崩れ落ちた男に気を取られる他の男達。 だが死狼がそんなチャンスを逃すはずがない。死狼の手足が煌めいた瞬間、男達は一人を残して皆、アスファルトに倒れ伏していた。

 

「な、な、何だ!!」

 

「安心しろ、お前だけ見逃すなんて事はしない」

 

「ひ、ひぃぃ!!!」

 

 悲鳴を上げて後ずさろうとする男。だがいきなり座り込んでしまう。腰が抜けたのだ。

 

 回りに、ヤジ馬が出来始めているが、だからって止めるような死狼ではない。 ケイはそれに気が付いた時点で、そこに向かって歩き出していた。

 

 さて、今の今まで死狼に絡んでいた男。もちろん、今は腰が抜けて座り込んだまま逃げようとしている男である。

 

 ケイがやってきたのを見て、死狼は口の端を歪めて笑った。そして反転して四つん這いになって逃げようとする男の股間を無造作に蹴り上げた。

 

「・・・来たか、覚悟は決めたんだな?」

 

 その発言に、ケイがこくんと頷く。ただし視線は逸らさない。真っ直ぐに死狼を見ている。

 

「・・くっくっく」

 

「・・・何か?」

 

「お前は、もう以前のお前じゃない。だが、これからなるお前は、お前でさえなくなるぞ」

 

「・・・・わかってます」

 

「・・・戻れないぞ」

 

 ボソッと死狼が一言。その一言はあまりにも重かった。

 

『ゴガス!!』

 

 今度は死狼の踵が男の背中を打った。悶絶していた男がビクンと震える。

 

「覚悟してます」

 

「・・・ふぅ・・・・来い」

 

 死狼は去り際に男の右手を踏みつぶしてさっさと歩き出した。ケイも後をついていく。しばらく歩くと・・・

 

「・・・・おい、ぶつかっといてあやまんねぇのかよ」

 

「ちょっとこっち来いよ、お前等」

 

 死狼がわざとヤクザ風の男にぶつかったのだ。あっと言う間に誰もいない路地裏に連れ込まれる。 死狼とケイに対し、男達は3人。脅し慣れているところからしても似たような状況を何度も繰り返しているのだろう。 それが彼らにとって最後の言葉であった。

 

 死狼とケイを壁に押しつけ、男達は死狼達が逃げられないように取り囲んでいた。

 

「ふっ!」

 

死狼の声でヤクザ風の三人は一瞬で気絶していた。死狼は俯せに倒れたヤクザの二人の首の後ろに踵を思いっ切り叩き込んだ。男二人はビクッと震えあっさり死ぬ。

 

「ケイ・・・」

 

「は、はい・・・」

 

「・・・一撃で殺せ」

 

 さすがに、震えているケイ。それは死狼への恐怖かこれから行う自分への恐怖か・・・・

 

 深呼吸をして、一気に胸にまで膝を引き上げた。

 

『・・・グシャ』

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・うう」

 

「それでいい・・・吐くのは後にしろ」

 

「うう・・う・・うぁ・・」

 

 沈黙。

 

 沈黙。

 

 沈黙。

 

 ケイはいつしか蹲って泣いていた。死狼はあっさりと死体をマンホールの中へ蹴り落とした。そして瓶を下水に落とす。

 

「腐食バクテリアが三日で死体を食い尽くす。菌自体一週間で死滅するから放っておいても大丈夫だ」

 

 ついにケイは泣き出していた。

 

 あらかじめ予想していたのか、死狼はサングラスをかけたまま路地の壁にもたれかかり、辺りを警戒していた。 しばらくしてケイの泣き声が止んだ。

 

「気分はどうだ?」

 

「あんまり・・・良くはないです」

 

「すぐに慣れる」

 

「僕は・・・できないかも・・・」

 

 暗く笑う死狼。肩を振るわせているが、笑い声は流れなかった。

 

 その傍らでは、ケイが不思議そうに死狼を見上げていた。

 

「あのぉ・・・」

 

「初めて人を殺した奴は同じ事を言う。・・・・最初はな・・・」

 

 死狼が答える。その内容がどんな意味なのか、ケイが理解したときにはすでに死狼は歩き出していた。

 

「さっさと帰れ、そして感触を何度も思い出せ、どんな風に殺したか何度も考えろ。それで最終試験は終わりだ」

 

「・・・はい」

 

 ケイはゆっくりと立ちあがる。そして死狼とは反対方向に歩き出した。二人の師弟関係は今、終わりを告げたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・デートねぇ。俺とヤッたほうが楽しいと思うけどなぁ」

 

 なんか物騒な事を言っている男が一人。

 

 ヤジ馬凍り付きである。っていうか、世界が止まった。

 

「断る」

 

 忍は、うっとうしそうにあしらった。

 

「私は待ち合わせをしているんだ、消えろ」

 

「・・・おいおい、そんな口のききかたはないんじゃないか?」

 

 そう言って男が忍の肩に手を伸ばしたとき、忍の金的蹴りが、男の股間を直撃した。

 

 股間を押さえたまま男が跪く、その顔を忍の膝が打つ。

 

「がはぁ・・」

 

 町中で、いきなり男が倒れたのに野次馬がざっと騒ぎ出した。

 

「あ、死狼遅かったな・・・どうした?なんか嬉しそうだぞ」

 

「別に・・・何だこれは?」

 

「いや、私をナンパしにきた愚か者だ」

 

 そう言って頷く忍。う〜む。

 

「・・・・そうか、ナンパは嫌いか?」

 

 死狼が近づいてきて、忍が止めるまもなくその男の顔に踵を打ち込んだ。鼻の骨が潰れ、歯がへし折れる。

 

 忍の非難の目もどこ吹く風という死狼だ。さっさと忍をつれてその場を離れる。

 

実際忍はよくナンパされる。全てさっきの調子ではね除けているが、一見美少年。でも胸は・・・・というアンバランスさに引き寄せられる男は多い、 ちなみに女も多い。

 

 あまりにもうっとうしいので、忍は街に買い物に行くときは必ず死狼を連れていくのだ。 死狼のおかげで忍をナンパしようとする老若男女は一切近づかなくなる。がそのナンパの数の多さほど死狼が問題を起こすのだ。

 

 歩いていて邪魔な奴は誰彼構わず蹴りどかし、肩がぶつかれば問答無用でいきなり殴り倒し、歩道に乗って邪魔している違法駐車があればベコベコにする。もう、目を離せば必ず怪我人がでる。(なんじゃそりゃ)

 

 もっとも、忍も充分に喧嘩っ早く、電車内で痴漢に遭おうものなら即座にその指をへし折るぐらいはするが・・・

 

 ちなみに死狼が忍の買い物に付き合うのは、あれば使ってしまう死狼と違って、忍はため込みつつも計画立てて使い、なおかつ買い物の後には何か一つ買って貰えるからである。子供かお前は。

 

 さらにちなみに死狼が金を持ってないのは毎月ボウガンの矢 (ステンレス製の本物の矢、鏃を外すと中が少し空洞になっていて毒物が仕込める特注品。 もちろん違法)を大量に仕入れるからである。夜な夜な地下の射撃場で撃っているらしい。 ボウガン自体も特注品で重量も威力も既存の品を遙かに越えているし、暗視スコープ付きのものや、 拳サイズの小型ボウガンもある。もちろん父親が持って帰ってくる銃器もあるが、死狼はボウガンが好きなのである。

 

「どこに行くんだ?」

 

「うん・・・」

 

「・・・何赤くなってるんだ?」

 

 なんか、忍の顔が赤い。死狼にとっては毎度おなじみの買い物のつき合いであっても、忍にはもっと重要なことなのだ。

 

死狼は不思議そうに忍の方を見る

 

「さ、さっきはやりすぎだぞ死狼。いくらなんでも、顔を踏むことはないだろう」

 

「お前に手を出そうとした罰だ」

 

「・・・うん・・・あ〜・・その」

 

恥ずかしさに耐え切れずに忍は俯いてしまった。

 

 もっとも死狼はそんな忍には気付かずに、某有名包丁店のディスプレイに見入っていた。

 

 

 

 で、その夕方のことである。

 

「戻ったぞ」

 

 今日の買い物は○○デパート。忍は「月刊格闘技」と衣類数点を購入した。 あまり付けないが化粧品も買おうとしたが死狼がいるので今回はパス。

 

 死狼は馴染みの店(父親に紹介された違法な品を作ってくれる店)に注文しておいた特殊なスローイングナイフ(湾曲を付けてカーブするようになっている)を10本ほど受け取り(これは自分の金)、 買い物に付き合ったお駄賃として忍の行ったデパートで忍にHな下着を買わせた。

 

 忍は真っ赤になり、何度もイヤだと言ったが結局渋々と買ったのである。その時の忍は店員の顔さえまともに見れなかった。

 

 で、死狼は家に帰ってきた。本当はこの後、とある映画(特殊部隊をモチーフにしたもの)を見る予定だったのだが、 忍が真っ赤になったまま、さっさと帰ってしまい、使い切ってお金のない死狼はかつ上げして家に戻ったのである。 まぁ、家にいても地下のトレーニング室か射撃場にいる事が多い、 死狼にしては、珍しく5時のニュースを見るために帰ってきていた。もちろん自分の殺したヤクザの情報がでてないか調べるためである。

 

 玄関の、並べてある靴を見れば、見慣れた靴が一足だけ。

 

「ふぅん、忍は帰ってきてるか」

 

 靴から、家にいるのが忍だけと判断して、自分も中に入る。ちなみに家は指紋錠である。

 

 で、そのまま、洗面台のある風呂場に直行。ここには地下室に行く階段が隠されているのだ。

 

 が、そのドアを開けようとしたところで、死狼の動きが止まってしまう。

 

『ザァアアアアアア』

 

 明らかに、シャワーの音である。

 

「・・・・・・・」

 

 ちょっと考え込む死狼。

 

(ニュースは録画しておくか・・・)

 

 なんか、いけない事をしようとしている死狼。

 

『・・・・・・くく』

 

 オ、オ〜イ(^^;

 

 ドアのノブに手を伸ばす。

 

『ザァアアア・・・』

 

 と、シャワーの水音が不意に止んだ。

 

 死狼は堂々とドアを開けている。もう、完璧に、ある決意を決めていた。

 

 そして、それとほぼ同時に、バスルームの方のドアが開いた。

 

『カタン・・・』

 

 湯煙が、サァッと、バスルームの方から流れてくる。

 

 死狼の視線の先に、その期待通り、水滴をまとった、どこか疲れた忍が出て来た。

 

「し、死狼!?」

 

 忍、目の前に死狼がいることに驚き、慌ててかけてあるバスタオルを手に取ろうと・・・ だが、死狼が先にその手を掴む。

 

「な、なんだ、死狼?」

 

「・・・・・・」

 

「スケベ!」

 

「・・・・・・」

 

 死狼は視線を意味ありげにずらした。そこには忍の普段着の上に、新しい下着が置いてあった。 死狼に無理矢理買わされたHな奴だ。

 

 さて、忍はその事に気付いて慌てて言い訳をしようとするがあんまりにも慌てているので、 言葉になっていない。

 

「あ、いや、あれだ着心地を試そうと、ば、バカな考えをするなよ、これはあくまで実験」

 

「・・・・」

 

 もう、忍、油を放出するガマ状態である。いや、蛇に睨まれた蛙か?

 

 いや、ムングかもしれない。

 

 半ば石化している。

 

 が、死狼はニヤッと笑うと、再び忍を浴室内に押し戻した。そして自分もさっさと服を脱ぐ。

 

「な、何をするんだ!!バカ!、出ていけ!」

 

 忍は、突然叫ぶと、慌てて全裸の死狼から目を逸らす。死狼は構わず浴室に入ってきた。

 

「こんな事が、祥子さんにバレたら!」

 

「自業自得」

 

「ぐ・・・だからアレは違うんだ!その、買った以上は着けなきゃもったいないと思って」

 

「嘘だな」

 

「う、嘘じゃない!私は別に変な意味で着けるんじゃないぞ!・・・・いやだぁぁぁ!!!!」

 

 死狼の手が忍の肩に掛かると、忍は自分の胸を両手で抱きしめるように隠して座り込んだ。

 

「・・・・風呂場ってのは・・・変に興奮するな」

 

 忍を、あっけなく抱き上げて浴槽に入る死狼。眼を伏せてじたばたもがく忍。 でも相変わらず死狼は止めるようなことはない。死狼の体温も湯船の温度も混乱した忍にはもうわからなかった。

 

 

 

「・・・はぁ・・・」

 

 死狼の唇が自分の唇から離れ、頬から首筋へ、首筋から胸元に下がりつつあるとき、忍は諦めとも喘ぎともつかない溜息をついた。

 

 

 

 

この一時間後に勤め先から帰ってきた姉の眼には二人に特別変わったことが合ったようには見えなかった。

 

 死狼、『一本!!勝負あり!!』

 

 

 

 で、月曜である。

 

 今朝は、遅刻せずに普段のバスに乗ったため忍に入れ込んで居る女子でギュウギュウ詰めのバスに乗り、さっさとレイを一言も発さずにいるリクに任せる。そうやって、いつものように学校にやってきた忍。ちなみに死狼は月曜の朝は必ず遅刻するので、置いてけぼりである。

 

 教員が病気のため自習の時間(自習と言っても本当に自習をする人はいない)取り巻きの女の子達が机を取り囲んでいる中、彼女達に無関心で席を立つ。 ベランダに行くと、男子校のベランダでは死狼が授業中にもかかわらず、ビーチチェアーでひなたぼっこをしながら眠っていた。 忍は死狼に声をかけるでもなく、ただ見ていた。

 

「和倉さぁん、どうしたんですかぁ?」

 

 クラスメートの女子が、キャラキャラと声をかけてくる。

 

 忍が答えないのは判って居ても、やっぱり声をかけちゃうらしい。健気と言うか、なんと言うか。

 

「いや、馬鹿がまたやっていると思ってな」

 

「あぁ、あの人ですかぁ。また、喧嘩したんですって」

 

 別の女子が答える。

 

 忍が答えてくれたので、話題は一気に死狼の話しになってしまう。死狼は滅多に女には手を出さない(出すときは男と変わらずにやる) のだが、それでも悪名は充分なり響いていた。

 

「いやですよね、あのケダモノ!」

 

「暴力なんて最低ですよぅ」

 

「不潔だわ」

 

 などなど、言いたいことを、言い放題である。死狼の目の前でそんなこと言えば恐怖で失禁し、気絶したまま永遠に眠ることになるだろう。

 

 忍、外見が美少年だから、女子にモテモテである。しかも、忍、面倒見が良く、そこそこ優しいので 女子校内では他校のリク親衛隊と二分するほどである。(ただし掛け持ち多し)

 

 しかも、やっかいになっている家にいる、凶暴破壊台風と対比され、さらに人気が増している。

 

 しかし、この美少年(美少女)、何故に、あんなのと同じ屋根の下に居なければならないのか!!

 

 実は、両親が『海外赴任でカンボジアにいってきまぁす。後の事は、三浦さんにまかせてあるからね』 と言って消えてしまったので、三浦家に居候しているのである。(ちなみに、両親は傭兵で、死狼の父親の元で働いてる)

 

 ふと、忍の存在に気が付いた死狼が、忍の方を見た。

 

 が、忍は無視シカト。周りにいた女子達はさっさと逃げ出していた。

 

 死狼はすぐに見るのを止めると再び眠りについた。忍は教室に戻りながら、激しくなる自分の鼓動を聞いていた。

 

 もう、否定することはできない。私は・・・死狼が・・・・

 

 

 

 

 

 5 ふぁいなる対談

 

 

 

獣『いやぁ、今回は書いててうきうきしちゃうね!!』

 

忍 『めでたいやつだな。『ふぁいなる』はネタばれだろう。骨が折れるぞ?』

 

獣『気にしない気にしない、楽しけりゃそれでOK!』

 

忍 『・・・』

 

獣『では、最初は忍の事から。最後の最後に、”女”の快楽に流されましたが・・・』

 

死狼『忍の体は良い』

 

獣『そうそう、オレも昔から強い女ってのが好みだったりしてねぇ・・・正確に言うとDALKのルーなんだけどね』

 

死狼『脂肪と筋肉が絶妙のバランスだな、うむうむ・・・』

 

獣『ウン』

 

忍『お前等・・・殺す』

 

獣『では、後は任せたぞ死狼。オレはさっさと逃げる』

 

 

 

 

 

獣『さて、今回の新しいキャラ=死狼ですが、実は獣からの完全な空想なのです。元ネタとなるような人はいません。っていうか、いたらコワイ』

 

死狼『・・・そうか?まぁ、どうでもいいが』

 

獣『修羅の門の陸奥九十九に似ていると言われそうですが、ちがいます』

 

忍 『ほう?私はてっきり・・・』

 

獣『いや、自分で考えた。無意識下で影響を受けたかも知れないけど、そこまでは面倒見切れ無いぞ』

 

死狼『で、これからどうなるんだ?』

 

獣『さぁ・・・どうなるかねぇ』

 

忍 『そうだな、私はどうなるんだ?』

 

獣『今のまんまじゃない?妊娠の設定はないから安心してくれ』

 

死狼『それはどういう意味だ?』

 

獣『言わなくてもわかるだろう?』

 

死狼『そういう事か・・・じゃぁたっぷり』

 

 

 

     ゴス!!バキッ!!

 

     死狼、獣不注意な発言のため、退場。

 

 

 

忍『バカものが!!』

 

獣『まったくだ』

 

忍『な、なにぃ!!』

 

 

 

ケイ『で、今回は俺、なんだったんだ?』

 

獣『もうじき主人公』

 

ケイ『でてきたと思ったら人殺し・・・第一、今回、あんまりオチがついてないぞ』

 

獣『・・・ふぁ〜あ(遠くを見る目)』

 

 

 

     ゴガス!!

 

     問答無用で蹴り倒された獣。

 

 

 

獣『お−いて』

 

ケイ『人を無視するな』

 

獣『ふふん、お前戦うよ、今まで虐めていた奴と。だから、この話しで変わる必要があったんだ』

 

ケイ『ほ〜う』

 

獣『精神的には死狼のレベルに近いとこまで行く・・・ってなんだそれ?』

 

 

 

     なんか、ケイ、手にバラ線を束ねた鞭を持っている。

 

     それに、かなり驚く獣。

 

 

 

獣『あ、あれ?』

 

ケイ『いや、これでブン殴ろうかと思って』

 

獣『オレ、昔これ作ったことあるぞ、工事現場からかっぱらって・・・』

 

 

 

     バキ!!!

 

     いきなり打たれた獣。

 

     一気に血が出る。

 

 

 

ケイ『あーすっきりした』

 

 

 

     なんか、溜まっていたらしいストレスを発散していったケイ。

 

     獣にしてみれば、堪ったものではない。

 

 

 

獣『む・・・新たな快楽が・・・・』

 

 

 

 

 

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本小説と作者の人柄は全く無縁です。 

偽・GUESS〜6