第W話 ケイという名の卑屈な存在
「喜びも悲しみも、それを感じとる心の余裕があるからできる
それすら出来ない者は心を凍らせて生きるしかない
不幸を嘆くことも出来ない者は打ちのめされて生きるしかない
そしていつしか生きていることの幸福すらも苦痛に変わる」
作者と出演者の対談
ケイが『やれ!』と言って刃物を構えているので(;;)
ケイ『よーやくにして、俺の出番だな。主人公のはずなのに、出番が少なすぎだぞ』
獣『そんなに不幸やりたいの?変な奴』
ケイ『お前が言うな!刺すぞ!!』
獣『解ったよ、やりゃいいんだろ!』
ケイ『そうそう、素直にそう言えば良いんだよ』
獣『後で後悔させてやるぜ・・・』
獣、渋々ながら、パソコンに向かう。
ケイ『へっへっへ!』
と、思ったら、獣、バックブローでケイの持っていた刃物を飛ばす。
ケイ『なにぃ!?』
獣『あちっ!・・・ちょっと切れたけど・・・・さぁてイッツショウタイム』
ケイ『や、止めろ!?』
獣『いやぁ、ヤル。お前はこれだけのことをしたんだからな』
ケイ『ひ・・・ひ・・』
獣『泣き叫べ、悲鳴を上げろ!その方が盛り上がる・・・フヘヘヘ!』
ケイ『イ、イヤァァァァァ!!』
獣『オレの知ってる拷問法全てやってヤル。その後体中の骨折って、関節外して、筋を捻切ってやるぜ』
ケイ『イヤァァァァ!!』
獣『そんなに喜ぶなよ、やる気が出ちゃうだろ!』
ケイ『・・・・・・』
声も出さずに首を横に降り続けるケイ。
獣『抵抗しろよ・・・じゃないと追いつめる快感が味わえないだろ』
ケイ『・・・・・・・・・・・』
泣きながら激しく首を振るケイ。腰が抜けたのか、地面に座り込み、足で地面を蹴って逃げようとする。
獣『そうだ・・・逃げろ逃げろ・・・捕まったら死んじまうぞ、ヒッヒッヒ』
這い蹲って逃げるケイをゆっくりと追う獣。
全ての始まりの朝(ケイの場合)
「・・・・・朝か・・・・」
相変わらず、滅茶苦茶汚いケイの部屋。 そこら辺りに散乱している本やゴミを、 容赦なく踏みにじりながら、ケイは台所に向かって歩いていった。
ケイは部活には入っていない。全能力の劣っているケイはどの部活でも活躍できそうもないし、何より入部は認められない。
もう、癖になってる、身体をほぐしながらキッチンに立つ。腕を伸ばしたときに、傷が開いて血が滲んだが、無視する。
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出すと二缶連続で一気に飲み干す。栄養補給はこれだけだ。
今度はトマトジュースを皿に空ける。
そして冷蔵庫からかちかちになったフランスパンを出し、一口サイズにちぎる。 そのパンを冷たいトマトジュースに付けて、口元へ運んだ。
「っつ!!」
口を開いたときに、昨日殴られて切れた唇が再び切れ、血が滲む。
が、構わずパンを食べる。トマトと血は似た味なので特に気にしない。
「・・・・」
ふと台所においてある包丁が目に留まる。ケイはゆっくりと包丁を手に取ると、 自分の手首に当ててみた。その手首には既にいくつか切った後があった。どれも浅い。
「っ・・・」
包丁の刃が僅かに動き、ケイの手首に血の筋が出来る。
切ったら楽になるのだろうか?・・・が、すぐに離すと、その手首に付いた血の筋をなめて、包丁をおく。
手当はしない。彫っておけば治る傷だ。切り慣れているケイには解る。
「あー眠い・・・ねよ」
食べ終わると、ブツブツいいながら、再びベッドに横になる。床に敷かれているスプリングが軋んで、 埃が宙に舞った。
ちなみにケイの部屋のキッチンには食器はほとんどない。 コップが一つと、皿がいくつかあるのみだ。
食生活のほとんどが、コンビニ食なため、 食べるときは備え付けの箸かフォーク、無ければ手づかみのどちらかである。
さて、現時刻であるが、実は6時だったりする。
ただ単に、早く起きてしまっただけなのだが、さっきの包丁の傷がゆっくりと痛み、眠れそうにはなかった。
「・・・行くか・・・・」
時間は既に8時。でも歩いて15分の距離では充分すぎる時間である。 遅刻が怖いわけではない。早く行ってしなければいけないことがあるのだ。
学校の下駄箱に彼の上履きはない。だが、代わりに大量のゴミが詰まっている。
毎朝のことだから特に気にしないし、片づける気にもならない。大体使ってないのだ、下駄箱は。
ケイは上履きも外履きも常に持ち運んでいる。でなければ上履き代だけで一月の生活費が無くなってしまうだろう。
1 教室
鞄からだした上履きをはくと、今度は外履きを鞄にしまう。
教室にはまだ誰もいない。彼の机は一番後ろの隅にあり、 ケイはその机に近づくと椅子を引いた。
「へぇ・・・」
思わずケイは感嘆の声を出した。
いつものように椅子は吐き付けられたガム、ライターで焼かれたような黒ずみ、 接着剤で止められた画鋲と悪口で一杯だった。
既に画鋲の先端はケイによって取られているから、座ることに支障はない。
さっきの、
「へぇ・・・」
は椅子が昨日と何も変わっていないからだ。その事に驚いている。
机は椅子と同じような眼にあっていたが、より目立つためにあまり酷い物はなかった。
今度は机の中を覗く。中には大量のゴミと、カッターの刃、汚れた雑巾などがつまり、異臭を放っていた。
「こっちは相変わらずか・・・・」
納得したようにケイは呟くと、机を傾けて、中の物を床に落とす。
ザラザラとこぼれ落ちた物を箒やちりとりを使っててきぱきと片づけ、 雑巾は流し場まで言って洗い直して、掃除用具のロッカーにしまう。 その手際はあまりにも手慣れていた。
2 授業
授業が始まると、ケイはぼうっと外を眺めていた。ノートさえ取らない。
彼は例えテストを白紙で出しても、落第するようなことはない。彼の成績は及第点ギリギリで必ず通るのだ。
これは学校側との約束であり、彼をヤメさせないための対策であった。
「木冬ケイ!この問の答えは!?」
この時間を受け持つ、数学教師の、若い女の先生。結構美人なのであるが、 嫌悪と侮蔑で美しい面が曇りに曇って、せっかくの美貌が台無しである。 汚らしい物を見るような眼でケイを一度見た後、視線を合わせようとせず、教科書を見る。
「す、すいません・・・聞いてませんでした・・・」
ケイは立ちあがると、ぼそぼそと低い声で言う。隠そうともせずにクラス中から嘲笑が浴びせられる。
「・・・皆さん!ちゃんと授業に集中して下さい、でないと・・こんな人間になってしまいますよ!!」
さらにクラス中から笑い声が響く。
ケイは媚びを得るような笑みを浮かべ、でも俯いたまま立っていた。
教師が生徒達の笑いが収まったところで、ケイを見ずに着席させる。
パチン。
しばらくして誰かが投げた消しゴムの切れ端がケイの顔に当たった。
ケイは相も変わらず卑屈な笑みを浮かべ、困ったような顔で机に落ちた切れ端を払って床に落とした。
そして教師の隙をついて、投げられる消しゴムを無視してまた外を眺めていた。
一時限目の数学の授業は外を眺めて過ごし、二時限目の歴史では再び当てられ、見せしめとさらし者になる。
三時限目の体育ではやはり荷物を全て持って移動し、鞄からジャージを取り出して着替えていた。
授業の為にグラウンドに出ても、教師の隙を見ては殴られ、石を投げつけられた。
四時間目の英語では外を眺めて、教師にしかられてまたさらし者にされる。
昼休みは、一番苦痛の時間だ。
まず買いっ走りとして使われ、みんなが食べてる間に急いで自宅から持ってきたパンを一人で食べる。
そして机の周囲に落ちている、消しゴムや、丸められた紙等のゴミを片づけた。
後は食後の運動とばかりに男子生徒達の憂さ晴らしに殴られ、蹴られ、その姿を女子生徒が見て、笑って憂さを晴らす。
そのどれにも、彼は卑屈な笑いを浮かべて従っていた。その笑みがさらに彼を虐めさせる理由になるのだが。 それでも浮かべていないともっと殴られることを彼は知っているのだ。
五時限目、生物では全員の機材運ぶ。
普通なら足をかけられ、転ぶのだが、運んでいる機材が高価なため、 さすがに誰もそれはしなかった。
グループに分かれての実験だったが、誰も彼と組まない。だからみんなと同じような真似事を一人でして、一人でみんなの機材を片づける。
教師も彼を無視している。彼のために授業の時間を割くことなどしないのだ。 どうせ成績は学校側が付けるのだから。彼が真似事をしようが、一人で空を眺めていようが関係ないのだ。
ゆあはり彼は一番部屋の隅で、一人空を眺めていた。
六時限目の国語Iでも、彼は空を眺めていた。
そんな様子に元々不機嫌だった教師に教科書で殴られ、 クラス中からは嘲笑を浴びせられて、今までと同じく卑屈に笑うのであった。
3 放課後
彼は一人で教室を掃除していた。彼と同じ班(掃除)の人間はみんな帰ってしまい、彼一人でやる羽目になってしまったのだ。 だが、彼の苦労を気遣い、手伝おうとする者はいなかった。
少なくとも彼のいるクラスでは全ての人間が彼のことを奴隷のようにしか考えてなかった。
4 下校
放課後である。これは、彼にとって最も苦痛の時間である。まず呼び出される。
呼び出すのはいわゆる不良から、一般生徒まで様々だが、最低でも呼び出しのない日は無い。
内容は同じである。まず金を要求される。だが彼は予測していて金を一切持ってこない。
次にそれをネタに殴られる。蹴られる。次に待っているグループが彼を殴る、蹴る。
それが何回か繰り返された後に最後のグループが、 殴られてうずくまったケイに雑巾を浸した水や、唾、酷いときは小便までかけるのだ。これで学校での虐めは終わる。
そしてうずくまって濡れそぼった彼に悪態を付きながら、すっきりした顔で彼らは帰っていくのだ。
彼は動けるようになるまで身動き一つしない。痛みが引くのを待っているのだ。
痛みが鈍痛に変わるまでじっとしていれば、空は暗くなる。
ようやく動き出した彼は隠しておいた鞄をもって、そのまま家に帰るのだ。 目立たないように裏道を行きながら。
フラフラと俯きながら歩いていたケイはビクッとなる。 前方に、自分と同じ制服を着た複数の人間を認めたからだ。
彼らは話しながらケイとは逆の方向。つまり、彼の方に向かって歩いてきた。
「へ、へへ・・・」
ケイは卑屈に笑いながら俯いて、目を合わせないように歩く。その眼には怯えの光が強い。
「・・だから、違うって・・」
向こうの話し声が聞こえてくる。ケイはちらりと盗み見るようにその連中を見た。
リクだ。
部活帰りのリクが、マコト、加奈子、レイ。そしてその後を付けるファンの群を引き連れて歩いているのだ。
ケイはリクの顔を一瞬目に留め、ほっとした。
リクはケイを虐めないからだ。いや、虐めないのではない。知らないのだ。ケイの存在に。
生徒のほとんどが彼のことを虐める。それは教師すら知っている公然となっているが、そんな自分達の醜い面をリクという存在に知られたいと思う者はいなかった。
「・・・あれぇ、どうしたの?」
何事もなくすれ違おうとしたとき、そんな声がかかった。マコトだ。
リク達の通う高校の付属中学に通うマコト。彼女が先にケイの異変に気付いた。
「え?・・・どしたの?」
リクがマコトの声に気付いて、マコトを見る。
マコトの視線の先には、すれ違おうとていた同じ制服を着た男が俯いて歩いていた。
一見すると何でもないように見えるが、髪の毛が濡れて、額に貼り付いている。 口元には痣と血が浮かんでいる。 それは明らかに暴行を受けた後の打ちのめされた姿であった。
自分にかけられた声にケイはビクッと震え、ゆっくりとリクの方に怯えた視線を向けた。口元には媚びるような笑みが浮かんでいた。
リクと眼があった。リクの視線が驚いたような物から、徐々に厳しい顔に変わっていくのが解った。
「同じ学校だよ、殴られたのか?」
厳しい顔になっていくリクに怯えて、ケイは立ち止まった。殴られても痛みがないように身体を堅くする。
その様子に心配になったリクがそう言って一歩ケイの方に近づくと、自分が殴られると思ったケイはその分下がった。
リクを避けたのだ。
「えっ!?」
ケイの行動にリクの顔が呆然となる。
リクは今まで人に避けられたことがないのだ。リクに近づく者はいても避ける者はいなかった。それは容姿と、滲み出る優しさが自然と警戒心を解くからなのだが、 初めて、人に避けられた。
そしてケイの視線。
自分に媚びるような、怯えた視線。激しい恐怖と、警戒。 リクはそんな風な視線で見られたことも初めてであった。まるで、自分が彼を殴ったかのような錯覚に陥る。
「あ、あの・・」
呆然としながらリクがさらに一歩近づいたとき、ケイは逃げ出した。
わき目もふらず走り逃げようとする。が、リクは素早い動きでケイの肩に手をかけ、
「うわっ!」
リクが驚いて、立ち止まる。 さっと離した。その隙にケイは遠くまで逃げていた。もう、さすがにリクでも追いつけない。
「・・・リク?どうしたんだ?」
加奈子が呆然としているリクに声をかけた。
だが、その声は聞こえない。リクはケイの肩を掴んだ手を見て、呆気にとられていた。
ケイの肩を掴んだリクの手は濡れ、灰色っぽい汚液が付いていたのだ。
それは最後にケイを殴った生徒達にかけられた雑巾の絞り汁だった。
作者と出演者の座談会
獣『ふぅ・・・書いてて時折辛い物があったが、こんなモンか?』
ケイ『・・・くおらぁ、獣!!何て眼にあわせやがる!!!』
獣『何だよ、せっかくだしてやったのに!・・・だったら二度と出さなくてもいいんだぜ?』
ケイ『こ、こ、殺してやる!!!!!!!』
獣『へぇ〜おもしれぇ・・・殺して下さいって頼むまでなぶってやるよ・・・』
ケイ『う、うおおおおおおおお!!!!』
膝ほどに成長した草が風になびく野原でぶつかる二人。
いくつかの打撃の後、二人の影はぶつかり、もつれて地面を転がる。
関節技や殴りつけた後、最後には馬乗りになった影が、下の影を殴り続けていた。
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本小説と作者の人柄は全く無縁です。
みゃあの感想らしきもの