【ヴィンセントの戦い】

 第3話

作・Koujiさま


「ウォォォオオオオオ!!!」

 

 ヴィンセントはリミットブレイク時のような叫びを上げて目覚めた。

 最悪の夢だった。

 自分の体が宝条によって改造された時の記憶。

 ヴィンセントはその改造手術中の光景をまざまざと思い出すことができた。

しかも自分が見ているはずのない部分まで鮮明に。

 手術台に縛り付けられたヴィンセントに対して宝条は筋肉弛緩剤を打っただけで手術を行ったのだ。

サディスティックな性格からか、わざとヴィンセントの意識を、痛覚をのこして手術を開始した。

 

 

 

 ヴィンセントは宝条が自分の体が切り裂き、取り出し、新しい臓器を、肢体をつけるのをずっと見させられいた。

 何という拷問だろうか・・・宝条は単なる実験体としてヴィンセントを切り刻んだのではなく、彼を永遠に苛むためにモンスターへと変えてゆくのだ。

 

ルクレツィアの代わりに。

 

 宝条はルクレツィアにJENOVA細胞を埋め込み、セフィロスを生ませた後にさらにルクレツィアを改造しようとした。

 セフィロスを守護し、セフィロスのJENOVA能力を開花させるためにより強力な生物へと変化させる。

 セフィロスを生んだショックで一次的に冬眠状態に陥ったルクレツィアにはその凶行を拒む力はなかった。

 

 だから、彼が代わりに受けた。

 ルクレツィアを止められなかった、奪えなかった自分を罰するために。

 そしてただルクレツィアに対する想いのために・・・

 

 ヴィンセントには考えがあった。

 ルクレツィアのために自らを実験体として差し出し、ルクレツィアへ被害が及ばぬようにその実験をわざと失敗させる。

 

 

 

 自分の体の中から本来の臓器が取り除かれ、異なる生物の臓器が埋め込まれる瞬間・・・ヴィンセントは気を失いかけた。

 

 動きを止めつつある自分の臓器の代わりにビクビクと動くモンスターの臓器が埋め込まれるのだ。

 すさまじい苦痛とおぞましさで常人なら発狂しても不思議ではない状況だった。

だが、ヴィンセントは耐え抜いた。ルクレツィアへのために。

 

 元々人間とモンスターでは臓器の互換性なんてあるわけはない。

だから回復能力のあるモンスターの臓器を埋め込み、人体と臓器を強制的に癒着させるのだ。

 

 自分の体がモンスターの臓器に食われていく・・・・

 

 絶対に人間の肉体ではモンスターの細胞に勝てない。そうJENOVA細胞でも埋め込まれない限り。ヴィンセントはそれを知りながらも構わなかった。失敗で終わることこそがヴィンセントの願いだったから。

 そこでヴィンセントは意識を失った。結果ルクレツィアへの手術は行われなかった。

 

 マントを外しただけの格好で眠っていたヴィンセントは真っ暗な部屋の中で何もかも見ることができた。

 瞳が赤く染まっている。

人間の視覚では捕らえられない赤外線でモノを見ているからだ。それも忌まわしいモンスターの能力のお陰だ。

視線の先にはテーブルが、そして銀の筒があった。

 

モンスタートリガー【ノヴァ】だ。

 

 手術中ヴィンセントの頭部に銀の筒に納められたトリガー(発現物質)が押し当てられ、嫌な音がして、何かが頭に流れ込んでいく・・・

 

 トリガーはモンスターの遺伝子が含まれた液体で、筒を頭部に押し当て脳に直接撃ち込む。

本来撃ち込まれた時点でモンスターの臓器がモンスターの遺伝子に対応して変化していき、そして永遠に人間の姿でいることはできなくなる。

 

 

 トリガーを使った実験は宝条の手によって動物実験ではすでに行われていたが、問題がでてきた。

強いモンスターの遺伝子を撃ち込めば強いモンスターになると言うわけではないのだ。

 

 なぜなら第一にトリガーには撃ち込む対象との相性があり、それが合致しないと変化が上手く行われない。

 第二に強いモンスターのトリガーでは対象の身体が変化に持たず崩壊してしまうのだ。

 

その二つの条件は実験の連続で解明していくしかない。

 

 

 そしてヴィンセントにはベヒーモスのトリガーが撃ち込まれた。

 最初にヴィンセントがどのモンスターまでのトリガーに耐えられるかの実験だった。

 

 ベヒーモストリガーの強力な生命力にヴィンセントの体はあっけなく崩壊が始まった。人間の肉体では耐えられなかったのだ。

 本来なら失敗のはずの実験は宝条の狂気によって続けられた。

 

 宝条はさらにもう一つのトリガーを撃ち込んだのだ。

 ベヒーモスのちょうど半分の力をもつギガースのトリガーを。

 

 ヴィンセントの中でベヒーモスとギガースのトリガーが肉体の主導権を奪い合いを始める。

 遺伝子同士がお互いを食い合い、複雑に絡み合っていく・・・

 

 しばらくするとヴィンセントの崩壊が収まりかけてきた。

 ベヒーモスのトリガーがギガースとぶつかり合いその効果が減ってきたのだ。

 さらに宝条はトリガーを撃ち込んだ。

 

 恐らくベヒーモスのトリガーが半分ぐらいになっただろうという予想で、ちょうど良いくらいのシザートリガーを撃ち込んだ。

 偶然にベヒーモストリガーの暴走は相打ちという形で止まった。

 

 もちろん本当はそんな単純なものではない。ヴィンセントの体質と臓器の癒着具合、トリガー同士の反発とその経過時間の偶然によって収まったのだ。

 

 止まった時点で、宝条はもう一つのトリガーを打つのを躊躇った。

偶然とはいえここまでの実験結果を無駄にするわけにはいかないからだ。

もう一つはルクレツィアを改造するときに使ったJENOVA細胞をモンスターと掛け合わせて創ったトリガーだった。

 ただ、そのトリガーを打ったネズミは異様な変化を起こして狂暴化したので、若干の細胞だけとって殺してしまった。

 

 熟考に沈む宝条の狂気の視線の中で、ヴィンセントの体が一気に変化した。

 ヴィンセントを縛り付けていた金具が吹き飛び、ゆっくりと立ちあがる。

 

赤く染まった瞳に伸びて行く牙、肉体の内側からわき上がるように全身が青黒く変わり、角が生え、獣の形になっていく。

だが変身が終わりきる前に激しい銃声と共に銃弾がヴィンセントの体を貫いていた。

 

実験体の暴走は最初から予想されていた。その対処法も。

 

「グゥゥゥオオオオオオ!!!!」

 

 ガリアンビーストと化したヴィンセントが警備兵の一人に躍りかかり、一撃で警備兵の頭を吹き飛ばした。

 だが銃弾はさらに撃ち込まれていく。

 

その視界の片隅に宝条を認め、もう一度飛びかかろうとしたとき銃弾が額を貫いた。

 そして完全に意識が消えた。

 

 以上が僅かに残った記憶と後にヴィンセントが新羅屋敷で見つけた資料から解ったことだ。

 

 確かにヴィンセントはほんの一瞬蘇った意識で宝条の「この計画は失敗だ・・・」と言う言葉を聞いた。

 

 瀕死の状態で廃棄処分として捨てられたヴィンセントはそのまま動物を、モンスターを喰らいながら必死に生きた。

 ほとんど助からない状況だったにもかかわらず生きのびたのは忌まわしいモンスターの体だったから。

 

 そして僅かに残るルクレツィアへの記憶を無くさぬように、全ての元凶である新羅屋敷の地下で永遠の眠りについた。

 

 

 当初【カオス】はヴィンセントがベヒーモストリガーに耐えられたら撃ち込むはずだったJENOVA細胞とモンスターを混ぜ合わせたトリガーだったが、結局使用されず保存された。

そしてルクレツィアに打つべく、カオスを越えるすら越える宝条がJENOVA細胞を改良して創ったトリガー【ノヴァ】。

 

 10年以上前にアイシクルエリアに大地震が起きたとき、一体のモンスターの死骸が現れた。

断層に押しつぶされ引き裂かれた体は既存のモンスターのどれよりも巨大だったが、

引き裂かれながらもその肉体は、細胞は生きていた。

 

 調査にでたガスト博士と宝条はその細胞を手に入れ、モンスターの調査を進めようとした。

だがぶり返しの地震でそのモンスターの肉体は再び地の底へ埋まってしまった。

 

 そう、それは星の危機に現れて全てを無にするウェポンの一体。

 そしてウェポン細胞とJENOVA細胞で創られたトリガー・・・

 ウェポンの意志を継ぎ、全てに破壊をもたらす究極のトリガー・・・

 

 それが目の前にあった。

 

「ルクレツィア・・・・」

 

 銀色の筒を見て、ヴィンセントは僅かに懐かしさを覚えた。

 例え忌まわしい狂気の産物であろうとも、自分と過去を繋ぐものなのだ。

 

「・・・・ふぅ・・・・」 

 

 ベッドに片膝を立てて座り、ヴィンセントは窓から空を見上げた。

 メテオの消えた夜空は地下で眠る前、最後に見た夜空よりも無数の星が輝き、何よりも美しく見えた。

 自分の守った世界で、自分の守った街でその夜空を見上げてヴィンセントは微かに笑みを浮かべた。

 

「・・・私は自分で思うほど強くないのかも知れないな・・・・」

 

センチな気分になったヴィンセントはそのまま夜空を見上げて夜を明かした。

 

 ちなみにユフィはマテリアの海を泳ぐ夢を見ながらぐーすか寝ていたし、

 ケット・シーはリーブが徹夜で直していた。(すでに操縦者であることがバレている)

 

 

 

(つづく)

 

 

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