第X話 レイの魔の料理
「天才というものは必ずいるし、誰もがなにかしらの才能を持っている
だが、多くの人はその才能に気付く事なくその人生を終えてしまう
ましてや、その才能を生かせるような環境に生まれることはない
・・・万が一にも、その才能が完璧に生かされたのなら・・・・」
1 お弁当作戦!!
宇瀬学園。全国でも有数の・・ある意味問題校である。
我等が主人公リクもまた・・・もちろんリクだけではないが、それでもやはりリクはある意味問題児であった。 成績が悪いわけでも、素行不良でもない。
ただ、彼は人気がありすぎた。人に好かれ過ぎた。そこが問題なのである。
リクは今、可愛らしい包みのお弁当箱をもって、いそいそと、ある席へと向かっていた。
今日も今日とて、リク、お弁当を持って、いつもの席へと向かっている。
リクの席だが、彼は常に窓際である。 なぜなら、もしリクを廊下際に座らせたりしたらリクの美貌に引き寄せられ、 理性を失い暴徒と化した女生徒の群に拉致されかねない。 (既に過去に二度、暴徒が昼休みと同時にリクを拉致してしまうという事態が起きた)
窓の外を見れば、学校から見渡せる距離の住宅のベランダには、 ほぼ72パーセントの確率でその家の主婦が熱い視線を送っている。 微笑んだりすればその場で脱ぎ出す者までいる始末だ。
ちなみにモンスター・レイ(こう呼んでも差し支えないだろう)はその巨体ゆえ常に後方である。
リクは昨日の加奈子の計画を聞いて以来、偉くご機嫌である。
まぁ、リクの笑顔一つでクラス中の雰囲気が良くなるから良いのであるが、 これがレイなら、 全員の気分を悪くさせていることだろう。 レイの顔が悪いわけではない。無骨な顔つきだが、男らしいと言えば男らしいし巨体が醸し出す風格は立派なものである。これでヒゲを生やせば、 それだけでひとかどの人間に見られるだろう。
ただ・・・目がいけない。10年前のキャンディキャンディというか、 今時の少女漫画でさえ書かないようなキラキラの瞳。 そして大地の響きのような野太い声での可愛い女の子喋り。
マジできつい。わざとやっているのではないし、なによりレイは性格が良かった。だから余計に救われないのだ・・・。
ともあれ、レイと加奈子が席を合わせたところに、
(加奈子がダイエットする為にレイの顔を見ながらお弁当を食べたのが始まりで、そうすると通常の半分で食欲が無くなるからだが、それ以来毎回一緒に食べているので、加奈子はナイスバデ!を楽に維持できるのだ)
リク登場。お弁当組みである。山南は、 早起きが嫌いな彼女の母親によって購買部に走らさられている。 ちなみに加奈子は自分の分も山南に買いに行かせている。ここら辺は昔から変わらないのだが・・・ 加奈子は、 手ぶらのまま、警戒してレイを見ていた。
正確にはレイのお弁当を。
「・・・アンタにはいつも感心することがあるのよ、レイ。 何でアンタの作る物は・・・」
「美味しそうでしょ?今日は特にがんばったんだぁ!!」
「・・・・はいはい(ウェップ)」
レイの笑顔に吐き気を催す加奈子。もちろん鈍い(その鈍さはある意味神の領域である) レイは気付かない。
そうやって、リクが席に着いたとき、 山南がダッシュで帰ってきた。彼女はグルーピーからの攻撃を物ともせず、 このお昼の時間を勝ち取ったのだが、 リクと正々堂々と接することのできる時間帯なので、この間の行動は、 何事も迅速である。
「あ、秋子?、フォアグラパンあった?」
これは嘘だが、山南は見事にずっこけた。こけた拍子に床に叩きつけられた後頭部が湿った音を立てたが、 リクとの時間が少しでも惜しい彼女はさっさと起きあがる。
山南にパンを買わせに行かせた加奈子。
言っておくが、加奈子には、ちゃんと弁当はある。ちゃんと、母親が朝、 作ってくれた。が、朝練の際朝食を食べずにでてくる加奈子は、途中で食べてしまうのだ。 だから山南を購買部まで走らせるのである。まったく。
「・・・そんなパン無いわ・・・」
そう言って、ビニール袋ごとパンを加奈子に差し出す山南。
中には焼そばパンが2個にメロンパンが1個はいっている。 サンドイッチなんかではないのが、加奈子らしいといえば加奈子らしい。
と、山南の視線が、レイの弁当で止まる。で、涙。
レイは律儀なので、ちゃんと山南が来るまでお弁当にも手を付けず 待っていたのだが、山南が来たのでさて食べようかい・・・というところで山南が泣き出したのだ。
いや、リクと加奈子を抜かせば、この場にいたクラスメート全員が、 山南と同じように涙を滲ませていた。
唯一人、山南の涙をショックとして受けてしまってい るのはレイだけである。レイ、かなり慌てている。
「え、え、山南!?」
「・・・なんで・・・そんなに美味しそうなの?・・・」
「え、え、え??」
「・・・美味しそう・・・食べたい食べたい食べたい」
「えぇ??」
「食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい!!」
そう言って、一斉に立ちあがる生徒達。
『ガタ!!』
倒れる椅子の音は合わせたように一斉に鳴り響いた。同時に机も立ちあがった拍子に動き、ズズッと音を立てた。
どんよりと濁った瞳に半開きの口、青白い顔となって迫ってくる生徒達。 回りが完璧にゾンビと化して押し寄せてくる中、レイだけが、 オロオロとビビリながら周りを見回す。
だがリクと加奈子はなれた物だ。毎日の光景となればゾンビもなにする物か・・
やれやれと言わんばかりにリクが立ちあがると、思いっ切り両の掌を打ち合わせた。
パァン!!
平手打ちというにはあまりにも強い音が、ゾンビと化した生徒達の鼓膜を撃ち、 ビクッとその動きを止める。
「目を開き、耳を澄まし、声を出せ。失われた感覚を取り戻し、自らを制するのだ」
リクの呪文のような声。両掌から発せられた強い音に軽いショック状態に落ちたゾンビ生徒達は リクの染み込むような声でゆっくりと自分を取り戻していくのだ。
ゾンビ生徒達の瞳に生気が宿り、気を取り戻すと慌てて辺りを見回して、席に着く。
「・・・まったく・・・軍事兵器だな、レイの弁当は」
「毎日、毎日、いい加減慣れなさいよねぇ・・・ってのも無理か、あたしだって結構辛いもん」
意識を取り戻した山南が、『・・見ちゃ駄目、匂いも駄目』と呟いている。
「外見は普通なんだけど・・・匂いが何かを狂わせるんだよな〜」
できる限りレイのお弁当を見ないようにしている山南、 『・・駄目、この匂いが・・・』と、机に爪を立て肩を震わす山南。
「食べると美味しいんだよなぁ〜・・・止められなくなるけど」
震える山南、『・・・視界が・・・暗くなって・・』と、 両手で顔を覆う山南。
「そうそう、昔食べたけどさぁ・・・本当に辛いよね、止めるの。夏休みいっぱいかかったもん」
ゆっくりと顔を覆っていた手を離す山南、『・・・食べ・・・たい・・・』と、ゾッとする声を出す。
「絶対夢に見るよね!!最後にはレイのお弁当が食べたくなったのを、唇を噛んで抑えたんだよ!」
方の震えが止まった山南、『・・・・・・』無言のまま、青くなった顔を上げる。
リク達の回りでも似たような事象が続々と起きていた。山南だけではなく、教室にいた生徒達、さらには窓の外には大量のトリの群が集まり、犬やネコの鳴き声が地響きのように校舎にこだまする。
さらには引き戸が開けられる音が無数に響くと、ゆっくりと何かこの教室へと近づいてきていた。
さらにetc、etc。この教室に向けられる意識の集中とも言うべき物が 信じられないほど高まってくる。
今や、クラス全員が、いや、全校生徒・・・いや学校の敷地内にいる青い顔をした生徒達がこの教室を目指していることだろう。
さすがの加奈子も、ちょっと怯えた顔になる。 最悪の事態は昔一度だけ起きたが、その時は「理科室からクロロホルムの容器を持ち出し、群の真ん中に投げ込む」という非常手段が執られたのだ。
ちなみに一人呆然としているのはレイである。このオスはよりにもよって、 自分の料理の兵器並の効力にまるで気付いていないのだ。
「・・・・レイ、ぼうっとしてないでナントカしなさいよ!」
そう、この事態を解決するのはレイなのだ。リクではもはや・・・いや、リクが脱げばこの騒ぎは収まるが、別の騒ぎを起こしてしまう。 加奈子が半分・・・いや、本当に嫌々怒鳴った。が、 レイはキョトンとしているだけである。
「なんでぇ?」
「なんでも!!」
「だって、すごいよぅ。みんなぞんびの真似しちゃって、レイも見習わなくっちゃ!」
「見習わなくても、よろしい!!」
キャッキャと喜んでいるレイを叱る加奈子。加奈子は突っ込むと同時にコンパスを投げてレイの分厚い胸に見事命中させているのだが、 刺さった当人はそれを無視している。
そしてそのコンパスが、はしゃぐレイの筋肉の圧力によってころんと床に落ちた。化け物である。
さて、山南他生徒達と言えば、弁当に向かって近づいてきているのだが、理性がないため、机に引っかかって転んで、その転んだヤツに躓いて転んで、 まさに歳末10万枚ドミノ大会の連鎖反応で転び、立ち上がれないでいる。
「いよいよだなぁ、レイ。レイの・・いや、人類の・・・いや、全存在への最終兵器」
リクの声に、床に転がりグニャグニャと蠢いている生徒の群が、一瞬にして止まった。 全員真っ青な顔をして、そろえたようにレイを見上げる。
「レイ・・・ウィンクしてみなさい、みんなに向かって」
目を閉じ、耳を塞ぎ、叫ぶように・・・あるいは掠れるようにか?(この状況を覚えている覚えているものが皆無なためだが・・)レイに命令した加奈子。
床に転がっていたゾンビ生徒達が、みんな血の涙を流しながら、イヤイヤと首を横に振った。必死に逃げようとするが、 転んだときに折り重なって一種の生物のように見える生徒達の体は容易に離れず、 ゾンビ生徒達は逃げようと必死で動きながらも、手足をばたばたと動かしながらも、目が離せないのだ。レイから。
「うん・・・恥ずかしいけど・・・加奈ちゃんがそう言うなら・・・えい!」
レイは立ちあがって体を斜めにすると(この時、窓辺にいたトリ達が慌てて逃げようとしたが、時既におそしである) 肩で顎を隠すように(下から誰かを見上げるような格好になる) 両の拳を口元に当て、頬を赤らめながらバチリと・・・
突然、世界は暗転した。光はねじ曲がり、時間さえも狂った。空気は腐り、狂気を遙かに越えた何かが辺りを支配した。
机や椅子はもちろんガラスも吹き飛び、窓の外にたかっていたトリや虫達を吹き飛ばした。
教室の外にまでいた生徒達は、皆一様にいきなり顔面をバットで殴られたかのようにのけ反り(その途中で既に意識を失っていた)まき起こった爆風に木の葉のように舞っては教室の壁や天井に叩きつけられた。
廊下にいて、その元凶を見なかった者でさえ、体に電流が走ったように震え、やはり爆風に吹き飛んだのであった。
そして歪んだ時が動き出した。
「・・・あれ?何してたんだろう」
一瞬なのか、永遠に近い時間の後なのか、クラスメート達は皆一様に目を覚まし、教室内の惨状に目を丸くした。
レイを中心に放射状に、まるで何かが爆発したように机が倒れ、椅子が倒れ、自分達が倒れていたのだ。
「うーいてて(;;)」
彼らは何があったのか覚えていないのだ、さっきの人類史上最も安価で最も危険性のある兵器を。空間さえ歪めるその威力を。
それは彼らの脳の自己防衛手段により記憶から削除・・・どころではなかったのだ。あの事象が起きたとき、見ていたものは皆即座に発狂した。そしてあまりのすごさにさらに正気に戻ってしまったのだ。それが何度も繰り返されているうちに脳自体が、その光景を削除したのだ。 もはやどんな自白剤でも催眠療法でも引き出すことができない永遠の闇の中へ・・・・
さて、ようやく起きあがった生徒達が痛みからだをさすりながら、さんざんな教室をを見渡せば、針の歪んだ時計は昼休みが後15分で終了であることを告げていた。
あの爆発の後、それでも平然と弁当を食べたリクとレイ、加奈子は置いておいて、山南他生徒達は慌てて、何故か無事な弁当をかき込み始めた。
「うわぁ、何でこんな!いや、そんなことを考えているヒマがあるなら食わねば!」
「るっせ!黙って食え!!」
とヤジの飛ばし合いになっていた。しかし、みんな本当に早い。 5分で食べ終わってしまった。しかし食べるのが遅い山南は結局昼休み終了までには終わらず、空腹に耐えかね授業中もそもそ食っていて教師にチョーク投げを三発くらい、出席簿の金具で叩かれたのだった。
「おら!ってめぇはウシか?反芻しながらくってんのか?あぁ〜ん!?」
といびられて泣き、山南を泣かせた教師の態度に怒って抗議したリクに嬉し泣きをして、メソメソ泣きながらようやく食べ終わった(多感な少女時代である。こうして人は成長するのだ)山南は、 怒りの矛先をなぜか・・・いや、やはりレイに向けた。
山南は意を決して隣に座るレイの顔を見た。 (その後即座に目を逸らしたのは山南が初なせいではなく、 レイの顔を見ることで脳は忘れても、身体の細胞が覚えていたのか、 言い様のない恐怖を感じたためだ。あるいはただ気持ち悪かっただけかも知れない)
「・・・ねぇ?・・・」
「ん?なぁに?」
「(ウップ)・・・なんか、昼休みって短くない?・・・」
ビクッ。
聞いてはならない質問に、リクと加奈子はもちろん、 記憶が失われたはずの・・・いや、聞こえないはずの他の生徒や教師までもが凍り付く。教室内は政府軍と反政府ゲリラの平和調停現場並の緊迫感。いや、ゴキブリと目があってゆっくりと殺虫剤に手を伸ばしている程の緊張感といった方が解りやすいだろう。包まれていた。
「・・・う〜ん、みんな遊んでるからじゃないかな?」
キョトントなるレイ。どうやら、いや、やはりわかっていないらしい。 すぐに、答えを求めるかのように、加奈子のほうを見た。
「どうして、加奈ちゃん?」
「あー・・・それはねぇ・・・」
チラリとリクを見てみる。
なんとなく、ビビっている。これは、下手な答え方をすると、 レイが暴走しかねないかもしれない。万が一にもあったら。いや、レイが泣いたら・・・。と想像豊かなリクは怯えているのだ。
さすがの加奈子も冷や汗ダラダラである。
「あのね、ほら、楽しいときは時間がすぐに過ぎるって言うじゃない。だからよ!」
半ば強引に、そう決着を付けようとする加奈子。が、山南がそこで、大きな声を上げる。
「・・・あ、わかっ」
その声に、ビクリと震える加奈子。すぐに山南の口を塞ぐ為にコンパスを投げた。コンパスは見事に山南の眉間にヒット。山南は一瞬ビクンと震え、ゆっくりと机に突っ伏した。(そのせいでさらに深くコンパスが刺さったが、レイの被害に比べれば人命など軽いものである)
「あはは!山南大丈夫!?」
シーン。
レイは笑いながら突っ伏した山南の肩をばんばん叩いた。(そのせいでさらに深く刺さったが、山南は叩かれる度に、深くはいる度にビクンビクンと震えるだけであった) レイは山南が大丈夫だと思っているのだ。なぜなら自分は大丈夫だからだ。コンパスが刺さっても。だから他人もそうだと考えてしまう。この化け物め・・・
が、もちろん山南は反応しない。いや、できない。
「山南、寝ちゃった・・・」
「アンタの手で永遠にね・・・」
とその教室全ての人間が言いたかったが、そんな勇気のある者はいなかった。、無謀な者もいなかった。
と、そこで、レイ、ハタと黙ってしまう。どうしたのかと、一同、 レイを見守る。すぐに目を逸らしたが・・・
「血・・・」
山南の机に拡がる血。大量の血。ちょっとドロドロとした固形物が混じっているが・・・それを見ながら、 フルッと、レイの肩が震えた。
「血だぁぁぁぁ!!!!!!」
肩を振るわせたのを前触れに、レイは目を見開き、吼えた。そしてブチブチと、 レイの中の何かが音を立てて切れた。
「な、レイ!?」
加奈子がしまったという顔でレイを見る。山南も、不穏な空気に死の淵から生還したのか顔を上げる。(肩に黒衣の白骨の手が置かれているが・・・) が、次の瞬間には、生命の危機を感じて、背筋をゾッとさせねばならなくなっていた。
「・・・レイ?、どうしたの?・・・・」
「山南、逃げた方が良いぞ!」
立ちあがったレイを警戒して目が座っている加奈子と、完全戦闘モードのリク。 二人とも、ほぼ同時に席を立ち、レイから距離をとる。
二人の様子に、ようやく逃げだそうとする山南。
「・・・・何?・・・」
「速く逃げなさい、死ぬわよ!!」
「そういう事だ、山南」
どっから持ち出してきたのか、トンファーが両手にある加奈子。 はっきりいって、戦闘状態だ。
しかし、さらに恐いのがリク。制服の上着を縫いで、 山南が喜びそうなシチュエーションなのだが、いかせん、雰囲気が恐すぎて、 さすがの山南もボケられない。
「血だぁぁぁ!!血だぁぁぁ!!」
さらに吼えているレイ。気付かなかったが今まさに、 山南は人生最大のピンチを向かえていた。
「・・・・逃げなきゃ・・・・」
「「もう、遅い(ハート登場)」」
そろそろ昼休みも終わると、教室に戻りかけていた一般生徒達。だが、 その瞬間に響いたレイの怒声と山南の悲鳴、ダンプが突っ込んできたような破壊音、一般生徒達の悲鳴 に皆、一様にその場で凍り付いたのであった。
「いてぇぇぇよぉぉぉ!!!」
2.レイの家庭環境
「アタシの家はお姉ちゃんやら妹やらがいるし、 リクちゃんの家にはマコトちゃんがいるでしょう?(ってゆうか、家に入れると汚染されそうだし・・・)」
「・・・マコト、リク様の妹、レイは近づけられない・・・」
「えぇ!?なんでぇ?」
リクの妹・マコトは一般人である。一応リクの部活仲間としてレイのことを知ってはいるようだが、 レイの行動(攻撃とも言う)に、耐えられるとは思えない。
「そうだね、どこにしようか?」
「・・・だったら、私の家に来て(リク様だけ)・・・」
リクへの愛おしさについつい言ってしまったが、加奈子に可哀想な目で見られていることに気付いていなかった。 もっとも、 レイがいなければ、加奈子のほうが、 リクを家に誘っているはずだが・・・・
ともあれ、山南の言葉でリクは、レイの恐ろしさ(おぞましさとも言う)苦笑するしかなかった。
「マコトには、あんな目に遭わせたくないな」
「・・・どうして私を見るの?・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「お前みたいな目に遭いたくないからだよ」
とは口が裂けても言わないリクと加奈子だった。もちろん山南は額には鉢金、全身包帯姿で (何故か)着流しを着ていた。顔まで覆った包帯から僅かに覗く肌には 元からその色だったと信じて疑わないほど黒かった。内出血によって。
暴走したレイの恐ろしさに、リクと加奈子は少し青ざめている。
「・・・生きてるか?」
「あ、あはは!。リクたら、何言ってるのよ!!」
自分は、身を守るので精一杯で山南を守れなかった(助けにいく気になれなかった)加奈子は慌てている。 ちなみに、 加奈子の持っていたトンファーは砕け、(折れたのではなく、砕けたのである) リクの服は少し裂けている。
「・・・なんでレイの家じゃなの?・・・」
刃物で切られたように裂けている箇所から、肌が覗いていて、見えている箇所はわずかなのだが、変な興奮を覚えて赤くなってリクを みつめる山南。
「だって、あの家に私いきたくない」
「・・・なんで?・・・」
「あの家に、獣いるじゃない」
「・・・獣・・・」
何故か怯えた目になる山南。加奈子はぶすっとしている。
今だ、レイの家に入ったことのないリクは、訳が判らず首を傾げる。
「『獣』って?」
「リクは知らないんだっけ。つまりは、世紀の獣だよ。喧嘩好き。 しかも、やつの歩いた後には、草木の一本も残らないってやつ」
「・・・このレイの兄・・・」
そう言ってレイを前面に出す加奈子。
「この純情可憐(ウゲゲ!!精神汚染・衝撃破壊兵器の方が合うわね)なレイの兄上は、 まるで対局の獣なのよ。 二人足したら・・・・・・・・(史上最強・最悪の汎用人型決戦兵器)ってくらいね」
何か恨みでもあるのか、加奈子の言葉はやたらトゲトゲしている。
「でも、シン君、優しいよ?」
「レイプしないところが、唯一の救いね」
ウンウンと頷く加奈子と山南。
この二人がここまで言う存在に、何となく怯えてしまうリクだった。
3.その日の放課後
パクパクと、ずっと自習になっている家庭科実習(レイの料理で生徒達が暴走したせい) の時間に作った『クッキー』を食べているリク。
「クッキー上手くできたな・・・・うん、マコトに食べさせたいな」
マコトを思い出し、ちょっと赤くなるリク。この時廊下ですれ違った女子生徒が全員失神し、男子生徒が前屈みになって邪な考えにふけったことを記しておこう。
この時リクは空手部の部活で思わず全員KOしてしまったので、 副部長である加奈子を探しているのである。
いつもなら、次の時間を引き継ぐはずなのに、今日に限って、加奈子、 何処にも見えないのである。
で、自主トレにしてリクは加奈子を探している訳だ。(ちなみにリクの練習はフリータイム制で、前後半一時間づつのうちどちらかにでればいいのである)
「加奈子ぉ?」
ガラリと、自分の教室の戸を開けて、加奈子の名前を呼ぶリク。 が、あいにく、ここにも加奈子はいなかった。
居たのは、同じように部活中であるはずのレイだった。
「・・・レイ?」
教室の窓際の机にチョコンと座っているレイ。ボーっと、天井など眺めている。ぼけているのはレイらしく不気味なのだが、 何か様子がおかしい。リクが名前を呼んでも、無反応である。
「レイ!?」
後頭部を思いっ切り蹴ってみる。 そこでやっと、レイカが気が付いた。ハッとした様子で、リクを見る。
「リクちゃん!?」
「ど、どうしたんだよ、レイ?(全力なのに・・・化け物め)」
すでに制服に着替えているリク。その胸の部分は裂けている。 いつもならば、そのリクの制服にレイが「縫って上げる」なんて言うのだが が、今日はレイ、ヤケにおとなしい。薄く笑って、下を向いてしまう。
元気のないレイの姿。世紀末である。
バリバリに優しいリクは当然、 イヤイヤながら構ってしまう。
「レ・・・レイ?」
リクが、レイの表情を覗き込む。が、リクがおぞましさに目を逸らすよりも速くレイはそっぽを向いてしまう。 その態度に、ショックを受けるリク。
こんな態度をとられたのは、ずぶぬれの生徒に声をかけたとき以来だ。
しかも、レイ、リクのそう言う反応に、当然気が付いていない。 ただ、しばらくして、やっと口をきいてくれた。
「ねぇ、リクちゃん」
「な、なんだよ、レイ!?」
「レイ、お料理へたっぴだよねぇ・・・」
よく見れば、レイの手元には、今日自習で使った三角巾が握られている。 これを仕舞うところで、今日の実習の結果を思い出したというところだろうか。
もちろん暴走だが、今回は匂いがあまりのも良すぎてリクや加奈子はおろか、他の生徒、果ては周辺住民までもが酔いしれ、悦楽の表情でへたり込んでしまったのである。
だが、レイは自分の料理の腕が下手だと思いこんでしまったようだ。
「これじゃ、レイ、なれないよね・・・・」
「何に?」
「こんなんじゃ、レイ、お嫁さんに、なれないよねぇ・・・」
ポツリと、漏れた言葉。
意識したものではないだろう。
が、重大な言葉である。
いや、強力な兵器である。
「・・・・・・・・・」
あまりのショックでリクの魂さえ侵入を受け、凍結状態になってしまった。
「元からなれねぇよ!!」
という突っ込みさえできない、リクでもさすがに、動けなかった。
が、リクがそうやって固まって居るのをどうとったのであろうか、 レイの目が、ウルウルとうるみだした。泣く前兆である。
それにも当然、無反応のリク。呼吸さえ忘れて徐々に苦しくなっているのだが、まだ精神が立ち直れないのだ。
「・・リクちゃん、レイ悲しい!」
「・・・・・・」
泣くのをやめ、リクの顔をマジマジと見つめるレイ。
ただ、ジーっじと、リクを見つめている。
「リクちゃん?」
何か、様子がおかしいことに気づきはじめている。が、何故凍っているかその理由が判らない。 で、その意味を考えるレイ。
その間、停止が1分間。さすがにリクも少し赤くなっている。
で、さらに停止1分。
そこでやっと、リクが大きく息をついた。どうやら体の方が危機を感じ、精神と切り離したようだ。
「リ・・・クちゃん」
「・・・・・・・・・」
まだ喋れないのだが、リクの大きな息継ぎと荒い息をどう受け取ったのか、赤くなりながら、横目でリクを見つめるレイ。こういう場合は、もろに『キス』のチャンスである。
もちろんレイにとってである。リクにはそんな気も、考えることもできない。 当然、レイは目を閉じた。その唇がゆっくりリクの美貌へと近づいている。 それはあまりのも酷い行為。美に対する陵辱に思えた。
『グワシャーン!!!!』
と、神からの救いの手が入った。
思わず、音がしたほうを見るレイ。そこには、 掃除用具から転げ出た加奈子と山南(失神)がいた。二人とも、床にベチャリと転がっている。
「加奈ちゃん!?山南!?・・・見てたの・・・恥ずかしい!!」
その場にいた失神中の三人はさらに深いダメージを負うと共に教室は光が歪み、時間は狂い、爆発がまき起こった。
「あらぁ、リク?」
「何をしてたんだ、加奈子?」
「何って、ほら、・・・・・・あれ?思い出せ・・・ちょっと!!、隣のクラスと繋がってるわよ!!」
そう言って、教室を見るとそこには、爆破されたらしく、 大きな穴が開いていた。クラスの間の壁が、粉々に吹き飛んでいた。
「おい、おい・・・・まさか」
さすがの悲惨な状況に呆れるリク。
その足元では、山南がまた死線を彷徨っていた。そりゃぁ、もう、 血堪りが出来るほどに。
んでレイ、その血を見てしまう。
半分以上の建物が崩壊した学校が少し速い休みに入ったのは、ベストではなくてもベターな選択だと言えよう。
4 後書きでござるよ、薫殿(オロ〜〜)
出演者(?):獣(超鬼バージョン)
悲劇の主人公であってなかなか出演しないケイ
獣『うけっ!GUESS第X話完成。よくよみやがれぇか〜!!』
ケイ『なんか・・・脳わいてるよな、お前』
獣『・・・ケイ?確かに殺したはずなんだが・・・』
ケイ『ふっ!作品の中で死なない限り不死身なのだよ、主人公とは』
ニヤッと笑って鼻で笑い、髪を指で上げるケイ。 そこには前の話で確かに獣のヒザがめり込んだはずなのに、傷一つなかった。
舌打ちして、すっと腰を落とす獣。 だがケイはひらひらと手を振って戦う意思がないことを伝える。
ケイ『止めようぜ、死なない相手をどう倒すんだ?』
獣『そっちはオレを殺せるだろう?邪魔者は排除する。なに、死ななくても邪魔できぬようにすればよい』
ケイ『・・・・・おい、目が危ないぞ、それに死なないとは言え死の体験はするんだ。あんな思いは二度としたくない』
獣『・・・・ふん、まぁ一時休戦と行くか』
ケイ『そうだな』
獣『ところで何の用だ?』
ケイ『主人公のはずなのに、影も形もなかったからな。直訴ってヤツだ』
獣『ぎくぅ!!』
ケイ『・・・出す気あるのか?』
獣『そりゃあるさ』
ケイ『じゃ、なんでこんなに出番がない?』
獣『そ、それは・・・』
ケイ『それは?』
詰めよるケイに、俯いていたかと思うとすっと頭を上げ、ニヤニヤ笑う獣。
獣『それは・・・お前がまだ・・・・』
獣、やおら懐から一本鞭をとり出し、 それを床に叩き付ける!!
鞭『ピシィ!!』
鞭の先端が床をうち、耳にするのも痛いような音がする。
ハッと構えるケイ
ケイ『ちぃぃぃ!!やはり見せかけの平和か!!』
なんか番組が違うぞ、ケイ・・・
獣『お前がまだ人である限り、活躍はあり得ない!!!』
ケイ『えぇい、ワケがわかんねぇぞこのキチ○イ!!』
獣『・・・私の業を継ぐには、お前はまだ優しすぎる・・・・』
ケイ『な!?』
獣『憎悪だ、身を焦がし全てを越える怒りが無くては・・・』
鞭を振るう獣。ケイはガードを固めるが足首に巻き付けられ、転倒する。
当然、鞭の乱打だ。
獣『だぁはははははは!!!』
ケイ『お前は悪魔かぁ!!』
打たれながらも転がって逃げるケイ。だが獣は追いつめ、容赦なくむちを振るう。
ネコ『あぁ、何故煙の中で場所が判るぅ!?』
ケイ『あんだけ大声でどなっとれば、わかるわぁ!!』
ネコ『しまったぁ!!』
すっかり動かなくなったケイ。体を打つ鞭の痛みを忘れるほどの怒りがケイの瞳を変えていく。
正気から狂気へ、恐怖から殺意へ。
・・・そして人から獣へ。
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本小説と作者の人柄は全く無縁です。できたら感想頂戴ね
みゃあの感想らしきもの