マヤの休日・偽典
−ますらおぶりコウジ−

 

作・Koujiさま

 


WRITTEN BY kouji

 

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「・・・約束だから、好きにしていいって」

 

 男性なら一度でいいから・・・いや、何度も言われたいセリフを オレの目の前の少女が目を伏せながら言った。

 

「・・・・はぁ!?」

 

 間の抜けた声が口から出てくる。

 男なら泣いて喜ぶようなことも、今この状況で言われては困惑以外の何者でもなかった。 なぜなら目の前にいる少女は以前オレがぶち倒した相手で、その時の

 

「勝ったら・・・」

 

 という賞品みたいな約束を守りに来たのだ。なんて律儀な・・・・というかある意味アホだな。

 

 オレは少女の言葉に驚きながらも警戒した。

 また少女が不意をついて襲いかかってくるのでは・・・と思ったからだが、 それは決して事実無根の言いがかりではない。

 オレは以前目の前の少女と戦ったとき、容赦なく金的と目つぶしを狙われた。 どこであんな技を覚えたのか・・・いや、よく精神状態をそこまでもっていけた物だ。

 

「汚い技ほど実戦的で強力だ」

 

 と、オレの師匠が言ったが、だからといっておいそれとできるような攻撃ではない。

 暗黙の了解という奴だが、急所攻撃はダメージが酷すぎるし、そんなことをすれば逆に自分がされても文句は言えなくなる。 だから、お互い不文律として手を出さないのが普通だ・・・

 

 オレは素早く左右に目を配る。今は完全に街の中。ここで戦えば始まりがどんな物であれ、俺は問答無用で悪者として捕まることだろう。

っていうか、すでに周囲の人達から訝しげな視線を受けている。

 

「・・・・・・・・」

 

 俺は何も言わず一歩下がった。走るのにはあまり自信がないが、 間合いははずしてあるから人目のないところにまでは逃げられるかも・・・・

 

「だから・・・その・・・」

 

 俺を見上げたその目は真剣で、少女は本気だった。と思う。何せオレは見ていないから・・・。 つまり、俺はさっさと背中を向けてその場を離れたのだ。

 

 

 

 

 

「ハヒー・・・・ハフゥー・・・ハヘェー」

 

 オレは荒い息をつきながら裏道の奥にある、市営の駐輪場に来ていた。

 かなり大きな駐輪場で、収容車数500近い駐輪場だ。 駅の近くにあるため通勤通学にかなりの数の人間が利用している。朝には全て埋まってしまう程に。

 オレも大学に行くためにここに止める。

 

 ただし、オレが今いる駐輪場の一番奥にあるスペースには滅多に人が来ない。 なぜなら、ここはメインの駐輪場と違って小石が敷き詰められていて、 なおかつ四方を高い壁に囲まれているため、明らかに犯罪が起きそうな立地条件になっているのだ。

 

(ハァハァハァ・・・・まさか、ああ来るとは思わなかったワイ)

 

 立ち止まって息を整えているとさっきのシチュエーションがよみがえってくる。

帽子の下から覗く顔は可愛いし、おそらく体も・・・ちょっと太めかな? 少し見ない間に体が一回り・・・いや、最近の子供は発育が・・・・

 

(くっとけば良かったかなぁ〜・・・・はっ!何を考えているんだオレは!!オレにはマヤという・・・)

 

 浅ましい自分の考えにオレは頭を殴られたようなショックを受けた。オレには最愛の妹がいるのに、一時の欲望に流されるなんて!! ああ!我ながら恥ずかしい!!・・っていうか、マジで頭が痛いぞ?

 

 オレは後頭部に手を回して痛む箇所をさすってみた。膨らんでいる。その時、もう一度首筋に衝撃が走った。

 

(殴られている!?)

 

 オレは地面に倒れ込む振りをして、飛び込み前転で距離をとると背後を振り向いた。

 そこには先ほどの少女が立っていた。右手には40CMほどの黒い棒が握られている。

 

「な、ななんだぁ!?」

 

 オレは驚きのあまりドモってしまったが、少女も驚いているようだった。おそらくは攻撃しても平気なオレに。

 いや、本当はかなりきいている。視界がぐらぐら揺れ、頭が異様に重く感じられた。

 

「まだ立っていられるの・・・」

 

 少女がぼそりと呟き、握っている黒い棒を再び構えた。少ししなったところからするとその黒い棒はブラックジャック(棒形の革袋に砂を詰め込んだ武器)か。

 しかし後ろから殴りかかるとは・・・・バカな奴。俺を怒らせるとはね。

 

 オレは視界が狭まっていくのを実感していた。まるで世界が閉じていくように目の前の少女以外が目に入らなくなる。

 それは背後から武器で攻撃してきた少女に対する怒りであり、 接近に気付かずまんまと攻撃を受けた自分に対する憤りであった。

 

 精神が肉体に影響を及ぼすように、オレの表情にも俺の怒りがでてきたのだろう、少女が怯えたように少し下がり、ブラックジャックを肩に担ぐ。

 

「・・・・・・」

 

 少女の動きにオレは睨んだまま無言で間合いを詰めていく。

 

ビュッ!

 

 少女が一歩詰めてブラックジャックを振るってくる。っと思いきや、 ブラックジャックがいきなり飛んできた。オレは腕で顔だけ庇ってそのまま詰める。

 

ドン!

 

 胸に鈍い衝撃。少女が投げたブラックジャックが胸に当たった。 だが、すでに戦闘状態に入り大量にアドレナリンのでたオレには痛みは感じない。

 ただぶつかったのが解っただけだ。

 

「いぇりゃぁぁぁ!!!」

 

 少女が意を決して間合いを詰めてくる。

 

 急激な視野狭窄は逆を言えば集中力の向上を意味する。

 アドレナリンは身体の能力の向上と、恐怖や痛みを消してくれる。 異様な興奮状態になって思考力が落ちるのもあるけど、これは訓練次第でどうにでもなる。 つまり慣れだ。

 

(はははぁ!)

 

 ちなみにオレにはできないが。

 

 オレの中では恐怖はもう無い。あるのは異様な興奮と強烈な殺意だけだ。

 

(ぶっ殺してやる!!)

 

 少女の肩が動くと同時にオレの体は左足を前に半身になっていた。

 少女の右のパンチから顔を避けるために後ろに体を倒しつつ、踏み込んできた少女の左足のヒザにサイドキックを出す。

 

膝関節蹴り。

 

 ほとんどの格闘技で禁止されている危険な蹴り方だ。本気で蹴ればあっさりと膝が折れる。 俺の通う道場では真っ先に習う蹴り方で、これ一つで全ての打撃に対応できる。来たら体を横にして頭を相手から遠ざけつつ、相手の膝を蹴るだけだ。

 オレの踵によって、少女の逆に足が突っ張る。本気でやればヒザを蹴りおる事も可能だが、オレの狙いは違う。 そこで足をズリおろし、少女の左足の甲を踏みつける。

 

「うあぁ!?」

 

 蹴り折られる恐怖からか、少女が声を出す。

 そしてオレはその足を踏みつけたまま少女の頭を左腕で抱え、少女の左腕の肘当たりの服を右手で掴む。そして体を反転させて、首投げ。

 

ズシャ!!

 

 頭を臍の位置くらいまで下げて自分の腰の上に少女の体を載せ、地面に投げつける。 実戦で一番使いやすい投げ(実際オレは背中を向ける投げよりはタックル方が良いと思う。だが、相手との身長差がありすぎるのでこの時は首投げにした) だが、本当の首投げは反転した自分を横に倒すように相手を投げるのだ。

 

 急激に少女を倒したため、足下の小石がなり、少女が背中、右肩から地面に叩きつけられる。 が、少女の体が地面に落ちた時点ですでにオレは倒れた少女の体に馬乗りになっていた。

 

 これが柔術。一つの技は次の技への繋がりでもあり、フェイントでもある。重要なのは自分のポジションだ。絶対に安全なところから攻撃する。

 そのポジション取りの中で最強なのが馬乗りだ。

 

 はっきり言おう。オレの勝ちだ。オレの道場では馬乗り状態になったら100パーセント負けである。なぜなら・・・・

 

「あれ?」

 

 オレの内股に何か妙な感触がする。何か厚い物がオレの両足と少女の体の間に挟まっているのだ。 オレはちょっと腰をうかして、少女の服を引っ張り上げてみた。

 

「きゃ!何すんのよ!!」

 

「・・・・・・はははははは!!!」

 

 少女のシャツの下にあったのは、野球で使うキャッチャー用のプロテクターだった。

 

 オレは思わず大笑いしてしまった。アドレナリンの異様な興奮のせいで、バカみたいに笑ってしまう。 こんなプロテクターを着けていたせいでさっきはちょっと太めなんて考えてしまったが、 この少女は俺が関節技を使うことを考えていたのだろうか?打撃対策で着けたプロテクターの性で自分の敏捷性を犠牲にしてしまった事に気付いているのか?。

 

「ちぃぃぃぃ!!」

 

 少女は体を左右にねじって逃げようとするが、少女腕を取って仰向けに戻し、再び腰を下ろす。

 と、その時少女の手がするすると伸びて、オレの股間へ向かってくる。握りつぶす気か?バカが!? その手が股間に届く前に上から手を乗せて体重をかけて封じる。

 

ガツッ!

 

 そしてもう片方のオレの拳が少女の顔に打ち込まれた。

 

「ぐっ!」

 

 慌ててすぐに少女は両手で頭をかばう。だが無駄な努力だし、大きな過ちだ。

 

 オレはガードの上から殴り続け、ふと隙を見て頭を庇っている少女の左手に、 馬乗りになったまま自分の左手を添えて、体重をかけて一気に地面に押しつけた。

 

 その時には少女の顔の左横には地面に押しつけた自分の左腕の肘が置かれて彼女の顔の動きをある程度封じている。 実はこの肘が重要なのだ。この肘がないと、オレが今かけている関節技はブリッジ一つで返されてしまう。

 

 だがしかし、肘はすでに入っている。

 

 後は少女が残った手で俺の目を狙ってくる前に、少女の左肩を外してしまうことだ。 少女の地面に押しつけられた左腕は左肘を下にVの字に曲がり、左手は肩のラインにまで下げられていた。

 

 その肘の下にオレの右手が入る。

 

 そしてオレは右手で、自分の左腕の真ん中を掴む。ちょうどTの字ように。 右足をたててから少女の左肘の下にある腕をてこの原理で持ち上げれば、決まるのは左肩。 ここまでに一秒もかかっていない。

 

「あああ!!」

 

 少女が苦痛の叫びを上げた。オレの右腕で肘を持ち上げられ、肩の関節が悲鳴を上げているのだ。

 

 悲鳴を上げる少女の右手がオレの顔に向かう。 その指で俺の目を抉るのか?甘いんだよ!!!

 

 技の名はV1アームロック。相手の腕の形がV字に、下に回したオレの手が1を表している。

 

 少女の左肘を一気に持ち上げる。

 

めち

 

とも、

 

ごり

 

 ともつかない音を立てて少女の肩が外された。全治一ヶ月ってところか。

 

「ぎゃぁああああ!!」

 

「・・・はははは!!」

 

 さっさと手を離してオレは馬乗りの体勢を直すと、少女を見下ろした。

 オレの股の下に挟まれた少女はうめき声を上げながら泣いていた。

 

 関節が外れるというのはどういう痛みなのか? 関節が動かないところからさらに動かされたとき、関節として成り立つ骨がすぐ側を通る神経を歪ませ、擦り上げる。 それが激痛をもたらすのだ。その痛みたるや・・・・が、すぐに少女は右手でオレの目を突いてくる。

 

 バカめ!!オレの持っている技術において、下になった相手の行動は全て防がれ、全て反撃に出れるようになっているのだ。

 

 オレの顔めがけて伸びてきた少女の腕を両手で胸に抱き留めると、 右足を立てて軸にして少女の体の上でぐるりと回転した。

 馬乗りの状態では少女の体をまたいでいた正座状の左足は今度は少女の顔をまたぎ、 オレは後ろに倒れ込む。

 

 つまりオレの体はちょうど少女の体にたいして十字の形になって寝ていて、 オレの左足は少女の顔の上に、右足は少女の胸の上に置かれ、オレの股間から胸近くまで伸ばされた少女の腕は腕の内側を上にぴぃんと伸びていた。

 

技の名は腕ひしぎ十字。

 

 ここで腰を持ち上げると、少女の右肘の関節は逆に押し上げられるわけだ。 そして少女の肘を折るべく、オレは腰を持ち上げようとした。

 

「コウジさん?・・・それに・・・・アスカぁ!!!!?」

 

 聞き覚えのある少年の声がオレを現実へと連れ戻した。その声のした方を向けば・・・シンジが立っていた。

 オレの行く道場に同じく通っている少年だ。もちろんオレがやっているのと、シンジがやっているのは全く違うのだが ヒマを持て余したときに何度か小技を教えてやったことがある。

 

 道場に入ったばかりの時は気弱そうだったシンジもいまでは自分の強さに自信を持っている。 オレから見ても、まぁそこそこの強さになっているのだが、シンジは困惑と怒りに燃えてオレを睨んでいた。

 

「おう?シンジじゃないか・・・何だよその目は?」

 

 オレは自分でも抑えきれないほどニヤニヤと笑っていた。気分が滅茶苦茶ハイになっているんだ。 そのオレに対し、シンジの瞳はますます鋭くなっていく。

 

「・・・・何があったか知りませんが、アスカを・・・彼女を離して下さい」

 

「・・・イヤだね」

 

 オレは笑って腰を浮かし上げ・・・られなかった。シンジが走り寄ってオレを蹴りにきたのだ。

 オレは少女の体から外した足でそのままシンジの足を払う。シンジは一瞬バックステップして再び詰め寄る。 こう言うときは下手に立ちあがらず、後ろ手に体を支えながら常に脚の方を相手に向けたまま離れていくのが良い。

 立ちあがろうとすれば顔を蹴られるが、そのままでいれば相手の攻撃はある程度読めるし、もし足を蹴られてもたいしたダメージにはならないからだ。

 シンジはオレをじわじわと追ってアスカという名の少女から離させるとその間に入った。

 

「・・・ふふん、お前の知り合いか?」

 

 オレはシンジの動きを警戒しながら立ちあがる。もちろんオレの戦闘意欲は継続したままだ。 シンジがオレを蹴りに来た時点でオレはシンジも敵だ。

 

「アスカ!アスカ!!」

 

 シンジはオレから目を離さずに、自分の背後でぐったりとしている少女に呼びかけていた。

 

「シンジ・・」

 

バッ!

 

 オレの足が足下の砂利を信じめがけて蹴り上げた。シンジは予期していたように腰を落として顔を庇う。 そこで、足を振り上げてつま先でシンジの顔面を蹴りに行く。

 

 シンジは背後にアスカが居るためにバックステップしてかわすことができない。できるのは受け止めるか、体を反らせて外すかだ。

 

ゴッ

 

 オレの足はシンジの肘によって打ち落とされた。ちっ!シンジは間合いを詰めると左フック・・・

 

ガツッ

 

 左フックはフェイントで本命は右ストレートだったか。オレは左フックを受けるつもりで右腕で顔をガードしたのだが本命は受けてしまった。 頬に衝撃が走り、一瞬視界が暗くなる。勝手に目を閉じてしまったらしい。頬には熱い塊が生まれたみたいだ。痛みはなく、ただ熱があるだけ。

 

・・・くそ!オレが教えたフェイントでやられるとは・・・

 

 オレはざっと後ろに飛び下がりながら、ベーシックをとる。ここで言うベーシックとは左半身になって脚を大きめに開き腰を落とすこと。 手は左手を相手の鳩尾の少し上に、右手は自分の鳩尾の部分に残す。これが立ち技での基本体勢なのだ。

 

 柔術において立ち技での基本の姿勢であり、また、本気になった合図でもあるのだ。

 

 その意味が伝わったのか、シンジがすり足で一歩前にでると、ミドルキック。実は、蹴りにおいて膝関節蹴り、前蹴りの次に有効な蹴りなのだ。 機動はバカ正直に脇腹を狙ってくる。基本通りと言うことは最も威力はあるが、逆に読まれやすい技だと言うことだ。

 

 だが、シンジがオレにそんな基本の技を出すとは思えない。

 ほら!シンジの蹴り足は中段で一度止まって、そのままハイキックになる。二段蹴りって奴か。

 

 オレは片腕で受け止めた。二段蹴りは意表を突いて決まることが多いが、実際威力は格段に落ちる。よほど良い角度で入らないと一撃で相手を倒すことはできない。 そしてオレはシンジの軸足を蹴る。刈るという蹴り方があるが、そんな甘っちょろう蹴り方はしない。折れるように膝を狙う。

 

 だが、シンジは飛ぶと、軸足で蹴ってきた。軸足を蹴りに行った体勢ではかわせない。急いで顔を腕で庇い、内股を閉める。これで、顔面と金的のガードはできた。

 

ドン!

 

 腹にシンジのつま先がめり込む。的確に鳩尾を捉えた強烈な一撃。

 おそらく最初からこの一撃を狙っていたのだろう。全力を込めた一撃はオレから明らかに力をはぎ取っていく。吐き気がこみ上げてくる。

 

 そしてシンジがハイキックの足をおろして、着地した。

 

 のがさねぇ!!

 

 オレはほぼ倒れ込みながら、着地したシンジの脚にタックルをする。これは上手くシンジの足を取れた。引き込むようにシンジの足を引き、シンジを倒すと同時に金的に拳を打ち込む。

 

「ぐぇ!!」

 

 そしてオレは仰向けのシンジの上を、跳び箱のように飛んで地面に手をつく。もちろん足は閉めたまま。

 腕を突っ張り、体の移動を止める。シンジの頭はちょうどオレの腰の辺りだ。

 

 そしてオレの膝は金的を打たれ、激痛に悶えるシンジの顔面に落ちた。

 シンジの体がはねるようにビクンと震え、そして動かなくなった。

 

・・・オレはこみ上げる吐き気を無理矢理飲み込んで、さっさとその場を後にする。少し足を引きづりながら。

 

「シ・・シンジィ・・・」

 

 アスカは地面に仰向けになりながら、戦うシンジ達を見ていた。そしてその最後の技も。コウジの体格で顔面に膝を入れられたら、地面と挟まれてやられたら・・・・死ぬ。

 

(いやだ!死んじゃイヤ!シンジ!シンジ!!シンジ!!)

 

 アスカはコウジが去った後、外された肩の強烈な痛みにも構わず倒れたままのシンジに向かって走った。

 

「い・・・いやぁ!!シンジ!シンジ!!死なないでぇ!!」

 

 視界が揺れる。涙だ。アスカは走りながら泣き出していた。本の数メートルがあまりにも遠く感じる。そしてアスカはシンジの側にへたり込んだ。

 

 そこに信じられない物を見たからだ。

 

 笑っているシンジを。

 

「アスカ・・・肩は平気?」

 

 そういって、アスカに笑いかけるシンジの顔の横の地面が、ごっそりとえぐれている。

 

「シンジ!シンジィ!」

 

 アスカはそのままシンジに抱きついた。安堵感と痛みで意識を失ったアスカをシンジは優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 後日、シンジから聞いたところによると、

 アスカというシンジの幼なじみの少女は、シンジが自分より強くなって最近ぎくしゃくしていた関係を戻すためにオレに喧嘩をふっかけてきたのだという。

 

 恐るべし女の情念ってか。

 

 苦笑するしかないオレはその後シンジにお礼を言われてしまった。

 一つはアスカと仲直りして幼なじみから恋人になれたこと。

 そしてもう一つは、あの時殺さないでくれたこと。

 

 そしてシンジは向こうの方で待っていたアスカという少女の元へ駆けていった。

 

 これじゃどっちが勝ったのかよくわかんねぇな。

 オレはそういいながら地面に打ち付けて痛む膝を撫でた。