一番短い、アスカからシンジへの手紙

〜case.くまっぷー〜

作・くまっぷーさま

 


 

 

 

 

 

 

拝啓・・・碇 シンジ 様

 

 

いきなりの手紙で驚いてらっしゃるかも知れませんが、もしよろしかったら読んでください。

 

 

この前のライヴ、観に行きました。

 

ギターを弾いてる時の(あの、「碇君」って書いていいですか?)碇君の姿、素敵でした。

 

碇君のバンドのライヴ、文化祭のからずっと行ってます。

 

あの・・・私・・・碇君のこと

 

 

 

 

 

 

「あっ、何するんだよ」

 

シンジは突然読んでいた手紙を取られて、それを取り上げた少女に抗議の声を上げる。

 

「なになに・・・・・・好きです・・・突然でごめんなさい・・・でも、好きなんです。

 

どうしようもないくらい・・・だぁ〜ってさっ」

 

少女はその続きを少し読むと、クシャっと丸めてしまった。

 

「アンタばかぁ?また読んでんの、こんなの。はぁ〜あ、モテる男はつらいわねぇ」

 

「べ、別にそんなんじゃないよっ。せっかく書いてくれたんだから、読んだっていいじゃないか。

 

自分だって、毎日たくさんもらってるくせに」

 

シンジの反撃に『フンッ』と鼻で笑うと、親指で首を掻き切るしぐさをする。

 

「はっ。そんなの全然眼中ナシよ。中身なんか読んだことないわよ。ぜ〜んぶ捨てちゃうもん」

 

そういうと、残りの手紙も捨ててしまおうとする。

 

「返してよ、アスカっ」

 

シンジはアスカから手紙を取り返すと、

 

「手紙には、その人の気持ちがいっぱい詰まってるんだ。そんなの捨てられないよ。それに何で僕が手

 

紙を・・・」

 

「ばっかじゃない!?」

 

少し諭すようにいうシンジの言葉を遮ると、アスカは自分の席に戻っていってしまった。

 

最近、シンジは毎日のようにラブレターをもらっていた。アスカは、それを毎日からかっているのだ。

 

シンジはその性格のためか、一通一通律義に読んでいる。

 

アスカが前に1度だけ手紙を捨ててしまったことがあったが、その後シンジはわざわざ探して読んだ

 

こともあるくらいだ。

 

「シンジ達も大変やのぉ。なぁ、いいんちょ」

 

「うん・・・そうだね。わたし、今日アスカと話してみようかな」

 

「すまんのぉ、いいんちょ。ワシもシンジと話してみるさかい」

 

「うん、二人とも大事な親友だもんね」

 

 

 

 

「ねえ、ヒカリ。手紙ってどんなものかなぁ」

 

シンジへの文句をひとしきり言い終わって、しばらく黙ってパフェを食べていたあたしは、食べる手を休

 

めて聞いた。

 

「う〜ん。そうね・・・やっぱり、相手に自分の気持ちを込めて書くものだと思うよ」

 

ヒカリはそういって、あんみつをまたひとくち口へ運ぶ。

 

あたし達は学校の帰り、近くのお店に来ていた。

 

「ふ〜ん、ヒカリもシンジと同じようなことを言うのね。でもさ、自分の気持ちは自分の言葉で伝えるべ

 

きだと、あたしは思うな」

 

「じゃ、アスカは自分の気持ち、碇君に言えた?」

 

「そ、それは・・・まだだけど・・・」

 

だって・・・そんなことあたしの口から言えないもん・・・

 

「アスカは素直じゃないから・・・碇君のことになるとね。でも、同じ『伝える』なら手紙だっておんな

 

じだと思うよ」

 

「でも・・・」

 

「アスカっ」

 

少し迫力のある声でヒカリはあたしを見つめた。

 

「あんまり意地張ってると、碇君とられちゃうよ?」

 

「・・・・・・」

 

「いやでしょ?」

 

「うん・・・」

 

「それでね、碇君には悪いんだけど、わたしに考えがあるのよ」

 

「・・・なに?」

 

「碇君って、全部手紙読んでるんでしょ?だから、アスカも手紙を書いて、その中に紛れ込ませるのよ。

 

そうすれば碇君は必ず読んでくれるし、アスカも自分の気持ちを伝えられる、ってわけ」

 

「・・・・・・」

 

「大丈夫だって。手紙って、自分の気持ちをうまく言葉で伝えられない人とか、わたしみたいに、言葉で

 

伝える勇気がない人とかの、味方だと思うよ」

 

でも・・・でも・・・

 

「アスカ、笑顔!ね?」

 

ヒカリはそういうと、ニコッと笑った。

 

「・・・うん。ありがと、ヒカリ」

 

微笑むのがやっとだったけど。いつのまにか、優しいあたしの好きな口調に戻ったヒカリの声は、あた

 

しの背中を少し、押してくれた気がした。

 

 

 

「さてと・・・」

 

夕ご飯もそこそこに、あたしは自分の部屋に戻ってきた。

 

机に座り、鞄からレターセットを取り出す。帰りにヒカリが選んでくれた、綺麗な空色に、ひまわりの花

 

がたくさん咲いている。そんな便箋。

 

「手紙は・・・味方か・・・」

 

いつもより少しおしゃべりだった、親友の言葉を思い出す。

 

ヒカリは鈴原に手紙で告白したって、話してくれた。自分には勇気がないからだって。

 

鈴原の前だと、緊張して何も話せなくなっちゃうからって。

 

あたしもおんなじだ・・・シンジの前だと素直になれない。いつも酷いことばっかり言って、わがままばっ

 

かり言ってて・・・ほんと、嫌われちゃってるのかな・・・他の人に取られちゃうのかな・・・。

 

ううん!!そんなこと考えちゃだめね。シンジは誰にも渡さないんだから。

 

素直に・・・素直になるのよ、アスカ・・・そうすれば、きっと・・・。

 

 

 

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〜 Dear シンジへ 〜

 

 

 いきなりで、びっくりしたでしょ??でも、途中で捨てたりなんかしたら後でヒドイからね。

 

 でも、シンジはやさしいからそんなことないかな・・・ね?

 

 小さい頃からシンジは、いっつもやさしかったもん。

 

 4歳のときドイツからこの街にきて、まだ幼稚園で独りぼっちだったあたしに『あそぼ!!』って

 

 言ってくれた。 

 

 それから、いじめっ子からあたしを守ってくれたこともあったっけ・・・シンジ、自分が一番やら

 

 れてるのに『アスカ、大丈夫?』って心配してくれたよね。 

 

 あたしのわがままもずっと聞いてくれた・・・

 

 無理な約束も、守ってくれた・・・ 

 

 もう10年になるね・・・・・・覚えてる?

 

 あのね・・・いつからかな・・・シンジのことただの幼なじみだと思わなくなったの。 

 

 でも、なんかタイミングが難しくって・・・ずっと言えなかったの・・・

 

 だから・・・手紙にしたの。

 

 あ、いま笑ったでしょ?あたしだって女の子なんだからね・・・バカ・・・

 

 でもね・・・

 

 『すき!!』だよ、シンジ。

 

 ずっとずっと前から・・・・・・

 

 

 

 じゃ、そろそろペンを置くね。バイバイ。    

 

 

 

 

 P・S 最近、モテモテみたいだけど調子に乗るんじゃないわよ!!あたしがいるんだからね!

 

 

〜 幼なじみから恋人に立候補した アスカ より 〜   

 

 

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翌日。学校の下駄箱で、いつものやり取りが始まっていた。

 

「もう。アスカ、やめてよ朝から」

 

「いいじゃない、別に。さてと、今日は何通入ってるかなぁ・・・」

 

さっと、シンジの下駄箱を開けるアスカ。

 

バサバサ・・・・・・・

 

ゆうに10通は超えているであろう、色とりどりの手紙達が舞う。

 

アスカの予想通りだった。

 

「まあ、ごめんなさいね。いま拾うから」

 

アスカは慌てたふりをして、手紙を拾おうと背を向けてしゃがんだ。拾いながら制服の内ポケットから

 

自分の手紙を素早く潜り込ませる。立っているシンジからはアスカの背中しか見えない。

 

一緒に来ていた中でこの作戦を知っているのは、ヒカリだけだ。

 

「はい、どうぞ。プレイボーイのシンジ様。それとも、お邪魔なら処分いたしましょうか?」

 

ちょっと皮肉った言葉で、手紙を渡す。

 

「だから、いってるだろ。捨てられないの」

 

「どうせ、家に持って帰ってニヤニヤしてるんでしょ?」

 

「う、うるさいな。いいだろそんなの」

 

「図星なんだぁ、シンちゃん」

 

「そ、そんなこと、あ、あるわけないだろ!」

 

いつもならこのぐらいで済むのだが、今日はこのまま収まりそうな気配がしない。状況の悪化を恐れた

 

ヒカリは口を挟む。

 

「アスカ、もうそのくらいでいいでしょ?碇君、困ってるよ」

 

「へーきよぉ。ねぇ?シンちゃん」

 

「シンちゃんって呼ぶなよな!」

 

「あはっ、怒ってるぅ」

 

「アスカっ。そろそろ・・・」

 

ヒカリがもう一度たしなめようとしたとき

 

「しつこいんだよ!!アスカは!」

 

とうとう、頭にきたシンジが怒鳴った。

 

その声に、一瞬たじろくアスカ。しかし、

 

「な、なんですってぇ!!!しつこいとは何よ!だいたいね、しつこいってゆーのは、あんたみたいに

 

一度捨てた手紙をわざわざ拾ってまで読むヤツのことを言うのよ!!この、むっつりスケベ!」

 

「・・・・・・」

 

今度は突然黙り込んで、うつむいてしまうシンジ。表情はよく分からない。

 

「な、なによ。言い返せないでしょ」

 

言ってしまって後悔しているが、性格が邪魔をして後には退けないアスカ。

 

張り詰めた緊張感と沈黙。

 

「・・・わかったよ・・・拾えないようにすればいいんだろ!!」

 

その沈黙を破ったシンジは、アスカの手をつかむと引っ張るようにして校舎を出た。

 

 

 

 

「シンジっ、離してよ。ここは・・・」

 

アスカはシンジの手を振りほどいた。ここは、校舎の裏手にある焼却炉。

 

「これなら文句ないだろ、アスカ」

 

横についているフットペダルを踏んで、シンジが言う。

 

中は、燃え盛る炎で真っ赤だ。

 

「あ、待って。シンジ、その中には・・・」

 

バサッ!

 

みんなが止める間もなく手紙は炎の中に消えていった・・・

 

 

 

 

・・・あたしの手紙。やっと渡せた手紙・・・一生懸命書いた・・・シンジへの手紙・・・

 

それが今、燃えてる・・・

 

「・・・バカ!!!」

 

なんだか、いろんな感情が込み上げてきてそれしか言えなかった。きっと泣いてるんじゃないかな

 

いまのあたし。気がつくと、後ろも振りかえらずに走ってた。

 

シンジのバカ・・・シンジのバカ・・・なんで捨てちゃうのよ。せっかくあたしが手紙書いたのに・・・

 

校庭の端っこでうずくまってると、ヒカリがやってきた。

 

「アスカ・・・」

 

ヒカリはそれだけ言うと、優しくあたしのことを抱きしめてくれた。

 

ずっと・・・・・・ずっと・・・

 

 

 

 

あたしはこの日はじめて、人前で声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

放課後・・・

 

「アスカ、ちょっと来て・・・話があるんだ」

 

シンジは、ひとりで帰ろうとするアスカにそう言うと返事も待たずに教室を出ていった。

 

アスカも黙ってついていく。

 

屋上に上がった二人は、しばらく黙っていた。

 

不意にシンジが口を開く。

 

「アスカ・・・ごめん・・・僕、知らなかったんだ・・・あの後、洞木さんから聞いたんだ・・・

 

ほんとにごめん・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・僕って、ほんとに馬鹿だよね・・・自分が手紙読んでいる理由、自分の手で壊しちゃったん

 

だから・・・」

 

「・・・理由?」

 

アスカはそれだけ言うと、続きを促した。

 

「僕が手紙を読んでいたのはね・・・実は・・・いつかアスカから・・・手紙がくるんじゃないかなっ

 

て思ってたんだ・・・」

 

アスカは黙って聞く姿勢を崩さない。

 

「・・・覚えてる?アスカが初めて僕にくれた手紙・・・10年ぐらい前じゃないかな・・・

 

確かその時はドイツ語だった・・・僕が読めないって言ったら、ちゃんと書き直すから待ってて

 

って・・・その手紙とりあげて帰っちゃったから・・・」

 

再び静寂が支配する・・・

 

「・・・シンジ・・・」

 

あふれそうな涙をこらえて、口から出た言葉はそれだけだった。

 

自分の幼なじみは、覚えていたのだった。

 

10年ものあいだ・・・ずっと。

 

「・・・バカ・・・」

 

顔を上げ、微笑むアスカ。

 

夕日に映える、シンジがいつも知っているアスカの笑顔だ。

 

綺麗な髪と、溢れた気持ちの粒が、風に舞う・・・

 

「じゃあ・・・そのことに免じて、今日のことはチャラにしてあげる。あたしも慈悲深いわねぇ・・・

 

感謝すんのよっ。・・・あ、ちょっと待ってて」

 

思いついたようにして、鞄を開けるアスカ。中から手帳を取り出すと、急に後ろを向いた。

 

「はいっ、これ」

 

振り向きざまに折った紙を渡すと、

 

「今度は・・・・・・燃やすんじゃないわよ!」

 

そういうと、先に下へ降りてしまった。顔は心なしか朱に染まっていた。

 

 

 

 

 

長い間、胸の中で一杯になった気持ち

 

 

ずっと、口にできなかった気持ち

 

 

壊れそうで、切ない気持ち

 

 

 

でも、素直になれないこころ

 

 

 

いつか、伝えようと思っていた言葉

 

 

いつも、気持ちとは裏腹の言葉

 

 

こころの中に、ひとつしかない言葉

 

 

 

きっと、素直になりたいこころ

 

 

 

 

素直になれば、想いは形を変えても届くはず

 

 

 

 

 

あなたのこころに・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスカがシンジに渡した、その小さな小さなメモには、ギュッと詰まった言葉が書いてあった・・・

 

 

 

 

 

『すき!!』

 

 

 

                                     〜 Fin 〜

 

 

 

 

 

後書き!?

 

 

どうも、くまっぷーでございます。

 

いかがだったでしょうか?今回のSS。

 

設定は、少しだけ自分の連載SSのを使ってます。(^_^;)

 

相変わらず、本人書いてて楽しかったです。

 

読んでる人がそうであるとは限りませんが・・・(爆)

 

 

実は、これ企画ものなんです。

 

以前、チャットで4人(愁翁さん・ヒロポンさん・dAinさん・くまっぷー)で

 

「同一テーマで、違う作家がSSを書いてみよう」というのがあがりまして。

 

タイトルと終りの言葉を必ず一緒にして、一話完結。

 

あとは簡単なプロットを設定してやってみたんです。

 

それで一応僕のが第一弾、という事になったわけです。

 

他の方の作品は、下記のHPに掲載予定です。

 

 

 

愁翁さん   → dAinさんのHP

dAinさん → ヒロポンさんのHP

ヒロポンさん → くまっぷーのHP

くまっぷー  → みゃあのお家

 

 

 

もしよろしかったら感想とか頂けると嬉しいです。

 

最後までお付き合いしていただいて、ありがとうございました♪

 

くまっぷーでした。