GUESS WHAT!?・超番外編
ヴァレンタイン特集の巻
1 あぁ悲しみのヴァレンタイン。あぅあぅあぅ(;;)
ネコ『ほへぇ。ヴァレンタインも過ぎてしまいましたねぇ』
ケイ『だなぁ』
ネコ『さすがに主人公も、今日ばかりはおとなしいっすね』
ケイ『だなぁ』
ケイ&ネコ『はぁ・・・』
注意!:この収録は2月14日の夕方に行われました。
ネコ『さてさて、お仕事しなくちゃ・・・』
ケイ『仕事?』
ネコ『いやぁ、ネタになるかと思って、皆さんのヴァレンタインの様子を盗み取りした
んですよ』
ケイ『ふむふむ?』
ネコ『でも、あんまりラブラブだから、収録しないでおこうと思いまして』
ケイ『で?』
ネコ『で、これから、記録の抹消作業です。はぁ』
ケイ『・・・(何か考えている)』
スチャ!
ネコ『あ、あのぉ、その手にあるピッケルは何でしょうか??(^^;』
ケイ『・・・ふっ、決まってるだろうが!』
ネコ『え・・・やっぱりお約束??』
ケイ『ふ・・・』
ケイの笑みに思わず後ずさるネコ!!
ネコ『ぎゃぁぁぁぁ、気持ち悪い!!!』
ケイのすかした笑みに、ネコ、全身の毛を逆立ててしまう。
よっぽど気持ち悪いかったのだろう。
あ〜ぁ(^^;
それでも、何かに気が付いたのか、ネコ、ケイをビシィ!と指差す。
ネコ『あ、あんた、誰!?』
ケイ『・・・ふ、ばれてしまったか!』
そういって、『ケイもどき』は、着ていた服を脱ぎ去る。
バサァ!!
その下から現われたのは、なんと、リク!!
リク『じゃーん!』
ネコ『リ、リリリリリ、リリ、リクちゃん、化けてたのね!?(^^;』
リク『そう・・・作者がヴァレンタインの記録を抹消しようとしていると聞き、馳せ参
じたんだよ』
ネコ『ち・・・山南か』
昨日、ネコは道で山南に会い、うっかり記録消去の事を喋ってしまっていた。
お馬鹿である。
ネコ『・・・こうなってはしかたがない。諸兄には恨まれるけど、ヴァレンタイン特集、
いきます!』
リク『よしよし』
ネコ『じゃないと、ネコが殺されちゃうもーん。ひーん(;;)』
2 佐伯家の場合
2月14日。
生憎学校は、第二土曜で休みだった。
が、部活はあったりする。
「かったりぃ・・・」
グラウンドの水飲み場の傍で、うずくまっているのは我らが主人公ケイ。
言っておくが、チョコレートっ気はない。
ちなみに、現在の姿であるが、リクとマコトに面白半分に巻かれた包帯で、ミイラ男
と化している。
さて、これは昨日の出来事である。
「あはははぁ、もう、俺やだ(T^T)」
そう言って、居間で黄昏ているのはリク。
手の中には可愛らしくラッピングしてある箱がある。
おそらくは、一日早いバレンタインのチョコレートだろう。
リクが貰おう相手と言えば、レイカ。
もちろん、他にもくれた人はいる。山南とか、沢田とか・・・・って、野郎ばっかり
じゃないか。男ばっかりとは、リク、ある意味、不幸。
もっとも、リク本人は、そんな馬鹿どもをぶちのめすだけ、ぶちのめして、ほとんど
気にしていないらしい。(哀れなのは山南&沢田である)
しかし、やばかった。
何を思ったのか、レイカ、『手作りチョコレート』をくれたのである。
「なんか、がたがた動いてるよぉー(T^T)」
中味はチョコの筈である。
が、箱はさっきからかってにガタガタ動きまくっているのである。
「あぅあぅあぅ(;;)」
そう言って泣き出すリク。
だが、相変わらずの『女装』なので、まぁるで、好きな相手にチョコを渡せずに悩ん
でいる美女のようである。
「何やってるんだか・・・」
一人、チョコをどうるすべきか悩んでいるリクをしり目に、弟のケイもまた、悩んで
いた。
隣の部屋の畳みの上に胡座をかきながら、目の前にチョコが入って居るらしい箱を置
いて、うんうん唸っている。
送り主は、もちろん泉である。
「義理チョコよーん」
そんな、意味不明の台詞とともに、家庭科室の扉がガラッと開けられた。
一目でハッとするような美女、泉がまるで高校が違うと言うのに、何故かそこにいた。
のんびりとした、お昼の後の5時間目。(ケイの被害にあった方達にとっては、とて
もではないが、のんびりとした昼休みではなかったのだが・・・)
おりよく家庭家の授業中。黒板には、栄養学関係の情報がびっちり書いてある。
ケイに喧嘩を売られた家庭科教師(男)がぶち切れて、書き殴ったのである。
喧嘩を売った方のケイは、その家庭科教師が『技術と知性』を集結して作ったチョコ
ケーキを、食べさせられている。(他の連中も、もろ手を上げて喜びながら、食べてい
る。が、ケイは、まるごと『食え』と言われてしまったので、半分壊れ始めていた)
「なるほど、大山女子か・・・」
実は臨採の家庭科教師、乱入してきた泉をみて、パッと高校を言い当てる。(これは、
かなり制服に詳しいと見た)
泉のほうも、教壇に立っている教師を見て、ウエェっと、嫌そうな顔をする。
「あ、臨採の・・・」
「あぁ、西宮かぁ・・」
「うぅ三浦先生(^^;」
あるときは、産休代理の臨時採用の家庭科教師、あるときはイカレ大学講師の夫、そ
して、またあるときは、怪しい秘密結社の親分。それが、この三浦徹雄こと、レイカち
ゃんの姉上の夫(長い肩書き・・・)の正体だった。
で、徹雄さん、泉を見るなり、自分の目の前にまだ残っていたケーキを一切れ差し出
す。
「西宮、食ってくか?」
「嫌ですよ・・・」
泉は、身も蓋もなくそう言って、そっぽを向いてしまう。
「先生が、前にそうやってケーキを進めてくれたあと、食べた子たち、先生のストーカ
ーに付け狙われたらしいじゃないですか」
「いや、あれは・・・」
秘密結社の親分なんかやっているから、徹雄さん、変な子分が山ほどいるらしい。泉
の言う『ストーカー』と言うのも、実はその一人。
「西宮・・・やつのことは、言わないでくれ(__;」
「やーねー、野郎におっかえられる、おっさんって」
ボソッとつぶやく泉。
しっかり、聞こえている。
「誰がおっさんや!!」
「さぁ?」
泉、ニッコリ笑って、目的の人物の方へ、さっさと行ってしまう。
徹雄も、ぼけているのか、精神が図太いのか、泉の『さりげないイヂメ』攻撃など目
にしないで、再び、黒板に栄養学のうんちくを書き込み始めている。
で、泉。ウエディング・ケーキの様なチョコケーキと格闘しているケイの前に、ニッ
コリと笑って立つ。
「さ・え・き(^^)」
「ん?」
ふと顔を上げるケイ。
が、泉を見た途端、3メートルは後ろへ椅子に座ったまま逃げ出した。
「ぎゃぁぁぁぁ、い、い、い、い、い、い、泉!!!!」
めったにない、ケイの悲鳴。それに、クラスの全員が、驚いた顔をする。中には、こ
のまま関わっていては、泉かケイに殺されると知っていて、さっさと逃げ出している者
達も、いることはいる。大抵が、元泉のクラスメート(ケイの中学からのクラスメート
でもあるが)だったりする。
で、泉。逃げていく連中の顔をしっかりチェックしている。後日、彼等の机なり、下
駄箱なり、ロッカーなりが吹っ飛ぶのは目に見えている。
「ひっしぶりねぇ」
「てめぇ、こんな昼日中に、何しにきやがった!!」
予想もしていなかった泉の登場に、最初こそ度肝を抜かれたが、それでも、ケイ、復
活している。
クラスメイトの中に、『あれ、佐伯の女か?』とつぶやいてしまった馬鹿がいたが、
きっちり、ケイに即座につぶされてしまった。なみあみだぶつ(__;
泉、フフンと笑うと、
「何よ、夜中にでも、忍んできてほしかったわけ?」
と、言ってみせる。(ケイにここまで言えるのは、彼女だけだろう)
「んなわけ、あるか!!」
「そうよねぇ。ふっふっふ」
思わせぶりな笑い。泉は、しっかりと、ケイの意中の人物を知っている。(それが、
自分の弟の彼女だと言うことも知っている)
「ま、いいわ。今日は、これを私にきたのよ!」
泉そう言うなり、ケーキを押し退け、手のひらに乗るくらいの箱を、ケイの目の前に
おいた。
「なんだ、これ?」
「チョコよ、チョコ」
「???」
「義理チョコ。どうせ、アンタにチョコくれる人なんか、いないと思ってねぇ。哀れに
思ったこのアタシが、『授業をさぼって』までして、わざわざ、届けに来てあげたのよ」
「てめぇ、『さぼる』方が目的だろ・・・」
「なんか、言った?」
スッと、ケイの目の前に、特大のダイナマイトが差し出される。
教室中、沈黙。ただ一人、徹雄さんだけが、いまなお、黒板にカリカリと書いている。
「じゃ、そういうことで!」
そう言うと、泉はさっそうと、教室から出ていった。
ただし、窓から。
「・・・あいつ、だんだんと、人間離れしてきたな」
3階の窓から飛び降りて、まるで平気な顔をして去っていく泉。
そんな彼女に、ケイは頭を抱えるしかなかった。
そんな訳で、わざわざケイの高校まで授業をさぼってやってきて、クラスメートが唖
然とする中、チョコを渡して颯爽と去っていった泉。
そのチョコの処置に、ケイもまた困って居た。
「ヤツの事だから、絶対どっかで見張ってるよなぁ。捨てたりしたら、月曜に下駄箱が
吹っ飛ぶのは目に見えてるし。かと言って、この箱を開けるのは非常に危険な気がする」
こんな風に悩みっぱなし。
ところで、居間と一部屋挟んだ向こうの台所では、マコトがチョコを溶かしていたり
する。
『リクちゃんと、ケイちゃんにもあげるからねぇ(^^)』
と、確約し、チョコケーキを作っているらしい。マコト、食いしん坊な分、お菓子作り
にかけては、流石リクの妹らしく、才能がずばぬけている。(ただ単に、自分の食べる
分だけお菓子を作っていたら、自然に旨くなってしまったと言う話しもある。が、才能
に努力があったおかげだろう。しかし、リクの域まで及ぶお菓子造りの腕ならば、どれ
ほどの量のお菓子が生み出されたのだろうか。謎である)
で、居間に戻る。
相変わらずシクシクシクと泣いて居るリク。
が、やっと決心がついたのか、潔く、箱にかけてあったリボンをほどいた。
そして、半分世をはかなんだ様子で、箱を開ける。
箱を開けた途端に響き渡る、甲高い声。
『いやっほーい、僕は幸運の妖精だよ、はりきっていこー!!』
・・・箱の中味は。
・・・箱の中味は。
・・・赤い小人さんだった。
「な、な、な、なんじゃ、こりゃぁ!!!(^^;」
箱の中で、のんきに飲んだくれている小人を見て、のけ反るリク。
なんて言っても、『赤い小人』、一匹や二匹ではないのである。
そりゃ、もう、ウジャウジャと、よくもまぁ、これだけの箱に収まっていたと思われ
るくらいに、山ほど溢れ返ってくる。
予想以上の自体に、思考が止まってしまっている。これが、一匹くらいなら、お化け
ゴキブリの例もあることだから、リクなら平気で対処できる。が、この数は反則である。
(リクの予想では、チョコレートのお化けが出ると思ったらしい)
「・・・世の中には、泉以上の強者もいたわけだ」
これはケイの感想。そういうケイの回りにも、何時の間にか小人がたかりだしている。
『よーよー、兄ちゃん、幸せ満喫してるかぁい?』
『うぅぅぅ、ひどいわ、私は本気だったのにぃ』
『えっほほほ、えっほ、えっほいさ。お猿の小山に、カバが行く』
何が気に入ったものか、小人、リクよりはケイにたかる方が数が多い。
「やぁ、ケイ、人気ものだねぇ」
「そんな場合じゃねぇだろが!!」
お互い、小人にビッシリと張り付かれながら、それでも通常モード。
恐るべし、佐伯兄弟。
「小人ねぇ」
いつの間に這い上がったのやら、ケイの前髪に、小人のうちの一人がぶら下がってい
た。
ちっとも可愛らしくない、のんべ小人。
ケイが覗き込んだ途端に、『俺の酒が飲めねぇのかぁ!!』などとほざいている。
「抹消!!」
レイカの料理などに免疫のまるでないケイ。
反射的に小人をつまみ出すと、そのまま、手のひらの上に乗せてプレスしてしまった。
ようするに、手のひらをパン!とやってしまったのである。
「うえ、チョコだ・・・」
ケイ、小人を潰した手のひらを見て、舌を出してみせる。
「どれ、どれ、どれ」
リクは、体中のあちこちに小人をくっつけたまま、弟の手のひらを覗き込んだ。
「おや、本当にチョコレートだ。食べたら、チョコの味なのかな?」
「知らねーよ!」
「試して見れば、わかるよ」
そこに、ニィッと浮かんだ、リクの意地悪そうな笑み。
ケイは、反射的に逃げ出そうとしたのだが、哀れ、間一髪で襟首を掴まれてしまった。
「ほら、ケイちゃん、アーン(^^)」
ニコニコ笑って、小人を二、三匹捕まえるリク。はっきり言って、恐い。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「食え!!!」
弟の口に、無理やり小人を詰め込んでいくリク。
鬼ですね。
それから、3時間後。
「あったま、痛い・・・」
もそもそと、起き上がったケイ。
あんまりジタバタと暴れたので、リクにどつかれ、強制的に眠らされていたらしい。
キョロキョロと辺りを見回して見れば、誰もいない。どうやら、リクの方はとっくに、
自分の部屋に戻ったらしい。台所から音がしないところを見ると、マコトもケーキ造り
を終えたらしい。見れば、冷蔵庫の中にでもケーキはあるのだろうが、直接渡してもら
いたいので、放っておくことにする。
で、ケイも部屋に帰ろうとする。
が、コツンと足に当たったものがある。
何かと見てみれば、泉に受け取らされたチョコである。
「チョコかぁ・・・」
強制的に眠らされ、(気絶させられたとも言う)夕飯を食べていないケイ。
半分、寝ぼけた状態で、深く考えずにチョコの入っている筈の箱を開けてしまった。
で、閃光。
『チュドーン!!!!!』
夜中にまったく迷惑な話しであるが、耳をつんざくような音がご近所に響き渡った。
(が、いつものことなので、近所の方々は『また、佐伯さんちか・・・』とため息を付
いただけである)
「い、い、い、泉ぃ!!!」
吹っ飛んで、さっぱりしてしまった居間では、なぜか黒くなってしまっているが無事
のケイが、小さなチロルチョコを手に、わなないていた。
そんなケイの目の前に、ヒラヒラと一枚の紙が落ちてくる。
『義理チョコだよーん。ありがたく、もらいなさい。
−−泉』
「あんの、馬鹿女ぁ!!!!!!!!」
こんな、ケイの叫び声が、聞こえたものか、どうなのか。
ともあれ、ニワトリの声が辺りに響いた。
3 三浦家の場合
さて、14日の夜。
三浦家長男の慎太郎は、隣に小さな男の子を座らせて、自室でテレビゲームに興じて
いた。(しかし、いまどき『パック○ン』はないだろう)
「慎太郎、今年はチョコレート、いくつ頂いたんですか?」
「68個」
「じゃぁ、僕の勝ちですね。73個です」
「ガキの癖に生意気な」
そう居って、コントローラーを放りだし、隣に座っている子供の頭をグリグリする慎
太郎。
が、男の子の方は、まぁるで平気な顔である。(って言うか、目の焦点が合っていな
い)
あたりまえだ。慎太郎がグリグリやっているのは、縫ぐるみなのだから。
だからと言って、慎太郎が一人で腹話術をやっていたわけではない。
その証拠に、慎太郎、相手が人形だと気が付くと、苛立たしげにそれを放り投げ、押
入を乱暴に開ける。
「くぉら、トオル、いつのまに押入に入ったぁ!!」
「いやですねぇ、ドラエモンでさえ、押入にいるんですよ?僕がいたって、なんの不思
議もないじゃないですか」
そう言って、つくねんと正座しているのは先ほどの少年。
何時の間に、押入に入ったのだろうか。油断のならないガキである。(そう言えば、
先ほどから、少年の反応がどうも鈍い様な気もしていた。が、それが始まったのは2時
間ほど前から。いくらなんでも、そんなに長く、押入に居る訳が・・・この少年ならば、
ありそうである)
「さぁてと。まだ、忍さんからチョコレート貰ってないんですよ。貰ってきますね」
少年は、言うが早いか、ヒラリと身軽な様子で押入から降りる。
が、そこに旨く慎太郎、蹴りを入れている。少年、見事にすっころんで、その小生意
気だが、可愛い顔を畳みですってしまった。しっかりと、鼻の頭が赤くなっている。
「後で、忍さんに言いつけますからね」
少年、泣きもせずに冷たい口調でそう言ってのける。
この、一見可愛らしいが、その実、死ぬほど生意気なお子様が、この家の影の主・祥
子さんの息子さんのトオルである。(慎太郎にとっては、甥っ子だ)
しかし、慎太郎も結構酷いもので、少年の訴えに、ハンと笑って見せる。
「は!忍ぶなんか、恐くも何ともねぇよ!!」
「母さん」
「すまん、俺が悪かった」
慎太郎、トオルの母親である『祥子さん』の名前を出されて、即座にそう言った。
「まったく・・・始めからそう言えばいいんですよ」
トオル、クスクスと笑いながら、鼻頭をこする。こういう仕草は、まるっきり少年の
者である。口調はまるで、小学校・低学年の物には聞こえないが。
「どうせ、慎太郎も、忍さんのチョコ、欲しいんでしょう。一緒にもらいに行きましょ
う」
なんだかんだ、生意気な口を聞いても、トオル、良く構ってくれるお兄ちゃんである
慎太郎がお気に入りらしい。先に立って、一緒に行こうと促している。
が、しかし、忍がいるはずの階下へいこうとしたトオルの足が止まる。ついでに言う
と、慎太郎のほうは、心底ビビッている。
二人がビクビクと耳を澄ましているところ、家中をゆるがす大音声が響き渡った。
『没収よ!!』
姉が結婚してから、毎年聞いているこの声。
実は、旦那の徹雄さんが貰ってくるチョコを、祥子さんが没収しちゃうのである。
(で、チョコレートの全ては、祥子さんの腹の中である)
「だから、慎太郎が勝手に受け取っちゃっただけだってば。俺に貰う意思はなかったぁ!!」
そう言って、ブンブンと頭をふる徹雄さん。ちょっと、涙目。
が、祥子さんは聞いちゃいない。怒りに身を振るわせて、旦那の襟首を掴んでは、ユ
サユサと揺すっている。その怒り具合、尋常ではなく、奇麗な長い髪は逆立って、角も
見えそうな感じがする。
「問答無用よ、徹雄!!!」
「うひぃ(^^;」
毎年繰り広げられるこの光景。
レイカと忍はその様を、リビングのテーブルの椅子に座ってのんびりと見ている。
(夫婦喧嘩と言うか、祥子さんの折檻が繰り広げられているのは、彼女等の目の前であ
る)
「毎年の光景だねぇ、忍さん」
祥子さんの折檻具合、結構エグイのだが、見慣れてしまっているのか、それとも本質
なのか、レイカ、とことんノホホンとしている。
「だな。この、馬鹿が」
「レイカ?」
キョトンとなって、自分を指差すレイカに、忍は慌てて首を振った。(さらに言えば、
ちょっと顔が赤くなっている)
「いや。徹雄だ。毎年こうなってると知って、何もしない。だから、馬鹿者なんだ」
忍、祥子さんの旦那だが、徹雄さんをこき下ろしている。(と言うか、一日に20回
くらいは、忍、徹雄さんに文句を言い巻くっているのである。とことん、『祥子さんの
旦那様』と言うことで、徹雄さん、忍に睨まれているらしい)
さて、、喧嘩(と言うか、祥子さんが徹雄さんをイヂメている)の背後にあったドア
が開く。
出て来たのは、ちまっこい(と言っても小1だが)のトオルと、彼のお守をしていた
慎太郎である。(トオルのお守をしていないと、祥子さんが小遣いをくれないのである)
「よ、あいかわらずだなぁ、うちの姉ちゃんは」
そう言って、忍の隣に座る慎太郎。が、無視されている。調子に乗って、肩に手をか
けようとしたら、見事にぶん殴られてしまっている。(その見事なパンチに、レイカも
トオルもそろって拍手したりしている)
「わーい、レイカさん。」
トオルは、猫を被ってレイカにじゃれている。抜け目のないお子様である。
その態度たるや、慎太郎に対してのものとは、180度違ってしまっている。
だが、そんなもの、レイカに判るはずもない。
「わーい、トオル君だぁ」
「ねぇねぇ、レイカさんは、誰かにチョコ、上げたんですか?」
「うん。あげたよぉ(^^)」
「あれでしょ、机の上にあった箱」(すっごい、不満そう)
「そうそう。あれぇ、トオル君、見たのぉ?」
「はい」(レイカの見えないところで、やさぐれている)
そう言ってトオルもレイカもニコニコ笑っている。
が、慎太郎はその二人の会話を聞いて、顔を引きつらせていた。
(・・・中味をすり替えておいて、よく言うぜ、このガキ!)
これは、慎太郎の心の声である。
が、表だって言ったりはしない。
だって、この家で一番恐ろしいのは、このお子様なのだから。(笑って他人に罪をな
すりつけるなんて、朝飯前。祥子さん譲りの可愛らしい顔で周囲をだまし、影で舌を出
して笑っているようなお子様。その真実の姿を知るのは、レイカを除く三浦家の面々だ
けである。ずっと以前に、皿10枚を割ってしまった罪を、慎太郎は見事になすり付け
られている)
「わーい、レイカさん、大好き」
ゴロゴロと、子猫よろしくレイカにじゃれているトオル。
何かと慎太郎が見て見れば、レイカから貰ったらしいチョコレートをトオルがもって
いる。(ちなみに、市販である)
「なんだ、また増えたのか、チョコレート!?」
数で負けている慎太郎、非難の声を上げてしまう。(主義的に、義理とは言え、姉妹
からは貰わないのである)
「でも、これが一番嬉しいな。だって、レイカさんがくれたんだもん」
ニッコリ笑うトオル君。本心から言っているかは、まるで不明。
「馬鹿ばっか・・・」
そう言って、ため息を付くのは忍。
ちなみに、この忍も、クラスメート(女子)からずいぶんとチョコをもらっていたり
する。
「あ、そうだ」
不意に、レイカが思い出したように、今だ旦那をとっちめている姉に声をかけた。
(徹雄さん、とうとう首を絞められている)
「ねえ、お姉ちゃん、あのチョコって、どんなのだったの?」
「え、あのレイカが彼氏に上げたいから作ってくれって言ってたの?」
祥子さん、旦那の襟首を閉めていた手を止めて、レイカを見る。(徹雄さんの方は、
間一髪で助かった)
「ご注文通り、ハートの形の『紫』だけど?」
「あぁ、そっかぁ。よかったぁ」
そう言って、ニコニコ笑うレイカ。
が、回りは完全に凍り付いている。(忍でさえも)
「む、紫?・・・それに、ご注文通りって?」
そう言って、絶句しているのは徹雄さん。
「あの、祥子?」
「あら、やだ。言ってなかったかしら?」
「なにを?」
「レイカが、自分でチョコをつくったら、彼氏が困るから、私に作ってくれって言った
のよ」
「「「「なにぃぃぃぃ!!!!!!」」」」
祥子さんの言葉に、レイカを除く全員が絶叫する。
全員顔を真っ青にさせ、徹雄さんは、
「そうか、それで台所に未知の物体がはびこってたんだ。は、ははは、そりゃ、祥子が
チョコとは言え料理すれば、あぁなるよなぁ、なんで俺は判らなかったんだよ。は、は、
はははは」
とつぶやく。実は先日、秘密結社からヨロヨロと帰って来た徹雄さんの目の前に、グッ
チャメッチャになった台所があったのだった。レンジはもとより、シンクも紫色のアメ
ーバが張り付きまくり、辺りには嫌な匂いが立ちこめていた。祥子に何事かと聞いて見
れば、『あぁ、実験やったのよ』と、悪びれもなく、堂々と言ったのである。それが、
よもや料理だったとは・・・(まぁ、台所で実験も何もないだろうが)
慎太郎は、
「今回ばかりは、トオルの行動のおかげ、か・・・」
と、逸早く我に返って、遠くを見る。(ついでに、また、トオルをグリグリやっている)
忍は、速攻で電話にとびつくと、市内の総合病院に、『佐伯リク』と言う人物が入院
していないか確かめ、さらに、市の火葬場までに電話した。(東京湾沿岸の死体置き場
にも連絡入れていた)
ちびっ子トオルは、ちょっと困った表情で、
「すり替えないほうがよかったんですかねぇ・・・」
と、一人黄昏ている。(ついでに、自分が手に入れてしまった、母の手作りチョコの始
末をどうしようかと迷っている)
「どうしたんだろ?」
「さぁ?」
自覚のない姉妹は、キョトンとした様子で、その様を見守っていたという。
4 西宮家の場合。
ヴァレンタイン。
忍の例があるように、チョコを貰うのは、何も女子だけではない。実は、ネコも2回
ほど、義理だけどもらったことがある。女子内で、チョコのあげっこと言うのは、結構
メジャーなのである。貰えぬは、男子ばかりなり・・・・ゴス!(馬鹿ネコ、不用意な
発言をするものだから、どっかの誰かが投げたダンベルが頭にのめり込んでしまった)
(^^;
さて、西宮家であるが、泉もけっこうもらっている。(お姉様、お姉様しているので、
下級生やら同級生やらに持てるのである)
「うーん・・・」
テーブルの上で貰ったチョコを選り分けている泉。その数、良が断わった義理チョコ
の数より張るかに多い。(良としては、ちょっぴり悔しい)
「あいかわらず、もててんのな、姉ちゃん(^^;」
「なんか、チョコレートは貰うものって宣言したら、男子もくれたのよ」
「あいかわらず(^^;;;」
姉の問答無用の最強ぶりは、小学校や中学校で見聞きしているので、良、あんまり驚
かない。
泉のほうは、弟が呆れている事などにはかまわず、自分の作業をこなして行っている。
怪しいチョコをごみ箱に捨て、友人からの義理を整理し、本命は箱の中に入れて『佐伯
ケイ様』と書いて住所を書く。
「・・・姉ちゃん、佐伯先輩のところに送ってどうすんの?」
「始末してもらうの」
「へ?(^^;;」
チョコを始末してもらうのか、それとも、他の者を始末して貰うのか、泉の言葉のニ
ュアンスでは伺いしれない。
なんとなく、その疑問を追及するのが恐くて、良はこれ以上姉を構うのをやめた。
が、姉のほうが止めてくれない。
「ねぇ、ところで、アンタ、チョコは?」
「いや、一個だけ・・・」
「どうしてよぉ!」
そう言って、怒った様子で立ち上がる泉。ガクガクと弟を揺さぶりにかかる。
「どこの夢見るお馬鹿な少女か判らないけど、毎年、チョコくれる子、2、3人はいた
でしょう!」
「いや、あの・・・」
「なによ、このアタシの弟のくせに、アンタ、チョコの一つも貰えなかったって言うの!?」
泉、そういって泣きまね。
「あぁぁ、不憫な弟」
「姉ちゃん、姉ちゃん」
良の方は、白けていると言うか、慣れっこの姉の反応に冷めてしまっている。
「断わっただけだってば」
「何人、断わった!?」
「2人」
「去年より、少ないぃぃぃぃ!!!!」
そう言って泉、今度は本当に泣き出してしまう。
「・・・もうやだ」
姉の反応に、良、ガックリ肩を落とす。ふと、何かに気が付いたように、窓の方を見
て、ギョッとなっている。が、泉はやっぱり、構わない。
「馬鹿弟ぉ!!!!」
「まったく。泣きたいのは、アキラの方だろ」
「あら、なんで?」
泉、早くも復活し、不思議そうに弟を見上げる。
こうやって、黙っていれば、まったくの美人なお姉さんなのにと、良、頭が痛くなっ
てくる。
「なんで、アキラちゃんが泣くのよ。そりゃ、転んだと言っちゃぁ、ピーピー泣く子だ
けど」
「う・・・やっぱり、泣いてるのか(^^;」
今日もやっぱり泣いていたのを思いだし、良、ますます頭が痛くなってきた気がした。
思いため息をつき、友人のために、一つ質問をする。
「ところで、姉ちゃん、アキラにチョコやった?」
「え?」
泉さん、キョトンとなった後、視線をウロウロと彷徨わせた。
「そう言えば、ケイにあげる爆弾制作に夢中で、アキラちゃんのチョコ、用意する暇、
なかったわねぇ」
「で?」
「あら、やだ。アタシすっかり、アキラちゃんに上げるの、忘れてたわぁ(^^;」
「だから、あぁなるんだってば(__;」
そう言って、いまだカーテンを引いていない、外を示す。
何かと泉が見てみれば、そこには当のアキラが物欲しそうな表情でうずくまっていた。
(しかも、泣いてる)
泉、キョトンとなって、外にいるアキラを見ている。
「アキラちゃん。まぁ、寒いのに何してんのかしら?」
「姉ちゃぁん(^^;」
「良?」
「・・・アキラって、ものすげー不幸かも」
良はそうつぶやくと、そとで寒さに振るえている友人を家に入れてやるために、ドア
を開けた。
「うえぇぇぇ、西宮ぁ(;;)」
「泣くな、泣くな」
小犬にそうするように、良、アキラの頭を撫でてやる。
「惚れた相手が悪かったんだ」
「シクシクシクシク(;;)」
「諦めろ」
良、友人にそう言い聞かせて、ケラケラと笑っている姉をみた。
その時の良の心境。
(ひっでー姉)
5 山南と加奈子の場合。
山南。チョコはもらった(一個だけだけど)
レイカからの義理チョコ。
以上。
「ふん、甘いわ・・・」
朝の教室内。
もうすぐ始業の鐘がなるので、教室内には生徒が何人もいていいはずなのだが、教室
はもぬけのからである。他だ一人、加奈子だけが机の上に仁王立ちになっていた。そん
な彼女横には、可愛いラッピングの箱がいくつか入った紙袋。
「表向きは、リクちゃんにとち狂った、大馬鹿高校生。でも、その実態は、けっこう良
い所のお坊ちゃん・・・」
加奈子はそう言って、例の女王様笑いをする。
「おーほほほほほ、そのカッちゃんに惑わされちゃう子も結構いるのよねぇ」
加奈子、うつむいてクスクスクスと笑い出す。
が、この笑みが結構恐い。
さすが、悪役だろうが、何だろうが、女王様役だけをやり続けている方である。
「さぁて、今年の収穫は、1、2、3、4・・・8個か。リクちゃんに告白した年はさ
すがに激減してたけど、着実に増えているわね・・・」
加奈子、おっかない事に、山南に送られるチョコを片っ端から没収しているらしい。
(この度合は、祥子さん以上である)
「まぁ、いいわ。全部つっかえしてやるもの!」
加奈子、何時の間に持っていたのか、乗馬鞭片手に、そう力んでいる。
ただ没収するだけではフェアではないので、しっかり相手の女子と談判しているので
ある。『卑怯者』だの『アンタにそんな、権利はないでしょ!』などと、言われちゃう
ことだが、加奈子かまっていない。
それよりは、山南の調教の方におおわらわなのだ。
「ふ・・・ふふふふふ、おーほほほほほほほ。だって、かっちゃんがいいって言ったん
ですものぉ!!」
遠き日の幼稚園時代。山南、加奈子に請われるままに、バレンタインチョコの始末を
頼んでしまったのである。
ま、そのころから、加奈子に目をつけられていたと言うわけなのだが(__;
こんな加奈子でも、レイカからの義理チョコだけは、つい見逃してしまったらしい。
が、加奈子、どうでもいいから、代わりにチョコくらいあげたらどうだ!?
いくらなんでも、毎年、毎年、チョコなしは、可愛そうだぞ!?
「あら、いいのよ」
・・・ついに、加奈子まで次元を超越してしまったらしい。
あらぬ方向を見て、加奈子大威張りで、
「だって、カッチャンには、しっかりと、『鞭』を上げているから!」
と、言い出した。
しかし、鞭って・・・
「決まってるじゃないの、バレンタインに特別に鞭でお仕置きなのよ!!」
そう言って、加奈子、女王様笑い。
そんな教室の外では、すっかり怯え切ったクラスメイト達が泣きながら、加奈子の高
笑いが完全に収まるのを待っていた。
ちなみに、この状況は、すっかり遅刻してしまったリク、レイカ、山南がやってくる
まで続いていたという。
5 総括
ネコ『こんなもんですね』
リク『なんか、山南不幸だな(^^;』
ネコ『そう思うなら、リクちゃんがチョコを上げればいいのです』
リク『やだ(即答)!』
ネコ『はぁ。すっかり日もくれてしまいましたねぇ』
リク『本当に。さて、と』
リク、グワシとネコを掴む。
ネコ『あ、あのリクちゃん???(^^;』
リク『何?』
ネコ『あのぉ、ネコを掴んでどうなさるおつもりでございましょうか?(へり下っている)』
リク『ケイにやる』
ネコ『えぇぇぇぇぇ!!!!!』
今回ばかりは無事だと思われていたのに、ネコ、不幸!?
ネコ『ど、どうしてぇ(;;)』
リク『だって、”ラブラブ”じゃないんだもん』
ネコ『うひぃ(^^;;』
リク、レイカとのラブラブシーンをカットされて、怒っている。
ものすごーく、怒っている。
ネコ『そ、それは、調度カメラの電源が切れてしまってぇ(^^;;』
リク『問答無用!!』
リク、ネコを『黒ネコ』マークの宅急便の箱に詰めてしまう。
ネコ『だぁれか、たぁすけてぇぇ(;;)』
そこに、宅急便屋、参上!
宅急便屋『へい、まいど!』
リ ク『これ、お願いしますね』
宅急便屋『は、はい(ドキドキ、美人な人だなぁ)』
リ ク『速攻でお願いしますねぇ(^^)』
宅急便屋『は、はい!!』
宅急便屋、ネコの詰まった箱と共に退場。
リク『ふ・・・ちょろいな』
ネコ『鬼ぃ!!!!』