ば〜んがいへん】 |
聖王宮の年中行事の一つ。
お花見。
アルディスが勝手に作っちゃった行事である。
今年も東宮の庭園にて、盛大なお花見が開催されていた。
出回る大量の酒。
ご馳走。
聖王自ら、徹底した無礼講。
普段は静かな東宮の庭園は、めちゃくちゃな騒ぎとなっていた。
「ぎゃはははははははははは!!!!」
一升瓶を抱え、部下の隠し芸に爆笑しているのは、大武聖ルドラ。
武官連中で桜の大木の下を占領して、一番の大騒ぎを繰り広げていた。
いつもは、『良識』で、アルディスやバルスに食ってかかるルドラだったが、さす
がに一年に一回と、聖王に諭され、無理やり飲まされた後では、すっかり出来上がっ
てしまったようである。
「大武聖、次ぎは大武聖の番ですよ!」
若手の武官が、同僚の隠し芸が終わったのを見て、ルドラに声をかける。ちなみ
に、今終わったばかりの隠し芸は、武官男子二人による『ロミオとジュリエット』で
ある。
「俺ぇ?」
すっかり酔っ払っている、ルドラは、フラフラとなりながら、部下に詰めよる。
「おい、てめぇ、俺に芸をしろって言うのか?」
「あ、あのぉ、大武聖?」
「俺は400越したジジィだぞ!!!!!!!」
とてもではないが、『老人』らしくない大声で、怒鳴っている。ちなみに、大武聖
の外見年齢は二十である。
可愛そうに、ルドラに絡まれている武官、泣きそうな顔をしている。流石に、中級
程度の魔神なら平然とのしたりするルドラだ、凄まれると恐いものがある。
「うえ〜ん、大武聖、酒乱ですよ〜」
「ふざけんな、この俺が、こんくらいで酔うかぁ!!!」
そう言って、ルドラが指した先。
そこには・・・ひぃ、ふぅ、みぃ・・・二十本あまりの、からの一升瓶がゴロゴロ
と転がっていた。ちなみに、ルドラが指した瞬間に、通りかかったアルディスが、一
升瓶の一つにつまずいて、スッ転んだ。
で、どこから来たのかは不明だが、間髪入れずに、アルディスに駆けよっているバ
ルス。
さすがの酔っ払いルドラも部下も、その様には一瞬動きが止まっていた。
「・・・あの、大武聖?」
「なんだ?」
「いま、大神官、空から飛んで来ませんでしたか?」
「・・・酔ってるんだ、そういうことにしておけ」
「はぁ・・・」
酔っ払って幼児退行したのか、ピィピィと泣いて居るアルディスに、そんな聖王を
喜々としてなだめている大神官。
酔っているせいなのか、ルドラは酷い頭痛に頭を抱えた。
で、アルディス。
本当にピィピィと泣いていた。
「いたぁい、なんで、こんな所に一升瓶があるんだぁ!!!」
そうケチをつけたかと思うと、一升瓶に説教を始める。
「いいか、だいたい、こんなところに転がってるなんて間違ってるぞ。一升瓶なら、
おとなしく酒蔵にいるか、さもなきゃ、酔っ払いの頭をカチ割るために、玉砕しろ
!!」
「我が君、我が君、一升瓶に説教しても無駄です」
そう言ったのは、やっぱり赤い顔のバルス。武官Aの証言によれば、空から飛んで
きたとか、なんとか。ちなみに、先ほどアルディスが桜の一つに正面から激突(アル
ディスによれば、桜のほうがぶつかってきたらしい)したときには、この大神官、地
面から生えてきたと言う証言がある。
「我が君、一升瓶は耳がありませんから」
そう言って、バルス、どこから取り出してきたのか、マジックを出す。
で、一升瓶に、キュキュキュ〜と、気持ち悪いくらいにリアルな耳を描いた。
「はい、どうぞ。これで、一升瓶でも聞けます」
「おぉ、ナイスだ、バルス!」
アルディス、歓声を上げたかと思うと、今まで説教していたはずの一升瓶を大事そ
うに抱えた。
「世にもめずらしい耳がある一升瓶だ、リースにも見せるぞ!」
「お伴します」
そう言って、連れだっていく馬鹿主従。
相手が聖王なので、遠巻きに怯えて見ている文官・武官、誰も止められない。
で、意気揚々と、バルスとモグラと河童を連れて歩くアルディス。(モグラは桜に
激突した際に捕まえ、河童は庭園の池に転げ落ちたさいに見初められた)
目的のリース発見。
こっちは、旦那共々チビチビとやっている。
「あら、主」
リースは目敏くアルディスを見つけると、ペコリと頭を下げた。
ちなみに、このリースも酔っている。
その証拠に、モグラを見つけるなり、悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ、モグラですか!?」
「モグラの、モグモグだ」
「主、酷いですわ。ちゃんと、私と言う下僕がいるのに!!」
そう言って、ワーンと泣き出すリース。
泣き上戸らしい。
それに、ゲラゲラと笑っているアルディス。
笑い上戸らしい。
しかし、ここに始末の悪いことに、怒り上戸がいた。
リースの旦那のレイナードである。
「もう我慢出来ん!!」
何に怒っているのかさっぱり判らないが、とんでもないことに、この魔神、いきな
り呪文をぶっぱなしたのである。
最強クラスの禁呪。
しかも、ろれつが回らない口でいったので、見事に呪文をトチッていた。
どこをどう間違えたものなのか。
ポッカリと、空中に黒い穴が出来たかと思うと、そこから、ワラワラと・・・
ワラワラと・・・
そう、ワラワラと、『空中電気ナマズ』が現われたのである。(注意:空中電気ナ
マズは、ブルージェイ南部の湿地帯に生息する、文字どおり、空中で生活する電気ナ
マズである。ちなみに、電気の威力は通常の電気ナマズの1.5倍である)
ワラワラと現われた電気ナマズの大群は、適当に気に入った人物に張り付いては、
電気マッサージをして去っていく。アルディスなど大人気で、前日の疲れをすっかり
取って貰っていた。ルドラなどは、その中で一際でかい(人の3倍の大きさはありそ
うである)ナマズに、熱心に口説かれていた。
しかし、人と言うのは非情である。
電気ナマズが出尽くしたのをみて、今度はバルスが呪文をぶっ放したのである。
ちなみに、今度の呪文は火炎系。ナマズが一匹も構ってくれなかったのが、かなり
悲しかったらしい。半ベソ状態での、呪文行使である。
マッサージ中のナマズも、昼寝中のナマズも、ルドラに言いよっていた巨大ナマズ
も、皆、丸焼けとなってしまう。
ルドラが、丸焼けになったナマズに『カトリーヌぅぅぅぅぅぅぅ!!』などと叫ん
で、泣き付いているが、部下の方々、無視している。(一部の武官が、悔しそうにカ
トリーヌを見ていたりするが、これも無視である)
ともあれ、宴会場に、『ナマズの丸焼き』のメニューが加わったのであった。
アルディスも、なんだかさっそく食べてるし。
「うん、電気がピリッと効いていて、いけるな」
などと、言っているし。
それを聞いて、リースも食べてるし。
召喚した本人のレイナードも食べてるし。
ルドラもカトリーヌ食べてるし。
丁度よい、酒のつまみになったようである。
で、ちょっと離れたところでウェヴ。
馬鹿騒ぎを、ゲタゲタ笑ってみていた。(ちなみに、飲酒済み)
「あーはははははははははは、アルディスの馬鹿、なにやっておるんじゃ!!!!
!」
そう言って、何時の間に引っぱってきたのか、ルドラの首根っこを閉めている。
「ウ・・・ウェヴ、締まってる、締まってる!!」
「男じゃろう、それくらい我慢せい!!」
「カトリーヌぅ、助けてくれぇ」
そう言って、シクシク泣き出すルドラ。
ゲタゲタ笑っているウェヴ。だが、流石に、骨になってしまったカトリーヌが起き
出した時には、ビックリしたのか、酒の勢いも手伝って、お得意の大地の魔法で『大
地震』を起こしてしまった。
生憎なことに、ナマズは全て食べられた後だったので、どのナマズも地震は関知出
来なかったそうだ。
なーむー。