GUESS WHAT!?

作・三月さま

 


 

 1 朝です(^^;

 

 世の中いろいろあるだろう。

 まぁ、実際、いろいろあるのだが。

 

「朝だよぉ!」

 突然開けられた窓のカーテンと、それでも目一杯に張り上げられた可愛らしい声。

 その声に、ベッドでまるまっていたその人物は、わずかに身動きする。

「マコトちゃん、あと5分だけ、寝かせて・・・」

「だめ。リクちゃん、朝だよ!」

 無情にもそう言ったのは、ブレザーを来た小柄な少女。中学生だろうか。だが、パッと

見には、なんとはなしに、小学生に見えないこともない。

 彼女は、寝ている相手のかけ布団代わりのタオルケットを剥ぎ取ろうとする。が、相手

もさるもので、それを必死で抑えている。少女のほうが力がないのか、彼女は途中で、布

団を剥ぎ取ることを断念する。

 寝ている相手はまだ起きない。

「リクちゃん!」

 当然、起こそうとしている少女は怒り出す。

「起きてぇ!」

「うぅ・・・」

「もう、7時だよ!」

「だから、あと5分・・・」

「部活がないからってぇ!途中まで一緒に行くんでしょう!」

 声を張り上げて、抗議している少女。

 それに対し、やっと、ベッドの中の人物は身を起こした。

 まだ、半分眠っているような様子だが、死守したかけ布団を被ったまま、眠たげに身を

伸ばすその様は、なんとも色っぽい。つまり、『ど』のつくほどの美人なのである。

「おはよう、マコトちゃん」

 その美人は、自分を起こしてくれた少女に向かって、思わず見ほれるような笑みを見せ

た。

 それに、少女のほうは纔にむくれる。

「もう。リクちゃんたらぁ!」

「ごめんね」

 女性にしては少し低めの声。そんな声で謝ってから、彼女はゆっくりとベッドから降り

た。

「マコトちゃん、ケイは?」

「ケイちゃんなら、まだ、寝てるんじゃない?」

「じゃ、起こさなくちゃな(と、言うか、どつかなくちゃ)・・・」

「代わりに、私が起こすよ。これから」

 マコトと呼ばれた少女は、ニコリと笑って、部屋から消えた。

 後にはリクが一人ぽつんと残る。

「大丈夫かな・・・ま、いいか」

 美人に似合わない大欠伸を一つして、リクはさっさと着替えにかかるのだった。

 え、この先?見せませんよ、当然。

 後々の『お楽しみ』のためにね。

 

「ケイちゃん、朝だよ!」

 先ほど、リクの部屋でやったようにマコトは声を上げながら、部屋の扉を開けた。もう、

断わってもいない。問答無用である。

「ケイちゃん、ケイちゃん、ケイちゃん!」

 マコトは、やかましく『兄』の名前を呼んで、また、タオルケットを引き剥がしにかか

った。

 今度は、簡単に剥がされてしまう。なにしろ、相手は熟睡しているからだ。

「ケイちゃぁん!」

 マコトは、兄の名前を呼びながら、カーテンを開けてしまう。途中、部屋に散らかった、

雑誌類にけつまずきそうになるが、何とか無事に、カーテンを開ける。

 リクの部屋とは違って、ケイの部屋は本当に滅茶苦茶である。まだ、歩ける分いいと言っ

た所だろうか。

「ケ・イ・ちゃ・ん!」

 大体、起こす準備を整えたマコトは、ケイを揺さぶり始めた。

 と、ケイが顔をしかめる。

「うるせぇ・・・」

「起きなよ、ケイちゃん」

「うるせぇっつってんだ、リク!」

 と、ケイの手がマコトの方へと飛んでくる。

 ビックリしたマコトが慌てて後ろに下がるが、雑誌にけつまずいて、転びそうになる。さ

らにそこへ、ケイの振り回した手が飛んできた。

『ベチ』

 そりゃ、もう、見事にあたりましたよ。はい。

 馬鹿だねぇ、ケイも。

「うるせぇ、猫!」

 おや、まぁ。次元を超越して聞こえてる。大笑いだ。

 ともかく、ケイの振り回した手は見事にマコトに当たってしまった。

 その途端に起き上がるケイ。

「マコト!」

 慌てて目を覚ましたケイだったが、起きたところで状況が変わる訳もない。

 起きた先には、腕を抑えて呆然としているマコトがいた。

「あ・・・マコト?」

 ケイは、顔を真っ青にさせてマコトを見ている。

 と、マコトの目に涙が堪る。

 その次の瞬間には、耳を覆いたくなるような泣き声だった。

「ケイちゃんが、ぶったぁ!」

「だぁ!」

「うえぇぇぇん!」

 部屋中と言わず、家中と言わず、近所中に響き渡るマコトの声。

 そこへ、タイミングを見計らったようにリクが戸口に顔だけ出してきた。(いや、本当に

タイミング計っていたのかも、しれないが・・・)

「なぁに、やってんだ、ケイ?」

「うるせぇ、リク!」

「まぁた、マコトを泣かせてぇ」

「泣かしたくて泣かしたんじゃねぇ!」

「ふぅ・・・そんなに、マコトちゃんが嫌いかねぇ」

「てめぇ・・・知ってるくせにぃ!」

 逆上したのか、リクに遅いかかろうとするケイ。

 が、それをあっさりリクはかわしてしまう。さらにリクは、自分の横を通りすぎたケイの

背中を、親切にも押してやったのだった。

 勢い付いたまま、階段の手すりをぶち破り下へと降りていくケイ。

「てめぇ、リク!」

「はっはっは。『お兄ちゃん』に勝とうなどとは、百万年、はやいよ!」

 リクの問題発言は、ケイが落ちた音でかき消えてしまった。

『ドグワシャ!』

 そりゃ、もう、見事な音で。

「あーはっはっはっっはっは!」

 後には笑い転げているとんでもない『お兄ちゃん』であるリク。しっかり学ランを着こん

で、美人は美人だが、男の子らしくなっていた。

 で、マコト。まだ、泣いていた・・・

 

 

 2 インターミッション

 

マコ『これ、つまんなぁい』

ねこ『えぇ(ギクシ)』

ケイ『本当につまらんな(しかも、俺、散々なあつかい・・・)』

リク『へぇ、俺はおもしろかったけど?』

ケイ『そりゃ、お前はな」

 

     ドグワシ!

 

リク『お兄様だろ、ケイ?』

ケイ『ふむなぁ!』

リク『あーはっはっはっはっは!』

 

     グリグリグリグリ

 

マコ『あー、ケイちゃんがリクちゃんに踏まれてるぅ』

ねこ『おや、本当だ』

マコ『でも、やっぱり、つまらないよ』

ねこ『うぅ、きついね、マコちゃん(^^;』

マコ『次いこぉ!』

ねこ『へいへい』

 

 

 3 リク

 

 草木も眠る丑・・・じゃ、なかった。

 空気もすがすがしい朝。

 まだ人通りもすくないなか、リクは早歩きで高校への道を急いでいた。

(あぁ・・・寝過ごすなんて、ミスったぁ)

 昨日、夜遅くまで弟をいたぶっていたせいで、すっかり寝過ごしていたリクだった。

 今日も今日とて演劇部の朝練があるのだが、寝過ごしたせいで遅れそうなのである。

「あぁ、こんなことなら、吊すのやめておけばよかったかな」

 そういって、クスリと笑うリク。

 ついこの間、階段から落ちた傷が治ったばかりなのに、早くも吊されてしまったリク。

不幸である。

「次は、布団と一緒に干してみようかね」

 クスクス笑っているリク。

 その機嫌のいい笑みも、学校の正門が近くなったとたんに凍り付いた。

 文字どおり、『ピキ』っと。

「げ・・・山南・・・」

 正門近くに誰かが立っている。

 それを見て、リクの笑みが引きつったのだ。

「うぅん・・・回れ右、かな?」

 リクは、それでも美人らしい表情でそういうと、グルリと、方向転換した。

 おお回りをして、学校の裏へといく。そちらにある裏門から、学校内に入ろうという魂

胆だ。

 が、相手のほうが、一枚上手だったようだ。

「おはよう、佐伯」

 リクが、何とか機嫌を直して裏門から入ろうとしたとたん、聞きたくなかった声がかか

ってきたのだ。

「や・・・や・・・山南ぃ!」

 リクが叫んで、指差した先には、先ほど正門に立っていたはずの山南一則が立っていた。

 リクが至極不機嫌なのに比べて、山南は満面に笑みを浮かべている。

「どした、佐伯?」

「どうして、お前が裏門のほうに・・・正門にいたんじゃなかったのかぁ!」

「いやぁ、佐伯が裏にいくのを『感じて』なぁ・・・」

「感じてって、お前は超能力者か!?」

「いやぁ『愛』だろ、やっぱり」

 平然と、恥ずかしい台詞を口にしてくれる山南君。おいしいなぁ。

 そんな山南にリクは頭を抱えるしかなかった。

「うぅ・・・悪夢だこれはぁ・・・」

 どうやら、リクは山南が『苦手』のようである。(とばっちりに、ケイがまたいたぶら

れるのも、決定のようである)

 

 リクが山南と始めて会ったのは、この高校に入学したときである。

 圏内でも有数の進学校、ただし公立で共学。そこに、一応勉強したとはいえ、ケイから

見れば、ふざけているとしかいえない状態で入学したのがリクである。(ケイにいわせれ

ばサギだそうな)

 で、リクは、部活勧誘が始まる前からと、言うか、入学式しょっぱなから、入部すると

言いはった。

「だって、入りたかっただ」

 だ、そうだ。

 で、入ってしまった。異例である。こっちの高校では、いちおう、期間を置いて、一斉

に入部活動をさせるのだが、リクはそれを完全に無視した形なのである。

 さらに、入学式の後、授業が始まった日から、先輩に混じってリクは部活の宣伝をやり

始めたのである。要するにお祭好きなのだが・・・

 で、リクの入った部。演劇部。

 リクの宣伝方法。女装。

 一部で趣味だ何だと、噂が飛び交っているが、ともかく、部活勧誘でリクは『お姫様』

の女装をやったのだ。先輩いわく、『似合いそうだから頼んだら、やってくれたのぉ(は

ーと)』リクいわく、『いいじゃん。趣味なんだから』

 やっぱり趣味じゃんか・・・

 ともかく、その仮定で、リクが隣のクラスにいった時、山南に会ったのである。

 

『演劇部でぇす。宣伝に来ましたぁ』

 当時の演劇部の三年が、明るい声で入って来る。

 先輩が入って来たもので、一年は全員、凍り付いている。その中、馬鹿に明るい様子で

先輩は部活宣伝を始めた。

『演劇部の3年、柏木亮子でぇす。今日は、皆さんに我が部の事を知ってもらうために、

きましたぁ。よろしくねん』

 キャラキャラと、明るい調子でまくしたてる3年。

 明るいが平凡的な彼女の横で、『美女』のリクが、ニッコリと笑っている。

 どちらかというと、男子の目は、リクの方に向いていたのだが・・・

 その中でも、最も熱い視線を注いでいるのが、山南だった。

 

『付きあって下さい!』

 その衝撃は、部活勧誘の一週間後に襲ってきた。

 昼休みが始まったばかりの、天気のいい午後。リクが時間を潰していたクラスの机の前

に、山南はいきなりやってきたのである。で、この発言である。

『あのぉ、俺、なに着てるか判る?』

 今の今まで、机に突っ伏して眠っていたリクは、機嫌悪そうに顔を上げてそう言う。

『もちろん。学ランだろ?』

『で、学ランを着るのは、男子?女子?』

『えぇと・・・主に男子・・・かな?』

『・・・なんで、「主」になんだよ』

『だって、君が着てるじゃないか♪』

『オレも男だぁ!』

 ドカーン!

 山南の『ふざけた』発言に切れたリク。

 パンチで山南を空のお星様にしてしまったのだった。

 後には、天井に人型の穴。こうしてリクは、最初の彼の狂暴性を披露したのだった。

 

 それ以来、リクは山南が苦手なのである。

 どんなに折檻(狂暴でご近所に有名なケイが嫌がるもの)をしても、逃げても、山南は

こりないのである。もう、リクのほうも折檻を楽しんでいる暇などない。

 いくら女装が趣味だといっても、リクはれっきとした男の子なのである。男に追い回さ

れるよりは、女の子に追い回されたほうがいいに決まっている。

 が、山南は『大丈夫だよ、愛には国境はないから♪』野郎である。始末に置けない。

 

 さて、山南を『いつも』のごとく、後ろに控えて部室にやってきたリク。

 とっくのとうに3年になっているので、部室にいるのは後輩か、級友ばっかりである。

「あらん、リクちゃん、またカッちゃんひきつれてぇ」

 部室にはいるなりのこの発言。美人部長の柏木加奈子である。(姉も昔部長をやってい

たそうな)

「ねぇ、リクちゃん、カッちゃんのこと、どうするの?」

 後輩をイヂメながら、部室に入ってきたリクに近づいてくる加奈子。物欲しげに後ろに

いる山南を見ている。

「リクちゃん、前から言おうと思ってたんだけど・・・」

「なに、加奈子?」

「カッちゃん、私にくれない?」

「へ?」

 思わず、ざわめいていた部室がシーンとなる。

「ど、どうするんだよ、加奈子?」

「イヂメる・・・」

「は・・・」

 リク唖然、部員絶句。

 話しの判っていない山南、キョトンとしている。

 数秒の間を置いて、なんとか、リクが我に返った。

「イヂメるって、山南を?」

「うん。だって、カッちゃん、幼馴染みだし、昔からイヂメてたしぃ・・・」

「なるほど・・・」

「ほら、そろそろ、本格的にいこうかなぁ・・・と」

 ニコニコ笑っている加奈子。とてもではないが、部員のほうは笑えない。

 始めは言葉に詰まっていたリクだったが、不意にニィっと笑った。

「いいよ、加奈子。ほぉら、好きにしろ。よ、お客さん、いいもの買ったねぇ!!」

 リクはそう言うなり、山南の襟首を付かんで、部室の更衣室の方へと放り投げた。

 放り投げられた山南は、ベチっと、更衣室の壁にぶち当たっている。

「ありがとうねぇ、リクちゃぁん」

 それに続いて、いそいそと、更衣室へと消えていく加奈子。

 残されるのは上機嫌のリクと、呆然とした部員達。

「せ、せんぱぁい・・・」

 残された後輩の一人が、青くなりながら、リクに話しかけてくる。

「あ、あ、あの・・・」

「だぁいじょうぶ。放っておこう。あぁ、すっきりした」

 リク、日頃の鬱憤を、どうやら、晴らしちゃったようである。

 スガスガしい表情で、ケタケタと笑っている。

「さぁて、練習でも、始めますかねぇ・・・おーほほほほほほほ!」

 仁王立ちになって、大笑いを始めたリク。

 さらに青くなる部員。

「あぁ、お兄様、貴方を一人にはいたしませわぁ!」

 大きな声で、台詞を口にするリク。

 やっぱり、お姫様役だったりする・・・

 

 

 4 インターミッション2

 

ねこ『ふぅ、やっと終わったぁ』

ケイ『なぁ、にぃ、がぁ、終わっただぁ!』

 

     グワシ!

 

ねこ『しょっぱなから、蹴るなぁ!』

ケイ『うるさい、俺の出番、ほとんどないじゃないか!』

ねこ『いいじゃないか、リクちゃんが、目だってるんだからぁ!』

ケイ『当初の予定では、俺のがメインだったろうが!』

ねこ『うぅ、バラすなぁ!』

ケイ『えぇい、開き直るなぁ!』

 

     ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ

 

ねこ『うぅ、酷いよぉ、いきなりこれじゃ、訳がわからないじゃないかぁ』

ケイ『まぁ、そりゃ、そうだなぁ』(と、上のほうを見る)

ねこ『うぅ、そんなに、怒らなくてもいいじゃないかぁ(;;)』

ケイ『うるさい』

ねこ『うぅ(;;)』

ケイ『蹴られたくなかったら、俺の話しも書け』

ねこ『よ、予定じゃ・・・』

ケイ(ギロリ)

ねこ『ひぃ、やります、やりますぅ(;;)』

 

 

 5 と、言うわけでケイの事(あとマコトちゃんも)

 

 と、いう訳でケイ。

 なんだかしらんが、しょっぱなから、壁にはりついていた。それもベターっと。

 こんな格好では、せっかくの二枚目も台なしである。が、本人はかまっちゃいない。

「ばかだねぇ、リクも・・・」

 二階の自室から、下に飲み物をとりに来たリクが、当然、そんな感想をもらした。

 が、ケイは聞いちゃいない。

 いま、ケイの神経は壁の向こう、廊下のほうへと注がれているのだから。

 リクは、そんなケイをみて、しばらく考えていたようだったが、不意にニヤリと笑うと

ツツツーッと、ケイの背後に忍び寄った。

 で、顔を近づけると、『フッ』と、息を耳元に吹きかける。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 夜だというのに、ご近所迷惑なこの叫び声。

 しかし、どうせ近所は『またか』と思うだけである。(おなじみなのだ)

「なにしやがる、リク!」

「お前こそ、何やってるんだよ、ケイ」

 ビール缶片手にニッコリと笑っているリク。これは、知っていて聞いている顔だ。

「そんなに『マコトちゃんのデートの日取り』を知りたいのかなぁ?」

「き、強調して言うなァ!」

「あぁ、嫌だねぇ、シスコンっていうのは・・・」

 自分も結構シスコンが入って居るくせに、それを棚に上げて、肩をすくめて見せるリク。

 かなわぬことは判っていながら、ケイが、リクを殴ってやろうと決めた瞬間。

『ガチャ』

 廊下で電話していたマコトが戻ってきた。

 部屋にそろっている二人を見てキョトンとしている。

「何してるの、ケイちゃん、リクちゃん?」

「あぁ、ケイが、明日のマコトちゃんの予定、聞きたいんだってさ」

 意地悪に笑って見せるリク。

「リクぅ!」

「あれぇ、ケイちゃん、知りたいの?」

「う・・・」

「じゃ、教えてあげるぅ」

 のんびりとした口調でそう言うマコトは、手に持っていた手帳を広げて見せた。

「えぇとね、明日10時に駅であって・・・ねぇ、ケイちゃん、大田原って、どこ?」

 グワシャ!

 隣の市の名前さえ覚えていないマコトに、兄弟二人、倒れこんで居る。

「あれぇ、ケイちゃん、リクちゃん??」

 どうして、二人が倒れたのか判らないマコトは、ただ、不思議そうに二人を見ているだ

けだった。

 

「ねぇ、俺たち、唯の兄馬鹿じゃないか?」

 横からかかってきたリクの声を、ケイは完全に無視した。

 とあるCD屋。

 ケイの視線の先には、マコトともう一人、同じ年ごろの少年。マコトがマコトなので、

何とはなしに、兄と妹のように見えてしまうが、一応カップルである。

 で、そんな平凡な連中は放っておいて、問題なのはリクとケイの方である。

 リクはいつものように女装。いや、本当に。この人、平日はいつも、女装している。の

で、偶然山南なんかに会ったりすると、大騒ぎなのである(さっきやった)。しかも、化

粧までしてるので、もう、完璧に女になりきっている(何が楽しいんだか)。

 で、ケイ。変装のつもりなのか、帽子を目深にかぶっているのだが、これがものすごく

怪しい。元はカッコイイのだが、目つきが悪いし、いまは殺気立っているので、もう、ほ

とんど、このCD屋に強盗にきた兄ちゃんのようである。店員の方もそう思っているらし

く、チラチラと、ケイの方へと視線を向けている。

「うぅ、マコトぉ(;;)」

「あぁ、もう、このシスコンはぁ」

 物欲しげにマコトを見ているケイに、呆れ返るリク。だが、多少とはいえやっぱり変装

し、付いてきているリクも、りっぱにシスコンである。

 今、リクが何を居ようとケイには聞こえていない。

 ケイの全神経はマコトへと向けられているからだ。あぁ、もう、しょうもない。

「あぁ、マコトがぁ。うぅ、あの野郎、今度会ったら、絶対に殺してやる。いや、ただ殺

すだけですますものかぁ、あぁして、こうして・・・」

 何やら、危ないことをブツブツとつぶやき出したケイ。もう、こうなれば、唯の危ない

人である。

 しかし、マコトの方も鈍感である。結構見える位置にケイもリクもいるのだが、まぁる

で、気が付いていない。さすがは、佐伯家の鈍感王。

 

 さぁて、その後も、ケイとリクはマコトの後をぞろぞろと付け回していましたとさ。

 で、その間のトラブル。

 リクが何回もナンパされ、その相手が、いつもより狂暴になっているケイの憂さ晴らし

に使われる。

 殺気立ったケイをみて、子供が泣き、犬猫が逃げる。

 マコトが20回ほどこける。

 

 マコトのデートそのものは、平穏無事だったようである(マコトがこけまくったことを

抜かせばの話し)。

 マコトのお相手は、まぁ、まあまあの相手で、優しそうでもある。(猫なら、ケイより

あっちを選ぶぞ、絶対)たぶん、マコトよりは一つ学年が上だろう。バラしてしまえば、

相手はマコトの学校の先輩である。

 で、帰り、彼こと西宮君は、しっかりとマコトを家まで送っていってくれた。偉いなぁ。

 時刻はすっかり夕暮れ時。別に、目的もなくブラブラしていたのに、どうしてこんな時

間になるのだが。(猫が面倒くさがりだからではない。恋人どうしは時間が経つのが早い

のだ)

「良君、送ってくれて、ありがとうぅ」

 お昼をおごってもらって、すっかりごきげんなマコト。お腹が満腹なら、それで、機嫌

はいいらしい。単純な・・・

 で、そんな二人の様を、電柱の影から見守っている佐伯兄弟二人。ベタベタである。

「なぁ、ケイ、こういうとき、お約束って、ないか?」

「なんだよ!」

 ヒソヒソ声で会話を交す二人。気分は忍者だ。

「やっぱり、こういう夕暮れ時、やることと言ったら・・・」

「『ヤル』だと!?」

 バキ!

 はい、お約束。ケイちゃんしっかり、リクに殴られやんの。

 様見やがれ・・・と、言っている場合じゃない。

「なぁ、ケイ、真面目な話し。こういう時って、キスしないか?」

「はぁ!?」

 リクに殴られた頭を抑えながら、ケイが低い声で驚いた。

「キ、キ、キスだと!?」

「そ・・・って、お、ほらぁ」

 ニタリと笑って、前を指すリク。

 そこには、言葉通りの行動をしようとしている西宮と、訳の判っていないマコトが居る。

「マ、マコト!」

 はい、切れました。ここで、ケイ、しっかり切れました。

「人の妹に、手ぇ、出してんじゃねぇ!!」

 リクの止める間もなく、ダッシュしたケイは、そのままの勢いで、西宮に飛び蹴り食ら

わしたのである。しかも、西宮、しっかりとくらっている。

「ぐはぁ!」

 前のめりになる西宮。不幸な。

 マコトと言えば、何時の間にそこにきたのか、リクの手によって、保護されていた。

「あれぇ、リクちゃん?」

「あぁ、マコトちゃん。楽しかったか?」

「うん。おごってもらっちゃったぁ」

「(それだけかいな、お前さんは・・・)そっか、じゃ、お夕飯にしようね。今日は、マ

コトちゃんの好きなクリームコロッケだからね」

「わぁい、本当!?」

 キャッキャと、喜んでいるマコト。もう、その頭の隅にも、西宮のことは、残っちゃい

ないだろう。全て、クリームコロッケで埋め尽くされていると見た。

 で、野蛮な人達。ケイですよ、ケイ。あとは、後ろから蹴られて切れた西宮。

「マコトちゃんのお兄さんだってぇ・・・て、お前は、佐伯ケイ!?」

「あ、どこかで見た顔だと思ったら、去年二階からプールに叩き落とした二年!?」

 マコトちゃんの中学は、つまりは、ケイの母校。さらに2学年違うわけだから、今3年

の西宮はケイの後輩でもあったわけだ。しかも、あの中学の2、3年で、ケイの被害を受

けていないのはマコトだけである。

「信じられない、アンタがマコトちゃんのお兄さんだなんて!」

 頭を抱えて悩む西宮。頼むから、悩むな。

 ケイはケイで、ケタケタと笑っていた。

「そっかぁ、あいつだったのか。確か、人の部室のロッカーに、爆竹仕掛けてくれたんだ

ったよなぁ」

 クックックックと、なにやら危ない笑いを浮かべているケイ。

「はーはっはっはっは、今から学校に吊してきてやる!」

「う・・・き、去年の僕だと思うなよ!」

「なんだと!」

「アンタに復讐しようと、僕は強くなったんだぁ!」

「ほぉ、上等だ、やるかぁ!」

「くそぉ!」

 こうして、不毛な夜はふけていく(いつ、夜になったのか、聞かないように)

 

 さて、時間は少したって、佐伯家のテーブル。

「ねぇ、リクちゃん、ケイちゃんは?」

 何時まで経っても戻ってこないケイに、マコトは少し、心配そうな顔をしている。

「さぁねぇ」

 知っているくせに、言わないリク。

「どっかで、行ったのかもねぇ」

「ふぅん」

 山ほどもってもらったコロッケやら、ごはんやらを平らげて、マコトはそれでも不満そ

うな表情だ。それを見て、リクはニッコリ微笑む。

「マコトちゃん、食べたかったら、ケイの分、食べてもいいよ?」

「え?」

「大丈夫。ケイは、つけあわせのキャベツの千切り食わせるから」

 にこにこ笑いながら、酷いことを言うリク。

 だがマコも酷いもので、それを受けて『やた!』とおお喜びで、ケイの皿に手を出して

いた。

「おいしーい、おいしーい」

 すっかりご機嫌のマコト。

 リクは、帰った後のケイの文句を想像しながら、その後どうイヂメてやるか、算段して

機嫌がよかった。とんでもない兄・・・。

 

 

 6 ファイナル

 

ねこ『ふぅ。これで、3人とも終わったぁ(;;)』

ケイ『やっぱり、俺、酷いあつかいだな・・・』

ねこ『そうだねぇ(他人事のように)』

ケイ『ぷち・・・・』

ねこ『え?』

 

     バキ!

 

ねこ『きゅうぅ(**)〜@』

 

ケイ『あぁ、すっきりした』

マコ『あれ、ケイちゃん、猫さん、殴っちゃったの?』

ケイ『あ、あ、あ、マ、マコト!?』

マコ『あ〜ぁ、猫さぁん?』

 

     つん、つん、つん

 

マコ『ネェ、リクちゃん、反応ないよぉ!?』

リク『おや、本当だ。じゃぁ、生ごみにでも、出しておかないとねぇ』

ケイ『そうだ、捨てちまえ、そんなの!』

リク『じゃぁ、俺が出してこようかねぇ。あーはははははは!』

 

     半透明の袋に入れられ、捨てられていくネコ。

 

     背後で『ドナドナ』がなりつつ・・・・・・

     幕が降りていく。

 

ねこ『うわぁん、誰か助けてぇ!』

 

     カリカリカリカリカリカリ・・・・・・

 


 

みゃあの感想らしきもの。

 

みゃあ「(真っ赤)………。(←なにやら恥ずかしいらしい)」

みゃあ「あー……、なんてゆーか、その……(もぢもぢ)。ああっっ!!(←転がっている)」

みゃあ「は、は、は、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃっっ!!(←そのセリフの方がよっぽど恥ずかしい)」

みゃあ「これが、隠れて少女漫画を読む思春期の男の子の気持ちだろうかっ!(←大馬鹿)」

みゃあ「いや〜、そういう意図はないと思うんですが、みゃあはとってもどきどきしながら読んじゃいましたよ。考えてみれば女性が書かれたオリジナルもの(ネット上で)は初めて読むんですよ。だからとっても新鮮でした」

みゃあ「や〜、これは絶対に書けんはみゃあには(←当たり前だ)やはり女性が書くと繊細というか、ピンク色というか全然違いますね。着眼点からしてまず違う」

みゃあ「とっても楽しみました。個人的にはリクがお気に入りかな。あの豪放でいてアブナイ趣味なとこが…(笑)。一度読んだらまず名前は忘れませんね。キャラが立っている証拠だと思います」

みゃあ「三月さま、初投稿にしてこんなに沢山書いて頂いて、本当にありがとうございました。みゃあは感激です。(ちなみに女性初投稿(小説は))」

みゃあ「ところで…これ続かないんですか?先がとても気になるんですけど…加奈子と山南の恋の行方とか(あの二人の間に恋なぞあるのか?(笑))」

みゃあ「もしよろしければ、これに懲りずに投稿してくださいね。待ってま〜す」

 

次も転げ回りたい(笑)、みゃあでした。 

GUESS〜1