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「あれ、ここは・・・」
そう、僕がきがつくと、見慣れた天井の見える、いつものベッドの上で眠っていた。
「あ・・・」
僕はキチンとパジャマに着替えていた。
仰向けにキチンとした格好で眠っていた。
額に湿ったものを感じて手をやると、濡れたタオルが掛けてあった。
ベッドの横に洗面器が置いてあって、他にも濡れたタオルが置いてある。
僕は、額のタオルを洗面器に戻そうとして背を少しだけ起こした。
カチャリ
「あんた、まだ寝てなさいよ、体、完全に良くなってないんだから。」
彼女は少し上体をおこした僕を見るなりそう叫んでベッドに駆け寄ってきた。
僕はまた布団に深々と眠らされた。
「あ、ありがとう・・・」
なれない言葉。
なのに、素直に唇に刻まれてくれた。
「もう、タオル、冷たくないの?」
タオルをどかすと、彼女は自分の額を摩り付けていた。
頬が赤くなってく。
鼓動が早くなる。
「まだ、少し熱、あるみたいね。」
彼女は僕の額から濡れタオルを取って洗面器に浸してから良く絞ってまた、額にのせてくれた。
「あ、ありがとう・・・」
彼女が部屋に入ってきてからそれしか言ってない。
どうしてもっと気の利いた事がいえないんだろう?
「感謝してるなら、さっさと良くなってよ!」
「うん・・・」
「御飯、食べれる?」
「おじやくらいなら何とか・・・」
「じゃ、あとでもってくるから。」
彼女はそれだけ言ってからまたドアから出ていった。
僕はまた、天井を見上げる。
「風邪、引いたのか・・・」
僕の記憶があってるなら今日は木曜日、学校がある筈。でも僕はベッドの上に居る。
彼女もうちに居る。
僕は右手を額に持っていく。
手に伝わる濡れた布の感触。
まだ、十分に湿って冷たい、タオル。
僕はゆっくりと目を閉じる。
「こうやって誰かに看病してもらったのは何時以来かな・・・」
風邪を引いてるのだから身体も疲れてるはずなのに、なにか嬉しい。
僕はタオルの感触をずっと感じていた。
カチャリ
ノックもしないで彼女は足でドアを開けて部屋に入ってきた。
右手にはゆきひらを、左手に僕の食器を抱えて。
「晩御飯、出来たわよ。」
僕はドアの方に首を傾けた。
「あ、ありがとう。」
彼女はそれに軽く肯いて、ゆきひらに入った”おじや”を何時の間にか用意していたサイドテーブルにおいて、小さな丼に軽くよそった。
「まだ、熱いからね。」
一口分、レンゲにすくってから、何回も彼女は息を吹きかけて冷ましている。
「あ〜ん・・・」
そのレンゲを僕の口元に運んでくれた。僕も口を『あ〜ん』する。
「おいしい?」
「うん。あったくて美味しい。」
「じゃ、もっと食べて早く良くなってね。」
「うん。」
「はい、2杯目、あ〜ん・・・」
「ごちそうさま、ありがとう。」
「あ、林檎も食べる?」
彼女が剥いてくれた林檎は甘くて甘くてとても美味しかった。
いつもより全然美味しかった。
彼女は林檎の皮をごみ箱に捨てていたが、、窓の外を見ている。
僕も、窓の外をみる。
外は、白い雪が積もっている。
塀にも、地面にも、窓の縁にも。
白い、白いが積もっている。
この間までの暑さが嘘のように。
全てを隠してしまうように。
ただ、白く。
そして、その白さを照らし出している大きな、蒼い、月。
ただの氷の結晶なのに、それは青白く、そして、ほのかに輝いている。
静まり返って白く染まった街並みを、僕と彼女はずっと、この窓辺から見ていた。
「もう9時よ。今日は早く寝なさい。また明日ね。お休み。」
「お休み、ありがとう、アスカ。」
「お休み、シンジ・・・」
アスカがどうしてか、顔を近づけてきた。
目の前一杯に広がるアスカの顔。
蒼い瞳も、
白い肌も、
何もかもが僕を引き付ける。
「どうしたの?」
僕はあまりキチンと動いてない頭でそれだけを思い付いた。
「風邪の治る御まじない、してあげる。目、閉じて。」
「? うん・・・これでいい?」
?
?
!
「これで明日にはよくなってるわね・・・おやすみ、・・・いシンジ。」
「・・・・おやすみ・・・・・・・なアスカ。」
きっと明日には風邪は治ってるだろうな・・・
だから、アスカになにかお礼、しよっと・・・
僕は暖かい布団の中でそんなことを考えていた。
でも、なにか考えようとしたら布団があまり気持ち良くって眠ってしまった。
ごめんね、アスカ。あしたおきたらちゃんと考えるから。
だから・・・・・・・よ・・・・おやすみ・・・アスカ。
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後書き
御久しぶりです。たく、改め壊れ人形です。
また、書いちゃいました。
いま、バイクぶっ壊して散々です。
こういう時にだれかいてくれるっていうのはホントに良いです。
でわ、これからも御見捨てなきよう・・・・