「清音真備1級刑事、警備部長昇格及び本庁復帰をここに言い渡す」
「(や、やった…ついにこの日が…)」
別に苦節ウン十年って訳ではないが、それでも嬉しい物は嬉しい。やっと、念願の…何とも小さい(彼女にとっては)願いがやっと叶うのだ。
「さ…受け取り給え」
「はいっ」
震えを、駆け抜ける高揚感を、押さえて、右足を、前にだす。
左足を前に出そうとして…………妙に、重い。何かが自分の足を掴んでいる。
振り返ってみると…やはり、と言うか…ぶら下がっていた。彼女の足元に‐―彼女の不幸の元凶、疫病神にして貧乏神…九羅密美星。運だけで生きているオンナ。
「きぃーよぉねぇ〜〜見捨てないでぇぇぇぇぇぇ」
「コラ、美星君下がりたまえ、君は辺境宙域に左遷、じゃなった、………今の職場に残留だろうがっ!」
二人の上役・・・今の清音には部下、になるのだが…が叫んでいる。
が美星は頑として動かない。
「ちょっと離しなさいよ、アタシは辞令を受け取らなきゃイケナイのよっ!」
「イヤぁ清音と離れるなんてイヤぁぁっ!アタシどうやって生きていけばいいの? 朝誰が起こしてくれるの? 誰がお洗濯してくれるの? 誰がお掃除してくれるの?」
(こ、コイツは…)
そう、美星の所為で清音は一日の生活の大半を引き裂かなくてはいけなかった。中々起きない彼女を四苦八苦して起こし、朝御飯を食べさせ、洗濯機を動かし、そしてバイトに出向き…
バイト先でも何か失敗してくれるのだ、2時間に最低1回は。その度に清音がフォローを入れる。でなければ、今の職場もとっくに首になっていただろう。全然楽じゃない、凄い体力を使うくせに、賃金は基準法すれすれ。それでも、もうこの職場しか彼女達には残っていない。「地獄の黒星ペア」とか色々言われ、どこも雇ってはくれないのだ。
だが、何処からか、清音の功績…美星の「お守り」をしながらも着実に積み重ねてきた功績が認められ、なによりも、美星が寝ていたうちに捕まえたA級犯罪者の逮捕が認められ…今度の昇進となったのだ。同時に美星はその時にいなかったことの責任で、左遷のまま----地球残留。
「もうっ離しなさいっ!」
右足を振りかぶり、美星の手を振り解く。難なく取り押さえられる、美星。まだ何か叫んでいる。
(そうよ、アタシは開放されるのよ…美星って言う、不幸から…)
大きく、左足を踏み出す。
何故か黒猫が清音の前を走り去る。お魚咥えて。
……居る筈のないネコに一瞬気取られたが、記を取り直す。
右足を前に。
ずるべちゃっ
派手な音をたて、アタマからズっコケる清音。
足元には何故かバナナの皮が落ちている。
「こ、これくらい…」
すっと起き上がる。
前に立っている課長と目があう。課長は笑っている。
眉を寄せ、睨み付ける。辞令の発効は明日であってももう、自分の方が上役なのだ。
カツカツと業とらしいが派手に靴を鳴らし、『辞令』へと『走る』。
そして、”紙切れ”を受け取る。引っ手繰るように。
(これで・・・これでっ!)
そして、幸せを噛み締めるために辞令に目を通して…
清音の目は点になった。
紙切れにはただ、一言。
「アタシ達、ずぅ〜〜っと一緒よねっ! by美星」
とだけ。
「あ…ブラックアウト…」
視界が歪む。
段々と…あ、美星が下っ端を跳ね除けてアタシに駆け寄ってくる…
何でよ…
アンタは…
「ねぇ、清音っ清音ぇっ!」
「ん…」
清音が目を開けると、目の前には金髪が垂れ下がっている。言うまでもないが、美星のものだ。
「もう、清音ったら、ドジなんだから・・・」
「え? アタシ、どうしたの??」
美星の顔の端から見えているのは、見慣れた、安アパートの萎びた天井。何時建てられたのか・・・そこかしこに染みが出来、クモの巣すら張っている、地球で借りているボロアパートの天井。
「もう、お店のお掃除の時、自分で撒いたワックスに足を取られて転んでアタマ打って気絶しちゃったのよぉ」
なんだか、真赤な目をした美星が、喚いている。少なくとも清音の目にはそう映った。
「それで、アタシ店長さんにお願いして清音をおぶって帰って、お布団しいて…」
「そう…そんな都合のいい事なんか、ないよわよね…」
何か、耳に入ってるが、どうでも良い。自分が見たものが夢で…そう、唯の夢……
それが、自分に良い事なのか、否か、解りかねている、自分がいる。その事が清音に圧し掛かっていた。
凄さまじい、辺境惑星、地球。文明の発達度は、今まで過ごしてきた星々…人がいる中では、最悪に低い。空気も、自分の住んでいる岡山の山の中では大した事はないけれど、「東京」では相当に酷いらしい。
この星に来たのは、バカ美星を捜索(したくなかったけど、見つかってしまったから仕方ない)だけなのに、気づいたらこの星駐在---殆ど左遷だ。原因は言うまでもなく、「破壊魔」「ポニーテールの悪魔」の相棒・・・彼女が犯人を一人捕まえる毎にビルなり船なり、衛星なりを壊してなかったならば…美星がパートナーじゃなかったならば…
一刻も早くこんな辺境を出たかった。エリートの道に戻りたかった……
そんな自分がいた『筈』だった。
でも、この辺境----田舎で暮らす事が好きな自分も居る。
のんびりと、朝、決まった時間に起きて御飯を食べ、着替えてバイトに行って、帰ってから近所のお風呂屋さんに行って、余裕のある時はカラオケにも寄って……
こんな田舎だから、緊張を強いるような大事件なんか、起きない。
大体、A級指名手配犯の魎呼ですら大人しく(?)暮らしているような所だから。
征木家では、阿重霞さんと魎呼が騒がしく天地さんを取り合いしてるし、時折阿重霞さんが『魎呼をさっさと逮捕して、亜空間牢獄に幽閉してくださいっ!500年くらい、いえ、千年、いえ一万年………とにかくあたくしの目の着かない所にやっちゃって頂戴っ!』とか怒鳴り込んできて、その後に天地さんと魎呼が一緒にアタシ達の家に阿重霞を迎えに来て、一騒動あるから、この時だけは緊張する。爆発起こされでもしたら、ガラスが割れちゃうから。
清音の口が歪む。
(心配ったって、何だかおカルイわよね…
命を削って、頭をフル回転させてた、あの頃に比べたら…)
「清音?」
美星が不安気な目で見ている。
「……ううん、何でもないわ。今、何時?」
「6時半よ」
「そう…今からお店に顔だしても仕方ないわね。明日店長に謝らなきゃ」
「アタシ、御飯作ったから食べよっ!」
「え、美星、アンタ…」
ああ、何かが蠢いている。きっと悪い蟲の予感、と言う奴だろう。
「あの…ちょっと、失敗しちゃったけどぉ…」
首だけをキッチンの方に向けると…………
そこは、ゴミタメ?だった。
「み-----------ほ-----------------しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
炊飯器はお粥を被り、コンロは煤で化粧し、シンク周りには野菜「だった」残骸が転がっている。
だが、テーブルに並んだ料理は、マトモなのだ。
「はぁ………御飯食べたら片付けよ……」
----その日、片づけが終わったのは、22時、お風呂屋さんにいったら、後30分だよ、と言われ、鴉のように風呂に入り、ずーっと謝りつづける美星を無視して眠ったのは、0時だった。
明日のバイトに間に合うようにするには5時に起きなきゃいけないのに。
美星の…バカ。
呟きながら、清音は眠りに就く。隣に美星の背中の温かさを感じながら。
Fin?
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お久し風呂、教会の前の牡丹の木の下で異教徒に殺されてる壊れ人形です。
みゃあさま、よんじうまん、おめでたふでし。お約束のものでしゅ。ずーっと前に出来てたけど投稿すんのの忘れてました(爆)
アタシは半年ぶりの投稿、ですわね。
エヴァ以外の二次創作は初めてなんで、ああっヘッポコヘッポコっ(ToT)
スランプではないんですが、書けてませんねぇ……プロットなら一杯あるのに、キーボードに向うと…ゲームを始めてしまうか、寝てしまふ…(汗)ああ、肥溜以下なアタシの脳味噌をだれかた・べ・て♪
疲れているのでさやふなら。
風はまたしゃぶろう。
(98/9/30update)