節分

 

作・壊れ人形さま


その日、たまたまシンジとアスカは一緒に夕飯の買い物に来ていた。

シンジはいつもなのだが、アスカが珍しく、夕食の買い物に付き合うといったのだ。

何故そんな気持ちになったのか、シンジには分からない。壊れ人形にも分からない。何故なら女性は「向こう岸の存在(by加持リョウジ)」であるから(笑)。

とにかくアスカは珍しくついてきた。

シンジはいつも通り入り口で買い物籠を取り、乾物のコーナーからめぐっていく。アスカはその後を賑やかに喋くりながらついてくる。

「ね、お菓子、お菓子買お!」

「アスカ・・・間食は太る原因だよ・・・」

「いいのよ、あたしは。シンジも知ってるでしょ?毎晩確認してるし♪」

当然真っ赤になるシンジ。

「あの・・・他の人もいるんだから・・・そういうことは・・・」

アスカの耳元で小さく囁く。

そのアスカは、にこにこしている。

「じゃ、お菓子買って♪」

「だから・・・その・・・」

「だぁいじょぶだからそんなんじゃ太らないって♪、買ってくれないと泣いちゃうわよぉ・・・」

両手を目の前に持ってきて泣く真似をする。

シンジはため息を大きく吐いて、

「じゃ、3つ先のコーナーにお菓子が置いてあるからどれでも好きなのを一つだけ取ってきてよ。」

「やったぁ!」

アスカはスキップしながらお菓子の置いてあるコーナーに走っていく。

「何がそんなに嬉しいんだろ・・・わかんないな・・・・アスカって・・・」

そう呟いて自分は肉類のコーナーに行く。

牛・豚・鶏と一通り揃っている。並べられたパッケージをぼーっと眺める。

「今日は、何にしようかな。昨日は揚げ物だったし、今日はさっぱりしたものがいいけど・・・」

鶏の腿肉が入ったパッケージを一つ手に取る。

「出汁と酢で煮込もうかな・・・吸物風に・・・となると・・・あとは・・・」

それを籠に入れて、今度は野菜のコーナーに向かう。

「野菜を沢山使おうな・・・ボリュームも出るし、種類も増えるし・・・そうしよっと。」

シンジは今日の献立を決め終わり、必要な食材を取っていく。そして、今夜の分をあらかた籠に入れた頃、アスカが戻ってきた。右手にはクッキーの入った袋、そして左手には御面の入った袋菓子を持っているように見えた。

「アスカ・・・お菓子は一つだけっていったでしょ?ふたつは駄目だよ。」

シンジはアスカをそう、窘めた。

が。

「日本人て訳わかんないわねぇ〜、こんな物お菓子にするなんてさ。」

「はぁ?」

シンジが不思議そうな顔をしたのでアスカは左手に持っていた袋菓子をシンジの眼前に差し出す。

「ほら、ただ煎っただけの豆を食べるなんて、日本人て良く分からないわぁ。」

そりゃそうだ。まったく味気ない煎っただけ大豆をお菓子にしているひとがいたら見てみたい。

シンジは変な顔をしているアスカに微笑みかける。

「アスカ、これは節分用の豆だよ。日本では、季節の変わり目、特に2月4日に豆を撒いてその年の幸福をいのるんだ。」

「へぇ〜、そうなの。でもどうして豆なんだろ?」

シンジもそこら辺は良く知らない。

アスカに問いただされて、真剣に悩み出した。うんうん唸っている。

「ん〜、どうしてだろ?『鬼は〜外!福は〜うち!』ってやるのに・・・」

「なにそれ?」

「あ、誰か、鬼の役の人を決めて、その人の豆をぶつけるんだ。災いが居なくなるように。」

その時、アスカの頭に過ぎるものがあった。自分でも下らないとは思うが。

「シンジ、豆まき、うちもしよっか?」

「え、いいの? アスカ知らなかったのに。」

「いいわよ。今、シンジが説明したじゃない。」

「そうだけど・・・・」

「そうだけど、何?」

「今日、ミサトさん帰ってくるのが遅いから・・・その・・・」

何か、シンジは暗くなっている。

「その・・・何?」

「・・・僕が・・・鬼をやる事になるから・・・」

アスカは大笑いした。

ゲタゲタ笑いながらシンジの背中をバンバン叩いた。

「くっく・・・そんなことしないわよ!安心しなさい!」

そこまでいってアスカは叩くのを止め頬を桜色に染めた。

何か、ぼーっとしている。

「あの・・・」

「・・・・・・・」

更に頬が赤くなっていく。今や耳まで赤く染まっている。

「アスカ?」

「!」

シンジは心配そうに覗き込んでいる事に気づき、アスカはビクッと肩を震わせる。

「な、何、どうしたの?」

「どうかしたのはアスカの方だよ。急に叩くのを止めたら、真っ赤になってるし・・どうかしたの?」

「うるさいわね!なんでも無いわよ!」

いきなり動きだしたアスカに当たられたシンジはちょっと面白くない。が、そのことは何も言わない。日常茶飯事なのだから。どうせすぐに忘れるし。

「じゃ、もう買うものもないし、帰ろう。」

そう言ってさっさとレジに籠を持っていって支払をすませ、店から出て行く。

 

アスカはそんなシンジの後ろを黙ってついていく。

(怒っちゃったかな・・・でも・・・言えないじゃないの・・・)

アスカは先を歩いていくシンジの背中をずっと見ている。

(あたしの、福の神は・・・なんてさ・・・)

でも、シンジは先をずんずん歩いていく。あっという間に二人の家に着いてしまう。

シンジは買い物してきたものを整理してさっさと夕食の準備を始めてしまった。

仕方が無いのでアスカは自分の部屋に帰ってベッドに腰掛け、縫いぐるみを抱いていた。

 

「あたし、最近『バカ』になってないかしら・・・?変な事で怒ったり・・・

道端で考え込んだり・・・さっきもそうよね・・・あたし、どうしちゃったのかしら?」

そうだ・・・

日本に来る前、ドイツに居た時はこうじゃなかった。

他人が何をしてようとどうでも良かったし、あたしをどう思ってようと良かった。

大抵の考えなければいけない事はその場で済んでいた。

なのに。

日本に来てから、いや、シンジと出会ってから。

他人が気になりだした。

あたしをどう思っているのか。

それに、どうしても分からない事があるのだ、ずっと。

それが何なのかすら、分からない。でも、ずっと何かが引っかかっているのだ。

「大学まで出た天才少女がなにやってるのかなぁ・・・」

そのままベッドに倒れ込む。

見慣れた天井があるだけ。

「あたし、どうしちゃったのかな・・・さっきだって・・・」

多分、本当はどうして黙り込んでるか問いただしただろう。例えその責が自分にあろうとも。

なのに。

何も言えなかった。

縫いぐるみをもっときつく、抱き締める。

ゴロンと、横になる。机の上にお置かれたフォトスタンド。その中に飾られた一枚の写真。

その写真をじっと見詰める。自分と、シンジ。

胡座をかいて座っているシンジの頭に肘を突いて、シンジの上から顔を出しているアスカ。

多分、3バカと残り二人と、ヒカリが遊びに来た時撮ったものだろう。

「・・・あたし、こんな風に笑ってたんだよね・・・日本に来てから・・・」

ドイツ時代の写真をみても笑っているものなど殆どない。あっても作った笑いなのだ。

「やっぱり、あたし、変わったのかな・・・」

そう・・・あたしは変わった。

シンジと出会ってから。

いつからか分からない。でも確実に変わった。

彼があたしに色んな物をくれるのだ。何を、と考えると困ってしまう。

でもくれるのだ。形じゃないものを。

「そうよね・・・やっぱりシンジが・・・・ね・・・」

 

その時、アスカの部屋の扉はノックされる。

「アスカ、晩御飯できたよぉ。」

「うん、今行く!」

アスカは勢い良くベッドから跳ね起き、鏡を覗き込む。そこに写っているアスカ。

「よし!大丈夫!あたしは世界一の美人よ!」

自分に気合を入れてキッチンの椅子に座る。

「さ、御飯よ!今日は何?」

「今日は、鶏肉を出し汁を酢で煮込んでみたんだ。」

「そっか・・・」

テーブルにおかれた赤いお椀をとって、それを一口齧る。

酢、と聞いてたから酸っぱいのかと思ったらそんなことは全然ない。

「シンジぃ、ホントに酢、使ったの?」

「うん、酢って、熱を加えてやるとさ、あんまり酸っぱくなくなるんだ。量の加減が難しいけど。」

 

夕食を終えて、アスカはリビングで寝転んで本を読んでいる。内容は・・・まあ在り来たりな奴だ。

シンジは食器洗いを終わってお風呂の準備が終わり、今はアスカの傍らでゲームをしている。

すでに二人ともお風呂に入ってあとは寝るだけだ。その時間をいつもこうやって過ごす。

アスカはこういった時間も好きだった。

ただ、シンジが側にいる。

それだけ。

何も無いけど、ただそれだけだけど、心が落ち着くのだ。

床に置かれた小さな入れ物に入ったお菓子を噛りながら本を読む。

何も無いけどなにか、暖かくて。

 

その時お菓子が切れた。

「シンジぃ、お菓子、無くなっちゃった。」

「うん、新しいの持ってくるね。」

そういってシンジはゲーム機をポーズ状態にして、席を立つ。

で、キッチンに置いておいた買い物袋の中をみるが、 「あれ?もうないや・・・ゴメン。」

「え〜っ今日、二つ買ったでしょ〜、もう一つは?」

「え、あれはただの豆だよ?」

「あ、そうだ、豆まき、豆まき忘れてた!」

「結局豆まきするの?」

「当然よ!この日にしか出来ないんでしょ?なら、その機会は逃さない!」

「そうだね。」

「そうよ!で、鬼は・・・っと。シンジ、スーパーで買った奴は?」

「ああ、今もって来るよ。」

シンジはリビングからキッチンに戻り、買い物袋から豆の入った紙製の升と、プラスチックの鬼の御面を持ってくる。

「でも、鬼の御面なんてどうするの?」

「決まってるじゃない!付けさせるのよ!」

途端にシンジの顔は青くなる。

「あのねぇ、スーパーでも言ったけど、シンジが鬼じゃないのよ。」

「でもここには僕とアスカしかいないよ。アスカが鬼、やるの?」

「違うわ!ミサトよ!」

「え゛?」

「だから、ミサトが鬼よ!」

「でもミサトさん、仕事で疲れてるし・・・」

なにか乗り気ではないシンジに向き直し、腰にてをあて、ふんぞり返る。

「いい?この家で一番遅くまで寝てるのは誰?」

「ミサトさん。」

「一番部屋が汚いのは誰?」

「・・ミサトさん。」

「ゴミを一番出すのは誰?」

「・・・ミサトさん。」

「はい、これで理由としては十分よ。このうちで最大の怠け者。こういったときくらい働いてもらってもいいわよね?」

「・・・・・・・」

「い・い・わ・よ・ねっ!?」

アスカはシンジにヘッドロックをかけ、こめかみに中指を多めに突き出した拳をグリグリと充てる。

「は゛い゛、い゛い゛です゛。」

シンジがOKした途端その手を放す。

「じゃ、いいわね♪」

アスカは御面を脇に抱え、玄関に向かう、シンジも升を抱え、その後に続く。

その時。

かちゃ。

「たっだいまぁ!あら、シンちゃん、アスカ。」

ミサト、帰宅。少し顔が赤い。ついでに酒クサイ。

「はぁい♪ミサト。ここで問題でぇす!今日は何月何日でしょう?」

指を折って数えている。

「ぷっ、ぷっ、ぷっ、あと5・4・3・・」

「2月4日!」

「はい正解です。でわ第二問。その日は何の日でしょ〜?」

「えっと・・・えっと・・・ん〜っと・・・」

「ぷっ、ぷっ、ぷっ、ぷ5・4・3・210!はい時間切れ〜っ!」

にこにこしながらミサトに不正解を宣言するアスカ。

「ちょっとぉ、210ってはやかったじゃないのぉ・・・」

なんか不満顔のミサト。

「正解は節分でぇす!じゃ、バツゲーム。ミサト、鬼。」

で、ミサトの顔み御面を被せ、耳に輪ゴムを掛ける。

「ちょ、ちょっとぉ、帰った早々何なのよぉ!」

確かにそうだ。家に帰ったらいきなりクイズ。で、バツゲームと称して御面を被せられる。訳わかんないだろう。

「は〜い、じゃ節分開始ぃ!鬼は〜外!!」

シンジのもってた升から豆を一掴みすると、思いっきりミサトにぶつける。

「いたいいたい、ちょっとアスカイタイってばぁ!」

「いい、あんたは鬼なの。お・に!ほうら鬼退治だぁ!」

更に問答無用でまめをぶつけるアスカ。

「ひぃぃぃ!桃太郎だぁ!を助けぇ!!」

ミサトも調子に乗ってきた。多分(いや、間違いなく)酒の所為だろう。

玄関から靴を脱いで自分の部屋へと逃げ回るミサト。嬉々としてそれを追い掛け回し、豆をぶつけ続けるアスカ。呆然と見ているシンジ。

やがて二人は家を一周してシンジのいる玄関に戻ってきた。

「ほら! シンジも!ぶつけるのよ!」

アスカは何時の間にかシンジから引っ手繰っていた升から一掴み分豆をシンジに手渡す。

「でも・・・」

「どうしてあんたが毎日御飯作ってるの?

洗濯してるの?

ゴミ捨ててるの? 全部ミサトが怠慢だからでしょ!!」

そう言われると、シンジにもなにか思う所が胸に込上げてきた。豆をじっと見ている。

「さあ!いまこそ!その日ごろ溜まった鬱憤を晴らすのよ!怠け鬼を退治するのよ!」

右手に渡された豆をじっと見ていたが、それをぎゅっと握り締める。

「さぁ!」

「うぉぉぉぉ!」

雄叫びを上げる。

「怠け鬼!は!!外ぉ!!!」

全身の力を込めて投げつけた。

「あいやぁぁぁぁぁぁぁ!」

ミサトにクリティカルヒット!

「あうあう・・・」

ミサト、退散。ドアをあけて逃げ出した。

それに追い討ちで2回ほどアスカは豆をぶつけたあと、また戻ってきた。

「さ、これで悪い鬼は退治したわ!今年一年も無病息災よ!!」

アスカは胸を張っている。シンジは閉まったばかりのドアを見ている。

「どうしたの?」

「ミサトさん、どうするのかなって・・・」

「大丈夫、ここに帰ってこなくても加持さんちにでも行ってるでしょ?酒臭かったし。」

「そうだね。」

「で、あとは何かあるの?」

「豆を歳の数だけ食べるんだ。」

「そっか。じゃ、リビングに戻ろ♪」

 

リビングに戻った二人は升に残っていた大豆を年齢分とって、一個ずつ食べている。

寝転がってテレビを見ながら。

「ね・・・」

「ぽりぽり・・・どうしたの?」

「ミサトが戻ってこないって事は今夜は朝まで二人っきりよね♪」

そこで思わず喉が鳴ってしまうシンジ(笑)。

「時間があるからって、あんまり燃えないでよ」

シンジはそれを聞いた瞬間、そこら辺にあったクッションに突っ伏した。

アスカはころころ笑っている。

「ふふ・・・大丈夫よ・・・二人っきり、なんだから・・・」

アスカはシンジにしだれかかる。手入れの行き届いた髪がシンジの頬に掛かる。

 

そして、部屋の電気が消された。

 

 

 

 

Fin

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お・ま・け

 

シンジとアスカのいるマンションの前に一台の蒼いアルピーヌ310が止まっている。

なかには一組の男女。

「あの二人、うまくやってるのかな?」

「ああ、大丈夫さ。電気も消えてるし、な」

「そりはちょっと・・・行き過ぎのような・・・まぁいっか♪」

「そうさ・・・それにしてもたまには諜報部も役に立つな。」

「そうね・・・豆まきなんて・・・子供のころしただけだから忘れてたわ。」

「さて・・・葛城はどうする?家に帰るか?」

「まさか、あたしもそんな無粋はゴメンよ。」

「じゃ、どうする?」

「ドライブしよっか。昔みたく。」

「そうだな。」

「あ、でも、ここ→ラブホテルはだめよ♪」

「はいはい。じゃ飲みにいくか。」

 

そして、その男女は夜の帳へと消えていった・・・

 

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後書き

 

へっくし! ぐじゅ・・・どう゛も゛壊れ人形@風邪引きです。

はぁ・・・時事ネタ書こうとしたのに・・・なんか関係無くなってるし・・・LASになり切れてないし・・・

途中でまた重くなりそうになるし・・・うう・・・18禁書けないし(N2爆)・・・やっぱ人生明るく生きなくてわ・・・

よし!次回は頑張ってヤヲイだ! カヲルxシンジの馬鹿&ゲロ甘&イミナシだ!

でわでわ・・・この辺で・・・

 

弐月一日

灰野敬二とHide、Wes Mongomeryを聞きながら。

 

壊れ人形@えせLAS人