餅つき

 

作・たくさま


その日アスカは気持ちよく目覚めることが出来た。

 

「ん・・・」

 

部屋に漂う香ばしい香り・・・シンジの準備した朝食の匂いだろうか・・・

 

暖かい布団・・・シンジが昨日干しておいた布団。

 

そのどちらもが彼女を再び眠りの世界に誘おうとする。

 

「何時かな・・・!」

 

手元の目覚しは8時30分を指し示している。

 

「完全に遅刻じゃないの!」

 

慌てて布団を跳ね除け、ベッドから飛び降り、そのままドアを乱暴に開けて一言。

 

「ぶぁかシンジ!完全に遅刻じゃないの!どうしてくれんのよ!・・・って?」

 

アスカが一喝した方向・・・リビングのシンジは普段着でまだ朝食を作っている。

 

アスカの声を聞きおわってからため息を一つ吐いて、

 

「アスカ・・・もう冬休みなんだから・・・」

 

アスカはカレンダーを見やると、確かに冬休み。

 

「で、でも、昨日までは今まで通りおこしてたじゃない!」

 

「昨日アスカが言ったんじゃないか・・・『休みくらいゆっくり休ませろ!』ってさ・・・」

 

つまり、シンジはアスカの言った事を守ったのであり、この場合、非はアスカにある。

 

「・・・・シャワー浴びてくる!ずぇったい覗かないでよ!」

 

それでも誤ることなくさらにシンジを怒鳴りつけ、バスタオル2枚をチェストから取り出し、そのまま風呂場に向かう。シンジはア

スカのそんな理不尽さに慣れているのか、アスカがいなくなると、何事のなかったかのようにまた朝食の準備に戻った。

 

 

 

風呂場にこだまするシャワーの音。体を擦るスポンジについた石鹸の泡立つ音。

 

「なによ、ばぁかシンジのくせにさ!」

 

ぶつぶつシンジに文句を言いながらアスカは自分の体を丹念に磨き上げる。来るべき日のために。

 

「『休ませろ』と言ったわよ。わたしは。でも『寝かせておけ』とは言わなかったわよ。!

 

せっかく2人きりなのにさ・・・ばかシンジのやつ・・・」

 

体に付いた泡を流し、髪を丹念に洗って濯ぐ。

 

シンジの入れといた湯船に結ったりと浸る。

 

「まったく・・・ずぅっと進展がないんだから・・・」

 

2人っきりで生活するようになってから・・・何の進展もない。

 

あいかわらずシンジは自分の身の回りの世話をしている『だけ』だし、自分はシンジに文句をいってばかりである。

 

「どうしてかな・・・ってやめやめ!ここでうじうじ悩むのは性に合わないわ!」

 

湯船からあがり、冷たい水を浴びる。火照っていた体が一気に冷やされて気持ち良い。頭のほうも完全に目が覚めた。

 

「さて・・・今日もがんばるわよ!」

 

 

 

体を丹奇麗に拭き上げてバスタオルをまいてリビングにいくと、テーブルの上には食事が1人分だけ準備されている。

 

「あたしの分は?」

 

シンジはまだなにか用意しているらしく、キッチンから離れない。

 

「ああ、それはアスカの分だよ。」

 

「そ。いただきます。」

 

リビングに響く味噌汁を啜る音。

 

「ねぇ、今日、どっか買い物にいかない?」

 

なにげに呟かれる一言。

 

「あ、ごめん。今日は無理だよ。」

 

 

 

がちゃん!

 

 

 

「どうしてよ!休みなんでしょ! ヒマなはずでしょう!」

 

アスカは手に持ったお椀を派手にテーブルに叩き付ける。

 

「あの・・・今日はお餅をつくから・・・」

 

「餅?買えばいいじゃないの!」

 

「あ、いや・・・その・・・買ったお餅ってまずいから・・・」

 

「そう・・・シンジはあたしよりお餅を選ぶのね・・・・」

 

アスカの心が段々と暗くなっていく。

 

慌てて弁解するシンジ。

 

「いやそうじゃないよ!アスカには美味しいものを食べてもらいたいから・・・」

 

「・・・・・」

 

「アスカも、一緒にしようよ、餅つき。」

 

「・・・うん・・・けどシンジ!不味かったら承知しないからね!」

 

「うん。」

 

 

 

10分ほどしてからシンジは一旦自自分の部屋である物置にもどり、大きな機械をとってきた。

 

蒸しあがったもち米をその中に入れていく。

 

「シンジ、臼と杵でつくんじゃないの?」

 

アスカの記憶では餅は杵と臼で作るものである。

 

「あ、そうしたいけど、僕はそんなに力がないし・・・」

 

機械のスイッチをいれる。リビングに響くモーターの音。

 

3分程してシンジは機械のスイッチをきり、中から出来上がった餅を取り出す。

 

「アスカも手伝ってよ。」

 

「いいけど、何をすればいいの?」

 

「僕が適当な大きさに千切るから、それの形を整えてね。」

 

まだ熱い餅を適当な大きさに千切り、粉をうっておいたテーブルに並べる。

 

「へーやわらか−い。」

 

アスカはつきたてもお餅の感触が気持ち良いらしく、ずっとこねくり回している。

 

「アスカ、そんなに触っていると皺が寄るからもっと手早く!」

 

シンジは餅を千切りおわって自らも形を整えている。

 

「あ、ホントだぁ・・・皺だらけ・・・」

 

「すぐに表面がかたくなりだすからね。」

 

「ねぇ・・・あたしの胸とどっちが柔らかいかなぁ?」

 

「・・・・・・・・!」

 

アスカは自分の双丘に千切られた餅を挟み込み、シンジに見せびらかす。谷間のくっきりわかる胸の間に挟まれたお餅。

 

シンジは無論、真っ赤である。

 

「どっちだと思う?」

 

アスカはシンジににじり寄る。もっと近くでシンジの目に入るように。

 

仰け反るシンジ。

 

「わ、解んないよ!」

 

「早く答えてくれないと・・・お餅が固くなっちゃうじゃなぁい?」

 

何故か潤んだ瞳でシンジを見つめるアスカ。

 

もはやシンジに逃げは許されない。

 

「アスカの・・・胸かな。」

 

その答えに満足して、にっこり微笑むアスカ。

 

「はい、ご褒美。食べていいわよ。」

 

更に胸を突き出す。

 

シンジにも

 

その意味が分かり、アスカの胸に挟まれた餅をそっと口で引っ張り出し、少しずつ飲み込んでいく。

 

ゆっくりと突き立てのお餅を飲み込んでいく。シンジの口と、アスカの胸の間でのびるお餅。

 

シンジは食べおわって、アスカから離れる。アスカは自分のむねに残った餅のカスを指先でこそぎ落とす。

 

「鏡餅を作らなくちゃ・・・」

 

シンジはアスカから逃げるようにまたもち米の準備を始めた。

 

 

 

 

 

結局二升分の餅をついて餅つきは終わった。

 

シンジは機械を片づけ、昼食の準備お始めている。うしろから見守るアスカ。

 

 

 

「さっきはよくも嘘ついたわよねぇ、シンジ?」

 

「え、なにが?」

 

「触ってもいないのにどうしてあたしの胸の方が柔らかいって解ったのかしらぁ?」

 

 

 

ざくっ

 

「あ、アスカ、変な事言わないでよ、指切っちゃったじゃないかぁ!」

 

「ばっかねーホント。ほら見せなさいよ。」

 

シンジの左手を見るアスカ。中指の先から少し血が滲んでいる。

 

「不器用なんだから・・・」

 

ポケットからばんそうこうを一枚取り出し、シンジの傷口にまいてあげる。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「い、いいわよこのくらいの事・・・

 

でも、シンジ・・・来年は本当にどっちが柔らかいかこたえられるようになってね?」

 

「えっと・・・その・・・そうなるように頑張ります・・・かな?」

 

「うふふ・・・」

 

 

 

来年もシンジの受難(幸福だろうな)は続きそうである。