「雪か……珍しいな、兄貴」
「あぁ、この地方では雪が少ないらしいが、帰って好都合だ」
降り積もる雪の中、黒服の男たちが足早に駆けていく。
「ただでさえ、人通りの少ないこの裏街道だ。雪が解けちまえば、足跡はおろか、なんの痕跡も残らないだろうよ」
「ちげぇねぇ、さすが兄貴は頭がいいや」
感心したように呟く男。“兄貴”はニヤリと笑みを浮かべた。
「でも、これどうするんですか? こんな珍しいもの、売ったりしたらすぐに足がついちゃいますよ」
「へへへ、決まってるだろ。な、兄貴。どうするんで?」
“兄貴”は、何にも考えていない弟分に苦笑しながら
「お前たち、いや、愚民たちもしらねぇと思うが、金持ちだけで行われるオークションっていうのが王都にある会員制カジノで開かれてるんだよ」
「へー、兄貴は物知りだなぁ」
「ボクも知りませんでしたよ」
感心する弟分たち。“兄貴”は少し得意げに
「そこでは、庶民にはとんと縁のねぇような高価な品から、法律上禁止されているような危ねぇ商品。果ては奴隷売買まで行われてるって言う話だ」
1ヶ月前、王都から来たという情報屋から聞いたことをそのまま自分の知識のように話す“兄貴”。
「そのなかでも、特に値が釣り上がるのが、盗品や盗掘品といった世の中にでまわらねぇ類の商品だそうだ」
「なるほど、それでこれをオークションに掛けるっていうわけなんですね」
「おうよ」
「さすが兄貴。考えることが俺たちと違うねぇ」
「まぁな。それより早いこと行くぞ。今夜中にサンマリーズまでは突破する。王都についたら幸せが待ってるぞ!」
男たちは激しく降りだした雪にも構わずに、さらにスピードを上げていく。
「兄貴ぃ、ここはどこらへんですかぁ?」
あれから走ること数時間。3人は森の中で思い思い腰を下ろしていた。
「さぁ、どっかの山ん中だろ」
「あ、あそこになんか明かりが見えますよ」
「どれどれ、あ、そうだな。ちいせぇ集落みたいだな。でも、レビンは眼がいいな」
「いやぁ、ありがとうございます」
レビンは頭を掻きながら照れたように頭を下げた。
「まったく、シューセも少しは見習えよな」
「へへへ、それを言われるとつれぇもんがあるなぁ」
がはは。と大きな声で笑うシューセ。
“兄貴”とレビンは思わず口に人差し指をあてて睨み付けた。
「んじゃあ、そろそろ行こうか」
“兄貴”が腰を上げようとした。その時
「行くのは、ちょっと待ってくれないか」
木陰から、ひとりの男が姿をあらわした。
すらりと背は高く、腰まで有りそうな髪を肩ぐらいでひとつに縛っている。
黒いロングコートに身を包んだその男は、口元に微かな笑みを浮かべながら近づいてくる。
「な、なんだてめぇはっ!」
シューセは驚いたようにあとずさると、腰に手を伸ばした。そこに自分の思った通りのものを確認すると、それをしっかりと握る。
「いや、ただ君たちが持っているものが欲しいだけでね……おっと、私は別に争うつもりなんかないから、そんな物騒なものは掴まないでくれ」
「いきなり、現れて物を置いていけ、か。おっさんは物取りか何かかい?」
“兄貴”は隠しナイフの位置を確認しながらも、からかうような口調で挑発した。
「別に物取りじゃないさ。それより、私はまだ15だ。“おっさん”はやめてほしいね」
男は、挑発をさらると受け流した。“兄貴”がすこし呻く。
「それで、あなたは何をしに来たんですか? 通り掛かりとかいうのはナシですよ」
「私は、君たちが持っているあるモノが欲しいだけなんだ。そう、今日君たちが持っているモノが、ね」
「そうですか。でも、そんな話だけでボクやシューセ、ヒロ兄さんが承諾するとでも思ってるんですか?」
「いや。そう簡単にはいかないと思うね」
「じゃ、どうするんだ? 力づく、とでも言うわけかい?」
「そうなるか……な?」
「兄貴、こんなやつ、俺ひとりで十分ですぜ!」
言うやいなや、シューセは男に向かって走り出した。
手には、しっかりと彼の獲物である樫の棍棒が握られている。
「結局、こうなるか……」
男は呟くと、向かってくる大男の姿に照準を合わせた。
「くらえぇ!」
両手で棍棒を握ると、思いっきり振りかぶった。そして一気に男に向かって振り下ろす。
「殺ったな」
兄貴――ヒロは思わずそう呟いていた、が、次の瞬間、その口を大きくあけて固まってしまった。
「な……なんだと?」
シューセも驚いたように自分の棍棒を見ていたが、次の瞬間、背後に衝撃を受け昏倒した。
男はすばやくシューセのうしろにまわりこむと、首筋に手刀をたたきこんだのだ。
一連の動きがあまりにも早かったため、シューセとヒロには男が消えたように見えたのだろう。レビンは冷静にそう分析していた。
「さて、私としては、あまり事を荒立てたくないんでね。まだ、モノを渡す気にはならないかい?」
男は、何事もなかったように近づいてくる。
ヒロは男の背後で倒れているシューセに目をやりながら、
「て、てめぇ、よくも……」
「あ? あぁ、あの男なら気絶してるだけだ。でも、雪の中だから、早いこと助けてやったほうがいいんじゃないのか?」
「う、うるせぇ!」
逆上してナイフを握るヒロ。いつもの冷静さは影を潜めてしまったようだ。
「死ねぇ!」
ナイフを手に突進していくヒロ。レビンは、そんなヒロの様子を驚くほど冷静に見ている自分に気付いた。
(あれじゃ、ムダだ。あの男に正攻法は通じそうにない)
「ふっ」
男は、息を一つ吐くと一気にヒロの方へ向かっていった。
ナイフを持つ手をあっさり躱し、懐に拳を叩き込む。ヒロは呻き、手からはナイフがこぼれ落ちた。
「こ……この、盗っ人やろ……」
「君たちだってそうなんだろ?」
耳元でささやくと、男はもう一発拳を入れた。無言でくずれていくヒロ。どうやら気絶してしまったようだ。
「さぁて、仲間はいなくなったが、君はどうする?」
レビンは、無言で男に布袋を突き出した。男は意外そうな顔をする。
「あなたには、かないませんよ。兄さんたちをひきづって行かなきゃならないし、別にコレに未練はないです」
男は受け取ると、さっと袋の中を確認した。モノが入っていることがわかると、それを懐にしまう。
「しかし、いいのか?」
「何がです?」
「何が、って?」
意外そうな顔をして聞き返す童顔の少年に、男は気を抜かれたように
「だから、勝手に私にこれを渡したことだよ。あとで怒られるんじゃないか?」
「いーんですよ。別に」
「じゃ、これは貰っていくよ。ありがとう」
男は、くるりと背を向けると歩き出す。レビンは、その後ろ姿に声を掛けた。
「あの、もしよかったら、名前をきかせてもらえますか?」
「トレイシーだよ。では、さらばだ」
「トレイシーか……」
「役に立たないやつら……」
ヒロとシューセ。気絶しているふたりを見下ろしながら、レビンは吐き捨てるように言った。
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雪が溶け出した頃、ヨルカ村からすこしはなれた森の中で、二人の男の凍死体が発見された。黒い服を着ているだけの姿に、村人はあれこれウワサをしていたが、結局遭難者として、村の墓地に埋葬されたのである。
(つづきます)
ぽんたのあとがき\(^▽^)/
必殺!お捜し人 新連載開始です。
でも、早くも挫折気味★ こんなに長いプロローグがあっていいのだろうか!?
セリフは浮かんでも、情景をうまく描写できない。描写しようとすればするほど、長くなっていく、というちょっとツライ状況です。
あ〜あ、ただの前振りなのにな〜。これ。
一応、ぷろろーぐの舞台は「宝物」から15年さかのぼってたりします。
ウィルやマギー、バズなんかはまだ生まれていない時代です。
次回からは、ちゃんと登場していくので、よかったらのんびり見守ってやってくださいね。
P.S.
なお、今回登場した黒服3人は、あるバンドから名前を借りてきました。ファンの皆さん、ごめんなさい★(でも、書き方で、ぽんたが誰のファンかわかっちゃうかな……)