何も考えられない。
彼の腰にまわした腕、それだけが今のあたしを支えていた。
バイクは夜の闇の底を疾走していく。
彼が、今なにを考えているのか。
彼が、今どんな表情(かお)をしているのか。
あたしにはわからない。
「ちょっと、家によるけど、いいか?」
感情を押し殺したような低い声。
「うん……」
あたしは小さな声でつぶやいた。
「ちょっと待ってて」
「うん」
「ありがとう」
彼はそう言うと、家の中に入っていった。
いつもわくわくしながら眺めた光景。
見慣れたはずの町並み。
でも、今夜は無性に怖かった。
今まで普通だったものが、今日コワレタ。
今までの世界が、今日コワレタ……。
彼は自動車の塗装工をしている。
ペンキやスプレーに汚れた壁だけが、あの頃の面影を残していた。
「……みゃあ」
不意に聞こえたか細い泣き声。
壁の前に、ダンボール箱が転がっていた。
「かわいそう、捨てられたの?」
あたしは、ネコを抱きかかえた。
「ふみゃあ」
ネコはあたしに救いを求めるように脚を伸ばしてくる。
「ひとりぼっちで、淋しかったのね……」
ネコの頭をなでながら、あたしは思いをはせる。
「あたしと、いっしょ、か……」
「ごめんね、あなたを連れては行けないの……」
「ふみゃ?」
不思議そうにあたしをみるネコ。
「ごめん、ごめんね……」
純粋な瞳。あたしはネコを抱きながら涙を流した。
「悪い、待たせたな」
声に振り向くと、彼は黒いスポーツバックを肩からかけていた。
「なに? そのバック」
彼はチャックを開けて、中から鉛色の物体を取り出した。
「拳銃……」
「拳銃に、マシンガン」
あたしは何も言わなかった。
彼はバックにしまいなおすと、あたしに声をかける。
「こうなったら、どこまでも逃げるつもりだ」
「……」
「おまえはどうする? これ以上巻き込むわけにはいかない」
「あたしは……」
彼の顔には、さっきまでの迷いはなかった。
あたしは彼の胸に飛び込む。
「あたしも一緒にいく。一緒に逃げよう」
「いいのか?」
「いい。後悔なんかしない」
彼はかすかに微笑むと、バイクにまたがった。
あたしは彼の腰に手を回す。
「そろそろ、誰かが通報したのかなぁ」
「さぁな」
エンジン音をあげて、バイクが動き出す。
もう迷わない。
ネコは悲しげな瞳でふたりを見ていた。
いつまでも、いつまでも。
遥か彼方に明かりが見える。
「コンビニだ。おなかすいたなぁ」
「寄るか?」
「寄ろうよ」
バイクは、コンビニを目指して走っていった。
(つづく)
ぽんたのあとがき\(^▽^)/
はい、第2話です。
全5話の予定ですが、終わるんでしょうか?
うーみゅ。今回はちょっと強引かな?
心の変化もうまくかけてないし。
力不足を実感しているなの〜☆
ということで、次回からはどんどん戻れない道へ進んでいく(はず)、です。
次回は、コンビニのシーン(笑)。さて、なにをするんでしょうか? ぐふぐふ。
ということで、ぽんたでした☆
『願い事ひとつだけ』かけないよぉ。ネタぐぁ〜(涙)