宝物

其の四

作・ぽんたさま


「あなたが、捜し屋ウィル=ゴーダね」

 スレイ夫人は、開口一番にそう言った。

 あのあと、執事に招かれて通された客間。出された香茶をすすり、お茶菓子をぱくぱく食べていると、スレイ夫人が入ってきたのだ。

 夫人は、室内を一瞥すると、ウィルに目をとめた。

「あっ、俺、ちょー有名人」

 ウィルが少しおどけて言うと、スレイ夫人は口元にかすかな笑みを浮かべた。

「あなたは有名よ。サロンで話題にならない日はないわ。ほら、以前もドーソンの家で仕事したじゃない」

 そこまで言って、少し考えたように首をすくませる。

「確か、あの時は何十人も子供を連れてきたって聞いたんだけど。今日は何で少ないのかしら? 二人しかいないのだけど」

「プロは、もっともやりやすい方法を取るんです。ドーソンさんちの時は、失くしたものを捜すやつだったから、人海戦術のほうがいいと思ったから、でも、今日の依頼は宝捜しでしょ? そんな時にいっぱい連れてきたら、仕事になんないもん」

 なるほど、夫人は思った。確かにこの子の言うことには一理ある。

「そういうわけなの。じゃあ、今日は少数精鋭というわけね」

「そういうこと! ほら、マギーもバズも緊張しないで自己紹介じこしょうかい!」

「あ、はい。えーと、あたし、マギー=ディーバって言います。ウィルのアシスタント兼助手でぇす。よろしくお願いします」

「あ、あの、……ぼ、僕は、バ、バズ=フェルナット……です」

 堂々と言うマギーとは対照的に緊張しまくっているバズ。ウィルは苦笑しながら、

「ま、二人とも結構役に立つから。連れてきました。よろしく」

 マギーは、知らない大人と普通に話ができるウィルがすごいと思った。人一倍人見知りするバズには、到底できないことだろう。ますます差がつくウィルとバズだった。

 

「さて、そろそろ本題に入りたいのですが、よろしいですか?」

「は―い」

 一段落つくと、夫人は話を切り出した。

「先日お渡しした地図、持ってきましたか?」

「あ、これでしょ。もちろん持ってきたんだけど、正直これだけじゃわかんないんよ。ただ線と×印が書いてあるだけなんだもん」

「どっちが海でどっちが陸かぐらい書いて欲しいわよね」

 地図に向かって悪態をつくウィルとマギー。その様子を見て夫人は笑みを浮かべた。

「実は、その地図は執事に言って写してもらったものなの。本物はこっち」

 そう言って、傍らにあった箱を開けた。中に入っている地図を取り出し、ウィルたちに見せるようにする。

 ウィルの家に送られてきたものとは違い、いくつもの線が入り組んだ地図である。さまざまな箇所に注釈もしてある。

 夫人が地図を裏返すと、何か走り書きのようなものも書いてあった。

「なんだよこれ、うちに送られてきた奴と全然違うじゃんかぁ」

「そうよぉ、あれじゃ全然分かんないじゃないのぉ」

「ごめんなさいね。でも、これが本物なのよ。これ見ただけで分かるかしら?」

 その時、執事が夫人の元に歩いてきて、何か耳打ちした。

 夫人は肯くと、ウィルたちに向かってすまなそうな顔を向けた。

「悪いんだけど、これからお茶会があるっていうのよ。とりあえず、私は席を外すから、がんばってちょうだい」

 そういうと、夫人は執事を連れて部屋を出ていった。

 

「なんか、貴族って言うわりには、あんまり偉そうって感じじゃなかったわね」

「それだけ、貴族さまも様変わりしたってことだろ。それよりおしごとおしごと♪」

 ウィルはさっそく地図を広げた。線を指でなぞりながらぶつぶつ言い出す。

「えぇと、こっちが海……か、あ、マギー、この街なんって名前?」

「ウィル、字が読めないの? えぇと、ここはエ…ソス……、バズぅ、この字なんて読むんだっけ?」

 いきなり名前を呼ばれて、びっくりしたが、マギーに頼りにされていると思うと、俄然張り切るバズだった。

「ここは、エフェソスだよ。海沿いにある港町だよ。ほら、よくヨルカ村に干物売りが来るだろ。あの干物の産地なんだ」

「へぇー、バズ変に詳しいのね」

「バズ、地理とか詳しいのか?」

「まぁ、僕はよく本読んでるからね。今度君たちにも教えてあげようか?」

「やだ」

「あ、それは別にいいから。エフェソス……と。すると、上の方にあるこの村は、ヨルカ村かな?」

「うん、そう! なぁんだ、結構近いのねぇ」

「で、この山は……?」

「えぇと、キ、キ……、バズ! これなんて読むの?」

 返事がないので振り返ると、バズが部屋の隅でいじけていた。さっきの二人のつれない態度が原因らしい。が、マギーはそんなことおかまいなしのようだ。

 手に持っていたクッションをバズに向かって投げつける。命中して前のめりに倒れるバズ。

「こらぁ、さっさと来なさいよぉ」

「うぅぅぅぅぅぅぅ」

 目元をこすりながらこっちへやってくるバズ。マギーの行動に引きまくるウィル。

「ほら、男の子なんだから泣かないの!」

(誰が泣かしたんだよう)

 バズは内心そう思っていたが、あとあとを考えるととても言えなかった。泣く泣くマギーが指している地名を見る。

「こ、ここは、キュレネ山脈だよ。それで、この山はキュロス山だよ。去年の秋に遠足に行ったじゃないか」

「早くそう言えばいいのよっ!」

「それはそうと、バズ、泣くなよ。そのキュロス山ってむらのどっち側にあるんだ?」

「えぇと、確か村の南東の方だったかな」

「オッケー! だいたいつかんだ。要は、この×印は、要塞都市シドン辺りってこと。ヨルカ村から馬車で二時間もあれば着くんじゃないかな?」

「でも、この間にある森って、魔女が住んでるってうわさじゃない。それに泣き女の沼のそばも通るのよぉ」

「へーきへーき、魔女なんているわけないじゃん。そんなの昔話だけだって。どうせ偏屈ばぁさんがひとりで住んでるだけだよ」

「でも、ムッシュさんちのおばさんが、魔女が箒に乗って空を飛んでるのを見たって」

「それはバズが見たんじゃないだろ? おばさんは森に入ったら危ないからってことでそんな話をしたに決まってらぁ!」

 

 ウィルは無責任にそう言い放つと、この話はこれでおしまいっとばかりに地図をひっくり返した。

「あれ? なんだこれ」

 バズが不思議そうな声を上げる。地図の裏には何か文字が書かれていた。

「これ、何の文字? あたし、こんなの見たことないわよ」

「僕だって分からないよぉ。なんか昔の言葉じゃないのかなぁ」

「『主よ、大禍から我が身を守りたまえ』か、古い教会語の聖句だな。ってどうしたの?二人とも」

 さらりと読んだウィル。驚愕したようにマギーとバズは口を開けていた。

「ウィル、文字読めないんじゃないのぉ?」

 ウィルは、憮然としたように

「読めないんじゃなくて、知らないんだよ。ここら辺の言葉はさ。まったくじーちゃんもくそ親父も、教会語やらシノン語やら古代文字やら古くさい言葉ばっかり覚えさせるんだから」

 古文書が読めて絵本が読めないなんてシャレにもならない、とウィルは思った。

「でも、どういう意味なんだろう?」

「リドル(謎かけ)かなぁ? ウィルはどう思う?」

「ん? これ? 結構古い遺跡にはだいたい書いてあるんだよ。そんな深い意味はないと思うけど?」

 その時、扉が開いた。執事を連れてスレイ夫人が入ってきたのだ。

「お疲れさま。ウィル=ゴーダ、何かわかったかしら?」

 

 

(つづきます)

 

前回の訂正

ウィル、マギー、バズの醇で→ウィル、マギー、バズの順で

 

 

 ぽんたのあとがき\(^▽^)/

 

 はふぅ。ふみぃ。

 おはなしが全然進まないよぉ。地図だって全然わからないとおもうしぃ。

 イラストをのっければわかりやすいんだろうけどさ。

 

 さて、このシリーズ、今回が第4話というわけです。多分来週から宝捜しがスタートする(予定)なんで、全7回ぐらいで終わるかな?

 

 ま、要はこの『必殺! お捜し人』の世界がわかってくれれば、という目論みで始めたこのおはなしです。

 少しでも楽しんで読んでもらえれば幸いです。

 それでは、今回のBGMはCoccoさんの『強く儚い者たち』でお送りしました!

 

 

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