ぱき。
意外に軽い音を立てて、宝珠はほぼ真っ二つに割れた。
「きゃあ☆」
マギーが嬉しそうな悲鳴を上げた。
割れた宝珠の中から、光り輝く石がころころ出てきたのである。
ウィルは、静かに腰を下ろすと、光る石をいくつか手にとって眺めた。落ちたショックで多少細かい傷があったが、正真正銘「宝石」と読んでいい代物だ。
「結構大きいな、ちょっと傷ついてるけど、立派なもんだよ」
「あ、うぃるぅ、あたしにも見せて〜☆」
ウィルはいくつか手渡した。マギーは手のひらの上に乗せて眺めている。
「きれいねぇ、これっていくらぐらいするのかしら」
「うーん、金貨8枚はくだらないかな?」
金貨8枚という言葉を聞いて、マギーは無造作にいじっていた指をとめた。あわててきゅっと握りしめる。
「え〜! そんなにするんだぁ」
ウィルは苦笑しながらも、落ちている宝石をすべて拾い集めた。大小計18個のそれを、皮袋にほうり込む。
「思ったより、簡単な所にあったなぁ。でも無事発見ってことで」
マギーから返してもらうと、手を叩きながら言った。
「前の宝捜しの時は大変だったもんねぇ。バズは片っ端から罠に引っ掛かるし、ウィルはどんどんいっちゃうし、宝物は見つからなかったし」
思い出すようにマギーは言う。ウィルは立ち上がると、マギーの肩をぽんとたたいた。
「はいっ、おしまいおしまい。お疲れさま☆」
「……!!」
バズは、外れた十字架とそれを持っている手を順番に眺めた。
「あれ? 外れ…た…の…?」
教会の、古い鉄製の扉、その右側のノブの役割をしていた十字架のモニュメントがあっさり外れたのだ。
「僕のせいじゃないよ…ね…」
おそるおそる十字架とそれが入っていた穴を覗いてみる。
よく見ると、十字架の裏側に細工がしてある。どうやらある一定の角度を超えると外れるようになっているらしい。バズは少しほっとした。
「よかったぁ、器物破損になっちゃうから」
バズは十字架を元に戻そうと扉に手をかけた。しかし、穴の奥のほうに白いものを見つける。
「なんだろ……?」
バズは指を伸ばしてそれを取った。どうやら紙がまいてあるものらしい。ちょっと黄ばんでいて、それの古さを感じさせた。
それを見ようとした時、ふいに扉が開き、バズはなす術もなく階段を転げ落ちた。
「ばずぅ、何やってんのよぉ」
バズが顔を上げると、階段の上でマギーが仁王立ちになっていた。後ろのほうではウィルが心配そうに見ている。
「何……って……」
憮然とした表情でふたりを見上げるバズ。どうやらふたりが扉を開けたために自分は転倒したらしい。
「大丈夫か?」
ウィルは身軽に階段から飛び降りると、バズの横に来た。マギーも階段を降りてくる。
「うん……そういえば、宝物ってあった?」
バズがそう言うと、ウィルは皮袋を取り出して、中身を手のひらに載せた。
「すごいや。これが宝物だったの?」
「うーん。断定は出来ないけど、これぐらいしかなかったから、これでいいじゃん」
ウィルは気軽にそう言うと、再び瓦礫の山と対峙した。
「よぉし、戻ろっか。バズ、今度は助けないからなっ! マギーも気をつけて」
「はぁい☆ でも、登る時に手伝ってね☆」
ウィルは身軽に瓦礫の山に登っていく。マギーもウィルの手を借りて登っていく。
「あぁ、ちょっと待ってよぉ」
バズは、紙を後ろのポケットに突っ込むと、慌ててふたりの後を追った。
「ほんとうにありがとうございました。何とお礼を言ってよいやら」
リュージュ家・スレイ夫人はそう言って頭を下げた。
あのあと、馬車でそのままリュージュ家にむかった三人。客間に通され、香茶とケーキをいただいていると、スレイ夫人がにこにこ顔で入って来た。
「いえいえ、どういたしましてっ!」
ウィルは宝石の入った皮袋をスレイ夫人に手渡しながら言った。
「実は、我が家は、経済的に大変逼迫してまして、ほんとうにわらにもすがる思いだったんですよ」
夫人は皮袋を執事に手渡しながら言う。
「でも、ご先祖様か誰か存じませんけど、その方が残してくれた宝のお陰で、どうにか今年も年が超せますわ」
「どうして、お金がないと年を越せないのぉ?」
マギーが不思議そうな顔をしながら夫人に尋ねる。
夫人は苦笑しながら
「この街の新年祭に、貴族の家はある程度寄進しなければならないんですって。主人の見栄やプライドみたいなものですわね」
「ふーん」
マギーはいまいちよくわからなかったけど、大人の事情として片づけた。
「本当にありがとう。また何かあったら、よろしくね」
「いえいえっ! 困った時は捜し屋ウィル=ゴーダにおまかせあれっ! サロンででも言っといてくれればいいですよ」
ウィルは頭を掻きながら言う。
スレイ夫人は小さな皮袋をそっとウィルに手渡した。
「ほんのお礼ですわ」
「どーもっ、毎度ありぃ」
ウィルは嬉しそうに受け取ると、頭を下げてリュージュ家を後にした。
帰りの馬車で、ウィルは皮袋から小さ目の宝石を二つ取り出すと、マギーとバズに握らせた。
「はいっ、今回の仕事料っ! また今度もよろしく頼まぁ」
「ウィル、ありがとー」
「いいのかなぁ、こんなに高価なもの」
「いいっていいって、バズは将来お医者さまになるんだから、とっときなよ」
「ありがとう」
バズは宝石をハンカチにくるむと、後ろのポケットにしまおうとした。しかし中に何か入っているのに気付く。
「あれ?」
こっそり取り出すと、さっきの巻き紙だった。
「ばずぅ、それ何?」
マギーが興味津々といった眼で近づいてくる。バズはそれを手のひらに載せて
「わかんないよ。さっきの教会で見つけたんだけど」
ウィルも近づいてくる。
「ずいぶん古いなぁ。バズ、開けてみぃ」
「はやくはやく、開けてよぉ」
ふたりに急かされてバズは紙を広げた。何か小さな文字が書いてあるのが見えた。
「えーと……『よくぞここまで辿り着いた』……」
「何よ、それぇ」
「知らないよっ、書いてあるんだから」
マギーの不平そうな声をなだめながら、さらにバズは続きを読む。
「『ここまで辿り着いた、それこそが真の宝である。』」
ウィルはものすごーくやな予感がした。
「『その勇気・努力・忍耐、それがある者こそ、真のリュージュ家当主にふさわしい』」
「まっさかぁ……」
マギーがぽつりと呟いた。
「『これからも、我が家の繁栄につとめるよう。 初代当主・キース=リュージュ』」
「……」
ウィルは思わず沈黙した。
「それじゃ……この宝って、なんなの?」
マギーがごく当たり前の質問をした。しかし、ふたりは応えない。
沈黙が、馬車を支配した。
「とりあえず、この紙はなかったことにしよう!」
ヨルカ村の家々の明かりが見えてきた頃、ウィルはそう宣言した。
『おー!』
バズとマギーは声をそろえて賛成の声を上げる。
陽はもう、山の向こうに沈んでいた。
(おしまい☆)
ぽんたのあとがき\(^▽^)/
とりあえず、完結ですぅ☆
どうにか、年内に書き上げました。
もしよろしければ、感想なんぞを掲示板のほうに書いていただけると嬉しいです。
なんか、いいかげんな終わりかたですいません(^^;
それでは、ぽんたでした☆ 1998年が皆様にとって良い一年になりますように。