「今日はわざわざありがとうね。じゃ、これ少ないけれど、交通費も込みということで、ニーチェ!」
スレイ夫人は執事から少し大きい布袋を受け取ると、ウィルに手渡した。
「どういたしましてっ! じゃ、早いこと捜すから、お楽しみにぃ」
「どうも、失礼します……」
「ばいばーい☆」
三人は夫人に手を振った。夫人も苦笑しながら手を振りかえす。
「よろしく頼みますよ」
あのあと、夫人にわかったことを全て話した。夫人は感心したように聞き入っていた。
「なるほど、要塞都市シドンの近くというわけか。でも、あの都市ははるか昔に滅んだと聞いているが、どうなのでしょう」
「それはわからないけど、多分そこら辺だと思う。とりあえず近いうちに行ってみようとおもうんだけど」
夫人は肯くと、数日分の手当てと紹介状を書いてくれた。ヨルカ村のような田舎に行くと、貴族の紹介状は絶大な威力を発揮するのだ。
帰りの馬車で、ウィルはバズとマギーに銅貨5枚ずつ手渡した。現金収入のほとんどないヨルカ村にとって、硬貨は貴重だった。
「え? こんなにもらっていいのぉ?」
「いいのいいの。今日わざわざここまで来てもらったんだし。とっときなって」
「ほんと? じゃあ、あたしとウィルのために貯金しとく☆」
「僕は学費の足しにしようっと」
バズは近隣の村唯一の医者の息子である。父親を尊敬しているバズは、自分も父親のような立派な医者になることが夢なのだ。
「お金はある時でいいですよ」というディヴィス=フェルナット医師は、村中の誰よりも尊敬されていた。しかし、そのせいで家にはお金があまりないのである。
「それより、いつ行こうか。マギー、次の学校の休みはいつ?」
「えぇと、バズぅ、いつだっけ?」
「明後日だったかな?」
「じゃあ、あさって。朝9時に教会の時計の前に集合ってことでいい?」
二人が肯くのを見て、ウィルはごろりと横になった。
「ふあぁぁぁあ。ちょっと寝るわ。おやすみいぃぃぃ」
「あーん、あたしもウィルと一緒に寝るぅ」
ウィルの横にころがるマギー。二人ともすぐに寝息をたてはじめた。
「あ〜! ウィルもマギーもぉ!」
寝そびれたバズはひとりで文句を言っていたが、とりあえずウィルは聞こえないことにした。
「じーちゃん、ただいまっ!!」
ウィルは勢いよくドアを開けた。
「おう、ウィルよ、おかえり。遅かったじゃないか、腹減ったぞ」
ウィルの祖父、エドウィン=ゴーダは、作業を中断して孫を出迎えた。
「悪い悪い。そういえば、ネロのヴィーナス像だっけ、どこまで完成した?」
「だいたい頭部は仕上がった。体は大きいパーツが多いからな。意外に早く終わるかもしれん」
エドウィン=ゴーダは、捜し屋の一代目である。現役時代はそれなりに社会にも貢献したらしいが、現在は軽い腰痛のためか、もっぱら美術品の修復を行っている。
「じーちゃん、何食う?っていうか、何かある?」
「おぅ、さっき芋とって来たからな。あと、ジョセフさんちの奥さんが、いのししの肉をすこしわけてくれたからな。今日は豪華だぞ」
「OK。んじゃ、適当に煮込むよ。じーちゃんはあっちいってていいよ」
「わかった、といいたいところだが、ウィル、一言言いたいことがある」
「なんだよ」
「50前のダンディーな紳士をじーちゃんと呼ぶな。以上」
エドはそれだけ言うと、台所から出ていった。
「じーちゃん!! もうすぐできるから、腹すかせて待ってろぉ!!」
30分後、料理が出来上がり、ウィルとエドは食事を始めていた。
「お、なかなかうまいぞ。腕を上げたな、ウィル」
「ありがと。それより、じーちゃんシドンの要塞都市についてなんか知らない? ちょっと仕事でいかなきゃなんないんだけど」
「仕事? あぁ、この間のリュージュ家の依頼か。受けたのかい?」
「うん、今日それでサンマリーズまで行ったんだ。それより、もと学者のエドに聞きたいんだけど?」
エドは思い出すようにスプーンをかきまわした。いのししの肉片を見つけて、急いで口に運ぶ。
「要塞都市シドンか……。確か500年ほど前の大陸戦争の時、海沿いの街を統括するために作られた都市だったな」
そこまで言うと、エドは無言で皿を突き出した。ウィルは「はいはい」と肯くと、おかわりをつぎに行く。
「その時に、戦争の余波を食らって、現在は廃虚になっているというのが定説だな」
「違うの? その話」
ウィルはエドに皿を渡した。
「ま、大方そうだろうな。一時期盗賊団の根城になっていたとか、新興宗教の本部になっていたとか、そんな話しか聞かないってことは、たいして変わってないだろう」
「位置的にも、わざわざ寄るようなところじゃないしね。そう言えば、くそ親父の本にシドンについて書かれたのってなかったっけ」
ウィルは、自分もおかわりしようと立ち上がりながら尋ねる。エドは手で制すると自分の皿を持ちあげて一気に飲み干した。
「わしもおかわり。わからんぞ、トリックの奴、妙な本ばっかり持ってたからな」
ウィルは苦笑すると、二人分の皿をもって立ち上がった。
その日の夜更け。時計はとうに12時を刻んでいる。
「ウィル……まだ起きているのかね?」
エドは、屋根裏で本の山を相手に格闘しているウィルに声をかけた。
「ん……気になるから、もうすこし捜してみる……」
「そうかね、でも、捜し屋は体力が基本だからな。寝不足は一番いかんぞ」
そう言って、入り口の近くにある花台の上にコップを置いた。
「いくら秋口だといっても、夜は結構冷えるぞ。とりあえず風邪には気をつけるように。それじゃ、わしは寝るぞ、冷めないうちに飲みなさい」
「じーちゃんこそ風邪ひくなよぉ。おやすみぃ……」
コップからは、甘ぁい香りと暖かそうな湯気が漂っていた。
(つづきます)
致命的なミス(;。;)
作品中、幾度と“=フェルナット”と表記してきましたが、昨日改めて見てみたら“=フェナット”でした。許しておねがいぷりーづ!!
ぽんたのあとがき\(^▽^)/
今明かされる事実!! 季節は秋口だった(日本で言うと9月下旬ごろです)
気分は小説家でぇす! うふ☆
というわけで、毎回ラストと始めがまったくつながらないこの作品です。
今回は、全然進んでいません。必殺!お捜し人シリーズでわたしがすごい気に入っているエドウィンくん(45)を出しちゃったからやね。
さてさて、某スレ○ヤーズの作者さんのように、プロットがほとんどない状態で書いているので、予定より伸びてしまうかもしれません。
でも、一応年内にラストまで行くようにするから。許してくださいな。
では、ぽんたでしたぁ。