宝物

其の三

作・ぽんたさま


「ぼうず、サンマリーズまであとちょっとだ。そろそろ降りる用意しておけよ」

「はーいっ」

 ウィルは御者に返事をした。

「もうそろそろ、サンマリーズに着くのねっ! 楽しみぃ」

「あれ? マギーって行ったことなかったっけ?」

「だって、久し振りなんだもん。サンマリーズ行くの。ね? バズもそうでしょ?」

 同意を求めようと振り向くマギー。しかし、視線の先にはうずくまっているバズの姿があった。

「う……気持ち悪い……」

 本っ当に気持ち悪い雰囲気。どうやら、乗り慣れない馬車に酔ってしまったらしい。

「バズ、馬車によったのぉ? だらしなぁい! わたしやウィルは全然平気なのにぃ」

「…………」

「バズ、大丈夫か? 一応酔いどめの秘薬があるけど、どうする?」

 バズは、(そんなもんあるんならはじめから出してようぃるぅぅという目を向けて)首を横に振った。もう手後れらしい。

「おいおいおいおい、大丈夫か? 吐くなら早目に言ってくれよ? 馬車洗うの面倒くさいからな。頼むぞ」

「平気だって、本人が言ってるからだいじょぶじょぶじょぶ」

 軽い調子で言うウィル、隣でマギーもうんうんうなずいていたりする。

「ま、そう言うなら大丈夫か。ここから少し揺れるから、ちゃんと掴まってろよぉ」

『はーい!』

 元気よく返事をする二人。その姿を、後ろのほうからバズが死にそうな目をしてみていた。

 

 あの後、結局ウィルたちは依頼に応えることにして、その旨をリュージュ家当主夫人・スレイ=リュージュに伝えた。

 3日後、ウィルたちのもとに、『感謝』の手紙と、『交通費』としての銀貨数枚が収められた封筒が届いた。なるべく今年中にお願いしたいとのことで、次の休みに向かうことにしたのだ。

 リュージュ家があるサンマリーズは、いわゆる地方都市で、この地方の要であるとともにこの国いちばんの商業都市である。古くから北方との貿易が行われ、それによって財を築いたものも多い。

 そのためか、王都から遣わされた領主・地方官や貴族よりも、豪商の意見の方が強く、没落してゆく貴族も少なくない。リュージュ家もそんな危機に直面しているのだ。

 

「すごーい! いつ見てもきれいな街ねぇ!」

 窓の外に、サンマリーズの町並みが見え始めた。マギーが瞳をかがやかせて見ている。

「俺はいろんな街に行ったことあるけど、サンマリーズは一、二を争う美しさだよ」

 ウィルも窓の外を眺めている。

「わたしもあの街に住んでみたいわぁ。すてき」

「マギー、マギー、ぼく将来医者になるんだ。そうしたらサンマリーズどころか、保養地ルイマリーにだって住ませてあげるからさっ」

 何時の間に復活したのか、バズが身を乗り出してきたが、マギーはうっとりしながらバズに肘鉄を食らわせる。なすすべもなく転がっていくバズ。

「おっ、バズ元気になったじゃないか、もうだいじょ……!!」

「きゅう……」

 何気なくふりかえったが、バズが後ろのほうで伸びているのを見て、ウィルはぞっとした。マギーはまだうっとりしている。

(怖い……)

 ウィルは、マギーに背中に少し恐怖感を感じたが、それは別の話(^^;

 

 リュージュ家は、街の通りから少し奥に入った所にあった。それなりに大きいお屋敷だが、少し荒れた庭を見ると、今のこの家の状態がわかるようだ。

「なんか、まわりの家に比べると、パッとしないわね」

 マギーはお屋敷を見てそう呟いた。

「ま、ここらへんは豪商の家が多いから。ほら、となりの5階建ての大きいお屋敷は、材木問屋のマッシュさんちだし、むかいの広い庭のお屋敷は貿易会社の社長の家だろ」

「豪商のほうが力が強いっていうのも、なんかわかる気がするわ」

 思わずため息をつく。

「あれ、バズは?」

「…………」

 あたりを見回すと、口を開けて建物を見あげているバズがいた。

(まぁ、しょうがないか。軽いカルチャーショックみたいなものかな?)

 ヨルカ村では、2階建てでも珍しいという感じだった。

「ま、とりあえず行くかぁ。マギー、行くよぉ、ほらほらバズっ! いつまでもぼうっとしないっ!!」

「はーい」

「う、うん……」

 

「こんにちわぁ、俺たちスレイ夫人の紹介で来たんだけど、お願いできますか?」

「えぇと、ウィル=ゴーダさまですか? 手紙を見せてもらえますか?」

「は……はい。えぇと……」

 愛用のカバンをごそごそ探し、門番に手渡した。門番は軽く目を通すと、にこやかに笑って門を開けてくれた。

「では、どうぞ」

 先に立って歩いていく門番。その後をウィル、マギー、バズの醇でついていく。マギーは軽くウィルの手を握っている。一方バズは、きょろきょろ辺りを見回していた。

「奥様、ウィル=ゴーダさまをお連れしました」

 

 

(つづきます)

 

 

◇其の一の人物説明  ピアズ夫人:村いちばんのおしゃべり。彼女に耳に入ればその日のうちに村中に広がってしまう。妻との結婚指輪を失くしたホフマンはそれが怖かったのでしょう。

◆其の二の人物説明  村長グレアム:村中の子供たちから恐れられている存在。言う事を聞かない子供に「言うこと聞かないと村長さんにいっちゃうわよ」というと大抵の子供は言うことを聞くようになる。

 

 ぽんたのあとがき\(^▽^)/

 

 えぇと、やっとリュージュ家に着きました。

 前回の手紙に書き忘れてたけど、夫人の名前はスレイといいます。ちなみに当主である夫はボブ。真、別にいいですけど。

 気がついたら会話だけで進めてしまっていて、むりやり情景を加えているところが多いので、読みにくいかもしれませんが、寛容な心で読んでくださいね。

 

 さて、次回からはいよいよ『宝物』捜しがはじまります(予定は未定)。

 

 それでは、紅白でSHAZNAVs小林幸子の衣装対決がみたかったぽんたがお送りいたました。

 

 

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