宝物

其の八

作・ぽんたさま


 

「坊やたちは、シドンの何が知りたいのかね?」

 売り子のおばちゃん――エミルは、腰を下ろしてからそう切り出した。

「俺たち、さる貴族さまからの依頼でこの街に来たんだ。ね、マギー」

 ウィルは同意を求めようとマギーのほうを向く。が、マギーはうぃるが買ってくれたネックレスをつけるので必死だった。

「ん? うぃるぅ、何か聞いたぁ?」

「な、なんでもないよ。あ、マギーよく似合うよ、そのネックレス」

「ありがと☆」

 マギーを適当にあしらうと、ウィルはまっすぐエミルの方を向いた。

「で、その地図で記されたところがシドンだったんだ。でも、シドンについて書かれた書物とかもほとんど無いから、ここに来たんだ」

「なるほど。それでシドンについて何か知ってそうなおばちゃんがいたから声をかけてみたというわけなんだね」

「そゆこと。おばちゃん、なんか知らない?」

「悪いけど、そんなに詳しくは知らないんだよ。でも、今のシドンの状態とかなら話せると思うけど、それでもいいかい?」

 ウィルは身を乗り出してうなずいた。ようやくネックレスをつけ終えたマギーも同じように身を乗り出した。

「わかった。じゃあ、お話しようかね」

 

「今のシドンは、噂に聞いてると思うけど、文字どおり廃虚に近い状態だよ」

「近い状態ってことは、何かあるわけぇ?」

「そう、お嬢ちゃん。一部の城壁と何故か中央に近いところにある教会だけがほぼ当時と近い状態で保存されているんだ」

「教会? なんでまたぁ」

「これも噂なんだけどね。一時期あそこを新興宗教の本部にしていた時に立て直したって話なんだよ」

「あ、俺それ知ってる! 空中浮遊できるっていってた奴でしょ」

「あたしも聞いたことあるわぁ。インチキ宗教に気をつけなさいって先生に言われたんだもん」

 即座に反応する子供たち。田舎の噂は広まるのが早いようだ。

「でも、なんでシドンなんかに本部を置いたのかしら? あそこって廃虚しかないんでしょ?」

「それだけど、教会に自然に出来た石仏があるんだよ。あたしゃ最近行ってないからどうかわからないけど、よくできた仏さまだったわねぇ」

 エミルは少し思い出しながら言葉を紡いでゆく。

「教会ってどういう感じ? やっぱり古いの?」

 “教会”に興味津々のウィルである。

「うーん、そうだねぇ。やっぱり古い感じだぁねぇ。ところどころは例の宗教の人たちが修復してたってうわさだけど、外観とかは変わんないねぇ」

「ふーん、そうなんだぁ。行ってみたいなぁ」

 マギーが目を輝かせながら言う。本なんかを読むより探検したりするのが好きなマギーだから、人一倍興味を持ってしまったのだろう。

「ありがと、あと他に何か知らない?」

「そうだねぇ……あ! あそこの教会の十字架はしばらく前から斜めになってるんだわ。ほら、そのお嬢ちゃんがつけてるペンダントみたいに」

「え? これって十字架だったんだぁ」

 マギーは自分のペンダントを持ち上げて言う。ウィルはそれをのぞきこんだ。確かに、良く見ると十字架だ。

「あたし、てっきり風車かなんかだと思ってたぁ」

 どうみても風車には見えない、とウィルは思ったりしている。

「へぇ、あと他に何かない? どんなことでもいいよ?」

「うーん、シドン自体何にもないところだからねぇ。他にはないと思うよ」

「ありがとー、おばちゃん。助かったよ」

 ウィルは礼を言うと立ち上がった。マギーもおしりの砂をはらいながら立ち上がる。

「いえいえ、どういたしましてっと。なんかおばちゃんの世間話につきあわせたみたいで

悪いわねぇ」

「ううん。すっごい助かりました☆ ネックレス、大事にしまぁす☆」

 マギーも頭を下げてお礼を言った。エミルは手をふりながら

「お買い上げありがとうございました。気をつけて行ってらっしゃいね」

 ウィルとマギーの姿が人込みに消えた後、エミルはひとり口を開いた。

「あの男の子……トリックの息子か……元気でがんばってるようだな。あの様子なら父親のことを教えてやらなくてもいいかもしれんな……」

 

「ウィル、よかったね。物知りなおばちゃんがいろいろ教えてくれて」

「うん、助かったぁ。下手したらこの街中を走り回らなきゃなんないもん。あのおばちゃんに感謝感激雨あられ」

 けらけらけらと無邪気にマギーが笑う。

 ウィルは、心の中で(もしあの話が本当ならね)と付け加えた。

「あー、でもおなかすいたなぁ。そろそろ御者さんのいる飯屋にもどろっかぁ」

「あ、わたしお弁当作ってきたんだ☆ ねぇうぃるぅ、食べてみて☆」

 ここぞとばかりにバスケットを見せるマギー。

「本当? 食べたい。そこのベンチで座って食べようよ」

 

「はい、うぃるぅ、あ〜ん☆」

「え? いいよマギー、自分で食べるからっ」

 ちょっと赤い顔で言うウィル。それを見てぷぅとむくれるマギー。

「あ〜ん!」

 意地になってフォークにささった“たこさんうぃんなぁ”を近づけてくるマギー。ウィルはウィンナーからすこし突き出したフォークに恐怖感を覚えつつ、口を開けた。

「ウィル、おいしい?」

「ん〜、おいしいよ☆」

「本当? うれしい☆ じゃあ、次は厚焼きたまごさん♪」

 実際、マギーのお弁当はおいしかった。黒すぐりジャムのサンドイッチに卵焼き、たこさんウィンナーにうさぎさんのリンゴ。

 ただ、ここが市場に近いベンチの上というのがウィルの恥ずかしさを増大させていた。要は人通りがむちゃくちゃおおいのである。

 そんなことはおかまいなしに、今度は卵焼きを近づけてくるマギー。

「ウィル、あ〜ん☆」

 ウィルは仕方なく口を開いた。

 

 その頃食堂では、御者とバズがひたすら待ちぼうけていた。

 壁に設置されている時計が12時を刻んでいる。

「うぃるぅ、まぎいぃ〜、おそいよぉ」

「ちょっと遅いな……捜しに行くかな?」

「もうちょっと待ちません? もし入れ違いになったらたいへんですよぉ」

「そうか……この会話何回目だっけか?」

 ひたすら待ち続けている二人。

 いつのまにか、バズの前の机には食べおわったお皿が積まれていた。

 

 

(つづきます)

 

 

 ぽんたのあとがき\(^▽^)/

 

 1話がだいたい文庫本6〜7ページというボリュームでおくるこのシリーズです。

 今日、このあとがきを書いている途中に、あの伊丹サーティー監督が自殺なさったというニュースが飛び込んできて、大ショック!

 なんか先日のぴかちうといい今回のサーティーといい、なんかもの悲しい年末を迎えているぽんたでございます。

 

 さて、年内に完結させる! と言っていたぽんたでしたが、なんか無理かもです。

 

 というわけで(?)ちょっとセンチなぽんたでした☆ 

 

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