宝物

其の九

作・ぽんたさま


 

「ごめ〜ん、遅くなりましたぁ」

 ウィルは明るい声で食堂のドアを開けた。

「うぃるぅ、遅いじゃないかぁ。おまえはいつもいt……」

 バズが文句を言おうとするのを御者は手で制した。

「おつかれさま。お腹空いてないかい?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと食べてきちゃった」

「そうかい。ま、とりあえず何か飲むだろ? あそこに席とってあるから座ってなさい」

 御者はそう言うと直接カウンターの方へ行ってしまった。

「バズ、命拾いしたな……」

 席へ向かう途中、ウィルがそっとバズに耳打ちした。何のことかわからずきょとんとするバズ。

 ウィルの悪口を言おうとした時、マギーが静かに戦闘態勢に入ったのだが、それは別の話です☆

 

「おまちどうさまでした」

 席について、それぞれの成果について話し合っていると、ウェイトレスがジュースを運んできてくれた。とりあえず、御者にお礼を言うとジュースに口をつけた。

「あ、おいしー☆」

 マギーが率直な感想を言う。

「ここは港町だからな。いろんな国の果物が手に入るんだよ。たとえば、みかんって知ってるかい?」

「遥か東の国の海岸近くの丘陵で取れる柑橘系果物のことでしょ」

 ここぞとばかりに知識を披露するバズ。しかし、マギーは困惑した表情で

「それじゃあ、何だかわかんないじゃない! もっと簡単に説明してよぉ!」

「うう……オレンジの一種です……」

「まぁ、そんなもんだな。食べたことあるかい?」

「ううん? 聞いたこともなかった」

「僕も、図鑑で見ただけです」

「俺は食べたことあるよん♪」

 ウィルはさも当たり前のような口調で言う。

「本当? どんな味? におい? ウィル教えてよぉ」

「オレンジより少し小さくて、ちょっぴりすっぱいかな? でもおいしかったよ」

「いいなぁ、あたしも食べたぁい」

 どうも話がずれてきているような気がして、御者があわてて口をはさむ。

「ま、みかんの話はいいだろ。要は、ここにはそれだけ珍しい果物が揃うんだよ。今飲んでるのはパインアップルっていう南国産の果物のジュースなんだ」

「へー。でもおいしい☆」

 マギーはごくごくとジュースを飲み干した。ウィルとバズは自分のを献上するはめにならないように急いで飲み出した。

 

「とにかく、シドンにいかなきゃしょうがないみたいだな」

 ウィルはそう結論づけた。

 あのあと、マギーがおかわりして、それから聞き込みの成果をまとめ、その上での結論である。

「確かに、新興宗教も、盗賊団も、お、おばけもうわさだからね」

「あたし、早くいきたいわぁ」

 マギーとバズも異論はないようで、こくこくうなずいた。

「よし、じゃあ馬車を出そう。おばちゃん、ごちそうさま」

 そういうと、御者はふところから数枚のソルト紙幣と硬貨を取り出した。

「ソルト紙幣は使えるかな?」

「そうねぇ、最近は塩の値が安定してきてるから、少し安くなっちゃうよ」

 おばちゃんは、腕をエプロンでふきながら歩いてきた。

 ソルト紙幣とはこの世界でつかわれている紙幣の一種で、文字どおり塩の値段に左右される。この町のように海に近いところではあまり高い値にならないのである。

「正規ルートだと100ソルト紙幣=銀貨1枚ってことだけど、ここだとせいぜい銅貨30枚ぐらいだねぇ」

 ちなみに、銅貨100枚=銀貨1枚である。

「それでも構わないさ。で、いくらになる?」

「えぇと、ジュースが7、メル揚げ2、それと…………しめて銀貨2枚と銅貨35枚になるね。ソルト紙幣は使うかい?」

 御者は銀貨2枚とソルト紙幣を2枚手渡した。

「おつりはチップだ。あなたと、あのウェイトレスさんに」

「あら、悪いわねぇ。そうだ、水持ってきな。午後は結構日差しが強いからね。お嬢ちゃん、水筒もってるかい?」

 マギーはバスケットをあけて水筒を取り出した。

 

「ソルト紙幣って初めて。見てもいい?」

 馬車が走り出してすぐ、マギーは幌から顔を出して御者に催促した。御者は苦笑しながら1枚手渡す。

「ふ〜ん、これがソルト紙幣なのねぇ」

 しげしげと見るマギー、後ろでバズが僕もみたいと言っているが聞こえないことにしておいた。「ありがと☆」といって御者に渡す。

「マギーはソルト紙幣しらないんだ」

「ウィルは知ってるんでしょ?」

「まぁね。でもソルト紙幣は使いづらいんだ。地方によって価値が変わっちゃうから」

 ウィルは幌によりかかりながら言う。

「じゃあ、新しい紙幣を作ればいいじゃない」

「そう簡単には行かないんだよ。制度そのものを作らなきゃいけないし、それが地方に浸透するまでにはもっと時間がかかっちゃうんだ」

「なんか難しいけど、要するに無理なのね」

 マギーはあっさりそう言うと、同じように幌によりかかった。

「まぁ、どうでもいいや。あと30分ぐらいかかるらしいから、おやすみぃ」

「あっ! またウィル寝ちゃうのぉ? じゃあたしも寝よっと」

 ウィルとマギーは目を閉じた。

 そのころ、いつもにようにバズは青い顔をしながらうずくまっていた。

 

 

(つづきます)

 

 

 ぽんたのあとがき\(^▽^)/

 

 今回の話は何だったのでしょう……。

 どうでもいい描写に凝る癖が……別にソルト紙幣とかジュースなんていう裏設定を持ち出さなくてもいいのに。すいません。

 多分、今回の話を飛ばして読んでも、違和感が全くないような気がする(^^;

 

 ま、今回はあれですね。少しでも世界観とかがわかってくれれば、というやつです。そうだ。そう決めた! 決定!!(SE:ぱちぱちぱちぱち)

 というわけで、ぽんたでした。

あと2回で終わる(はず)です。よろしくお願いします☆

 

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