【機動戦士ガンダム外伝】

狂気の墓標

作・山中鹿之助さま


「やっと補給が来やがったか」

しおれたタバコを口の端に引っ掛けたまま、男はミデア輸送機のコンテナから引き出さ

れるモビルスーツを値踏みしていた。

年の頃は三十をとうに越えているだろう、顔に刻まれた深い皺が男の年齢を教えており、

髪の毛に混じる白い毛が男をより老けて見せている。

 着ている服はよれよれの作業服で、至るところに油汚れがついており、一見して整備員

か何かに見えた。

「グラン隊長!」

 輸送機の方から連邦の制服に身を包んだ青年が足早に近づいて来た。

「補給物資の搬出を始めさせます、よろしいでしょうか?」

 青年は作業服の男をグラン隊長と呼んだ。

 グランが「初めろ」と一言いうと、青年は敬礼をして搬出作業の現場に走って行った。

「アレンの奴、あいかわらず硬ぇな」

 グランはアレン軍曹の背中を見て苦く笑い、空を見あげた。

 空は今にも雨の降りそうな鉛色の雲が広がっており、その向こうで行なわれている激し

い戦いを暗示しているようであった。

 空の向こう、そう宇宙ではジオン公国と連邦の激しい戦いが行なわれていた。

 開戦当初、連邦はジオンの新兵器モビルスーツ ザクの存在により、劣勢を強いられ一

時はこの地球の大半をジオンに占領されると言う事態にまで陥った。

 しかし、連邦は独自にモビルスーツの開発を進め、ジオンのザクを遙に上回るモビルスー

ツを開発した。

 それがRX−78 ガンダムを初めとするRXシリーズである。

 ガンダムから得られた情報を元に、連邦は量産型モビルスーツRGM−79 ジムの開発

に成功、ここから戦局は大きく変わって行った。

 現在、宇宙からは連邦の華々しい戦果が絶えず報告され、つい先日ジオンの侵略の要であ

るソロモン宇宙要塞が陥落したとのニュースが流れた。

 しかし、そんな華々しいニュースとは無縁の場所があった。

 アジアを中心とする極東戦線である。

 ジオンはアジアにおける侵略拠点ペキンを連邦に奪回されて以来、その拠点を小さな島国

である日本へ移し、今もなお激しい攻防戦を繰り返していた。

 グランことフェン・グランディアス大尉はその極東の戦場で、第307機動歩兵小隊を指揮

する隊長であった。

「上層部の奴ら、今度はまともな資材を送ってきたな」

 次々と運び出される資材を眺めながら、グランは安堵の息をついた。

 戦いの中心が宇宙へ移動して以来、物資の大半は優先的に宇宙へ運び出されていた。

 そのためか地上の部隊に対しての補給物資は、どんどん優先順位がさがって行き、現にこの

第307機動歩兵小隊が主力とするモビルスーツは、RGM−79ジムの改修バージョンと、R

GC−80・ジムキャノンのたった2機で、他の隊員は対MSライフルやバズーカなどで武装す

る歩兵と化していた。

 グランはミデアから降ろされる補給物資を満足げに眺めながら、タバコに火をつけようと、

懐からライターを取り出した。

「それ、ダメ、です」

 すぐ脇からすっと出てきた小さな手が、グランの口からタバコを奪い去った。

 いつのまにかグランのすぐ脇に、一人の少女が立っていた。

 年の頃は二十歳前後だろう、腰まで伸びた真っ黒な髪を肩の所で無造作に縛り、ダブダブの

軍服の裾を折り曲げてなんとか着こなしている。

「服、油、タバコ、危険」

言葉が不自然な位に途切れ途切れだが、少女はグランの服に油が

付いているからタバコは危険だと言っているようだった。

「えーと、君は?」

グランは困惑した。

 タバコの事では無い。

 この少女がどう見ても軍人という年齢には見えなかったからだ。

「これ、辞令、です」

 少女は分厚い書類の束をグランに差し出すと、何も言わずに背を向けてミデアの方へ走って

行った。

「なんだ、なんなんだいったい?」

 グランは頭をがしがしとかきながら、手渡された書類に目を移した。

 書類には赤い文字でシークレットと書かれた文字が刻まれており、その下にこうかかれていた。

「ベルゼルク計画…」

 グランの顔が一瞬にして鬼のような形相になった。

 その時、ミデアの方から低い唸り声のような音が聞こえて来た。

「この音、まさか!」

 見るとミデアの中から一機の見慣れないモビルスーツが現れる所だった。

「ガンダム!」

 それは紛れも無く連邦の伝説と化した、二本の角を持つモビルスーツだった。

 

つづく。

 

 どうも鹿之助です。

 メカ系小説としてこのガンダム外伝を書いてみました。

 気に入っていただけたでしょうか?

 今回のメカはオリジナルの「RX−78GE02 ガンダム・ベルセルク」です。

 ガンダム・ベルセルクがどんなMSなのか、それは次回に明らかになります。

 

 

<RX−78GE02 ガンダム・ベルゼルク>

 MSにとって最も過酷な戦闘条件である格闘戦で、絶対の勝利を得るために考え出されたオペ

レーションシステム「G・システム」を搭載する実験機である。

 その詳細は未だ不明だが、その開発過程で生まれた実験機RGM−79GE01が、テスト中に暴

走し、友軍機と敵軍機を含めて9機を僅か2分で破壊したとの情報がある。