雲ひとつない快晴だった。
明るい陽光に緑は輝き、爽やかな初夏の風に木々の葉が優しい音を立てて揺れる。
北に位置するハディネア王国の大地は、一年でもっとも美しい季節を迎えていた。
緑の中には鮮やかなオレンジ色がはためいている。
それは街の自治公認の市場の旗だった。
今日も絶好の仕事日和になるはずだった・・・
そう、あいつに出会うまでは−−−
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Take it easy
−−第三話勧誘−−
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大きな足音をたてて現れたのは、どう見てもガラがいいとは言えない男達だった。
見るからに金で雇われたならず者達といった感じの連中が6人、
それぞれ手にナイフや剣を持って、アスカと少年を取り囲んだ。
「なによ、こいつら」
じりじりと距離を狭めていく男達をにらみながら、鼻にしわを寄せてアスカが唸ると、
「僕を狙って、市場からずっとついてきてたんだよ。ここなら人に迷惑をかけずにすむだろうからね」
楽しそうな少年の声が戻ってきた。つけ狙われてるのを知り。
それで人気のない場所に来たらしい。スケベ心からじゃなかったのか、
と、安堵したのも束の間、事態はスケベ心よりも深刻になってきている。
「ちょっと!人に迷惑かけないとか言って、あたしはどうなるのよ!!」
両手を腰にあてながら顔を向けて怒鳴ると、少年の手には長剣が握られていた。
いつ抜いたのか、アスカはまったく気がつかなかった。
「キミには悪いけど、僕の金入れを狙ったのが運の尽きと思って諦めてね」
「冗談じゃないわよ!」
笑顔を向けられ、アスカは地団駄を踏んだ。金を取ったのならまだしも、ペンギンを掴まされて役人につき出される途中で、巻き添えをくって命を狙われるなんて、こんな不条理があってもいいものなのだろうか。
「オッサン達、そこどいてよ!あたしはこいつとは無関係なんだから!!」
巻き添えをくってたまるかと、アスカは男達にそう言ったが、無視されただけだった。
「無駄だよ。一緒にいれば仲間だと思われても仕方ないからね」
剣を構えながら少年はのほほんと言った。明らかに面白がっている。
−−他人事だと思って−−近くに何か落ちていれば、少年の頭を思い切りぶん殴ってるところだ。
「あんたの金入れを狙ったのは、生涯最大の失敗だったわ」
少年に向かって怒鳴ったアスカめがけて、ならず者が剣を振り上げて襲いかかった。
悲鳴を上げたかったのに、悲鳴がでなかった。足も動かず、アスカは恐怖に凍り付いてしまった。
剣の上を光りが滑り抜け、それが目前に迫るのが見えた。目を閉じることさえもできない。
キィン
甲高い金属音が響きアスカの正面にあった刃が柄から切断され−−地面に突き刺さった。
「この子を傷つけたら許さないよ」
アスカの横に立ち、少年が凄みのある声で言った。剣を切断する少年の腕に、
ならず者達は一瞬攻撃するのを躊躇した。が、数で勝っていると言う自信が判断力を麻痺させた。
「うるせぇ!」
「やっちまえ!」
一斉に襲いかかってきた。スッと、少年がアスカの前にでた。
少年の長身と、しなやかな身体がアスカにはひどく印象的だった。
それからはあっと言う間だった。
六人のならず者は白目をむいて、残らず地面に倒された。
「もう大丈夫だよ」
剣を鞘におさめ、少年はアスカに笑いかけた。
「殺したの?」
アスカが訊くと、少年は白い歯を見せた。
「ううん、殺してないよ。気絶しているだけ」
なるほど、血も流れていないし、時々痙攣している。
ペンギンを金入れの中に入れて持ち歩くような非常識者だが、剣の腕は立つらしい。
「誰にでも取り柄があるって本当ね」
そんな言葉をかみしめているアスカに、
「じゃあ、早く行こう」
と、少年は催促した。が、アスカは動けなかった。
「あれ?どうかしたの?」
「身体が硬直したまま、戻らないのよ!」
アスカがそうなるのも無理はない、目の前の斬り合いなど、なれない者にとって恐怖以外の何者でもない。
腰が抜けない方が不思議なくらいだ。
「それは大変だね」
などと言いながら少年は近ずき、
「僕が運んで上げるよ」
と、言いながらいきなりアスカを抱え上げた。
「なっ、なにすんのよー!!」
「だって動けないって言うから」
「誰が抱え上げてくれっていったのよ!はやくおろしなさいよ!ほら、もう動けるから」
アスカは暴れたが、少年は、
「無理しちゃダメだよ」
と言って、下におろそうとしない。暴れるアスカをものともせずに、ずんずん歩いていく。
「何処へ行くのよ!まさか、このまま役人の所へ連れて行くつもりじゃないでしょうね!?」
アスカが怒鳴ると、少年は、ハアッと小さなため息をつき
「キミ、そんなに役人の所へ行きたいの?」
「行きたいわけないでしょ!?」
「じゃあ、僕と一緒に旅をしない?」
少年は嬉しそうにそういった。
その少年の突拍子もない言葉に、あたしは思わず己の耳を疑った。
−−−−−−−−−−−−その選択が私の一生を左右するということを−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−その時私はまだ知らなかった−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−それは雲ひとつないある晴れた日の出来事だった−−−−−−−−−−
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第4話へ続く
ご意見ご感想は下記まで
nasubi@purple.plala.or.jp
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<後書き>
ど〜もSHINです。Take it easy第三話いかがだったでしょうか?
申し訳ありませんが第四話からは更新速度が遅れるというわけで、
今回は二話連続アップという形を取らせていただきました。
先ほど更新速度が遅れると申しましたが、
皆様からのメール次第で早く書き終わるという奇跡が起こるかもしれませんので
どうかよろしくお願いします。
それでは第四話がありましたら第四話でお会いしましょう。
ではまた、さようなら。