アダムの肋骨より生まれたもの

〜経過記録レポートNo.1〜

作・ふみさま

 


 

 

 

此処は何処なのだろうか、静寂と暗闇が覆い尽くす場所。

 

僅かに漂う光が見透せぬ暗闇を強調し、空間が狭いものでは無い事を伝える。

 

遠くに星が見える、幾つかの薄暗い星が。

 

星は空間から僅かに切り取られた、小さな部屋の隙間から漏れ出る明かりだった。

 

薄明るい部屋の中には人がいた。

 

   |

 

「貴方の名前は?」

 

 「あやなみれい」

 

「私の名前は?」

 

 「あかぎりつこ」

 

「この前会ったおじさんの名前は?」

 

 「いかりげんどう」

 

「それじゃ、これは?」

リツコは幼児書に描かれた[あ]の字を指差す。

 

 「ほん」

 

 ヒクッ

 

リツコの左目尻が動く、直下に在る泣黒子もつられて動いた。

一瞬の沈黙

 

「外れじゃないけど、質問の内容と違うわ。」

気を取り直した様にレイに優しく諭そうとする。 

そして、再度質問。

 

「聞き方も悪かったわね、これは何て読むの?」

 

 「あ」

 

「そうね。 ではこの文字は?」

隣の頁に描かれた[ス]の字を指した。

 

 「す」

 

「そうよ。 では、これはカタカナで、こっちは?」

 

 「か」

 

 ヒクヒクッ

 

再びリツコの左目尻が動く、いや引きつる。

確かに、リツコの指はひらがなの[か]を指していた。

 

「はあ‥‥、

 質問の流れと、答えが合ってないわね、今の流れなら此れをひらがなと答えるのが正しいのよ。」

「わかった?」

 

 「‥はい」

 

「‥設問の仕方に問題が有るかしら、まだ一連の行動なんかが把握しきれないみたいね。

  ‥知識上は問題無いみたいだし発音も正確になったけど、外界とのコミュニケーションがまだまだ‥ね。」

「あとは、動体機能の訓練も…。」

 

目頭を揉みながら、呟く。 

 

   |

 

リツコは疲れていた。

元々幼児、と言うより子供の世話など経験もなく、科学者を天職とする性格も重なり、

児童教育の難しさを痛感していた。

 

もっとも、レイそのものが相当特殊なケースなのだが。

 

知識だけが記憶に存在し、それの使い方を理解していない。

神経伝達は出来ていても、出力バランスが取れない。

‥ノウハウを持たない、学習機能が開始されたばかりのロボットの様だ。

 

そう、レイには経験と言うものが圧倒的に足りていなかった。

 

   |

 

「ふう、コンプリートのレベルでもっと造り込むべきだったわ…。」

リツコのぼやきが続いた、レイはそれを表情一つ変える事なく見つめている。

 

リツコとレイの視線が合ったのが一つの区切りになった様だ。

 

「それじゃ、今日は此処まで。 後はこのモニターで流れているものを見て、人と人のやり取りを学習しなさい。」

TVモニターらしき物を操作しながら話す、画面には幼児向けの教育番組が映っている。

 

「何を見てもいいわよ、取り敢えずは実例の情報を吸収するのが一番ね。 ‥あ、見るのは2時間だけ、

 なるべく色々見てみなさい。」

 

 「‥はい」

 

返事を聞くとリツコは部屋から出て行く、中にはTVモニターを見ているレイだけとなった。

   ・

   ・

   ・

暫くした後、レイの手がモニターのリモコンを触りチャンネルが変った。

リツコは一般のTV放送をレイに見せている様だ、モニターのチャンネルが一定時間で切り替わってゆく。

 

と、あるチャンネルで動きが停止した。 番組は昼メロの系統らしい、モニターには'絡み'のシーンが映っている。

レイは相変わらず無表情にモニターを見ていた。

 

結局、番組が終るまでチャンネルが変る事は無かった。

疲れていたとはいえ、リツコのプランはやや選択を誤ったのかもしれない。

 

   |

 

2時間が経過した為、レイはモニターを見るのを止め他の事を始める。

部屋の奥に有る冷蔵庫を開け、何か取り出す。

〜縦横15cm、厚さ3cm位の四角い箱〜、既に開封してあるそれの中から1本の棒状の固形フードを取り出し口に運ぶ。

 

 

噛む、咀嚼する、飲み込む。  噛む、咀嚼する、飲み込む。  噛む、咀嚼する、飲み込む。 ・・・

 

 

全体の半分が口の中に消えたところで、コップに入っている水を飲む。 再び、

 

 

噛む、咀嚼する、飲み込む。  噛む、咀嚼する、飲み込む。  噛む、咀嚼する、飲み込む。 ・・・

 

 

終始変らぬ調子で1本の固形フードを食べ終えると、コップの横にあった錠剤を数錠、口に入れ飲み下す。

 

 

ここ数日変らぬ、レイの食事風景。

最初の36時間は点滴から、次の36時間は流動食、ようやく柔らかめの固形フードを口から摂取できたのは、

84時間が経過した後だった。

 

しかし食事と言うより…、燃料補給と言えそうな動作、レイが世界に触れてから150時間余りが経過していた。

 

食事を終えたレイはベットに横になる、白い、病室に置かれている様なパイプベット。

10時間後、再びリツコが現れるまで、レイの意識は一人静かにこの世界から離れる。

 

   |

 

「起きてる?、レイ。」

予定時間どうりにリツコが現れた。

「はい」

リツコの声を確認すると、起き上がって返事をする。

すでに起きていたのか単に寝起きがいいのか定かでは無いが、レイの返事と動きには淀みが無い。

 

「Ok、体調はどう?」

 「‥問題ありません。」僅かに時間を置いた後、返る返事。

 

「昨日のモニター学習は有効だったかしら?」

 

 

 「‥はい、いろいろ学習できました。」

 

「確かに学習してるみたいね、会話が出来てる。」

正直リツコは感心していた、2時間の学習で片言だった会話がいきなり進歩している。

いったい何を見ていたのだろうか、リツコは結構真剣に考え込んでしまった。

 

「それじゃ、昨日の続きを…」

            「問題ありません、理解しました。」

 

「…え? 理解したの? かなの違いや行動の把握の仕方も?」

「はい。」

 

「えぇ、じゃ此れは?」ノートPCを指し、一際声の大きくなったリツコがせまる。

 「‥ノートパソコン?」

「えええ、PCの知識なんか入れてないわよ!」更に声の大きくなったリツコが殆ど叫びに近い声を上げる。

その額に冷や汗が浮いている。 きっと眼には"なると"マークが浮かんでいることだろう。

 

 「‥モニターに映ってました。」

 

「そ、そうなの。 けれど此れは私の専用機で、他で見る事なんて無いはずなのに?」

 

 「形状が一番近い物を答えました。」

 

「そ、そう‥。」   −そう言えば、この会話も成立してる‥。 なんなのこの子、爆発的進歩じゃない。−

じっとりと冷や汗をかきながら、リツコはレイに僅かな恐怖を覚えた。

 

「はあ、学習プラン練り直しね。 こんなに進歩するなんて…。 冷や汗が出たわ。」

朝の内からかく冷や汗は気持ちの良い物では無い、いや何時でも気持ちはよくないか。

リツコも例外なく不快感を感じていた。

「モニターでの学習はかなり有効のようね、続けてみるか‥。 ‥‥少し臭う様になったわね、レイ。」

 

相変わらず無表情にリツコを見ていたレイがきょとんとした表情をする、わずかな変化だが。

 

「‥私も汗かいちゃったし、体洗いましょ。 動作訓練も兼ねられるし。」

にっこり、いや、ややにんまりといった感じの笑いを見せて、

リツコはレイを連れ、部屋の奥にあるシャワールームに入っていった。

 

 

 

〜後書き〜

ふみです。読んで頂いた方、ありがとう<(_ _)>、ちょっと短くて何ですが。 さて、次回予告(cv三石琴乃様にて)(笑)

 

訓練を開始したちびレイとリツコ。

リツコの苦難の日々が続く。 レイの爆発的進化に驚愕したリツコは気分転換をかねてシャワーを浴びようとする。

そしてシャワールームに入ったふたり。 

 

 次回−きもちのいいこと−

 

さぁて、次回はサービス♪サービスゥ♪ 

   ↑

ならへんx2(笑)>ふみ

 


 

みゃあの感想らしきもの。

 

 

 

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