虚構の母と 現実の他者と

 

作・うーさま

 


 

 

 

「私じゃ駄目なの?」

 

 

「ごめん。」

 

 

プラチナブロンドに、真紅の瞳を持つ少女の問いかけに、黒髪の少年は謝罪の言葉

で答えた。

 

 

「どうして?私は碇君の望みを全て叶えてあげられる。

 

碇君だけを見てあげられるのよ。

 

なのにどうして私じゃ駄目なの?

 

お願い。

 

私は碇君と一つになりたいの。」

 

 

普段、何の感情も見せないその表情が僅かに悲しげに見えるのは錯覚だろうか?

 

 

「…あの女…?」

 

 

少女の瞳に嫉妬―――そう、嫉妬と呼ぶべき色が浮かぶ。

 

 

「どうして?あの女はいつも碇君を罵ったり、叩いてばっかり。

 

彼女に碇君に愛される資格は無いわ。

 

この私の方が碇君にふさわしいはずよ。」

 

 

少女―――綾波レイの言葉をそれまで黙って聞いていた少年―――碇シンジはゆっ

くりと口を開いた。

 

 

「確かに綾波は僕が望めば全てを叶えてくれる。

 

僕の思いどうりになる世界を与えてくれる。

 

綾波と一緒に居るのは気持ち良い。

 

ケド、これは違う。

 

違うと思う。

 

自分の思いどうりの世界、それは自分一人の世界。

 

自分一人の世界には誰もいない。

 

誰もいないから僕もいない。

 

気付いたんだ。

 

綾波は僕に母性を与えてくれていたんだって。」

 

 

母体回帰願望。

 

在りし日の母の子宮へと還り、全ての苦しみから逃れたい。

 

それはあるいは、誰しも持っている願望なのかもしれない。

 

シンジの言葉を黙って聞くレイ。シンジはなおも続ける。

 

 

「綾波といるのが妙に心地よかった。

 

ケド、何かが違っていた。

 

そしてわかったんだ。

 

僕は虚構の母ではなく、現実の他者と共に在るべきだって。」

 

 

そう言ったシンジのその表情は、力強かった。

 

 

「彼女は僕とは違う。

 

彼女と一緒にいれば、お互い傷付け合うコトになるかもしれない。

 

ケド、それは至極当然のコトなんだ。

 

傷付け合うコトが怖くないって言ってるワケじゃない。

 

ケド、僕はもう一度逢いたいと思った。

 

その気持ちだけは本当だと思うから。」

 

 

以前の少年であれば、ただ、ひたすら楽な道のみを選んでいただろう。

 

しかし、この第三新東京市での戦いが、そしてかけがえの無い人々との―――彼女

 

とのふれあいが確実に彼を成長させていた。

 

そんなシンジの変化にレイも気付いたのだろう。

 

彼女の顔にはもはや、悲しみも嫉妬の色も浮かんではいなかった。

 

シンジの言葉が終わり、レイがその口を開く。

 

 

「そう…もういいのね。」

 

 

「うん…ケド、サヨナラは言わない。ありがとう綾波、本当に…」

 

 

―――本当に―――

 

 

虚構の母に決別し、そしてシンジは歩き出す。

 

現実の他者に向かって。

 

少年の口唇期はたった今終わりを告げた。

 

所詮、子宮回帰願望は現実逃避でしかない。

 

少年は逃げるコトをやめたのだ。

 

レイはただ、静かにその瞳に輝きをたたえていた。

 

現実を直視する勇気を得たシンジは何処へ行くのか。

 

問うまでも無い。

 

逢いに行くのだ。

 

現実の他者であり、己の半身とも言える最愛の少女のもとへ。

 

シンジは万感を込めて、その名を呼んだ。

 

 

「今…いくよ。アスカ…」

 

 

 

Fin

 

 

 

 

はじめまして、皆様。

 

うーと申す者です。

 

さて…「何、コレ?」ってな声が聞こえてきそうですね。

 

一応、解説をば…映画の台詞が出てはきますが、直接、関係は有りません。

 

シンジは、一応貞本版の性格を意識しています。

 

エッ、全然そうは見えない?

 

すみません…しっかし、有りませんねェ、貞本版をアニメ版とはっきり区別してる

 

H.Pって。

 

大抵アニメ版か、アニメとごっちゃ、かのどちらかで…

 

自分は貞本シンジ、大好きなんです。

 

理由は…ヒネクレてるから(爆)。

 

ヒネクレモンは大好きだあああああっっっ(馬鹿、もとい、爆)!!!

 

最近、何だかキザ野郎になってきてるけど…

 

はっ!

 

取り留めの無い話に…

 

まあとりあえず、気が向いたら読んでやって下さい。

 

(後書きに書くこっちゃねェな…)

 

そろそろ失礼するとしましょう。

 

でわ…