瑠璃色の天の川
ときめきメモリアル ドラマシリーズ Vol.R
冬が過ぎ、 春の兆しが見え隠れする3月。
もう肌寒さは感じない、 まだ春とは言えないが風は暖かく、 そして優しい。
それから、 この時期は別れの時。 そう、 卒業という別れ。
誰もが一度は経験する。 人生の通加点 ・・・
1人の女性が母校=きらめき高校を眺めている。
「もう5年。 ・・・ 早かった ・・」
「どうしてだろ? 高校を卒業してからのあたしは ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
始まりの月曜日--いつもの生活--
「何時の間にか。 もう、 ・・・ 卒業 ・・・ ですね」
1人の少女が校庭の中庭で1人佇んでいる。
おそらくその少女が発したと思われるその言葉は、 なぜか悲しさを漂わせている。
こつん
少女は自分の考えを吹っ切るように、 軽く頭を叩く。
そんな事考えても仕方ないのに、 と、 言わんばかりに。
・・・ ・・・ ・・・
ふぅー
今度はため息を吐く。
------これから昭人さんと一緒に帰るんだから ・・・
そう、 少女は待ち合わせをしていたのだ。
しかも、 その相手に自分は少なからず好意を抱いている。
自分の落ち込んでいる顔を見られたくはない。
そう思うと次第に元気が沸いてきた。
「うんっ」
そう言うと、 いつもの表情に戻る。
どうやら完全に吹っ切れたようだ。
「あっ、 居た居た。 瑠璃ちゃんっ!」
折りも良く、 待ち合わせの相手が走ってくる。
「ごめん。 待った? 掃除がなかなか終わらなくてさ」
遅れてきた言い訳をする少年。
しかし、 少女は気にした様子はない。 いつもの事のようだ。
「じゃっ、 帰ろうかっ」
「はいっ!」
少女は一際大きく返事すると、 少年の横に立ち一緒に歩き始める。
少女の名前は星野・瑠璃。
遺伝子工学によって、遺伝子操作されたマシンチャイルド。
現在はきらめき高校の三年生だ。
彼女の経歴はすべて不明だが、 誰もそのことを気にして聞きに来る事はない。
きらめき高校の明るい校風がそうさせているのだろうか?
話し掛けてきた少年は天川・昭人。 同じくきらめき高校の三年生だ。
昭人はひょんな事から、 撫子という戦艦で瑠璃と知り合った。
そして瑠璃が入学する時に、 彼女がマシンチャイルドという事で苛められないように、戦争のせいで学校に行けなかった、 と、 嘘を付いて一緒に入学した。
周りはお互いが仲がいいのは、 どちらも戦争の犠牲者。
と、 納得して、 2人をさして特別扱いする事も無く、 暖かく見守ってくれた。
そして時が流れ、 2人はめでたく卒業の時期を迎えていた。
いつも通う時に通る町並み。 今はそれを逆に走っている。
2人の家は少し遠いので自転車通学だ。
------もうすぐ卒業か。 卒業証書を2つも貰う奴なんか俺ぐらいのもんだろうな
そんな事を考えながら、 学校の前の坂道を走り抜ける2つの自転車。
暫くして学校が見えなくなると、 少し寂しい気がする。
2人ともこの学校が好きなのだ。 それに、 撫子とは違った暖かみがある。
------卒業するのは嬉しいんだけど、 何かやり忘れている気がする
------それも、 とっても大切な事。何だろ?
瑠璃は、 ふと昭人を見ながら自分に自問してみる。
・・・ ・・・
答えは出ない。 しかし気になる。
この頃、 この疑問がよく頭に浮かぶ。 それも昭人と一緒に居る時だけだ。
答えはいつもでない。 そんな自分に瑠璃は今までに無い新鮮さを感じていた。
ちらっ
自分の不思議な感情に答えを見つけよう、 と、 昭人を見る。
------答えが昭人さんにあるのだろうか?
思い当たりは無い。
------自分の苦手な運動?
------違う。 昭人さんも得意じゃない
・・・ ・・・ ・・・ ・・・
瑠璃は結局答えが出せずに家に着いてしまう。
しかしこの時から、 昭人の事を見る目が少しずつ変わっていく事に瑠璃はまだ気付いていなかった。
かちゃ
「ただいまー」
「ただいま」
2人の声が部屋にこだまする。 しかし返事は返ってこない。
それもそのはず。 このとある団地住宅の一室は、 現在の2人の住まいだ。
どうせ軍がお金の事は面倒見てくれるのだから、 もっと良いところに住む事は出来た。
しかし、 下手に目立つと周りに怪しまれるとの瑠璃の意見で、 こんな所に住む事になったのだ。
もちろん、 2人は同棲している事になるが、 別段気にした事はない。
2人はそれぞれ割り切って生活している。
今時の高校生なら、 と、 思うかもしれないが間違いを起こした事は一度も無い。
「よいしょっと」
昭人が両手にぶら下げていた買い物袋を降ろす。
2人とも学校に行っているせいで、 買い出しは学校の帰りだ。
ぱたんっ がさごそ
瑠璃が買ってきた物を冷蔵庫に入れていく。
その間に昭人は洗濯物を容れる。
2人の間には、 何時の間にか仕事の分担が決まっていた。
仕事の分担でもめた事はない。 この場所に初めて来た時から決まっていた。
撫子での生活が、 2人の間に与えたものの一つだ。
「さて飯の支度でもするか」
一通りの仕事を終え、 昭人が晩御飯の支度に取り掛かる。
昭人は元々撫子で料理人をしていたので、 こういう事は昭人の仕事だ。
ごとっ、 じゅーじゅー
おいしそうな音と共に、 いい香りが部屋中に漂う。
今日の献立は肉じゃがと煮しめ。 今作っているのは肉じゃがの方だ。
・・・ ・・・ ・・・
「よしっ!」
昭人が自分の料理の会心の出来に声を上げる。
「瑠璃ちゃ ・・」
「はい」
何時の間にそこに居たのだろうか? 瑠璃の声がすぐに返ってくる。
瑠璃の手にはもう皿がある。 これから盛り付けていく、 こちらの仕事は瑠璃の担当のようだ。
「いただきまーす」
「いただきます」
ぱくっ
「どう? 瑠璃ちゃん」
心配気にそれを見つめる昭人。 瑠璃は軽くウーンと唸っている。
暫くして、 昭人の期待した答えが瑠璃の口から放たれる。
「うまい ・・・ おいしいです。 これっ」
その声に反応して、 昭人の顔はぱぁーっと明るくなる。
しかし、 これを付け足す事も忘れなかった。
「どれくらい?」
「90 ・・・ ・・・ 7点! ですね。 とってもおいしいです。 昭人さんも早く早く」
それを聞いて昭人も食べ始める。
昭人にとって、 瑠璃に自分の作った料理を採点してもらい。
それが高得点の時が一番幸せなのだ。
逆に、 瑠璃の方は満足そうに料理を食べる昭人を眺めている時が一番幸せだった。
それが当たり前。 これがいつもの生活。
そうなっていた2人だが、 少しづつそれが狂い始めている事に、 まだ気付きもしなかった。
そう、 時計の針がずれていく事のように。
<お・わ・り>^始まりの月曜日^
writted by yuashi
yuashi@z2.zzz.or.jp