Frozen Drive

Episode4

作・Yuskeさま

 


Internet Alert "Frozen Drive"

インターネットアラート、 フローズン ドライブ

 

 

弟四話..合わせ鏡

 

 

ANTI本部全ての隊員の行動が止り、 全員自分の持ち場に着きデータ捜索を始める。 今までとは違い、 皆独自のネットワークでバイラスのインフォメーションの取り調べ、 ドライブの可動率、 パブリックプロパギャンダの用意、 UnitedStates政府への被害報告などを行っていた。

『Warning..Waring..Driver operators Report to the mother board roomRepeat..Repeat to the MB room』

周りが赤く点滅する中、 ANTIの隊員はそれを気にせず、 黙々と仕事に打ち込む。 皆、 険しい表情でWarningが止まるのを願う。

 

 

点滅する廊下を走るマリーとエミリー。 エミリーは嫌がりながら、 マリーに手を引っ張られている。

「嫌っしゅる!! 怖いっしゅる!! エミリン、戦わなっしゅる!!」

エミリーの声はWarningのシグナルに打ち消されていたのか、 マリーの耳にその声は届かなかった。 むしろ、 マリーが無視していたのだろう.. マリーはエミリーの方に見向きもせず、 ひたすらマザーボードルームを目指す。 エミリーの涙がマリーの手を濡らすが、 マリーはそれでも脚を止めず前ヘ前へと進み続ける。 エミリーはマリーの手を振り解こうと自分の腕を力いっぱい宙に振るう、 しかしマリーはエミリーの腕を放そうとしない。 エミリーは左手でマリーの腕を引っ張り、 マリーを切り離す。 そして床に座り込み膝を抱え込む..

「もう、嫌っしゅる!! これ以上怖い思いしたくない....」

マリーは無表情でエミリーの腕を掴み引きずりながらも歩き続ける。エミリーはマリーの腕を叩き、 力一杯叫ぶ..

「エミリンは..アタイは戦う気が無いんだ..これ以上..嫌な事を思い出させないで..アタイはこれで良いんだ..壊れたままで..何も分からなくて..」

エミリーの口調が幼子から、 大人の物へと変わる。マリーはエミリーに背を向けながら叫びかえす。

「....シンイチが起きてれば貴方なんかに戦わせるつもりは無かったわ..でもね..今は貴方しか居ないのよ。 私がドライブに乗れるんだったら自分で乗ってるわ。 でもね、 あれは強い意志を持ったものしか受け付けない..ゴメンね..」

マリーの肩が少し震える.. エミリーはそれを見て胸に痛みを感じる。

「「............」」

沈黙が二人を襲う。 二人はこの時間を永遠に感じたのであろうか、 マリーが強くエミリーを抱きしめる..エミリーはマリーを阻まず、 マリーを抱きかえす。

「ごめんね....ごめんね....ごめんね....」

涙を流しながらエミリーに謝るマリー。 エミリーはマリーと一緒に泣きながら答える。

「アタイ..戦うよ..甘ったれてた......このままバイラスをほっといちゃうと他の子の父さんや母さんも殺されちゃんだよね..アタシがやらなきゃ..やらなきゃ....これ以上アタシみたいな子供を増やさない為にも..マリー姉..謝る事ないよ。 落ちぶれてもアタイは元プレーグの女ヘッド! アタイの縄張りをバイラスなんかに渡す訳には行かないよ! マリー姉、 アタイ覚悟を決めたよ..さあ行こう!」

エミリーはゆっくりと立ち上がり、 緑から漆黒に染まった髪を解き、 一つに束ね結ぶ。 リボンを強く、 キュっと絞め、 自分に対して

気合を入れる。 マリーは立ち上がったエミリーを見ると涙を拭く、 そして真剣な表情でマザーボードルームを目指す。

 

 

部屋の中ただ一人で電話を握る赤毛の女性のシルエット。 巨大な机に並ぶ数々のデータ..そして一つの写真立て。

「プレジデント..既に..はい..はい..新たなるドライバーを使います..ノープロブレムです..既に予測していますわ..はい..Yes sir Mr.President..」

電話のツーツーツーと言う音を確認すると電話を切るヨーク。 回線を変え、 ANTI本部全体に放送をセットし、 冷徹に指令を下す。

「Operation Annihilation is now in effect..We have recieved permittionto destorySanFransisco if neccesary..」

ヨークは電話を切り、 一人微笑む。

「あの人....全てプレジデントの計算済みだったのね..面白いわ、 このお礼いつかしなくてわね..」

席を立ちあがり、 指令塔へと向かう、 ヨーク。 ヒールの音がコツ..コツと部屋に響き、 ドアの閉まる音が部屋に沈黙を与えた。

 

 

『System Boot....2GB..6GB..290TB....580TB....10000TB..Done。SystemStarting....ReadingCybernetics....』

エミリーの鼓動がドライブVer.βのサイバネティックスを伝わり、 ドライブのオプティカルナーブへと繋がる。 エミリーの画像がマリーの居る指令塔のメインコンプュータ、 アーカシャナルバに繋がる。

「機体はVer.βですが..」

三十年代後半の中国系の男が眼鏡を拭き、 掛け直す。

「OSはエミリー・クロフォード専用のVer.Ωです..アーカシャナルバによると機体の稼働率は87%です..その内10%はドライバーの精神問題..残りの3パーセントは未知のアクシデント..」

ヨークは冷たい笑みを浮かべる。 全てを予感しているかの様に男を答える。

「No..Problemと言う事ですね、 ドクターチャン。 勝率は?」

「アーカシャナルバは判決出来ないと解答が出ています。 データが少なすぎますし、 ドライバーオペレーター、エミリー・クロフォードの戦闘データもまだ未知です。勝率は『神のみぞ知る』です。」

今度は若い知的な女性が振り向き答える。

「神は常に人の味方をしてきました。 これからもそうなのか、 それとも私たち人間の時代が終わったのか..その答えを出すと言うのもバイラスと戦う理由の一つ..面白い解釈ですね。」

ヨークはモニターを直視しながら、 サンドラに答える。 サンドラは素早い手さばきでキーボードにデータを入力していく。 マリーはその横でエミリーの様子を覗う..

『Cybernetical nerves....Found....Identityrequest....』

マリーはほっとため息を吐く。 そして、 きつい表情を解く。

「エミリー、もう目を開けて良いわよリンク完了よ。次は貴方の右手をロックから解くから動かしてみて..」

マリーはサンドラに振り向き、 素早く命令を下す。

「Ms.アンダーソン 、 ライトアームロック解除お願い。」

素早く解除コードをインプットするサンドラ、 細い指ならではの速さで他のANTIメンバーを圧倒するサンドラ。 ドライブのリインストールの時も新一以上の速さで打ち込みが出来たのはサンドラだけだった。ドライブを固定している右腕の手錠の様な物が外される。 解かれると同時にエミリーは右手を強く握り拳を作ってみる..ドライブもそれに対応して右手で拳を作る。マリーは顔を手によっかからせ考えながら、 サンドラに質問する。

「Ms.アンダーソン 、 βのフィードバックはどの位時間が懸かってるの..」

サンドラは素早くデータをスクリーンに映し出す。 新一のデータとエミリーのデータが左右に写し出される。

「左がドライバーオペレーターβのフィードバックです。 修正時間0%..つまりMR.新一が動けばそれと同じ時にドライバは動きます..オペレーターΩ、 エミリー・クロフォードの場合..修正時間30%..つまりMR.新一が一分動いた場合..ドライブは新一の一分ぶんの動きを同じ時間の内にします。 しかし、 エミリークロフォードの場合、 エミリーが1分動いてとしてもドライブは10秒前の動きをするという事です。」

「それじゃバイラスの動きについていけないじゃない!! 無理よ!」

マリーは大声を上げて抗議する。 しかし、 ヨークは凍るような表情で指令を下す。

「Ms.クロフォード、 サイバネティックスモデムを使います。 全てのロックが解かれた後は第3ブロックヘ向かってください。 Ms.アンダーソン、 全ロックを解除。 Ms.シルバーストーン、 戦闘の指揮をお願いします。」

「ですが! 今のドライブの誤差は激しすぎます! 今のドライブはバイラスに追いつけないほど遅いんです..シンイチでも苦戦したのに..エミリーが勝てる筈がありません!」

マリーはヨークの命令を訴える、 しかしサンドラは既にドライブのロックを解除し、 エミリーはモデムヘと脚を動かしていた。

「..二度言う必要は..ありませんね、 Ms.シルバーストーン。」

マリーはヨークの凍った緑色の瞳を直視するが、 ヨークは動じようとしない。 そんな時、 エミリーからの通信が入る。

「マリー姉、心配しなくてもアタイは大丈夫さ。 速さが何だい! アタイには技がある..アタイのチャイナタウン仕込みのカンフーを見せてあげるよ!」

ウォーフィールドから映し出されているエミリー。

「それよりもさ..この服、 なんとかならないの? 動きやすいけど..ヒラヒラしててなーんか嫌なんだよなぁ..」

そう言いながらスカートの裾を軽く触ってみる。その後に長い上着の袖を捲りあげ、 胸のボタンをしっかり閉める。

「このカンフーの上着..男物でしょぉ! 胸もきついし..これ誰かの趣味で作られたんじゃないの? それにルーズソックスって..まっいいか!」

帯を締め直し気合を入れるエミリー。 それを見て少しは落ち着きを取り戻したマリーは大きく息を吸うと、 エミリーに命令する。

「エミリー、 バイラスをぶった切って来なさい! 貴方なら出来るわ。 ドライブβ..モデムセット..トランスファーオン!」

エミリーはブイサインを作り、 マリーにウィンクする。 マリーは頷き、司令室に高い電話音が響きエミリーのモニターはいつのまにかスタティックな雑音画面に切り替わっていた。

「あの娘はエミリー・クロフォードだったのですか? 私達が見た彼女とは感じが違うような気がするんですが..話し方も彼女の『しゅる』ではありませんし..大人びた様な気がします。 髪型を変えただけでここまで雰囲気が変るなんて..でも今の彼女は頼り甲斐が在る様な..今の彼女なら信じても良いような気持ちになれます..」

サンドラがマリーに語る。 彼女は眼鏡を外し、 コーヒーカップを掴み、 一口飲む..そして自分の気持ちを落ち着かせ、 マリーの答えを待つ。 マリーはマリーは目線をモニターから動かさずに語り始める。

「さっき言った通り、 エミリーはサンフランシスコ・プレーグと呼ばれるギャングのヘッドだった。 だけどバイラスの事故に巻き込まれた時に両親を目の前で失ってしまったのよ。だから..自分を守る為にあえて性格を破壊して幼児退行した。 書類にはそう書いてあったわ。 でも、 その書類はエミリーのパーソナリティは完全に破壊されたと書いてあったわ..今のエミリーに戻ったのは奇跡..あるいは..」

マリーはエミリーの書類に再度目を通す。 チャンとサンドラは悟ったのかあえて質問せず、 ドライブのデータチェックを行っている。

「....やはりそうだったの、 それだけじゃ無かったのね、エミリー..」

 

Frozen Drive

 

episode 4

 

『The Mirror Has Two Faces』

 

巨大な牙で街を食いちぎる巨大な物体。 今までバイラスと違い、 この物体は人型では無く、 四本の脚で地を歩く獣だった。 二つに分かれた頭の内、一つは炎を鬣の様に巻き付け、もう一つは絶対零度の氷を鬣にしていた。 ドライブの到着が待たれる間、 ANTIのメンバーは逸早くバイラスのコアを捜索しようとする。 しかし、 バイラスと接触していない今、バイラスの生態をスキャンするデータも無く、 アーカシャナルバは機動したままデータをアナライズしていなかった。

「前回はジャパニーズ・デーモン、 鬼(Oni)。 そして今回はケルベロスと神道のバキラをモチーフにしたものですか..これを作っている者達は何を考えているのか? サイバネティックスの資源の無駄だ..」

チャンは人差し指で眼鏡を押し上げる。 マリーはその横で黙々とバイラスの対処法をプログラムでデモンストレートしているが何故か成功していない様でモニターを叩く。

「こーのぉ、 オンボロマシーン!! この!! この!!」

「Ms.シルバーストーン、 アーカシャナルバはこの世界最高のオペレーティングAIです..貴方のプログラムの答えを出さないのも、 その答えが無意味だからでしょう..CPUはウソを付きません..『果報は寝て待て』..有名なことわざです..覚えておいてください..」

チャンは軽くマリーを注意する。 マリーは落ち着きを取り戻したのかプログラムを停止させ、 モニターに写るサンフランシスコを直視する..

「..ドライブ到着までカウントダウンを始めます..」

マリーは席から立ち上がる。

「5..4..3..2..1..ドライブVerβ、 サンフランシスコに到着です。」

サンドラは状況をヨークとマリーに伝える。 ヨークは表情を変えず画面を直視しながらマリーに指令を下す。

「Ms.シルバーストーン、 ここからは貴方の仕事です。 バイラスを6分47秒以内にフォーマットしてください..エミリーはその時間以上βのリンクに耐えられないとマザーボードルームからのリポートが届きました。 It is all up to you Ms.Silverstone.Lead us to Vitory.」

マリーは爪を噛み、 状況を把握する。

『時間は無い、 その上エミリーのフィードバックも遅い..フフ、 絶望的な状況ね..』

マリーはヨークに振り向き真剣な表情で答える。

「Yes Maam、 この戦い..エミリーを生かし、 サンフランシスコを壊さず、バイラスをフォーマットして見せます。」

 

....ガシャ..カチ..ザー..ドォォォォン..

ドライブβがサンフランシスコ上空に飛ばされる。

「アタイのシマがこんなに小さく見えるなんて、 やっぱり凄いねぇANTIは。 いっけない、 こんな事してる場合じゃ無かったんだ。 でも、 どうすればいいんだろ? 使い方も良く分からないしぃ..バイラスが何処に居るのかさえ判らないって言うのに..どうしよっか、 リーリ?」

リーリは動かず、 エミリーを見つめる。 エミリーは何か分かったようにリーリを答える。

「やっぱり..ありがと、 リーリ。 マリー姉、 バイラスの居場所はビーチだね! シティを攻撃される前に壊すよ!」

エミリーは宙で軽く一回転すると、 爪先でトンっと着地する。 普段なら物凄い音と共に、 地を割る程の衝撃が来るのだが、 エミリーの着地はカンフーで鍛えられたそのバランスの成果を見せていた。

脚を軽く蹴り上げると、 βはビルの屋上を伝って海岸を目指した。 新一のこなしと違い、 エミリーは身のこなしを駆使して素早くバイラスの居る砂浜に向かった。 脚踏みさえ聞こえないエミリーの動きにマリーは軽く笑みを浮かべた。

「いた! バイラスってあれの事かい? 趣味悪い作りだねぇ..造った奴の顔が見たいよ。 あれ造る位なんだから相当の宗教バカかなんかだろうね。 でも、 今はそんなのグチってる暇は無い!

マリー姉、 ここはアタイの街..これ以上あれを入れさせるつもりは無い! だから出来るだけ早く潰すよ!!」

エミリーは構えもとらずバイラスに直進し始める。バイラスはそれに気づき、 二つの顔をβに向ける。

「っ!!! 凄いエナジーがバイラスの鬣周辺に蓄積されています!!!」

サンドラが振り向く。 マリーは悟った表情でスクリーンを見つめる。

「βをバイラスに近づけるのは危険です! 早くエミリーに命令を..」

「大丈夫よ..あの娘なら」

サンドラとは裏腹に落ち着きながらスクリーンを見つめるマリー。 サンドラは抗議を続けるがマリーは決して動じない。 スクリーンを見ながら親指の爪を軽くかみ切る。

「っ! 何か来るみたいだね..面白い、 うけてあげようじゃないか..来な! バイラスの分際で人間様に勝てないって事を教えてあげるよ。」

エミリーは突進を止め、 バイラスの攻撃を待つ様に防御の構えを取る。新一のダイナミックな動きと違い、 エミリーは静止したような構えを取る。 右腕を高く突き上げ左腕を地に向け、 手で巨大なはさみの様な形を作る。バイラスの炎の鬣は輝きを放ち、 バイラスの口から炎の一線をβに放つ。 バイラスの炎は異様なスピードでエミリーの目の前に現れるが、 エミリーは瞳を輝かせ、 素早く動き始める。

「甘いね、 そんなんでアタイのシマを荒そうとしてたのかい? 無謀だねぇ、 2分で壊してあげるよ!」

しかし、 エミリーの動きとは裏腹にβはその動きについては行かなかった..灼熱の炎がβを襲う。

「キャッ..何故? 先に動いた筈なのに..どうして..クッ..」

エミリーの肌は赤く腫れ上がり、 蒸気が発されている。 βの腕から激しく蒸気を放ちβの視界を霧で巻き込む。 エミリーは眼をこすり視界を良くしようとするが、 逆に腕から発する霧が視界を余計に奪う。

「クッ..眼が....キャッ、寒いっ!! これは何?」

霧の外からバイラスは氷の吐息をβに向かって吹き出し始めた。 エミリーはそれを防御する為に右腕をあげるが、パキパキと言う音共にひびが生じる。 エミリーは驚きのあまり、 腕を振り放し左腕にガードを変える、しかし右腕と同じようにひびが生じる。

「炎の次は氷..バイラスにしては上出来ね。 でもそれがアンタの弱点なのよ.. 分かんないだろうね..」

エミリーはガードを解くと軽く宙を舞いバイラスの背後を取る。 バイラスはそれをフォローしながら氷の吐息を吐き続けるが、背後を取ったエミリーには届かない。

「クスクスクス..馬鹿だねぇ、 勝てる訳無いのにアタイのシマで争いたいだなんてねぇ..クスクスクスクス。 笑いが止まらないわ!」

エミリーはガードを解き、 βもそれを真似するかの様に腕を下ろす。

「さぁ、 来なさい..お姉さんが遊んでア・ゲ・ル..クスクスクスクス..貴方の勝つチャンスだよ。 種も仕掛けも無いよ..さぁ!」

挑発するかの様に脚を絡ませ、 手首を裏返しバイラスを手招きする。

「エミリー、 挑発なんてしてる場合じゃ!! 速くバイラスのコアと繁殖システムを探さないと貴方がやられるわよ! 戦いなさい! これは命令よっ!!」

マリーはモニターごしでエミリーに怒鳴りつける。しかし、 エミリーは笑みを浮かべた後マリーを睨み付ける。

「マリー姉、 ここはアタイのシマだ。 アタイがこのサンフランシスコのリーダーなんだよ..この街では口出し無用だよ! アタイは好きなようにやる..」

エミリーは中指をモニターに付きつけ、 マリーだけに分かるようウィンクする。 マリーは怒りを抑え笑みを浮かべエミリーと同じように中指をつきたてる。

それを見たサンドラが呆れたようにコーヒーカップを口へ運ぶ。

「いやね..下品な上司を持つと..」

 

挑発しながらバイラスにじりじりと近づくエミリー。 バイラスはエミリーの方向に振り向くと飛び跳ね、 βの喉をかみ切るように牙をむき出しにする。

しかし、 エミリーはフィードバックを計算し、 バイラスよりも紙一重の速さで後ろを取る。 そして近くに逢った船のマストを破り両手に持つ。

「ほらほら、 速く来な! アタイはこっちだよ。」

エミリーはマントをヒラヒラと振る、 βもその動作をフィードバックする。 一方、 バイラスは雄叫びをあげ、 一歩も動こうとせず、 ドライブシステムの機動時間は刻々と過ぎて行った。 サンドラは機動時間を読み上げるが、 マリーもヨークも全く動じない。 二人は無表情でスクリーンを直視していた。

「..ふぅ、 来ないつもりかい? しょうがないねぇ..こっちから仕掛けといてあげるよ。 ホラっ!」

βはマストを自分の周りにくるませる。 次の瞬間マストは地に流れ落ち、 βはその場には居なかった。 それを見たマリーは小さな笑みを浮かべ腕を組む。 残り時間は後2分を切っていた。 バイラスは雄叫びを止め両方の鬣を変色させ、 辺りを無差別に攻撃し始めた。 ANTIの本部一帯にエミリーの叫びがこだました。

「これ以上、 アタイのシマを破壊させる訳には行かないんだよ! お遊びは終わりだよ、 闘牛イヌ!」

モニターの視界にはエミリーが写っていない、 しかしマリーはマイクに向かって叫びかえす!

「一撃で仕留めちゃいなさい、 エミリー!」

マリーは軽く拳を振るう動作をする、 それを見てサンドラは大きなため息を吐く。

「一撃? こんなやつ触るの? 自爆してもらうつもりなんだったんだけど..それでもいい、 マリー姉?」

エミリーの微笑みがモニターに映し出させる。 マリーはエミリーの作戦を別の物だと思っていた為か、 エミリーの発言に眼を丸くしていた。 ヨークはコーヒーを口にする。

サンドラとチャンは驚きの声を上げる。

「自爆って..そんな事無理よ! バイラスは自爆する時は半径10キロを炎に巻き込みながら自爆するのよ! 辞めなさい!」

エミリーはベーと舌をだし通信を切る。 エミリーが映し出されていたモニターが漆黒に変り、 エミリーの声がこだまする。

「やーだよっ!! アタイの好きなようにするからね!」

マリーはモニターを力強く殴り付ける。 ガンっ....

「痛い!!!!!」

手をヒラヒラと振るマリーを見て、 サンドラは直も大きなため息を吐く。

「馬鹿な上司を持つと大変ね....」

 

バイラス上空に居たβは軽く回転をし、 バイラスに爪先を突きつける。 βはバイラスの両方の顔を踏みつけ、 バイラスの裏を取る。 バイラスは吐息を絶えず吐き続け、 βを追跡する。 エミリーはバク転など、 側転などを披露し、 紙一重でバイラスの吐息を避ける。 そして、 避けるたびにバイラスを挑発するポーズを取る。

「鬼さんこちら! 手の鳴る方へ!! コッチだよっクスクスクス。」

バイラスはそれでも絶えずに炎から氷へと吐息を吹き付ける。 エミリーはだからぁとジェスチャーした後にバイラスに向かい走り出す。

「Show Time is over. グッバイ! 可愛くないお犬チャン、 すぐに寝かせてあげるからねぇ。」

迅速に近い速さでバイラスの間合いを詰め、 踊るように吐息を避わす。 エミリーはバイラスの首の間に詰め込み、 バイラスの首を手刀で折り、 絶えず吐き続ける吐息を反対の首に向ける。 炎の吐息と氷の吐息がぶつかり合い、 凄い速さで蒸発を始める。

「アタイが手を下すまでも無いわ、 じゃね!」

バイラスの首を睦び付け後ろに下がる。 バイラスの身体が溶け始め、 やがて頭もサイバネッティックスが見える状態になっていた。 バイラスの首の付け根に輝くものを発見するエミリー。

「みーつけた!」

エミリーは飛び上がり爪先でバイラスのコアを貫き、 すぐにバイラスから素早く飛び離れる。

「いっちょ上がりぃ!....ってあれ?? 動かない..まずいよぉ..これじゃ吐息に巻き込まちゃうよぉぉぉぉ、 エーン。」

空中へ跳んだエミリーは回転をし動こうとするが、 βは眼の赤い輝きを失い腕もだらんと垂れてしまう。

「Ms.シルバーストーン! βの活動時間..ロスタイムに入りました..機動予定時間を超えています..エミリーが動けるかどうかはもう..アーカシャナルバには..」

エミリーは画面に振り向き叫ぶ..

「エミリー!!! 逃げてぇぇ!!!!」

エミリーはβウォーフィルドの半重力装置に向かい、自分の技の中で一番破壊力がある技を繰り出す。

「壊れてぇ!!! アタイは未だ死にたくないぃぃ!!!!」

ANTIのモニターは蒸気の霧でβの様子が把握出来ない状態になっていた。 βの落ち行くシルエットを眼にしてマリーは泣く。

「エミリー....エミリー..エミリぃぃぃ!!!!!!!!!!!」

沈黙の時間が一分..二分..周りの霧が振り払われる..

「このポンコツぅ!! このぉ このぉ!! 通信入れなきゃいけないのにぃ!!」

マリーは顔を上げ、 涙を拭きエミリーの通信に答える。

「生きていたのね!! エミリー!! 良くがんばったわね..Good job Emily..」

エミリーの蹴りの音と共にエミリーの笑い声がこだまする。

「当たり前ぇ!! アタイのカンフーは世界一! こーんなへんてこな獣に負ける訳無い..っう..あ..れ??」

エミリーの笑い声が断末魔に変る、 マリーはそれを聞き、エミリーの応答を命令する。

「何が逢ったの? エミリー!! 答えなさい!! 命令よ!!」

「しゅる?? エミリン、 なっしゅるここにいっしゅる?? わからなっしゅる..疲れっしゅる..もう寝っしゅるぅ! ぐぅ..」

この声を聞いてマリーは大粒の汗を流し、 肩をガクリと落とす。 ヨークは誰にも見られないよう小さく笑いをもらす。 これを見た

サンドラとチャンはユニゾンで呆れたポーズを取り、 独り言を口にする。

「「大変だ(です)ねぇ、 変った部下を持つと..」」

 

To Be Continued

 

次回予告..

問題無く初勝利を飾ったエミリー、 未だに起きない新一。 この状況の中、 ANTI

のドライバーオペレーター達はニューヨークでの生活を命令される。 エミリーはマリー

と同居する事になるのだが..??

 

次回 新たなる生活

Justice Will be served!

 

あとがき

と..言うことでyuskeッス! 今回書くのが辛かったッス! 前回で話を変えようとしたのがアダとなって今回新たなシナリオを考える為、時間がかかってしまいました。

さて! 来週は新一復活予定になってますが..復活するんでしょうかね、 アイツ?

来週はロリロリエミリーがメチャメチャ活躍する予定です! 期待してね!

後、 俺のHPにも来てくれい!! ANTI本部はコチラ! 書き込んでね!

 

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