第1話:使徒襲来<中編>(神楽シンジサイド)
使徒がNN機雷に接触して10分ほど。まだ使徒は、活動を再開していない。 『こちら橘。部隊展開完了した』 『同じく兜。こちらの展開も完了です』 通信機からは、よく知った人物からの連絡が入る。神楽シンジは、その二人に向けてこれからの指令を出すため、マイクを手に取った。 「ご苦労様です。 もう知っていると思いますが、この度の敵には通常兵器で殲滅はもちろん、足止めも大した効果を上げることは難しいでしょう。 そこで、我々の秘密兵器を一般砲撃に併せて発射させてください」 秘密兵器。 少なくとも、“自分の時代”では存在しなかったであろう。 『その様な物を、ここで使用なさるのですか?』 女性の通信。兜ミナモ三等特佐からだ。 「“ここだから”ですよ。 理論は既に発表済みです。それを実現できる技術力が不足しているだけですから。 それに、せっぱ詰まった状態で使用して、万が一効果がないとしたらどうしようもありません。 こう言っては不謹慎ですが、今回は実用実験も兼ねているんです」 『了解しました』 『それでは、計画通りに進めていけばいいのかね?』 今度は橘コウスケ特将から。 今回は無理を言って、古巣の戦略陸上自衛隊の指揮をしてもらっている。 「そうです。直線針路上には市街地があります。 第三新東京市は、敵の目標地点であるために避けようはありませんが、それ以外の街には、出来るだけ被害を出したくありませんから」 『最終防衛線はどの辺りを指定するのかな?』 「やはり強羅でしょう。 足止めをする時間的にはぎりぎりです。 状況によっては、かなりの部隊が犠牲になるかもしれません」 『で、それを回避するために私をこちらに持ってきた、と。 任せなされ。“鋼壁の部隊”の名を十数年振りに轟かせてくれる。 …シンジ、全てを背負うとするな。そのための我々だ』 「解りました、橘特将…いえ、コウスケおじさん」 『シンジ。ここがお前の知っている世界と同じではないかも知れないとは言え、我々は今ここに生きている。 今できる事は、全てやっておく事だ。それが生きる事だからな』 「はい、わかっています」 『…よし。それでは任された仕事をやって来る』 そして、通信は終了した。 「出来る事は…か。 そうだよな。今更昔みたいに何事からも逃げるような、弱腰ではいけないか」 シンジはこの世界に舞い戻っての十数年間もの間、自分たちを見守ってくれた人だからこその言葉の深みを感じていた…
NN機雷命中点近辺 爆発から既に二十分が経とうとしているが、海面は濃い灰色をしていた。 海底からの泥分が海中を未だ浮遊し、落ち着いていない証拠である。 それだけに、このNN機雷の威力の鱗片を垣間見る事が出来た。 その現場の上空には、爆発の乱気流が収まった頃から監視しているヘリが大小併せて三機。 正体不明の“物体”に対しての監視である。 その内の一機から、本部へ向けて通信が飛ぶ。 「目標に変化。再度進軍の気配あり」 『了解した。 無人偵察機を目標の近くへと移動させ、現状で出来るだけの情報を収集せよ』 「了解」 彼の乗った大きめのヘリを除いた、残りの二機が目標へと近づいて行く。 つまり、それ以外は無人機であったのだ。 目標を肉眼で確認できる距離にはいるが、その二機より大きく離れた有人機の内部では、無人機から送られてくる視覚情報を整理し、本部へ送り続けるための作業で忙しい。 「外観情報は8割ほど収集完了。 これより戦闘耐久力の測定に入ります」 戦闘耐久力。要するに無人機に搭載している兵器が有効かどうかを計るのだ。 それほど強力な兵器は搭載していないとは言え、これが全くの無効であればそれ以上の兵器を用いる等の兵器の基準にはなる。 「30mm機関砲。…効果認められず」 「近距離用AAM(空対空ミサイル)。…若干の行動遅延を認めるも、効果は無し」 入ってきた情報を本部へと転送する。 目標は行動開始したばかりのためか、周囲の無人ヘリに対しては大した反応をしていない。 『…情報受信完了。 これより防衛戦を開始する。貴官等は一度給油のため帰投せよ』 「了解。これより帰投する…」
指揮本部 「橘陸…特将、準備が完了しました」 臨時に副官となったその男は、彼にそう伝えた。 呼び方を間違えたのは、橘コウスケが今まで戦略陸自の将官だったからだろう。 「分かった。…君も聞いておきなさい。 我が部隊は、目標の進行ベクトルに相対するように行動。 兜三等特佐は、進行ベクトルの側面へ攻撃が集中するように行動すること」 「「「「了解」」」」 コウスケの指示に、その場にいた者全員が返事を返す。 かつての英雄の肩書きが、彼等の士気高めているのだ。 「…それから、我々は国民を守るための軍で無くてはならない。 目標が市街地を経由してしまう場合、市内での攻撃は精密射撃のみに控える事。 いいな?」 「「「「分かりました」」」」 「よし、では現時刻をもって作戦を開始する!」
…十分後。交戦現場:海域 「レールガンの“チップ”準備完了」 「目標までの標準修正完了」 「質量弾、発射準備完了しました」 「発射!!」 その号令と共に、巨大な質量を持った砲弾が高速で目標に突き進む。 爆発するでも無く、只々目標へ当たるのみ。 だが、その運動エネルギーはとてつもないモノである。 t(トン)クラスの質量が高速で当たるのだ。 着弾する地点が地上だった場合相当のクレーターが出来てしまうため、この砲撃は目標が海上であるという限定が付いてしまう。 「命中っ。目標、後退しました」 さすがの使徒も、これほどの純粋な運動エネルギーに平然とは出来なかったらしい。 が、その攻撃をもってしても、被害を与えられない事は変わりない。実測上のエネルギー総量が、予想総量を大きく下回っていたためだ。 原因は不明。後にA.T.フィールドと呼ばれるものの干渉である事が判明する。 「チップ内エネルギー、無くなりました」 「三番機、高エネルギー負荷のため、計測回路破損。停止します」 さらにこの兵器は、シンジやアスカ達が考えた、“本当はあるはずのない”兵器なのだ。 『神の依代』となったシンジ達の記憶の片隅から時折こぼれてくるオーバーテクノロジーとも言われるそれらは、長時間正常に稼働する事はほとんどゼロに等しい。 「二番機は?」 「次の砲撃でエネルギーが尽きます」 「発射次第、部隊は後退。次の地点へ移動せよ」 「了解」
…それから十数分後、交戦現場:内陸 「巡航ミサイル群、目標の正面にて不明の爆発。 目標の進行一時停止。依然目標に被害は無い模様」 使徒と呼ばれるそれに、通常兵器の無力さが嫌と言うほど身にしみた頃。 進行ベクトルをほんの少しだけ逸らし、進行スピードも心持ち遅くなったと思えるほどしか効果は無かった。 幸いにして、遠距離攻撃だけに自軍に人命の損害が無い事が救いだったが、それは時間の問題でもあった。 「…悪夢ですね。特将」 「全くな。昔やったゲームの様だよ」 指揮車の中で交わされる会話。 自分たちを含めたオペレーターや参謀達は、狭い車内をかけずり回って状況に対処していた。 偵察ヘリ等から随時送られてくる情報は、一度全てここに集められるのだ。 「ゲーム…ですか?」 自分に回った仕事をこなしながら、上官である橘特将に向い聞き返した。 まさか、ゲームなどという言葉を橘特将から聞こうとは思わなかったからだ。 「ああ、そうだ。 名前は忘れたが、何かコマンドを入れると敵の攻撃が全て無効になる戦闘機ゲームがあっただろう? …セカンドインパクトの前の話だがな」 「ああ、ありましたね。 …確かに、今は目標が無敵の戦闘機。自分たちがそれを攻撃する敵…ですね。 本当、ああ言うモノは、あの様なゲームの中だけにして欲しい物です。 …しかし特将、よくご存じでしたね」 「なに、昔親戚の子供達と一緒に遊ばされたのでね」 「なるほど…」 そんなたわいもないやり取りをしている間でも、その二人は仕事に手を抜く事は無かった。 口元ではその様な比較的のんびりとした口調で話してはいるが、それ以外の全ての感覚器官は情報解析へ回され、忙しなく動いているのだ。 「本部からデルタへ。 目標が市街地を掠める事は回避しようがない。 制圧射撃から精密射撃へ変更。再度指示があるまではこれを続けよ。 大丈夫だとは思うが、民間人がいた場合はこれを最優先で保護するように」 『了解』 その命令が終わるのを待っていたかのように、指揮車のホットラインが鳴り響く。 「はい。…了解しました」 その内容は、戦闘指揮権がネルフに移ったという事だった。 「先ほど、現戦闘指揮権がネルフに移った。我々は強羅防衛線まで後退する。 その場より、長距離からの制圧砲撃で時間を稼ぐ」 「「「了解…」」」
…この後、市街地を出た目標に向かい、長距離制圧砲撃が執り行われた。 大型質量弾を陸上で使うわけにもいかず、従来のSAM(地対空ミサイル)やSSM(地対地ミサイル)による攻撃に頼るしかなかった。 その光景を目にした兵士は、まるで銃弾の雨の中で、ごく自然に歩みを進めるヒトの様だと語ったと言う。
『こちら兜です、先ほど橘特将と合流いたしました。 質量弾は比較的有効でしたが、“干渉弾”の方はこちらの機械では上手く動作しませんでした。 …今後の方針をお願いします』 「分かりました。 質量弾が足止めにであっても有効な事が分かれば十分です。干渉弾は別の機会に使ってみますよ。 それから今後の事ですが、目標が強羅を突破するまでは砲撃を続けて下さい。それ以後は通過された市街地の確認。それから、部隊被害の確認もお願いします。 終わり次第、橘特将と共にこちらへ戻って下さい」 今はシンジ一人になったその司令室。 ネルフを含め、この戦闘の情報は全てここのコンピュータに集められる事になる。トータルスペックではMAGIと比べるまでもない。だが戦闘情報解析にのみ特化しているため、その分野に限って言えばMAGIと同等以上のスペックを有していた。 もちろん、非公開のコンピュータであるが… アスカの『負けん気』が良い方向に向けられた努力の結晶である。 (さて、次に出来る事は…) ネルフへ向け、ホットラインを繋ぐ。 自分たちの事は秘密であるために、戦略航空自衛隊として。
「…ありがとうございます。この戦い、必ず勝ちましょう」 ネルフとの通信が終了した。 ゲンドウが出るとは思わないが、まさかホットラインの相手がオペレーターの青葉さんと言うのも驚きであった。 「許可は下りた。が…手の内を全て見せるわけにはいかないな?」 独り言のように呟く。どことなく楽しそうな雰囲気を感じるのは気のせいか。 パネルを操作し、アスカに繋ぐ。 「アスカ、出番だよ」 『ようやくお出ましね、バカシンジ。…で、どうするの?』 「アスカ達は“久遠(クヲン)機”でもって第3新東京市へ急行して。“干渉弾”も積んでいってね」 『分かったわ。…向こうでは私が指揮していいのよね』 「もちろんだよ。 …でも、あくまで支援だからね。サキエルを倒せる様な試作品を持っていかないように。アスカならやりかねないからね」 『バ、バカね…そんな事するわけ無いじゃないの。 じゃ、じゃあ、準備をしないといけないから』 アスカは焦った様子で通信を切る。 (図星…みたいだな。変わってないや) 先ほどのアスカの焦りを思い出して顔がゆるむ。 「…何か面白い事でもあったのかい?シンジ君。 僕を呼びだしておいて無視とは非道いじゃないか」 少年の声。 「え、いつの間に来たの?」 その声にやっと気が付いたようにシンジは振り返る。 「ちょっと前だよ。アスカと話していた様だから終わるまで待っていたのに。 ノックしても応答してくれないから、勝手に入ったよ」 その銀髪の少年はそうシンジに言う。別段非難しようという感じは無い。 「ごめん、カヲル君…」 かつて自分が手に掛けた少年が、そこにいた…
使徒襲来<後編>に続く...... |
【あとがきと呼ぶべきもの】 お読み頂き、ありがとうございます。 色々とこの話に伏線を盛り込んでしまいましたので、意味不明なものが出ておりますがもう少しお待ち下さい。 碇シンジサイドで書いたように、戦自の方々はよく戦っております。…それでも倒せませんけど。
それでは、後編にて。 |