スターオーシャン

■ラクア海岸の月光■

その1

作・ユーロさま


 

 

クロードとセリーヌは見つめ合う。

二人を見ているのは、空に浮かぶ月の光だけだった。

 

ざざぁん・・・

潮騒の音も、彼らの耳には届くまい。

波の音が無い今、穏やかな沈黙のみが、場を包む。

セリーヌはすうっと、クロードに寄り添う。クロードは少し戸惑いを見せるが、拒否するようなことはない。

たおやかな笑みを浮かべ、セリーヌはクロードの腕に、自分の手を絡ませる・・・。

「ねえ、クロード・・・」

ぎゅっと、抱きつかれた腕に力が込められるのを、クロードは感じていた。

「全てが終わったら・・・もう一度、この海を見に来ませんこと?」

彼女の特徴的な「お嬢様言葉」も、もう慣れてしまった。それほど、この旅は長かったのかも知れない。

その間に築かれた想いも、今では・・・

 

明日は、最後の決戦の日。

この二人だけではないだろう。それぞれの想いを胸にした「希望」達は、

月の光の下で各々の想いを語り合っているはずだった。

 

セリーヌの唇が、また、言葉を紡いだ。

「そう・・・今度は二人だけでね・・・・・・」

そしてセリーヌは、クロードの肩に自分の頭を押し付けるようにして、彼にしなだれかかった。

きっとクロードはわたくしの想いを受け入れてくれる・・・そんな想いが、セリーヌにはあったのだろう。

「・・・です・・・」

クロードが、何事かをつぶやいた。

「え?」

セリーヌは問い返す。

クロードは、言った。

「嫌です」

その言葉の意味を理解するのに、セリーヌは数秒を要した。

「・・・そんな、どうして・・・クロード・・・」

クロードは、わたくしを受け入れてくれないというの?

「わたくしでは・・・駄目なのですか?」

悲しみが突如、そして怒涛のように心を埋めていく。

余りに予想外のことに、セリーヌの瞳にはあっという間に熱いものが込み上げてきていた。

どうして・・・? どうしてっ!

突然突き放されたセリーヌ。

離れたくない、離されたくない・・・いつしか彼女はクロードに縋りつくような姿勢になっていた。

「どうして?」

その言葉が口を衝いて出る直前だった。

クロードは、いつもの優しい笑顔でセリーヌに囁いた。

「一度だけだなんて・・・嫌です」

「・・・・・・!」

それって・・・どういうことですの?

セリーヌの潤んだ瞳が、クロードにそう語り掛けていた。

「セリーヌさんとなら、僕は・・・何度も、海を見たい・・・」

何と陳腐なセリフなんだろう。クロードは思った。

笑われるかも知れない。でも、セリーヌさんは勇気を出して僕に告白してくれた。

ならば、僕も勇気を出さなければ・・・。

セリーヌは23歳。クロードより4つも年上の「大人の女性」だ。

こんなセリフは笑われても当然だろう。そう思っても不思議ではない。

だが・・・セリーヌは決して、彼を笑ったりはしなかった。

潤んだ瞳を輝かせ、頬を真っ赤に染め・・・恥ずかしげに俯いたのだ。

そんな反応は、逆にクロードを戸惑わせた。

(とてもじゃないけど・・・年上の女だなんて思えないな・・・)

初恋を告白した少女のような・・・そんな表情だった。

可愛い。とても可愛らしい。

クロードは、もしかしたら拒否されるかも、などという有り得ない可能性にも

思考を巡らせながらも、おずおずと腕を伸ばし・・・セリーヌの背に回した。

セリーヌはその温かさに、思わず身体を小さく震わせてしまう。

セリーヌは、真っ赤に染まった顔をクロードの胸に埋めた。

ああ、クロード・・・ありがとう・・・わたくしは、あなたが・・・。

 

お互いの体温を身体に感じ、奇妙なほどの安心感を覚えながら、二人は抱き合っていた。

 

クロードとセリーヌは見つめ合う。

二人を見ているのは、空に浮かぶ月の光だけだった。

 

ざざぁん・・・

潮騒の音も、彼らの耳には届くまい・・・・・・

 

 

(つづく)

 

 


(update 99/04/30)