長崎諸役所絵図帖について
 
はじめに
長崎奉行所は行政上管理下にあった施設の絵図帖を作成していた。これらの施設とは
@立山、西両役所および岩原屋鋪 A武具蔵、御船蔵、瀬崎両米蔵、新地などの蔵
B長崎会所、俵物役所 C出嶋、唐人屋鋪 D牢屋、溜牢 E唐人番、町使などの
番方の長屋 F遠見番所、台場 G安禅寺、大音寺 Hその他 (御薬園、桜馬場炮術場、
唐鳥小屋、梅が崎修理場など) である。絵図は彩色された平面図で通常折本、巻物などで
絵図帖の形になっている。ここでは現在閲覧・複写可能な絵図帖16点を調査比較し時代考証を
試みた。
表1  調査した長崎諸役所絵図帖のリスト
    @長崎屋敷図 A長崎諸役所建物絵図 B長崎諸御役場絵図 C長崎絵図 
    D長崎諸役所絵図 E長崎諸官公衙及附近之図 F崎陽諸図 G諸御役場絵図
    H長崎番所絵図 I文化五辰六月御改長崎諸官公衙絵図面 J長崎諸御役所古図
    K長崎諸役所絵図 L諸役所絵図 
    A 長崎諸役場絵図  諸御役場絵図 上巻  C  長崎諸役場絵図 下巻
 
表2  長崎諸役所絵図帖に記載された諸施設
     西御役所 立山御役所 岩原御屋敷 長崎会所 御武具蔵 御普請方用屋鋪
     唐通事会所、貫銀方土蔵 北瀬崎御米蔵 南瀬崎御米蔵 出嶋 新地 唐人屋鋪
     牢屋 溜牢 御船蔵 波戸場(大波戸) 俵物役場 築地前俵物役所 新地前俵物蔵所
     御薬園 西山御薬園 桜馬場炮術場 御用物蔵 遠見番長屋、唐人番長屋 船番長屋
     引地町町使長屋 大井手町町使長屋 八百屋町町使長屋 銅座跡役場并両番長屋
     小瀬戸遠見番所 野母遠見番所 天草郡牛深湊御番所 崎陽神崎図 崎陽女神図
     崎陽太田尾図 崎陽魚見嶽図 崎陽長刀岩図 長崎砲台図 長崎砲台図 長崎火薬庫図
     西泊御番所 戸町御番所 肥前長崎図 放火山之図 放火山上竃之図 唐鳥小屋
     梅ヶ崎唐船修理場 小嶋郷塩硝場 桜町鐘楼 安禅寺 大音寺 銅座(銅吹など) 
     稲佐塩硝蔵、銅吹所 在来台場 天保13年建御組屋鋪 
 
2.絵図帖とはどんなものか?  内閣文庫蔵のD『長崎諸役所絵図』の31枚の絵図を紹介
 
3.次の施設についての年代考証を含め変遷の説明
  @ 立山役所
  A 出嶋
  B唐人屋鋪
  C北瀬崎米蔵
  D御船蔵
  E引地町町使長屋
 
4.明治維新後の絵図帖の流出と2点の国重要文化財指定についての考
   今回調査した絵図帖で最も古いものは岩瀬文庫蔵の『長崎屋敷図』で天明5年(1785)ごろ、
  最も新しい絵図帖は長崎歴史博物館蔵の『長崎諸役所絵図』で嘉永7年―安政3年(1854―1856) 
  ごろと判った。長崎奉行所の290年以上の歴史の中の70年という新しい時代をカバーしているに
  過ぎない。また調査した16点の絵図帖は8点が長崎歴史文化博物館蔵、あとの8点は国立公文書館、
  三井文庫が各2点、東大史料編纂所、国立国会図書館、愛知県西尾市の岩瀬文庫、福岡市博物館が
  各々1点と散らばっていた。これ以外の絵図帖はあるのか、既に失われたのか、あるいは未だ見つから
  ないのかは大きな謎である。絵図帖は役所、台場などの機密情報を含むことから奉行所で筐底深く
  所蔵され門外不出とされていた。しかし明治維新後一部は流出分散し、図書館、博物館によって買い
  取られた。本馬貞夫氏の長崎奉行所関連資料の重要文化財の指定経緯についての著述、絵図帖に
  押された朱印、また福田文庫木箱や絵図に書かれた経緯書きなどを総合して、この疑問への答えの
  一部を得た。またなぜ長崎歴史博物館の8点の絵図帖のうち他と比べて史料価値が高いとは言えない
  2点のみが国重要文化財指定を受けたかという謎についての答も得たように思う。
 
終わりに

1.16点の長崎役所絵図帖を収集し約430の絵図を比較検討しそれを裏付ける史料との対比により

  時代検証を行った。

  2.もっとも古い絵図帖は天明年(1785)ごろ、もっとも新しい絵図帖は 嘉永末から安政(1856)で

    長崎奉行所290年の歴史の内の末期70年になる。これ以外のものはあるのか、あるいは散逸したのか

    は大きな疑問である。

  3. 長崎歴史文化博物館蔵の絵図帖点のうち2点のみ国の重要文化財指定このことは明治維新後絵図が

    分散したことと関連し興味ある疑問である。本馬氏の著述、絵図を納めた木箱に書かれた説明、朱印など

    から流通過程などを検討し、維新後の絵図の保存については努力された西道仙、金井俊行、さらに

    永山時英、福田忠昭氏などの先達の名前に行き当たった。

  4.今回収集した絵図帖が現存するものの一部なのか、あるいはとんどなのかは判明しない。この検証結果を

    公表することにより、もっと多くの絵図帖が見つかり、長崎奉行所諸役所の絵図に係る全体像をさらに明らか

    になることを期待したい。

  5.絵図の情報量の大きさには改めて驚かされる。統治上の意図をもって作成されたもので信頼性は高い。史料 

    との突合せにより江戸期の長崎の全体像を深くかつより良く理解すことが出来る。

  6.これらの絵図は貴重な文化財である。植物染料による彩色付きであり、損傷を防ぐため映像のインタネットでの

    公開が強く望まれる。