「灼熱のナガサキ・ヒロシマ」
 
 原爆の熱線で損傷を受けた瓦から、原爆のエネルギーを求めてみた。被爆した岩石や瓦
の試料は、当時の東大地質学教室の渡邊武男教授が原爆調査団のメンバーとして、昭和
20年10月と21年5月に広島・長崎で収集したものである。

 原爆のエネルギーは、当初は広島も長崎もおよそTNT換算で20キロトン程度であると
されていた。1960年代の後半に、爆風による構造物の変形などから、広島では12キロトン、
長崎では22キロトンと計算された。現在では、広島16キロトン、長崎22キロトンであると
認められている。渡邊が調査結果として、瓦の溶融範囲が広島では600m、長崎では1000
mと結論付けており、広島の爆発高度600m、長崎の爆発高度500mを考えると、原爆の
エネルギー比は1:1.7になり、爆風からの結論と整合性がある。

 しかしながら、渡邊教授の調査野帳を精査し、瓦の表面の損傷を調べると、広島の瓦の
溶融限界が600mではなく850mであること、また長崎では950mであることがわかった。
広島と長崎の瓦が同じであると仮定すれば、広島と長崎との原爆のエネルギー比は1:1.1
と殆ど同じになる。そこで、被爆した瓦の一部を使って、融点、密度、比熱などの測定を
行い、原爆の高温+短時間の過熱に類似した条件で加熱実験を行って原爆エネルギーを
試算してみた。但し、瓦は複合物質であるが、純物質であるとした。

 熱線の照射を受けた瓦は、表面が溶融するばかりではなく、爆心地に近づくと蒸発して発
泡がみられる。そこで、溶融や蒸発に無関係である瓦の溶融限界に注目した。溶融限界点
では、照射された熱線エネルギーは全て熱拡散に使われ、表面の温度が融点(1280℃)に
達したと考えた。但し、熱線は瓦に100%吸収されたとする。

 その結果、広島と長崎との原爆エネルギーは、それぞれ22.1キロトン、23.5キロトンで、
その差は6%程度となった。また、溶融下界における熱拡散から、熱線の照射時間が広島で
も長崎でも、約1.4秒であることが求められた。岩石や瓦の損傷状況からも、長崎の被害の
方が広島より激しいことは事実である。同じ程度のエネルギーで、何故長崎の方が被害が
大きかったかというと、爆発高度の差である。同じエネルギーの原爆が、広島では高度
600m、長崎では500mで爆発したとすると、単純に二乗比から、爆心地でのエネルギーは
広島:長崎は1:1.44になる。広島と長崎の被害の差は、原爆エネルギーの違いよりも、爆発
高度の差で説明できる。

 難しいのは、温度が何度だったかという質問に答えることである。瓦が溶融も蒸発もしない
として温度を概算で求めると、広島の爆心地に置かれた瓦の表面温度は約3700℃、長崎
の爆心地では約5750℃という値が得られる。しかし、この温度にどのくらい意味があるかは
???である。
 
シズル
★広島と長崎の原爆のエネルギーを被爆瓦から計算
★広島と長崎も原爆エネルギーは殆ど同じ。被爆の差は爆発高度の差
★原爆の熱線の照射時間は、共に約1.4秒
★爆心地に置かれた瓦の表面温度が、広島約3700℃、長崎約5700℃に達するような
 エネルギーの熱線(瓦は溶融の蒸発もしないと仮定)