恋愛系のゲームではキャラクタの通常会話を描くのに一般的に「立ち絵」と呼ばれるグラフィックが用いられる。そしてこの立ち絵の大きさはほぼ全身が見えているものからバストアップと言われる胸から上だけが見えているものまでゲームによってまちまちである。
そして立ち絵の大きさは、主人公、すなわちプレーヤと相手の距離感を与える効果があるのではないかと考えた。すなわち、立ち絵が小さい場合は自分と相手が比較的離れているように感じ、立ち絵が大きい場合は比較的近くで向かい合っているといった具合である。
更にこの自分と相手との距離は、物理的な距離だけでなく、心理的な距離をも意識させる。当然距離が近いほど親密感を感じるが、余り近すぎると今度は逆に圧迫感や緊張感を抱き、落ち着きが悪くなりがちである。
そこで恋愛ゲームで、一番リラックスができる立ち絵の大きさはどれぐらいなんだろうか、という疑問を持った。ここでは恋愛ゲームヒロインに関するアンケート2(※1)に基づき、恋愛ゲームにおける立ち絵と距離感について考えてみたい。
問、恋愛ゲーム(コンシューマゲームでは状況が変わることが予想されますので、ここではPCゲームのみを考慮することとします)の立ちキャラの大きさで、もっともあなたが自然と感じる(リラックスできる、親密感を感じる)ものはどれですか。
図1(小←) |
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図10(→大) |
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(クリックすると原寸大画面が表示されます)
有効回答数:118
ここで質問の前提としてPCゲームに限って考えるとしたのは、当初のつもりではPCゲームでは一般的にモニタから30〜50cmほど離れてプレイするだろうし、コンシューマゲームでは1〜2mほど離れてプレイするだろうから、視角(見るものの両端から目に至る2直線のなす角度)の条件が異なってしまうのではないかという想定から前提を立てたのだが、
- コンシューマーに限らずパソコンも、モニターの大きさや画面領域の設定等で状況が安定しないので無理があるように思われます。
というご指摘もあったように、PCゲームだから条件を同じにできる訳でもないし、人の「見る」というのは選択的で「見える」のとは別のことであり、ゲームをプレイしている時にウィンドウの外やましてモニタの外を見ている人はいないから、ウィンドウならウィンドウを新たな視野として再設定しているということであり、現実世界と比較した視角ということより画面に対する空間占有率と距離感いう観点から考えるべきであった(※2)。
さて、元々の質問の意図である距離感という点から回答して下さった方のご意見としては以下のようなものがあった。
- 状況や心理的距離感によって立ち位置が変わるのが理想ではないかと思います。また、正面と、斜め、横では同じ心理的距離感であっても、物理的距離は変わると思います。(回答:7)
- ゲームとしてみると、ほとんどの立ちキャラは、いずれ恋人候補(攻略対象)になるので、大きくても(近くても)違和感なく感じるのではないでしょうか。 (回答:8)
- 「Flowers」や「初恋ばれんたいん」のように好感度や状況によって立ち位置が変わる方式などは面白いと思います。(回答:5)
- いつも画面の中央にいるのもどうかと思う。なんか不幸系やミステリアス系は端っこでいて欲しい。(ものすごく個人的な意見ですけど)(回答:2)
- 恋愛ゲームである以上、それは恋愛の進行形、さらにはその初歩の段階であることが望まれる訳で、そこには恋愛最大の醍醐味である、「もっと近づきたい。でも嫌われたくない」と言う感情が存在すると思います。となれば、近づきすぎず遠すぎず、むしろ相手の多くが良く見ることが出来る距離が自然だと思います。 (回答:3)
- DISKDREAMさんの「主人公に対する好感度を立ち位置の遠近で表現」している「アクティブリレーションシステム」は面白い試みかも。(回答:2)
- 基本的に画面における目線=主人公の目線となるので、女の子のグラフィックが大きすぎると、自分が女の子を見上げているようになってしまう、というのがあります。(回答:3)
- でっかい方が親密感を感じるのは確かですよね。というわけで、最大を選んでみました 。(笑)圧迫感という話もありますが、ブラウン管を通した時点で距離はある意味∞ですので、私には圧迫感はないですね。(回答:10)
- まず、「リラックス」という点から言えば、図6が一番安心できる距離です。次に、「親密感」という点から言えば、図9が一番しっくりくる距離です。具体的に言えば、テーブルを挟んで対面で座っているような距離が、図6。一緒に並んで歩いているような距離が図9。(回答:9)
いくつかのゲームやいくつかのご意見で見られるように、ヒロインとの親密度やヒロインの性格などの状況に応じて立ち位置や立ち絵の大きさを変えるというのはこの「距離感と親密度」という問題に対する有効な解となりそうである。
だが、今回のアンケートでは、むしろ本来の「距離感と親密度」ということからは離れた観点で回答して下さった方がかなり多かった。理由を記入して下さった人の中で考えれば優に半数以上にも上る。
まず画面内に表示されるキャラクタの情報量に着目したご意見。これが非常に多い。
- 周りにメッセージウィンドウや、その他の情報を表示してもバストアップが隠れないラインかな?腰から下は見えないほうが良い。(回答:6)
- 画面の3分の1くらいで腰の辺りまでのバストショット。(回答:7)
- 多少小さくても腰くらいまで見えていたいた方が良いので選びました。(回答:3)
- 下半身はどうなってるのかな?と想像の余地がある「腰から上」がいいですね。(回答:6)
- 「脚(ふともも)が見えるぎりぎりのところ」という実にくだらない理由からです。(笑)(回答:2)
- ミニスカートだとすると、足はぎりぎりで見えてほしいです。(回答:4)
- (特に好きなキャラに感情移入するために)キャラの全身の姿を見てみたい、という欲求があります。(回答:3)
- 足まで見えた方がいい。理由はただの趣味。(笑)(回答:4)
- あまり大きすぎるとキャラのほんの1部分しかみれないので、大きすぎず、小さくもないのを選びました。(回答:3)
- 腰のくびれは、大切です。また、足が見えそうで見えないのが、男としては、譲れないところです。 (回答:6)
- 服(上着)のすそがギリギリ見える範囲。(回答:4)
- 絵のサイズうんぬんよりもキャラのどこまでが描かれてるかが重要なのかも私的にはひざうえ少し上くらいまであって、メッセージウインドウで下半身隠れるくらいがベストかなと思いまする。ノベル表示タイプだったらもすこし大きくてもいいかなぁ。(回答:3)
- 丁度頭からお尻のちょっと下までが入るので、この大きさを選びました。(回答:5)
ヒロインのどんなところを見たいかによって人によりまちまちに分かれているが、中程度のサイズを選んだ回答が多かった。
これに関連して、キャラクタの表情や仕草に着目したご意見。
- 「Kanon」みたいなどアップだと、描く人は楽かも知れないけれどもせめてバストショット、できたら腰程度まで見えていると、そのキャラの仕草とか服装とかがよく解って楽しいと思う。(回答:5)
- 大体これくらいで目が慣れてるから、です(画面とキャラの比率で)基本的には、キャラの身振り手振りの仕草がほとんど画面に入って、且会話出来るように感じられる大きさ、ということで図2〜図5の範囲内であれば特に拘りを持ちません。 (回答:4)
- 手を伸ばしたら届くかな?くらいの距離感が僕の中ではベストです。図7か、図8程度。表情に重要な意図がある場合は図9くらいでも良いかと思います。逆に仕草や全体の雰囲気に重きを置く場合ならもっと小さく、腰まで入るくらいの図5〜図6ですね。「ToHeart」の琴音なんかは腕(手)の位置が重要なので、これくらい距離をおいておかないと…という気がします。「Kanon」はシナリオ上、かなり初期から主人公にべったりくっついてくるので、そう言う意味ではあの立ち絵のサイズに違和感を感じません。結局のところ、シナリオの意図にあってないと、いくら親密感を感じる構図(サイズ)であっても嬉しくないのではないでしょうか。(回答:7)
- もちろんキャラデザがいいという条件付の話なんですけど、細かく描き込んで貰った方が(グラフィッカーの人は大変ですが(^^;)ユーザーとしては嬉しいんじゃありません? (回答:8)
- 微かに変わる表情を表現するときに、この位の大きさがあると(絵ではなく、テキストで)書きやすいと思うからです。「軽く笑う」と「仄かに笑う」の違いを、小さな立ちキャラのCGで表現出来ますか?……テキスト書きの理想論なんでしょうけどね。(^^;;(回答:8)
- 立ち絵ではなく、ある種のイベントとして存在した「TLS」の下校会話なんかは、首から上だけでしたが表情が豊かに動いて、ほんとに顔を見ながら会話してる気分になってよかったと思います。(回答:10)
更に背景に着目したご意見。
- 通常、人と会話するときには相手の姿ばかりでなくて、周りの景色を含めて大まかに目でとらえていると思います。そういうわけであまり大きすぎないこの辺が一番自分にとってはしっくりくる大きさです。(回答:4)
- 背景っていうのも、そのシーンを演出するために重要な役割を占めていると思いますので、あまりキャラクターが目立ちすぎると…。その一場面だけを切り取って、「絵」みたいに感じられると、個人的には良いと思います。(笑)(回答:1)
- 背景はよくみえたほうがいいですからねぇ。(回答:3)
自ずと小さめの回答になっている。
また私自身も想定していたが、ヒロイン1人というよりもむしろヒロイン間の会話に着目したご意見もあった。
- 表情の細かな差異が見てとれ、背景も活かせ、さらに同画面に最高で3人分の立ち絵が置ける最大の大きさがこれくらいだろう。(回答:5)
- 少なくとも、画面にキャラが2人映るサイズが適正と考えます。「Kanon」でヒロイン同士の会話とかがあったりすると、立ち替わりが多くて、何となくテンポが悪かったように思ったので。逆に「ToHeart」のキャラ同士の掛け合いは割とテンポがよかったように感じました。 (回答:2)
またゲームの形式その他に着目したもの。今回の質問が漠然とし過ぎているため答えにくかった方が多いと思われるが、こういった考えをお持ちの方が少なくないだろう。
- 大きさもですが視線の位置や頭頂部と画面上との距離や腰から下の見え具合、ゲームの雰囲気・他も考慮されると思います。(回答:7)
- 図2を選んだのはノベル形式のゲームである場合のみ。その手のゲームでもし図10とかの立ちキャラが表示されたら普通引くでしょう。(笑)逆に言えばオーソドックスなADVとかの場合だったら図7くらいまでならOK。(回答:2)
他には画面に対するバランスというものもあった。
- 画面横幅に対して、キャラクターの横幅が関係するのではないでしょうか?(画面横幅-キャラ横幅):キャラ横幅=6:4まあ、これはおおまかに画面占有面積を縦に区切った場合です。実際の「絵と地」の関係ではありません。デザインの世界では基本中の基本になってます。(回答:4)
- 私は絵を描くことを趣味としています(時には生業)ので、画面とのバランスで選んでしまいました。恋愛対象に対する親密度は起こった事柄、話したことなどによって深まる物(ゲームではシナリオですね)だと思うので見た目にはあまり左右されません。ゲームだとついにはキャラCGなどいらないとさえ思ってしまうことがあります。(回答:4)
絵を描かれる方はこのような視点も持たれるようである。
また、「何となく」「特に理由はない」「慣れの問題」「どうでもよい」というご意見も少なからず見られた。
- あまりキャラにこだわらないんで、こんなもんじゃないかと。図5だとウインドウ配置がよくなさそうだし、図7だとちと大きくて画面配置に苦労しそう。ただし、マニア向けのグラフィックゲー(キャラゲー)の場合図10でも強調が足りないかも。(笑)シンク(libidoのデビュー作)とかの32面スクロールとか思い出すなぁ。(イベントでだけど)(回答:6)
こうして見てくると、アンケートの中でも「まとめようがないのでは」というのがあったように、ヒロインに対してというよりもむしろ、「恋愛ゲームに対して各人が立つ位置」によって、望ましい立ち絵の大きさというのはこれだけ多様に分かれるものであり、今回の質問があまりにも乱暴であったと反省することしきりであるが、何とか立ち絵の大きさの効果をまとめるとすれば次のようになるだろう。
立ち絵のサイズ | 効果 |
(比較的)小さい |
- 身振りや仕草を表現できる。
- 服装が分かる。
- 背景がよく見える。
- 複数人のキャラクタを1画面に同時表示できる。
- キャラクタに対する距離感を感じる。
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(比較的)大きい |
- キャラクタに親密感を感じる。
- 細やかな表情を表現できる。
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いずれにしても、キャラクタの立ち位置や大きさが広い意味での演出効果に少なからず影響してくることだけは確かであり、作り手は個々のゲームにおいてどんな効果を重視するのかということをしっかりと意識した上で設定することが望まれるということは言えるだろう。
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※1、1999/06/10〜1999/11/01頃当ページにて実施させて頂きました。ご協力ありがとうございます。また、図がヘボかったために想像に頼らざるを得ず、大変答えにくかったことをお詫びいたします。
※2、単純に視角だけで言えば一般的に恋愛ゲームのキャラ絵は小さ過ぎる。
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