裏恋愛ゲーム学


第2講 何故ヒロインからコクるのか〜恋愛ゲームの悲哀1〜

98/09/02開講

1、恋愛ゲームの特性

恋愛ゲームにおいて、ハッピーエンドに至るには、主人公から告白する場合、ヒロイン(女の子キャラ)から告白する場合、あるいはどちらが告白するという訳でもなく自然と結ばれる(もちろん行間にはあるのだろうが、告白シーンが表には出てこないもの)、といったパターンがあることに気づく。これに着目して主なゲームを分類してみると次のようになる。

主人公から告白ヒロインから告白主人公・ヒロイン混在話の流れで自然に
OnlyYou
同級生
バーチャコール2・3
きゃんバニエクストラ
同窓会
Pia☆キャロ2
放課後恋愛クラブ
エーベルージュ
ときめきメモリアル
みつめてナイト
センチメンタルグラフティ
バレンタインキッス
ファーストKiss☆物語
同級生2
下級生
ToHeart
WHITE ALBUM
Melody
ラブエスカレーター
ONE

だが、こういった分類すら余り意味のないことなのかもしれない。むしろ重要なのは、例え主人公から告白するゲームであろうと、現実ならば少しは必要になるであろう勇気がかけらも要らないということだ。ほとんど全ての場合、もうすでに攻略(意図的に「攻略」という言葉を使わせて貰う)できることが分かっているのだから。自分では攻略できたつもりでバッドエンドということもごくまれにはあるが(夏奈子(「同窓会」))とか……。(笑))、その場合は「納得できない」ということになってしまうのだ。(笑)

これは恋愛ゲームが全く現実味のない部分であって、そしてかつ恋愛ゲームの重要な特性であると言える。一言で言えば、それは「安心感」ということだ。

少し考えてみると、恋愛ゲームはこの「安心感」の固まり、そのものであることに気づく。何より、全てのキャラを攻略することができるし(「バーチャコール3」のサクラキャラのようなのもたまにはあるが、それだって「納得できない」だろ?(笑))、しかも大した努力も必要なく必ず攻略できることが初めから分かっているのだ。会うたびに少しずつ仲良くなっていく。そんな馬鹿なことが現実にあるはずがない。もし必ず親しくなれると分かっていたら、誰だって思い人にアタックするだろう。この「安心感」は現実では「幼なじみ」という関係に一部通じるものがあるが(シスコン等も同様)、普通恋愛にはいつも何らかのリスクを背負うことが求められるものだ。仮想世界ではそういったリスクは全く負う必要がない。気楽に恋(?)ができる。恋愛ゲームは男たちにとって楽園なのだ。

2、何故ヒロインからコクるのか

その上で、何故ヒロインから告白するのだろうか。もちろん、現実にだって女から告白することは全然珍しい時代ではない。だがキャラクタがみんながみんな告白してくるというのは余りにも不自然だ。確かにヒロインから告白してくれるのはプレーヤにとって嬉しいことかもしれない。しかし、それ以上の何かがもし存在していたとしたら?ここで、もっとも恐ろしい仮説を思いつく。

「誰も好きでこんなものを作って/やってるんじゃないんだ!!
ボクだって人並みに恋愛がしたいと思ってるんだよ!!

だが、自分から行動を起こすことは、変わることはもうできないのだ。変われないだけの過去を背負ってしまっているから。

「だから助けてよ!ボクを助けてよ!!
誰かボクに声をかけてくれよ!!

(シンジ調に読むと悲痛感が出て宜しい:-))

もしかして、恋愛ゲームの制作者およびユーザはこんなことを心のどこかで叫んでいたのではないか……。

彼は変わらなければいけないことは分かっている。しかし、心に深い傷を負った彼はもはや自分から変わることができない。自分から変えられることができる人ならば今からすぐにでも変えることができる。明日から頑張ればいいやという人はいつになっても変えることはできない。誰か心優しき女性が手を差し伸べてくれることを、表舞台へと連れ戻してくれることを祈り続けるしかない。だが、少女が白馬の王子様を夢見るのは過去のものとはいえまだ許されたとしても、大の男がそれ(「白馬の王子様」に対応する言葉は何なのだろう?それを意味する言葉がないというのはこういう概念そのものが今までなかったということなのか?いや、むしろそんな男は社会的に抹殺されてきたということか…。)を望むのは気色悪いとしか思われない。彼の叫びは届かない。いや、例え届いたとしても恋愛競争において最下層にいることに甘んじてしまった彼を、誰も助けてくれはしない……。

恋愛ゲームはそういう男たちの決して口に出すことのできない心の叫びだったのか。もしそうだとしたらそれこそが、逃れられない恋愛競争の時代に産み落とされた男たちの悲劇と、そういった彼らが苦悩の中に作り出した恋愛ゲームの悲哀そのものではなかったか。