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2003年ベスト恋愛ゲーム投票─(1)部門別
恋愛ゲーム学補講 第34講

2004/05/03初版、2004/05/22最終更新

2003年ベスト恋愛ゲーム投票─(1)部門別

 ゲーム商品の賞味期間が極端に短くなっている昨今、すでに2003年のベスト恋愛ゲームと言っても遠い昔のように感じられてしまうが、ともあれ、今年もいつものように皆さんの投票結果とコメントをもとに2003年を振り返りたい。なお、従来適切なコメントをつけるためにも特に上位作品については筆者自身が可能な限り押さえるようにしていたが、時間的・興味的なものから2003年の作品は一部しかプレイできておらず、十分にフォローできていない部分が多々あるかもしれないのはご了承願いたい。

 さて、2003年は2001年の「君が望む永遠」で一躍トップブランドに躍り出たageの新作「マブラヴ」や、人気ブランドねこねこソフトの新作「朱」、延期超常習組の「SNOW」「Lovers」など、(ある意味で)話題作が目白押しの1年だった訳だが、これらはランキングにどのように出てきただろうか。まずは部門別投票から見ていこう。

問、コンシューマ・PCを通じて2003年(1月〜12月)に発売された恋愛系ゲームで、グラフィック(立ち絵、イベント、背景など)、動画・アニメ(ムービー、プログラムアニメーションなど)、シナリオ(ストーリとプロット)、テキスト(表現力、文章力)、音楽(SEはこちらに含む)、音声(キャラクタのみ)、えっちシーン(流れが自然、使える、などご自分の基準で)、企画(ゲームデザイン、オリジナリティおよびマーケティング、ブランディングなどプロダクトに留まらずトータルとして)、演出(キャラクタの立ち回り、グラフィック、シナリオ、音楽の使い方、組み合わせ方、画面効果など)、キャラクタ(キャラが立っている、お気に入りキャラがいる、萌える、など)、の各要素についてそれぞれもっとも良かったゲームを選んで下さい。該当するものがなければ必ずしも選択する必要はありません。

i)グラフィック部門
有効投票: 241(うち無投票: 43)

順位ゲーム名graphpoint
1天使のいない12月(PC)
27
2SNOW(PC/DC)
20
3君が望む永遠(PS2/PC)
8
3斬魔大聖デモンベイン(PC)
8
5Clover Heart's(PC)
7
6CROSS † CHANNEL(PC)
6
6D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)
6
8アキバ系彼女(PC)
5
8Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
5
8月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)
5
8マブラヴ(PC)
5
8ゆめりあ(PS2)
5

[13位以下]
4票: 永遠のアセリア-The Spirit of Eternity Sword-(PC)、Canvas〜セピア色のモチーフ〜(PS2)、朱-Aka-(PC)
3票: パティシエなにゃんこ(PC)、My Merry Maybe(PS2/DC)、ALMAずっとそばに…(PC)、3LDK♥(PC)、SAKURA〜雪月華〜(PS2)

[投票者コメント]

 20世紀末頃の圧倒的なカリスマ性は見られないものの、みつみ美里氏の人気は今なお十分に健在で、「天使のいない12月」が1位に。もちろんグラフィックチームの充実ぶりは言うまでもない。また、「みつみ互換」とも言われた「SNOW」が2位につけ、この2作品が他を引き離した。

 近年の傾向として、5位「Clover Heart's」の仁村有志氏、8位「月は東に日は西に」のべっかんこう氏など、恋愛系ゲームの世界で売れ線の種類の絵柄というのは大体方向性がはっきりしており、クセを押さえた絵柄の均質化傾向が目立つ。昨年のグラフィック部門でも書いているように恋愛系ゲームにおいてグラフィックは「前提」であるだけに、売れ線に追従しておきたいという気持ちは分からないでもないが、多様性がないと面白くないというのはユーザのわがままだろうか。

 そんな中で、3位「斬魔大聖デモンベイン」と8位「ゆめりあ」はそれぞれ異なる観点からの選出と思われる。「斬魔大聖デモンベイン」は明らかに重点が異なっており、緻密なメカ絵や背景のクオリティの高さが選ばれた理由だろう。「ゆめりあ」は次の動画・アニメ部門とも絡んでいるが、3DCGをギャグでなく「見られる(萌えられる)」レベルにまで引き上げたという点で画期的。男性のフェティシズムには異性のあるパーツへの執着もある訳だが、さりげない異性のしぐさにも弱い。いくら表情パターンを豊かにしても従来の静的な立ち絵では限界があった部分であり、「しぐさ」は今後研究、発展の余地が多いと考える。

ii)動画・アニメ部門
有効投票: 241(うち無投票: 90)

順位ゲーム名graphpoint
1マブラヴ(PC)
18
2斬魔大聖デモンベイン(PC)
13
3君が望む永遠(PS2/PC)
10
3LOVERS〜恋に落ちたら…〜(PC)
10
5朱-Aka-(PC)
9
6ゆめりあ(PS2)
8
7Wind-a breath of heart-(PS2/DC)
6
7永遠のアセリア-The Spirit of Eternity Sword-(PC)
6
9大番長(PC)
5
9Clover Heart's(PC)
5
9GALAXY ANGEL Moonlit Lovers(PC)
5

[12位以下]
4票: サクラ大戦3〜巴里は燃えているか〜(PC)、BALDR FORCE EXE(PC)
3票: D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)、Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)

[投票者コメント]

 原画やグラフィックの平均レベルが向上し、単なる一枚絵のグラフィックでは差がつきにくくなっているのではないかという考えから、今回新規に追加した部門の1つがこの「動画・アニメ部門」である。この初めての部門で1位を獲得したのは、AGES(Age Global Effect System)と名づけられたageのビジュアル演出システムを擁する「マブラヴ(PC)」。えてしてプログラマの自己満足に陥りがちなシステムがギリギリのところでプラスに働いていると言えるだろうか。前作の「君が望む永遠(PS2/PC)」も3位に入っている。

 続いて往年のロボットアニメを彷彿とさせる「斬魔大聖デモンベイン(PC)」が2位に。動画はもちろんだが、バトルシーンの「動き感」の魅せ方は相変わらず他の追従を許さない。そしてベッドシーンのアニメーションを売りにした「LOVERS〜恋に落ちたら…〜(PC)」が3位に。ただ「LOVERS〜恋に落ちたら…〜(PC)」については期待外れでの順位であり、オリジナル部分も全面的に作り直されていれば更に高い順位が望めたはず。

 ということで、今回初めて追加した部門だったが、不要という指摘も頂いたりしており、「えっちシーン部門」と並んで無投票が一番多かった部門となった。これはつまりユーザはまだまだ恋愛系ゲームの動画・アニメ表現に十分に満足していないということの現れだと言える。もちろん、動画・アニメは素直に取り入れようとすると、オーソドックスな「立ち絵+背景」と「一枚絵」の組み合わせに比べ、遥かに作業工数が膨れ上がってしまうため、現在の厳しい事業環境の中では採用しにくい面はあるのだと想像される。しかし、カットインアニメを活用するなど、できる限り工数を抑えて「動き感」を出すという工夫の余地はいくらでもあるはずである。プレイアビリティが安定した昨今ではプログラムアニメーションや演出効果はプログラマが活躍できる数少ない場でもあるので、今後の発展に期待したい。

 やはり昨年のグラフィック部門でも少し触れていることであるが、「立ち絵+背景」と「一枚絵」イベントCG、というアドベンチャーゲームおよびノベルゲームの「当たり前」のスキームを「このままでいいのだろうか?」と疑ってかかるところからイノベーションが始まるのではないだろうか。

iii)シナリオ部門
有効投票: 241(うち無投票: 38)

順位ゲーム名graphpoint
1CROSS † CHANNEL(PC)
49
2Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
23
3君が望む永遠(PS2/PC)
11
3SNOW(PC/DC)
11
5My Merry Maybe(PS2/DC)
9
6Clover Heart's(PC)
6
7D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)
5
7ONE〜輝く季節へ〜Full Voice Ver.(PC)
5
9Orange Pocket(PC)
4
9こなたよりかなたまで(PC)
4
9パティシエなにゃんこ(PC)
4
9マブラヴ(PC)
4

[13位以下]
3票: 朱-Aka-(PC)、あした出逢った少女(PC)、想いのかけら-Close to-(PS2)、SAKURA〜雪月華〜(PS2)、斬魔大聖デモンベイン(PC)、てのひらを、たいように(PC)、天使のいない12月(PC)

[投票者コメント]

 ゲームの中核となるシナリオへの言及は多いが、切り出してしまうと文意が分かりにくくなるので例によって総合部門にまとめさせて頂く。今回、次の「テキスト部門」を新設し、シナリオとテキストを別々に尋ねることにした(シナリオ/テキストを分けた理由は以前にストーリの4レイヤモデルという記事を書いているので、最近になって当サイトに来られた方はご参考まで)。もちろん、「物語を楽しむ」という利用シーンにおいては、どちらも重要であり、両方良い必要があるのだから、分けることに意味があるのかという話はあるが、順位よりも、各ゲームのシナリオ部門の得票数と、テキスト部門の得票数を比較することで、何かが見えてくるのではないかと考えた。

 で、フタを開けて見た所、(シナリオ部門もテキスト部門も)1位「CROSS † CHANNEL(PC)」の圧勝。全投票者の5人に1人、無投票を除けば4人に1人が選んだ結果となった。随所に残る設定のアラやシナリオの綻びを探せばキリがないが、それらに気を取られることなく、最後までエンターテイメントとして読み手を楽しませきったのは、田中ロミオ氏の構成力・筆力の高さ以外の何物でもないだろう。偶然なのか、2002年シナリオ部門1位の「Ever17」に続いて、メタ性を持つ作品が1位となった。

 2位以降は2位「Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)」、3位「君が望む永遠(PS2/PC)」と2002年ベストゲーム、2001年ベストゲームの移植が続く。その下にも7位「D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)」は2002年のベスト2、同じく7位「ONE〜輝く季節へ〜Full Voice Ver.(PC)」は1998年のベスト1と、前年以前の人気作品が目立つ。グラフィック環境がPC98時代の16色から256色→フルカラーと進歩したり、音楽環境がFM音源からMIDI→CD-DA/WAVEと進歩するなど、他のゲーム構成要素が環境レベルで向上しているのと比べて、文章は昔から変わらないだけに、特に過去作品がダイレクトに比較対象になりやすいこともあるが、少し残念な結果である。

 新規登場組として3位「SNOW(PC/DC)」は、既存作品をモチーフとしながらも新しい物語を提供して評価され、新規登場PCゲームとしては2番目に多いポイントを獲得。5位「My Merry Maybe(PS2/DC)」は「Ever17」の陰に隠れているところがあり、母集団が小さいのが弱みだが、プレイしたユーザからは非常に高い評価を得、新規登場コンシューマゲームでは1番となった。

 さて、今後の恋愛系ゲームのシナリオについてだが、シナリオの傾向は、「○○系」が一巡した結果、ユーザが自身の好みを把握したため、メーカとしても対象のしぼり込みと多様化が進むだろう。また、ユーザの「シナリオ重視」は今後も変わらないと思われるが、その中身は「文章型シナリオ重視」から、「演出型シナリオ重視」に移行していくと考えている。物語を享受する手段として、漫画やアニメに慣れた世代では、長々とした文章で読むよりも他の手段で享受できた方が良い。かつてはグラフィックや音楽などが環境的にプアで、もちろん音声など入れられなかったため文章しかなかったが、プログラム技術を含めてあらゆるゲーム構成要素がより高度な演出を可能にしつつあるため、文字ではない「シナリオ」(本来「シナリオ=脚本」である)がこれからますます重要になってくると見ている。

iv)テキスト部門
有効投票: 241(うち無投票: 55)

順位ゲーム名graphpoint
1CROSS † CHANNEL(PC)
48
2君が望む永遠(PS2/PC)
11
3Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
9
4Clover Heart's(PC)
6
4私立アキハバラ学園(PC)
6
4SNOW(PC/DC)
6
7Orange Pocket(PC)
5
7沙耶の唄(PC)
5
9SAKURA〜雪月華〜(PS2)
4
9斬魔大聖デモンベイン(PC)
4
9My Merry Maybe(PS2/DC)
4

[12位以下]
3票: 朱-Aka-(PC)、こなたよりかなたまで(PC)、天使のいない12月(PC)、パティシエなにゃんこ(PC)、Ricotte〜アルペンブルの歌姫〜(PC)、−Routes−(PC)

[投票者コメント]

 「テキスト部門」も「シナリオ部門」同様、「CROSS † CHANNEL(PC)」が1位となったが、自身のポイントはほとんど変わらない一方で、2位以降が伸びていないため、その傑出具合が際立つ格好になっている。下ネタや「黒」い笑いだらけなので苦手な人もいるかもしれないが、この手の作品をプレイするユーザにはウケが悪くなかったようである。

 順位はともかくとして「シナリオ部門」と「テキスト部門」を眺めてみると、a)両方でほとんどポイントに差がないものと、b)「シナリオ部門」に比して「テキスト部門」のポイントの伸びが悪いもの、c)「シナリオ部門」よりも「テキスト部門」で伸びているもの、の3グループがあることに気づく。a)に含まれるのが先の「CROSS † CHANNEL(PC)」の他、2位「君が望む永遠(PS2/PC)」、4位「Clover Heart's(PC)」であり、b)に含まれるのが3位「Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)」、4位「SNOW(PC/DC)」、9位「My Merry Maybe(PS2/DC)」である。後者は、ストーリ重視なのはいいとしても、文章力に改善の余地がありそうである。

 逆のc)グループとしては4位「私立アキハバラ学園(PC)」、7位「沙耶の唄(PC)」。「私立アキハバラ学園(PC)」は突き抜けたバカさ・笑いがポイント。「沙耶の唄(PC)」はどちらかというと短いため「シナリオ部門」で票が入らなかったためだろうか。

 最近のゲームにおいて「佳作が増えた」のは(絵や音楽は当然として)この「テキスト」技術の向上が大きい訳だが、この技術は現状主に「笑い」「萌え」「エロ」が中心である。これらに慣れたユーザにとっては、「一定レベル」の「笑い」「萌え」「エロ」はもはや「前提」であり、必然的に次のレベルを求めるようになる。そうした時に、何で差別化ができるかが今後の課題となるだろう。

v)音楽部門
有効投票: 241(うち無投票: 50)

順位ゲーム名graphpoint
1朱-Aka-(PC)
20
2君が望む永遠(PS2/PC)
11
2SNOW(PC/DC)
11
4斬魔大聖デモンベイン(PC)
10
4天使のいない12月(PC)
10
4−Routes−(PC)
10
7CROSS † CHANNEL(PC)
8
8マブラヴ(PC)
7
8Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
7
10Clover Heart's(PC)
6
10永遠のアセリア-The Spirit of Eternity Sword-(PC)
6

[12位以下]
4票: ALMAずっとそばに…(PC)、こなたよりかなたまで(PC)、D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)、My Merry Maybe(PS2/DC)、ONE〜輝く季節へ〜Full Voice Ver.(PC)
3票: Orange Pocket(PC)、カラフルキッス〜12コの胸キュン!〜(PC)、グリーングリーン 鐘ノ音ロマンティック/ダイナミック(PS2)、サクラ大戦3 巴里は燃えているか(PC)

[投票者コメント]

 全体的に劇中曲、歌モノとも高い水準での比較になってきているので、劇中曲、歌モノ、SEを全て同じ「音楽」にまとめて順位付けするのはいい加減無茶かもしれない。

 さて、ランキングは他の部門では全く期待はずれに終わった「朱-Aka-(PC)」が1位に。部門ごとに1つに投票する仕組みだけに、BGM/歌だけが突出していたこの作品が想起されやすく、選ばれたということだろうか。2位以降については「君が望む永遠(PS2/PC)」「SNOW(PC/DC)」その他、定番作品、人気作品が続いている。

 歌モノについては一時期奇をてらったものが流行ったが、それも沈静化の方向にあるようだ。アニメの主題歌が昔はいかにもアニメチックな歌だったのが、今となっては普通のJ-POPが採用されるのが当たり前であるし、その傾向はコンシューマRPG等にも波及しているが、この手のゲームにおいても、特にメジャー系では、BGMを含めて「普通」の楽曲傾向がますます強くなることが予想される。

vi)音声部門
有効投票: 241(うち無投票: 66)

順位ゲーム名graphpoint
1CROSS † CHANNEL(PC)
14
1マブラヴ(PC)
14
3Clover Heart's(PC)
13
4君が望む永遠(PS2/PC)
9
5My Merry Maybe(PS2/DC)
8
5Orange Pocket(PC)
8
7Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
7
8天使のいない12月(PC)
6
8D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)
6
8パティシエなにゃんこ(PC)
6

[11位以下]
5票: 永遠のアセリア-The Spirit of Eternity Sword-(PC)
4票: 斬魔大聖デモンベイン(PC)、月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)、てのひらを、たいように(PC)、ななみとこのみの教えてA・B・C(PC)
3票: ALMAずっとそばに…(PC)、グリーングリーン 鐘ノ音ロマンティック/ダイナミック(PS2)、シスタープリンセス2(PS)、3LDK♥(PC)

[投票者コメント]

 非常に票が分散している。まず人気の2作品「CROSS † CHANNEL(PC)」「マブラヴ(PC)」が1位を分け合い、1票差で「Clover Heart's(PC)」が続いた。声優ブームが終わってリーズナブルな費用で調達できるようになったのかどうか分からないが、とにかく声優陣のリッチ化が著しい。いきおい演技力に差がつかなくなる。音声を入れると、マスターアップの最後の最後までテキストを推敲することができなくなるのがネックだが、これだけ高いレベルで充実してくると、音声なしというのは難しい選択になる(圧倒的にストーリが良い場合は別だが)。

 いずれにしても、音楽・音声とも、もはや単発で評価されることは難しく、「動画・アニメ部門」でも触れたが、「動き」との連携による総合的な演出力が勝負になってくるのは間違いない。

vii)えっちシーン部門
有効投票: 241(うち無投票: 90)

順位ゲーム名graphpoint
1Clover Heart's(PC)
13
2天使のいない12月(PC)
11
3月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)
9
4CROSS † CHANNEL(PC)
8
5今宵も召しませAlicetale(PC)
6
5大番長(PC)
6
5姉、ちゃんとしようよっ!(PC)
6
5LOVERS〜恋に落ちたら…〜(PC)
6
9君が望む永遠(PS2/PC)
5
9恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの(PC)
5
9ななみとこのみの教えてA・B・C(PC)
5
9SEXFRIEND〜セックスフレンド〜(PC)
5

[13位以下]
4票: Orange Pocket(PC)、ショコラ〜maid cafe "curio"〜(PC)
3票: うちの妹のばあい(はぁと)(PC)、SNOW(DC)、Maple Colors(PC)

[投票者コメント]

 恋愛系ゲームのえっちシーンが薄いと非難されたのも今は昔、ボリューム(1人複数回前提)はもちろんのこと、テキスト、演技力、SE、シチュエーションにコスチュームと恋愛系ゲームのえっちシーンは今円熟期を迎えている。昨年のコメントでは「えっちシーンのボリュームが当たり前になった次には、シチュエーションの練りこみやフェティッシュの特化、テキスト、音声、効果音、アニメーションといったところで差別化と個々の密度を高める方向に関心が行くのは必然だ。」と書いたが、すくなくともこの分野では着実に進歩しているのは確か。

 今年も「萌え」+「エロ」系の「Clover Heart's(PC)」が1位に。2001年のえっちシーン部門5位「月陽炎」がエロ重視の発端だった訳だが、2年ぶりの新作でトップを獲得。同じ傾向としては、3位「月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)」が挙げられる。これも昨年のえっちシーン部門4位「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜(PC)」から順位を伸ばしている。2位「天使のいない12月」は濃厚なえっちシーン(絵/テキスト)が特徴だが、「使えるか」どうかはまた別の話。

 例年他のランキングとは顔ぶれが異なるのがこの部門だが、その他では恋愛系というよりはよりエロ重視の「今宵も召しませAlicetale(PC)」「姉、ちゃんとしようよっ!(PC)」、とにかくキャラクタが豊富な「大番長(PC)」、アニメーションが特徴的な「LOVERS〜恋に落ちたら…〜(PC)」が5位で並ぶなど、多彩な品揃え。「恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの(PC)」「ななみとこのみの教えてA・B・C(PC)」といった「気まずい」ペドゲームも顔を出している。

 今後の傾向としては、ここまで水準が上がると、もう一度逆の揺り戻しが起きる可能性があると思われる。特定のフェティッシュやニッチに特化した作品、コンスタントな売り上げを狙った中小規模の作品は今後も繰り返し発売されるだろうが、メジャー系では、単なるボリュームや萌えエロより、ストーリへの生かし方に重心が置かれるようになるのではないだろうか(メジャー系ではないが、9位「SEXFRIEND〜セックスフレンド〜(PC)」は上手く生かしている例だ)。

viii)企画部門
有効投票: 241(うち無投票: 66)

順位ゲーム名graphpoint
1CROSS † CHANNEL(PC)
21
2Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
17
3大番長(PC)
9
4君が望む永遠(PS2/PC)
8
5天使のいない12月(PC)
7
5My Merry Maybe(PS2/DC)
7
7斬魔大聖デモンベイン(PC)
6
7SNOW(DC)
6
9Maple Colors(PC)
5
10グリーングリーン 鐘ノ音ロマンティック/ダイナミック(PS2)
4
10D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)
4
10マブラヴ(PC)
4

[13位以下]
3票: 朱-Aka-(PC)、Orange Pocket(PC)、カラフルキッス〜12コの胸キュン!〜(PC)、Clover Heart's(PC)、私立アキハバラ学園(PC)、ななみとこのみの教えてA・B・C(PC)、姉、ちゃんとしようよっ!(PC)、BALDR FORCE EXE(PC)、ゆめりあ(PS2)

[投票者コメント]

 今回から「ゲームシステム部門」がなくなったので、「ゲーム性」「ゲームとして遊べること」が評価されうるとしたら、この部門だけである。3位「大番長(PC)」、9位「Maple Colors(PC)」はそういう観点からは数少ない作品。全体的には相変わらずのストーリ重視なアドベンチャーゲームが中心になっている。そんな中では、同時代性を捉えた「CROSS † CHANNEL(PC)」が1位、ストーリ全体がトリックとなっている名作「Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)」が2位とシナリオ部門と同じ作品が並んだ。その他としては、一般的な恋愛系ゲームとは一線を画したアンチテーゼ的な作品である「天使のいない12月(PC)」が目立つ。

ix)演出部門
有効投票: 241(うち無投票: 63)

順位ゲーム名graphpoint
1マブラヴ(PC)
23
2Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
13
2CROSS † CHANNEL(PC)
13
4君が望む永遠(PS2/PC)
12
5斬魔大聖デモンベイン(PC)
10
6My Merry Maybe(PS2/DC)
8
7朱-Aka-(PC)
7
7SNOW(PC/DC)
7
9永遠のアセリア-The Spirit of Eternity Sword-(PC)
6
10Clover Heart's(PC)
4
10天使のいない12月(PC)
4

[12位以下]
3票: Orange Pocket(PC)、パティシエなにゃんこ(PC)、BALDR FORCE EXE(PC)

[投票者コメント]

動画・アニメ部門で1位を獲得した「マブラヴ(PC)」がここでもトップに。多彩な演出効果を可能とするAGESなるビジュアル演出システムはもちろんだが、ageは今最も演出に力を入れているブランドの1つと言えるだろう。前作の「君が望む永遠(PS2/PC)」も4位に入っている。もちろん、「演出」はシナリオを1つの劇に仕立て上げる技術であり作業であるから必ずしも高度なビジュアルプログラム技術やアニメーションがあればいいというものではない。2位以降異なる順位となっている(上位の常連が並んでいることには変わりないが)。

2002年の演出部門では、

小手先の画面エフェクトや動きではもう物足りなくなってきており、今後の恋愛系ゲームでは、カメラワークや動きのある演出といった専門の、あるいは専門に近い演出屋が要求されてくる可能性が高いのではないだろうか。こういったスキル・センスを持った人材は立ち絵/イベント絵ベースで発展してきた恋愛系ゲーム業界にはまだ決定的に不足していると思われるので、他業界から引き抜いたりあるいは新たに育てていく必要があるだろう。

などと偉そうなことを書いているが、2003年がどうだったかというと、率直に言ってまだまだな感が強い。筆者がこれほど口を酸っぱくして演出力の強化を訴えているのは近年のFlashコンテンツの盛況ぶりが念頭にある。優れたFlashコンテンツが供給される中、ある範囲のゲームコンテンツのニーズを満たし「代替品」となってしまう可能性を感じており、ゲーム側としてもオチオチしていられないと考えている(「代替品」の脅威については、以前恋愛ビデオゲーム産業の基礎分析でファイブフォースモデルを取り上げた)。

x)キャラクタ部門
有効投票: 241(うち無投票: 49)

順位ゲーム名graphpoint
1CROSS † CHANNEL(PC)
25
2Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)
10
3D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)
9
3My Merry Maybe(PS2/DC)
9
5Orange Pocket(PC)
7
6Clover Heart's(PC)
6
6パティシエなにゃんこ(PC)
6
8マブラヴ(PC)
5
8月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)
5
8君が望む永遠(PS2/PC)
5
8SNOW(PC/DC)
5

[12位以下]
4票: シスタープリンセス2(PS)、私立アキハバラ学園(PC)、てのひらを、たいように(PC)
3票: ALMAずっとそばに…(PC)、グリーングリーン 鐘ノ音ロマンティック/ダイナミック(PS2)、大番長(PC)、天使のいない12月(PC)、ななみとこのみの教えてA・B・C(PC)、ONE〜輝く季節へ〜Full Voice Ver.(PC)

[投票者コメント]

最後は恋愛系ゲームで「シナリオ部門」と並んで重要な「キャラクタ部門」。ここでもやはり「CROSS † CHANNEL(PC)」が1位を獲得。このゲーム、全ての主要登場人物がポジティブとは言えない陰の部分を持っている訳だが、そんな作品が選ばれることは非常に示唆的。

一方コンシューマ系では「Ever17-the out of infinity-Premium Edition(PS2/DC/PC)」「D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)」「My Merry Maybe(PS2/DC)」と分散したため、それぞれ2,3位に収まっている。

ランキング全体を眺めると、3位「D.C.P.S.〜ダ・カーポ〜プラスシチュエーション(PS2)」、5位「Orange Pocket(PC)」、6位「Clover Heart's(PC)」「パティシエなにゃんこ(PC)」、8位「月は東に日は西に〜Operation Sanctuary〜(PC)」など、依然として「ほのぼの」「らぶらぶ」中心の萌え系キャラクタゲームが一定の票を集めているものの、一時に比べると勢いに陰りが見られ、2002年のキャラクタ部門と比べると顔ぶれの若干の違いが伺える。

また、頂いている2つのコメントがどちらも男性キャラクタについて言及されているのは興味深い。恋愛系ゲームで女性キャラクタが魅力的であることが重要であるのは当たり前なのだが、作品数も増え女性キャラクタが溢れている中で、従来しばしば疎かになりがちだった部分が差別化ポイントとして機能しだしてきているということだろう。

xi)部門別1位まとめ

オマケとして部門別1位をまとめておく。

部門ゲーム名
グラフィック天使のいない12月(PC)
動画・アニメマブラヴ(PC)
シナリオCROSS † CHANNEL(PC)
テキストCROSS † CHANNEL(PC)
音楽朱-Aka-(PC)
音声CROSS † CHANNEL(PC)
マブラヴ(PC)
えっちシーンClover Heart's(PC)
企画CROSS † CHANNEL(PC)
演出マブラヴ(PC)
キャラクタCROSS † CHANNEL(PC)

「CROSS † CHANNEL(PC)」が全10部門中半分の5部門(シナリオ/テキスト/音声/企画/キャラクタ)を獲得。2001年の「君が望む永遠」6部門(グラフィック/シナリオ/音声/企画/演出/キャラクタ)には及ばないものの、2002年の「Ever17」4部門(シナリオ/企画/演出/プレイアビリティ)を上回る独占を達成。続いて「マブラヴ(PC)」が3部門。「天使のいない12月(PC)」「朱-Aka-(PC)」「Clover Heart's(PC)」はそれぞれの強みを生かして(?)1部門で1位に立った。

次はいよいよ総合のベストゲームランキングの発表。


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