恋愛ゲームToday


第1回 最近の恋愛ゲームに見る傾向の変化

98/11/08掲載

 今、恋愛ゲームが変わりつつあるのかもしれない。

 昨年の「To Heart」がそのハシリだっただろうか。
 この1年、いわゆる「シナリオ系」恋愛ゲームが、持てはやされている。
 「ラブ・エスカレーター」、「White Album」、「ONE」といった名作は
 もちろん、「お嬢様特急」、「With You」、「いちょうの舞う頃」等々
 何かしらユーザの評価を得ているもののほとんどが「シナリオ系」要素
 を含んでいる。これは、従来の古典的な恋愛ゲーム観とはかなり異なっ
 ている。

 「ときめきメモリアル」がもっとも特徴的だが、キャラクタ萌えが重視
 される恋愛ゲームでは、「点」としての独立したイベントが提供されて
 いるだけで、シナリオがないためにユーザがかえって想像力をかきたて、
 自分だけの物語を作ることができるという利点があった。(ゲーム発売
 前の「センチメンタル・グラフティ」も同様。)同人や二次創作が盛ん
 に行われるのもそれゆえであって、制作者とユーザが一体となった典型
 的な恋愛ゲームの成功パターンである。
 しかし、最近このタイプのゲームが出ていない、あるいは出ても成功し
 ていないのは、ユーザ側がいい加減恋愛ゲームというものに疲れてきて
 いるということなのか。また、コアユーザの少なからぬ部分が多忙な社
 会人であり、その上これだけ次から次へと恋愛ゲームが出ている現状で
 は、恋愛ゲームの消費物化が進行し、1つのゲームにかけられる時間も
 少なく(つまり1人のキャラクタにハマっていられる期間も短く)、短
 時間で遊べて泣ける・笑える・楽しめるゲームが求められているという
 のもある。画一化されたキャラクタが溢れている中で、それらを区別す
 るのがシナリオしかなくなってしまったのだ。ゲームの主人公=プレー
 ヤという同一化や、感情移入という点では制作者の意図が邪魔になりか
 ねない「語り過ぎるゲーム」が今むしろ受けている現状は、そういった
 こととも無関係ではないかもしれない。

 しかしもっと着目すべき点は、この「シナリオ系」ということの恐らく
 本質なのだろうが、こういった新しい恋愛ゲームは、恋愛や心の痛み、
 あるいはいわゆる「純愛」を積極的に表現しようとしており、「同級生」
 シリーズに典型的に見られるような「ナンパ系」が影を潜めていること
 である。
 この大きな流れは、一言で言えば「『願望』から『共感』へ」となりそ
 うだ。「異性にモテたい」という願望は、少なからぬ人が持っているは
 ずだが、ゲームの中でモテまくっても、実は全然嬉しくないということ
 にそろそろ気づき始めているのではないか。それよりはむしろ、比較的
 身近な描写で主人公やヒロインたちに共感できるような、そんなゲーム
 をユーザは求めるようになってきているのではないか……。

 こういったことを考えてみると、恋愛ゲームに求められているものが、
 今少しずつ変わり始めているということが言えそうだ。
 『願望』から『共感』へ。
 「シナリオ系」への移行が恒久的な変化なのか、あるいは一過性のもの
 なのかは現段階ではまだ何とも言えないが、今後もしばらくは続きそう
 なこの「シナリオ系」恋愛ゲームを、注意深く追ってみたいと思ってい
 る。