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恋愛ゲームTomorrow


第7回 脱「シナリオ系」

99/06/10掲載(99/05/13初筆)

0.はじめに

 お久しぶりでございます。(笑)「恋愛ゲームToday」の続編ということで「恋愛ゲームTommorow」です。前回しばらく休載しますと書いたからにはいいから引っ込んでいろ(笑)と思われる向きもあるでしょうけど、今後は不定期ということでご容赦下さい。

1.脱「シナリオ系」(※1)

 相変わらず恋愛ゲーム(および美少女ゲーム)では、ビジュアルノベルを始めとするシナリオ系ゲーム(ノベルゲーム)が隆盛だ。というより、ユーザのシナリオに対する要求がより厳しいものとなり、結果的にそれに応えていかなければ受け入れられないから、という面もあるのだろうけれども。だが、いつも先(tomorrow)を見ていなければならない恋愛ゲーム学としては、そろそろ次のことを考えておく必要があると考え、今回の恋愛ゲームTomorrowを書いてみることにする。

 数あるシナリオ系ゲームは確かに私たちをとても楽しませてくれた。だが、「To Heart」「ONE」は作品自体も、この「シナリオ系」を開拓し、普及させたという点でも偉大だったが、それ以後これらを優に超えるビッグ(笑)な作品にはなかなか出会えないというのが実感ではないだろうか。恋愛ゲーム(や美少女ゲーム)の閉塞が囁かれている中で、この現状を傍観していることはないだろう。

 何がいけなかったのだろうか。恋愛ゲームは基本的にアドベンチャーというゲーム形式を取っていることが多いことから、シナリオ系ゲームというのはごく自然な選択のように思える。また、シナリオ系ゲームは(一般的に難易度も低いので)遊びやすく、ユーザに優しい。しかしその一方で、メーカ(実際は後述のように主にシナリオライタ)にとっては予想以上の負担になっていたのだ(多分(笑))。すなわち、すでに一部では指摘されているように、シナリオ系ゲームはコストパフォーマンスが悪かったということだ、ただしそれはメーカにとって。

 というのも、「読ませる」ことを主眼にし、ゲームシステム的に極限まで単純化されたシナリオ系ゲームでは、他のシステム的、ゲーム的な部分でユーザを楽しませることは困難であるから、当然「ゲーム」におけるシナリオの持つ重要性が非常に大きなものになる。もちろん、グラフィックや音楽が重要性を全く失う訳ではないが、例えそれらで頑張っていても、シナリオにちょっと問題があるとすぐに「絵はいいんだけど……」「音楽はいいんだけど……」という話になってしまう。言ってしまえばシナリオライタが最終的な責任を全て背負い込んでいるようなものだ。優れたシナリオライタに擁しているメーカは良いが、必ずしも恵まれているところばかりではないだろう(笑)から、流行りだからと安易にシナリオ系ゲームを作ろうとするのはリスクだけ高くなってしまうのである。そもそも、例え優れたシナリオライタでも、他の要素と比較すると常に安定して良いものを供給し続けるというのがそう簡単なことではないのだから。(少しでも過去の作品に似ていると「〜みたい」と言われるし。(笑))(※2)

 さて、恋愛ゲームにおいて、すでに他で書いていることだが、「シナリオ系」と対になるのは恐らく「対話系」だろう。すなわち、キャラクタとの会話自体を楽しむ類のゲームである。残念ながら今は余りこの手の独創的なゲームを見かけないが、具体的には過去「NOeL」「バーチャコール」シリーズなどがあった。この「対話系」に分類されるゲームでは、「シナリオ系」ほどシナリオは必要とされない。というか、「バーチャ」に至ってははっきり言ってシナリオはぺらぺら(笑)なのだが、VHGという独自のクールなインタフェースと、3択がテンポよく挿入される小気味よいテキストは、当時非常に面白く、衝撃的でさえあった。同程度のものが今通用するとは思えないが、「シナリオ系」がシナリオにおんぶで新しいシステムを考える余地が限られているのに対し、「対話系」はまだ完成には程遠く、開拓の余地が遙かに広いのではないだろうか。

 実際のところ、毎日自己存在やら恋愛やら人生やらについて深く考え込み、いつも真面目に語り合っている人なんてそうそういる訳ではないのではないか。(笑)特に、好きな人と話している時などは、本当に何気ない、端から見ればどうでもいい会話が、本人(たち)にとってはとても大切で充実したものであったりすることは、誰しもが経験していることだろう(というか、思い出して欲しい(笑))。そういった、「何気なさ」を、豊かな生として享受できるような、そんなゲームがあったらいいな、と思うのである(プレーヤにもある程度の心のゆとりが求められるかもしれないが(笑))。

 前述の通り、「対話系」では「シナリオ」の質はそこまでクリティカルではない。敢えていうなら、「テキスト」の方が大切だろうか(本当は用語の厳密な定義が必要だがここでは省略させて頂く)。(※3)ここでプレーヤに楽しさを提供するのは、会話を乗せるシステムであり、インタフェース的な面白さが必要である。「北へ。」のC.B.S(Communication Break System)はごく初期の開発段階として評価できるが、まだまだ先は長い。

 シナリオ系ゲーム、もちろん結構なことだし今後も大いに頑張って欲しいと思う。だが、シナリオが終了している(笑)「シナリオ系」は、ただ人気が出たゲームの概観を真似ているだけで、システムを考える手間を省いた手抜きでしかない。(当然だが、システムで面白くすると言っても初期の育成系などは古過ぎて話にならない。(笑)恋愛ゲームに狭義の「ゲーム性」はもはや求められてはいない。)そうではなくて、何が何でもシナリオ系じゃなくとも、ライトな感覚で会話を楽しめる恋愛ゲームが作れるのではないかと、考えているのである。もちろん、それはそれで独創的なアイディアと卓越したセンスが期待されるのだが。







※1、読者の注目を引くために(笑)大層なタイトルをつけているが、もちろん何もシナリオ系が駄目だと言っている訳ではないことはお分かりだと思う。ここで言っているのは「シナリオ系ゲームは難しい」ということと、「美少女ゲームが全てシナリオ系だけになるのは多様性という点で疑問」ということだけだ。実際、ユーザの指向を考えると、一部の美少女ゲームは選択肢が極端に限られたノベルゲーム(すでに読み物と言ってもいい)になっていくのではないかと思われるが、ただ流行っているからと全部が全部そうなるのもどうかという感じだろう。




























※2、かと言って、読者の受容能力を逸脱したシナリオは読み手に「ストレス」を与えるため全くの逆効果にしかならないところに「オリジナリティ」ということの難しさがある訳だが。「予想可能範囲で裏切れ」という一見矛盾したようなことなのだろうが…。























※3、私たちはよくシナリオ、シナリオと簡単に使ってしまうが、より上位の概念としては「物語」と言う方が適切だろう。今のところ妥当ではないだろうかと考えている物語の3階層モデルは下図のように表され、基本的にテキストレイヤの上にシナリオレイヤが、その上に物語レイヤがのっかっているのだが、ユーザはその一方でテキストやシナリオ単独でも評価を加え、その物語・シナリオ・テキストのバランス(比率)がゲームの形態やユーザの指向によって変わってくるというものである。

物語の3階層モデル
  図:"物語"の3階層モデル