ひとりでやっている小さな出版社です。自社発行の本をネット販売しています。

稀人舎(キジンシャ)
代表小宮山裕
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未入籍別居婚
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ごあいさつ

 ひょんなことから、自力で本を売るハメになり、なんだかいろいろ試行錯誤しているうちに、「ひとり出版社」を始めてしまいました。

 その辺の経緯は↓こちらのブログに詳しく書いてます。

 ふざけたようなブログ名ですが、切実な想いも込められています。

  

 昔、といっても1970年代から80年代にかけて、東京の街のどこかで「私の詩集を買ってください」という札を首から提げて道に立ち、自作の詩集を売っている人がいる、と聞いたことがありました。いわゆる都市伝説のようなものかと思ってもいたのですが、新宿の西口地下道には実際にそうやって自作の本を売っていた女性がいたそうです。それは「詩集」ではなく「志集」というものだったらしいですが、私が噂で聞いたとおり、「私の志集を買ってください」と書いたボール紙の札を首から提げ、西口地下道の交番近くに毎晩のように佇んでいたそうです。
 かつてはそんな風にして自作の本を売っていた人が他にもいたのか、それともそのやり方はその女性の専売特許だったのかは分かりません。ただ、その話は人々の間に広まって、70年代から80年代にかけては、自費出版の本を売る、ということは、そんな風に道ばたに立って、酔っぱらいに絡まれたり、警官に職務質問されたりしながら「私の詩集(本)を買ってください」と、物寂しげに売ることなのだ、というイメージがなんとなくあったように思います。
 事実、私の友人で現代詩を書いている詩人がいるのですが、その人が自費出版の詩集を出した、と言うと「なに?道に立って、私の詩集を買ってください、とか言うの?」と揶揄する調子で言う人もいました。(その友人の本は、いわゆる老舗の現代詩専門の出版社から出版され、今では著作も10冊近くあり、大きな書店なら詩集のコーナーに普通に並んでいます。)
  
 時代は移り、自費出版の一種である同人誌、ミニコミ誌は、コミケットなどに代表される即売会が有名になり、そこに以前の物寂しいイメージはなくなりました。マンガのパロディ同人誌などは、下手な職業作家よりも儲かるとも言われています。
 しかし、今「稀人舎」として私が売ろうとしている文芸作品は、未だ寂しい世界に取り残されているような気がします。文芸誌の即売会なども以前よりは増えてきているようですが、そこにマンガやアニメ関係のような活気は(まだ)ありません。
 特に、「飲んだくれてふる里」のような、地方都市の年輩者が書いた本となると、売る方法も買う方法も皆無と言っていい状態です。自然と「知り合いに買ってもらう」「歩いて回れる範囲の地元の本屋に置いてもらう」といった、非常に狭い範囲でしか流通しないことになってしまいます。
 
 もっと広い範囲で本を売ることはできないものだろうか。
 自力で売るハメになった「飲んだくれてふる里」の在庫の山を前にして、失敗を繰り返した結果、私はネット上にお店を開くことになりました。このHPが、そのお店というわけです。理論上は世界のどこからでもアクセスできる、全世界規模のお店です。地方のせいぜい5〜6軒の本屋さんに本を持って歩いたことを思えば、範囲はものすごく広がりました。
 でも、こうしてネット販売で本が売れないものかとあれこれやることになった私の脳裏には、ときどき、道に佇むかつての詩集売りの女性の姿がちらつくようになったのです。
 世界のどこからでも買えるお店、とはいっても、人が訪れてくれないことにはどうしようもありません。開いたばかりでほとんどアクセスがなかった頃は、まるでゴビ砂漠の真ん中か、富士の樹海の奥深くで、たったひとり、佇んでいるような気分でした。そこから動かなければ、一生のうちに一人か二人の人間に会えたらラッキーという、そんな状況です。
 その後、サイトの作りを工夫してGoogle、YAHOO!などの検索エンジンに表示されやすくしたり、さまざまなサイトに相互リンクを貼っていただいたりして、今ではどうにか、人の住む町のはずれあたりには立てているのかなとか、そんな風に、「ネットで本を売る」ということを、「私の本を買ってください」と札を下げて道ばたに黙って立っている行為になぞらえて考えるようになったのです。
 その姿にはやはり、どこか物寂しげなイメージがつきまといます。人が通りがかっても(アクセスが増えても)無視されたり揶揄されたりと、いいことばかりではありません。本来ならば書店に並べて売りたい本なのに、自分の力不足で書店では「売ることができない」。しょうがないので、ネットでほそぼそと売るしかない。このHPを見る人は、そんな状況を勝手に想像して、「しょうがなく、ネット販売をしているんだ」と思っているのかもしれません。当たらずといえども遠からずではありますが、実際に道ばたに立って本を売っていた女性に対しても、そんな一種の哀れみの感情で人々は見ていて、それが物寂しいイメージに繋がっていたのではないかと思います。でも、それが本を売る人のポリシーに裏付けされた行為だとしたらどうでしょう。新宿の女性は、そうやって道に立って本を売ること自体が自分の表現活動のうちなのだと言っていたという話も聞きました。
 私には、そんな立派なポリシーがあるわけではなりませんが、このHPでも、たまには立ち止まって(メールをくださったりブログを読んでくださったりして)私の話を聞いてくれたり、さらには本を買ってくださる方もいます。こうして、まるで道ばたに立って本を売っているかのような、ネット販売で本を売るという、その行為が私は少しずつ楽しくもなってきたのです。
 もちろん「稀人舎」をきちんとした出版社にして、取次会社と取り引きをし、全国の書店やネット書店に本を流通させたい、という大きな夢もまだ捨ててはいません。全国の書店に配本できるように、他の出版社に委託販売をお願いしていたりもします。
 しかし、それとは別に、ネット上でのことではあるけれども、たったひとりで手に持った本を売る、そんな売り方で、多くの人に買ってもらえたら、それも楽しいのではないだろうか、そこになにかしら私なりのポリシーを見いだすことはできないだろうか、だんだんとそんな風に思えてきたのです。
 
 新宿西口地下道のようにたくさんの人々が行き交う雑踏に立ち、そして、その近くには、やはり自作の本を売りたい人たちがそれぞれに本を持ち、「私の本を買ってください」と札を下げて、ずらりと立っている。いずれ、自分の本を売るためのそんな環境がネット上で展開できないものだろうか……そんなことも考えながら、今はなるべく人の多い道に立つこと(アクセスを増やすこと)を目標にあれこれとやっています。
 「稀人舎」はまだ始まったばかりです。これからも失敗を繰り返し、試行錯誤しながらヨチヨチとやっていくことでしょう。上に長々と書いたこともその都度変わっていくのかもしれません。でも、「本を買ってください」とひとり道に佇んで本を売る、そんな気持ちを忘れずに今後もやっていきたいと思います。
 
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