歌語り
〜Wake up angel〜





SCENE 1



 朝、いつもの朝。
 カーテンの隙間から漏れる朝日の眩しさで、あたしは目覚めた。
「はにゅ〜」
 布団の中でもぞもぞして、目覚ましのスイッチを切る。
 タイマーより5分ほど早い。
 いつもの通り。
 寝ぼけ気味な頭で、ふらふらと洗面所へ。
 鏡の前に立って、あることに気がつく。
「はへ?」
 背中から、羽が生えている。
 ふさふさした白い、いわいる天使の羽だ。
「いけない、いけない」
 あたしが念じると、初めから何もなかったように羽が消える。
「これでよし」
 顔を洗って、寝癖を直して、次は台所。
「……」
 卵を割って、フライパンに落とす。
「はにゅ〜」
 いい匂いだ。
 ちゃちゃっと玉子焼きを作る。
 高校に入って一人暮らしを始めて以来、朝は卵料理と決めている。
 料理はへたくそだけど、そのせいか卵料理には少し自信がある。
「ふん、ふん、ふ〜ん」
 お皿に出来立ての玉子焼きをのせ、炊飯器を空ける。
「……はれ?」
 そこには水に浸かった米粒があるだけだった。
「……はにゅう〜」
 炊いておくのを忘れた。
 とりあえず、玉子焼きだけでも食べよう。
「いただきます」
 箸で一口サイズにして、口へと運ぶ。
「…………」
 辛い。





SCENE 2



「料理へたくそでも、コンビニで買っちゃえばいいし〜」
「いいわけだなあ」
 幼馴染みの彼と、いつものように朝のコンビニにご飯を買いにいく。
 彼は料理に興味なんかないので、いつもコンビニ弁当だ。
 あたしは彼に付き合うだけで、普段は何も買わない。
「はじめから作らない人に、言われたくないよ」
 だけど今日はあたしもお弁当を買う。
 彼とおんなじのだ。
 お茶も、同じのを買う。
 ペットボトルを握るとひんやりとして、気持ち良かった。





SCENE 3



 朝礼が始まる40分前に学校に着く。
 いつもの通り。
 屋上に行って二人で弁当を食べる。
 雲4分の、まずまずの青空。
「……なあ」
「はにゅ? 何?」
「いや……。何でもないや」
「はにゅ〜。なんだよお」
 彼はちょっと顔を背けて、思いついたようにポンと手を打つ。
「そういえばお前、部屋の掃除したのか?」
「はへ?」
「部屋汚くても、いつも後回しにするだろ、お前」
「はにゅ〜、キミには関係ないでしょ」
 彼は綺麗好きだ。
 時々あたしの部屋に遊びにくると、いつも苦い顔をして「掃除しろよ」という。
「確か裁縫もできないんだよな?」
「高校生の男の子が裁縫できるほうが珍しいと思うよ? ……それに裁縫できなくても、これといって困らないしね」
「……そうだな、お前はUFO見えても、まあ気にしないしってヤツだしなあ」
「どういう意味だよお? そりゃしない…しないと思うけど」
「そのくらいボケてるってことだよ」
「はにゅ〜。どういうことだよう」





SCENE 4



 一時間目の授業、数学は苦手。
 計算しても計算してもわからない。
 『計算しても、経験しなきゃ全部分からない』とは彼の弁。
 どういう意味かな?
 彼のほうを見ると、スヤスヤと寝息を立てていた。
 彼はお寝坊さんだ。
 あたしが家まで起こしにいかないと、いつも遅刻する。
 あたしが起こしに行けば、遅刻はしないけれど、だいたいお腹一杯になってしまった一時間目で寝る。
「次は……」
 先生が問題を当てる人を探してる。
 あたしは教科書を立てて身を固める。
 あたりませんように……。





SCENE 5



 また授業。
 いつもの先生は調子が悪いらしく、臨時で別の先生がきていた。
 学外から呼ばれた人みたいで、みんな結構騒いでいたけど、あたしは興味をそそられなかった。
 だからいつものように、あたしは彼の顔だけ見てる。
「……?」
 彼はボーっと窓の外を見ている。
 どんより曇った暗い空。
 屋上で朝ご飯を食べた時は晴れてたのに……。
 どうしたのかな?
 あ、天気じゃなくて、もちろん彼のこと。
 いつもの彼なら、まだ寝てるはずなんだけどなあ。
 悩み事があると、彼はこうやって窓の外を眺めてることが多い。
「…………」
 ちらりとあたしの方を見る。
 あたしが微笑みかけると、彼も笑ってまた窓の方を向く。
 何か困ってるなら、あたしに言って欲しいなあ。 
 一応、幼馴染みなんだし……。





SCENE 6



 英語の時間。英語は成績によってクラスが3つに分けられてしまうため、彼とは離れ離れになってしまう。
 彼は一番優秀なAクラス。
 あたしは……Cクラス。
「……I miss you」
 先生が音読している教科書の文章。
 右から左に流れていくけれど、その言葉だけは耳に残る。
「あい・まい・みす・ゆー」
 はああ、会いたいなあ。
 たった一時間だけど、ずっと離れてる気がする。
 愛することと、愛されることは、とても幸せなことだって、何かの本で読んだことがある。
 あたしは……彼のことが好きだけど……。こういう時は苦しいなあ。
 あたしが天使だってこと知ったら、彼はどんな顔するかなあ……。
 あたしたち天使は、ずっと昔から人間に混じって暮らしてきた。
 天使というと、神様の使いとか、そういうイメージがあるけど、あたしたちは違う。
 ただ羽があるだけの人間なんだ。
 でも、そのただ羽があるというのが、人間にとっては大きな違いらしい。
 だからあたしたちは、ずっと昔から羽を隠して暮らしてきた。
 彼にも隠して暮らしてきた。
「……」
 ああどうして、あたしは天使に生まれたのかなあ。
 あたしがただの人間なら、すぐに好きだって言えるのに。
 あたしが天使だって知っても、彼は一緒にいてくれるかなあ……。
 もしそうなら、好きっていうんだけどなあ。





SCENE 7



 お昼ご飯。
 お空は曇ってるけど、やっぱり屋上で彼と一緒に食べることにする。
 これはいつものこと。
 だけど今日は、彼がご飯を買いに行って、パンを買ってきた。
 これはいつもと違う、すごく違う。
「……」
 じっと袋も開けずにパンを見つめる。
「……お前、パン嫌いなのか?」
「はへ?」
 唐突に彼が言う。
「どうして?」
「いや、なんか顔が歪んでるし……」
「はにゅ……」
 図星。
 あたしはパサパサしてて、喉に詰まるパンが嫌い。
「嫌いなら、言えば良かったのに……待ってろおにぎり買ってくるから」
「あっ……いいよお」
「遠慮するな。お前の嫌いなもの買ってきた俺が悪いんだし……」
 彼はそう言って走り去る。
「もうぅ〜」
 親切すぎるんだよお。
 今日はあたしが購買について行けなかったのが悪いんだし……。
「……」
 でも、なんか今日の彼……。ちょっと変な気がする。
 なんか、親切すぎる……。ううん、優しすぎるもかも……。
「何か……あったのかなあ」
 フェンスに体を預けて、彼が来るまで空を見上げる。
 彼はお人好しだ。
 お人好しで……ちょっぴりドジ。
 自転車で子猫避けて、車に当たっちゃうし……。
 迷子助けて、迷子になるし……。
 泳げないのに子供助けて溺れちゃうし……。
 また何か面倒なことに巻き込まれてるのかなあ。
 でも、そこがいいところだし……。
「ああ、神様……願いましては……」
 こんな暮らしが、無限に続きますように……。
 続きますように……。





SCENE 8



 放課後の帰り道。
 二人で肩を並べて帰る。
「あの……さあ」
 彼がためらいがちにあたしに声をかける。
 やっぱり今日の彼は、いつもと様子が違う。
「はにゅ、どうかしたの?」
「……」
 あたしが心配して彼を見つめると、彼は少し顔を背けた。
 ……どうしたんだろ。
「あの……な」
「…………うん」
 別れ話かな?
 漫画かなんかだと、大体こういうときの相場は決まっている。
 ……なんか悪いことしたのかなあ。
 あたしが天使だってばれたのかなあ。
 あ、でも付き合ってるわけじゃないから、別れ話ってのは違うのか……。
 ううん、どっちにしても一緒にいられなくなるのはいやだよお。
「…………天使っていると思うか?」
「……はへ?」
「あ、いや……何でもない」
 彼はそれだけ言うと、逃げるように早足であたしから離れていく。
 えと、ええっと……。
 それって、つまり……
 あたしが悩んでるうちに、彼の背中が離れていく。
 その背中に、うっすらと見える綺麗な白い羽……。
 雲の切れ目から差し込む光に照らされる、あたしと同じ白い羽。
「はにゅう! 待ってよお」
 ……なあんだ、そういうことか。
 心配して損した。
「にゅふふ……」
 彼を追いかけながら、笑いがこみ上げてくる。
 おんなじことで、悩んでたんだね。
 明日、朝早く彼の家に行ってあげよう。
 「おはよう、天使様」って二階の窓から言ってあげよう。
 彼って、度胸が無い人だから。
 あたしが言ってあげないと、多分ずっと黙ったまんまだから……。
「はにゅ、そうだ」
 ついでに……。
「ねえ!」
 あたしは彼の背中に向けて、大きな声で言った。
「あたし、あなたのことが好きだよ」
 だから……
 少し振り向いてよ☆












あとがき



 チワッス! デンチュウッス。
 読んでいただけたなら、分かっておられると思いますが、この作 品はぴたてんのOP『Wake up Angel』を元ネタに書 いた作品ッス。
 デンのパソコンの中に埋まるはずのところを、有馬さんのご好意 でここに日の目を見ることになりました(多謝)。
 山なし、オチなし、と、そこだけ聞けばとても『やお(ごほごほ)』 に近い作品ですが、読んで少しでも楽しんでいただければ幸いッス。
  (デン自身はノリだけで書けて、とても楽しかったです。)
 では、てったーい!!

2002.10.22
デンチュウさんより寄贈