歌語り
〜Pure Snow〜





SCENE 1




 雪が降ってきた。
 儚い粉雪が舞い降りてくる。
 私が吐いた息が、白く色付けられ、空に消えていく。
「……寒いな」
 寒いはずなのに……。
「どうしてかな?」
 あなたのことを想うと、胸が熱くなる。





SCENE 2




 気がつくと、いつも人ごみの中。
 うざったいけど、落ち着く……矛盾した気持ち。
 一人が……辛いからかな?
「……あ」
 洋服売り場のウィンドー。
 男物の冬服。
 いつの間にか、買わないのに選んでた。
 『あなたに似合いそう』だなんて……。
「……馬鹿みたい」
 今は……流行らないね。





  SCENE 3




「にゅふふ……言っちゃった」
「……何を?」
 彼女はとても嬉しそうに私の机にやってきた。
 いつも笑っている子だけど、今日はすごい。
「にやにや」している。
「彼にね……好きっていっちゃったの」
 にゅふふふっと、幸せそうに笑う彼女。
「……うまく、行ったの?」
「にゅふふふ」
 聞くまでもなかった。
「よかったわね。あんたみたいなドジっ娘、相手してくれる人なんてそうそういないわよ」
「はにゅ、どういう意味だよお」
 不満そうな声を出しながら、彼女は嬉しそうだった。





SCENE 4




 私と彼が出会ったのはいつだっけ?
 確か……、ちょうど今日みたいに、雪の降ってた日。
 一目ぼれっていうのかな……。
 柄じゃないけど、運命みたいなのを感じた……。
「……お前、何やってんの?」
 突然後ろから声をかけられて、私はびっくりして振り返った。
 まるで、あの日みたいで驚いた。
「……なんだ、あんたか」
 そこにいたのは、背の高い同級生。
 一瞬、彼かと思ったけど別の奴。
 出会ったのは高校に入ってから、友達付き合いしだしたのは、2年になって無理矢理一緒に学級委員やらされてからだ。
 バスケットボール部のエースらしいけど、その辺のことに興味はない。
「およびでないの、あっち行ってて」
「あのなあ……風邪ひくぞ」
 言って傘を差し出してくる。
「………………あんたはどうするのよ?」
「どうもしない、俺は鍛えてるからこのくらい平気なの」
 嫌味ったらしいヤツ。
「そんなこと言って、風邪引いてもしらないからね」
「ご心配なく、俺は生まれてこのかた風邪引いたことないの」
 ……ムカつく〜。
「ま、さっさと店入ろうぜ。服が欲しいなら俺が見立ててやろうか?」
「結構。もう帰るから」
 私は傘を突き返し、早足でその場を離れた。





SCENE 5




「にゅふふ……でね、彼ったらね」
 ご機嫌で自慢話を続ける彼女。
「いいわねえ、彼氏持ちって……幸せそうで〜」
 私は努めて普段どおりに振舞う。
「はにゅ? 学級委員の彼は?」
「……は? あんた何言ってんのよ?」
 やれやれと溜息を一つつく。
「変な勘ぐり止めてよね。あいつとは本当になんでもないんだから」
 私には、別に好きな人がいるんだから……。
 ……いたんだから、かな。
「……お〜い、帰るぞ!」
「はにゅう!」
 彼の声にすぐ反応して立ち上がる彼女。
「それじゃあ、また明日ね」
「はいはい、夫婦喧嘩しなさんなよ」
 パタパタと手を振って別れを告げる。
「それじゃあな」
 彼が私の名を呼び、手を振り替えしてくる。
「……それじゃあね」
 わざと素っ気無く返す。
 友達の仮面は……意外と重たい。





SCENE 6




「いつまでついて来るのよ?」
 いい加減にストーカーのごとく後ろをついてくるノッポのやつに腹が立ってきた。
「バス停は、こっちにあるんだよ」
 ……そういえば、そうだった。
「……なあ、お前よ」
「ナニよ?」
 つっけんどんに言葉を返す。
「なんか、あったのか?」
 ドキリとした。
「…………は?」
 思いっきり馬鹿にしたように……。
 何、見当違いなことを言ってるの?
 そんな風に聞こえるように……。
「は、じゃねえよ。なんか、考え事してるみたいだったけどよ」
 ……鋭い奴。
「別に、何も考えてないわよ」
「……そうか?」
「そお」
「……なんか、悩み事でも、あるんじゃねえの?」
 変に優しい声出す……。
 止めてよ……こんなときに……こんな日に……
「……ないわよ」
「やっぱりあるんじゃねえか」
「ないっていってるでしょお!」
 思わず大声を出す。
 こいつはお節介だ。
 悪気はないかもしれないけど、今の私にはとてもイタイ。
「……話してみたらどうだ? 少しは、楽になるんじゃねえの?」
 そうやって、どんどん私を苦しめる。
「何でもないんだから……ほっといてよお」
 私は彼を振り切って、雪の降る道を走った。





SCENE 7




 家のドアを乱暴に閉める。
 狭い玄関が、私を圧迫する。
 靴を脱いで、誰もいない家の中に入る。
 父さんも、母さんも、仕事で遅くまで帰ってこない。
「……はあ」
 私は自分の部屋に入り、すぐベッドに倒れこんだ。
「何」
 やってんだろうな……私。
 あいつ、怒ってるかな?
「なんであなたしか、だめなんだろうね」
 無理矢理に、他の人のことを好きになろうと思ったこともあった。
 昔憧れてた先輩とか、こないだ知り合った後輩とか……。
 となりクラスの同級生とか……。
 彼女に紹介された男の子と、彼女と…彼と……ダブルデートみたいなこともした。
 でも結局……彼しかダメだった。
 そう思うとき、無茶苦茶に自分を壊したくなる。





SCENE 8




 呼び鈴の音。
 私は重たい体を起こして、玄関に向かった。
「……はい」
 我ながら酷い声だと思いながら、重いドアを開ける。
「よお」
 あいつがいた。
「なによ? てか、なんであんたが私の家知ってるのよ?」
「学祭のクラス発表の準備、ここでしたじゃねえか」
 そうだった。
「それで、何用?」
「つれないねえ。遊びにきたの」
「呼んでないわよ」
「ほんと、つれない奴」
 肩をすくめてやれやれと溜息をつく。
 ……。
「…………どおぞ」
 思いっきり不満声で、彼を招き入れる。
 何故だかこんな奴でも、今は話し相手が欲しかった。





SCENE 9




 よく考えてみれば……。
 なんで私は男の子を、こんなに軽々しく自分の部屋に入れているのだろうか?
 学園祭の準備の時みたいに、居間に通せばよかったのに……。
「へえ。結構女してるなあ」
「どういう意味よ?」
 胡坐をかいて部屋の中央を陣取り、私の部屋をものめずらしそうに物色している。
「そのまんまの意味」
 頭を殴ってやろうかと思ったが、軽くかわされてしまった。
「おっ? あん時の写真じゃん」
 立ち上がり、私の机の上の写真立てを手に取る。
「ちょっと、勝手に触らないでよ」
 慌てて奪い取り、床に座らせる。
 写真は……なんのことはない。学祭の準備をしているときも写真だ。
 私と、こいつ。それと彼女に……彼の写真。
「……おい?」
「え、ああ、御免」
 このときは……。
そっか、本当に笑ってたんだよね……。
「コーヒーでも入れるね」
「お? 本当か? サンキュー」
 写真立てを元の場所において、私の口元から自然な笑みが漏れる。
「ただし、勝手に部屋の中のものいじらないでね」
「おう。俺は紳士だからな」
「……何言ってんだか」
 やってらんないわと手を振り、私は部屋を出る。
 窓から雪が見えた。
 あの日……もう少しの勇気があれば……。
 寒い季節のせいと、飛び込んでいけたはず…。
 でも何故か……。
「できなかった……」
 ……だけど……きっと、泣いたりしたことも悔やまない。
 そんなことはないと思うけど……私の、わかりきった強がりに気づいてくれるのを、いつまでも待ってる……。
 雪が降ってる……。
 真っ白い、汚れない雪が降ってる……。
 二人出会った日も、雪が降っていたね……。
「……あのとき」
 恋よりも切なくて、愛よりも嘘のない……。
 運命を感じたの。












あとがき




 と、いうわけで2作目となりますッス。
 今回は火魅子伝OPの『PureSnow』を元ネタに書かせていただきました。
 前回の『Wake up angel』に比べて今回は難産でございました。
 文章を書く難しさを改めて感じることとなりました。

 一応これは、HPリニューアル記念のつもりだったのですが……。
 まったくもって申し訳ございません。
すでにリニューアルから幾日すぎたことやら(苦笑)。
 次回作は早めに仕上げたいと思います。

   それでは、てったーい!

2003.04.06
デンチュウさんより寄贈