歌語り
〜恋のように僕たちは〜





SCENE 1




「休みが終わったら、新しい街さ」
 コンビニで買った肉まんを頬張りながら、こいつは何でもないことのように話を締めくくった。
「……引越しねえ」
 私は、ようやっとその一言だけ口にすることができた。
 こいつは少しだけ笑ってみせて、すっかり雪に包まれた帰り道を歩きだす。
「なんで、もっと早く言わなかったの?」
 追いかけて、問いかける。
「いっつも、話そうと思ってたんだけどな……」
 自嘲の笑み。
「……まあ、いいわよ」
 それじゃあ……コンビニの前でこいつと話すのも、今日で最後になるのか……。
「それでよ」
「何よ?」
「……なんでお前、そんなに冷たいの?」
「五月蝿いわね。地なんだからしょうがないでしょ?」
「最後だから言っとくな」
 いつものような口調で、まるで何事もないようにこいつは……。
「お前のこと、好きだから」
 と、言った。





SCENE 2




「みんなと一緒に見送りにいくから」
「お〜い、さっきの返事くれよ」
「元気でね」
「返事くれってばよ」
「頑張ってね」
 私が早足で歩く。
 あいつがその後ろにぴったりとくっついて、ついてくる。
「つれないねえ。答えくらい教えてくれよ」
「…………友達でいましょう。ってことで」
「おいおい〜」
「なによ?」
「…………いや、いいよ」
 あいつの動きが止まる。
 私も、何故か歩くことをやめてしまった。
「……手紙、書くね」
「ああ」
「たまに、会えるよね?」
「……なんだよ? 本当はまんざらじゃないんじゃないか?」
「自分で言うな、自惚れ屋。……友達だから聞いてるのよ」
 そういえば……。
 いつか自転車を盗まれた時は、ずっと探してくれた……。
 別にだからどうってわけじゃないんだけど……。
 私は、彼のことが好きなんだし……。
 こんなやつなんて、眼中にないんだから……
「新しい街は、ここより都会ね〜」
「そうだけど?」
「すぐに彼女できるね」
「お前な……」
「私はね……」
 あれ……?
「どんなに悩んでも、受験とかあるし……うち、お金ないから、私立とか駄目だし……自分のこと……目の前のことで、精一杯だから……」
 私の口から、『言い訳』が出てくる。
 どうして…………なの?
「だから、友達でいて欲しい」
 どうして、そんな言葉が出てくるの?
「……いいよ。重荷には、なりたくねえからな」
 私は、目をそらした。
 まだ、学校が良く見える。
 学校も、屋上も、ポプラの木も、グラウンドも、オレンジ色に染まっていく。





SCENE 3




 次のバスがきた。
「悪ぃ、もう行く」
「……うん」
 頷くと、私の中からなにかが溢れてきた。
「それじゃあな……元気で」
「……そっちも」
 軽く手を振り、あいつが苦笑を浮かべて、バスに乗り込む。
 軽い排気音とともに、バスが走り出す。
 私は手を振るでもなく、ただ立ち尽くした。
 恋のように、恋する少女のように、私は去り行くバスを見つめていた。
「…………」
 本当は……好きだったのかもしれない。
 ただ、それを認めると、今までの私が壊れてしまうから、認めたくなかったのかもしれない。
 私は……彼のことが好きだけど……それ自体が、もう、つまらないこだわりだと言うことを、認めたくなかったのかもしれない。
 初恋の人を大事にしたいという幻想と、自分はそんなに軽い女じゃないというプライドが……認めさせなかったのかもしれない……。
「ああ……」
 強がってたの……かな?
 泣きたかったのかな?
「もう、遅いか……」
 遅いんだ……。
 恋する少女のように私は……。
 ただそこに立ち尽くしていた……。












2003.09.26
デンチュウさんより寄贈