歌語り
〜Still... ……な同窓会〜





SCENE 1




 ピピピピピピピピピピ……
 目覚ましの音で、私は目を覚ました。
 もぞもぞとベッドの中でもがいて、なんとか身を起こす。
「あ〜……」
 ボケーッと天井を見上げて、「仕事いかなきゃ……」とか考えて。
 今日が休みだってこと思い出して。今は実家に帰っているってこと思い出して……。
「あ、そっか」
 今日が、同窓会だってことを思い出す。
「……行きたくないなあ」





SCENE 2




「はにゅう。みてみて! これ、この服!」
 結局来ちゃってるし……。
 会場はそれほど大きくなく、集まった者も、まあ、当時のクラスメイトの半分くらいだろうか……。
 みんなそれぞれ仕事を持ち、すっかり『大人』になってしまっている。
「何? 旦那さんが作ったの?」
「にゅふふ……いいでしょう〜」
 こいつは全然変わってないけど……。
「いいわねえ。旦那持ちって……幸せそうで〜」
「はにゅう。そっちはいい人いないの?」
「……いないわよ」
 言って、ぐるっと会場を見回す。
 顔を見れば、だいたい名前が出てくる。
 でてこなくても、ちょっと話せばすぐに分かる。
 彼は、少し離れたところであいつと話していた。
「学級委員の彼とは、うまくいってなかったの?」
 私の視線に気づいたのか、彼女が私の顔を覗き込んでくる。
「あいつはすぐに転校したでしょうが」
「でも、お手紙のやりとりしてたじゃない」
「あれは……友達だから」
「……はにゅう」
 彼女は困ったように黙ってしまった。
 ……なんか、気まずくなっちゃったなあ。
「私、ちょっと外に出てる。なんか飲みすぎちゃって」
「はにゅ、ごめん」
 とてもすまなさそうな顔をする彼女に笑いかけ、私は会場から出た。





SCENE 3




 外にでて、夜風に当たる。
 今日は、少しはしゃぎすぎたかもしれない。
 お酒も、ホントにちょっと飲みすぎ気味。
「はああ」
 気持ちいい。
「よお」
 ビクッと、私の体が固まった。
「……なんだ、あんたか」
 なるべく平静を装って振り返ると、予想通りあいつがいた。
「やっと話ができた。お前、なんか俺を避けてたろ?」
 図星。
「べ、別に。そんなことないわよ」
 ああ、もう取り繕えてないなあ。
「嘘付け」
 はい、嘘です。
「ついてないわよ」
 嘘、ついてます。
「……」
 あいつは困ったように空を見上げて、「はあ」っと溜息をついた。
「まあ、いいや」
 話を、変えよう。
「……全然、変わってないね」
「そっちも、そのままだな」
 バス停で別れたあの日。
 私たちが直接出会ったのは、あの日以来、今日が始めて。
 それでもこいつは、そのままで……。
 一目でそれと分かって。
 なぜか、避けてしまった。
「これでも、いろいろあってね」
 手紙は、すぐに私のほうから送らなくなった。
 大学に入って、住所を変えてからは、こいつから手紙がくることもなくなった。
「そりゃあな、お互い」
 そうやって、私たちは、自然にそのつながりが消えてしまった。
 ……私が消してしまったとも言える。
「でも」
 もしかしたら、まだ……。
「私ってきっと、単純だから」
「そんなことないだろ?」
「そう? 優しいんだね」
「……そうか?」
 私が、うやむやにした『あの日の返事』をしようとしたとき、こいつを呼ぶ声が会場から響いた。
「あっちで、呼んでるよ?」





SCENE 4




 今、同窓会が終わりかけてる。
 結局、さっき話せただけで、あいつと話をする機会はめぐってこなかった。
 気のせいかな?
 あいつのほうが、私を避けている気がする。
 今度は、私のほうから、あいつのところに歩み寄った。
 あの日と同じように、友達のように語り合い。笑い合い……。
 そして今、同窓会が終わりかけてる。





SCENE 5




「それじゃね、今度いつかな?」
 いつ、また会えるかな?
「そうだな、何時ごろかな。次の同窓会は……」
「…………そうだね」
 普通、そう思うかな……。
「来るよね?」
「多分な」
「……だけど」
 私が言おうとしたのは、そういう意味じゃない。
 また、同窓会で会えるのかって、そういう意味じゃない。
「何だよ?」
「何でもない」
 ……ああ、やっぱり、彼のほうが私を避けてる。
「あなたってほんと、正直だから」
「それはそうだな」
 おどけた感じで肯定する。
「でしょ?」
 私もニヤニヤと笑い、指差してやる。
「顔に出るのよね〜」
 ふっと、私の目から涙が流れた。
「気づいてるんでしょ? 私が、あなたのこと、好きだってこと」
「……」
 黙っても駄目。だって顔にかいてあるから……。
「馬鹿だよね、私。あのとき、あんたにちゃんと返事してればさ、こんなに苦しむことはなかったんだし……」
「……俺は」
「誰かがいるんでしょう?」
 ああ、私はなんて馬鹿なんだろう。
「……わりぃ」
「謝らないでよ。私が先にあなたをふったの」
 あ、彼女が私を呼んでる。
「ごめん、あっちで呼んでるから……」
 ……結局は、『大人』になったみんなの中で、私だけが、『あの頃のまま』だったのかもしれない。
 私だけが、あの頃のままでいたかったのかもしれない。





SCENE 6




 今、同窓会が終わりかけてる。
 私はまだ憎んでる。
 友達でいて欲しいと言った。
 あの日の自分を許せずに、ずっと……。
「……はにゅ。どうしたの?」
 心配そうに彼女が私の顔を覗き込む。
「ん、ごめん、なんでもない」
「……はにゅ?」
 私は彼女の胸に顔を埋めて、ただすすり泣いた。
 今日、ここに来たくなかった理由。
 私は、『大人』になりたくなかった。
 変わってしまったみんなを見たくなかった。
「私、馬鹿なの。いっつも好きな人に好きっていえないの」
 顔を上げる。ぐちゃぐちゃの顔を彼女に見せる。
 ずっと友達の彼女になら。この顔を見せられる。
 彼女は困ったように、目をキョロキョロさせていたが、やがて私の目をしっかりと見て、私の頭を優しく撫でてくれて。
「……ごめんね。あたしが、あなたの好きな人とっちゃったんだよね?」
「………………」
「あたしを憎んでくれてもいいよ。そうすれば、少しくらい楽に……ならないかなあ?」
 私は泣いた。
 今度は恥も外聞もなく、大声で泣いた。
 彼女も悩んでたんだ。
 私だけが、悩んでると思ってた。
 気がついてないんだと思ってた。
 私だけが仮面を被ってたんだと思ってた。
 彼女も『気がついていない』っていう仮面を被ってたんだ。
「いいの、彼のことは、もういいの」
 そう、今悲しいのは彼のことじゃない。
 彼女のせいじゃない。
 だから……。
「憎めるわけないじゃない」
 私は笑顔でそう返すことができた。





SCENE 7




 今、同窓会が終わりかけてる。
 あなたがまたいなくなる。
「元気で」
 って言って、あの時と同じ笑顔を見せて。
 私はちぎれそうに目を閉じた。









歌語り
〜Still... ちぎれそうな同窓会〜




Fin












2003.09.26
デンチュウさんより寄贈

Still...