結局2回目もまたまた領事館のお世話になった。
 前回は領事館に行き着くまであちこち通商関係の役所をあたったが今回は担当が分かっていたので話が早かった(なんとなくナサケナイ)
 幸い今度は領事館のお墨付きがきき、しばらくして送られてきたが、計4個のユニットだったので通関手続きが必要になった。
 私の勤めている図書館が大阪国際空港に近いので、「あそこまで来ているのに」と思うと、ますます苛立ちが募った。通関手続きも自分でやれば安くすむのだが、さすがにもうその力はなく、専門の通関代理業者に頼んだ。
 有名な五味康祐さんの書いたものには、タンノイをめぐるファンの右往左往の模様描いた物が多いが、なかでも、イギリスからタンノイを担いで持って返った人の苦労話は圧巻である。しかしなんおことはない、いわんやローサーにおいておや、である。
 さて、通関であるが、通関業者から問い合わせの電話が掛かってきた。
 品名がドライブユニットなので車のエンジン部品と間違えられ、通関業者の人がよく分かっていないようだ。
 「車のエンジンじゃないんですか?」書類の操作なので実物が相手の手元になくよけい混乱しているようだ。「はい、スピーカーなんです」「なるほど、やけに軽いと思いました。でも、それにしても一個あたりの重量は軽いですね?。小型ですか?」
 完成品と部品では税率が違うので、面倒でもちやんと説明しなくてはいけない。
 「スピーカーに付いているラッパみたいなところなんです」「は一ん!ステレオのスピーカーなんですね」だから初めからそう言ってるじやないか!「はい」「ソニーとかで売ってるのと同じやつですね」「そうです。そうです」ここでローサーとソニーを一緒にするな、といっても仕方がない。
 「わかりました。でもなぜ4つも必要なんですか。売るんですか?」冗談じやない。商売目的なら税金も高い。
 「いえ!あの、ソニーのスピーカーでもラッパがいっぱい付いてるでしょう。ステレオにするとそれだけ必要なんです」適当にごまかす。「ああ、そうですね」ソニーというと妙に説得力がある。「あの、でも箱はどうするんですか。別に買うんですか?」
 これはあきらかにおじさんの個人的質間だろう。
 「いえ、自分で作ります」「はあ一分かりました」
 分かりましたといったものの、翰入品の種別等がはっきりせず、結局むこうが読み上げる種別から「ああそれです」と私がケリをつけてようやく書類がととのった(結局自分でやったようなものである)。
 こういう目にあうと、原価の3倍というのも納得のいく値段だという気になる。
 通関がすむと、今度は運送屋から電話があったった。どこへ運べばよいかとのことである。まだ、独身だったので職場で受け取ることにした。そんなこんなで品物がようやく手元にとどいた時は興奮した。前回の梱包状態からミカン箱ふたつくらいとふんで、運送屋には図書館のカウンターで受取りますといっておいた。
 二三日してカウンターに座っていた女の子が「山本さん!すごい荷物が来てますよ」と私をよびに来た。
 行ってみると、なるほど、カウンターの前に汗だくの運送屋と冷蔵庫がはいるほどの箱がそぴえていた。こんなに大きいとは。驚いた。
 図書館の兄ちやん何やってんねん、と言いたげな学生を、押し退け押し退けやっとのことで事務室まで運び入れた。ここでも係長に冷蔵庫を買ったと間違えられた。
 ローサーは厳重にパッキングされ納まっていた。冬場だったが取り出すのに汗ばんだ。
 震える手で最後の包を開けてPM4の赤く光るマグネットを見た時、なんと白分でも情けないことに、今度は通関手続きも自分でやろう、と私は思ってしまった。

我が愛しのローサー

 こんな私はアホだろうか?後藤君に聞けば、アホだというに決まっているし、私もうすうす感じてはいる(コンコルドのオヤジよりはましだとは思っているが一)
 それでも、私は、このとんでもないアホさかげんを自慢したいような気になることがある。
 我家で鳴っているスピーカーはそこいらのものとは違うのだ、と言いたくなることがある。アンブは自作だしスピーカーも自分で手に入れた。
 そこに、なんとも言えない快感がある。
 我が愛しのローサーは、世界にただ一台、この目の前にあるものだけなのである。自分だけのものを持ちたいと願う人間。苦労がすてきな思い出に変わったときのすばらしさを知る人問。ローサーというスピーカーはこういったたぐいの人間が惚れるスピーカーであることに間違いはあるまい。
 とにかく、にぶくレッドに光るマグネットはカッコイイのです。

5/5