1.佐久間アンプとは

佐久間アンプが『MJ無線と実験』に登場した時,「このようなアンプで本当に音楽が聴けるのか?」という疑問の声があがりました。また,電気的な約束事をまもっていない,との声も未だに根強く聞かれます。
しかし,佐久間アンプの音色に心を奪われる人々が世界中に存在することも事実です。
いったい佐久間アンプとはどういうアンプなのでしょうか?

ひとことで言うなら,佐久間さんが,自分の好きな曲を好きな音で鳴らすためのアンプです。
コンコルド内に,「その音」が響けばいいのですから,アンプ単体でなく,システム全体で音色の調整をしています。
イコライザーアンプのRIAAの定数は世界的に決まっていますが,佐久間アンプが独自の値になっているのは,カートリッジやスピーカーの音色も考慮し,耳で定めた値だからです。当然,佐久間アンプのイコライザーアンプを,そのまま規制品のパワーアンプと組み合わせても,変な音が再生されると思います。

2.佐久間アンプを作る前に

テレビなどで佐久間アンプに興味を持った方や,製作しようかと迷っておられる方に,佐久間アンプの基本的なことや,製作の注意等をご説明します。

1.佐久間アンプの音色をご存じですか?

実際,ヒアリング会やコンコルドで音を聞いて,佐久間アンプを作る場合は問題ありませんが,『MJ 無線と実験』の回路図だけで製作するのは,少々乱暴かもしれません。
もしかすると,イメージした音とかなり隔たりがあるかもしれません。実際,佐久間アンプの音は市販のアンプとずいぶんとかけ離れています。また,一般にオーディオマニアがアンプを自作する場合は,パーツを吟味して細かな音まで再現する,ということが多いと思いますが,佐久間アンプはこういった音作りとは,たいへん異なっています。
そしてなによりも!佐久間さんのシステムはモノラル再生です!!
ぜひ,コンコルドへでかけてその音色,再生の考え方などを直接耳と肌で感じてください。
また,製作する上で実物を見ておくこと,実際の音色を聴くことは,とても大切です。

私は学生時代に佐久間さんと出会いました。
はじめて,コンコルドに足を踏み入れたとたん「私の目指す音はこれだ」と確信しました。
学生なので,トランスもなかなか買えませんでしたが,いつかは佐久間アンプと思い続けました。
スピーカーもローサー以外のスピーカーなら,たいした違いはないと感じ,ローサーを買うまでは,コーラル製のフルレンジ・スピーカーを自作の箱に入れて聴いていました。
目指す音がはっきりしていたので,無駄なお金は使わずにすみました。
そして,何度もコンコルドへおじゃましました。旅費をパーツ代金にまわせば佐久間アンプを作れたのですが,今になって振り返ると何度もコンコルドの雰囲気を体験し,佐久間さんとお話できたことが,その後の佐久間アンプ作りに大きなプラスになっていると思います。
佐久間アンプを作るべきか,否か?
迷った時には,千葉県館山市,房総半島の先端にあるレストランス・コンコルドをぜひ訪問してください。
限られたお小遣いを旅費にするか部品代へまわすか?
絶対に旅費に回すべきだと思います。

2.佐久間アンプの重量と大きさ

真空管と真空管の間をトランスでつないで音声信号を増幅していくアンプを,トランス結合アンプと呼びます。
佐久間アンプはトランス結合アンプの最たるもので,鉄の塊のようなトランスがたくさん使われています。
そのため,モノラルのアンプですが,アンプのサイズは大きく,そして重量も重くなってしまいます。 ほとんどの佐久間アンプは,幅50cm,奥行き30センチのシャーシ(アルミ製の箱)にトランスを付けています。高さは25センチ以上になります。
重さは20kgから30kgです。
写真1-1の801Aドライブ50プリアンプのでは大体30kgの重量になります。
置く場所も丈夫でないといけませんし,また,おひとりで持ち上げられるか?ということも考慮に入れてつくってください。

3.あなたのシステムに合っていますか?

佐久間アンプは,ローサーやアルテックなどの高能率のスピーカーを対象に設計されています。とくにパワーアンプは,ローゲイン(増幅率の低い)のアンプですので,能率の悪い,ブックシェルフ型などをつないでも,真価を十分に発揮できないアンプもあります。お気をつけください。
ただ,フルレンジのスピーカーユニットを購入し,佐久間アンプに合ったスピーカーを自作することは可能です。

4.メーカー製アンプとの組合せ

佐久間アンプとメーカー製アンプとの組合せは,あまり好ましいものではありません。
メーカー製の場合,他のメーカーとのアンプと組み合わせても,故障しないように,電気的な取り決めが各メーカー間で決められています。
しかし,佐久間アンプの場合は音色重視ですから,そのような規格は無視されています。メーカー製アンプと組み合わせた場合は音が出なかったり,故障の原因になりますのでお気をつけください。

5.デッドコピーで作りましょう

デッドコピーとは,もとのアンプとまったく同じに,回路図やパーツの指定を忠実に再現してアンプを作ることを言います。
これまで,MJ無線と実験の回路図を元に,MJ読者が製作した「佐久間アンプ」の音を聴いたことがありますが,コンコルドとは,まったく違った音がしている驚きました。
使用されている線材やコンデンサー等が佐久間さんの使用しているものと違っていたり,システムもコンコルドのものとはずいぶんと違っていたためだと思います。
また,ある程度アンプのことなどが分っている人は,もしかすると,佐久間さんの回路図をもとに改造などをおこなうかもしれません。しかし,佐久間アンプを作ってトラブル大半のケースはこういった,自分の考えで佐久間さんの回路図を変更して自作したアンプです。
回路図を見て自分なりに改造したアンプを作ろうと思われるかもしれませんが,はじめは,デッドコピーをお勧めします。 回路だけでなく,パーツも指定の物をお使いください。
トランスをタムラ製作所以外のものに代える。イコライザー素子を変更するといったことをすると,絶対に良い結果は得られません。
佐久間アンプを作ったが,雑音がものすごい,とおっしゃる人のほとんどはこのケースです。
まず一台,オリジナルに忠実に製作する。それがベストです。

なお,『MJ 無線と実験』の回路図が間違っていることもあります,また,製造中止になったトランスも多いので,製作する場合は,佐久間アンプ愛好会事務局まで,お問い合わせください。製造中止のトランスとその代替品については,あらためて説明します。

6.電源の問題

佐久間さんのレストランス・コンコルドは千葉県の館山市にあります。家庭用コンセントの周波数は50ヘルツです。
タムラの電源トランスは50ヘルツように設計されており,60ヘルツの地域で使用すると,佐久間さんの回路図どおりに製作しても,電圧が高くなってしまいます。とくに,真空管のヒーター(直熱管の場合はフィラメントとも呼びます)への電圧は電源トランスの7.5Vの端子を使用しても,7.8Vくらいになってしまいます。
佐久間アンプをデッドコピーした場合,60ヘルツの地域では,このヒーターへの電圧調整がたいへんになってしまうこともあります。とくに,交流点火の場合は,電源トランスと真空管のフィラメントの間に抵抗を接続しないと電圧が下げられません。フィラメントは音に影響しますので,このようなところへ抵抗を挿入することが気分的に抵抗のある人は,注意してください。

7.パーツの購入

まず,回路図から必要なパーツ割り出して,これを購入します。最近は真空管にもいろいろな種類が出てきているのですが,佐久間アンプで使用するような真空管は値段が高くなってしまっています。また,このような真空管は古い物なので,せっかく高い買い物をしてもノイズがでたりして,悲しい思いをするかもしれません。
最初に,すべてのパーツがそろうかどうか,いくらくらいかかるのか慎重に検討してみてください。
また,トランスなどは受注生産の物も多く,発注してから,すべてのパーツがそろうまで,数ヶ月かかることもありますので,注意してください。
部品については,別の章で詳しく説明します。

8.作業環境

アンプ製作で一番たいへんなのは,シャーシ加工と考える人が多いようです。
シャーシとはアルミ製の箱のことです。これに穴を開けて,箱の上にはトランスや真空管のソケット,箱の内部には抵抗やコンデンサーを取り付けます。
最近では図面をわたせばシャーシ加工をしてくるお店もあるようですが,自分で加工する場合は,厚さ2ミリのアルミに穴を開けていくので手動の道具では大変です。私は電動ドリルと電動のジグソーを使用していますが,騒音や切りくずに注意をしなくてはいけません。騒音のことも考慮し作業場の確保が必要です。 また,配線作業では,取り付けたパーツに配線をハンダ付けします。ハンダ付けでは煙もでますし,配線の切りくずやハンダのかすなども飛び散ります。また,ハンダ付けには数日かかりますので,その間置いておく場所も確保しなくてはいけません。

このように,佐久間アンプは大きく重たいアンプで,シャーシの製作からも考慮する必要があり,キットのアンプ製作とは,次元の違う難しさがあります。しかし,その難しさが自作の楽しさでもあるのですが…


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