山本 :はじめからずっとモノラル一本やりですか?
佐久間:そういちばん最初に既製品を買ったときはステレオだった。グレースのF8Lというカートリッジをつけて...なんと言うかしら、聴いた時にずいぶん綺麗な音だと思ったけど、インパクトがないんだよな。
山本 :メインのスピーカーにLowtherを選んだ理由と言うのは。
佐久間:秋葉原なんかで聴いて、やっぱりあの高域の音はすごく印象的だったの。ただ中音から下がほとんど出ていないような感じで。でも昔の本なんかにはピアノの再生には最高だなんていう但し書きを通がみんな言ってたわけ。
山本:ピアノというかソロ楽器ですね。
佐久間:ピアノってのが強かったね。ピアノの再生にLowtherはいいって聞い てたから。
山本 :ピアノの再生に惹かれたということはやっぱりバド・パウエルとかを主に聴きたいということですか。
佐久間:そうですね。とにかくあのころのことは『MJ無線と実験』に3回くらい3号連続で書いたけど。
 それでねバド・パウエルにすごく夢中だったのその頃。それでフォステクスとかJBLのLE8Tとか、いろいろとシングルコーンのスピーカーを使ったんだ。ナショナルのげんこつとかさ、パイオニアのPIM16とか。やっぱり自分じゃかなりいい音でなってるように思ってたんだけど、やっぱりそのLowther、Lowtherっていうのは頭の中にあったんだ。それである日、買ってみたの。
山本 :かなり高い買物ですか?
佐久間:その当時は正価が結構高かったよ。4万まではしなかったけど。PM6が 3万5、6千円の定価で、秋葉原で2万7、8千円くらい。だから15年前としてはえらいいい値段だった。そのLowtherを買って、まぁ、最初に箱を開けてみたとき驚いたね。
山本 :幼稚園の紙細工に村の鍛冶やのマグネットみたいだと書かれていましたね。 佐久間:しまったと思ったね。(笑)それでね、音を出してみた。その頃はまだウイリアムソンの後期だったんじゃないかな、トランス結合をまだそんな一所懸命やってなくて6G−A4のウイリアムソンかなんかで鳴らしたんだ。やっぱり中低音が全然出ない。ツイータを鳴らしてる感じだった。
山本:3ウェイからウーファをひっこ抜いた感じ?
佐久間:そうだね。
山本 :ますますこれはしまったと?
佐久間:しまったと思った。だから僕のオーディオの歴史は、トランス結合の歴史っていうのは、Altecに出会うまでは、Lowtherを鳴らすための歴史だった。
山本:果し合いだったと書かれていますね。
佐久間:そう、果し合いだったよ。
山本 :大枚はたいたのに分かりますが、そこでLowtherをダメだと、すぐにお蔵いりさせなかったのは何故だったのですか、意地ですか?
佐久間:やはり、銭が惜しかった。(笑)2万7、8千円と言うのは大金だったよ。今だって大金だよ。神戸までいけるもの。きっとねぇ、お金がもっと楽だったら違ってた。でもね、上の音がね、ものすごく印象的だったの。
山本 :何か光る物があった?
佐久間:そう非常にね。やはりエイリアンの神経にぴぴっとくるものがあった。だからそれから後Lowtherをうまく鳴らすためにNFBに決別してトランス結合に行った。で、ある日トランス結合の実験的なアンプを組んでみたらね、パワーアンプだけですよ、全然今までと違った音で鳴りだしたの。非常に厚みが出てきたの、今の音から比べるとまだまだ幼稚だったけどその当時としては、ああこれは違ってきたと十分うかがえる音だったの。
山本:その頃プリアンプは何をお使いに?
佐久間:自分で真空管で作った。マランツとかマッキンのデッド・コピー。
山本:#7とか?
佐久間:そう。それにやはりタムラのアウトをコンデンサで切って適当なアウトを  つないで600Ωで出して実験してた。

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