いままで読んできた小説の中で何が一番面白かったかなあ、というこれ以上ないくらい趣味的なページ。好きなものをああでもないこうでもないとピックアップしているときはまさしく至福の時間である。食べ物しかり持ち物しかり。
あくまで現時点でのランキングなのでこれからもっと面白い本を読めば、当然このページも更新される。更新されないようでは困るのである。
各書名・作家名の右の出版社名は私が読んだり所有している本の版元とは限らない。できるだけ現在手に入れられるところを心がけた。それでも絶版で手に入らないものもあるかもしれない。
(2002/09/22)
一作家一作。
世間的評判、文学的評価とは無関係。私の思い入れ以外の評価基準はない。
SFは別建てにしたので含まれていない。
ほとんど再読はしないのだが、『罪と罰』と本書は別。人生の切れ目切れ目で読み返してきた。
いい本のつねとして色んな読み方ができる小説。
波瀾万丈のお家騒動時代劇であり、下級武士の少年の成長を描く教養小説であり、ときに甘くときに苦い夫婦の再生を書いた恋愛小説でもある。
南米の架空の土地マコンドにおけるブエンディア家一族の七代の物語。神話的イメージの洪水のようなこの小説を紹介するのにすごいという以外の言葉が見つからない。
ノーベル文学賞作家でも難解だったりは全然しない。「孤独」だってしんきくさい「孤独」ではない。エネルギッシュなラテン系の「孤独」だ。
時代はたしかに戦後の日本なのだが、これまた神話的イメージにあふれかえるエネルギッシュな小説。
旋風のようにうねる見事な言葉の奔流に、身をまかせて読み進んでいくときの快感ったらない。
石川淳の文体を経験しないのは童貞のまま死んじゃうくらい人生無駄だぜ、とつくづく思う。
一個の巨大な博物館のような澁澤龍彦コレクションから滲み出し結晶化した小説群−『うつろ舟』、『犬狼都市』、いずれも短編集なので、唯一の長編である本書を選ぶ。
著者はこの精巧な宝石細工のような幻想譚を残して世を去った。
夢幻の中を彷徨するような稀有な一冊。
やはり戦後最大のエンターテインメント作家を外すわけにはいかない。悩みに悩んだすえ、山風、闊達自在の境地にいたった時期の、室町ものの傑作を選んだ。
若き信長・信玄・謙信が一人の美女をめぐっての争い、その破天荒な面白さは、山田風太郎以外のだれが書けようか。
例によってヒロイン以上に魅力的な悪女が登場する。
老いを感じはじめた紙問屋の中年の主人が人生初めての不倫の恋を知る。
江戸時代を舞台にしながら、平成の私にも人生の、なんというか寂寥を教えてくれた小説。
でも、華もロマンもちゃんとあるから人生捨てたもんじゃない、という気持ちにもさせてくれる、ちょっぴり元気の出る小説。
松本清張とか谷崎潤一郎も入れたかったし、外国の作家ならカルヴィーノとかモラヴィアとか好きな人はたくさんいるのだけど、まあそのうち。
SFはいっときかなりいれこんだのでランキングで多数派になってしまう。他の分野とバランスをとるために別建てにしてみた。総合とはダブらないようにしたが、総合に食い込めるのは上位3冊ぐらいか。
シロナガス鯨のサイボーグ、海棲蝶人間、おしゃべりな三葉虫ロボット、馬のような義足マシーンに乗った上半身だけの主人公。
次々登場する濃すぎるほどのキャラクタ、変幻自在なストーリー、豊かなイメージ。
これぞSFというのに躊躇しない大傑作。
かつてのドタバタSFの巨匠。近年は空想と小説の構造にとことんこだわり、これぞ前衛という実験的な手法を駆使しながらエンターテインメント性を失わない天才作家の、一つの到達点に違いない一冊。
乗務員全員が文房具で、しかも狂っているというとんでもない宇宙船の執拗な描写から、物語ははじまる。
未来の戦争テーマ。ガンダムのような戦闘服をまとった兵士が主人公だが、ハインラインの『宇宙の戦士』のような「悪い宇宙人をバリバリやっつける」能天気な小説ではない。もっと知性的でシニカルだ。
でも、十分にエンターテインメントしているし、ラストは感動的などんでん返しで泣かせてくれます。
本書というより、コードウェイナー・スミスという謎の作家の未来史シリーズのまるごとランクインだ。「人類補完機構」という言葉は本書のシリーズ名が元祖なのだ。お間違いなきよう。
地球をまるごと買ったロッド少年とともに、魅惑の猫娘ク・メルとの出会いをぜひ経験してもらいたい。
はるか数万年後の未来。気象改造計画で激変した地球を旅する三人組。繊細な翼を持つ美少女。異形の変形人間。超感覚増幅装置を手押車に乗せた老人。
滅びの予感を持ってさすらう異人たちの旅は波瀾万丈かつ幻想的だ。
SFはイマジネーションの勝負だとあらためて思う。
これだけでも十分に面白いし感動できるけど、本当は続編の『死者の代弁者』とあわせて読むとより面白い。
ただ、本書の「異星人観」にはちょっと納得できないところもあるのだけどね。
科学的に旧びるというSFの宿命だが、だから分けたというわけではない。読むものすべてが新鮮だった若き日の思い出のためのランキング。(一部の例外をのぞいて)私が十代で読んだ懐かしき10冊。
映画『エイリアン』の元ネタとして有名だけど、映画はもちろん同時代の他のSF小説と比べても、独特のSF的雰囲気の「濃さ」は抜群だ。
宇宙船内の権力闘争に主人公が知性だけで勝ち進んでいくストーリー展開もわくわくする。怪物ホラーなだけではないよ。
主人公は地中の宝石生物の夢から生まれた少年。継父の虐待から逃れた先が異形のサーカス団。超能力にめざめた少年の恋と復讐。
読んでくださいとしか言えない種類の名作。
元祖マッドサイエンティスト。だけでなく、宇宙戦争も透明人間も時間旅行もほとんどのSFテーマはウェルズが生みの親だ(SFの祖父はヴェルヌで曽祖父はポーかな)。
イギリス的ユーモアと人間悲劇の傑作『透明人間』とどちらにしようか迷ったが、今回は怪奇性と文学的香気が両立した本書に軍配を挙げよう。
まさに旧きよき時代の雰囲気に満ちあふれているSF。空想科学冒険物語とでも呼んだ方がよく似合う。
これまた『海底二万哩』と迷ったのだが、こわもての学者ヒーローリンデンブロッグ教授に敬意を表して本書を。
恐竜もでてくるしね。
SFのアイデアストーリーとしての醍醐味は短編にこそあると思わせられた珠玉の10編。
著者名の次は収録短編集書名。
1.「安全金庫」
2.「夢の積荷」
作者が長編『結晶世界』や『沈んだ世界』で描いた「腐蝕する世界」の美しさは、この短編でも健在だ。
そして『夢幻会社』で描かれた虐げられた男の変身シーンの開放感も、この短編で味わうことができる。
3.「シェイヨルという名の星」
4.「ジャクリーン・エス」
5.「おーい出てこい」
千ものショートショートを書いた作者のごく初期の作品だけど、最高傑作。
短い短い話の向こうにめまいがするような無限の空間を感じさせられる。
それも「無限」とか「永遠」とか、ご大層な言葉は一切でてこないのに。
6.「心にかけられたる者」
ロボット物語を書き続けた巨匠の「究極の」ロボット小説は、映画化された「二百年の男」ではなくこちらだと思う(「最高の」ロボット小説かどうかはわからないが)。
静かで静かで少しだけ無気味なラストが最後のロボットにふさわしい。
7.「トラブル」
8.「影が行く」
9.「ジャンク」
10.「ミミズ天使」