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1997-07-03
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龍公女ハルモニア |
- ◎太陽系外第2期調査船「ビーグルIII世号」報告書No.80より転載
- ○生息惑星
- 鯨座タウの第2惑星ネオテバイ
- ○惑星環境
- 惑星ネオテバイは大きさ・公転周期・自転周期・重力・空気組成は、ほとんど地球と同一であり、気候的には地球の白亜紀に相当する。
植物は被子植物が優勢で、動物は魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類それぞれに相当する種類が存在する。
しかし南半球に孤立した大陸があり、そこでは裸子植物が優勢であり地球では絶滅した恐竜類に相当する生物が多数生息している。
- ○支配生物
- ピュトノサウルス・エレクタス
この惑星の支配種族は知性体であり人類の初期文明に相当する程度の文化を有するが、哺乳類ではない。
恐竜が滅びずに進化した種族、直立龍人ピュトノサウルスである。
- 20世紀の古生物学者ディール・ラッセルが想像した「ディノサウロイド」は、恐竜がもし滅びずに進化したら生まれてきたかもしれない恐竜人間であるが、ピュトノサウルスはその生きた実証である。
ただしラッセルの仮説よりだいぶ恐竜らしさを色濃く残している。
やはりラッセルは「神は人間(知的生物)をみずからの姿に似せて創造した」という20世紀以前のテーゼから逃れられなかったというべきであろう。
- ○名 前
- 「ハルモニア」
ネオテバイ最大の部族ピュトイノイの王の娘。現在18歳。
ピュトイノイ族の伝説によれば、神話上の父祖巨龍ピュトンの最初の娘の名であり、部族の先祖である。
その名を受け継ぐものが女王候補なのは言うまでもない。
ハルモニアは身長160cm弱だが、ピュトノサウルスは爬虫類と同様に死ぬまで成長するので3m近い個体も存在する。
- ○美の基準
- ウロコの形の美しさ並び方色つや。女性の場合乳房の大きさ(後述)。
また脚より尾の長さ美しさが重視される。
- ○その進化
- ピュトノサウルスの直系の祖先はヴェロキラプトル等の2足歩行していた小型恐竜である。
2千万年前の地殻変動により地上生物圏は南北に隔離され、北では恐竜が絶滅して哺乳類が栄えるという地球と同じ進化が進んだが、南では集団で狩りをする小型恐竜から、前足で物をつかみ火や道具を使うピュトノサウルスの先祖が生まれた。
- ピュトノサウルスは完全な直立ではなくやや前かがみ姿勢だが、尾がバランスを保つ役目をし、大きくなった脳の重さが首の負担にならぬよう、首から背にかけての後ろ側のウロコが互いに固くかみあって筋力を用いずに頭を支えられる構造を持っている。
同様の機能は地球のヒトデなどの棘皮動物が持っており、ヒトデは少ない筋力で二枚貝をこじあけることができる。
- 15万年ほど昔にピュトノサウルスは北の大陸に渡り、北を支配していた直立猿人を駆逐して、現代のピュトノ文化を築いたと思われる。
- この北に渡ったルートを特定しようと研究中であるが、大陸と大陸を
隔てる海洋は広大であり、調査は難行している。
調査チームは失われたルートを「ミッシングリンク」と呼んでいる。
1説ではピュトノサウルスの先祖は飛べたのではないかとされ、実際にピュトイノイの伝説には飛行する英雄がおり、民族が危機に瀕すると「翼を持つ者」が生まれて人々を救うと伝えられている。
- ○その文化
- ピュトノサウルスは牧畜文化を持つが本質的には狩猟民族であり、性質は勇猛果敢で、狩猟には弓矢槍罠等知恵を駆使するが、部族間の領土争いや部族内の異性をめぐる決闘では武器は一切使用せずに、脚の巨大な爪を使って相手を切り裂こうとする。
- しかし本来は礼儀正しく寛容な種族であり争いは滅多にない。
その代わりのレクリエーションとしての武術やスポーツは盛んであり、古代オリンピックのような競技会もあるが、その蹴爪や強力な尾を駆使した破壊力とジャンプ力スピードは到底地球生物の及ぶところではない。(ハルモニアは100mを4秒半で走る)
- 夫婦を単位として狩りを行うためか、社会的に男女差はなく、夫婦の絆は強く、猿から進化した種族のような不倫などという現象はない。
- ○ピュトノサウルスが豊乳を所有するにいたる進化上の考察
- ピュトノサウルスは爬虫類ではなく温血で卵胎生であるが、哺乳するわけではないので、胸部のふくらみは乳腺組織ではない。
女性のみ思春期に胸部にゼラチン質が増え神経も集中し乳房状の2次性徴となるが、性的信号以外の機能は見受けられない。
何故このような特徴が進化したかは地球の進化学者の謎となっているが、今回の調査でもピュトイノイの男性は乳房の大きい女性に対した時ほどアゴの下のウロコの震えが激しいことが観察された。
これは地球人男性の態度を表わす古語「鼻の下を伸ばす」に相当する。
- 私は21世紀には廃れてしまった20世紀の進化学者デズモンド・モリスの「人間の乳房は尻のコピーである」説の見直しが解決の鍵だと主張するものである。この説は人間が直立することによって見え難くなってしまった性的信号である尻の代替物として大きな乳房が発達したというものであるが、哺乳動物でないピュトノサウルスでも同じ結果が生じているのは、平行進化の良き実例といえるのではなかろうか。
詳しくは船内ライブラリでキーワード「裸のサル」を参照されたし。
- ○補 遺
- ネオテバイ出発に当たり乗員1名が行方不明となり、捜索に1週間を要したが、ピュトイノイの協力を得、郊外の家に隠れているのを発見し、船内に連行した。
その家は最近夫を亡くした女性ピュトイノイの住居とのことである。
- 当該乗員は1級宇宙船整備士で軍属であり、地球の軍本部に照会したところ、ペットのイグアナ「ステファニー」を亡くした傷心のあまり太陽系外任務を志願した人物であることが判明した。
軍の人事体制に大いに疑問を感ずるものである。
- 当該乗員ヴロコフェッチ中尉は、本来なら任務終了まで強制人工冬眠処置をすべきものであるが、船長と船医の合議により、当面当地に駐留調査員として残し2年後の地球帰還時に回収に立ち寄ることとした。
- 中尉が潜伏していたピュトイノイ未亡人の住居を駐留基地として提供することを、王女ハルモニアが申し出てくれたことも決定の大きな要因となった。
中尉は未亡人と同居することを聞かされると即座に駐留を了解した。軍の教育体制に大いに疑問を感ずるものである。
- ピュトイノイの王ペンテウは「フェイレイ(例の未亡人の名である)のためにも良かった」と当処置に歓迎の意を表した。
2399年03月14日 主席生物調査官ゲリー・カーライル4世記述
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