08/10/25(土) 20世紀の幽霊たち 08/10/12(日) 淡彩の日 08/09/15(月) 密林からの手紙 08/09/04(木) 黒澤明『どん底』の死神 08/08/24(日) 内股一本 |
08/08/08(金) 対決−巨匠たちの日本美術 08/08/05(火) 海:クラゲ:赤福 08/06/21(土) 美人も一皮むけば 08/06/08(日) Wonder Woman: The Hiketeia 08/06/07(土) 河鍋暁斎 |
2008/10/25(土)[本]20世紀の幽霊たち
ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(白石朗訳/小学館文庫)読了。
あのスティーブン・キングを父に持つホラー作家のホラー短編集。
ジャンルも作風も偉大な父に似ているが、単なる矮小版ではなく、父より更に文学よりと言えるだろうか。
20弱の作品が収められているが、やはり純粋なホラーに近い作品が面白い。
「マント」「年間ホラー傑作選」「蝗の歌をきくがよい」といったところ。
しかし、収録作中のベスト作品は文句なく「ポップ・アート」。ホラーというよりファンタジーだが、これを読むだけも元がとれる。と言っても700頁近くて1000円。なんともコストパフォーマンスの高い娯楽である。
ただ、作風としては父親のキングと同じく、あまり私の好みではない。
うまいのだが、耽美性というか美学というか、ホラーに不可欠な(と私は思う)なにかが欠けているような気がする。
要するにポーに連なる人ではないということだ。
その意味で私が一番好きなホラー作家は『血の本』のクライブ・バーカーであります。
2008/10/12(日)[美]淡彩の日
東京藝術大学美術館『線の巨匠たち−アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展』
他にも秀作多数。
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谷中の町は今日は祭り。町中にいわゆるアートな催事がいっぱいで、藝大生のミニコンサート、ミニ展覧会などがそこかしこで見られる。いつも休日は閉まっている骨董屋なども開いていてなかなか楽しい。
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東京都美術館『第47回現水展』
つれあいの知人の女性が佳作入選しているので見に行く。同会場ではフェルメール展もやっているが、さすがに長蛇の列でした。
2008/09/15(月)[漫]密林からの手紙
アマゾンからのダイレクトメール。
Amazon.co.jpのお客様へ、
Amazon.co.jpで、以前にマルキ・ド サドの本をチェックされた方に、このご案内をお送りしています。『青春と変態 新装版』、現在好評発売中です
……おいおい(苦笑)
会田誠の絵や漫画は好きだけどさ、今回は小説。レビューを見るかぎり、私とは変態のベクトルが違う。っていうか、私は変態じゃないし。(たぶん)
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最近読んだ漫画ではこれがまあまあ面白かった。
内容はアマゾンのレビューでも読んでもらうこととして、私が連想したのはブラックジャック。非常に個人的なルールで顧客を判断し、ルールを守る限りは誠実に対応する。相手がルールを破ると…… 。ブラックジャックは一見ニヒルだが根はまあ愛他主義、イノセントブローカーは一見(いい意味で)おこちゃま、裏切られると(悪い意味で)おこちゃまという違いはあるが。
2008/09/04(木)[映]黒澤明『どん底』の死神
NHK-BS2『没後十年 黒澤明特集』
先日は『蜘蛛巣城』の三船敏郎と山田五十鈴の緊張感漲る二人芝居にしびれ、昨日は『どん底』の緊密な群像劇を堪能した。観ながらちょろりと舐める酒が旨い。
『どん底』は地の底にあるような江戸時代の貧乏長屋が舞台。斜めにかしき畳がけばだつセットはシュールなまでにすさまじい。いがみあいののしりあう住民たちと貪欲な大家夫婦とその美しい妹の欲のぶつかりあいがダイナミック。飽きない。面白い。筋が読めない。ラストも意外。
長屋に飄然と現われる巡礼の老人役が左卜全だが、これが名演。飄々とした優しさで住民の心を癒し唐突に去って行く。こんなに芝居がうまい人とは思わなかった。
このキャラクタはいったいなんなのかと放送後の解説では問いかけていた。山本晋也監督は「キリストみたいな聖者。神の目を持つ人ではないか
」といい、プロデューサー氏は「天使ではないかと思う。山田五十鈴の女将が悪魔で天使と悪魔を対比させたのではないか
」
うーん、どちらもピンとこない。私には左卜全は死神にしか見えないけどなあ。優しい死神。
どう考えても死神でしょう。魂を三つ手に入れて飄々と地獄へ帰って行く後ろ姿が見えるようではないですか。
2008/08/24(日)[ス]内股一本
北島康介はもちろん女子レスリングでも銅メダルを取った男子陸上短距離にしても、世界に伍して戦える選手を見ての感想は、みな白人や黒人に渡り合える堂々たる筋肉の持ち主だということ。
対して世界に通用しなかった男子バレーや女子陸上は外人に比べて筋肉が貧弱だった。これから日本スポーツ界が浮上する鍵があるとすればこのへんだなと、素人ながら思った次第。
女子400m×4リレーの選手なんて、丹野を筆頭に普通に街を歩いている綺麗な娘ッ子なんだもんなあ。女子レスリングのメダリストたちはといえば、みんな男前でチャーミングでありました。
2008/08/08(金)[美]対決−巨匠たちの日本美術
上野の東京国立博物館平成館に『対決−巨匠たちの日本美術』を見に行ってきました。
平日17:00入りだったのになかなかの盛況。特に目玉作品があるわけではないので企画の勝利だろう。
本当にライバル関係だったのは狩野永徳vs長谷川等白位だが、この二人の(当時における)優劣を決めたのは徳川将軍家。歌麿vs写楽を直接評価したのは版元の蔦屋重三郎だが最終的に(当時における)優劣を決めたのは(版画を買った)江戸の庶民だ。
ことほどさように画家をとりまく環境は変化したが、彼らが何に向かって創作したかは結局対決でもなんでもなく本人のみが知ることなんだろう。木喰vs円空なんてライバル視とは全く無縁そうな二人が、実ははりあっていたらそれはそれで面白いが、そんな火の鳥鳳凰編みたいなことはまさかあるまい
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帰りは谷中のたんぴょう亭。汗をどろどろにかいたので生ビールのうまいこと。生を2杯。菊正宗を冷やで2合弱。酒量はこのくらいがちょうどいい。鯖・鯛を刺身で、鯛は天麩羅でも、かますを塩焼き、最後は焼きおむすびで〆。
2008/08/05(火)[旅]海:クラゲ:赤福
詳細は明日にでも
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といっても特筆するほどのことはないなあ。
ホテルの食事のとき、臨席の二人連れ(20代後半は30代はじめか)ホテルの部屋着などを着て、あきらかに二人だけで泊まってるカップルなのだが敬語で話している。よそよそしいというほどではなく、仲は良さそうだが他の若者のカップル客のようなまったり感がない。
う〜ん、どういう関係なんだろう。一番近いのが、昔は良くいた見合い結婚の新婚旅行が一番雰囲気が近いが……いまだに謎である。
余計な御世話といえばそのとおりだが、こちらも銀婚過ぎの夫婦、他人観察ぐらいしなきゃ間がもたんのだよ。
2008/06/21(土)[本]美人も一皮むけば
『Modeling the Figure in Clay』(Bruno Lucchesi/WATSON GUPTILL)読了。
著者のBruno Lucchesiはイタリアの著名な彫刻家、らしい。
彼が26インチの塑像を作る過程を多くの写真で説明したのが本書。と言っても通常の制作方法ではない。
まずアルミニュームの芯の上に粘土で完全な骨格を作る。
次にその骨格の上に正確に粘土の筋肉を一つずつ張りつけて、いささかグロティスクな剥き出しの筋肉像を造り上げる。
最後にその骨肉像を粘土の皮膚でくるんで髪など細部を整えれば、画像のような優美な女性像が完成する。
もちろん著者のLucchesiも、いつもはこんな手順で作っているわけではない。写真文章担当の共同著者の序文によれば、美術解剖学的理解のため本書を制作したとのことだ。
実際、フィギュアや彫刻、塑像の制作の参考にはなりそうもない。美術解剖学の理解の点は私には判断しようもない。
しかし写真を見て説明をぽつぽつ読むだけでも十分に面白い。イブを創造する神の気分、と言うのはおおげさだが、怪物の妻を造るフランケンシュタイン博士(をのぞき見る)ぐらいの気分は味わえる。
2008/06/08(日)[漫]Wonder Woman: The Hiketeia
『Wonder Woman: The Hiketeia 』(DCコミックス)読了。
先々々週、二日ほど休みを取って、世界遺産厳島神社に行った。帰りは神戸に寄ってきたのだが、神戸は個性的な古書店が結構あり、東京より洋書店が残っている。そんな店の一つで衝動買いしてしまったのがアメリカンコミックの「Wonder Woman: The Hiketeia」。
30年位前にTV放映していたワンダーウーマンの原作コミックだが、当時の絵柄はなんだかださくて全く興味がなかった。まあ、左のような感じである。(左は本書ではない。下の2枚が本書の画像)
しかし、90年代後半から2000年以降のアメコミの絵の変化は著しいものがあるらしく、神戸の店の店頭で出会った本書はなかなかにアーティスティックである。たちまちはまってアマゾンでハードカバーを2冊注文してしまった。衝動買いした同じ本がアマゾンでは1000円近く安く売っていたのには参った。
2番目の絵は表紙だが、「なぜバットマンが?しかも踏みつけられて…」という疑問はごもっとも。
本書では、妹の復讐のため殺人を犯した女性がワンダーウーマンに庇護を求めたため、法の忠実な守護者としてのバットマンと敵対することになる。ワンダーウーマンはスーパーマンに匹敵するパワーの持ち主だが、バットマンは人間。当然表紙のようなことになってしまうわけである。バットマンファンにとっては業腹なことだろう。
バットマンもスーパーマンもワンダーウーマンも同じDCコミックのヒーローヒロイン。とりあえずは作家性が重視される日本では考えられないが、アメコミではそれぞれのヒーローが別のシリーズの作品に出演するのは当たり前のようだ。
日本の漫画出版は基本、小説と同じカテゴリーだが、アメコミは編集長の力が絶大で、むしろ映画のプロデューサーに近いのではないかと思う。だから、作家も日本の漫画のように固定してはおらず、映画のスタッフのような扱いだ。日本の原作&漫画のような単純な分業ではなく、ライター(脚本)、ペンシラー(下描き)、インカー(ペン)、カラリスト(彩色)、レタラー(文字描き)と分けられてきっちりスペシャリストとしてクレジットされている。ときには各々複数人、さらに章ごとに違う人が明記されたりしている。
だからなのか絵のクオリティーは高い。しかし漫画として面白いかどうかは自分が日本人であることを差し引いても少々疑問である。少なくとも日本の漫画の方が個性的ではあり、ストーリーも変化に富んでいる。
どうも現在のアメコミ(特に本書のようなハードカバー本など)は一般の若者をターゲットにはしておらず、いわゆるマニア向けであるような気がする。表題の「Hiketeia」はギリシャ悲劇における嘆願を主体とする儀式のことだそうだが、とても一般的な単語とは思えない。
ストーリーもギリシャ悲劇の「オレステス」をモチーフとしたカタルシスもないダークな話である。ギリシャ悲劇らしく復讐の女神も現われる(下の絵参照)。
ちなみにバットマンの最新作コミックではスーパーマンとワンダーウーマンが恋仲で、なんと子供までいるのだそうな。もう、なんだかわかりません。
2008/06/07(土)[本]河鍋暁斎
ジョサイア・コンドル『河鍋暁斎』(山口静一訳/岩波文庫)読了。
幕末明治期の天才画家河鍋暁斎。その群を抜いた画力に惹かれた弟子の中には、かの鹿鳴館の設計者コンドルがいた。「暁英」の画号を持つ愛弟子が、親しく接した師の姿と、文明開化の中で廃絶した日本画の技法を克明に記し、暁斎の名を海外にまで広めた貴重な記録。。(AMAZONの商品説明より)
なんといっても著者が師暁斎より贈られた「十七世紀大和美人図」について解説した章が圧巻である。
暁斎はこの英国人だが気の合う弟子コンドル(著者)が、政府主催美術展で賞を得たことがよほど嬉しかったのだろう。この大作を著者の目の前で制作している。もちろん著者はつぶさに見学し師の手順と説明を克明にノートに筆記した。
そのノートを元に書かれた本書の解説も文庫判で十八頁に及ぶ。木炭による素描に始まり、各部の線描、彩色、背景の個々のオブジェクトの描き方まで微に入り細を穿って描写されている。丁寧で明晰な文章は、漫然とした美術番組の制作画像などよりよほど臨場感にあふれていてわかりやすい(ような気がする)。
おそらく私のような素人にはプロの制作を見ても肝となる部分がわからないのだろう。コンドルのような玄人でしかも論理的な頭脳の持ち主(コンドルは鹿鳴館やニコライ堂を設計した大建築家)がポイントとなる部分を明確に説明してくれた文章の方がわかりやすいのは当然だ(どうもこの明晰で論理的な解説というのは日本人の苦手とするところのような気がする)。
「十七世紀大和美人図」だけでなく「龍頭観音図」「鯉魚遊泳図」といった代表作それぞれについて解説してある。また、基本的な「画材」の扱い、多数の素描を例にして「画法」を説明し、暁斎の技術の一端なりをなんとか残したいという真摯さが伝わってくる。
たくまずして西洋人に対する日本画論になってるのも面白い。平静平易な文章なのに読んでて少し興奮してしまった。名著であります。小さいながら百点以上の挿図挿画を含み、これが文庫で読めるのだからありがたいことだ。
もちろん暁斎の生涯、師事した者だからこそ書ける天才ぶりのエピソードも盛り込まれているが、著者であるコンドルの人となりの方も興味深い。そのへんは訳者解説に詳しいが、コンドル伝などもあれば読んでみたいものだ。